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高齢者の海馬神経細胞の再生とその性質 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
ちょっと別件の仕事があります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヒポカンパスの神経再生.jpg
2018年のCell Stem Cell誌に掲載された、
海馬神経細胞の成人以降の神経再生について、
年齢との比較を行っている論文です。

僕が大学で教わった時には、
脳の神経細胞というのは、
10代からせいぜい20代前半くらいがピークで、
その後は神経細胞はどんどん減ってゆき、
決して増えることはない、
というのが常識でした。

この考えは、
脳の大部分の神経細胞については、
今でもほぼ正しいのですが、
脳の海馬と呼ばれる部分については、
そうではないことが1990年代の後半以降、
相次いで報告されています。

海馬においては中年期以降においても、
神経細胞の再生や新たな神経ネットワークの構築が、
部分的なものであれ行われている可能性が高いのです。
興味深いことにこれは猿やネズミの実験では証明されておらず、
ほぼ人間のみの特徴と思われています。

ただ、勿論正常な老化は、
海馬においても進行していることは、
臨床的には間違いのない事実ですから、
海馬のどのような機能が正常な老化で低下するのか、
そうした点の検証が重要です。

今回の研究では、
脳疾患の既往がなく、
脳以外の原因により死亡した、
14から79歳の28人の脳を解剖し、
海馬の神経細胞の状態を検証しています。

その結果、
海馬の神経再生の証拠と思われる、
神経細胞に分化する前の前駆細胞や、分化途上の細胞が、
年齢に関わらず認められ、
海馬の容積自体も、
健康な老化においては年齢で差が見られないことが確認されました。

その一方で高齢者の脳では、
若年層と比較して血管新生や静止期の前駆細胞のプールは少なく、
神経可塑性も低下していることも確認されました。

つまり、
海馬における神経再生に繋がる潜在的な力は、
高齢になっても低下はあまりせず残存していますが、
実際の再生能力は低下が認められていて、
これがこの部位の自然な老化の本質であるように考えられます。

従って、
今後低下する部分を賦活するような治療に結び付けば、
脳の若返りという夢も、
決して単なる夢ではなくなる日が来るかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーとニコチン酸 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ニコチン酸とコーヒー.jpg
2018年のMolecular Nutrition Food Research誌に掲載された、
コーヒー摂取後のニコチン酸代謝についての論文です。

すいません。
今週はコーヒーの話題が続きます。

コーヒーには多くの生理活性物質が含まれていますが、
生の豆に存在するアルカロイドのトリゴネリンが、
焙煎により変性して産生されるのがニコチン酸(ナイアシン)です。

ニコチン酸(nicotinic acid )は、
ごく少量は必須アミノ酸である、
トリプトファンから人間の身体で合成されますが、
その大部分は食事として摂る必要があり、
その意味でビタミンB3という、
ビタミンの仲間に分類されています。

トリプトファンから合成される物質には、
他に皆さんお馴染みの「セロトニン」があります。

両者は全く別個の物質ですが、
無関係かと言うとそうでもなく、
ニコチン酸が過剰で現われる「ほてり感」のような症状は、
セロトニンの過剰による血管拡張と同じですし、
ニコチン酸の欠乏は、
意欲低下や幻覚妄想などの、
精神症状の原因ともなります。
また、腫瘍がセロトニンを合成する、
「カルチノイド症候群」では、
トリプトファンがセロトニンの合成のみに使われて、
ニコチン酸が作られなくなるため、
ニコチン酸の欠乏症状が出ることが知られています。
ただ、実際には身体で作られるニコチン酸は、
食事で得られる量の60分の1程度とされていて、
何故それがなくなっただけで、
欠乏症状が出るのか、
ちょっと理屈に合いません。

どうも、セロトニンとニコチン酸との関係には、
まだ分かっていない点が多くありそうです。

ニコチン酸という言葉は、
ちょっと紛らわしい点が多く、
その言葉の定義もかなり混乱しています。

まず、タバコに含まれ、副交感神経を刺激する、
「ニコチン」との関係がよく誤解を招きます。
ニコチンとニコチン酸とは、
基本的には全く別の物質ですが、
ある条件でニコチンを加熱すると、
ニコチンが酸化してニコチン酸になるので、
この物質がニコチン酸と命名された、
という経緯があります。
しかし、実際に人間の身体の中で、
そうした反応の起こることはありません。

また、ナイアシン(niacin )という言葉があります。

ニコチン酸は体内でアミノ基と置換して、
ニコチン酸アミド(nicotinic acid amide )になりますが、
この2つを総称して、ナイアシンと呼ぶことがあります。
その一方で、ニコチン酸のみをナイアシンと呼ぶこともあり、
それが非常に混乱の元になっています。

さて、ニコチン酸とニコチン酸アミドは、
単独で固有の作用を現わしますが、
それ以外に人間の身体の中で、
NADとNADPという名前の物質に変換します。
このNADは、人間の身体のエネルギー代謝に、
なくてはならない物質であると共に、
人間の老化やメタボリックシンドロームの予防にも、
大きな役割が期待されています。

