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大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症(LATE)の臨床 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの面談などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LATE.jpg
2019年のBrain誌に掲載された、
最近その重要性がクローズアップされている、
新しい認知症のタイプについての総説です。

老年期認知症の代表と言えばアルツハイマー型認知症です。

この病気は物忘れで始まり、
脳の海馬という部分が萎縮することが特徴です。
進行すれば、全ての認知機能が低下します。
アルツハイマー病の脳では、
老人斑という変化と神経原繊維変化という変化が認められます。
老人斑の主成分はアミロイドβ蛋白で、
神経原繊維変化の主成分はタウ蛋白です。

アルツハイマー病で起こる最も初期の変化は、
アミロイドβ蛋白の蓄積です。
このアミロイドβ蛋白は、
正常の神経細胞からも分泌される物質で、
神経の保護やその成長の促進などに、
一定の役割を持っていると考えられています。
つまり、それがあること自体は害ではないのです。

ところが、
この蛋白が重合し凝集することで、
組織に蓄積し、老人斑を形成します。

最近の研究により、
通常のアミロイドβより2個アミノ酸の多い、
アミロイドβ42という変性アミロイドβ蛋白質が、
互いにくっつきやすい性質を持ち、
それが固まることで排泄されずに、
組織に沈着することが分かりました。

アミロイドβ42が凝集し蓄積すると、
髄液のアミロイドβは減少します。
このため現時点で最も早くアルツハイマー病の始まりを診断する検査は、
髄液検査で髄液中のアミロイドβ42の減少を確認することです。

アミロイドβ42の蓄積から10年から15年が経過してから、
今度はリン酸化したタウ蛋白の蓄積が起こります。
(20年とする記載もあります)
異常にリン酸化したタウ蛋白が、
神経細胞内に蓄積し、
それに伴って神経細胞が死滅してゆきます。

アミロイドβ42の蓄積が始まってから、
最短で10年でタウ蛋白の蓄積が始まり、
それから更に15年くらいでようやく物忘れなどの症状が出現します。

つまり、
70歳で発症したアルツハイマー病の最初の変化は、
45歳くらいから既に始まっている、
ということが言えます。

このように、
認知症の症状があって、
アミロイドβの沈着を伴うような脳の変化があれば、
ほぼアルツハイマー型認知症として考えるのが現状の認識です。

タウ蛋白の蓄積自体は、
アルツハイマー型認知症以外でも、
高齢になれば生じることは知られていて、
高齢でゆっくり進行する物忘れなどの症状は、
アルツハイマー型認知症とは別個に、
高齢者タウオパチーと呼ばれていて、
神経原繊維変化型老年期認知症や、
嗜銀顆粒性認知症と病名が付けられています。

ところが…

アルツハイマー型認知症と臨床的に診断されている患者さんのうち、
実は少なからずが別の病気ではないか、
というのが今回の論文の内容です。
その比率は3分の1に達するのではないかという推測もあり、
もし本当であればこれまでの考え方が、
ひっくり返るような事態です。

その本態は、
TDP43という、
アミロイドβともタウ蛋白とも違う、
別個の異常タンパクが脳に沈着するという、
全く別の病気なのです。

これが大脳辺縁系優位型老年期TDP-43脳症、
略してLATEです。

TDP-43というのは、
認知症にもなることがある前頭側頭葉変性症や、
難病の筋委縮性側索硬化症において、
変性した神経細胞などに発現している異常タンパク質で、
その構造は2006年に同定されました。

神経変性疾患の一部は、
このTDP-43の沈着による病気であることが、
徐々に明らかになっているのです。

この中でアルツハイマー型認知症と臨床的には診断されていた事例や、
アミロイドβの沈着が生前に確認されていない老年期認知症の事例で、
死後の解剖所見により、
脳神経細胞にTDP-43が異常に沈着したケースが多く報告されました。

その所見には一定の傾向があり、
一部の事例は海馬の硬化症を伴っていて、
TDP-43の沈着は偏桃体から始まり、
海馬から前頭葉の中前頭回に広がるという特徴のあることが確認されました。
臨床的には比較的高齢発症で、
ゆっくりと進行する認知症の症状が生前に確認されており、
これを大脳辺縁系優位型TDP-43脳症と定義したのです。

TDP-43の同定以降に行われた解剖による病理所見の検討では、
80歳以上の年齢層で2割を超える事例に、
LATEを示唆する所見が認められています。
その多くは生前にはアルツハイマー型認知症と診断をされていました。
その生前のMRI所見は広範な脳萎縮を示し、
アルツハイマー型認知症と違いのない所見です。

