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甲状腺疾患超音波画像集(2015年新版) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

雪はまだ雨ですが、
夜はどうでしょうか?

それでは今日の話題です。

今日は診療所で診断した、
甲状腺の病気の超音波画像を見て頂きます。

まずこちら。
甲状腺乳頭癌1.jpg
甲状腺の縦切りの超音波画像です。
画面の中央、赤い矢印の先にある、
周辺の甲状腺組織より低エコーで、
特に外側により低エコーの部分のある、
大きさが8ミリ大のしこりがあります。
ほぼ丸い形に見えますが、
よく見ると辺縁が少し不正に見えます。

専門病院で甲状腺乳頭癌が確定し、
手術の方針となりました。
治療方針は患者さんと専門医との相談の上、
決定されています。

比較的典型的な乳頭癌の所見だと思います。

では次を。
甲状腺乳頭癌2.jpg
こちらは5ミリを少し超えるくらいのしこりですが、
周辺の組織よりかなり黒っぽく(エコーレベルが低く)、
辺縁も不整になっています。

これも乳頭癌が確定して手術になり、
完治した1センチ未満の乳頭癌の事例です。

では次を。
甲状腺乳頭癌3.jpg
これも5ミリを少し超えるくらいのしこりで、
最初の事例に近く、
周辺により黒っぽい帯のような部分があり、
よく見ると辺縁がやや乱れています。

これも乳頭癌でした。

では次をご覧下さい。
異所性甲状腺内胸腺腫.jpg
これはちょっと違う所見で、
5歳のお子さんですが、
赤い矢印の先に、
紡錘形に近い辺縁のはっきりしないしこりがあり、
その中に白い点のように見える、
エコーレベルの高い部分が散在しています。

これは胸腺の組織が一部甲状腺内に残ったもので、
異所性甲状腺内胸腺腫と呼ばれています。

通常は年齢と共に消失することが多く、
経過観察は必要ですが、
治療の必要なものではありません。

それでは最後の画像です。
副甲状腺腫.jpg
矢印の先に黒いしこりがあります。
これは甲状腺の外側に位置していて、
副甲状腺のしこりです。

原発性副甲状腺機能亢進症の所見で、
手術の適応です。

今日は診療所で診断した、
甲状腺の病気の超音波画像を見て頂きました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

薬剤誘発性内臓血管性浮腫の1事例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

今日は興味深い事例の紹介と、
そのメカニズムについての話です。

実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける観点から、
一部実際とは細部を変えていることをお断りしておきます。

Aさんは40代の女性で、
39歳の時に検診で高血圧を指摘され、
その後数年は生活改善で様子を見ましたが、
下がらないので、
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
というタイプの降圧剤である、
ロサルタンカリウム(商品名ニューロタンなど)が処方されました。

使用開始1か月後に、
あまり誘因のなく、
お腹の右下が強く痛み、
嘔吐と下痢も伴いました。
熱は寒気はありませんでした。

痛みが強かったので救急病院を受診しましたが、
血液検査では白血球も炎症反応も異常なく、
盲腸は否定的でした。
医師の診察では、
お腹を押すと確かに強い痛みを訴えますが、
筋肉が固くなっているような所見はなく、
強い炎症は否定的で、
腸の動きは低下していることが示唆されました。

その時の診断は「お腹の風邪」で、
より正確にはウイルス性胃腸炎です。

対処療法で経過を見ると、
すぐにすっきりはしませんでしたが、
強い痛みは1日で治まりました。

ところが…

それからも、
同様の痛みはしばしば彼女を襲いました。

決まって熱はなく、
あまり全身症状もないのですが、
強い痛みが突然襲い、
下痢と吐き気を伴って、
1から数日間持続してから治まります。

痛みの強い時期は、
食事を摂ることも困難となり、
病院の外来で点滴をしてもらったり、
翌日によくならないような時は、
入院することもありました。

しかし、
血液検査ではいつも異常がないので、
次第に医者の態度も冷淡な感じのものになり、
「何かストレスはありませんか?」
と、露骨に精神的な原因であるかのような対応に変わります。

勿論考えれば、
悩み事の1つや2つはありましたが、
特に強い症状の引き金になるようなものではありません。

それでも症状は繰り返し起こり、
その原因は身体には見付からないので、
次第にAさんも、
これはひょっとしたら精神的なものなのではないかしら、
とそんな風にも思えて来るのです。

それで、心療内科を受診すると、
ざっと話を聞いただけで、
「それでは薬を出しておきますね」
と抗うつ剤と安定剤が3種類処方されました。

説得力のある診断根拠が説明されるのなら、
そうなのかな、と思ったかも知れませんが、
あまりに最初から決め付けたような対応なので、
Aさんはとても納得が出来ません。

それでも藁にでも縋る思いで薬を飲みましたが、
頭がボーッとして吐き気とめまいがするだけで、
我慢して2週間飲んでも、
何の変わりもなく、
2週間後に再び腹痛の発作が起こったので、
これは意味がない、と飲むのは止めてしまいました。

以前ブログで「原因不明の腹痛の話」というのを、
書いたことがあります。
これは結論的には卵巣と腸との癒着による症状だったのですが、
それを読まれたAさんは、
診療所を受診されました。

診察上お腹は少し張っていて、
腸管の蠕動は落ちている印象ですが、
はっきりとした圧痛点はなく、
筋性防御もありません。

超音波検査では、
全体に腸管のガス像が多く、
小腸の一部に消化液の貯留と壁肥厚が疑われましたが、
はっきり腸閉塞と言えるような所見ではありませんでした。

それで造影CTを撮ると、
矢張り小腸壁の肥厚が認められました。
こちらをご覧下さい。
内臓血管浮腫のCT画像.jpg
これは実際のAさんの画像ではなく、
後でご紹介する文献にあったものです。
お腹の輪切りのCT画像ですが、
画面の左上(実際には右)に、
浮腫上の小腸が見えます。
ここまでクリアではなく、
現在画像が手元にないのですが、
Aさんも同様の所見を示していました。

そこから、
ロサルタンカリウムによる内臓血管性浮腫を疑い、
血圧値を見ながら、
ロサルタンを低用量のアムロジピンに変更して、
経過を見ました。

すると、
その後発作性の腹痛の症状は、
ほぼ完全に消失しました。
ここまではっきりなくなるとは想定しませんでしたが、
実際にはロサルタン中止後、
一度も腹痛発作は出ることはありませんでした。

勿論これだけで薬剤が腹痛の原因であると、
断定出来るものではありませんが、
少なくともAさんが、
その症状から解放されたのは事実です。

それでは、
仮にこの症状が薬剤によるものだとして、
何故高血圧の治療薬により、
内臓の浮腫が生じるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
内臓血管性浮腫の文献.jpg
これは昨年の、
Journal of Community Hospital Internal Medicine Perspectives誌に、
掲載された、
薬剤性内臓血管性浮腫の総説です。

