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ワクチン導入に伴う日本の肺炎球菌感染症の変化 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
日本の肺炎球菌感染症のサーベイランス.jpg
2018年のEmerging Infectious Diseases誌に掲載された、
日本における肺炎球菌ワクチン導入の、
入院を要するような重症の肺炎球菌感染症に与える影響を、
2010年から2016年の期間で検証した論文です。
慶應義塾大学などの研究チームによる研究です。

肺炎球菌は特に小さなお子さんや高齢者において、
肺炎や髄膜炎、敗血症などの重篤な感染症の原因となる細菌です。

その治療にはペニシリンなどの抗菌剤が有効ですが、
近年耐性菌の増加が大きな問題となっています。

そこで抗菌剤に頼らない重症肺炎球菌感染症
(侵襲性肺炎球菌感染症という用語が用いられます)
の予防のために使用されるのがワクチンです。

この肺炎球菌に対するワクチンには、
現行高齢者に使用されている、
ニューモバックスという商品名の、
23価肺炎球菌ワクチンと、
主に2歳未満の小児に接種されている、
プレベナー13(以前はプレベナー7)という商品名のワクチンがあります。

この2種類のワクチンにはどのような違いがあるのでしょうか?

ニューモバックスは、
その原型は1911年には既に存在していた、
非常に古い製法によるワクチンで、
23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン
と呼ばれています。
略してPPV23 です。

肺炎球菌は莢のような構造に包まれており、
その莢の成分により、
90種類以上の莢膜型に分類されています。

その型によってどのような病気になり易いかが概ね決まります。
また、大人に病気を起こし易い型もあり、
逆に大人には病気を起こし難く、
子供に病気を起こし易い型もあります。
更には日本で流行している型と、
海外で流行している型では、
若干の違いがあることも知られています。

ニューモバックスは、
そのうち肺炎や髄膜炎などの原因になり易い、
23の型を選んで、
その莢膜の成分をワクチンとしたものです。

その型を順番に並べると、
1、2、3、4、5、6B、7F、8、9N、9V、10A、11A、12F、14、15B、17F、18C、19A、19F、20、22F、23F、33F
ということになります。
基本的にはこの23種の型に対して、
ニューモバックスを一本打てば、
ある程度の予防が可能だ、
ということになります。

このワクチンの適応は、
原則2歳以上とされています。

現状の対象者は主に高齢者です。

それは何故でしょうか?

このワクチンは蛋白質を抗原としていません。
そのために、
T細胞というリンパ球による免疫は誘導せず、
IgM抗体という種類の抗体を、
上昇させる効果しか持ちません。

これはどういう意味かと言うと、
まずこのワクチンはブースター効果を持ちません。
つまり、ワクチンの効果が薄れた時点で、
肺炎球菌による感染が起こっても、
過去の感染を記憶していて、
より強い免疫反応が起こる、
というようなことはないのです。

従って、抗体が減少した時点で、
その効果は全くなくなりますし、
たとえば1ヶ月毎に接種を2回しても、
副反応が強くなることはあっても、
免疫の持続がそれにより長くなることはありません。

つまり、インフルエンザのワクチンのようなものとは、
基本的に性質が違うのです。

ワクチンというよりも、
免疫グロブリンを打つような治療に、
どちらかと言えばその効果は似ているかも知れません。

ただ、その代わり、打った場所の腫れ以外には、
重症の副反応は殆どありません。
ワクチン接種後に亡くなった、というような報告も、
このワクチンに関しては、
現時点で一切ありません。

免疫グロブリンの注射の効果は数ヶ月で消失しますが、
このワクチンにより誘導される抗体は、
4~5年はその有効性が確認されています。

このワクチンは更には粘膜の免疫は誘導しません。

肺炎球菌が定着するのは、
人間では主に鼻や口の粘膜です。

しかし、それを排除する力はこのワクチンにはなく、
従って、中耳炎や咽頭炎、副鼻腔炎などの予防効果はないのです。
このワクチンが効果を現わすのは、
あくまで肺炎球菌が大量に身体で増殖し、
貪食細胞が出動するような場合のみです。

2歳未満の子供では、
免疫系が未成熟のため、
このワクチンの誘導するような抗体を、
充分に産生出来ないことが分かっています。

従って、このワクチンは2歳未満の予防効果はないのです。

それでは、
高齢者に対してこのワクチンはどの程度の効果があるのでしょうか?

