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庭劇団ペニノ「蛸入道忘却ノ儀」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ペニノ蛸入道.jpg
異常なほど緻密な完成度の装置や美術と、
常人には理解不能の奇怪な物語で、
唯一無二の世界を紡いでいる庭劇団ペニノが、
3年ぶりの完全新作公演を森下スタジオで上演しています。

その長塚圭史さんとの対談付きの試演会に、
足を運びました。

以下内容のネタバレがありますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

森下スタジオの大きなスタジオの中に、
例によって極めて緻密かつリアルな、
お寺のお堂のセットが組まれています。

そこで8人の役者さんが、
観客達から提供された赤い古着を身にまとって、
お経を読み得体の知れない儀式を執り行います。

その儀式を、祭壇を囲んで腰を下ろした観客が見守る、
という趣向の作品です。

内容は基本的には般若心経を色々な音楽的なアレンジで、
何度も何度も繰り返すというような形式のもので、
最初は普通の読経ですが、
楽器を入れたリ、ジャズ風にしたりと、
色々なアレンジで反復されます。
その間に役者さんの個人技的なものも少し披露されます。
後半は僧侶達の興奮は高まり没入的な感じになりますが、
かと言って儀式自体が乱れるようなことにはならず、
通常に儀式が終わって、
観客も退場して終了となります。

大枠は仏教儀式のような体裁ですが、
崇拝の対象となっているのが仏ではなく、
蛸であるという点が違っています。
そのために般若心経の経文の言葉も、
部分的に変更が加えられています。
貸衣装の赤も蛸が意識されているようですし、
セットにも蛸の意匠があり、
役者さんの蛸踊りなどもあります。

観客には1人1人に楽器と教本が配られ、
その儀式の進行と経文などはその教本に書かれています。
楽器はいつ鳴らしても良いと言われて、
概ね音楽のリズムに合わせて鳴らされています。

これまでにない趣向のお芝居です。

ただ、面白いのかと言われると困ってしまう部分があります。

儀式は基本的に中央の檀の上で展開されていて、
観客はそれを傍観者的に見守るだけです。
儀式自体も特にハプニングなく終わり、
舞台に大きな動きや予想外の事態が起こる、
ということも特にはありません。
なので、最初は興味深く観ていても、
次第に「おいおい、こんな調子でいつまで続くんだ」
と言うような気分になり、
「これだけのセットを作って、起こることはこれだけなのか」
とちょっと脱力したような気分にもなるのです。

これは公演後のトークで、
長塚圭史さんも言われていたのですが、
何処まで真面目で何処までふざけているのかが分かりませんし、
観客参加のような雰囲気もありながら、
結局はあまり参加するようなところはないので、
その距離感も上手くつかめないという感じがあります。
設定としては観客を巻き込んでトリップする、
というような印象がありながら、
実際には観客を置き去りにして進行するからです。

個人的には最後に巨大な蛸が、
セットの屋根を突き破って現れてさあ大変、
というくらいはあっても良かったな、
というように思いますし、
エロスのような隠し味も教本からは窺われたので、
それなら全員キャストが全裸になるくらいのことが、
あっても良かったように思いました。

結局宗教儀式としての枠組みが、
最初から最後まで単色で変化してゆかない、
と言う点があまり面白くならない原因ではないかと思います。
衣装も古着では正直残念で、
もっと演劇的な雰囲気が欲しかったと感じました。

ただ、そうしたことはおそらく、
作・演出のタニノクロウさんにはどうでも良いことなのだと思います。

上演後の対談で、
「この作品のテーマはこれまでの自分の演劇を、
一回燃やして忘れてしまうことだ」
という趣旨のことや、
「これまで役者に興味を持っていなかったので、
今回は役者への罪滅ぼしのつもりで、
あまり演出せずに自由に演じてもらった」
というような趣旨のお話を、
これも真面目なのか不真面目なのか皆目わからないような、
常人には理解不能の奇妙なテンションで話されてしまうと、
「ああ、矢張りこの人の考えることを、
理解しようとする方が無理なのだ」
というあきらめにも近いような気分になるのです。

