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BCGヒ素問題を考える [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は休み中に飛び込んで来た、
このニュースについてです。

BCGワクチン出荷停止 ヒ素検出、安全性問題なし
2018/11/3 18:11(日本経済新聞より引用)

子どもの結核予防のため乳児を対象に接種しているBCGワクチンを溶かすための生理食塩液から、定められた基準を超えるヒ素が検出され、製造業者の日本ビーシージー製造(東京)が8月からワクチンと共に出荷を停止していることが3日までに、厚生労働省への取材で分かった。 ごく微量で、この量以下ならば一生の間、毎日注射しても健康に悪影響が出ないとされる国際的な許容量の数十分の1だったため、ワクチンの安全性に問題はないという。食塩液を入れるガラス製の容器からヒ素が溶け出したのが原因で、11月中に別の容器に取り換えて出荷が再開される見込み。 厚労省は、今月5日に開かれる有識者の会合で報告する。「安全性に問題はなく、他に代替品がないことから回収はせず、すぐには公表しなかった」と説明している。 厚労省によると、8月9日に食塩液の基準の0.1PPMを超える0.26PPMのヒ素が検出されたとの報告がビーシージー製造からあり、ワクチンの出荷を停止した。 このワクチンは、国内では同社だけが供給。1歳未満の乳児が定期接種の対象となっており、毎年100万人近くが接種している。停止後も出荷済みのものが流通しており、基準値超えのワクチンが接種されている可能性がある。新しい製品での出荷が再開すれば、ワクチンは不足しない見込み。〔共同〕

BCGワクチンというのは、
牛の結核菌を元にした特殊な結核の生ワクチンで、
日本では特殊な「判子注射」という方法で、
生後5から8ヶ月の時期(標準)に、
乳幼児結核の予防目的で定期接種されています。

これは日本のみの特殊な接種法で、
その継続には色々と議論があります。
ただ、現状BCGに代わる結核ワクチンは世界的にもなく、
乳幼児結核の予防のためには、
一定の有効性があると考えられることから、
定期接種が継続されているのです。

ワクチンは日本ビーシージーという1社で独占的に製造されていて、
その会社はBCGの製造販売のみを、
その生業としている、という特殊性があります。

今回明らかになった問題は、
BCGの溶解液に基準を上回るヒ素が、
混入していたというもので、
今年8月から製造と出荷を停止しているという事実が、
11月2日に明らかになった、というものです。

ヒ素の含有量自体はごく微量で、
BCGワクチンは1回のみの接種ですから、
それがお子さんの健康上に害を及ぼすとは、
ほぼ考えられません。

ただ、今回の一番の問題は、
本来検出されない筈のヒ素が検出されたという事実が、
誰にも伝えられることなく事後処理が行われ、
現場で接種をおこなっている僕のような医師にも、
全くその情報は伝えられないままに、
接種が継続されていたという事実です。

今年の8月以降出荷が停止されている、
と記事には書かれていますが、
8月以降もBCGの入荷は安定していて、
保健所からも医師会からも、
それについての通知などは何1つありません。

現状流通しているワクチンに、
基準を超えるヒ素が混入されているのかどうか、
そのことすら全く明らかにされていないのですから、
これはあまりに現場の医療者に対して、
そして何より接種されるお子さんに対して、
不誠実な対応であるように思われてなりません。

どうやら日本ビーシージー社と厚労省の担当部署以外には、
情報は伝えられないままに処理されていた、
ということのようですが、
本来は健康被害はないような事例であっても、
そうしたことで忖度するのではなく、
基準値を超えた場合には、
きっちりと報告し、
末端の医療者にも情報を迅速に伝えることが、
医療行政のあるべき姿ではないでしょうか?

迅速かつ明確な情報開示を、
是非求めたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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何故今年もインフルエンザワクチンは足りないのか? [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で外来は午前中のみですが、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はどうしても今納得のいかないことについて、
取り敢えずの情報をまとめておきたいと思います。

インフルエンザワクチンが今年も足りません。

昨年(2017年)はインフルエンザワクチンが不足して、
現場は大混乱となりました。

その主な理由は選定したワクチン株が上手く増えずに、
途中で方針が変更されるなどして供給が遅れ、
特に接種開始の10月1日の時点で、
通常であれば1000万本が供給されるべきところ、
700万本程度しか供給されず、
最終的な製造量も例年より低い水準に留まったことが、
その主な原因と説明をされています。

ただ、公の説明ではいつもの3分の2は、
10月1日の時点で供給されていた筈ですが、
現場の実感としては、
前年の半分程度しか出回らなかったように思います。

その反省を元に、
今年は充分な供給量が確保されると、
今年の8月くらいの時点では説明をされていました。

こちらをご覧ください。
インフルエンザワクチン見込み製造量.jpg
今年のワクチン接種の公的な検討会の資料です。
今年のワクチンは10月1日の時点で、
例年通りの1000万本を供給する、と説明されています。

ただ、この図をよく見ると、
平成30年のワクチンの製造量は、
トータルでは不足した昨年並みになっています。
つまり、例年より少なく作ることが、
ほぼ予定されていることが分かります。
更には11月初めくらいの時期で見ると、
不足した昨年と同じ2000万本程度しか製造せず、
その時点では従来より500万本近く少ない、
という予測になっています。

現場に混乱なく、充分な供給量を確保するには、
平成28年と同程度の製造量とその製造のタイミングが、
必須であるように思われるのに、
実際には初動量が昨年より多いだけで、
その後の推移やトータル量は、
不足して大混乱した昨年と、
ほぼ同じ水準にする、という予測になっています。

何故こんなことをするのでしょうか?