上気のCT画像もここから取ったものです。

昨日の記事でご説明しましたように、
血管性浮腫はACE阻害剤の比較的よく知られた有害事象です。

この血管性浮腫は、
顔面や頸部、上気道に起こるのが典型的ですが、
内臓、主に腸管の浮腫として生じることがあります。

この内蔵血管性浮腫は、
繰り返す吐き気と下痢を伴う腹痛が特徴で、
症状は数日以内に治まりますが、
それから何度も繰り返します。

この血管性浮腫は、
ACE阻害剤にはあっても、
ARBにはないと最近まで考えられていました。

しかし、実際にはARBの事例も複数報告されています。

それは何故でしょうか?
こちらをご覧下さい。
ARBによる血管性浮腫のメカニズムの図.jpg
これも現状は仮説ですが、
ARBで血管性浮腫の起こるメカニズムを図示したものです。

ARBはアンジオテンシン2の受容体を阻害する薬ですが、
それによりアンジオテンシン2は増加します。
するとその影響でACEは抑制されるので、
結果としてACE阻害剤と同じように、
ブラジキニンやサブスタンスPが増加して、
症状が発生する、という理屈です。

ただ、同じメカニズムが関与している筈の、
空咳の副作用は、
明らかにARBでは少ないので、
ちょっと理屈に合わない部分はあります。

いずれにしても、
ACE阻害剤は勿論のこと、
ARBにおいても、
その使用後に生じる、
原因不明で繰り返す腹痛は、
この病気の可能性を想定し、
可能であれば一旦当該薬剤を中止して、
数ヶ月の経過を見ることが望ましいと思います。
全ての事例ではなく、
症状出現時以外は明確でないこともありますが、
造影CT検査による腸管壁の肥厚は、
一定の診断能を持つことが多いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

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  • 作者: 石原藤樹
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  • 発売日: 2014/05/14
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インフルエンザの診療を巡るあれこれ [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

体調不良のため、
今日は小ネタでお許し下さい。

インフルエンザが昨年12月より流行しています。

先日ある医師の方が、
次のような経験を、
ネットで書かれていました。

うろ覚えなので、
実際の文面とは異なる点があると思います。
1つの架空の事案としてお読み下さい。

病院の外来に発熱の母親と小学生の男児が受診され、
問診で男児の妹さんが、
数日前に他の医院でインフルエンザと診断され、
薬を処方された、という話が聞かれます。

外来は混んでいましたし、
対応した医者は殆ど診察はせず、
「それではお母さんとお子さんもインフルエンザですね。
お薬をお出しします」
と診察を終わろうとしました。

すると、お母さんは、
「検査をしないでどうしてインフルエンザと分かるんですか?」
とやや詰問調に言います。

こうした場合の医者の対応には、
色々なパターンや考え方があると思いますが、
その医者は面倒を嫌ったので、
「分かりました。それでは検査をしますね」
と言い、
お母さんとお子さんの両方に、
鼻の奥に綿棒を入れて粘液を採取する、
インフルエンザの迅速検査を行ないました。

結果は陰性だったので、
「検査は出ませんでしたので、
インフルエンザの薬は出しませんね」
と医者が話をすると、
お母さんはそれはおかしいと言います。

「さっきは検査をしないで、
インフルエンザだから薬を出しますと言ったのに、
今は検査をして陰性だから薬は出さないというのは、
おかしいのじゃないですか?
何のために検査をしたんですか?」

その医師は結局薬を出したのか、
それとも出さなかったのかは、
はっきりしないのですが、
検査をしろと言われたからしたのに、
結果が気に入らないと、
今度は何故したのか、と言うとは、
これほど理不尽なことはない、
という趣旨のことを述べられ、
それに対して多くの医療関係者が反応されていました。

医療関係者の反応は、
概ねこの医師に同情的で、
インフルエンザの診断は確定的なものではなく、
迅速診断の検査も絶対的なものではないのだから、
医師の判断に従うべきなのに、
無理に検査を強要するような患者さんの姿勢は、
おかしい、というものです。

確かにそうした見方は出来ます。

ただ、この事例については、
最初は検査をしないで、
「インフルエンザです」と診断しているのに、
その後に検査で陰性であると、
「陰性なのでインフルエンザの薬は出しません」
と言っているので、
その論理が一貫していない、
という点については、
お母さんの指摘の方が、
的を射ているように思います。

何故こうした結果になるのかと言えば、
インフルエンザという、
極めて一般的な病気の診断と治療の手順が、
必ずしも理詰めで成立している訳ではないからです。

まず診断については、
臨床症状の経過が重要な要素で、
それに付随するものとして、
インフルエンザのワクチン接種の既往の有無や、
周辺での発生状況の情報などがあります。
それに追加するものとして、
インフルエンザの迅速診断があり、
より確定診断としては、
遺伝子検査があります。

インフルエンザの確定診断は遺伝子検査で、
海外の疫学データの多くも、
この遺伝子検査で確定した事例のみを扱っています。
しかし、日本においては、
遺伝子検査は保健所などを窓口にして、
極一部の事例に行われているだけなので、
日本の臨床では、
簡易の迅速診断が、
ほぼ確定診断として使用されています。

ただ、この迅速診断は、
一定の抗原量がないと陽性にならないので、
感度や特異度も、
施行する者の手技によっても、
かなり左右される性質の検査であるということが、
大きな問題です。

一方でたとえば家族内で感染した可能性が、
極めて高いという状況があり、
そのうちの1人がインフルエンザで確定していて、
その数日後に家族の成員が、
ほぼ同じような症状を発症したとすれば、
その事例はインフルエンザで、
ほぼ間違いないので、
迅速診断をその患者さんにする意義は、
そう大きなものではない、ということが言えます。

この臨床診断による診断は、
臨床においてはそれなりの意味を持っています。

家族内感染という条件などもそうですし、
扁桃腺の肥大を伴わない咽頭の後壁の強い発赤、
など所見もそうです。
予兆のない急な寒気や関節痛を伴う高熱、
というような症状もそうです。

臨床医としてはそれ以上に、
毎日の臨床の中で、
流行している感染症の症状が、
多くの患者さんを見ているうちに、
分かって来るので、
流行の最初は、
一般的なインフルエンザ感染のパターンで見ているのですが、
そのうちに今の流行では、
こうした症状の経過であれば、
インフルエンザの確率が高い、
ということが分かって来ます。

迅速診断が当てにならない場合のあることは事実です。

ただ、それに頼り過ぎることさえなければ、
臨床上の所見に基付く診断を、
サポートしてくれる有用な情報であることは確かです。

次に治療について考えると、
インフルエンザにはタミフルなどの、
ノイラミニダーゼ阻害剤という、
その作用もほぼ明確な治療薬があるのですが、
その有効性は自然治癒が望め、
重篤な合併症の発症リスクが少ない事例においては、
せいぜい1日程度発熱などの期間を短縮するに留まる、
という限定的なものです。

ただ、重症化の予防というような点については、
その有効性の有無に、
まだ明確に白黒は付いておらず、
重症化や合併症のリスクが高いと思われるケースでは、
より積極的な使用が、
否定をされてはいません。

つまり、ノイラミニダーゼ阻害剤の効果は、
かなりの幅を持って認識されていて、
一部の重症事例以外には、
使用する必要はない、という見解から、
重症化や合併症のリスクが想定されれば、
ある程度積極的に使用しても良いのではないか、
という見解まで存在しているのです。

