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「女は二度決断する」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
女は二度決断する.jpg
2017年製作のドイツ映画で、
ドイツ出身のダイアン・クルーガーが、
母国語で熱演する映画が、
今ロードショー公開されています。

これはトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督による作品で、
ネオナチによる爆破テロ事件を素材とした、
かなりの問題作です。

ダイアン・クルーガー演じるドイツ人の女性は、
クルド人の男性と彼が麻薬売買で収監中に結婚し、
男の子をもうけるのですが、
ネオナチの無差別テロの標的となり、
夫と子供を失ってしまいます。
犯人と思われるネオナチの若いカップルが捕まりますが、
裁判は主人公の思うようには進みません。
そして、主人公はある決断をすることになるのです。

この映画は日本の観客の感想も、
だいぶ割れている感じなのですが、
それは1つにはラストの主人公の決断が、
倫理的には確実に許されないものなので、
そこに対するある種の拒否反応もあるのではないかと思います。
ただ、一昔前の日本映画など、
こんな感じの映画ばかりだったと思いますし、
映画の中ではそこに至るまでの主人公の心理が、
段階を踏んで説得力を持って描かれているので、
個人的には映画という虚構としては、
ありではないかと思いました。

普通こうした映画では、
主人公は善人で同情するべき存在として描かれるのですが、
この映画はそうではなくて、
主人公の夫は裏社会とも関係のある人物で、
結婚自体収監中ですし、
主人公も悲劇の後で麻薬を使用して取り調べを受けています。
夫の遺体を夫の両親には渡さないと、
一方的に身勝手な振る舞いもしますし、
直情的で後先のことも考えずに行動して、
あちこちでトラブルを起こしてしまいます。

ただ、こうしてディテールがリアルに描かれているので、
問題の複雑さがより露になっていると思いますし、
主人公の心情も、
より説得力を持って観客に届いているのだと思います。

ダイアン・クルーガーは、
精魂を込めたことの感じられる熱演で、
観客が感情移入することの難しい厄介な役柄を、
見事に演じていたと思います。

演出は緻密かつ的確で細部に緩みがなく、
特に中段の裁判シーンが迫力があり優れていました。
ただ、それだけで終わらないのがこの映画の凄みで、
後半はギリシャに舞台を移し、
明らかにゴダールの「気狂いピエロ」を意識した、
青い空と海とが混じり合う、
衝撃的なラストに結びつけた辺りも鮮やかだと思いました。

このようにハリウッド製や日本映画の規制だらけの世界からは、
一線を画した優れた映画で、
好き嫌いはあるかと思いますが、
劇場に足を運ぶ値打ちは間違いなくあると思います。

なかなか面白いですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ヘッダ・ガブラー」(2018年栗山民也演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ヘッダ・ガブラー.jpg
イプセンの名作「ヘッダ・ガブラー」が、
シス・カンパニーの賑々しいキャストと、
栗山民也さんの地味で暗い演出で上演されています。

イプセンは19世紀としては異様な感性を持った、
とても魅力的な劇作家ですが、
日本では「人形の家」が新劇の黎明期に取り上げられ、
自立する女性のシンボルのように、
その主人公が描かれたために、
お行儀の良いお芝居のように、
誤解されている感があります。

この「人形の家」からして、
実際にはかなりグロテスクで奇怪な作品で、
男女のドロドロとした愛憎が表現されているのですが、
今回上演されている「ヘッダ・ガブラー」は、
より複雑で変態的で奇怪で魅力的な作品です。

主人公のヘッダは高名な将軍の娘で社交界の花形でしたが、
平凡な学者を夫に選んでしまいます。
しかしそこにかつて自分が見限った若い学者が、
献身的な女性の助けで立ち直って現れます。

ヘッダは自分の選択が誤りであったことに苦悩し、
それを認めることを拒否して、
異様な妨害でかつての恋人を破滅させ、
自分も破滅への道を辿ります。

この物語の魅力は、
何と言っても主人公のヘッダの複雑な人格にあって、
特に自分がもたらした若い学者の死に様に、
自分の美意識に適うものがないことに絶望する、
という辺りの審美的な感覚に、
イプセンの天才を見る思いがあります。