そのアリバイのために、
次のような図が用意されています。
こちらです。
インフルエンザワクチンの需給バランス.jpg
これもかなり酷い図だと思うのです。
何を根拠としたのか、
医療機関の需要予測という線が引かれていて、
それより今年の製造量は常に多いので、
不足は生じないという理屈が示されています。

しかし、この図の需要予測というのは、
不足で大混乱した昨年の量より、
更に少ない設定になっています。
つまり、この図が正しいのであれば、
昨年もインフルエンザワクチンは不足する筈がない、
ということになってしまいます。
しかし、実際には大きな不足が生じたのです。

何故わざわざほとんど根拠もなく、
こんなグラフを作成するのか、
はなはだ疑問です。

僕はお上や業界のトリックに、
やすやすと引っ掛かるような馬鹿なので、
10月1日が来るまで、
今年はインフルエンザワクチンの不足は生じない、
というように思っていました。

ところが、
蓋を開けてみると、
ワクチンを直接納入している卸さんからは、
昨年と同量のワクチンしか入荷はしませんでした。

充分に供給されている筈なのに、
これはどうしたことかと卸さんの担当者に聞くと、
次のような答えが返って来ました。

「実は今年のワクチンは昨年と同じ量しか作っていないのです。
それはワクチンメーカーが、
ワクチンが余って損をするのを嫌い、
それしか作らないと決めているからです。
従って昨年と同じ量しか入荷はしません。
ワクチンが出そろうのは12月に入ってからです」

この発言を聞いて仰天しました。
そんな馬鹿なことがあるかと思って、
別の卸の会社の方にも聞いてみましたが、
ほぼ同じ回答が返って来ました。

これは勿論担当者の発言ですから、
事実であるとは限りません。
しかし、今の僕の立場でそれ以上の情報の入手は困難です。

ただ、よくよくそうと分かってから、
最初の需給の予定図を見ると、
そこに既にそうした計画が示されている、
ということが分かりました。

2年前までは11月の初めにはワクチンがほぼ出揃うように、
頑張って生産が急ピッチで進められていたのです。
昨年も同じペースのつもりでしたが、
製造に失敗して供給が遅れました。
その遅れたペースと同じに、
今年の予定が組まれていることが分かります。

つまり、メーカーにとっては、
その方が都合が良いのです。
昨年の結果を見て、
「この方が都合が良く楽に儲かる」と判断した企業は、
適当な理屈をつけて、
同じことを今年もやっているのです。

知らないのは現場の馬鹿ばかり、
という訳です。

愕然としました。

今後、インフルエンザワクチンは、
12月にならないと需給は安定しない、
ということになるようです。

ただ、もしそうなら、現行の状態、
10月1日から一斉にワクチン接種を開始し、
いつ接種してもいいですよ、
というような方法は成り立たないことになります。

そもそも季節性インフルエンザワクチンは、
いつ打つのが良いのでしょうか?

10月から1月までのいつに打つべきなのか、
その指針を何1つ示していないということが、
まず行政の不作為の大罪であるように思います。

どうせこのような需給状態なのであれば、
ワクチンは10月、11月、12月と、
グループ分けして接種することが合理的、
ということになります。

こうした状態であれば、そのための指針が必要なのです。

それを何ら提示しないで、
ワクチン不足の原因を、
過剰に在庫をため込んだ医療機関のせいにするというのは、
あまりに破廉恥なやり口ではないでしょうか?

インフルエンザワクチンは今年も足りません。

しかし、今年の不足は明らかな人災であって、
末端の医療者にはその手掛かりさえ与えられてはいないのです。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
メーカーが儲かる、というのは適切ではないかも知れません。
余ったワクチンは国が買い取る、
といったような話も聞いたことがあるからです。
ただ、仮にそうであるとしても、
トータルに現場や接種者の利便制を犠牲にして、
昨年のような量を昨年並みのスケジュールで生産した方が、
企業にとって利便制がある、
という判断には違いがないように思います。
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PL顆粒の発売を考える [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

レセプトなどでちょっとバタバタしていて、
今日はかろうじて今日に間に合った、
という感じの更新になりました。

今日は論文の紹介ではなく、
「風邪薬」の話です。

毎日風邪薬のコマーシャルが流れない日はありません。
最近では医療用の風邪薬の代表でもあった、
PL顆粒が一般向けに発売されると、
仰々しい宣伝が連日行われています。

その一方で風邪に効く薬はない、
という言説も今では広く聞かれるようになりました。

風邪薬を処方する医者は確実に減っていると思いますが、
その一方でほぼ同じ風邪薬や、
PL顆粒のように全く同じ風邪薬が、
大量に商品として宣伝され、
多くの皆さんが使用されていることも事実です。

これは本当に正しいことなのでしょうか?

何か健康保険さえ使用しなければ、
役に立たないものや、
時には有害なものでも、
国民にはじゃんじゃん飲んでもらいたい、
というような利益優先の意図が透けて見えて、
あまり良い気分にはならないことも事実です。

そもそも風邪薬とはどんなものなのでしょうか?

風邪をライノウイルスなどによる急性の感染症と考えると、
それに効く薬はありませんから、
風邪薬と言われるものは、別に治療薬ではなく、
あくまで熱や鼻水、咳、咽喉などの痛みといった、
風邪に伴う症状を緩和する薬です。

風邪自体は自然に治る病気ですが、
症状が強ければつらいですから、
つらい症状を一時的に緩和する薬が、
あっても勿論悪くはありません。

ただ、現状の風邪薬の問題点は、
多くの成分が混合されていて、
その中には不要と思えるものも有害と思えるものもあり、
その評価がしっかりされていない、
と言う点にあります。

そこで、
医療用の総合感冒薬の代表とも言える、
PL顆粒の話になります。

医療用の総合感冒薬として、
最も広く知られているのはPL顆粒と呼ばれるもので、
その成分はアセトアミノフェン、サリチル酸アミド、
無水カフェイン、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩の4種類です。

PL顆粒の発売は1962年で、
その開発の時点で同種の配合剤が既に発売をされていますから、
風邪薬の歴史は非常に古い、
ということが分かります。

処方としては2種類の痛み止め(消炎鎮痛剤)を組み合わせ、
興奮剤のカフェインと、
抗ヒスタミン剤という鼻水や炎症を止める薬をミックスしたものです。
熱と鼻水と咽喉に効く、
という言い方が出来なくはありません。