ただ、端々に感じられることは、
どうやら「仏教」という権威に対する、
かなりおちょくりに近い反発のようなものがあり、
それが作品の原動力になっているようには思われます。
観客の存在はおそらく、
役者さんほどにも意識はされていないようで、
一見観客参加のような試みがあっても、
それはポーズに過ぎないのではないかと感じました。

僕は試演会の方に行ったのですが、
事前にレクチャーがあって上演後に振り返りのトークがある、
ということで、
作品の全てが分かる、というような触れ込みでしたが、
実際には上演前の説明は、
数分の説明とも付かないようなものでしたし、
上演後のトークも、
結局よくある終演後のゲストトークの範囲を出ないもので、
特に理解が深まるということもなく、
正直失敗であったように思いました。
おそらくタニノさんは、
こうした趣向や観客サービスのようなものにも、
基本的に興味がないように感じました。

そんな訳で正直なところ面白くはなかったのですが、
作り込みなど例によって見事なこだわりで、
今後もこの奇怪な世界に、
参加はし続けたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カフェインの思春期の使用が他の物質依存に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カフェインの中学生での使用のリスク.jpg
2018年のAddiction誌に掲載された、
カフェインの思春期の使用が、
その後の飲酒や喫煙などの習慣に与える影響についての論文です。

コーヒーが健康に良さそう、
というお話をさせて頂いた時に、
質問されたことの1つが、
子供がコーヒーを飲むことをどう考えるか、
という疑問でした。

1日100ミリグラムを超えるカフェインの常用は、
その程度は軽いとは言え一種の依存を形成します。
常用していて中止すれば、
弱いとは言え離脱症状も生じます。
その濫用は心臓に負担を掛ける可能性も否定できません。

そのためアメリカ医学研究所は16歳未満に対しての、
カフェインを含むエナジードリンクの学校内での販売の禁止を提唱しています。

つまり、アメリカの専門機関は、
16歳未満のカフェインの常用を、
健康上のリスクと考えているのです。

しかし、その一方で世の中には、
特に年齢制限なくカフェインが溢れています。
コーヒーやお茶は言うに及ばず、
エナジードリンクにコーラ、
眠気覚ましのガム、
風邪薬に頭痛薬など、
子供でも知らないうちに、
カフェインの虜になってしまいます。

世の中にはアルコールやタバコなど、
簡単に手を出すことの出来る、
依存性のある嗜好品がありますが、
カフェインは多くの人の人生において、
最も早い時期に接する依存性のある物質です。

それでは、
カフェインの依存と、
その後に生じる可能性のある、
アルコールやタバコへの依存とは、
何らかの関連があるのでしょうか?

それを検証する目的で、
アメリカの中学生に当たる12歳から13歳くらいの年齢の学生3932例を対象として、
コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどからのカフェインの摂取量が、
その後1年の他の依存性物質の摂取行動に与える影響を観察しています。

その結果、
カフェイン摂取量が多いほど、
その後のアルコール摂取や喫煙、電子タバコ使用、
酩酊などのリスクが有意に高まることが認められました。
電子タバコの使用は、
逆にカフェインの摂取を誘発していましたが、
それ以外のアルコールや喫煙が、
カフェインの摂取増加に影響を与えることはありませんでした。

このように、
カフェインの摂取量が12歳から13歳くらいの年齢で多いと、
その後のアルコールやタバコの摂取に結び付きやすい、
という関連が認められました。

これがカフェインの依存による影響なのか、
それともカフェインを多く摂るような生活の影響であるのかは、
今回のデータからは明確ではありませんが、
少なくとも16歳未満の年齢層におけるカフェインの常用は、
その後の健康に悪影響を与える可能性があると、
そう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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タムスロシン(ハルナール)の尿路結石排出促進効果(2018年介入試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
タムロリムスの尿路結石に対する効果.jpg
2018年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
α遮断剤という高血圧の治療薬を、
尿路結石の治療に使用した場合の、
有効性を検証した臨床試験の論文です。

尿路結石は腎臓や尿路に出来た結石が、
その移動によって激しい痛みを出したり、
尿の通り道が塞がったり狭くなることにより、
腎臓の働きが低下したり、
感染を併発することも多い病気です。

