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糖尿病のレガシー効果は本当か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
レガシー効果.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
血糖コントロールの「レガシー効果」を検証した論文です。

レガシー効果(Legacy Effects)というのは、
この場合糖尿病のコントロールをある時期厳密に行うと、
その影響がコントロールを緩めても長期間持続する、
という現象のことです。

血糖値をたとえば5年間、
徹底して薬剤や生活指導でコントロールして、
糖尿病のない人と同じ状態にしておくと、
その後の血糖値はより上昇しても、
そうした厳密なコントロールの期間のない患者さんと比較して、
心血管疾患のリスクや生命予後にも良い影響が持続する、
という現象です。

この糖尿病の領域におけるレガシー効果が、
実際にあるのかどうか、という点については、
まだ結論が出ていません。

何度か今までにも紹介していますが、
血糖コントロールをより厳しくして、
理想的にはほぼ正常の血糖値を実現すれば、
糖尿病の長期合併症として最も問題となる、
心血管疾患のリスクが糖尿病のない人と同じかそれに近くなるのでは、
という考え方があり、
それに基づいて通常の血糖コントロール(概ねHbA1cを7.5%以下にするのが目標)と、
より厳密な血糖コントロール(HbA1cを6%未満にすることを目標)と比較する、
大規模臨床試験が複数実施されました。

しかし、ほぼ全ての試験において、
厳密なコントロールを行なっても、
通常の治療と比較して、
心血管疾患のリスクや生命予後に、
明らかな改善は認められませんでした。
むしろ、生命予後は悪化する、
というような結果すらあったのです。

この原因は全て明らかになっているという訳ではありませんが、
人為的に血糖を下げることによる、
低血糖の発生などの影響があると想定されています。

ただ、その一部の臨床試験の追跡調査において、
厳密な治療を行なった期間には差がつかなかったものの、
治療後の追跡期間においては、
厳密にコントロールした方が予後が良かった、
という結果が報告されたのです。

これは厳密なコントロールを一定期間行ったことによる、
血管などへの良い影響が、
その後の血糖は上昇しても、
遺産(レガシー)のように残っている、
という可能性を示唆するものです。

たとえば、1型糖尿病の患者さんを対象とした、
DCCTと呼ばれる大規模臨床試験の追跡結果では、
厳密なコントロール期間の終了後に、
心血管疾患のリスクに差が付いています。

また、新たに2型糖尿病と診断された患者さんを対象とした、
UKPDSというイギリスの大規模臨床試験の追跡結果では、
こちらも心血管疾患リスクと生命予後に、
厳密なコントロールは終了した時期において、
有意な差が見られています。

その一方でACCORD試験やADVANCE試験という、
比較的重症で高齢の患者さんを対象とした同様の臨床試験においては、
このレガシー効果は認められていません。

今回の研究は、
アメリカの退役軍人の2型糖尿病の患者さん1791名を対象として、
通常の血糖コントロールと厳密なコントロールの効果を、
中間値で5.6年の治療期間で比較した、
VADTと呼ばれる臨床試験の追跡調査の結果をまとめたものです。

この試験はその診断から平均で11.5年が経過した、
比較的高齢で罹病期間の長い患者さんを対象している点がその特徴です。

治療強化期間においては、
矢張り治療を厳密にしても予後には差がなかったのですが、
10年(治療強化期間を含む)の追跡調査の結果では、
強化治療群で約17%、
通常治療群より心血管疾患リスクの低下が認められました。

つまり、レガシー効果の可能性が期待されたのです。

今回の検証はより長期、15年の観察期間での結果をまとめたものです。

その結果、
15年の観察期間においては、
心血管疾患のリスクや死亡リスクにおいて、
強化コントロールと通常コントロールとの間で、
有意な差は認められませんでした。

つまり、レガシー効果は今回は否定されたのです。

どうやら、
糖尿病になってまだ間もない時期においては、
HbA1cを6%未満にするような強化コントロールを、
一定期間続けることにより、
より高齢になってコントロールを緩めても、
その影響は持続する可能性が高いのですが、
罹病期間が長く心血管疾患を発症しているようなケースでは、
むしろ血糖コントロール自体は緩めて、
血圧や脂質、禁煙など、
他の心血管疾患の予防策に軸足を移した方が、
効果が見込める可能性が高いようです。

若年の糖尿病の患者さんには極力厳密なコントロール、
高齢になったら、むしろ低血糖に気を付けてコントロールを緩め、
心血管疾患のリスクを低下させるという報告のある、
GLP1アナログやSGLT2阻害剤の使用に力点を置くことが、
現状はベターな選択と言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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