キャストは主人公のヘッダを演じた寺島しのぶさんが、
時々朗読調になるのが難点ですが、
なかなかの座長芝居を見せてくれました。
美しくも尊大にも哀れにも見えるという、
その振幅の大きな差が魅力です。

夫役の小日向文世さんは、
その資質を活かした余裕のある快演で、
話のキーになる判事役の段田安則さんも、
なかなか渋く安定感のある芝居を見せてくれました。

そんな訳でなかなか充実した舞台だったのですが、
感心しなかったのが演出です。

栗山さんの演出は僕とは相性が悪くて、
良い時もあるのですが、
僕の観た多く舞台は鵜山仁さんほどではないですが、
地味で暗くて単調でイライラすることが多いのです。

残念ながら今回の舞台もそうでした。

比較的リアリズムの装置ですが、
高さが大きく引き延ばされていて、
単色の書き割りがただ上に伸びている、
という感じなので、
舞台に密度がなく安っぽい印象になってしまっています。
引っ越し公演の安手のオペラの舞台のようです。
これはもっとお金を掛けて細部の装飾などを、
緻密に再現するか、
そうでなければ舞台自体はもっと抽象化して、
個別の家具などで重みを演出するか、
どちらかにするべきではなかったでしょうか?
また、舞台の正面に階段があって、
その先が庭という体になって役者の出入りに使われているのですが、
そこのみがリアルな舞台から外れていて、
これも統一感がなく如何なものかと思いました。

照明も全体に暗くて、
特に舞台の最初を暗くするのは、
コクーンくらいの広さの劇場では、
遠くの観客に不親切なだけで、
大して効果はないので止めて欲しいと思いました。

舞台の中央に大きな鏡があり、
オープニングとラストにのみ、
その背後にヘッダの姿が浮かび上がります。

これも安手のオペラなどによくある趣向ですが、
ラストにヘッダがこめかみを銃で撃ち抜くのを、
イメージとして見せるのは、
駄目演出だと思いました。

その前にヘッダの陰謀で若い学者が死に、
その最後がヘッダの美意識に適うものであったかが、
台詞で議論され、
こめかみから心臓、そして陰部への暴発と、
幻想はめまぐるしく事実に打ち砕かれるのですが、
最後のヘッダの部分はこの死と呼応しているので、
それは言葉で語られるべきで、
実際に舞台に現れるべきではないと思います。
出すとしてももっと抽象的なイメージとして、
表現するべきではなかったでしょうか?

カーテンコールでは死んだ直後のヘッダが、
余韻を感じる間もなく、
すぐに舞台に出て来るのですが、
これもセンスがないと感じました。
ここは一呼吸置いて、
観客に主人公が死んだことを、
反芻してもらう必要があるからです。

今回の演出は、
申し訳ないのですがそんな感じで、
最初から最後まで駄目でした。

イプセンには他にも変態戯曲が沢山あり、
日本では殆ど上演されないものも多いので、
これからもイプセン劇の上演には、
なるべく足を運びたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ナイロン100℃「百年の秘密」(2018年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
100年の秘密.jpg
今や現在を代表する小劇場と言って良い、
ナイロン100℃の25周年記念公演として、
2012年に初演された「百年の秘密」が再演されています。

これは初演版も観ていますが、
ケラとしてはかなりシリアスに振れた、
ワイルダーの「わが町」を思わせる大作で、
翻訳劇のパロディ的なところもあるのですが、
なかなか完成度の高い作品でした。

それをほぼ主要キャストは初演版のままに、
今回再演しています。

特に新しいことはしていないと思うのですが、
最初から最後まで抜群の安定感と完成度で、
今望みうる最高品質の小劇場芝居であることは間違いありません。

キャストは犬山イヌコ、峰村リエ、大倉孝二、萩原聖人の4人が抜群で、
初演の時は女性教師への少年期の破れた愛を引きずって、
悲劇的な結末に至る萩原聖人さんの物語に、
最も惹かれたのですが、
今回は「エデンの東」ばりの屈折した男ぶりの、
大倉孝二さんの芝居に一番感心しました。