ただ、わざわざ2種類の消炎鎮痛剤を組み合わせる必要があるのか、
という疑問と、
カフェインのような興奮剤を鎮痛作用の増強を期待して配合する、
という発想は、
今の目から見るとあまり科学的とは言えません。

おそらくこの発想は、
漢方薬から来ているのではないかと、個人的には思います。
個々に別個の効果のある薬を組み合わせて処方して、
より大きな総合的な作用を期待しよう、
という考え方です。

しかし、西洋医学の製剤は漢方の生薬とは違いますから、
この発症はちょっと筋が違うように思います。

PL顆粒を風邪で処方する医師は、
最近は減少していると思います。
特に小児用は問題が大きいと思いますが、
不思議なことに2014年の厚労省の再審査では、
特に問題視をされていません。

それどころか前述のように、
健康保険さえ使用しなければ、
国民にはドシドシこうした薬を使って欲しい、
というのが国やメーカーの方針でもあるようです。

市販の風邪薬は巨大なマーケットを形成していて、
売れっ子のタレントを起用したコマーシャルが、
毎日大々的にテレビでも流されています。

その中身はどのようなものなのでしょうか?

1つのサンプルとして第一三共の「ルル」を見てみましょう。
(この選択はたまたまで他意はありません。
他のメーカーの他の同種の薬でも、
全く同じことが言えるのです)

「かぜの全ての症状に効く」と銘打たれたこの薬には、
実に9種類の成分が配合されています。

痰がらみを取るブロムヘキシン塩酸塩、
神経刺激作用のあるメチルエフェドリン塩酸塩、
咽喉の腫れを抑えるトラネキサム酸、
解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン、
副交感神経を抑えて鼻水を止めるベラドンナアルカロイド、
咳止めで依存性のあるジヒドロコデインリン酸、
興奮剤のカフェイン、
抗ヒスタミン剤のクレマチンフマル酸塩、
そしてビタミンB1の誘導体です。

皆さんは風邪症状でお医者さんに行って、
いきなり9種類の薬を出されたらどう思いますか?
さすがに多すぎると感じるのではないでしょうか?

しかし、実際には同じことをしているのが市販の総合感冒薬なのです。

こうした薬は7歳以上では服用可能となっていますが、
現在小児科を担当する医師の多くは、
この年齢の患者さんの風邪に対して、
依存性や興奮性のあるジヒドロコデインリン酸やカフェイン、
痙攣のリスクなどもある古いタイプの抗ヒスタミン剤などは、
ほぼ間違いなく処方しないと思います。

それが平気で含まれていて特に規制もされていないというのが、
風邪薬の大きな問題だと思います。

それでは、
現状の総合感冒薬とどのように付き合うべきでしょうか?

以下は私見です。

総合感冒薬と言われる薬は、使用しないのが賢明です。

カロナールなどの商品名の解熱鎮痛剤は、
成分がアセトアミノフェンだけであれば、
発熱や痛みに対して使って良いと思います。

咳止めの連用はお勧め出来ません。

鼻水止めには風邪薬ではなく、
アレグラなどの花粉症の薬の方が、
副作用が少なく使いやすいと思います。

漢方薬は体に合ったものが分かっていれば、
使用して悪くないと思います。
3日使って充分な効果のない時には、
それ以上服用しないことがお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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今年のインフルエンザワクチンは何故不足するのか? [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はインフルエンザワクチンについての現況です。

季節性インフルエンザワクチンの接種が、
10月1日から開始となりました。

ただ、実際にはまだワクチン接種を始めていない医療機関も多く、
昨年よりワクチンの接種料金を値上げしている医療機関も多いようです。

それは何故でしょうか?

実は今年のワクチンの製造開始が遅れていて、
実際の製造量も、
昨年の90%程度になる見込みなのです。

実際に昨年の使用ワクチンは、
製造量の95%程度でしたから、
実質的に不足する量は、
需要を昨年並みと想定すると差し引きの5%くらい、
ということになります。
それでも実数として140万本くらいになります。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザワクチンの使用見込み.jpg
本年7月末の時点でも厚労省の資料にある図です。
現行の予定製造量が2527.5万本で、
需要を昨年並みとしても、
140万本、1本大人2人の接種が可能ですから、
280万回分のワクチンが、
今年は不足する可能性のあることを示しています。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザワクチンの供給見込み.png
これは例年のことでもあるのですが、
ワクチンというのは10月1日から接種可能と決まってはいても、
10月1日に全てのワクチンの製造が完了している訳ではありません。

週毎に出荷をしていって、
まあ年内にはほぼ出荷が完了する、
というような恰好になるのです。

それが今年は更に遅れる見込みで、
10月初めの今の時点では、
実際には500万本くらいのワクチンしか、
接種出来る状態にはなっていません。
出荷が完了するのは、
予定通りに進んでも年末ギリギリくらいになりそうです。

それでは何故今年はワクチンの量が少なく、
その製造自体も遅れているのでしょうか?

それはワクチンで使用する抗原の種類を決定する、
ワクチン株の決定が今年は遅れてしまったからです。

ワクチン株の決定は、
その年の春にWHOが流行状況から見た推奨株を発表し、
それを専門機関や厚労省が検討して、
日本におけるウイルス株を独自に選定、
その上で各ワクチン製造会社に指示をして、
製造が開始されるという段取りになっています。

その決定の詳細は、
概ね11月くらいに発表されています。

これまでのウイルス株決定の時期を見てみると、
2014年が6月24日、2015年が5月8日、
2016年が6月7日となっていて、
今年の発表は7月12日です。

2014年も例年からすると遅かったのですが、
今回の7月12日というのはあまりこれまで例のない遅さです。

これが今年の製造の遅れと本数が少ないことの理由と思われます。

それでは、何故WHOの発表は例年通りなのに、
日本でのウイルス株の決定は遅れたのでしょうか?

