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脊髄損傷に対する間葉系幹細胞の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
間葉系幹細胞と脊髄損傷.jpg
2019年のJournal of Neurotrauma誌の論文ですが、
治療法のなかった脊髄損傷に対して、
間葉系幹細胞を大量に注射することにより治療するという、
世界初のこの分野の再生治療として、
今非常に話題になっている知見に関わるものです。

2019年の2月に、
脊髄損傷治療用の自己骨髄間葉系幹細胞「ステミラック注」
の薬価収載が決定しました。
1回分の薬価が1500万円弱という、
ビックリするような高額の注射薬です。
これが条件付きで健康保険の適応となったのです。

この薬を1回使用するだけで、
1000万円以上の健康保険料が使用されることになる訳です。
(実際には高額医療の還付があるので公費負担は更に大きい)

勿論画期的な治療にお金が掛かるのは当然のことなのでしょう。

それは理解出来ます。

脊髄損傷というのは本当に深刻な事態ですから、
この治療によりその回復が望めるのだとすれば、
むしろ安いと言えるのかも知れません。

ただ、正直医療費が危機的だ、
薬は皆ジェネリックにしろ、
不要な治療はするな、検査もするな、
と毎日言われ続けて仕事をしている身としては、
何となくモヤモヤする気分になることも事実です。

こうした治療がこれから沢山行われるようになるのでしょ?

今のシステムでそれが本当に可能なのですか?

そんなことは不可能ではないでしょうか?

ない袖は振れないのではないですか?

個人的な意見としては、
こうした高額医療は、
これまでの健康保険の枠組みとは、
別個の枠組みで処理するようにするべきだと考えます。

そうでないと医療費が危機的である原因が何処にあるのか、
全く分からないような事態になってしまいます。

別個にファンドみたいなものを作って、
そこから拠出するべきではないでしょうか?

そうしないのは、
これで健康皆保険の制度が崩壊しても、
「仕方ないでしょ」という言い訳を用意しているようにしか、
僕には思えません。

この治療は最近NHKスペシャルで、
「奇跡の治療、夢の治療、驚異の治療」のように取り上げられて、
大きな話題となりました。

NHKは本当に懲りないですよね。

いや、勿論この再生治療自体を批判したいということではないのです。

これは勿論素晴らしい治療なのだと思います。(多分ね)

ただ、どうしてNHKのこの番組は、
まだその効果が実証されていないような治療を、
いつもいつも「奇跡」とか「夢」とか「驚異」などと、
扇情的な表現で飾り立てて紹介するのでしょうか?

この前確か取り上げたのは、
認知症の新薬でしたよね。

あれは今どうなっていますか?

殆ど全て頓挫していますよね。

もっと前にSSRIが日本で発売される前には、
「夢の薬」として取り上げたのではないかしら。

あれは有用な薬ではありますが、
決して「夢の薬」などではなかったですよね。

こうした扇情的な取り上げ方で、
患者さんが利益を得ることがあったでしょうか?

なかったとは言いません。
でも、不利益を被ることの方が、
ずっと多かったのではないでしょうか?

そして今回ですが、
非常に高価な治療が、認められた後というタイミングで、
単独施設でしか行えないという状況の中で、
「夢の治療」として取り上げるのは、
如何にもきな臭い、何かの意図を感じてしまうのは、
うがち過ぎでしょうか?

すいません。
ちょっと余談が長くなり過ぎました。

この治療はどういうものかと言うと、
脊髄損傷のように神経が大きく障害された病態の急性期に、
骨髄の中にあって血液や神経に分化する性質を持つ間葉系幹細胞を、
自家培養して増やすと、
それを点滴で身体に戻してやるだけです。

それによって神経の再生が促されて症状が改善すると言うのです。

こうした考え方は癌治療では色々と試みられています。

ただ、特定の細胞を培養して戻すという方法については、
簡便である反面、
あまり着実な効果には結び付かない、
という考え方が多いように思います。

釈然としないのは明確なロジックがあるということではなく、
色々な未分化な細胞を試してみたところ、
間葉系幹細胞で上手く行った、という感じの流れで、
後付けで色々と理屈を付けているように思われるところです。

上記論文においては、
注入された幹細胞が、
障害された局所ばかりではなく、
ネズミの脳の運動野において、
神経系細胞の機能回復に作用している遺伝子の発現が、
増加していたというのです。

つまり、一回の注射をするだけで、
損傷部の神経再生が促されるのみならず、
中枢神経においても機能回復に繋がる活性化が起こる、
ということになります。

これがもし本当なら、
これこそ夢の治療であることは間違いがありません。

現状はただ、発表されている多くは動物実験で、
臨床試験においては著効例を含め、
13例中12例が有効と判断されたと記載されていますが、
まだ論文化はされていないようです。
これが第2相の臨床試験という位置づけで、
その時点でスピード承認されているのですから、
通常ではあり得ない早さです。

おそらく海外の需要なども見込んでいるのでしょうが、
この段階での薬価収載というのは、
如何にも早すぎるという気はします。

健康保険は火の車なのですから、
もう少し別の形での臨床研究の継続が、
あっても良かったのではないでしょうか。

そんな訳で色々と危惧の残る気がする今回の事態ですが、
患者さんに有効なのであればそれが福音であることは確かで、
この知見が果たして5年後にどのように展開しているのか、
冷静に待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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