峰村リエさんは個人的には、
一番好きと言っても良い女優さんですが、
今回の役柄は小児期の屈折が、
あまり大人になって以降に反映されていないような気がして、
初演の時と同様、
今回も釈然としない思いがありました。

個人的にはケラさんのこの系譜の作品としては、
「祈りと怪物」が最も好きで、
マジックリアリズム的な要素が、
もう少しあった方がよりケラさんの資質には、
合っているのではないかと思いますが、
この作品もアメリカ戯曲のパロディのようでありながら、
翻訳劇の名作に引けを取らない新たな世界を獲得していて、
ここまで優れた偽作的世界というのは、
三島由紀夫以来という表現をしても、
決して大袈裟ではないような思いもあったのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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3 種類の糖尿病治療薬の生命予後の比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
3種類の糖尿病治療薬の生命予後の比較.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
生命予後に良い影響を与えると想定されている、
3種類の糖如病治療薬の生命予後への効果を、
比較して検証したネットワークメタ解析の論文です。

2型糖尿病の治療の第一選択薬が、
メトホルミンであることは世界的に一致していますが、
メトホルミン単独で充分なコントロールに達しない場合の、
併用する第二選択の薬剤は、
多くの候補があって、
国や地域によってガイドラインの内容も異なるなど、
まだ一致した見解には至っていないようです。

以前には血糖をより強力に下げる薬が、
より有用な糖尿病治療薬と見做されていましたが、
低血糖のリスクを高めるような薬は、
長期的には却って生命予後に悪影響を与えたり、
心血管疾患のリスクを増加させることが明らかになり、
血糖を下げる作用よりも、
生命予後の改善や、
心血管疾患のリスクの低下が、
糖尿病治療薬の目標として重要である、
というように考えられるようになりました。

最近になり、
インクレチン関連薬(DPP4阻害剤とGLP1アナログ)と、
SGLT2阻害剤と呼ばれるタイプの糖尿病治療薬が、
心血管疾患のリスクや生命予後に、
良い影響を与えるという結果が相次いで報告されました。
より正確にはインクレチン関連薬で、
生命予後に良い影響が確認されているのは、
主にGLP1アナログで、
DPP4阻害剤ではそうした効果は確認されていません。

それでは、
インクレチン関連薬とSGLT2阻害剤では、
どちらが生命予後に対して優れた薬なのでしょうか?

直接比較の精度の高いデータは、
現状は発表はされていないので、
今回の研究ではネットワークメタ解析という手法を用いて、
これまでの個々の薬のデータをまとめて解析し、
その比較を行っています。

これまでに発表された236の臨床研究における、
トータルで176310名のデータをまとめて解析した結果として、
当該薬剤を未使用の場合との比較で、
SGLT2阻害害は総死亡のリスクを20%(95%CI; 0.71から0.89)、
GLP1アナログは総死亡のリスクを12%(95%CI; 0.81から0.94)、
それぞれ有意に低下させていました。
DPP4阻害剤との比較では、
SGLT2阻害剤は総死亡のリスクを22%(95%CI; 0.68から0.90)、
GLP1アナログは総死亡のリスクを14%(95%CI; 0.77から0.96)、
それぞれ有意に低下させていました。
そして、DPP4阻害剤はコントロールと比較して、
総死亡のリスクは有意に低下させていませんでした。

心血管疾患による死亡のリスクは、
SGLT2阻害剤では21%(95%CI; 0.69から0.91)、
GLP1アナログでは15%(95%CI; 0.77から0.94)、
コントロールと比較してそれぞれ有意に低下していました。

SGLT2阻害剤はコントロールとの比較で、
心不全のリスクを38%(95%CI; 0.54から0.72)、
心筋梗塞のリスクを14%(95%CI; 0.77から0.97)、
それぞれ有意に低下させていました。

