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プロトンポンプ阻害剤は命を縮める薬なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PPIの寿命短縮効果.png
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬の、
高齢者使用と生命予後についての、
かなりショッキングな論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
そして骨粗鬆症のリスクの増加が確認されています。

その一方でそのリスクは否定は出来ないものの、
確実とも言い切れない有害事象もあり、
肺炎や一部の癌、認知症リスクの増加などが報告されています。

それでは、こうした多くの有害事象は、
トータルに見て使用する患者さんの生命予後に、
影響を与えているのでしょうか?

砕いた言い方を敢えてすれば、
プロトンポンプ阻害剤を常用していることで、
命が縮むようなことはないのでしょうか?

今回の研究はその点を明らかにしようとしたもので、
アメリカの退役軍人の大規模な疫学データを活用して、
新規にプロトンポンプ阻害剤を開始した157625名を、
H2ブロッカーを使用している56842名を比較して、
その生命予後を死因毎に検証しています。

中間値で10年の観察期間において、
H2ブロッカーと比較したところ、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
患者1000人当たり45.20人の過剰死亡が、
認められると計算されました。
この過剰死亡のうち38.65%は循環器疾患により、
28.63%は癌により、13.83%は泌尿生殖器疾患により、
9.29%は感染症及び寄生虫疾患による死亡でした。

死因毎の解析によると、
プロトンポンプ阻害剤の使用は、
心血管疾患や慢性腎臓病による過剰死亡と関連が認められました。

このように、かなりショッキングなデータですが、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
明確に生命予後の悪化が認められたことは、
控え目に言っても重く受け止めるべきで、
特に高齢者への半年を超えるような長期の使用については、
その有効性が確実と判断される事例に限って、
必要最小限の期間において使用するべきものなのだと思います。

ただ、念のため補足しますが、
現在プロトンポンプ阻害剤を継続的に使用されている方は、
主治医に無断で服薬を中断されるようなことはされないで下さい。

今回のデータにおいても、
実際には生命予後のリスク増加の程度はそれほど大きなものではなく、
プロトンポンプ阻害剤は多くの疾患において、
消化管出血などの予防効果は確立した薬でもあるからです。

要は不要な投薬が高齢者において、
漫然と長期行われることが問題である訳で、
その点はどうか誤解のないようにして頂きたいと思いますし、
不安に思われた方はまずは主治医にその点をご相談して頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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