ゆっくりと進行する高齢の認知症で、
アミロイドβの沈着が検査により確認されなければ、
従って高率にLATEの可能性が示唆されますが、
アミロイドβのマーカーが陽性であっても、
LATEでβアミロイドの蓄積も伴う事例もあるので、
その認知症の主体がどちらであるかは確実とは言えません。
アルツハイマー型認知症のリスクを高める遺伝子素因は、
同時にLATEのリスクであることも確認されていて、
このことからは、
両者が全く別の病気であるとも言い切れません。

現状明確に両者を鑑別するような検査や症状は見つかっておらず、
その生前診断のための方法の開発が、
今後緊急の課題であると思われます。

アルツハイマー型認知症の治療や研究は、
現時点でやや行き詰まりを見せていますが、
実はその裏にLATEの存在があるのでは、
というのが最も興味深い点で、
今後の研究の進捗を、
大きな興味を持って見守りたいと思います。

認知症についての考え方は、
おそらく今後大きく変わることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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電子タバコの肺疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
電子タバコの肺疾患リスク.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
電子タバコの吸引と関連した肺疾患の流行についての解説記事です。

アメリカで今大きな問題となっているもので、
日本でも対岸の火事とは言えないものです。

タバコの代替品として、
急速にその利用が広まっているのが、
非燃焼・加熱式タバコや電子タバコです。

非燃焼・加熱式タバコというのは、
葉タバコを燃焼させる代わりに、
加熱して吸引することにより、
その煙による害を和らげようという商品で、
基本的にはタバコとその性質は同じです。

一方で電子タバコは、
タバコに似た匂いのある液体を、
専用の器具で蒸気にして吸引するもので、
タバコとは基本的に別物です。
その液体には少量のニコチンが含まれている場合とない場合があり、
日本ではニコチンを含む商品は認められていません。

非燃焼・加熱式タバコに有害性のあることは、
間違いがありませんが、
電子タバコにどの程度の有害性があるのかについては、
まだ結論が出ていません。

2017年に日本呼吸器学会が発表した見解では、
非燃焼・加熱式タバコのみならず、
電子タバコも健康に悪影響がもたらされる可能性があり、
使用者から拡散するエアロゾルが、
周囲に悪影響を与える可能性があるので、
飲食店や公共の場所、公共交通機関での使用は認められない、
とされています。

ただ、その根拠がそれほど現時点で明確、
という訳ではなく、
禁煙治療に一定の有効性があるという報告もあり、
それを後押しするような意見もあります。

ところが…

直近の2ヶ月間にアメリカの30の州において、
電子タバコの吸引後に発症した、
450件を超える重篤な肺疾患の事例が報告され、
そのうち死亡事例も5件を超えています。

共通する症状は咳や呼吸困難や胸部痛ですが、
吐き気や嘔吐、下痢を伴う事例も複数報告されていて、
だるさや発熱、体重減少を伴う事例もあります。

こうした状況を踏まえてアメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)は、
原因がはっきりするまで電子タバコの使用を控えるように警告しています。

アメリカではニコチンを含む電子タバコも流通していますが、
報告はニコチンのあるなしに関わらず認められていて、
どうやら電子タバコによる肺臓炎などの症状は、
ニコチンなどのタバコ特有の成分とは、
無関係の現象という可能性が高いのです。

それでは危険ではない筈の電子タバコの、
一体何が病気の原因となっているのでしょうか?

1つの可能性は電子タバコの吸引器を利用して、
大麻由来の成分であるテトラヒドロカンナビノールや、
カンナビスオイルを吸引している人がアメリカでは多く、
それが影響しているという可能性があります。

もう1つ電子タバコに含まれている可能性のある成分のうち、
ビタミンEから得られる油であるビタミンEアセテートが、
吸引することにより有毒な影響を肺組織に与えるのではないか、
という仮説があります。

ただ、これもまだ実証されたものではありません。

いずれにしても、
電子タバコによる肺障害は日本においても起きる可能性は否定出来ず、
その使用はアメリカと同じように、
現時点では慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ソフトドリンクと死亡リスク(2019年ヨーロッパの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ソフトドリンクと死亡リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
ジュースなどのソフトドリンクを飲む習慣と、
生命予後との関連を検証した論文です。