ここにも1つの混乱の要因があります。

煎じ詰めれば、
インフルエンザの臨床現場におけるトラブルは、
迅速診断とノイラミニダーゼ阻害剤の使用の、
2点がそのほぼ全てで、
そこに明瞭な適応の基準がないために、
個々の診療の現場において、
患者さんと医療者との間で、
個別にある種の「一致点」を、
見出す努力が必要なのではないかと思います。
それは固定的なものではないので、
個々に設定する努力が、
患者さんと医療者の双方に必要です。

前述の事例で言えば、
最初に家族内感染の病歴が疑われた時点で、
医師は迅速診断が不必要と判断したのであって、
「無駄」と判断したのではないのです。
一方患者さんの側では、
基本的に迅速診断でインフルエンザは確定する、
という認識があるので、
それを行なう必要がない、
ということを字義通りに受け止めることは出来ないのです。
迅速診断に対する認識が、
両者で異なっているので、
そのままではトラブルの要因になります。

僕の個人的なこうした場合の対応は、
まず患者さんの診察所見をしっかりと取ることで、
病歴と診察所見からは、
これこれの病気が疑われる、
という話をまずします。

その上で、インフルエンザの迅速診断をすることの、
その時点での必要性がどのくらいかを説明します。

病状と診察所見が合致していれば、
迅速診断にはそれを少しサポートする以上の役目はないのです。
しかもそこには、
検査が診断をサポートしてくれないケースもある、
というリスクが潜んでいます。

個人的に考えるもう1つのポイントは、
インフルエンザの迅速診断が陽性であることと、
ノイラミニダーゼ阻害剤を処方することとを、
同義のものには絶対にしない、
ということです。

まず診断の確からしさを判断した上で、
ノイラミニダーゼ阻害剤を使用するという、
選択肢のあることは提示しますが、
その使用の是非は、
どちらかと言えば患者さんとご家族に、
委ねる態度を取ります。

ノイラミニダーゼ阻害剤の適応は、
明瞭に定まっているものではないので、
「この場合には処方は出来ません」
というような対応は矢張りあまり適切なものではなく、
患者さんとの間で、
理解出来る共通の1点を、
探す必要があると思うからです。

ネットの治療法などの議論は、
余白のない、白か黒か、というようなものになりがちで、
影響力のある声の大きな先生が正解を言えば、
それに追従するより他はないような空気が流れます。

ただ、インフルエンザの診療1つを取っても、
人間同士のコミュニケーションのコツのようなものが、
科学的事実以上に大きな部分があり、
末端の臨床医の1人としては、
基本的な診察の手技と情報収集という原点に返って、
それこそを患者さんにも見てもらい、
その後の検査や治療の適否に関しては、
あくまで患者さんと共同で、
個別に一致点を探す努力が、
必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

局所的感染症情報(2014年12月) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は診療所周辺の感染症情報です。

インフルエンザの流行が本格化し、
診療所のある渋谷区でも患者さんが増加しています。

今のところA型(おそらくA香港型)が殆どで、
B型が極少数混ざっている、
という感じです。

診療所でも少数のB型の患者さんを経験していて、
熱の上がりがそれほどではない割には、
重症感が強く、
発熱期間も持続するため、
1例は点滴のラピアクタを使用しました。

ただ、敢くまで少数の事例のみの検討ですから、
全てに当て嵌まるという訳ではありません。

A香港型に関しては、
お子さんや若年成人では、
かなり典型的なインフルエンザの経過を取っています。

突然の高熱で発症し、
寒気や関節痛、頭痛などを伴い、
かなり重症感があります。

症状の初期には吐き気を伴うことが多いのですが、
ウイルス性腸炎とは違って、
下痢や腹痛が前面に立つことはほぼありません。

高熱の持続期間は短く、
多くは3日以内で速やかに改善に向かいます。

一方で高齢者に感染したケースでは、
あまり高熱にはならないことが多く、
咳や痰が症状としては目立つ印象です。
初期には比較的重症感があるのですが、
熱はすぐに微熱になり、
それでいて咳などの症状は結構持続します。

当初はあまりインフルエンザを疑わず、
検査もしなかったのですが、
高齢者施設で集団感染の事例があり、
それからそうした事例が、
結構多いことが分かりました。

今年のインフルエンザに関しては、
12月の初めにこんなニュースがありました。

今年のインフルエンザでは、
変異したウイルスが多く検出されていて、
インフルエンザワクチンは効かない可能性が高い、と言うのです。

その後で診療所に見えた患者さんからは、
「今年のワクチンは効かないんでしょ。
じゃ、今年は打つのは止めますね」
というような話を何度も聞きました。

その報道の元になっているのが、
おそらくこれです。
CDC.jpg
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、
12月4日に出したプレスリリースです。

アメリカの話ですが、
今シーズンのインフルエンザの流行は、
A香港型(H3N2型)が主体になる可能性が高く、
しかもその半数ではワクチン株とは異なる変異が認められる、
という内容になっています。

日本のメディアは意地悪なので、
「今年のワクチンは効かない」というような文面になっていて、
アメリカの話なのに日本のことのように、
混同させるような表現も認められました。

ただ、元の文面を読んで頂くと、
決してそうした内容ではなく、
今年はややウイルス株と流行株が、
A香港型についてはマッチしていないので、
その有効性が低下する可能性が高い、
ということは事実なのですが、
一定の有効性はあるので、
ワクチン接種自体は推奨する内容になっています。

今年のインフルエンザは重症化する、
と言うのは、
単純にA香港型の性質を言っているもので、
特に変異があるから重症、という意味合いではありません。

インフルエンザワクチンの選定株については、
基本的には世界同一で、
A香港型と2009年に新型と言われたH1N1、
そしてB型の3種類なのですが、
アメリカを含む多くの国が、
A香港型については、
昨シーズンと同一の、
A/テキサス/50/2012という株を選定していますが、
日本では、
A/ニューヨーク/39/2012株を唯一選定しています。

この理由は、
現行のワクチンの多くが鶏卵で培養されていて、
その製造過程の中で、
元のウイルス抗原に鳥型の変異が起こり、
元の株と抗原性が変わってしまう、
「卵馴化」という現象の影響を加味してのものです。

どんなウイルス株を用いても、
製法上こうした抗原性の変化は、
僅かには起こるのですが、
それが現行のワクチン株では大きいのではないか、
という想定から、
より抗原性の変化の少ない流行株を選定し、
今回の決定となった、ということのようです。

従って、
これはCDCの言うA香港型の変異とは、
全くの別物ですが、
今シーズンのワクチンに関しては、
海外のものと日本のものとは、
少し抗原性が異なるので、
その効果にも差がある可能性がある訳です。

いずれにしても流行はこれからがピークと思いますので、
皆さんもくれぐれもご注意ください。

今日は診療所周辺の感染症情報をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

デング熱情報あれこれ [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日デング熱の東京の事例について、
比較的まとまった話を聞きましたので、
今日はそのことを記事にしたいと思います。

代々木公園を中心としたデング熱事例は、
もう150例を超えていて、
終息傾向は明らかですが、
それでもポツポツとまだ新規の患者さんが報告されています。

患者さんの年齢分布は20代に多く、
お子さんは4歳から報告がありますが、
比率的には10歳未満は極少数です。

しかし、先日聞いた感染症科のある総合病院の報告では、
特に皮疹も見られず、
発熱が持続したお子さんに、
念の為と思って迅速キットの検査をしたところ、
陽性であった、という事例があったようです。
同様の事例は他にもあります。
皮疹は出現しているケースもありますが、
デング熱に特有の皮疹というものはなく、
溶連菌感染症などと判断されてもおかしくはないものです。

