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握力と病気や生命予後との関連について(2018年UKバイオバンクの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
握力と健康状態.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
握力と病気のリスクや生命予後との関連についての論文です。

体力(physical fitness )という言葉があります。
これは医学的には心肺機能と筋力を一緒にした言葉です。

心肺機能というのは、
心臓の収縮する力や、
肺活量などを示していて、
筋力は文字通り筋肉の収縮力を示しています。

慢性の病気では、
体力はその進行に伴い低下して行きます。

これは癌でも心臓病でも糖尿病でも同じです。

老化というのも、
ある意味慢性の病気ですから、
この場合にも体力は低下して行きます。

体力の低下により、
日常生活が維持出来なくなった状態が「寝たきり」で、
その終末が、
体力が低下して生命活動を維持出来なくなった状態、
すなわち「死」です。

このように考えると、
定期的に体力を測定してその推移を記録することにより、
その人がいつ病気になり、
いつ寝たきりになり、
そしていつ死に至るのかを、
ある程度推測することが可能となる理屈になります。

そのリスクが予め分かっていれば、
その原因を治療したり、
起こる可能性の高い病気を予防したり、
病気の進行を遅らせたり、
という効率的な予防医学的な介入にも、
道が拓けるのではないでしょうか?

さて、体力には2つの要素があります。

心肺機能と筋力です。

このうち心肺機能については、
心臓については血液検査のBNPなどの数値や、
心臓超音波検査などの測定値で、
呼吸については、
肺活量などの呼吸機能検査で、
ある程度定量的に評価することが可能です。
そして、それぞれについて、
一定の予後の推測も可能なことが示されています。

一方で筋力については、
重要な指標であることは認識されていても、
医療の現場で定期的に測定することはあまりなく、
一般の健診項目などにも含まれていないので、
それを病気や生命予後のリスクとして定量化する試みは、
遅れていた、という経緯があります。

筋力で最も簡便に測定可能なのは、
握力です。

この握力が生命予後と関連するという報告は、
これまでにも幾つかあります。
その代表的なものの1つが2015年のLancet誌に掲載された、
PURE研究と命名された世界規模の臨床研究で、
同時期にブログ記事にもしています。

これによると、
総死亡のリスクは、
握力の5キロの低下毎に1.16倍(1.13から1.20)有意に増加し、
心血管疾患による死亡が1.17倍(1.11から1.24)、
それ以外の原因による死亡も1.17倍(1.12から1.21)と、
それぞれ有意に増加していました。
病気毎の発症リスクでは、
心筋梗塞の発症リスクが1.07倍(1.02から1.11)、
脳卒中の発症リスクも1.09倍(1.05から1.15)、
とこちらもそれぞれ有意に増加が認められました。

しかし、糖尿病や肺炎の発症リスク、
肺炎もしくは慢性閉塞性肺疾患による入院、
転倒による外傷や骨折のリスクについては、
握力との間に有意な関連は認められませんでした。

また高所得国においては、
癌の発症リスクは握力が5キロ低下する毎に、
0.916倍(0.880から0.953)に低下するという、
他のデータとは逆の相関を有意に示しました。

今回の研究は同様の検証を、
イギリスの有名なUKバイオバンクという、
50万人を超える大規模な疫学データで行ったものです。
対象は登録の時点で40から69歳の一般住民502293名で、
中間値で7.1年という経過観察を行っています。

その結果、総死亡のリスクは、
握力が5キロ低下する毎に女性で1.20倍(95%CI: 1.17から1.23)、
男性で1.16倍(95%CI: 1.15から1.17)
それぞれ有意に増加していました。
同様に心血管疾患による死亡のリスクは、
女性で1.19倍(95%CI: 1.13から1.25)、
男性で1.22倍(95%CI: 1.18から1.26)、
呼吸器疾患による死亡のリスクは、
女性で1.31倍(95%CI: 1.22から1.40)、
男性で1.24倍(95%CI: 1.20から1.28)
慢性閉塞性肺疾患による死亡のリスクは、
女性で1.24倍(95%CI: 1.05から1.47)、
男性で1.19倍(95%CI: 1.09から1.30)、
癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.13から1.21)、
男性で1.10倍(95%CI: 1.07から1.13)、
大腸癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.04から1.32)、
男性で1.18倍(95%CI: 1.09から1.27)、
肺癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.07から1.27)、
男性で1.08倍(95%CI: 1.03から1.13)、
乳癌による死亡のリスクは、
女性のみで1.24倍(95%CI: 1.10から1.39)、
それぞれ有意に増加が認められました。
ただ、前立腺癌についてはそうした有意な関連は、
認められませんでした。

女性の大腸癌と前立腺癌、肺癌(男女とも)を除くと、
明確な握力低下の存在(男性で26キロ未満、女性で16キロ未満)は、
そのリスクをより高めていました。
また、全体に年齢が若いほど、
握力低下と死亡リスクとの関連は強くなっていました。

死亡リスクの増加に関連する指標としての一般的なリスクスコア
(年齢、性別、喫煙歴、BMIなどから計算)に、
この握力の数値を加えることにより、
そのリスクの信頼性が高まることも確認されました。

このように今回の大規模な検証においては、
握力の低下は幅広く多くの病気による死亡リスクと、
明確な関連を持っていました。

呼吸器疾患や癌による死亡においても、
有意な関連が示されていることが、
以前のPURE研究との違いです。

握力というのは関節の痛みや変形、
頸椎などの整形外科的な疾患によっても、
かなり左右される指標なので、
対象者の分布によって、
別の結果が出ることもあると思われますが、
そうした病気を除外して考えれば、
筋力の簡便な指標として有用であることはおそらく間違いがなく、
今後より握力の数値を、
健診などでも重視してゆく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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