病気の発見は突然の痛みによるか、
人間ドックなどでの検査によることが多いと思います。

さて、尿路結石が移動して尿管の一部に停滞し、
激しい痛みを出した場合には、
まず痛み止めなどによる治療が行われ、
水を多めに飲むなどして、
石が尿道から身体の外に出る「排石」を促し、
それが困難であれば、
衝撃波や内視鏡手術などの方法によって、
物理的に石を砕いたり取り除いたりすることを試みるのが、
通常の治療の流れです。

そして、そうした通常の方法以外に、
国内外を問わず、一定の有効性があると信じられていて、
適応外治療であるにも関わらず、
ガイドラインにも記載されているのが、
α遮断薬という高血圧や前立腺肥大症の治療薬を、
尿路結石の症状の緩和や排石の促進のために使用する、
という方法です。

泌尿器科の先生にとっては、
前立腺肥大症で使用する、
タムスロシン(商品名ハルナールなど)は、
使い慣れた薬剤である、
という点も尿路結石にタムスロシンを使用する、
推進力になっているような気がします。

しかし、実際に尿路結石に対するα遮断剤の効果は、
どの程度のものなのでしょうか?

2016年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
メタ解析の論文では、
これまでの55の介入研究という精度の高い臨床試験を、
まとめて解析した結果として、
α遮断剤を使用することにより、
尿路結石の排石が1.49倍促進された、
という結果が得られました。
(95%CI:1.39から1.61)

大きさが5ミリ未満の結石では、
α遮断剤を使用しても明確な違いはなく、
5ミリを超える石や8ミリを超えるような大きな結石では、
トータルで57%も排石率は増加していました。
(95%CI:1.17から2.27)
通常大きな石は自然に排石はされにくいように感じますが、
α遮断剤の効果は比較的大きな石でより高い、
というちょっと意外に思える結果です。

この排石の促進効果は、
石のある場所が尿路の上部でも下部でも、
ほとんど違いなく認められました。

α遮断剤の使用により、
疼痛も有意に低下し、
痛みによる入院や手術のリスクも、
大幅に低下していました。
(入院のリスクが63%、手術のリスクが56%の低下)

ただ、これはあくまでメタ解析の結果で、
個々の臨床試験自体は、
少人数のものが多く、
試験のデザイン自体もそれほど厳密ではないものが殆どなので、
精度の高い臨床試験において、
この結果を再検討することが期待をされていました。

今回の研究はアメリカの複数の救急医療機関において、
尿路結石に伴う腹痛などの症状で受診した患者さんを登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
患者さん本人にも主治医にも分からないように、
一方はα遮断剤のタムスロシンを1日0.4ミリグラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
28日間の治療を行ない、
その結果を比較検証しています。

尿路結石はCT検査によって診断し、
大きさが9ミリ未満のものに限って対象としています。
これは大きな結石については、
ほぼタムスロシンの効果が実証されているので、
あまり明確ではない小さ結石に絞って検証しているのです。
対象者は512名です。

その結果、
タムスロシン群の排石率が50%であったのに対して、
偽薬群の排石率は47%で、
偽薬と比較したタムスロシンの有効性は確認されませんでした。
臨床的な有効性についてのもう少し詳細な検証においても、
有意な効果は確認されませんでした。

このように今回の検証においては、
尿路結石の排石促進に関するタムスロシンの有効性は、
9ミリを超える結石においては確認されませんでした。

今後結石の大きさによる使用の適否を含めて、
尿路結石に対するタムスロシンの適応は、
再検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルツハイマー型認知症とヘルペスウイルス感染との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヘルペスウイルスと認知症.jpg
2018年のNeuron誌に掲載された、
殆どの人が小児期に感染するウイルスと、
アルツハイマー型認知症との関連についての論文です。

ヘルペスウイルス(herpesvirus )は、
正20面体の特徴的な構造を持つ、
DNAウイルスです。
哺乳類はそれぞれ固有のヘルペスウイルスに感染し、
鳥や魚も、
それぞれ固有のヘルペスウイルスに感染します。