現行最もデング熱の感染を疑う兆候は、
発熱の遷延と白血球と血小板の低下で、
小さなお子さんの場合、
必要性が低ければ採血はすぐにはしませんから、
実際には別箇の感染症として、
デング熱の診断には至らない事例が、
多いのではないかと推察されます。

つまり、現行の年齢分布はあまり当てにはなりません。

皮疹は多い兆候ではあるのですが、
全例で認められる、というものではなく、
その出現の仕方も非常に多彩です。

僕が実際に診察した事例では、
全身の軽い発赤と風疹様の淡い湿疹でしたが、
テレビなどで報道されたテレビ局のレポーターの事例では、
全身が赤く腫れるような皮膚変化が強く、
蚊に刺された部位の周辺のみ、
発赤が少ないという、特徴的な所見を呈していました。
ただ、それ以外にも蕁麻疹様の皮疹や発赤が、
下肢のみに見られているケースもあり、
蕁麻疹のみというケースもあります。

従って、皮疹が症状発現数日後に出現することは、
デング熱の特徴の1つではありますが、
皮疹の性質でその可能性の高低を判断したり、
皮疹がないから否定的と考えることは、
出来ないように思います。

今のところ重症事例はない、という公式発表ですが、
血球貪食症候群の疑われるような、
高度の血球減少を伴って、
症状の遷延した事例の報告もありましたので、
現時点でも決して経過を楽観視することは、
危険なように思います。

症状は典型的な事例においては、
腹痛と下痢、目の奥に強い頭痛は、
比較的多い兆候で、
そのため当初はウイルス性腸炎と、
判断された事例も多かったようです。

平均の潜伏期間は短くて3日、
概ね7日くらいが多く9日を超える事例は稀のようです。

今日はデング熱関連の情報を補足的にお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
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臨床試験原理主義を憤る [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など20枚書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日レビー小体型認知症に対して、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)の適応追加が承認されました。

レビー小体型認知症は、
大脳と脳幹の神経細胞の脱落と、
レビー小体と呼ばれる構造物の出現を、
特徴とする変性性の認知症です。

ただ、この所見は、
解剖によってしか明らかにならないので、
通常生前の確定診断は困難です。

しかし、特徴的な症状が揃えば、
それをもってこの病気と診断されます。

アルツハイマー型認知症と同じ、
進行性の認知機能障害に加えて、
パーキンソン症状と言われる運動機能の異常や、
精神症状としての幻視がその特徴で、
認知機能にはかなりの波があり、
急にぼんやりして意識レベルの低下が起こり、
それがまたしばらくすると回復するのも、
その特徴の1つです。

その治療には、
まだ明確な方針がありません。

幻視などの精神症状には、
抗精神病薬と呼ばれる、
一種の鎮静剤が有効ですが、
少量でもパーキンソン症状の悪化することがあり、
使用には注意が必要です。

パーキンソン病に使用するような薬剤は、
逆に幻覚や妄想などの症状を、
悪化させることがあります。

そんな中で、
ドネペジルのようなコリンエステラーゼ阻害剤は、
レビー小体型認知症では、
脳のアセチルコリンの低下が確認されていることから、
その使用による症状の改善が期待され、
日本のおいて適応追加についての臨床試験が行なわれました。

その第2相の臨床試験の結果は、
2012年にブログ記事としてご紹介したことがあります。

トータル140名の患者さんを、
無作為に偽薬群と、
ドネペジルの3mg、5mg、10mgという、
3種類の用量に振り分けて、
認知機能や運動機能など、
複数の指標により、
その効果を12週間に渡り観察したところ、
CIBIC-plusというトータルな認知症の臨床評価の指標では、
偽薬に比べて、
少量の3mgを含む全ての用量で、
改善が認められました。

ただ、認知機能の指標や行動の指標では、
5mgと10mgでのみ有意な改善があり、
介護者の負担の軽減という指標では、
高用量の10mgのみに有意な改善が認められました。

副作用などの有害事象は、
概ねアルツハイマー型認知症に、
ドネペジルを使用した場合と、
同等であったとされています。

一番の危惧は、
ドネペジルの使用により、
幻覚なせん妄などの精神症状や、
パーキンソン症状が悪化するのではないか、
ということですが、
臨床試験の結果では、
そうした事例は少なく、
むしろ幻覚も歩行障害も、
トータルにはドネペジルの使用により、
改善が見られています。

ただ、パーキンソン症状が高度の方は、
除外されているので、
この臨床研究は、
レビー小体型認知症の患者さんを、
トータルに見ているとは必ずしも言えず、
認知機能の低下は中等度から高度で、
パーキンソン症状はそれに比較すると軽い患者さんを、
そのターゲットにしている、
という点には注意が必要なのではないかと思います。

その後第3相の臨床試験を経て、
ドネペジルのレビー小体型認知症に対する効果は、
再度確認がされ、
今月のレビー小体型認知症への、
適応拡大に至ったのです。

ここまでは特に問題はありません。

問題なのはその用法用量です。

レビー小体型認知症に対しては、
1日3ミリグラムから開始し、1から2週間後に5ミリグラムに増量する、
と明記されています。
5ミリグラムで4週間以上経過後、
10ミリグラムに増量すると書かれ、
症状により5ミリグラムに減量出来る、とされています。

これの何処が問題かと言うと、
アルツハイマー型認知症にある、
「症状により適宜減量する」という記載がないことで、
この薬は原則として、
最初の2週間以内を除いては、
5ミリグラムか10ミリグラムの用量しか使用してはならず、
5ミリグラムを継続する場合も、
一旦は10ミリグラムを使用してみて、
問題のあった事例に限られる、
ということになります。

認知症の診療をされている方なら、
感覚的にお分かり頂けるかと思うのですが、
患者さんによっては通常量のドネペジルでは、
興奮やイライラ、不眠などが生じ、
それが減量により落ち着くのは結構あることです。
ドネペジルは腎機能にはあまり影響されずに、
使用の可能な薬ではありますが、
それでも高齢の患者さんの場合、
通常より少量が最適用量であることも、
稀なことではないように思います。

しかし、上記のような添付文書の記載では、
たとえば10ミリグラムに増量しないで5ミリグラムを継続したり、
3ミリグラムを長期間使用することは、
査定の対象となることが充分に考えられます。

幾ら臨床試験の結果が、
10ミリグラムが適正の用量という結果であったとしても、
それは単なる1回の臨床試験の結果に過ぎないのですから、
このような用量の制限と、
減量を認めないというような方針は、
患者さんにとっても望ましいものではないように思います。

同様の問題は最近は数多く、
たとえば疼痛治療薬のプレガバリン(商品名リリカ)は、
神経障害性疼痛での用量の上限は1日600ミリグラムであるのに対して、
線維筋痛症に対する用量の上限は450ミリグラムという差があり、
これも承認時の臨床試験の用量設定がそうだったから、
というだけの理由で、
合理的な臨床上の理由は何らありません。

