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5α還元酵素阻害剤と2型糖尿病リスク(台湾の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
5α還元酵素阻害剤と糖尿病.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
前立腺肥大症の治療薬と2型糖尿病との関連についての論文です。

5α還元酵素は、
主に男性ホルモンのテストステロンを、
より作用の強い代謝産物である、
ジヒドロテストステロンに代謝する酵素で、
1型と2型の2つの種類があります。

このうち1型は全身の皮脂腺などに分布し、
2型は前頭部の皮膚や前立腺などに限局して発現している、
とされています。

この酵素をブロックすることにより、
局所の男性ホルモンの作用が減弱します。

その作用を利用した薬が、
5α還元酵素阻害剤です。

何故男性ホルモンの作用を、
弱めるような薬のニーズがあるのかと言えば、
その目的は主に2つです。
その1つは男性ホルモン反応性の組織である前立腺が、
病的に肥大する前立腺肥大症の治療で、
もう1つは男性型の脱毛症の治療です。

現在日本で使用されている5α還元酵素阻害剤には、
フィナステリドとデュタステリドの2種類があります。
このうちフィナステリドは、
1日最大で1ミリグラムという低用量で、
男性型脱毛症の治療薬として使用されています。
商品名はプロペシアなどです。
このフィナステリドは酵素の2型のみの阻害剤です。
一方のデュタステリドは、
より効果が強く1型と2型両方の酵素の阻害剤で、
1日0.5ミリグラムで前立腺肥大症の治療薬として使用され、
今年になって男性型脱毛症にも適応が拡大されました。
前立腺肥大症の治療薬としての商品名はアボルブで、
脱毛症の治療薬としてはザガーロです。

さて、
テストステロンのみの代謝の阻害剤として、
5α還元酵素阻害剤は説明されることが多いのですが、
実はこの酵素は肝臓や脂肪細胞において、
ステロイドホルモンであるコルチゾールを、
作用の弱いジヒドロコルチゾールに、
分解する働きも併せ持っています。
より正確には1型の5α還元酵素は脂肪細胞と肝細胞の両方で発現していて、
2型の還元酵素は肝細胞でのみ発現しています。

仮にこの作用が肝臓と脂肪細胞でブロックされると、
コルチゾールは代謝されずに組織に留まり、
一種のステロイドの過剰状態が生じます。

それは果たしてどのような影響を、
人間の身体に与えるのでしょうか?

以前ご紹介したことのある健康ボランティアによる研究では、
12人の健康な成人男性のボランティアに、
デュタステリド1日0.5ミリグラム、
もしくはフィナステリド1日5ミリグラムを、
3週間継続的に使用して、
その前後で人工膵臓などの詳細な検査を行ない、
肝臓や脂肪細胞への影響を検証しています。

デュタステリドの使用量は、
日本で前立腺肥大症に使用されている量と同じで、
フィナステリドの使用量は、
海外での前立腺肥大症への使用量と同じです。

その結果、
フィナステリドの使用では、
代謝系への影響は軽微に留まりましたが、
デュタステリドを使用すると、
肝細胞のインスリン抵抗性が増加し、
インスリンの存在下において、
肝細胞はより多くの脂肪を蓄積しました。
そして、脂肪細胞においても脂肪の代謝が低下し、
より身体が脂肪を溜め込む方向に、
シフトしていることが確認されました。

つまり、1型の5α還元酵素が阻害されることにより、
肝臓でのインスリン抵抗性が増すとともに、
脂肪細胞においての脂肪の蓄積が促進され、
メタボの状態が進行する可能性が示唆されたのです。
このメカニズムは、
非アルコール性脂肪肝炎の発症にも、
関連している可能性が高いと考えられます。

それでは、実際に前立腺肥大症に対してこの薬を使用することで、
インスリン抵抗性が増して2型糖尿病が増加する、
というような影響が起こるのでしょうか?

今回の研究は、
イギリスと台湾のプライマリケアのデータベースを活用して、
前立腺肥大症にタムスロシン(ハルナール)
というα遮断剤を使用した場合と比較して、
デュタステリドもしくはフィナステリドの使用が、
その後の2型糖尿病の発症に与える影響を比較検証しています。

その結果、11年を超える長期の経過観察において、
イギリスと台湾のいずれの地域においても、
タムスロシンと比較して、
デュタステリドもしくはフィナステリドの使用は、
2型糖尿病の発症リスクを30%程度増加させていました。

ただ、ボランティアでの実験とは異なり、
デュタステリドとフィナステリドの使用に差は認められませんでした。

現状はまだ可能性のレベルに過ぎませんが、
特に糖尿病が既にあったり、
そのリスクが高いと想定される患者さんの場合、
5α還元酵素阻害剤の使用時には、
血糖悪化の可能性を想定して、
慎重な観察が必要と考えた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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