砂糖などの糖質を含むジュースなどの甘い飲み物が、
血糖値を上昇させて肥満の原因となり、
糖尿病や心血管疾患のリスクとなって、
生命予後にも悪い影響を与えることは、
これまでにも複数の疫学データで指摘をされていて、
そうした健康リスクを背景に、
イギリスでは砂糖税が導入されていることは、
これまでにも話題にしたことがあります。

その代用品として広く出回っている、
カロリーのほぼない人工甘味料を、
砂糖やブドウ糖の代わりに使用した飲み物の健康リスクについては、
砂糖加糖飲料と比べればリスクが少ないことは、
ほぼ間違いがありませんが、
一定の健康リスクがあるのではないか、
というようなデータや意見もあり、
その使用には賛否があって一定の結論には至っていません。

今回の研究はヨーロッパの10カ国において、
451743名の一般住民を中間値で16.4年という長期の経過観察を行っています。

その結果、
1日にソフトドリンク(砂糖加糖飲料と人工甘味料を含む)を、
250ミリリットルは飲まない人と比較して、
1日500ミリリットル以上飲む人は、
総死亡のリスクが17%(95%CI: 1.11から1.22)有意に増加していました。
これを砂糖加糖飲料と人工甘味料飲料に分けて分析すると、
砂糖糖加飲料では総死亡リスクは8%(95%CI: .1.01から1.16)、
人工甘味料飲料では総死亡リスクが26%(95%CI: 1.16から1.35)、
こちらも有意に増加していました。

死亡原因を癌と血管系の病気、消化器系の病気、その他、
に分けて分析すると、
総死亡と同様の比較において、
砂糖加糖飲料は消化器系の病気による死亡のリスクを、
59%(95%CI: 1.24から2.05)、
他方人工甘味料飲料は血管系の病気による死亡のリスクを、
52%(95%CI: 1.30から1.78)、
それぞれ有意に増加させていました。

これまで報告されたデータにおいては、
概ね体重増加や肥満と関連が高く、
血糖値の上昇や内臓脂肪の増加との関連が、
指摘されることが多かったのですが、
今回のデータでは肥満と飲み物との関連は、
それほど明確ではなく、
体重増加とは別個のメカニズムが、
ソフトドリンクと死亡リスクとの間にはあることを示唆しています。

また、これまでのデータでは、
人工甘味料飲料の健康リスクは、
砂糖加糖飲料のリスクよりは低いことが殆どでしたが、
今回は意外なことに、
総死亡のリスクは人工甘味料飲料の方が高くなっていて、
死亡原因にも差が認められました。

これは1つの可能性としては、
体調の悪い人が健康を気にして、
砂糖加糖飲料を避けて人工甘味料飲料に乗り換えた、
というようなバイアスの影響も考えられますが、
ひょっとしたら人工甘味料の現在認識されていないリスクの発見に、
繋がる可能性も秘めているような気もします。

今後の検証と知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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成人のRSウイルス感染症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
RSウイルス.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に解説記事ですが、
成人のRSウイルス感染症についてまとめたものです。

RSウイルスは、
急性気管支炎や肺炎を起こす代表的なウイルスの1つで、
いわゆる「風邪症候群」の代表的な原因ウイルスでもあります。

その発見は1957年のことですが、
2016年以降新しい分類が適応され、
それ以前のパラミクソウイルス科から、
ニューモウイルス科、オルトニューモウイルス属に変更されています。

ただ、ネットなどの医療情報は、
日本語のウィキペディアを含めて、
大多数が古い分類のままの記載になっているようです。

1本鎖のRNAウイルスで11の遺伝子から構成され、
インフルエンザウイルスにも似通った構造で、
AとBという2つの血清型が存在しています。

特に1歳未満の年齢において重症化するため、
お子さんのみの感染症のように思われがちですが、
実際には全ての年齢層において、
風邪症状の原因ウイルスとなり、
インフルエンザと同じように、
高齢者や免疫不全のある患者、喘息や慢性気管支炎など、
肺の慢性の病気のある患者では重症化することが知られています。

その感染は、
北半球では主に冬の寒い時期に流行があり、
一方で熱帯地域では、
夏の雨季に流行があります。

日本でも以前はもっぱら冬のみの流行でしたが、
ここ数年は夏場の流行も見られていて、
気候変動の影響を伺わせています。

RSウイルス感染症には、
インフルエンザ感染症と同じように、
鼻の奥の粘膜から綿棒で検体を取って、
5分程度で診断が可能な迅速診断のキットがあり、
日本の臨床でも広く使用されています。

