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心房細動の患者さんへのジゴキシン使用と生命予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ジゴキシンと生命予後.jpg
2018年のJournal of the American College of Cardiology誌に掲載された、
心房細動の患者さんに対するジゴキシンの使用が、
生命予後に与える影響についての論文です。

ジゴキシン(ジギタリス)は、
非常に古くから使用されている心不全の治療薬で、
脈拍を下げて心臓の負荷を減らし、
心臓の収縮力を高める作用があるとされています。
(ジゴキシンはジギタリス製剤の1つですが、
実際に使用されているのは殆どジゴキシンなので、
ほぼ同義とお考え下さい)

20年くらい前までは、
心不全治療の基礎薬として広く使用されましたが、
ACE阻害剤などの血管拡張剤の効果が、
多くの精度の高い臨床試験で確認されるようになると、
その用途は一気に狭まりました。

その有効性のデータも、
あまり精度の高いものではなく、
ジギタリスは血液濃度を測定しながら、
慎重に使用しないと、
ジギタリス中毒と言って、
血液濃度が増加した場合に、
重篤な不整脈や胃腸症状などが出現するため、
使用にリスクの高い薬であることもあって、
その使用頻度は、
近年減少しています。

ただ、心房細動という不整脈で、
脈が早く動悸などの症状が強い患者さんでは、
脈を下げて症状を安定させる目的で、
このジギタリスが使用されることは、
今日でもしばしば行なわれています。

国際的なガイドラインにおいても、
この目的の使用に関しては、
第一選択の扱いではありませんが、
その使用は認められています。

僕も昔から使い慣れているので、
こうした場合に特に高齢者ではジギタリスを、
少量使用することが多いのですが、
現行の第一選択はβ遮断剤という薬なので、
大学病院の先生などから、
お叱りを受けることもあります。

最近になり、
ジゴキシン(ジギタリス)を心房細動の患者さんに使用することは、
患者さんの予後に悪影響を与えるのではないか、
ということを示唆するデータが幾つか発表されています。

ただ、データの精度はそれほど高いものではなく、
例数もそれほど多いデータではないので、
心房細動の患者さんにジゴキシンが良くないと、
結論付けることは出来ません。

以前記事にした2014年のCirculation誌の文献では、アメリカにおいて、
カリフォルニア州の膨大な医療データを解析することにより、
心不全のない心房細動の患者さんにおける、
新規のジゴキシンの使用と、
患者さんの予後との関連性を検証していました。

その結果では、
心房細動の診断後にジゴキシンを使用し、
平均で1.17年の観察期間において、
未使用と比較して患者さんの死亡リスクは1.71倍に増加し、
入院のリスクも1.63倍に有意に増加していました。

つまり、
心不全のない心房細動の患者さんに対して、
脈拍のコントロール目的でジゴキシンを使用すると、
患者さんの予後が悪化するのではないか、
という結果です。

ただ、これもカルテなどのデータを後から解析したものなので、
それほど精度の高いものではありません。

これもブログで以前記事にしている、
2015年のLancet誌の研究は、
新規抗凝固剤リバーロキサバンの大規模臨床試験のデータを活用して、
心房細動でリバーロキサバンもしくはワルファリンを、
使用している患者さんにおける、
ジゴキシンの予後に与える影響を検証しています。

そもそもはジゴキシンの影響を検証するためのデータではないのですが、
非常に厳密な方法で行われた試験なので、
その信頼度は高いのです。

登録された14171名の心房細動(発作性を含む)の患者さんのうち、
37%に当たる5239名が、
ジゴキシンを使用していました。
結構な頻度で、実地臨床においては、
まだこの薬が使用されている、と言うことが分かります。
平均の観察期間は707日です。

ジゴキシンを使用している患者さんは、
心不全が多い、糖尿病が多いなどの傾向があるので、
そうした予後に影響を与える因子を補正した結果として、
ジゴキシン使用群は未使用群と比較して、
総死亡のリスクが1.17倍(1.04‐1.32)、
心血管疾患による死亡のリスクが1.19倍(1.03-1.39)、
突然死のリスクが1.36倍(1.08-1.70)と、
それぞれ有意に増加している、
という結果になりました。

つまり、前述のCirculation誌の文献と比較すると、
その増加率は少ないのですが、
矢張りジゴキシンの使用は、
若干ながら患者さんの生命予後を悪化させている、
という結果は共通しています。

ただ、この2つの研究のいずれにおいても、
ジゴキシンの血液濃度との関連や、
心不全の有無との関連が明確には検証されていません。

今回の研究はアピキサバンという経口抗凝固剤の、
心房細動患者における有効性を検証した、
ARISTOTLEという大規模臨床試験の再解析ですが、
ジゴキシンの血液濃度が測定されているという点が、
より詳細な解析を可能としています。

トータルで17897名の心房細動の患者さんのうち、
その32.5%に当たる5824名がジゴキシンを使用していて、
37.4%に当たる6693名が心不全を合併していました。

ジゴキシンの使用は、
トータルでは死亡リスクを増加はさせていませんでした。

しかし、
ジゴキシンの血液濃度(トラム濃度)が、
1.2ng/ml以上であった患者さんに限ると、
死亡リスクは1.56倍(95%CI: 1.20から2.04)
有意に増加していました。
そしてジゴキシン濃度が0.5ng/ml上昇するごとに、
その死亡リスクは19%増加していました。
このジゴキシンによる高濃度での死亡リスクの増加は、
患者さんが心不全のあるなしに関わらず認められていました。
また、年齢などをマッチさせたコントロールと比較して、
新規にジゴキシンを開始した患者さんは、
総死亡のリスクが1.78倍(95%CI: 1.37から2.31)、
突然死のリスクが2.14倍(95%CI: 1.11から4.12)、
それぞれ有意に増加していました。

このように心房細動の患者さんにおいては、
ジゴキシンの血液濃度が上昇すると、
生命予後に悪影響が生じることは間違いのないことであるようで、
現状ジゴキシンを継続使用中の患者さんにおいては、
血液濃度が1.2ng/mlを超えないコントロールが、
重要であると考えておいた方が良いようです。
また、心房細動の患者さんにおいて、
新規にジゴキシンを開始する場合には、
他の代替的な治療があれば、
そちらを優先して考えることが、
現時点では患者さんの安全のためには、
望ましいことのように思います。

ただ、個人的には古くから、
ジゴキシンを使用してきた医者の1人として、
その有用性は経験的には強く感じる部分もあり、
簡単にその有用性を、
完全に否定して良いものかどうか、
迷う部分もあります。

上記論文においても、
その記載は一概にジゴキシンの使用を否定する、
というものではなく、
この問題はまだ今後の知見の蓄積を、
待つ必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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