その点については正式な詳細の発表はなく、
ここで書くのは僕がワクチンメーカーの担当の方から、
お聞きした話なので、
ほぼ間違いのない線だとは思いますが、
現時点では裏取りはしてないことはあらかじめお断りしておきます。

され、伝聞の情報によると、
当初の選定株は、
1種類が今決定されたものとは別物だったのですが、
その培養が上手くいかず、
必要な量の抗原の確保が困難であることが、
途中で判明したので、
慌てて選定株を昨年と同じものに変更した、
という経緯があったようです。

具体的にはここ数年、
その抗原が変異したことにより、
ワクチンがあまり効かなくなっていた、
A香港型と通称されるH3N2のタイプの抗原が、
当初と変更されたことが原因だったのです。

当初の予定された抗原は、
A/埼玉/103/2014(CEXP002)というウイルス株由来のものでした。

これはワクチン種株作成様に品質管理された培養細胞で分離され、
その後卵で培養を繰り返された日本独自のウイルス株で、
昨年の資料を見ると、
野生株としてウイルス株の検証がされ、
抗原性は流行株とマッチしていたものの、
増殖が弱くて使用不可となっていました。

その高増殖株が開発されて今回の検討となったものと思われますが、
実際には卵での増殖が弱く、
抗原量が確保出来ないという判断になり、
昨年と同じウイルス株に急遽差し替えられた、
という経緯のようです。

独自株を使用することに拘り過ぎたのでは…
というような推測は可能ですが、
まだ詳細は不明なので憶測は避けようと思います。

結果として決定が遅れてワクチンは不足する上に、
昨年とA香港型の株が同じであるとすると、
昨年と同様に同じタイプのウイルスに対する有効性は、
あまり望めないということになる訳ですが、
現行の卵で培養するという手法によるワクチンは、
大量生産や迅速な変異への対応と言う面では、
限界があることを露呈した結果であるようにも思います。

それでは、今年の医療機関の対応はどうでしょうか?

7月末の時点で厚労省の通達が出ていて、
ワクチンの安定供給のために、
昨年より多くのワクチンの注文をしないことや、
針を刺して24時間以内であれば、
2人以上に余らせることなく接種を行うこと、
海外では9歳以上は1回接種でも可となっているので、
その点も勘案しろ、というような、
かなりこれまでの見解と異なる、
身もふたもないような文言が並んでいます。

予約をして需要を確認してから注文をしろ、
というようなことも書かれていますから、
今年医療機関が予約を五月蠅く言うこと自体は、
厚労省の通達に従っている、
という側面があるのです。

ワクチンの接種料を値上げする医療機関が多いのですが、
これは主には返品が難しいことが、
その要因と思われます。
前年の実績によりワクチンを出荷しろ、
というような指示もあるので、
新規の医療機関や昨年の実績が少ない医療機関では、
ワクチンの確保は困難となり、
その価格も高くなることも想定されます。

ワクチンの返品は円滑な流通のために、
むしろ促進される流れであったのですが、
今年については、
返品自体は禁止されていないものの、
厚労省は返品の多い医療機関は個別に指導する、
というような怖いことも言っているので、
実際には出来ないという状況になり、
そのリスクも考えると、
価格を上げざるを得ないのが、
医療機関の実際だと思います。

クリニックでもワクチンの予約を開始していますが、
今年はそうした事情を勘案の上、
接種を希望される方はなるべく早い対応をお願いしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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医療事故調査制度について [仕事のこと]

こんにちは。
石原藤樹です。

本日から北品川藤クリニックが開院します。
数日は電子カルテなど新しものづくめなので、
お待たせすることが多いと思います。
どうかご了承下さい。

10月1日から北品川藤クリニックは開院しますが、
今年の9月から10月に掛けては、
医療行政においても、
節目となる幾つかの変化があります。

そのうちの1つは、
今年の10月1日から、
新しい医療事故調査制度が始まる、
ということです。

これは去年の6月18日に成立した、
医療法の改正の中に含まれているもので、
それが今年の10月から実際に行われることになったのです。

医療には予期しない急変や死亡は付き物です。

病院に入院中や治療後の急死は、
患者さんの体に、
何らかの急な変化が起こったためかも知れませんし、
薬などの治療の副作用であったり、
医者の処置に問題のあった可能性もあります。

医者にとっても、
何故患者さんが急変したのか、
ということはとても知りたいことですし、
もし自分の治療や処置に問題があったのであれば、
それを知ることは、
その患者さんにとっては残念ながら手遅れですが、
今後そうした患者さんを出さないために、
重要な情報になります。

これまでの制度では、
こうしたケースは「異状死」とされ、
警察へ届け出ることが義務付けられていました。

しかし、
全ての予期せぬ死亡が「異状死」ということになると、
警察も全てに対応は出来ませんし、
警察の捜査が入れば、
それが医療のミスによる犯罪である、
というイメージがあるので、
遺族は医者に対して不信を持ちます。

また、
医療機関もおおごとになることを嫌うので、
結果として届出はせずにうやむやにすることが多くなります。

これが後から問題となって、
遺族の訴えで警察が捜査に入り、
医療機関が警察への届けをしなかったことが、
犯罪であるとして処罰の対象になるような事例が、
多く起こるようになりました。

これではいけないということで、
決められたのが今回の制度です。

異状死の届出自体は残っているのですが、
犯罪の疑われるようなケース以外は、
届出は不要と運用が変わり、
その代わりに医療機関や医師(管理者)が、
原因不明の急死で医療の関与も否定出来ないケースを、
「医療事故」と認定。
事故の原因調査を医療機関で行なうとともに、
第三者機関である「医療事故調査・支援センター」への報告を行います。

このセンターというのは、
当面は医師会や大学病院などに、
部署が設けられるということのようです。

このセンターは医療機関に対しては、
事故の調査のサポートを担い、
遺族に対しては、
相談の窓口となります。

院内での調査の結果は、
遺族に説明され、
その後センターへも報告されます。

遺族からの依頼があれば、
センターが医療機関とは別個に
、独自の調査を行なうこともあります。

この制度は基本的には、
同じような「医療事故」の再発防止が主な目的になります。
医療機関や医師の責任追求が目的ではないのです。

その辺りのポリシーをどう考えるかが、
今回の仕組みを評価するかどうかのポイントになります。

予期せぬ医療と関わる可能性のある患者さんの急死の、
原因を追求することは、
患者さんの遺族にとっても、
医療機関や医師にとっても、
意義のあることは間違いがありません。