有害事象については、
臨床試験を離脱するリスクは、
DPP4阻害剤やGLP1アナログと比較して、
SGLT2阻害剤が有意に高くなっていました。

このように、
未使用と比較して明確に総死亡のリスクや、
心血管疾患による死亡のリスクの低下が認められているのは、
現状はSGLT2阻害剤とGLP1アナログのみで、
DPP4阻害剤はそうした効果は証明されていません。
個別の疾患については、
特にSGLT2阻害剤の心不全リスクの抑制効果が抜きんでています。
その一方でSGLT2阻害剤は、
外陰部や尿路の感染症や頻尿、脱水などの有害事象があり、
そのために薬の継続が困難となることも、
他の薬剤と比較すると多いようです。

現状はこうしたデータも参考としながら、
個々の患者さんの治療のレシピを、
検討してゆくということになるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ナッツと心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ナッツと心血管疾患リスク.jpg
2018年のHeart誌に掲載された、
ナッツの摂取量と心血管疾患リスクとの関連についての論文です。

ナッツは不飽和脂肪酸やポリフェノール、
ビタミンEや食物繊維、
各種ミネラルなどをバランス良く含有し、
ナッツ単独の効果とは言えませんが、
ナッツやオリーブオイルを多く使う食事である、
地中海ダイエットという食事パターンは、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患を予防する働きが、
複数の精度の高い疫学データによって確認されています。

その一方でナッツ単独の摂取習慣と、
個別の心血管疾患との関連を見たデータは、
それほど多くはありません。

今回の研究はその点に着目したもので、
スウェーデンの大規模疫学データを解析して、
ナッツを食べる回数と、
その後の心血管疾患の発症リスクとの関連を個別に検証しています。

対象者は一般住民61364名で、
17年という長期の経過観察が行われています。
ナッツの摂取は、
1か月に0回から1から3回、
週に1から2回、週に3回以上という形で、
アンケート結果から集計されています。

その結果、
ナッツの摂取量が多いほど、
心筋梗塞、心不全、心房細動、そして腹部大動脈瘤のリスクは、
低いものとなっていました。
ただ、これを喫煙や血圧などの他のリスク因子を補正して解析すると、
その関連は弱いものとなり、
補正しても摂取量とリスクの低下との間に明確な相関があったのは、
心房細動の発症リスクのみでした。
殆どナッツを摂取しない場合と比較して、
月1から3回の摂取では3%(0.93から1.02)、
週に1から2回の摂取では12%(0.79から0.99)、
週に3回以上の摂取では18%(0.68から0.99)、
用量依存的にリスクは低下していました。

それ以外に心不全のリスクについては、
週に1から2回の摂取では20%(0.67から0.97)と、
有意に低下していましたが、
週に3回以上の摂取では有意な低下はありませんでした。
つまり、用量依存的な低下ではありません。

このように今回の検証においては、
ナッツの摂取が明確に関連していたのは、
心房細動の発症リスクのみでした。

今回のデータはナッツの摂取量を、
アンケートでの接種回数で判断していて、
具体的な量などは分からないので、
その意味で精度の高いデータとは言い切れないのですが、
個々の疾患とナッツの摂取との関連については、
今後再検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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単純性尿路感染症の推奨薬剤の効果比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ニトロフラントインとホスミシンの比較.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
現行の海外のガイドラインの、
単純性尿路感染症の第一選択の薬剤同士を比較して、
その効果を検証した論文です。

多くの抗菌剤が効かない耐性菌の問題などのために、
抗菌剤の使用を減らそうという動きが、
世界的に加速しています。

重篤な感染症ではなくて、
抗菌剤が適応となっている病気というと、
溶連菌感染による急性の扁桃炎と、
単純性尿路感染症(膀胱炎)がその代表です。

女性は尿道が短いなどの構造的な理由があって、
男性よりも膀胱炎を起こし易いので、
女性の膀胱炎に対する抗菌剤の使用は、
短期間であれば必要な処方であると考えられます。
現行の国際的なガイドラインにおいて、
単純性尿路感染症の第一選択の治療薬剤は、
ホスホマイシンとニトロフラントインです。

この2種類の抗菌剤はいずれも古い薬ですが、
効果が通常の尿路感染の病原体などに限定されていて、
耐性菌の誘導を起こし難いと考えられていることから、
こうしたチョイスになっているのです。

ホスホマイシンは日本でも使用可能な薬ですが、
ニトロフラントインは日本未発売の薬です。

抗菌剤はむしろ古い薬の方が有用性が高いのですが、
日本においては製薬会社が新薬を出すと、
同様の効能の古い薬は販売しない流れになるので、
本当に有用性の高い薬の多くが、
日本では流通していない、
というような皮肉な事態となっているのです。

医学は進歩しているので、
新しく出る薬の方がより優れた薬の筈だ、
という誤った進歩史観が、
こうした歪んだ現状を生んでいるように、
個人的には思います。

話を戻します。

国際的ガイドラインで第一選択とされている、
ホスホマイシンとニトロフラントインですが、
より有用性が高いのはどちらの薬剤でしょうか?