余分なカロリーを摂ると、
その行為は細胞の老化に繋がります。
肥満は動脈硬化を進行させ、
それが脳梗塞や心筋梗塞などの原因となる訳ですが、
そうしたことの以前に、
細胞内への余分なエネルギーの流入自体が、
細胞の寿命を縮めるのです。

しかし、生物というのはうまく出来ているもので、
身体にはこの細胞の老化を、
遅らせる蛋白質が存在しています。
この蛋白質をSirt1 と呼んでいます。
赤ワインが老化を抑えるとか、動脈硬化を抑える、
といった話がありますね。
これは赤ワインの中のポリフェノールである、
レスベラトロールという物質が、
このSirt1 の活性を高めるためだと言われています。

そして、このSirt1 は細胞の中のNADの量が増加することで、
その活性が高まるということも、
ほぼ明らかになっています。

つまり、ニコチン酸は細胞内のNADを上げることにより、
Sirt1 を活性化させ、そのことによって、
細胞の老化を防ぎ、
メタボリックシンドロームを予防する効果も、
あると考えられるのです。

さて、ナイアシンの1日の必要量は、
15ミリグラム程度とされています。
肉類や野菜などに含まれていて、
普通の食事を摂っていれば、
不足することは稀な成分ですが、
その含有量が意外に多いのがコーヒーです。

コーヒー1杯には、
1ミリから多くて2ミリくらいのナイアシンが含まれています。

ただ、その吸収の実際などについては、
これまであまり正確なことが分かっていませんでした。

今回の研究は10人のボランティアに対して、
ナイアシンを制限したダイエットを指示し、
2日間はコーヒーを禁止した上で、
500ミリリットルのコーヒーを一気に飲み、
その後36時間までの尿中のナイアシンの代謝産物の濃度を、
経時的に測定しています。

その結果、
飲んでから1時間後には既に代謝産物の排泄が始まり、
12時間以内に排泄は完了しています。
トータルで身体に入った4.36ミリグラムのナイアシンのうち、
6%が代謝されたという計算になります。

これが多いか少ないかは何とも言えませんが、
コーヒーに含まれているナイアシンが、
比較的速やかに身体に入って利用されることはほぼ間違いがなく、
コーヒーは重要なナイアシンの摂取源であると、
そうした言い方はして問題ないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒー、お茶、ココアと脳卒中との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒー、お茶、ココアと脳卒中.jpg
これは2014年のStroke誌に掲載された解説記事ですが、
コーヒーとお茶とココアの、
脳卒中予防についての知見をまとめたものです。

コーヒーもお茶もココアも、
いずれも生理活性物質のポリフェノールを多く含む飲み物で、
その種類は異なりますが、
抗酸化作用や抗炎症作用を持ち、
動脈硬化の進行予防や、
心血管疾患のリスク低下に役立つという知見が、
それぞれに集積されています。

ただ、この3種類の飲み物にもそれぞれに違いがあり、
それを今日は主に脳卒中予防という観点からまとめてみたいと思います。

なお、本文の内容は、
上の2014年のレビューを元にしているので、
基本的に2014年までのデータのまとめです。
その後の知見は反映されていないことにご注意下さい。
ただ、コーヒーの文献についてはその後のものも結構読んでいますが、
この時点での知見を覆すようなものはないように思います。

1.コーヒーと脳卒中
コーヒーには数百種類の生理活性物質が含まれていて、
その中には心血管疾患に良いと思われるものもあり、
その一方で有害と思われるものもあります。
これがコーヒーと健康との関係を考える時に、
難しい問題を孕んでいます。

コーヒーに多く含まれている生理活性物質は、
カフェインと油に含まれるジテルペン、
ポリフェノールのクロロゲン酸の3種類です。

この成分がどの程度の比率で存在しているかで、
コーヒーの身体への効果は代わる可能性があります。

コーヒーの淹れ方にはフィルターを使う方法と、
そのままボイルして抽出する方法の2種類があります。
ペーパードリップなどはフィルターを使用する方法で、
フレンチプレスやエスプレッソは、
フィルターを使用しない淹れ方です。

カフェインは血圧を上昇させる性質があります。
200mgから300mgくらいのカフェインを一気に摂取すると、
収縮期血圧は中央値で8.1mmHg上昇した、
というデータがあります。
この変化は摂取後1時間以内で現れ、
3時間は持続します。
ただ、慢性のカフェイン摂取では血圧は上昇しない、
という報告が多く、
疫学データとしても、
コーヒーを沢山飲む人の方が、
血圧が高いというデータは得られていません。
コーヒーはゆっくり飲むものですから、
カップ3杯かそれ以上に相当する量を、
一気に飲むということはないからかも知れません。

コーヒーの油脂の主成分は中性脂肪で、
そこに代謝物のジテルペンが含まれています。
これまでの研究によると、
このジテルペンには、
血液中のコレステロールや中性脂肪を増加させる作用があります。

このジテルペンは、
フィルターで淹れたコーヒーでは濾過されるので、
その大部分は除去されます。
また水出しのコーヒーではジテルペンは少なくなります。

つまり、エスプレッソやフレンチプレスなどの、
アンフィルターの淹れ方のコーヒーでは、
他の淹れ方に比べてジテルペンが多くなり、
コレステロールが上昇し易い、
という可能性があるのです。
一番多いのがフレンチプレスやスカンジナビアローストで、
中間くらいがエスプレッソと言われています。