しかし、一番難しいのは、
その結果をどのような形で発表し、
記録に残すのか、ということで、
今回の仕組みでも、
その点が大きな議論となり、
院内調査については、
遺族への説明は口頭でも良いことになっています。

最初から患者さんの死に、
ご遺族が不信を持っている場合には、
勿論これで納得する筈がありませんから、
センターへの再調査が依頼されることになり、
その結果は報告書として交付されることになります。

その結果は、
そのまま医療過誤の訴訟にも直結しますから、
果たして何処まで踏み込んだ報告書が再調査で作成されることになるのか、
という点が一番のポイントと思われますが、
具体的な指針のようなものは、
まだないように思います。

センターは医師会や大学病院が担う、
ということになると、
医師会はこれまでも医療過誤の仲裁に当たっていた訳で、
それでも充分な解決が得られない事例が、
問題となって来た経緯がある訳ですから、
これまで以上に踏み込んだ結論に至るかは、
甚だ疑問に感じますし、
大学病院にそうした当事者能力があるのか、
という点も疑問に感じます。

院内調査には、
多くの費用やマンパワーが必要ですが、
そうした手当を国が殆どしてはくれない、
という点も充実した調査を端から困難にしているようにも思います。

制度が出来たことは、
一歩前進であることは間違いがありません。

しかし、
実際に運用される制度は、
かなり玉虫色の、
面倒なことには踏み込まず、
ただただ医療現場への負担を強要するだけの側面のあるものなので、
今後実際の事例において、
どのような報告がされ、
どのような経緯を辿るのかを、
注視する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

無菌性膿尿の原因について [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今月のthe New England Journal of Medicine誌に、
無菌性膿尿という、
一般的で見落とし易い兆候についての総説記事が掲載されました。
今日は勉強の意味で、
その内容を元に整理してお話します。

膀胱炎というのは、
女性に多く非常にポピュラーな感染症です。

膀胱内に細菌が侵入して増殖することによって、
おしっこは濁ったり血尿になり、
頻尿や残尿感、排尿痛などの不快な症状が出現します。

濁ったおしっこには、
白血球が検出されます。
つまり「膿み」です。

おしっこを顕微鏡で見て、
視野に3個以上の白血球がある状態を、
「膿尿(pyuria)」と呼びます。

さて、膿尿は通常は細菌性膀胱炎のサインです。

それで、この膿尿が見られた場合には、
尿の細菌培養の検査を行ないます。

培養で細菌のコロニーが検出されれば、
その細菌の量にもよりますが、
細菌性膀胱炎であることが確定します。

ここで膿尿はあるのに、
細菌培養で菌が検出されないことがあり、
それを「無菌性膿尿(Sterile Pyuria)」と呼ぶのです。

これは実際には意外に多く、
上記解説記事中の記載では、
一般住民での検査において、
女性の13.9%、男性の2.6%に認められた、
とされています。

無菌性膿尿では頻尿や排尿時の痛みなどの、
膀胱炎様の症状が出現することもあり、
また無症状のこともあります。

それでは、明らかに細菌性膀胱炎と思われるような症状があり、
膿尿が存在しているのに、
培養で菌が検出されないのは、
一体どのような理由によるのでしょうか?

シンプルな原因の1つは、
直近の抗生物質の使用です。

膀胱炎を繰り返しているような患者さんは、
自分で抗生物質を飲まれることも多く、
また他の理由で処方された抗生物質が、
影響することもあります。

抗生物質の使用により、
培養で菌は増殖し難くなるので、
見かけ上「無菌性膿尿」という状態になるのです。

この場合は通常に細菌性膀胱炎として治療し、
経過を見て、膿尿が改善すれば問題はありません。

しかし、それ以外の原因でも、
無菌性膿尿は起こります。

最も見落としてはならない無菌性膿尿の原因は、
性器尿路の結核です。

性器尿路の結核は、
肺結核以外の結核菌感染としては、
最も多いものです。

その初発症状は血尿と膿尿で、
進行すれば腎臓やその周辺組織、骨盤内臓器などに、
病変が広がる可能性があります。

結核菌は特殊な培養を必要とするので、
通常のおしっこの細菌培養では検出されません。
また、おしっこの結核菌の培養での、
陽性率はそれほど高いものではないので、
性器尿路結核を疑った場合には、
おしっこの結核菌の遺伝子検査をする必要があります。

結核以外に多くの性行為感染症も、
無菌性膿尿の原因となる可能性があります。

淋病やクラミジアは、
性器の感染症の代表で、
淋病の原因である淋菌は細菌ですが、
非常に生存し難い菌なので、
細菌培養では検出されないこがしばしばあります。
従って、こうした病気を疑った場合にも、
矢張り遺伝子検査で確認する必要があります。

更には単純ヘルペス感染症や帯状疱疹でも、
その病変が性器に近いと、
無菌性膿尿が起こることがあり、
湿疹がはっきりしない場合には、
無菌性膿尿のみが所見となることもあります。

また、真菌などによる尿路感染症も、
無菌性膿尿の原因の1つです。

以上は細菌培養では診断が出来なかったり、
診断が困難な感染症ですが、
感染症以外の原因でも、
尿路結石や尿路系の癌などでは、
細菌によらない炎症が起こるので、
無菌性膿尿が生じることがあります。

無菌性膿尿が所見の1つとして有名なのは、
お子さんの発熱の原因となる川崎病で、
細菌感染を伴う膿尿も合併するようですが、
他の川崎病の兆候と併せて、
無菌性膿尿があれば、
その可能性が高まります。

このように、
特に症状のあまりない無菌性膿尿は、
一般臨床ではスルーされがちですが、
治療の必要な感染症や全身疾患のサインであることも多く、
適切な鑑別診断を心がけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。。

石原がお送りしました。

医者の先入観についての私的考察 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別箇の仕事で都内を廻る予定です。