理屈から言えば、
有効性があるのは23種類のタイプの、
肺炎球菌の感染による肺炎のみです、
更には「菌血症性肺炎」と言って、
血液中に細菌が増殖し検出されるような、
特殊な重症のタイプの肺炎が、
その主なターゲットと考えられます。

これまでの観察研究のデータをまとめて解析した文献によると、
ニューモバックスは高齢者の菌血症を伴うような重症化した肺炎に対しては、
50%の予防効果を示しています。
その一方で全ての肺炎に対する予防効果や、
全ての肺炎球菌性の肺炎に対する予防効果は、
統計的に有意なものとは確認されていません。

ニューモバックスは肺炎の重症化予防に有効、
というのは、
主にこうした結果を元にした言説です。

それに対して、
2000年にアメリカで認可され使用が始まったのが、
プレベナーというワクチンです。

これは肺炎球菌多糖体蛋白結合型ワクチン
と呼ばれています。
最初に開発されたのは7価のもので、
PCV7と呼ばれています。

このワクチンは莢膜のポリサッカライドに、
人工的に無毒性変異ジフテリア毒素を、
くっつけて製造されています。
つまり、人工的に蛋白質をくっ付けているのです。
このため、このワクチンは、
T細胞にも認識され、
通常のワクチンと同じように、
ブースター効果も持つことが推定されます。
更には粘膜の免疫を、
誘導する作用も確認されています。

このワクチンを打つと、
その有効な型の肺炎球菌は、
鼻や咽喉の粘膜に、
定着することが出来ません。
つまり、ニューモバックスとは異なり、
感染自体を予防する効果があるのです。

7価というのは7種類の型のことで、
4、6B、9V、14、18C、19F、23Fの7種類です。
基本的にはニューモバックスに含まれている型のうち、
7つをセレクトした、
という格好になっています。

ただ、このワクチン特有の問題も存在します。

その最大のものは、
このワクチンを使用すると、
そこに含まれる7つの型の肺炎球菌は、
人間の粘膜に定着出来なくなるので、
それ以外の菌の感染が却って増える結果になる、
ということです。

実際にこのワクチンの使用後、
含まれていない19A という型の感染が、
増加しているとの複数の報告が存在します。

そうした指摘を受けて、
2010年からアメリカで導入され、
日本でも今使用されているのが、
プレベナー13という、
プレベナーと同様の効果を持つ、
13価のワクチンです。

これはプレベナーの7つの型に加えて、
1、3、5、6A、7F、19Aの6つの型の抗原を、
追加したタイプのワクチンです。

ポイントは問題になった19Aが追加された点と、
ニューモバックスにも含まれていない、
6Aが追加されていることです。

ただ、6Aは6Bと交差免疫が確認されていて、
不要視する意見もあります。

日本においては、
2010年に5歳未満の年齢における、
プレベナー7の接種が承認され、
2013年から定期接種となりました。
同年の11月からはプレベナー13に切り替わって接種が継続されています。
高齢者においては以前からニューモバックスは承認されていましたが、
公的接種の対象ではないため、
接種者は少数にとどまっていました。
そこで2014年の11月から、
65歳以上の高齢者は1回に限り、
ニューモバックスの接種が推奨されることになりました。
現状プレベナー13の高齢者への接種も、
認められてはいますが、
公的な補助の対象とはなっていません。

それでは、このワクチン導入により、
日本ではどのような変化が起こったのでしょうか?

今回の研究では研究グループの協力医療機関(341施設)において、
2010年以降侵襲性肺炎球菌感染症の事例が登録されていて、
それを2010年度、2011から2013年度、2014年から2016年度の三期に分けて、
その違いを比較検証しています。

この区分けは、
2011年からプレベナー7の導入の影響があり、
2014年からプレベナー13の導入の影響がある、
という想定で行われています。

その結果、
2010年度には小児の患者数や300例で、成人の患者数は275例であったのに対して、
2011から2013年度では小児が357例で成人が695例、
そして2014から2016年度では小児が349例で成人が880例となっていました。

これは登録事例のみですから、
単純比較は出来ないのですが、
2010年1年で300例であった小児の重症肺炎球菌感染症が、
2011年以降は3年間で350例程度ですから、
小児の重賞事例は明らかに減少していると、
そう考えて間違いはないように思います。

肺炎球菌のタイプで見るともっと劇的な変化が起きていて、
プレベナー7に含まれているタイプの肺炎球菌の重症感染症は、
2010年には全体の73.3%を占めていたのが、
2013年には7.4%と著明に減少しています。
つまり、ワクチンはそこに含まれているタイプの肺炎球菌の重症感染症を、
劇的に減少させる効果があります。

興味深いことに成人においても、
ワクチン導入以降には、
小児のワクチンに含まれるタイプの重症肺炎球菌感染症は、
明らかに減少が認められていて、
小児にワクチンを接種することにより、
高齢者の同じタイプの細菌による重症化も、
一定レベルは阻止されることが分かりました。

ただ、それではトータルに重症肺炎球菌感染症が、
減少しているのかと言うと、
そうも言えないデータになっています。

成人に関しては、
むしろ増加が認められているからです。

これはワクチンでカバーされていない菌を原因とするものと思われますが、
ワクチンを接種しても重症肺炎球菌感染症自体は増加するのでは、
成人のワクチン接種の有効性には懐疑的にならざるを得ません。

ただ、高齢者におけるワクチン接種は、
まだかなり限定的にしか行われていないので、
この結果をもってワクチンは効かない、
と判断するのも早計であるように思います。

今後よりトータルな状況を反映するような、
データの蓄積を期待したいと思いますし、
今後も注視してゆきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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