ヘルペスウイルスの一番の特徴は、
一度感染すると、決して完全には消えてなくならない、
ということです。
結核菌と同じように、
人間の免疫の力は、
このウイルスを身体から完全に追い出すことは出来ないのです。
初感染で暴れまわったウイルスは、
免疫の防衛軍の手によって、
降伏し、もう悪さをしないことを誓うのですが、
だからと言って、完全に改心した訳ではなく、
少数ながら身を潜めて、
再び暴れまわる時を、
密かに窺っているのです。
これは概ね、免疫の防衛軍が、
その力を弱めた時に起こります。
これをヘルペスウイルスの再活性化、と言います。
ヘルペスの不思議さは、
初感染と再活性化の時の症状とが、
大きく違っていることです。

人間に感染するヘルペスウイルスは現在、
8種類が知られています。
これは見付かった順番に、
HSV1からHSV8という番号が付いています。

この中にはサイトメガロウイルス(HSV4)や、
EBウイルス(HSV5)のように、
別個に名前の付いているものもあります。

さて、通常は一時的な症状で自然に改善し、
感染自体は残存して時に再発を繰り返すことはあっても、
健康を大きく脅かすような事態にはならない、
ヘルペスウイルスの感染ですが、
ウイルスの遺伝子が長く体内に存在することが、
身体の遺伝子にも影響を与えて、
慢性の病気の原因になるのでは、
という考え方もあります。

今回の研究では、
アルツハイマー型認知症の発症に、
ウイルスの感染が関連しているのではないか、
という想定の元に、
亡くなったアルツハイマー型認知症の患者さんの脳を解析し、
そこに認められるウイルス遺伝子を検出したところ、
ヘルペスウイルス群のうち6Aと7というタイプのウイルス遺伝子が、
明確に増加を示していて、
アルツハイマー型認知症のないコントロールでは、
そうした傾向はないことが確認されました。

また、アルツハイマー型認知症の病因とされる、
βアミロイドという異常タンパクの蓄積に関連する、
遺伝子との関連を調べたところ、
βアミロイドに関連する遺伝子の変化と、
脳内に認められるウイルス遺伝子量との間にも、
関連のあることが確認されました。

要するにヘルペスウイルスの脳への持続感染に伴い、
βアミロイドの沈着に影響を与える、
身体の遺伝子の発現などが変化し、
それが認知症の発症につながっているという可能性が示唆されたのです。

ヘルペスウイルスのうちHSV6やHSV7というのは、
お子さんの突発性発疹などの原因ウイルスですから、
殆どの人が小児期に感染を受けていて、
その遺伝子量がなぜ個別に違っているのか、
という点を考えると、
単純に感染が原因とも言い切れないという気がしますが、
アルツハイマー型認知症の原因に繋がる新たな視点として、
今後の知見の蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルコール依存症の脳内メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール依存症のメカニズム.jpg
2018年のScience誌に掲載された、
アルコール依存症の脳内メカニズムを検証した、
ネズミの実験の論文です。

アルコール依存症というのは、
「大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態」
と厚労省のサイトには記載をされています。

その原因は多量飲酒ですが、
同じように多くのアルコールを飲んでいても、
全ての人が依存症になるという訳ではありません。

多量飲酒によって依存症になりやすい体質のようなものが、
あることは間違いがなさそうです。

それは一体どのようなものなのでしょうか?

この点については厚労省のサイトを見ても、
遺伝子がどうであるとか、性格的傾向がどうであるとか、
少し書いてはあるのですが、
あまり説得力のある記載ではありません。
この部分についてはどうもあまり明確なことが、
分かってはいないようです。

今回の研究はその点を明らかにする目的で、
ネズミに甘い液体とアルコールとを交互に飲ませ、
それから今度はアルコールか甘い液体かを、
ネズミに選ばせるようにして、
10週間というネズミの実験としては長い観察期間をおき、
ネズミの行動を観察しています。

本来はネズミは甘い物を好む筈なので、
多くのネズミはアルコールより甘い液体を選びましたが、
15%のネズミはアルコールの方を選ぶようになりました。

これはつまり、
大量飲酒の習慣のある人が、
アルコール依存症になるのと良く似た現象と、
考えることが出来ます。
本来より大事なものより、
アルコールの方を選ぶという性質がある、
ということを意味しているからです。

このアルコールを好むネズミの脳の遺伝子発現を調べたところ、
情動に関わる扁桃体という部分で、
抑制系の神経伝達物質であるGABAの濃度を調節する、
GABAトランスポーターのGAT-3というタイプの、
機能の低下が認められました。