ただ、健康保険の適応となるのは、
主に入院患者と1歳未満の乳児のみですから、
外来で大人の患者さんにこの検査をすることは、
実際にはあまりありません。

迅速診断は症状が出現してから2時間以内に陽性化するので、
インフルエンザの迅速診断と比較すると、
より早期の診断が可能です。
ただ、上記の記事にはその感度は23から74%と記載されていて、
その信頼性はそれほど高いものではありません。
キットも改良は加えられていると思いますから、
この数値より感度も上がっているとは思われますが、
インフルエンザのキットと比較しても、
その感度は低いということは、
押さえておく必要はありそうです。

いずれにしても、
インフルエンザと比較して診断自体がされないというのは、
これは海外でもそうした傾向はあり、
成人のRSウイルス感染症は軽症という先入観があるので、
あまり検査はされずに「風邪」として処理されることが多いのです。

しかし、
治療を要する急性の呼吸器感染症のうち、
RSウイルスを原因とするものは12%に上るという報告もあります。

ある疫学データにおいては、
同時期にインフルエンザやヒトメタニューモウイルスより、
RSウイルスによる入院の事例の方が多かった、
という結果が報告されています。

ただ、小児と比較して重症の事例が少ないことは事実で、
感染者のうち入院が必要となるのは1%未満とされています。
その一方で成人の感染事例で症状がないのは5%未満とされていて、
RSウイルスに感染すると、
風邪症状はほぼ間違いなく出現するけれど、
それが重症化されることは少ない、
というのが実際であるようです。

ウイルスの性質として、
RSウイルスは下気道を含む気道の表面のみで増殖し、
軽度のダメージを与えるだけなので、
感染される人間の側に大きな問題がなければ、
その感染は軽い咳や痰などの症状のみで軽快します。

高率に肺炎や気管支炎を起こすのは、
高齢者などで免疫機能が低下していたり、
心不全や喘息、慢性気管支炎など、
心臓や肺の病気を持っているような状態に限られているのです。

RSウイルスは基本的にAとBの2種類の血清型しかなく、
その両者の免疫が維持されれば、
感染することはありません。
しかし、実際に感染しても抗体は高いレベルでは維持されず、
成人では1年以内には再感染すると考えられています。
子供でも大人でも繰り返し感染するのがRSウイルスで、
大人が軽い感染で済むことが多いのは、
免疫があるからではなく肺の機能などの違いによっているようです。

現時点で確実にRSウイルス感染症を予防するような方法はありません。

有効なワクチンの開発は成功していません。

RSウイルスに対するモノクローナル抗体として、
パリビズマブ(シナジス)が感染の重症化予防のために使用されています。
日本においては2002年から、
早産児と気管支肺異形成症を対象として使用が認可され、
現在では先天性心疾患や免疫不全症、
ダウン症候群と適応が拡大しています。

また、抗ウイルス剤であるリバベリンの吸入が、
海外では使用されていますが、
現状日本では保険適応はありません。

こうした治療は現時点では小児に限定したものですが、
成人にも有効な可能性はあります。

ただ、その明確な有効性は確認されておらず、
その使用は世界的にも推奨はされていません。

このように、
感染症としては成人でも重要でかつ重症化も多いRSウイルス感染症ですが、
その治療や予防の適応など、
整備されるべき問題点は多く、
今後成人においても、
有用なガイドラインの作成が必要だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺機能低下症の治療と予後との関係(2019年イギリス疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺機能と生命予後.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
甲状腺機能低下症の患者さんの治療経過とその長期予後についての論文です。

この分野においては、
とてもとても重要なデータであると思います。

甲状腺機能低下症の多くは橋本病で、
TSH(甲状腺刺激ホルモン)の数値が10mIU/Lを超えるような場合に、
甲状腺ホルモン剤(通常T4製剤)による補充療法が推奨されます。

高度の甲状腺機能低下症は心臓病のリスクになり、
生命予後にも悪影響を与えることが、
これまでの疫学データから推測されているからです。

この場合治療の目標は、
甲状腺機能を正常範囲に保つことです。

具体的にはTSHを0.4から4.0mIU/Lに維持することが、
国際的な甲状腺のガイドラインにおいて推奨されています。

ただ、これはかなり幅のある数値です。

この範囲にあれば、
本当に患者さんの予後には差がないのでしょうか?