いずれも古い薬で、
その臨床データの多くも古いものなので、
その直接比較をしたようなデータは、
実際には殆ど存在していません。

そこで今回の研究では、
スイス、ポーランド、イスラエルにおいて、
18歳以上の妊娠していない女性で、
単純性膀胱炎の患者さんトータル513名をくじ引きで2群に分け、
一方はニトロフラントインを1日300ミリグラム(分3)で5日間、
他方はホスホマイシン3グラムを1回のみ使用し、
その有効性を開始後14日と28日の時点で比較検証しています。

その結果28日の時点で治癒していたのは、
ニトロフラントイン群では244人中70%の171名、
ホスホマイシン群では241人中58%の139名で、
ニトロフラントインの効果が勝っていたことが確認されました。

細菌培養で菌が検出されなくなった治癒率も、
ニトロフラントイン群が74%に対して、
ホスホマイシン群では63%で、
これもニトロフラントインに軍配が上がっています。

有害事象はいずれの薬も消化器症状が少数のみで、
明らかな違いは認められませんでした。

このように今回の直接比較の試験では、
ホスホマイシンよりニトロフラントインの有用性が、
確認されているのですが、
この第一選択の薬剤が日本では、
ネット通販で買うより他に方法がない、
という事態になっているのは、
これはもう臨床医の端くれとしては、
情けない思いしか感じることが出来ないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マクロライド系抗菌剤の免疫調節作用のメカニズム(2018年慶應大学) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マクロライドの免疫調節作用.jpg
2018年のPLOS Pathogens誌に掲載された、
マクロライド系と呼ばれる抗菌剤の、
免疫調整作用のメカニズムを検証した論文です。

慶應大学の研究チームによる報告です。

マクロライド系の抗菌剤には、
エリスロマイシンやアジスロマイシン(ジスロマック)、
クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)などがあり、
マイコプラズマやクラミジアなどの病原体にも抗菌力を持つことから、
主に気道感染症などの治療に幅広く使用されています。

マクロライド系の抗菌剤はそればかりでなく、
びまん性汎細気管支炎や慢性閉塞性肺疾患など、
気道の慢性の炎症が持続するような病気の、
長期のコントロール薬としても応用されていて、
この場合は比較的少量を長期間継続する、
というような、
抗菌剤としてはやや特殊な治療が行われています。

こうした治療は疾患と病態を選べば大きな効果があるのですが、
単純に抗菌剤としての効果とは考えられません。

そこで、マクロライド系抗菌剤には、
過剰な免疫反応を抑制するような、
免疫の調整作用があるのではないか、
という仮説が提唱されるようになりました。

ただ、色々と単発的な報告はあるものの、
そのメカニズムの詳細については、
明らかになっているとは言えません。

今回の研究はネズミの動物実験が主ですが、
ある特定の骨髄系の免疫細胞が、
その免疫調節作用の主体であることを、
多角的に証明したもので、
補足的なデータとして人間の実験も一部含まれています。

内容はかなり緻密で、
最後に人間のデータで補足する辺りも、
Nature系の科学誌の書き方ですから、
色々な事情があってPLOS ONE系の速報ウェブ媒体に、
発表されたのかな、というように思います。

マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンを、
ネズミで腹腔内注入と経口にて投与したところ、
その肺と脾臓において、
骨髄球系の免疫細胞のうち、
CD11b陽性Gr-1陽性というタイプの細胞群が、
数倍に増加していることが確認されました。