このような承認時の臨床試験の用量で、
厳格に処方を制限しようという考え方は、
人間の体質の違いを考える時、
あまり合理性のあるものとは言えず、
医療者がその裁量の広さを良いことに、
いい加減で非科学的な処方を繰り返したことが、
こうした制限を誘発した側面はあるので、
それを考えると忸怩たる思いがあるのですが、
基本的には「適宜用量増減」というような幅を持たせた記載は、
是非付け加えて欲しいと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2014/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





デング熱事例紹介 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

デング熱の流行が、
丁度診療所のある渋谷区の周辺の地域で問題となっています。

数日前にデング熱の診断が確定した、
比較的典型的な事例を経験しましたので、
患者さんの特定に繋がらない範囲で、
ご紹介したいと思います。

患者さんは20代の女性で、
8月中旬に代々木公園に行き、
その6日後より40度代の熱発と嘔吐の症状が出現しました。

全身の関節痛と倦怠感が強く、
ウイルス性胃腸炎でも良さそうな症状ですが、
下痢はありません。
発熱発症後4日後に近くの大学医学部の附属病院を救急で受診し、
血液検査を施行しています。

結果は白血球が2300と低下、
血小板が12.2万とやや低めで、
炎症反応であるCRPは0.6と弱陽性でした。

細菌感染では白血球は増加し、
血小板も増えるのが典型的ですから、
これはウイルス感染を示唆する結果です。

ただ、救急の担当医は、
フロモックスとカロナールを処方し、
特に再診や再検査は指示しませんでした。
お世話になっている病院なので、
悪くは言えませんが、
フロモックスで様子を見るのは、
さすがに如何なものかな、
と言う気はします。

その翌日の発熱発症5日後には、
解熱傾向となり、
同時期より湿疹が出現しました。

患者さんは体調が戻らないので、
発熱発症6日後に診療所を受診されました。

診察時には平熱に復していましたが、
その割に重症感は強い印象です。
頭部から体幹中心に、
皮膚の発赤と風疹様の皮疹を軽度に認め
(良く見ればあるかな、と言う程度です)、
扁桃腺炎は認めませんでしたが、
口腔粘膜は全体に発赤が強く荒れています。

採血を再度行なうと、
白血球は2300で変わらず、
CRPは0.3で陰性でしたが、
血小板は54000と減少が明瞭化していました。

回復期と考えましたが、
血小板減少が進行していることと、
まだ重症感のあることから、
大学病院の感染症科に診療を依頼し、
IgM抗体が陽性でデング熱と診断されました。

現在流行しているデング熱としては、
比較的典型的な事例と考えられます。

個人的に考えるポイントは、
感染源となる蚊の生息地域で刺されてから、
概ね1週間程度の潜伏期を経て、
突然の高熱でインフルエンザ症状で発症し、
通常の風邪より関節痛や全身倦怠感などの全身症状が強く、
発熱より数日くらい遅れて、
風疹様の皮疹が出現します。
血液検査においては、
白血球の減少と血小板の減少を認め、
時に肝機能障害を合併しますが、
CRPは上がっても軽度に留まります
(10を越えていれば否定的との指針あり)。

つらつら考えると、
同様の症状の患者さんが
(湿疹を除外すれば)、
10人以上は8月中旬以降に受診されていて、
臨床医の感触としては、
高熱と全身症状の割に、
他の局所の所見が非常に乏しいので、
「これはちょっとおかしい」という印象を持ちましたが、
それ以上は診断の方法もなく経過していました。

従って、おそらくは診断事例は氷山の一角で、
局所的にはかなりの流行が起こっていることが想定されます。

現行の僕の方針としては、
典型的な事例においては、
通常より早期に血液検査は施行して、
血小板減少が明瞭で症状が遷延していれば、
感染症科への紹介を考慮しています。
(などと書いていたら、
保健所と医師会から対応方針のファックスが届いたので、
その方針通りで対応する予定です)

それではこの話題はこのくらいで。

今日は土曜日なのでもう1本趣味の話題があります。

石原がお送りしました。

ジェネリック医薬品をめぐる理不尽 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は雑談です。

先日ある患者さんから、
ビックリするような話を聞きました。

その患者さんは慢性のご病気を持っていて、
毎日薬を服用されています。

僕が処方したのは先発品でしたが、
調剤薬局では、ジェネリックにすればこれだけ安くなりますよ、
というような話があり、
患者さんの同意の上でジェネリック薬品が処方されました。

ある時診療所の処方箋を薬局に持って行くと、
いつもより高い金額を請求されました。

薬の変更は特になかったので、
患者さんは不思議に思って薬剤師さんに聞くと、
「今月から薬の値段が上がりました」
という返事です。

同じ薬の値段が急に上がるのはおかしいと思い、
より突っ込んで事情を聞くと、
次のようなことが分かりました。

処方されている薬の成分にはそれまでと違いはありません。

しかし、ジェネリック薬品の会社が変わったのです。
薬局の取引先が変更されたのです。
そして、その変更された会社の同じ製品は、
元の会社の製品より高い値段が付いているので、
処方箋は全く同じであるのに、
支払う金額は上がることになったのです。

それでは、前の薬に戻して欲しい、と言うと、
今は取引をしていないので出来ません、
という返事です。

患者さんは何か釈然としない気分で、
薬局を後にしました。

新薬が開発され販売されてから、
概ね10年位の一定期間が過ぎると、
特許切れとなるので、
他のメーカーも同じ成分の薬を、
販売することが可能となります。

これがジェネリック薬品で、
元の新薬より安い値段が付きます。

この仕組み自体は世界中にあるものですが、
日本の特殊性は新薬の値段も国が決め、
ジェネリックの値段も国が決めていて、
その価格でしか販売することを許していない、
という点にあります。

国はジェネリック薬品の使用を推進しています。
これは医療費の削減のためです。

そのための方策として、
僕が先発品での処方箋を出しても、
薬局ではそれをジェネリック薬品に変更して、
良いことになっている訳です。

しかし、実は同じ成分の薬のジェネリックにも、
複数の価格が存在しています。

たとえば、
ランソプラゾールという薬があります。
新薬としての名称はタケプロンで武田製薬の薬です。
通常量の15ミリグラムの薬価は、1錠89.3円です。
この同一成分の沢井製薬という大手ジェネリックメーカーでの薬価は、
1錠50.6円に設定されています。
確かに先発品より安い価格です。
しかし、その一方で同じジェネリック大手の共和薬品での価格は、
1錠34.8円とより安く設定されているのです。

もう1つの例を出します。
エバスチンという抗アレルギー剤があります。
先発品の名称はエバステルで、
5ミリグラム1錠の薬価は76.0円です。
この同一成分のジェネリック大手沢井製薬の薬価は、
1錠が48.40円です。
これが最近ジェネリックに参入した、
先発でも大手メーカーのファイザーの薬価は、
1錠が29.9円となっています。

ついでにもう1つ出します。
認知症の治療薬として有名なアリセプトですが、
先発品の5ミリグラム1錠の薬価は334.7円です。
この同一成分のジェネリック大手沢井製薬の薬価は、
1錠が193.5円です。
これが先発でも大手の田辺三菱系列のジェネリックの薬価は、
同じ用量で1錠155.4円になっているのです。