実際に2012年に発表されたメタ解析の論文では、
アンフィルターのコーヒーで、
総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の増加が認められた一方、
フィルターで淹れたコーヒーでは、
軽微な変化しか認められていません。

クロロゲン酸はコーヒーに含まれるポリフェノールの代表で、
基礎実験や動物実験において、
抗酸化作用が確認されています。

ただ、動脈硬化に結び付くとされる、
LDLコレステロールの酸化を、
クロロゲン酸が人間でも抑制するかどうかは、
まだ確実とは言えません。

2014年の時点までに3つの研究があり、
そのうちの2つでは淹れ方に関わらず、
コーヒーによるコレステロールの酸化防止作用が確認されていますが、
残りの1つでは確認されていません。

クロロゲン酸はカフェインと反対に血圧降下作用があり、
おそらく一酸化窒素を介した血管拡張作用によると考えられています。

最近の疫学データにおいて、
1日3から4杯くらいまでのコーヒーが、
心血管疾患を減らすというのはほぼ一致した見解ですが、
脳卒中単独で見ると、
その差はそれほど明確ではありません。
概ね3から4杯くらいのコーヒーで、
15から20%程度の脳卒中リスクの低下が報告されています。

2.緑茶や紅茶と脳卒中
お茶には紅茶と緑茶、ウーロン茶などがありますが、
これは茶葉の発酵の度合いによる違いです。
緑茶は発酵させていないお茶で、
少し発酵したお茶がウーロン茶、
それをより発酵させたのが紅茶です。

お茶はフラボノイドが含有されているのが、
その特徴ですが、
緑茶のフラボノイドはカテキンが主体で、
紅茶のフラボノイドは、
発酵の過程で酸化され、
テアルビジンなどの二次産物に変化しています。

お茶に含まれるフラボノイドとその酸化物は、
コレステロール降下作用と血管内皮細胞機能の活性化などが、
基礎実験や動物実験で確認されていて、
そのことから動脈硬化の進展防止に有効と考えられています。

臨床研究において報告があるのは、
緑茶や紅茶の摂取による、
コレステロール低下作用や血圧降下作用、
そして血管内皮細胞機能改善作用で、
特に血流依存性血管拡張反応と呼ばれる検査で測定された、
血管内皮機能の改善作用が、
精度の高いデータで確認されています。

お茶による脳卒中の予防効果は、
緑茶における日本の研究(2013年発表多目的コホート研究の解析データ)では、
1日4杯以上の緑茶の摂取で20%の予防効果が認められていて、
スウェーデンの紅茶を対象としたデータでは、
1日4杯以上の紅茶の摂取で21%の予防効果が認められています。
こうしたデータを見る限り、
緑茶でも紅茶でも、
脳卒中の予防効果にはそれほどの差はないようです。

3.ココアと脳卒中
ココアやチョコレートに含まれている、
カカオポリフェノールには、
抗酸化作用と抗炎症作用のあることが確認されています。
ただ、この効果はミルクを入れたココアや、
ミルクチョコレートではあまり認められません。
ココアやチョコレートを使用した介入試験のメタ解析では、
ココアやチョコレートによる血圧降下作用が報告されています。
ただ、個別の研究結果では、
その降下作用は明確ではありません。
ココアやチョコレートは、
インスリン抵抗性を改善し、
血管内皮機能を改善する効果が報告されています。

脳卒中とココアやチョコレートとの関係では、
メタ解析で19%そのリスクを減らした、
という報告があります。
ただ、お茶やコーヒーと比べると、
データ自体は少ないのが実際です。

4.まとめ
コーヒーもココアもお茶も、
一定の脳卒中予防効果のデータは存在しています。

比較的信頼性の高いデータとしては、
ココアとお茶は血管内皮機能を改善し、
お茶はコレステロールを下げ、
ココアはインスリン感受性を改善しています。

お茶の効能はほぼカテキンなどのポリフェノールの効果で説明され、
ココアの効能はほぼココアフラボノイドで説明されますが、
コーヒーについてはより多彩な生理活性物質を含み、
そのうちのどれがどのように効果を示しているのか、
まだ明確ではないのが実際なのです。

今日はコーヒー、お茶、ココアを比較した、
主に脳卒中予防のエビデンスについてのまとめでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーと大動脈弁狭窄症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒーと大動脈弁リスク.jpg
2018年のNutrition, Metabolism & Cardiovascular Diseases誌に掲載された、
コーヒーの飲用と、
大動脈弁狭窄症という弁膜症のリスクについての論文です。

今日も故あってコーヒーの話題です。

コーヒーは以前には血圧や脈拍を増加させることから、
心臓病などのリスクであると考えられていましたが、
最近の大規模な複数の疫学データからは、
むしろ心血管疾患のリスクを減少させる効果が確認されています。