今日は雑談です。

僕は数年前に山道で転んで左手を強く突き、
左の肘の部分を骨折すると共に、
左の手首の靭帯を損傷しました。

最初に転んだ場所の近くの病院に、
救急で受診し、
診た医者は肘のレントゲン写真を撮って、
肘の骨折の疑いと診断しました。

それで急遽東京に戻り、
近所の整形外科の医院を受診しました。
最初に何処が痛いのかと聞かれたので、
肘と手首が痛いと言いました。

すると、もう一度肘のレントゲンと、
それから追加で手首のレントゲンを撮りました。

レントゲンで手首には骨折はなかったので、
「今は痛みはあっても、段々と良くなりますよ」
という判断でした。

ところが、
4週間くらいが経過しても、
肘の痛みはなくなり、骨折の治癒も良好でしたが、
手の痛みは良くなりません。
手のひらを腕立て伏せをするように床に付けて、
少し力を加えるだけで、
耐え難いような痛みが起こります。

それで診察の際にそのことを話したのですが、
整形外科の先生は、
骨折はないから大丈夫、と言うだけで、
痛いという手首を触ってもくれませんでした。

ちょっと不信を持ったので、
紹介で手の外科の専門医を受診しました。

すると、手首に少し力を掛けるような診察をして、
靭帯の損傷がある可能性が高く、
手術で良くなると言われました。

MRIも撮ったのですが、
それでは靭帯の損傷の有無は確定的には言えませんでした。

後は手術の時に確認するしかありません。

それで手術に踏み切りました。

結果は靭帯の断裂が確認され、
それを縫合する手術が行われました。

経過は順調で、
今では痛みはなく普通に腕立て伏せも出来ます。

手の外科の先生が術前にしたことは、
診察で手首の関節の動揺性を確認しただけです。

つまり、
それなりの知識と、
診察のスキルとがあれば、
別に高い検査をしなくても、
診断は出来るのです。

一方で「レントゲンで骨折はないから大丈夫」
という先入観があり、
「多少靭帯など痛めていても、自然に治ることが多いから大丈夫」
という認識があると、
患者が幾ら痛いと主張しても、
スルーされて、
手も触れてもくれないで、
それでおしまいです。

もし手術をしなければ、
痛みは間違いなく一生残ったと思います。
実際診療所を受診される患者さんのお話しでも、
そうしたことはよく聞きます。

医療の持つこうした不平等性というものは、
憤りを感じますが、
なかなか修正はされないように思います。

それから今度は僕の親族の事例です。

白内障の手術をある第一人者の先生にやってもらったのですが、
手術後から目の奥の痛みが出て、
それが次第に強くなります。

それでその先生に恐る恐るそう申し上げたのですが、
「私の手術は完璧なので、そんな痛みが出ることはありません」
というひとことで終わりです。

その後のフォローは、
その先生の同期の開業医の先生が受け持つことになり、
今度はその開業医の先生に、
同じ話をしました。

開業医の先生は一通りの診察をした上で、
「さすが手術は完璧です」
と手術をした先生の太鼓持ちのようなことを言うと、
目には何の問題もないので、
他の原因で痛いのかも知れません、
と何となくメンタルな原因を仄めかすような言い方です。

薬も何も出してはくれません。

しかし、矢張り痛いことは痛いのです。
2週間くらい我慢しましたが、
それでも悪化するばかりなので、
別の病院の眼科を受診しました。

どうも手術をした先生の薫陶を受けた医者の診察では、
まともに取り合ってはもらえないように思えたからです。

病院の先生の診断はドライアイで、
それも角膜上皮が障害され、
捲れあがって目を刺激しているので、
かなり重症の部類で、
「これでは痛いでしょう」という判断でした。

ドライアイには多くの原因がありますが、
白内障などの手術のストレスは、
その隠れた要因の1つとして、
教科書などにも書かれていますし、
重症の事例の症例報告も沢山存在しています。

つまり、白内障の手術後に、
予期せぬ目の痛みが生じるなら、
当然想定して然るべき合併症です。

しかし、
「白内障手術のみの名医」である大先生はともかくとして、
フォローを任された開業の眼科の先生が、
「そんな痛みが出る訳がない、メンタルじゃないの?」
というような対応なのは如何なものでしょうか?

おそらくその先生の診察を受けた時点では、
ドライアイはそこまで重症の状態ではなかったのだと思います。

しかし、注意深く患者の話を聞けば、
その可能性を考えるのは理屈から言えば自然なことで、
それが全くなされなかったのは、
その先生には崇拝する先生への思いの方が、
目の前の患者の痛みの原因を追究しようという情熱よりも、
遥かに勝っていたことがその原因と考えられます。

つまり、
「あの先生の手術は完璧なので、
仮に手術後の患者さんが痛みを訴えれば、
それは目以外の原因によるものだ」
という先入観があったのです。

そんな曇った目では、
診断は出来ないのが当然のことです。

ドライアイの治療により、
症状は徐々に改善しました。

しかし、
手術をした名医と、
その太鼓持ちの先生の診断を真面目に信じていたら、
もっと病状は進行していたことは間違いがありません。

こうした経過で、
失明の事例も報告があります。

医療というのは不平等なもので、
こうしたことが現実にはしばしばあるのです。

その一番の原因は医者の先入観で、
僕も自身を振り返ればエラそうなことは言えません。
多くの患者さんを、
この先入観の犠牲にして、
適切な治療や診断から遠ざけて来たように思います。

しかし、
それで被害を被った患者さんは、
概ね別の医療機関を受診するので、
医者はそのことに気付いたり、
それを反省したりすることが少ないのです。

最初の事例で言えば、
僕は開業の整形外科の先生のところに、
二度と行くつもりはありませんし、
顔も見たくはありません。
本当はそのことをお伝えする方が、
多くの患者さんのためになることは分かってはいるのですが、
矢張りその苦痛を敢えてする気にはなりません。

2つ目の事例で言えば、
僕の親族はもう二度とその太鼓持ちの開業医のところには、
行くつもりは毛頭ありませんが、
矢張りそのことを相手に説明するのは、
その労力と相手の反応の不愉快さとを想定すると、
とてもそうする気にはならないのです。