このように概ね売れ筋の商品のジェネリックは、
販売の時期や薬価改訂のタイミングその他の理由により、
2種類の価格が付いていることが多く、
中には3種類の価格が付いているものもあります。

実例は高コレステロール血症治療薬のシンバスタチンで、
10ミリグラム錠の先発品の薬価は221.8円ですが、
そのジェネリックには1錠62.6円、87.6円、124.0円という、
3種類の価格が存在しています。
先発品の高額であることにもビックリですが、
同じジェネリックであるのに、
価格差が2倍もあると言うことにもビックリです。

つまり、同じジェネリックの扱いで、
同じように優遇されていながら、
その価格は会社によって違うのです。

僕はこの辺りの裏事情は知らないので、
敢くまで推測になりますが、
何となく利益誘導の仕組みがあるように思えます。

参入の時期や卸値の調査など、
調べれば理屈はあれこれと書いてあるのです。
薬剤師さん対象のQ&Aなどにも、
もっともらしい理屈や、こう説明すれば良いのだよ、
というような偉い先生の蘊蓄が書かれています。

しかし、卸値が反映されると書かれてある一方で、
一律に薬価を強制する算術が書かれているなど、
じっくり読むと矛盾がゴロゴロ出て来ます。
そもそも医療費を下げるために導入された仕組みである筈なのに、
それが二重価格になっていて、
患者さんにその選択権が事実上ない、
という理不尽さが何故放置されているのか、
その本質的な疑問の答えが、
何処にも書かれていません。

専門家たるもの、
理不尽な仕組みには、
シンプルに「これはおかしい」と言うべきではないでしょうか?
それを全くしないでおいて、
「患者さんの言いくるめ方」
のような指南をするようなことは、
少なくとも専門家のするべき仕事ではない筈です。

皆さんが医者から処方箋をもらい、
それを調剤薬局に持って行くと、
この薬にはジェネリックと言って、
もっと安い薬があるのでそれに替えましょうと、
半ば強制的な指導が行なわれます。
ただ、これは薬局の意思と言う訳ではなく、
国家の意思であり指導であるのです。
その時にジェネリックに替えると、
これだけ負担が安くなりますよ、
と言う説明がされますが、
その際に全てのジェネリックの価格が、
説明されることはまずありません。

調剤薬局が採用しているのは、
概ね1種類のジェネリックだけです。
それはそうで、
複数のジェネリック薬品を同時に採用すれば、
在庫の管理が非常にややこしいことになるからです。

そして、そのジェネリックがより安い価格のものであるかと言うと、
必ずしもそうしたことはないのです。

仮にジェネリック薬品という国のお墨付き
(実際にはただの書類審査です)
が全て正しいものであり、
国の説明に誤りが何もないとすれば、
全てのジェネリック薬品の製品の質には、
何ら差はないということになります。
それであるのに価格に結構な差があるとすれば、
当然全ての薬局は最も安い価格のジェネリックを、
採用するのが理の当然であり、
そうなれば何処かの大手メーカーのように、
他より高い値段の製品ばかりを売っているジェネリックメーカーは、
潰れるのが必然ということになります。

しかし、実際にはそうしたメーカーが莫大な利潤を上げ、
多くの薬局がわざわざ高いジェネリックを採用して、
患者さんにそれをあたかも最低価格の製品であるかのように、
販売しています。

調剤薬局の皆さんの理屈も分かります。
取引の継続性や流通の問題もあり、
そうせざるを得ないのです。
しかし、それを分かった上で敢えて言いたいのですが、
これは消費者たる患者さんに対して、
フェアなあり方でしょうか?

本来ジェネリック薬品が、
国家の言うように医療費削減のために存在しているのなら、
ジェネリックに複数の価格があり、
どれを選ぶかによって患者さんの負担も変わるような、
そんな仕組みを作るべきではありません。
ジェネリック薬品の価格は一律であるべきで、
そうでなければ色々な意味で、
不公正なことが起こることになるからです。
医師会も薬剤師会も、
その理不尽を強く主張するべきではないでしょうか?

しかし、実際には平然とそうしたことが行なわれているのです。

ジェネリック薬品とは誰のためのものでしょうか?

それは本当に医療費削減のために存在しているのでしょうか?

それなら何故、
一部のメーカーが得をして、
より利潤を上げるような仕組みがあるのでしょうか?

そこに何の意味があるのでしょうか?

皆まで言うことは出来ませんが、
それが何故であるかは、
皆さん先刻ご承知なのではないかと思います。

ジェネリック薬品とはこうした胡散臭い部分のあるものなのです。
そのことを、是非皆さんにも分かって頂きたいと思います。

念のため補足しますが、
上記の内容は薬局や薬剤師さんを非難するようなものではなく、
ジェネリックが二重価格になっているという、
そのシステム自体が理不尽であるという趣旨のものです。
文句を言うべきで責任があるのは、
厚生労働省や、
この奇怪なシステムを容認している、
業界の一部の権力をお持ちの方であって、
調剤薬局や薬剤師さんに存在する性質のものではありません。

ただ、かつて薬の多くを医療機関で出していた時には、
製薬会社からのマージンが常態化していたように、
消費者を無視した不公正なシステムは、
必ず不公正な取引の温床となることもまた事実です。
そうしたことが分かっていながら、
そうしたシステムを作り、
暗に「お前らはこのグレーゾーンで儲けろよ」
と指南するのが行政なのです。

不公正で儲かるシステムを作っておいて、
マスコミにつつかれたりすると、
自分の責任は何処吹く風に、
平気でそれを非難するのがお役所なのです。
騙されて口車に乗ってはいけません。

僕の言いたいことは、
とっととジェネリックの価格を一定にすればそれで良く、
薬価が大きく引き下げられている昨今では、
新薬の値段を下げればジェネリックも不要で、
適正な価格が同一成分で1つになれば、
よりシンプルで公正なものになる、
ということです。
以前でしたらそうした考えは絵に描いた餅でしたが、
新薬の薬価は定期的に引き下げられ、
大手の開発を手掛けるメーカーが、
自前で他社のジェネリックを、
最低価格で販売している現在では、
すぐにでも実現可能なことなのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ヘキストララスチノンの消滅を悼む [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

ヘキストララスチノン(一般名トルブタミド)
という飲み薬の糖尿病治療薬があります。

これはSU剤というタイプの薬ですが、
現行使用されている他のSU剤と比較すると、
その効果が弱く効きが長いことがその特徴です。

僕が大学の内分泌の医局に入った時の、
糖尿病の治療薬と言えば、
飲み薬はラスチノンとオイグルコン(グリベンクラミド)だけで、
後はインスリンの注射薬でした。
その後の数年に、
αGIと呼ばれる食後のブドウ糖の吸収を抑える薬と、
糖尿病の合併症の進行を抑えると言われた、
キネダック(エパレルスタット)が加わりました。
ビグアナイトはありましたが、
使う医者は「変態」だけでした。

医局の助教授の先生の説明は感銘にして要を得たもので、
「糖尿病の飲み薬には大きな粒と小さな粒の2種類があって、
大きな粒は弱くて、小さな粒は強い」
というものでした。