このGAT-3の活性低下がアルコール依存症の原因と考え、
その遺伝子発現を抑える処置を行うと、
アルコールを選ぶ行動を取る確率が、
明確に増加しました。

死亡したアルコール依存症の患者さんの脳を調べてところ、
そうでない死亡者の脳と比較して、
例数は少ないものの、
GAT-3関連の遺伝子の発現の低下が認められました。

こうしたタイプの医学誌の論文では、
人間のデータはおまけ程度のものなので、
ほぼネズミの実験の知見ではあるのですが、
扁桃体のGABAトランスポーターの機能低下により、
アルコール依存症が生じるという知見は非常に興味深く、
今後本当に人間の依存症においても、
そうしたメカニズムが存在するものなのか、
研究の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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特発性肺線維症に制酸剤は有効か?(2018年の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
制酸剤による線維症の効果.jpg
2018年のEuropean Respiratory Journal誌に掲載された、
特発性肺線維症に対する制酸剤治療の、
有効性をこれまでのデータから再検証した論文です。

特発性肺線維症は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。

ステロイドや免疫抑制剤などを含めて、
多くの治療が試みられてはいますが、
その治療成績はまだ満足のゆくようなものではありません。

この特発性肺線維症の患者さんでは、
胃酸が食道や咽喉まで逆流する、
胃食道逆流症の頻度が多い、
という疫学データがあり、
胃食道逆流症が特発性肺線維症の増悪因子ではないか、
という見解があります。

急性増悪を来した肺線維症の肺から、
胃酸の成分が検出された、
という報告もあり、
このことは逆流した胃酸が気管に入り、
それが誤嚥性の肺炎の原因となって、
肺線維症の急性増悪に結び付いているのではないか、
という可能性を示唆しています。

プロトンポンプ阻害剤を使用している患者さんは、
そうでない患者さんより生命予後が良いのではないか、
という報告も最近見られますが、
まだ確認されたものではありません。

2015年に改訂された特発性肺線維症の国際的診療ガイドラインでは、
「強く推奨する」とされる治療薬は今のところ1つもなく、
「条件に応じて推奨する」という治療薬は4つで、
ピルフェニドンとニンテダニブという抗線維化薬と、
急性増悪時のステロイド治療、
そして胃食道逆流症への制酸剤の治療です。

ただ、実際に制酸剤の効果がどの程度のものであるのか、
という点についてはまだ結論は出ていません。

2013年のLancet Respiratory Medicine誌に掲載された、
これまでの3つの臨床試験をまとめて解析した論文によると、
プロトンポンプ阻害剤やH2ブロッカーなどの制酸剤の継続治療により、
未使用と比較して呼吸機能の低下が一定レベル抑制されていました。

ただ、データの精度はそれほど高いものではなく、
実際の患者さんの生命予後に改善が見られるかどうか、
という点については明らかではありません。

今回の論文はより広く文献を集め、
特発性肺線維症に対する制酸剤の効果を、
患者さんの生命予後に絞って再解析したものです。

その結果、
複数の観察研究のデータをまとめて解析した結果として、
確かに制酸剤の使用により、
特発性肺線維症の患者さんの総死亡のリスクは低下していましたが、
本来治療効果の比較には使用出来ない期間も、
観察期間にされているという、
試験デザイン上の問題が認められ、
それを補正して検証したところ、
その有意差は消失してしまいました。

つまり、
制酸剤の使用により、
肺機能の低下が一定レベル抑えられることは、
ほぼ実証されていますが、
それが患者さんの生命予後の改善に、
結び付くものであるかどうかは、
まだ明らかではないようです。

このように、
最近発売された抗線維化薬を含めて、
明確に現時点で生命予後を改善したという治療が、
1つも存在していないという点が、
特発性肺線維症の治療の現時点での限界で、
今後複数の治療法の併用を含めて、
生命予後の改善に結び付く治療が模索されているのが、
現状ということになるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「羊と鋼の森」(2018年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
羊と鋼の森.jpg
ピアノの調律師の世界を扱った青春小説を、
山崎賢人さんの主演で、
ほぼ原作に忠実に映画化した作品が、
今ロードショー公開されています。