そして、この細胞群の機能を解析したところ、
MDSCという過剰な免疫反応を抑制する細胞集団と、
同様の性質を持っていることが確認されました。
クラリスロマイシンで増加するCD11b陽性Gr-1陽性細胞は、
MDSC様の細胞群であることが明らかになったのです。

次にネズミに細菌の毒素であるリポ多糖を腹腔内投与して、
細菌の毒素性ショックを人工的に作り実験すると、
クラリスロマイシンの使用により、
ネズミの生存率は有意に改善しました。
これをクラリスロマイシンではなく、
誘導されるCD11b陽性Gr-1陽性細胞の注入で行っても、
同様の効果が得られたことから、
生存率の改善はこの細胞群によるものであることが確認されました。

また、インフルエンザ感染後に、
クラリスロマイシン耐性の肺炎球菌を感染させたネズミに、
クラリスロマイシンを投与すると、
こちらもその生存率が増加しました。

最初の実験は毒素のみを投与していて、
次の実験はわざわざクラリスロマイシンの効かない菌に、
感染をさせていますから、
この改善効果は明らかにマクロライドの抗菌作用とは別物なのです。

また補足的データとして興味深いことに、
クラリスロマイシンは腸内細菌叢を変化させる作用があり、
それが免疫細胞増加の一因である可能性が示唆されています。

最後にクラリスロマイシンを1日800ミリグラム、
7日間人間に使用して、
その後の血液を採取して調べたところ、
MDSC様細胞の特徴の1つである。
アルギナーゼ1の遺伝子発現が有意に増加していました。
つまり、人間でも同様の現象が起こっている可能性が、
高いことが想定される結果です。

このように今回の研究において、
クラリスロマイシンの使用により、
骨髄球系の免疫抑制細胞群が誘導され、
それが過剰な免疫の調整に働いて、
細菌性ショックなどの改善に、
結び付いている可能性が示唆されました。

これはまだネズミの実験で、
人間でのデータは補足的なもののみなので、
そのまま人間でも成立するとは言えませんが、
マクロライド系抗菌剤の免疫抑制作用が、
緻密に立証された意義は大きく、
今後の研究の進捗と、
免疫調整作用に特化した薬剤の開発を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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暗いところで本を読むと目が悪くなる、は本当か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
近視のレビュー.jpg
2002年のBritish Medical Journalに掲載された、
近視についてのレビューです。

どうしてこれを取り上げたかと言うと、
「暗いところで本を読むと目が悪くなる」
という良く言われる健康情報が、
事実であるかどうかの検証の材料の1つとしてです。

暗いところで本を読むと視力が低下する、
というのは、
昔からよく言われていることですが、
最近ではネットなどで検索すると、
その考えは誤りである、
書いてあることがしばしばあります。

ただ、そうした記事に目を通しても、
その根拠が書かれていることはまずありません。

色々調べてゆくと、
こちらに行き当たりました。
医療の7つの迷信.jpg
これは2007年のBritish Medical Journal誌の、
一般向けの解説記事ですが、
「医療の7つの迷信」として、
医療者にも信じられているけれど、
実は間違っている、
という医療常識を7つ紹介して解説を加えているものです。

この7つのうちの1つが、
「暗いところで本を読むと目が悪くなる」です。
そして、その解説の中で引用されている資料のうちの1つが、
最初にご紹介した記事なのです。

その記事によると、
暗いところで本を読んだり、
動いている電車の中で本を読んだりすることは、
文字に焦点を合わせることが難しいので、
目の調節機能に負担が掛かり、
疲れ目の原因となることは事実です。

ただ、複数の眼科医の見解をまとめた資料などによると、
その影響はあくまで短期的なもので、
それにより持続的な影響が生じる可能性は低い、
というのが最近の一般的な見解なのです。

その一方で最初にご紹介した近視のレビューでは、
小児期に暗いところで本を読んだり、
電車の中で本を読んだり、
また至近距離で物を見るような習慣が、
近視の進行の要因となる可能性がある、
という記載があります。