この先生は他にも名言を残しています。
抗生物質については、
「一番古い薬が一番良く効く」
という言い方でした。

さて、この場合の大きな粒というのが、
ラスチノンのことです。

当時の糖尿病の医者の心得は、
飲み薬ではラスチノンとオイグルコンを上手く使い分ける、
ということに尽きます。

つまり、軽症で低血糖にならないように、
血糖をコントロールしたい時には、
ラスチノンを1から2分の1錠くらいで使用して、
経過を見ます。

それで不充分な場合には、
オイグルコンの少量へと切り替えるのです。

その後グリニドというSU剤の一種で、
食後の短時間しか効かない、
というタイプの薬が開発され、
それからDPP-4阻害剤という、
SU剤とは別箇のメカニズムで、
インスリンを刺激する薬が開発されると、
ラスチノンを使用していた患者さんの多くは、
そちらへと変更されて、
あまりラスチノンは使用されなくなりました。

しかし、薬の値段という観点で言えば、
先発品で1錠13円程度で、
ジェネリックは10円弱ですから、
間違いなくラスチノンの方が安い薬なのです。

僕はつい最近まで、
2名の糖尿病の患者さんに、
このラスチノンを使用して来ました。
その使用は前医から計算すれば、
20年以上の長きに渡ります。

お2人とも今もお元気で網膜症のような合併症はなく、
心筋梗塞や脳梗塞も起こしていません。
糖尿病のコントロールの指標である、
HbA1cの値は6.5以下をキープしています。
五月蠅い先生が言われるように、
無症候性に深夜帯などに、
低血糖を起こしている可能性は完全に否定は出来ませんが、
少なくともはっきりとした低血糖の既往はありません。

ですから、このお2人の患者さんに対しては、
極めて古いSU剤であるラスチノンの使用は、
適切なものではないかと考えています。

SU剤を長期間使用していると、
二次無効になったり膵臓が疲弊すると、
多くの専門医の方が言われていますが、
勿論そうした事例もあり、
そうでない事例もあるのです。

ところが、このラスチノンが使えなくなりました。

薬価は消えてはいないのです。
今年の改定でも薬価基準は掲載されています。

しかし、実際には製薬会社はもう数年前から製造を中止しているのです。

まだ在庫のあるうちは処方を継続していたのですが、
とうとう4月の後半になって、
完全に流通がストップしました。
ヘキストララスチノンは死んだのです。

本来は先発品があり、
ジェネリック薬品があるのですから、
先発品は製造を中止しても、
ジェネリックは継続されるのが筋だと思います。

しかし、実際にはそうではないのです。

ある種の談合なのだと思いますが、
前述の薬価でもお分かりの通り、
うんと安い薬になると、
先発品の値段もジェネリックの値段も、
実際には大きな開きはありません。

先発メーカーにとって利潤の少ない薬は、
ジェネリックメーカーにとっても、
お荷物であることに変わりはないのです。

そんな訳で、
先発のメーカーがラスチノンの製造の中止を決めると、
ジェネリックのメーカーも右に倣えで全て中止を決め、
かくして僕には何の断りもなく、
患者さんへのラスチノンの処方は、
強制的に打ち切りの憂き目に遭うのです。

僕は患者さんに説明の上、
「仕方なく断腸の思いで」
1錠188円のトラゼンタを処方しました。

アマリールやオイグルコンは強過ぎますし、
メトホルミンは病態からして適応ではなく、
グリニドはコンプライアンスの面で問題があるからです。

このようにして、医療費は膨らんでゆきます。

資本主義の世の中において、
現行の薬剤の流通システムは、
新しい薬は古い薬より優れていて、
新しい薬にスイッチすることが正しいことである、
という考えの下に運用されています。
そして間違いなく、
新しい薬は古い薬より高いのです。

一種の進歩史観であり、
景気が限りなく拡大して行くという、
幻想に支配された考え方です。

その顕著な特徴は「過去の否定」です。

糖尿病の治療薬をトータルに考えた時、
アマリールがあればオイグルコンはなくても良く、
グリミクロンもなくても良く、
DPP-4阻害剤が糞のように沢山の種類がある必要はなく、
グリニドもαGIも1種類あればそれで充分ですが、
ラスチノンはないと困ります。
それは、病態にインスリンの分泌不全が関わっていて、
1日1回という利便性があって、
初期の軽症の糖尿病に使用出来る安価な薬が、
それ以外にはあまりないからです。

しかし、そんなことは多くの医者も考えず、
先発品のメーカーも考えず、
その尻馬に乗るジェネリックメーカーも考えず、
製造中止の申請を審査する厚労省の担当者も考えないのです。

せめて、ジェネリックメーカーが1社でも、
この薬を細々と製造してくれていれば、
それで何の問題もないのですが、
実際にはそうしたことが許されないのが、
現行の薬のシステムなのです。

僕の手元に1989年の「今日の治療薬」がありますが、
そこには現在では製造が中止された多くの薬が掲載されています。

しかし、
たとえば降圧剤のグアンファシンは、
軽度の認知症への効果が期待されている薬剤ですが、
発売は以前に中止され使用することが出来ません。
耐性菌への有用性で見直されている複数の抗菌薬も、
今ではその使用に疑問が投げかけられている、
第3世代のセフェム系の新薬の登場により、
製造が中止されました。
静脈注射の鉄剤は、
当時は4種類が使えましたが、
現在は2種類しか使用出来ません。
しかし、現在最も広く使用されているフェジンには、
高率に低リン血症が発症します。
しかし、そうした副作用の少ない薬の、
選択肢が殆どない状態になっているのです。
ああ、こんなにも多くのかけがえのない愛すべき薬が、
無雑作に葬り去られているのかと思うと、
暗澹たる思いがします。

このように、
有用性のある「安い」薬が、
薬価を急激に下げる厚労省の方針により、
「利益が少ない薬」として製造中止になっているのです。
それでも医者が多く使っていれば、
おいそれと中止には出来ないのでしょうが、
新薬の宣伝に踊らされる医療者は、
有用な「古薬」を簡単に見限ってしまうのです。

これが正しいあり方でしょうか?

本当に医療費の抑制を考えるなら、
高価な新薬を何種類も採用するようなことはせず、
使用を限定して古い薬の有用性を見直すべきです。
ラスチノンで何ら問題のない患者さんに、
薬価が10倍以上の新薬を使うべきではありません。
それと共に、
古い薬の薬価を際限なく下げ、
結果として製薬会社が販売の継続を困難にさせるような、
厚労省の薬価の決め方もまた誤っています。

しかし、糖尿病治療薬の今の状況はどうでしょうか?

ラスチノンは使用出来なくなる一方で、
SGLT2阻害剤という新薬が、
5種類以上も次々と販売されるのです。

そんなもの1種類で沢山じゃん。

それより古くからある良い薬で、
きちんと商売の出来るような、
製薬業界を作ることこそが必要なのではないでしょうか?

皆さんはどうお考えになりますか?