ただ、動脈硬化と関連のある弁膜症である、
大動脈弁狭窄症とコーヒーとの関係については、
これまでにあまりデータがありませんでした。

今回の研究は国民総背番号制を取るスウェーデンのもので、
71178名の一般住民のデータを解析し、
コーヒーの摂取量と大動脈弁狭窄症の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
平均の観察期間15.2年の間に、
1295名の対象者が大動脈弁狭窄症と新規に診断されています。
年齢、性別、喫煙歴などの要素を補正した上で、
コーヒーの飲用習慣と大動脈弁狭窄症の発症リスクとの関連を見たところ、
1日のコーヒーの摂取量が0.5杯未満の場合と比較して、
コーヒーの摂取量が6杯以上では、
1.65倍(95%CI; 1.10 から2.48)有意にリスクが増加していました。
コーヒーの摂取量が多いほどそのリスクは高い傾向を示していましたが、
明確に有意な差があるのは、
1日6杯以上という最も多い群でのみでした。

これまでの結果を総合して考えると、
1日3から4杯くらいまでのコーヒーの摂取は、
大動脈弁狭窄症の明確なリスクではなさそうですが、
1日6杯を超えるようなレベルになると、
場合によりそのリスクが増加する傾向が否定出来ないと、
そう考えた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーと急性心筋梗塞リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒーと急性心筋梗塞リスク.jpg
2006年のJAMA誌に掲載された、
コーヒーと急性心筋梗塞との関連を、
カフェインの代謝酵素の個人差で検証した論文です。

今週はちょっと事情があって、
コーヒーと過敏性腸症候群以外の記事は多分ありません。

コーヒーが総死亡のリスクや、
心血管疾患のリスクを減少させるという知見は、
疫学データとしてはほぼ確立された感がありますが、
一昔前まではコーヒーは心血管疾患、
特に虚血性心疾患のリスクを増加させる、
という考え方が一般的でした。

コーヒーに含まれる生理活性物質の代表であるカフェインは、
交感神経の刺激作用があり、
血圧も短期的には上昇させますし、
不整脈の誘発作用などもあって、
心臓には良くないという考え方があったからです。
実際にコーヒーを沢山飲むと急性心筋梗塞のリスクが増加する、
という疫学データも複数存在していました。
ただ、その一方で有意な関連はない、
というデータもまた複数存在していたのです。

コーヒーは心臓に良いのでしょうか、悪いのでしょうか?

コーヒーに含まれているカフェインが問題であるとすると、
体内に入ったカフェインは、
肝臓でCYP1A2という酵素により代謝を受けますが、
その酵素には幾つかのタイプがあって、
活性型の変異があればカフェインの代謝は促進され、
逆に活性の低下した変異があれば、
カフェインの代謝は抑えられて、
それだけカフェインの血液濃度は増加する、
ということになります。
つまり、同じ量のコーヒーを飲んでいても、
それによるカフェイン濃度の増加の程度は、
酵素活性のタイプによって大きく異なるという可能性があるのです。

今回の研究はコスタリカの住民を対象としたものですが、
初回の非致死性急性心筋梗塞を起こした2014例を、
年齢性別などをマッチさせた2014例のコントロールと比較して、
コーヒーの摂取量とCYP1A2のタイプとに分けて解析を行っています。

その結果、
心筋梗塞を起こした事例の54%は、
カフェインの代謝酵素が低活性型で、
低活性型の対象者のみを解析すると、
コーヒーを多く飲むほど心筋梗塞の新規発症リスクは増加していました。
コーヒーの摂取量が1日1杯未満と比較して、
4杯以上飲む人は心筋梗塞のリスクが、
1.64倍(95%CI: 1.14 から2.34)有意に増加していました。
しかし、これを高活性型の変異を持つ対象者のみで解析すると、
そうした有意なリスクの増加は見られませんでした。

つまり、
1日に3から4杯程度のコーヒーでリスクが増加するのは、
カフェイン濃度が増加しやすい低活性型の変異を持つ人に、
限った現象である可能性が高い、
という結果です。

最近では心血管疾患のリスクも、
コーヒーを飲む人の方がむしろ低下する、
という報告が多いのですが、
酵素活性の程度によってはそうでない可能性もあり、
こうした個人差にも、
充分注意を払う必要があることを示した点で、
意義のある結果であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ハッピーエンド」(ミヒャエル・ハネケ監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ハッピーエンド.jpg
一筋縄ではいかない、
如何にもヨーロッパ的で、
ブラックでひねくれていて残酷で、
それでいて家族や人間というものに対する、
奇妙なほど純粋な視点と愛情にも満ちた、
オーストリアのミヒャエル・ハネケ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

以前「隠された記憶」という作品を観て、
「衝撃的なラスト」という宣伝だったのに、
最後まで観ても全く訳が分からず、
モヤモヤする思いだけを抱えて観終わったことがあったので、
今回はなるべく予備知識も得た上で、
真剣に細部を見逃さずに鑑賞しようと劇場に足を運びました。

ただ今回の作品は意外に分かりやすくて、
ハネケ監督お馴染みの家族崩壊劇なのですが、
最初から最後まで筋立ては明確で晦渋さはなく、
ラストもなかなか衝撃的で、
オープニングと見事に呼応している辺りもさすがだと思います。