医者は1つ1つの失敗から、
本当はもっと多くのことを学び、
その診療レベルを上げることが出来る筈ですが、
実際には人間同士の関係というのは、
非常に難しいもので、
こうした些細な先入観に基く誤りでも、
それを正すには多くのハードルが待ち構えているもののようです。

何故今日こうしたことを書いたのかと言えば、
今日はいつものように、
これから診療がある訳ですが、
少なくとも不用意な先入観を極力持つことなく、
患者さんの診察には当たりたいと思い、
その1つの意思表示として、
心の中のもやもやしていたものの幾つかを、
ここに形にしてみたのです。

こうした事例を何処かに全てストックして、
いつでも誰でも閲覧可能とし、
それを元にした研修などを、
自動車のように医師免許を更新制にして、
定期的に全ての医師に義務付けるようにすれば、
医療は少し良い方向に向かうかも知れません。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ピロリ菌除菌により著明に改善した慢性胃炎の1事例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は診療所で胃カメラ検査を行ない、
慢性胃炎を認めたためにピロリ菌の除菌治療を施行、
それにより著明に胃粘膜所見が改善した事例の、
胃カメラ画像を見て頂きます。

まずこちらをご覧下さい。
除菌改善事例5.jpg
これは40代の男性の、
胃の中央部辺りの画像です。

色合いはかなり赤く、
全体に浮腫んだような粘膜で、
粘膜の襞も太くなっています。
表面の胃炎の所見ですが、
かなり慢性化した感じで、
軽度の萎縮性胃炎も伴っています。

次はこちらです。
除菌改善事例4.jpg
こちらは胃の上部を見たものですが、
矢張り粘膜の表面の慢性のただれがあり、
粘膜の萎縮も伴っています。

慢性のこのような所見は、
ピロリ菌に起因する慢性胃炎の、
比較的特徴的な所見です。

現在では慢性萎縮性胃炎は、
ピロリ菌除菌の保険適応となっています。

それで患者さんとも相談の上、
除菌の治療を行ないました。

その1年後の胃カメラ検査の結果がこちらです。
除菌後改善事例2.jpg
これは最初の画像とほぼ同じ部位ですが、
粘膜の赤味と浮腫みが取れ、
すっきりとした所見となっていることが分かります。
萎縮性の変化も殆ど認められません。

それでは次を。
除菌後改善事例1.jpg
これも2枚目の画像とほぼ同じアングルですが、
こちらも著明に改善していることが分かります。

このように、
粘膜がただれているような時期に、
慢性胃炎に対して除菌治療を行なうと、
その効果は極めて劇的です。

ただ、
これは必ずしも患者さんの症状の改善には、
結び付かないこともあります。
こうした胃炎が実際に症状を出すことは、
それほど多いものではないからです。

また、
同じピロリ菌の感染でも、
萎縮性胃炎が高度の進行したようなケースでは、
あまり除菌による粘膜の状態の改善は見込めません。

従って、
粘膜の状態が悪くなければ、
ピロリ菌に感染しているからと言って、
除菌治療をそう慌てることはないのですが、
萎縮性胃炎が進行する前に、
除菌をすることは肝要のように思います。

勿論、
進行した萎縮性胃炎における除菌治療も、
胃癌の予防という観点からは、
意義のあるものですが、
胃粘膜の状態を改善するには、
それより前の段階での除菌が必要なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2014/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





甲状腺疾患超音波画像集(2015年新版) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

雪はまだ雨ですが、
夜はどうでしょうか?

それでは今日の話題です。

今日は診療所で診断した、
甲状腺の病気の超音波画像を見て頂きます。

まずこちら。
甲状腺乳頭癌1.jpg
甲状腺の縦切りの超音波画像です。
画面の中央、赤い矢印の先にある、
周辺の甲状腺組織より低エコーで、
特に外側により低エコーの部分のある、
大きさが8ミリ大のしこりがあります。
ほぼ丸い形に見えますが、
よく見ると辺縁が少し不正に見えます。

専門病院で甲状腺乳頭癌が確定し、
手術の方針となりました。
治療方針は患者さんと専門医との相談の上、
決定されています。

比較的典型的な乳頭癌の所見だと思います。

では次を。
甲状腺乳頭癌2.jpg
こちらは5ミリを少し超えるくらいのしこりですが、
周辺の組織よりかなり黒っぽく(エコーレベルが低く)、
辺縁も不整になっています。

これも乳頭癌が確定して手術になり、
完治した1センチ未満の乳頭癌の事例です。

では次を。
甲状腺乳頭癌3.jpg
これも5ミリを少し超えるくらいのしこりで、
最初の事例に近く、
周辺により黒っぽい帯のような部分があり、
よく見ると辺縁がやや乱れています。

これも乳頭癌でした。

では次をご覧下さい。
異所性甲状腺内胸腺腫.jpg
これはちょっと違う所見で、
5歳のお子さんですが、
赤い矢印の先に、
紡錘形に近い辺縁のはっきりしないしこりがあり、
その中に白い点のように見える、
エコーレベルの高い部分が散在しています。

これは胸腺の組織が一部甲状腺内に残ったもので、
異所性甲状腺内胸腺腫と呼ばれています。

通常は年齢と共に消失することが多く、
経過観察は必要ですが、
治療の必要なものではありません。

それでは最後の画像です。
副甲状腺腫.jpg
矢印の先に黒いしこりがあります。
これは甲状腺の外側に位置していて、
副甲状腺のしこりです。

原発性副甲状腺機能亢進症の所見で、
手術の適応です。

今日は診療所で診断した、
甲状腺の病気の超音波画像を見て頂きました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

薬剤誘発性内臓血管性浮腫の1事例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

今日は興味深い事例の紹介と、
そのメカニズムについての話です。

実際の事例を元にしていますが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける観点から、
一部実際とは細部を変えていることをお断りしておきます。

Aさんは40代の女性で、
39歳の時に検診で高血圧を指摘され、
その後数年は生活改善で様子を見ましたが、
下がらないので、
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
というタイプの降圧剤である、
ロサルタンカリウム(商品名ニューロタンなど)が処方されました。