臨床医はね、皆好きな薬があるのです。

自分の経験から信頼を寄せている薬、
それによって危機が回避されたり、
患者さんの状態が改善したりして、
「ありがとう、お前なかなかやるじゃん」
と思ったことが必ずあるのです。

患者さんへの向き合い方と共に、
診療器具や薬などへのフェティッシュな愛が、
臨床医の1つの特性でもあるんだよね。

僕にとってラスチノンはそうした薬の1つでもあったので、
今回のその消滅を、
心の底から悼む思いが強いのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

いつもの追伸です。
今日からamazonは発売予定です。
よろしくお願いします。

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  • メディア: Kindle版





呪術師としての医者と呪術としての医療について [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

さっき診療所に何とか到着しました。
診療は通常通りですが、
道は非常に悪い状態なので、
受診予定の方はお気を付け下さい。
自宅の周りは雪に閉ざされて動きの取れない状況です。

今日は雑談です。

インフルエンザが診療所周辺でも流行しています。

インフルエンザの診療というのは、
ある種決まり切った一連の流れによって行われます。

患者さんがお見えになり、
急な発熱や寒気などの症状があり、
周囲でインフルエンザが流行っている、
というような情報があると、
インフルエンザを疑い、まずは咽喉の所見を取ります。

そこで矢張りインフルエンザが疑われるような所見があれば、
インフルエンザの迅速検査を行なって、
その可能性が高いかどうかを判断し、
それに応じた対処をすることになる訳です。

さて、今日話題にしたいのは、
インフルエンザの診療そのものではなく、
診療に付随するものとしての、
インフルエンザの感染の診断書と、
治癒証明の診断の文書についてです。

患者さんがインフルエンザの可能性が高いと思われる場合、
まず学校や職場から、
感染の診断を求められます。

それから、患者さんがインフルエンザから回復された時に、
今度は学校や職場に復帰して問題がないかどうか、
という治癒証明を求められます。

僕は個人的には、
患者さんからそれが必要だ、というお話があれば、
基本的にはその全てに対応しています。
(文書は無料の性質のものもあり、
診断書料を頂いているものもあります)

しかし、それを批判する意見もあります。

まず感染の診断に関しては、
インフルエンザの迅速診断は、
100パーセント確実なものではなく、
迅速診断で陰性であっても、
インフルエンザであるケースもあり、
また施行するタイミングによっても、
陰性になってしまうケースもあります。
更には流行状況からほぼ間違いがなければ、
することの意義はあまりない、
という意見もあります。
会社や学校によっては、
熱も出ていないけれど、
流行っているので検査はしてもらいなさい、
と言われて医療機関を受診される方もいて、
そうしたケースでは一種の不顕性感染として、
症状は軽いのに検査は陽性になる、
ということがしばしばあるのですが、
そうした検査は無意味なので、
良識ある医者はその検査依頼を拒否するべきだ、
というような見解もあります。

治癒証明についても多くの見解があります。

厚生労働省や文部科学省は、
学校や保育園の登校や登園の基準は示していて、
その判断は必ずしも医者のお墨付きが必要、
というものではありませんが、
実際には多くの学校や保育園で、
医者のサインが必要な治癒証明書が使用されていて、
多くの医者がそれにサインをしています。
しかし、こうした治癒証明書は無意味だという意見があり、
まともな医者はサインを拒否するべきだ、
という見解を表明される方もいます。
不要との文書を患者さんに予め配布して、
絶対に証明書は出さない、
と明言をされているような方もいます。
絶対に周囲に感染しない、
というような保障は本来出来ないものですし、
治った患者さんの保護者が再度訪れることで、
感染の機会を増やしてしまうから良くない、
と言われる方もいます。

皆さんはこうした考えをどう思われますか?

僕の個人的な意見はこうです。

医療を科学として考えれば、
医者による治癒の診断や証明は不必要だと思います。
診断のための迅速キットの使用に関しても、
実際には不必要であったり、
混乱に拍車を掛ける結果になりかねないケースが、
往々にしてあるように思います。

しかし、それでは一般の多くの方は、
本当にそうしたことに無知なので、
診断や治癒証明を医者に求めているのでしょうか?

それはちょっと違うのではないでしょうか?

多くの患者さんが求めているのは、
医者にある種の責任を担って欲しいと思っているだけなのではないか、
と僕は思います。

医療に関わるかそうでないかに関わらず、
この世の中にある証明書や許可書のような文書の多くが、
非科学的で無意味なものであることを、
社会で働く多くの人は、
世間知らずの医者などより、
遥かに良く知っている筈だからです。

治癒証明についても、
本来は企業なり学校なりが、
復帰や登校の有無を判断すればそれでいいのです。

法律上はそのようになっています。
しかし、それでも医者に御鉢が廻るのは、
医療の専門家としての医者に、
自分達の責任の肩代わりをして欲しい、
と期待をしているからです。

医療には呪術的な側面があります。

昔のまじない師の役割の1つは、
病気が治ったということを、
「悪霊が去った」というようなレトリックで表現することにありました。

医療は確かに科学ではありますが、
近代の社会がまじない師を公認することを止めて、
医者のみに病気の診断と治療とを任せたのは、
科学者としての役割と共に、
医者に部分的には呪術師としての役割を、
担ってもらう、という側面があったのではないかと思います。

端的に言えばそれは、
人間社会にとっての厄介者としての「病気」の、
それが存在する状態と、
それがなくなった状態とを、
自らの責任を持って保障する、
ということです。

医者が書くことを要求される診断書や証明書というのは、
その全てでは勿論ありませんが、
多くはそうした「まじない札」のような性質のものなのです。

病気がない、と書く診断書であれ、
病気のために仕事が出来ない、と書く診断書であれ、
勿論一定の裏付けや根拠はありますが、
厳密に科学的に考えれば、
全てが100%の確信を持っては、
到底書くことの出来ない性質のものです。

それを書く医者の頭の中には、
常に一定の飛躍があります。
どんなに科学を信奉している人でも、
診断書や証明書を記載する際には、
自分なりの経験的な基準に照らして、
何処かで科学を飛び越えています。

そうしたことは絶対にしない、
という見解の医者も確かにいて、
科学者としての医者としては、
それをまっとう出来る立場にあるのであれば、
それはそれで立派なことだと思いますが、
医者がこの社会で必要とされている少なからぬ部分は、
実は呪術師としての医者として、
呪術めいたことをしたり、
まじない札としての診断書や証明書を発行して、
多くの人々が自分では担いたくない責任の一端を、
肩代わりするというところにあるのだと思うので、
呪術師であることを放棄した医者というのは、
科学者としては立派だと思いますが、
必ずしも立派な医者と同義ではないように思います。

つまり、
治癒証明書など意味がないので書かない、
という医者と、
意味はないかも知れないけれど、
社会的な必要が僅かでもあるのなら、
自分の仕事として書きましょう、
と考える医者とは、
同じ医者でも自分の仕事に対するとらえ方が違うのです。

どちらが良いと言うつもりは僕にはありません。

しかし、現代の社会でもそうした呪術が必要であり、
呪術師が面倒な責任を担ってくれる、
ということは、
決して無意味な仕事でも有害な仕事でもなく、
それが非科学的な作業であることを、
患者さんとの関係の中で了解可能であれば、
僕は自分が科学的な呪術を行なう医者であっても、
決して恥ずかしいこととは思わないのです。
何らかの責任を担うということは、
人間にとって、
重要な仕事の1つであると信じているからです。

医者が呪術師であることを否定すれば、
結果として昔ながらの呪術師が復活し、
呪術師としての医者の仕事を、
代わりに行なうことになるのではないでしょうか?
それで良いという意見の方もいらっしゃるでしょうが、
僕はそうは思いません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。