勿論物語は省略が多く、
台詞を廃したサイレント的な長回しを含めて、
最初から最後まで独自のゆったりとしたテンポで、
全体が支配されているので、
それほど観やすいという映画ではないのですが、
それでも「隠された記憶」のように、
観客が投げ出されたような状態になることはなく、
ハネケ監督の独特の世界に、
ゆっくりと身を委ね、
その体験を共にすることが出来る作品に仕上がっていました。

以下少しネタバレがあります。
先入観なく作品を観たい方は、
鑑賞後にお読み下さい。

観る値打ちは間違いなくある作品です。

今回の映画は前作「愛、アムール」とほぼ同じ設定の親子を、
前作と同じ2人の役者さんが演じ、
そこに娘より1つ世代が下の少女を登場させることにより、
コミュニケーション障害の塊のようなフランスのある裕福な家族が、
虚構の沼の中に静かに沈んで行く様を描きます。

これはネタ割れをして良いと思うのですが、
今回の「観客の視点」としての少女は、
2005年の日本の、
女子高生がタリウムで母親の毒殺を企て、
それを冷徹に記録に残してネットで公開していた、
という衝撃的な事件を元にしていて、
その「死を観察し記録する少女」が、
フランスの没落した名家に入り込み、
その崩壊をつぶさに記録してゆく、
という物語になっています。

SNSやスマホの画面が、
頻繁にその観察の器具として登場するのがミソで、
宣伝のポスターも、
よく見るとスマホの画面になっていますし、
映画もオープニングが少女がネズミと母親に薬を盛る、
その観察記録のスマホ映像から始まり、
ラストは祖父の自死の場面を目の前にしながら、
それをスマホで記録するしかない少女の姿から、
そのスマホの画面で幕を閉じます。

これは構造としては、
楳図かずおの「おろち」や「猫目小僧」に近い世界で、
人間や怪物が入り交じる悪夢のような世界を、
冷徹で人間でも化け物でもない、
その狭間の存在が、
静かに見守るという物語です。
見守る傍観者というのは要するに読者や観客のことでもある訳ですが、
そこに1つの視点を介在させることによって、
物語の意図をより明確化すると共に、
その傍観者もまっさらな存在ではないことを示すことで、
読者や観客にもある種の覚悟を強いているのです。

今回の作品においては、
ハネケ監督が描きたい世界、
自分の愛情と共に世界を道連れに破滅に向かう意思を、
母親を殺しそれをスマホで記録するしかない少女に、
記録させることによって、
このディスコミュニケーションの時代において、
世代を超えて何かが引き継がれる様を、
描いているのだと思います。

ハネケ監督はそう思ってみると、
いつも同じテーマを繰り返していると言うことも出来て、
意味不明に思えた「隠された記憶」も、
要するに今回の少女と同じように、
ビデオ映像と子供の世代が、
父親の罪を暴くという物語で、
その単純な告発とも言い切れない微妙なもの、
世代を引き継がれるある種の怨念のようなものが、
その基調音として流れているように思うのです。

映像は美しいですし、
現代のヴィスコンティというの感じの、
デカダンスな雰囲気もまた良いのです。
人間関係などは複雑であまり説明も丁寧ではないので、
一応の予備知識は持った上で、
鑑賞されることを個人的にはお薦めします。

一般向きとは言えない映画ですが、
僕個人としてはとても刺激的で、
他人事ではないという思いで観た映画でした。
思えば今の日本人も、
日本という国の没落を目の前にしながら、
ディスコミュニケーションと世代の断絶のただ中で、
何を世代を超えて伝えるべきなのか、
当惑しあがき苦しんでいるようにも思えます。
あなたは何を自分の「罪」として子供に伝え、
何を理解して欲しいと思いますか?
ハネケ監督はおそらく、
理解を求めることは既に過ちで、
もう人間であることを止めた存在である、
若い世代という、
ある種の記録装置に告解せよと言っているのです。
ハネケ監督は矢張りただ者ではありません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「グレーテスト・ショーマン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
グレーテスト・ショーマン.jpg
2月に公開されたヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画を、
遅ればせながら観て来ました。

「ラ・ラ・ランド」はあまり好みではありませんでしたし、
ミュージカル自体それほど好きではないので、
スルーしようと思っていたのですが、
バーナムという一世を風靡した見世物興行師に興味が沸いたのと、
19世紀のコロラトゥーラの名花で、
マイヤベーアの至難のオペラを初演もしている、
ジェニー・リンドが登場することも知ったので、
これは観ておかないといけないと、
映画館に足を運びました。

これはなかなか良く出来た映画で、
ショー・ビジネスというものや、
大衆見世物的なものに興味のある方なら、
絶対に引き込まれると思います。

実際のバーナムというのは、
もっと脂ぎった、
いかがわしくもどぎつい男だったのではないかと思いますが、
その上昇志向はそのまま描きながら、
妻と2人の愛らしい娘への情愛をクローズアップして、
家族の危機と興行自体の危機とに、
ハラハラドキドキさせる、
如何にもハリウッド的な物語に、
巧みに着地させているのが上手いのです。