こうした疑問が生じるのは、
TSHが基準値内であってもやや高めであったり、
やや低めであることが、
生命予後や心臓病の予後に、
影響を与えることを示唆する疫学データが存在しているからです。

ただ、これまでのそうしたデータは、
甲状腺ホルモン剤による治療の事例は除外していたり、
含まれていても明確に区別をされていないものが殆どで、
逆に治療中のデータに関しては、
特定の甲状腺専門病院の単独施設のデータが多く、
それを一般化することは難しいのが実際でした。

今回の研究はイギリスのプライマリケアの電子データを活用したもので、
甲状腺機能低下症で治療をされている、
トータル162369名の患者さんの、
のべ863072回のTSH測定データが対象となっています。

TSHが2から2.5mIU/mLを基準にすると、
TSHが10mIU/mLを超える状態では、
心血管疾患の発症リスクは18%(95%CI: 1.02から1.38)、
心不全の発症リスクは42%(95%CI: 1.21から1.67)、
それぞれ有意に増加していました。

TSHが抑制されていると、
心不全のリスクは低下するという関係が見られ、
TSHが0.1から0.4では24%(95%CI: 0.62から0.92)、
TSHが0.1未満では21%(95%CI: 0.64から0.99)、
それぞれ有意に低下が認められました。

総死亡のリスクについては、
TSHが基準値以上でも以下でもリスクの増加が見られ、
TSHが0.1未満では1.18倍(95%CI: 1.08から1.28)、
TSHが4から10では1.29倍(95%CI: 1.22から1.36)、
TSHが10を超えていると2.21倍(95%CI: 2.07から2.36)、
それぞれ有意な増加が認められました。

骨折リスクについては、
TSHが10を超える時のみ、
15%(95%CI: 1.01から1.31)と増加が認められました。

このように、
TSHの基準値を2から2.5と設定すると、
現状の目標値である0.4から4の間であっても、
場合によっては有意な心疾患などのリスクの増加が認められました。

従来はTSHの抑制が良くないとする知見が多かったのですが、
今回の検証においては、
軽度の抑制はむしろ心不全には予防的に働いていて、
生命予後により大きな影響を与えていたのは、
TSHが0.1未満よりも4以上という軽微な上昇の方でした。

つまり、トータルに考えて、
TSHは4を超えないようにコントロールし、
0.1から0.4程度のTSHの抑制は、
患者さんの予後に大きな影響を与えない、
とそう考えて良いようです。

この結果はこれまでのガイドラインなどの記載とは、
少し乖離のあるものですが、
個人的にはこの結果は臨床的な経験からもしっくり来るもので、
甲状腺機能低下症の患者さんにおける甲状腺機能は、
軽微な機能亢進より、
軽微な機能低下をより病的状態と認識する、
という考え方が適切であるように思いました。

あまり言えませんが、
矢張り甲状腺専門施設の単独データは、
国内外を問わずあまり信頼のおけるものではないな、
というのが個人的な見解です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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亜鉛濃度と脳卒中リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
亜鉛濃度と脳卒中リスク.jpg
2019年のStroke誌に掲載された、
血液の亜鉛濃度と脳卒中リスクとの関連を検証した、
中国の研究者による疫学データの論文です。

亜鉛は身体の健康を保つために必須のミネラルで、
貝類、魚、肉などに多く含まれ、
その欠乏は味覚障害や皮膚炎、脱毛や下痢など、
多くの症状の原因となり、
また免疫力の低下などを招くことも知られています。

身体で働く多くの酵素は、
亜鉛が欠乏するとその働きが低下するため、
そのことが亜鉛欠乏による健康影響の、
大きな原因であると考えられていますが、
その詳細は不明の点も多いのが実際です。

2018年には日本の研究者が、
生体の炎症や酸化ストレスなどの調整に、
重要な役割を果たしている細胞外ATP代謝が、
亜鉛の欠乏により影響を受けるのでは、
という仮説の元に、
ネズミの動物実験と培養細胞を用いた実験によって、
その関与を検証し、
一定の関連があるとの報告を論文化しています。
ただ、現状はこうした知見は仮説の域を出ていないものです。

これまでに心血管疾患や感染症など、
多くの病気が亜鉛の欠乏により起こりやすくなる、
というように考えられています。

ただ、その影響がどの程度であるかについては、
あまり精度の高いデータが存在していないので、
明確ではありませんでした。

今回の研究では中国において、
脳卒中の一次予防に関わる臨床試験のデータを活用して、
亜鉛濃度と脳卒中の発症リスクとの関連を検証しています。
599件の脳卒中の患者さんを、
年齢などをマッチングさせたコントロールと比較しています。
(a Nested Case-Control Study)