従って、一般的には、
暗いところで本を読んでも、
目が疲れるだけで大きな問題はないのですが、
お子さんの時期のそうした行為は、
近視の進行に繋がる可能性は否定出来ない、
というのが現状の科学的事実と、
そう考えて間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「娼年」(監督三浦大輔) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
娼年.jpg
全編変態的な濡れ場の連続という、
唖然とする趣向で観客の度肝を抜いた、
石田衣良さん原作、三浦大輔さん演出の「娼年」の舞台が、
同じ松坂桃李さんの主演でR指定の映画になりました。

これは一種の若者の成長物語で、
無為なアルバイト生活をしていた、
松阪さん演じるリョウという若者が、
会員制ボーイズクラブのオーナーの女性に目を付けられ、
女性達に買われてその欲望を満たす、
という仕事を続ける中で、
人間的な成長を果たすという、
真面目なのか不真面目なのか分からないようなところもある話です。

全編殆どセックス場面のみが連続するのですが、
それでいてお話自体は極めてまっとうで、
道徳の教科書みたいなところもあるのが面白いのです。

2016年の舞台版では、
多くのキャストがほぼ全裸の熱演で、
精液が乱れ飛び、フェラチオの音が響くという、
今考えても規格外の舞台でした。

今回の映画版は、
ラストの一部を除いては、
ほぼ原作や舞台版を丁寧に踏襲した作りになっていて、
青を強調したスタイリッシュな映像は、
ちょっと北野武を思わせるところもあります。
主役の松坂桃李さん以外に、
江波杏子さんが舞台と同じキャストで、
それ以外は映画版オリジナルのキャストになっています。

問題は全編に繰り広げられる性行為の描写で、
性器を映さないのは勿論ですが、
暗い場面でモヤモヤした感じにしか見えませんし、
あまり生々しくもなくリアルでもありません。
それではそこに別個の美意識が感じられるのかと言うと、
そうしたものもあまりないように感じました。
何より性行為をしているようにはあまり見えません。
下着を着けたまま挿入しているようなところもありますし、
意図したものなのかどうか、
スポーツのような動きでリアルさが皆無なのです。

これで良かったのでしょうか?
大いに疑問です。

舞台版のボーイズクラブのオーナーは、
高岡早紀さんで、
紗幕越しですが全裸での絡みもあったのですが、
今回は真飛聖さんで絡みは全くなく、
無機的で艶っぽいところもないので、
舞台版の方が確実に良かったなあ、と思いました。
ラスト近くで興奮するところなど、
あまりに滑稽で悲しくなってしまいました。

三浦大輔さんはこの作品で、
本当の意味での映画監督としての力量を、
試されたという面があると思うのですが、
舞台となった場所のクレジットを入れながら、
移動撮影で見せるところなど、
わくわくする場面もあるのですが、
肝心の濡れ場に魅力がなく、
ちょっと腰砕けになったのは残念に思いました。

こうしたものがお好きな方だけに、
控えめにお薦めするくらいの作品です。
エロやAV的な興味で鑑賞されると、
ガッカリされることは確実です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「PHOTOGRAPH51(フォトグラフ51)」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は色々あって遅い更新になりました。
午後の診療の合間に書いています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
フォトグラフ51.jpg
アメリカ人の劇作家により2008年に発表され、
2015年にイギリスで、
ニコール・キッドマン主演で初演されて、
大きな話題となった舞台が、
今板谷由夏さんの主演で上演されています。

何か批評家的な方が酷評をされていたので、
ああ、いつもの外国人演出家の失敗作という感じなのかな、
日本語のニュアンスが分からない変梃演出になってしまったのかな、
とあまり期待をしないで足を運んだのですが、
予想に反して非常に素晴らしい舞台で、
勿論物足りないところや、
日本語のニュアンスがぎくしゃくしたところはあるのですが、
知的で繊細で陰影に富んだ、
滋味のある素晴らしい戯曲だと思いましたし、
演出も的確かつ繊細でなかなかの技量です。
役者さんも皆頑張っていたと思います。
日本人の劇作家には、
はぼ書くことが出来ないタイプの戯曲で、
それだけでも日本で上演する値打ちはあったと思いました。