こんなだった訳はないよね、
とは思いながらも、
とても良いお話になっているので、
何となく納得をしてしまうのです。

映画の魔術ですね。

見世物小屋のスターであった、
畸形の皆さんが登場するのですが、
それほどどぎつい感じには描かれていません。
もう少しリアルな感じも欲しいな、とは思いますが、
それはこうした映画の本分ではないのだと思います。

バーナムはたまたま出逢ったソプラノ歌手の、
ジェニー・リンドに惚れ込み、
自分の見世物をそっちのけで彼女のツアーに尽力するのですが、
彼女は実在の名ソプラノで、
コロラトゥーラの名手であった筈なので、
せっかくだからもう少しコロラトゥーラらしい歌も、
歌って欲しかったな、と思いました。
その点はちょっと残念ですが、
この作品の全体のトーンとしては、
リアルな歌は馴染まなかったのかも知れません。

ともかくこれは面白い素材で、
この映画はこの映画として良いのですが、
もう少しリアルに振った、
アメリカ19世紀の見世物興行の実体を、
リアルに見せてくれるような映画もまた、
いつか観たいと思いました。
一方にコロラトゥーラの歌があり、
一方に畸形の曲芸があるという、
アンバランスかつ魅力的な世界が、
是非観てみたいと思うからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
トウガラシの頭痛.jpg
2018年のBMJ Case Rep.誌の症例報告ですが、
世界一辛い唐辛子を食べて、
その直後に脳の血管攣縮を起こしたという、
インパクトのある面白さから、
一般のニュースでも取り上げられているものです。

まず、紹介されている事例をご説明します。

35歳の男性が、
激辛コンテストのような大会で、
ギネスで認定されている、
世界一辛い唐辛子「キャロライナ・リーパー」を食べたところ、
その直後から後頭部から首にかけての激しい痛みが起こり、
それが頭全体に広がりました。
その後日に何度も、
雷に打たれたような痛みの発作(雷鳴様頭痛)が、
彼を襲います。

数日後に救急病院を受診して精査が行われました。
脳内出血やクモ膜下出血は否定されましたが、
CTによる血管造影で、
次のような所見が認められました。
こちらです。
唐辛子による血管攣縮.jpg
左のAが頭痛時のもので、
矢印の部分が異常に収縮した血管を示しています。
右のBは症状が改善した5週間後のもので、
同じ場所の血管が、
明らかに太く映っているのが分かります。

血管攣縮というと、
心臓を栄養する冠状動脈という血管に起こる、
冠攣縮性狭心症が有名ですが、
脳の血管にも同様の攣縮が起こり、
それが激しい頭痛などの原因となることが報告され、
2007年に可逆性脳血管攣縮症候群という名称が提唱されました。

その原因は不明の場合も多いのですが、
大麻などの麻薬や、
抗うつ剤のSSRI、片頭痛治療薬のトリプタン製剤などが、
その原因薬物として報告されています。
妊娠も誘因として報告されています。
突然起こる雷鳴様と表現されるような激しい発作性の頭痛がその特徴で、
その診断は脳のCTやMRIなどの造影検査で、
出血などが否定され、血管の攣縮が確認されれば確定します。

この病気は基本的には一時的なもので、
後遺症などは残さないのですが、
元々の血管に脆い部分などがあると、
攣縮をきっかけとして脳梗塞に至ったり、
クモ膜下出血や脳内出血を合併する事例も報告されています。
つまり、そう甘く見ることも危険です。

治療はカルシウム拮抗剤
(海外ではニモジピン、国内ではベラパミル)が、
一定の有効性があるとして使用されていますが、
その効果を疑問視する意見もあるようです。

今日は激辛唐辛子で誘発される頭痛という、
ちょっと興味深い症例報告についての話題でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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帯状疱疹予防ワクチン発売 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
帯状疱疹予防ワクチン発売.jpg
グラクソ社の2018年3月23日の発表資料ですが、
日本初の帯状疱疹予防ワクチンが国内製造販売承認を得た、
という内容です。

このワクチンについては過去にも何度か取り上げています。

現状有効性の確認されている、
唯一の帯状疱疹予防の不活化ワクチン、
HZ/suワクチンと呼ばれている、
免疫増強剤を添加したワクチンが、
近いうちに日本でも使用可能となるようです。

今日は帯状疱疹を予防するワクチンについてのこれまでの経緯を、
まとめておきたいと思います。

帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。

この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こします。

通常水ぼうそうのウイルスに感染したことがあるかどうかは、
血液の抗体の上昇で判断し、
抗体が上昇していれば、
再び水ぼうそうに感染することはないのですが、
身体に潜んでいるウイルスが、
帯状疱疹という形で再燃することは、
抗体が陽性であっても起こり得るのです。

水ぼうそう自体の予防は、
抗体があれば充分ですが、
帯状疱疹の予防には、
このウイルスの抗原に反応する、
CD4陽性のTリンパ球という、
免疫細胞の産生が必要と考えられています。

水ぼうそうに罹ってしばらくの間は、
こうした細胞も多く存在しているので、
帯状疱疹は予防されているのですが、
時間が経つと次第にその数は減り、
年齢と共にその産生能自体も低下するので、
帯状疱疹が発症し易くなる、
という理屈です。

さて、帯状疱疹を予防するには、
抗原刺激を与えて、
それに反応するリンパ球が増えれば良いということになります。

その方法として、
通常考えられるのはワクチンの接種です。

水痘ワクチンは生ワクチンで、
このウイルスを弱毒化したそのものです。

通常小さなお子さんに2回接種して、
水ぼうそう自体を予防することを目的としています。

それでは、
このワクチンを大人に打てば、
免疫は再び賦活され、
帯状疱疹が予防されるのではないでしょうか?