亜鉛濃度は一般住民の中央値である106.9μg/dL以下であるか、
より高いかで2分しての比較を主に行なっています。
ちなみに明確に亜鉛欠乏と判断されるのは、
日本では60から80μg/dL未満の時とされています。

中央値で4.5年の経過観察において、
新規発症の出血性梗塞のリスクは、
亜鉛濃度が標準以下と比較して、
標準以上では55%(95%CI: 0.21から0.94)有意に低下していました。
一方で虚血性梗塞についてはそうした関連は認められませんでした。
この亜鉛による出血性梗塞の予防効果は、
BMIが25.0以上の過体重で、血液の銅濃度が低値であると、
より高くなる傾向が認められました。

このように亜鉛濃度が低いことは特に肥満の患者において、
出血性梗塞のリスクになることが推測されました。
銅の低値との関連は、
過剰な亜鉛が銅の排泄を促すなどの関係から、
こじつけは出来ますがたまたまの所見であるかも知れません。

これはまだ検証の必要な知見ですが、
亜鉛の欠乏が色々な病気のリスクに関連していることは事実で、
今後より厳密な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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菜食主義は健康的なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
菜食主義と心血管疾患リスク.jpg
2019年のBritishMedicl Journal誌に掲載された、
菜食主義などの食事パターンと心血管疾患リスクとの関連についての論文です。

食事が生活習慣病と関連が強いことは、
これまでの多くの疫学データにおいて確認された事実です。

ただ、病気によってはある食事習慣が、
そのリスクを増やしたり減らしたり、
ということはあるものの、
その個別のデータは結構食い違っているので、
ある食品はAという病気の予防にはなるけれど、
Bという病気にはむしろリスクになる、
というようなこともあって、
その解釈はそう単純ではありません。

代表的な食事習慣として、
菜食主義があります。

菜食主義のダイエットは肉や魚のような、
生き物の肉を食べないというもので、
宗教的なバックボーンなどのあるものもありますし、
単純に趣味嗜好の問題、という性質のものもあります。

また、ヴィーガンダイエット(vegan diet)というダイエットがあり、
これは一種の菜食主義なのですが、
より厳密な考えによっていて、
肉、魚、卵、乳製品は一切摂らない、というものです。
そうなると、蛋白源の主体は、
豆類ということになり、
脂質は植物系の油やナッツから、
ということになります。

こうしたダイエットは純粋に医学的な観点から見た時、
どのような影響や効果があるのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
心血管疾患の既往のない一般住民トータル48188名を、
その食習慣から3つのグループに分けています。

第1群は肉を食べる習慣のある24428名、
第2群は魚は食べるが肉は一切食べない7506名、
そして第3群はヴィーガンダイエットを含む菜食主義者で、
肉も魚も一切食べない16254名です。

18.1年を超える長期の経過観察期間において、
肉を食べるダイエットと比較して、
魚を食べるが肉は食べないダイエット群では13%
(95%CI:0.77から0.99)、
菜食主義群では22%(95%CI: 0.70から0.87)、
虚血性心疾患のリスクは有意に低下していました。

その一方で脳卒中に関してみると、
肉を食べるダイエットと比較して、
菜食主義群では20%(95%CI: 1.02から1.40)、
脳卒中の発症リスクは有意に増加していました。
その大部分は出血性梗塞によるものでした。

このように菜食主義は虚血性心疾患のリスクは低下させる一方、
脳卒中特に出血性梗塞のリスクは増加させる可能性があり、
純粋に医学的見地から考えると、
少し動物性の蛋白も取り入れた食事をした方が、
トータルには健康上のメリットに繋がりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スタチンの肝細胞癌予後改善作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンと肝細胞癌.jpg
2019年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
高コレステロール血症の治療薬と、
肝臓の癌のリスクとの関連についての論文です。

B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの慢性肝炎は、
肝硬変のリスクになると共に、
肝細胞癌のリスクになります。

一旦線維化を伴う状態になると、
その後にウイルスを除去することに成功しても、
肝細胞癌のリスク自体は長期間持続します。

現状その時点での有効な予防法は確立していません。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血液のLDLコレステロール値を低下させる薬ですが、
それに加えて抗炎症作用や一部の癌の増殖抑制作用などが報告されていて、
慢性ウイルス肝炎による肝細胞癌においても、
その発症予防や予後の改善に、
一定の有効性が認められたとする報告があります。