「取り返しのつかない過去」の象徴として、
シェイクスピアの「冬物語」が重要な役割で登場するのですが、
その批評家らしき方は、
引用がマッチしていない、と批判されていたのですが、
そんなことは全くないと思いますし、
それ以外は科学用語で埋め尽くされた台詞の中で、
叙情的な場面としてしっかり機能していましたし、
その深みのある対比にも感銘を受けたので、
まあ、感じ方は様々だなあ、と改めて思いました。

これは科学の歴史に興味のある方ならどなたもご存じの、
ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の発見にまつわる、
女性研究者のデータの不正入手スキャンダルを、
ほぼ史実に則って描いた作品です。

X線による物質の構造解析のエキスパートであった、
女性研究者ロザリンド・フランクリンの撮った、
遺伝子の構造に関わる画像とデータを、
ワトソンとクリックが「不正に」入手して、
それを元にして二重らせん構造の発見という業績に結び付きます。
ロザリンドはその発見に重要な貢献を、
彼女の意志とは無関係に、
科学の歴史においてはしているのですが、
その貢献は全く評価されることなく、
自身は研究による放射線被曝の影響も疑われる、
卵巣癌のために37歳で生涯を閉じます。

非常にドラマチックで陰影に富んだ実話で、
ワトソン博士がまあ悪役という感じにはなるのですが、
彼のこともギラギラとした出世欲が、
決して否定的にばかり描かれてはいませんし、
主人公のロザリンドも悲劇のヒロインという扱いではなく、
その他人を容易に寄せ付けず、
周囲に反感ばかりを募らせる人格も描きながら、
それでも魅力的な1人の女性として、
複雑な性格を合わせ鏡のように描いていました。

物語は主人公のロザリンドが、
研究のパートナーでもあり異性の上司でもある、
ウィルキンズ博士と、
お互いにひかれ合う気持ちはありながら、
仕事のパートナーとしても、
個人的な関係としても、
結果的に良い関係を持つことが出来ず、
何ら実際的な交流を持つことなく人生の別れを迎える、
という2人の関係を縦軸として、
ノーベル賞に向けて仁義なき競争に明け暮れる、
研究という修羅場がリアルに描かれます。

僕も以前は大学で研究をしていて、
留学した先輩などから、
ノーベル賞に向け最先端の研究者が、
何でもありの激しい競争に身をおいている様は、
聞いて知ってはいたので、
かなりリアルにその辺りのやり取りが、
説得力を持って描かれていることに感心しました。

こうした点はただ、
知らない人には分かりにくいかも知れません。

戯曲の言葉はかなりの翻訳調の文体で、
最初は確かにそのことに違和感があるのですが、
耳慣れて来ると、
文学的なニュアンスを大切にするために、
敢えてそうした手法をの取ったのだと理解出来ました。
こうした戯曲の言葉は、
必ずしも自然な口語の方が良いという訳ではなく、
より詩的なニュアンスが必要なのです。

演出は非常に繊細で質の高いものでした。
シンプルなセットですが、
研究機器や構造モデルなどの小道具はリアルなものを用意して、
場の変化が巧みに表現されていましたし、
主人公の他者に対して固く閉ざされた心の一番奥のところに、
幼少期の両親と登った登山の情景と、
自然の形に対する憧憬、
更にはそこに親への切ないくらいの情愛が、
潜んでいるのですが、
抽象的な舞台がその情景を、
これも巧みに具現化していました。
抑制的な表現ですが、
後半の「冬物語」の部分には、
静かな感動があったと思います。

キャストもなかなか頑張っていました。
初演のロザリンドがニコール・キッドマンですから、
これはさぞかし「氷の女」の風情で素晴らしかったろう、
登場するだけで舞台の空気は一変しただろう、
などと誰でも考えてしまうので、
板谷由夏さんもさぞかしプレッシャーだったろうと思いますが、
なかなかどうして、
キッドマンとは全く違う形で、
彼女なりのロザリンド像を造形していて見応えがありました。
支える男性キャストも、
役を掘り下げて芝居をしていることが分かるので、
技巧的には差はあっても、
良いアンサンブルを奏でていたと思います。

そんな訳で翻訳劇の舞台としては、
今年最も感心した1本で、
題材が特殊なので入り込めない方もいると思うのですが、
個人的にはとても楽しめる舞台でした。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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