この目的で国産のワクチンより、
基準値としては10倍以上多い抗原量を持つワクチンが、
帯状疱疹予防用に開発され、
アメリカにおいて大規模な臨床試験が行われました。
商品名はZOSTAVAXです。
その結果は2005年のNew England…誌に発表されています。

それによると、
50から59歳の年齢層においては、
帯状疱疹用の強化水痘ワクチンの1回接種によって、
帯状疱疹の発症が70%抑制され、
60から69歳では64%、
70歳以上では38%の抑制が認められた、
という結果になっています。
打った場所の腫れや痛み以外には、
目立った副反応は見られていません。
ワクチンの有効性は接種後10年は維持されますが、
発症の抑制が有意に確認されているのは、
8年までというデータがあります。

このように、
強化水痘ワクチンを接種することによって、
ある程度の細胞性免疫の賦活が起こり、
帯状疱疹の発症が、
一定レベル予防されることは間違いがありません。

ただ、数字を見て頂くと分かるように、
満足の行く効果とは言えません。

日本においても1990年代の早い時期に、
国産の水痘ワクチンを高齢者に接種した場合、
50から69歳で約90%、
70歳以上で約85%で、
接種による細胞性免疫の上昇が認められた、
という研究結果が報告されています。

しかし、これは敢くまで細胞性免疫に動きがあった、
というだけのもので、
それが帯状疱疹の予防に充分なレベルであるのかを、
実際に確認しているものではありません。

日本においては、
従来から使用されている水痘生ワクチンが、
そのまま50歳以上の帯状疱疹予防への適応となり、
2016年の4月より承認され、
添付文書の改訂が行われました。

日本の文献には国産の水痘ワクチンの力価は、
欧米の帯状疱疹予防用の物より、
基準値としては低いけれど、
実際にはその力価はかなり幅のあるものなので、
平均するとほぼ同等の効果が期待出来る、
という記載が多く見られ、
今回改訂された添付文書においても、
海外の帯状疱疹予防ワクチンと同等のもの、
という考えから、
臨床的な有効性のデータは、
海外データがそのまま引用されています。
しかし、直接比較をして効果を検証しているものではないので、
その真偽は定かではありません。

要するに、
国産のワクチンを帯状疱疹予防に使用しても、
有効であるかどうかの、
精度の高いデータは存在していないのです。
(この点については、ほぼ確実と思うのですが、
全ての知見に目を通している訳ではないので、
もしデータが発表されているようでしたら、
優しくご指摘を頂ければ幸いです)

さて、前述の海外データでも分かるように、
水痘の生ワクチンを高齢者に使用した場合、
その効果は高齢になるほど減弱し、
70歳以降での接種の意義はあまり大きいとは言えません。
また、生ワクチンという性質上、
高度に免疫の低下した患者さんや、
骨髄幹細胞移植後の患者さんなどは禁忌となっています。

そこでより効果が高く、
高齢者や免疫の低下した患者さんにも、
使用の可能なワクチンの開発が、
海外においては進められました。

2015年のNew England…誌に、
その第3相臨床試験が発表されています。
それがこちらです。
50歳以上の帯状疱疹ワクチン.jpg

使用されたワクチンは、
今回本邦発売のグラクソ社のもので、
HZ/suワクチンと命名されています。

これは水痘・帯状疱疹ウイルスの一部の糖蛋白抗原に、
細胞性免疫の強い増強作用のある、
AS01Bという免疫増強剤(アジュバント)を添加したものです。

このワクチンを2ヶ月間隔で、
2回筋肉注射をして、
その後平均で3.2年の経過観察を行ない、
その間の帯状疱疹の発症を、
偽ワクチン接種群と比較しています。

トータルの事例数は年齢50歳以上の15411例で、
それを7698例のワクチン接種群と、
7713例の偽ワクチン群にくじ引きで振り分けます。

結果は全体と、
50から59歳、60から69歳、70歳以上という、
年齢毎に解析もされています。
これは勿論、
強化水痘生ワクチンの臨床試験の結果と比較するためです。

その結果…

トータルでは観察期間中に、
偽ワクチン群では210例(年間1000人当たり9.1例の発症率)
の帯状疱疹が発症したのに対して、
ワクチン接種群では6例(年間1000人当たり0.3例)に留まっていて、
ワクチンの有効率は97.2%(93.7から99.0)と算定されました。

これを年齢層毎に見ると、
50から59歳の有効率が96.6%、
60から69歳の有効率が97.4%、
70歳以上の有効率が97.9%で、
年齢に関わらずに高い有効率が維持されていることが分かります。