ただ、この作用が全てのスタチンに共通するものなのか、
それとも一部のスタチンのみに認められるものなのか、
そうした点については明確なことが分かっていません。

スタチンには大きく分けると、
水溶性と脂溶性の2種類があります。
今使用されているものの中では、
水溶性スタチンがプラバスタチンとロスバスタチンで、
脂溶性スタチンがアトルバスタチン、シンバスタチン、
フルバスタチン、ロバスタチンです。

今回の研究は国民総背番号制を敷いているスウェーデンにおいて、
63279名のB型もしくはC型肝炎ウイルスによる、
慢性ウイルス性肝炎の患者さんトータル63279名を対象に、
そのうちスタチンを使用開始した8334名を、
年齢などの条件をマッチングさせた8334名と対比させて、
スタチンの使用とその後の肝細胞癌の発症リスクと予後との関連を検証しています。

スタチンはスウェーデンでは、
シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンが、
もっぱら使用されているため、
この4種類が対象となっています。
このうちシンバスタチンとアトルバスタチンが脂溶性です。

算出された10年の肝細胞癌リスクは、
脂溶性スタチンの使用者が8.1%に対して、
非使用者が3.3%で、
脂溶性スタチンの使用はその後の肝細胞癌発症リスクを、
44%(95%CI: 0.41から0.79)有意に低下させていました。
その一方で水溶性スタチンの使用と肝細胞癌リスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
肝臓関連の死亡リスクについても、
脂溶性スタチンの使用はそのリスクを、
24%(95%CI: 0.50から0.92)有意に低下させていました。

このように今回の疫学データにおいては、
脂溶性スタチンにおいてのみ、
スタチンの使用は慢性ウイルス性肝炎の患者さんにおける、
肝細胞癌のリスクを減少させていました。

そのメカニズムは現時点では明確ではありませんが、
脂溶性スタチンの方が肝細胞への組織移行は、
水溶性スタチンより良く、
それが関連している可能性などが想定されています。

今後そのメカニズムを含め、
肝細胞癌予防におけるスタチンの有効性が、
検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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禁煙と心血管疾患リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
禁煙と心血管疾患リスク.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
禁煙のその後の心血管疾患リスクへ与える影響を解析した論文です。

喫煙は肺癌などの癌や、
慢性閉塞性肺疾患などの肺の病気、
そして心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを増加させ、
その結果として生命予後を悪化させます。

禁煙はそうしたリスクを軽減させることに、
一定の効果のあることも確認されています。

ただ、「禁煙をすると20年で肺は元の状態に戻る」
というような意味の記載を見掛けることがありますが、
これは主に肺癌のリスクについてのデータを元にしています。

2000年のBritish Medical Journal誌に有名な論文があって、
これによると、
60歳で禁煙した場合に、
75歳までの肺癌による死亡リスクが、
しない場合の15.9%から9.9%にまで抑制される、
というような疫学データが示されています。

つまり、こうしたデータから、
60歳の年齢で禁煙することも、
肺癌の予防に一定の意義がある、
ということが示唆されるのです。

しかし、これは基本的に肺癌の死亡に限ったデータです。

喫煙の継続により、
心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患のリスクが増加することは、
ほぼ間違いがありませんが、
高齢者におけるそのリスクと、
禁煙の実際的な効果については、
これまでにあまり精度の高い研究結果が存在していません。

以前ブログ記事でもご紹介した、
2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、
これまでの25の疫学データをまとめて解析した結果として、
禁煙をしても心血管疾患のリスクはまだ高い状態が続き、
生来の非喫煙者と同じになるのは、
20年くらい経過してからだ、
という結果になっています。

ただ、これは多くの条件の違うデータの寄せ集めですから、
その点の限界はあります。

この問題が意外に重要であるのは、
5年から10年の心血管疾患のリスクの推測が、
生活習慣病の治療指針において、
常に大きな比重を占めているからです。

そのリスクの大小によって、
治療が選択されてしまうのです。

その算定法には多くの種類がありますが、
世界的にも評価されているある方法では、
その時点で喫煙をしていなければ、
禁煙して間もない人でも、
そのリスクは非喫煙者と同じとして、
計算がされていますし、
別の算定スケールにおいては、
禁煙から5年以上経過していれば、
非喫煙者と同等として計算がされています。

しかし、2015年の論文の結果が事実であるとすれば、
その計算スケールは明らかに誤りということになります。

今回の研究では、
アメリカの最も有名な疫学研究である、
フラミンガム心臓研究のデータを活用して、
喫煙者が禁煙をすることによる、
心血管疾患のリスクの推移を検証しています。