原作は本屋大賞も受賞した宮下名都さんの小説で、
語り口が流麗で美しく、
調律師の世界を詩的に描いた点も新鮮で、
珍しい職業物で教養小説でもあるという、
本読みの心を狙い撃ちにしたような作品です。

ただ、確かに評価されるのだろうなあ、とは思いながらも、
個人的にはそれほど好きにはなれませんでした。
ちょっと話の展開が地味過ぎないですかね。
もうちょっと波乱万丈でも良いし、
神秘主義的な部分があっても良いように感じました。
また、レトリックが過剰ですよね。
理想の音の表現として引用される作家の言葉も、
修飾句だらけで3段もあるというのは、
長すぎるのではないでしょうか?
音色の表現などもあまりに過剰でくどすぎます。

お好きな方はすいません。
色々な感想があるということで、
スルーして頂ければ幸いです。

さて、人気のある小説ではあっても、
内容はとても地味なので、
これをどうやって映画にするのかしら、
大分設定を変えてしまうのではないかな、
と危惧も覚えたのですが、
実際に仕上がった作品は、
ほぼほぼ原作に忠実な物語で、
それをしかも極めて繊細かつ丁寧に、
特に山を張ることなく、
悠然と紡いだ作品になっていました。

それでいて退屈かと言うとそうでもなくて、
ピアノの音色と北海道の自然に彩られた物語は、
ある心地良い美意識とテンポとに支配され、
一旦そのリズムに乗ってしまうと、
とても心地良く最後まで作品世界に身をゆだねることが出来ます。

原作への愛情が強く感じられるという点が好印象で、
こういう映画もありだな、というようには感じました。

キャストは全てしっくりと役柄に合っていて、
通常日本映画には付き物の、
サービス的な違和感のあるようなキャストがいません。
中でも主人公の先輩調律師を演じた鈴木亮平さんが、
とても良い感じの役作りで印象的です。
変な熱演とは違うこうした自然さは、
これもあまり日本映画では見られないタイプの、
良い芝居であったと思います。
また原作では双子の姉妹を、
双子という設定は変えて、
上白石姉妹に演じさせているのですが、
実際の関係と役柄とが微妙にリンクするのが、
妖しくも面白くて、
ちょっと際どく胸騒ぎのするような感じが、
これもなかなかの見ものでした。

演出も堂々と正攻法で安定感があり、
シネマスコープの画面が上手く使われていました。

そんな訳でなかなか拾い物の感じのする良作で、
綺麗で静かな映画を観たい、というご希望の方には、
控え目にお薦めしたいと思います。

なかなかですよ。

唯一の不満はラストの久石譲さんによるテーマ曲で、
それまで使用された楽曲から、
がくんとレベルが下がるので駄目だと思います。
あれは最後までクラシックの名曲で押すのが、
絶対良かったですよね。
まあでも、売るための事情が色々あるので、
仕方がないのだろうとは推察されます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「Vision」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
5d5e30eee4d39cbb.jpg
河瀬直美監督の新作「Vision」が、
今ロードショー公開されています。

河瀬直美さんは良くも悪くもとても作家性の強い監督ですし、
世界的な大女優のジュリエット・ビノシュを主役に据えて、
SF的な設定のドラマを紡ぐというのですから、
相当変わった作品になるのであろうなあ、
脱力系の怪作にならなければ良いのだけれど…
というようにおっかなビックリで鑑賞したのですが、
予想の通りと言うか、
とてもとても変てこりんで奇妙な映画で、
「幻の湖」や「ブルークリスマス」、
「シベリア超特急」や「ジパング」、
などに匹敵するカルト的脱力映画になっていました。

ピノシュ演じる女性エッセイストが、
「Vision」という名前の謎の薬草(?)を求めて、
奈良県の吉野を訪れるのですが、
そこには永瀬正敏さん演じる山男や、
夏木マリ演じるシャーマンのような女性などがいて、
実は過去の因縁でビノシュとその村は結ばれていた、
というようなお話です。

お馴染みの吉野の風景が全編に登場しますが、
1000年に一度姿を現す謎の植物により、
全ての人間の苦しみが浄化される、
というような大風呂敷を広げておいて、
最後はちょっとした山火事(安っぽいCG)が起こって、
夏木マリがヘンテコな踊りを踊り、
ビノシュと森山未來さんの息子が、
岩田剛典さんとなって現れて終わり、
というだけのことになってしまうので、
何か狐につままれたような気分で、
劇場を後にしておしまい、という感じです。