両群の有害事象の頻度は、
ワクチン接種群が高くなりましたが、
その多くは接種部位の腫れや痛みで、
自己免疫疾患の発症や死亡リスクなどについては、
両群で明らかな差は認められませんでした。

帯状疱疹の予防という観点では、
ここまで有効なワクチンはこれまでになく、
この結果はかなり画期的なものと言って良いと思います。

ただ、この試験結果では、
70歳以上の年齢層の対象者は、
ワクチン接種者で1809名、
コントロールを含めても3632名です。

これでは70歳以上の高齢者への、
効果と安全性を確認するには不充分ということで、
同一試験の延長として、
同じ第3相の臨床試験として、
ワクチン接種群が6950名、
コントロール群が同じ6950名、
平均年齢が75.6歳で、
全て70歳以上の高齢者においてのデータが発表されています。
平均の観察期間は3.7年です。
それがこちらです。
70歳以上の帯状疱疹ワクチンの効果.jpg

観察期間中に、
ワクチン接種群での帯状疱疹の発症率は、
年間1000人当たり0.9件(実数で23件)であったのに対して、
コントロール群では9.2件(実数で223件)で、
ワクチンの有効率は84.2%(84.2から93.7)と算出されました。

年齢別に見ると、
70代が90.0%で、
80歳以上が89.1%です。

これを2015年に発表された、
50歳以上の年齢層の試験と合わせて解析すると、
70歳以上の16596例のデータとして、
ワクチンの有効率は91.3%(86.8から94.5)で、
帯状疱疹後神経痛の予防効果は88.8%(68.7から97.1)でした。

重篤な有害事象は、
コントロール群との間で有意な差はありませんでした。

この結果を見る限り、
70歳以上の年齢層においては、
従来の水痘生ワクチンやその抗原量を調整したワクチンでは、
帯状疱疹予防効果は不充分で、
免疫増強剤を使用したサブユニットワクチンに軍配が挙がる、
ということになります。

ただ、これはZOSTAVAXとの直接比較ではありません。
両者の臨床データを確認してみると、
ZOSTAVAXのコントロール群の方が帯状疱疹後神経痛の頻度は多く、
より感染が悪化しやすいような対象が、
選ばれている、という可能性があります。

従って、全く同じ対象群で比較すれば、
サブユニットワクチンとそれほどの差はないのではないか、
という推測も可能なのです。

今回のグラクソ社の臨床試験のデータの中には、
日本のものも含まれていて、
上記報道資料の記載によれば、
日本のみの解析でもほぼ同等の効果があったようです。

このワクチンが帯状疱疹予防に有効であることは、
ほぼ間違いがありませんが、
免疫増強剤を添加したワクチンが、
高齢者に使用されることは、
本邦ではこれまであまりなかったことでもあり、
その導入後の経過については、
慎重に情報を収集してゆきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの代謝への影響の新知見 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒーの代謝変更作用.jpg
2018年のJournal of Internal Medicine誌に掲載された、
コーヒーを飲むことによる身体の変化を、
多くの代謝産物の分析で検証した論文です。

これまでに何度も触れているように、
コーヒーを1日3から4杯程度飲む習慣が、
糖尿病や心血管疾患、一部の癌、パーキンソン病などのリスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることは、
国内外の多くの疫学データが一致して示しているので、
ほぼ間違いのない事実と思われます。

ただ、その原因がどこにあるのかと言う点については、
必ずしも明らかではありません。

コーヒーに含まれる生理活性物質として、
有名な物は何と言ってもカフェインですが、
カフェインには抗炎症作用や強心作用などがある一方で、
血圧を上昇させたり不整脈を誘発するなど、
身体に有害と思えるような作用があることも知られています。

コーヒーの作用がカフェインの作用と同一であるとすれば、
別にそれがコーヒーである必要はない訳で、
カフェインのサプリメントでも良く、
またお茶など他の飲み物でも同じ筈ですが、
そこのところはまだ差があるかどうかはっきりしません。

コーヒーにはカフェイン以外にも、
100種類を超える生理活性物質が含まれている、
というように言われていますが、
その役割は意義もはっきりとはしていないのです。

今回の研究はフィンランドにおいて、
47名のコーヒー愛飲者を対象として、
最初の一か月はコーヒーを一切飲まず、
次の一か月は1日に4杯(1杯150ミリリットル)のコーヒーを飲み、
その次の一か月は1日に8杯のコーヒーを飲んで、
その終わりの時期に、
血液中の115種類の代謝物を測定して解析します。

その結果、
当然影響するカフェインとキサンチン関連の代謝産物以外に、
ステロイド代謝の代謝物や、
脂質代謝に関連する代謝物、
また身体のバランスを調節するとされるエンドカンナビノイドの代謝物などに、
コーヒーの飲用による増加や減少などの明確な変動が認められました。
この全ての意味合いは不明ですが、
一部は脂肪の分解に結び付く変化や、
食欲の低下に結び付くような変化も示唆されていて、
カフェイン以外のこうした代謝産物の増減などの効果が、
コーヒーの作用に関連しているという知見は、
これまでにあまりないもので、
今後こうした面でも検証も期待をしたいと思います。

コーヒーはなかなか面白いですよね。

最近はツボなのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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