その結果、
心血管疾患のリスクは、
喫煙者が禁煙すると5年以内に現在の喫煙者より有意に低下しますが、
非喫煙者と比較すれば高い状態が少なくとも5から10年は続き、
それが非喫煙者と同じになるには、
25年が掛かると推計されました。

このように今回の単独の疫学データの解析において、
これまで考えられていたより長期間、
禁煙後もこそれまでの喫煙の影響が残るという結果の意義は大きく、
今後も知見の積み重ねにより、
現状より正確な心血管疾患リスクの推計が、
なされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧の年齢による変化と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧の年齢による変動と認知症リスク.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
血圧の経年的な変動と認知症リスクとの関連についての論文です。

中年期(概ね40代から60代前半くらい)における、
高血圧や肥満などの心血管疾患のリスクが、
その後の認知症の発症に結び付いている、
というのは、
これまでの多くの疫学データにおいて、
ほぼ一致した事実です。

ただ70代以上の年齢における血圧値が、
認知症の発症や進行とどのように関連しているのか、
という点についてはまだ一致した結論に至っていません。

そこで今回の研究では、
アメリカの4つの地域において、
登録の時点で45から65歳の一般住民、
トータル15792名を登録し、
24年に渡る長期の経過観察を行なって、
その時点の血圧値と認知症リスクとの関連を検証しています。

血圧値は安静時に2回測定して平均し、
収縮期血圧が140mmHg以上、
もしくは拡張期血圧が90mmHg以上を高血圧と定義し、
収縮期血圧が90mmHg未満、
もしくは拡張期血圧が60mmHg未満を低血圧と定義しています。

登録時点の45から65歳を中年期と定義し、
観察期間の後半、年齢が66歳から90歳での測定を老年期と定義しています。

最終的に解析が可能であった4761名中、
11%に当たる516名が観察期間の後半で認知症と診断されています。

この研究においては、
アルツハイマー型や脳血管性などの、
認知症のタイプの分類はされていません。

ここで中年期から老年期の全期間において正常血圧であった人と比較して、
全期間において高血圧であった人は、
認知症の発症リスクが1.49倍(95%CI: 1.06から2.08)、
中年期では高血圧で老年期には低血圧に移行した人は、
認知症の発症リスクが1.62倍(95%CI:1.11から2.37)、
それぞれ有意に増加していました。
老年期の血圧値には関わらず、
中年期の高血圧はその後の認知症リスクを、
1.41倍(95%CI:1.17から1.71)有意に増加させていました。

このように、
これまでの知見と同じように、
中年期の高血圧は単独でその後の認知症リスクを高めていました。
そして、今回新たな知見として、
中年期は血圧が高く、老年期では低血圧になった人は、
老年期に高い人より認知症リスクが高くなっていました。

何故高齢者の低血圧は認知症のリスクになるのでしょうか?

これは2つの可能性があります。

その第一は認知症の前段階における脳の神経細胞の機能低下が、
何らかのメカニズムにより血圧の低下を招いていて、
それが低血圧の原因になっているのでは、
という考え方です。

この場合低血圧は認知症の原因ではなく、
むしろ結果です。

この考え方を支持する知見として、
これまでにも認知症の症状が出現する前に、
血圧の低下が認められるという報告があります。
また、今回のデータにおいて、
認知症の前段階と思われる軽度認知障害のリスクは、
中年期の高血圧と老年期の低血圧の組み合わせでのみ増加した、
という知見が得られています。

一方で老年期の低血圧が認知症の誘因となっているのでは、
という見解もあります。

高齢者の高血圧治療により、
若い人と同じように血圧を低下させると、
脳の調節機能が低下しているので脳血流が低下し、
それが脳の神経細胞にダメージを与えて、
認知症の進行に結び付くのではないか、
という考え方です。

高齢者で降圧治療をするとむしろ認知症が増えた、
という臨床データがあり、
この知見はこの考え方を支持しています。
ただ、最近の大規模臨床試験であるSPLINT試験においては、
高齢者においても血圧をより低下させた方が、
認知症のリスクも低下した、
という逆の報告もあり、
この点に関してはまだ結論に至っていません。

いずれにしても長期の血圧観察により、
これまでにあまり類のない知見の得られた意義は大きく、
今後このデータの分析や新たな知見の蓄積が、
認知症予防につながることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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