まあ、内容的には輪廻転生的な、
河瀬直美さんのいつものお話しのリフレインなのですが、
「あん」、「光」と、
独立した物語として完成度の高い作品が続いていたので、
またまた以前のような自主映画的なテーマが、
しかもB級底抜けSF超大作的な雰囲気で展開されてしまうと、
おいおいという感じになりますし、
ラストには「結局これだけ?」と脱力せざるを得ないのです。

ビノシュが何か作品世界から大きく浮いていて、
「八月の狂詩曲」のリチャード・ギアのようで落ち着きません。
長瀬正敏さんとのベッドシーンがあるのですが、
観られた方はお分かりのように、
とても恥ずかしくて見るのが辛くなるような感じです。
これなら登場して頂かない方が、
作品的には良かったのではないでしょうか。

色々と事情があるのでしょうが、
練り上げられないままに、
やっつけ仕事で間に合わせた、
という感じが痛々しく、
今年観た映画の中では、
間違いなく最大の脱力系カルト映画となってしまいました。

通常の感性の方には受け付けないタイプの作品で、
飛びぬけた感性を持った天才か変人のみに、
理解可能な作品なのだと思います。

怪作です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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膵臓癌発症に関わる生殖細胞突然変異とその意義について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームや保育園の診療には廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
膵癌と遺伝子変異.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
膵臓癌の遺伝子変異の意義を検証した論文です。

癌というのは遺伝子の変異が複数蓄積することで、
発症に至ると考えられています。
このうちで遺伝性の癌や癌の素因として影響するのは、
生殖細胞に起こる突然変異で、
これは親から子供に形質として遺伝します。

たとえば癌抑制遺伝子に関する生殖細胞突然変異があれば、
癌細胞が身体で生まれた時に、
それを修復するような力が弱いので、
それだけ癌が発症し易いと考えられます。

家族性乳癌の原因遺伝子として有名な、
BRCA1やBRCA2の遺伝子の変異は、
こうした生殖細胞突然変異の1つで、
この変異があることにより、
高率に乳癌が発症することが知られています。

予後の悪い癌として有名な膵臓癌(浸潤性膵管癌)にも、
複数の原因遺伝子としての生殖細胞突然変異が知られていますが、
そのスクリーニングや経過観察における意義は、
まだ定まったものではありません。

今回の研究はメイヨー・クリニックにおいて、
膵臓癌に関連する可能性のある21種類の生殖細胞突然変異と、
膵臓癌のリスクとの関連を、
3030例の膵臓癌の事例と、
癌のない123136名のコントロールと比較して、
検証しています。

その結果、
21種類の遺伝子変異のうち、
6種類の変異がそれぞれ独立して、
膵臓癌のリスクと関連を持っていました。

最も膵臓癌のリスクと関連があったのは、
CDKN2Aという癌抑制遺伝子の変異で、
膵臓癌群の0.3%、コントロール群の0.02%で認められ、
この変異があることにより、
膵臓癌のリスクは12.33倍(95%CI: 5.43から25.61)有意に増加していました。
それ以外にBRCA1、BRCA2、TP53、ATM、MLH1という5つの遺伝子の変異が、
CDKN2A遺伝子ほどではありませんが、
それぞれ有意に膵臓癌のリスクを増加させていました。

この6つの遺伝子変異を併せてみると、
膵臓癌の患者さん全体のうち5.5%は、
何らかのこれらの遺伝子変異を持っていました。
遺伝性の癌に限るとその比率は7.9%に増加していました。

このように、
遺伝子変異の有無により膵臓癌のリスクは上昇しますが、
全体に占めるその比率はそれほど高いものではないので、
どのような対象者に検査をすることが、
有用性が高いのかの検証が必要ですし、
遺伝性でCDKN2A遺伝性の解析を行って、
膵臓癌のスクリーニングを、
変異の陽性者で継続したところ、
通常より予後が良かった、
という報告もあるので、
今後どのような遺伝子変異を組み合わせて、
スクリーニングを施行することが、
患者さんの予後の改善に結び付くのか、
その観点での検証にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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睡眠時間と認知症と死亡リスク(2018年久山町研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックのお石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
睡眠時間と認知症久山町研究.jpg
2018年のJournal of the American Geriatrics Society誌に掲載された、
日本の代表的な疫学データを活用した、
睡眠時間の長短と認知症の発症リスク、
および生命予後との関連についての論文です。