使用開始1か月後に、
あまり誘因のなく、
お腹の右下が強く痛み、
嘔吐と下痢も伴いました。
熱は寒気はありませんでした。

痛みが強かったので救急病院を受診しましたが、
血液検査では白血球も炎症反応も異常なく、
盲腸は否定的でした。
医師の診察では、
お腹を押すと確かに強い痛みを訴えますが、
筋肉が固くなっているような所見はなく、
強い炎症は否定的で、
腸の動きは低下していることが示唆されました。

その時の診断は「お腹の風邪」で、
より正確にはウイルス性胃腸炎です。

対処療法で経過を見ると、
すぐにすっきりはしませんでしたが、
強い痛みは1日で治まりました。

ところが…

それからも、
同様の痛みはしばしば彼女を襲いました。

決まって熱はなく、
あまり全身症状もないのですが、
強い痛みが突然襲い、
下痢と吐き気を伴って、
1から数日間持続してから治まります。

痛みの強い時期は、
食事を摂ることも困難となり、
病院の外来で点滴をしてもらったり、
翌日によくならないような時は、
入院することもありました。

しかし、
血液検査ではいつも異常がないので、
次第に医者の態度も冷淡な感じのものになり、
「何かストレスはありませんか?」
と、露骨に精神的な原因であるかのような対応に変わります。

勿論考えれば、
悩み事の1つや2つはありましたが、
特に強い症状の引き金になるようなものではありません。

それでも症状は繰り返し起こり、
その原因は身体には見付からないので、
次第にAさんも、
これはひょっとしたら精神的なものなのではないかしら、
とそんな風にも思えて来るのです。

それで、心療内科を受診すると、
ざっと話を聞いただけで、
「それでは薬を出しておきますね」
と抗うつ剤と安定剤が3種類処方されました。

説得力のある診断根拠が説明されるのなら、
そうなのかな、と思ったかも知れませんが、
あまりに最初から決め付けたような対応なので、
Aさんはとても納得が出来ません。

それでも藁にでも縋る思いで薬を飲みましたが、
頭がボーッとして吐き気とめまいがするだけで、
我慢して2週間飲んでも、
何の変わりもなく、
2週間後に再び腹痛の発作が起こったので、
これは意味がない、と飲むのは止めてしまいました。

以前ブログで「原因不明の腹痛の話」というのを、
書いたことがあります。
これは結論的には卵巣と腸との癒着による症状だったのですが、
それを読まれたAさんは、
診療所を受診されました。

診察上お腹は少し張っていて、
腸管の蠕動は落ちている印象ですが、
はっきりとした圧痛点はなく、
筋性防御もありません。

超音波検査では、
全体に腸管のガス像が多く、
小腸の一部に消化液の貯留と壁肥厚が疑われましたが、
はっきり腸閉塞と言えるような所見ではありませんでした。

それで造影CTを撮ると、
矢張り小腸壁の肥厚が認められました。
こちらをご覧下さい。
内臓血管浮腫のCT画像.jpg
これは実際のAさんの画像ではなく、
後でご紹介する文献にあったものです。
お腹の輪切りのCT画像ですが、
画面の左上(実際には右)に、
浮腫上の小腸が見えます。
ここまでクリアではなく、
現在画像が手元にないのですが、
Aさんも同様の所見を示していました。

そこから、
ロサルタンカリウムによる内臓血管性浮腫を疑い、
血圧値を見ながら、
ロサルタンを低用量のアムロジピンに変更して、
経過を見ました。

すると、
その後発作性の腹痛の症状は、
ほぼ完全に消失しました。
ここまではっきりなくなるとは想定しませんでしたが、
実際にはロサルタン中止後、
一度も腹痛発作は出ることはありませんでした。

勿論これだけで薬剤が腹痛の原因であると、
断定出来るものではありませんが、
少なくともAさんが、
その症状から解放されたのは事実です。

それでは、
仮にこの症状が薬剤によるものだとして、
何故高血圧の治療薬により、
内臓の浮腫が生じるのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
内臓血管性浮腫の文献.jpg
これは昨年の、
Journal of Community Hospital Internal Medicine Perspectives誌に、
掲載された、
薬剤性内臓血管性浮腫の総説です。

上気のCT画像もここから取ったものです。

昨日の記事でご説明しましたように、
血管性浮腫はACE阻害剤の比較的よく知られた有害事象です。

この血管性浮腫は、
顔面や頸部、上気道に起こるのが典型的ですが、
内臓、主に腸管の浮腫として生じることがあります。

この内蔵血管性浮腫は、
繰り返す吐き気と下痢を伴う腹痛が特徴で、
症状は数日以内に治まりますが、
それから何度も繰り返します。

この血管性浮腫は、
ACE阻害剤にはあっても、
ARBにはないと最近まで考えられていました。

しかし、実際にはARBの事例も複数報告されています。

それは何故でしょうか?
こちらをご覧下さい。
ARBによる血管性浮腫のメカニズムの図.jpg
これも現状は仮説ですが、
ARBで血管性浮腫の起こるメカニズムを図示したものです。

ARBはアンジオテンシン2の受容体を阻害する薬ですが、
それによりアンジオテンシン2は増加します。
するとその影響でACEは抑制されるので、
結果としてACE阻害剤と同じように、
ブラジキニンやサブスタンスPが増加して、
症状が発生する、という理屈です。

ただ、同じメカニズムが関与している筈の、
空咳の副作用は、
明らかにARBでは少ないので、
ちょっと理屈に合わない部分はあります。

いずれにしても、
ACE阻害剤は勿論のこと、
ARBにおいても、
その使用後に生じる、
原因不明で繰り返す腹痛は、
この病気の可能性を想定し、
可能であれば一旦当該薬剤を中止して、
数ヶ月の経過を見ることが望ましいと思います。
全ての事例ではなく、
症状出現時以外は明確でないこともありますが、
造影CT検査による腸管壁の肥厚は、
一定の診断能を持つことが多いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

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