睡眠と認知症との関連についてはこれまでにも多くの報告があります。

昼間に眠気や居眠りについては、
認知症のリスクや認知機能低下のリスクと、
関連があるという報告が複数あり、
これは脳の覚醒機能の低下によるものと考えられています。

睡眠時間と認知機能との関連についても複数の報告がありますが、
睡眠時間が長い方が認知機能の低下と関連がある、
と言う報告がある一方で、
睡眠時間と認知機能との間には関連はない、
という報告もあってその見解は割れています。

2017年のNeuroapidemiology誌に掲載されたメタ解析では、
20の疫学研究における、
トータルで53942名(平均年齢66.9歳)のデータをまとめて解析した結果、
7から8時間未満という平均の睡眠時間と比較して、
8時間から10時間以上という長時間の睡眠は、
認知機能低下のリスクを1.42倍(95%CI:1.27から1.59)、
軽度認知機能障害のリスクを1.38倍(95%CI;1.23から1.56)、
認知症のリスクを1.42倍(95%CI:1.15から1.77)、
それぞれ有意に増加させていました。

これは睡眠時間が長い方が、
認知症のその後の発症リスクは高い、
という結果です。

今回の研究は日本の代表的な疫学データの1つである、
九州の久山町研究のデータによるもので、
登録の時点で60歳以上で認知症のない、
トータル1517名の一般住民を対象として、
中央値で8.8年間の経過観察を行い、
睡眠時間と認知症の発症、および生命予後との関連を検証しています。

睡眠時間は対象者の申告によるもので、
5時間未満、5時間から6.9時間、7から7.9時間、8から9.9時間、
10時間以上に区分されています。

その結果、
経過観察中に294名が認知症を発症し、
282名が死亡しています。

睡眠時間と認知症との関連を見ると、
5から6.9時間を基準とした時に、
5時間未満では2.64倍(95%CI: 1.38から5.05)、
10時間以上では2.23倍(95%CI: 1.42から3.39)と、
いずれも有意に認知症のリスクが増加していました。

また、総死亡で見ても、
5から6.9時間を基準とした時に、
5時間未満では2.29倍(95%CI: 1.15から4.36)、
10時間以上では1.67倍(95%CI: 1.07から2.60)と、
睡眠時間が長くても短くても、
いずれも総死亡のリスクは有意に増加していました。

このリスクの最も低い睡眠5から6.9時間において、
対象者が睡眠剤を使用していると、
していない場合と比較して、
認知症発症リスクは1.66倍に、
総死亡のリスクも1.83倍にそれぞれ増加していました。

死亡リスクの増加と睡眠時間との関連について、
個別の死亡原因との関係を検証しましたが、
心血管疾患、癌、呼吸器疾患による死亡には有意な差がなく、
それ以外の死因においてのみ、
有意な関連が認められました。

このように今回のデータでは、
睡眠時間が5時間未満と短くても、
10時間以上と長くても、
いずれも認知症リスクも総死亡のリスクも
増加するという結果になっています。

ただ、これはそうした睡眠の習慣自体がリスクであるのか、
それとも睡眠時間を短くしたり長くしたりするような、
病気や薬などの影響がそうした結果をもたらしているのか、
そうした点は分からない、ということには注意が必要です。

また今回の睡眠時間のデータは、
あくまで本人の申告によるものですが、
眠れない、と主張する人に限って、
実際には意外に多く寝ている、
というようなことも経験しているので、
それをそのまま鵜呑みにしてデータ化することにも、
問題はあるように思います。

いずれにしても、
レビー小体型認知症における、
レム睡眠行動異常(夜に夢を見て実際に暴れたりする)は、
認知症に先行にしてかなり早い時期から出現している、
という知見もありますし、
認知症と睡眠というものは、
かなり関連の深いものであることは確かなようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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