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三谷幸喜「江戸は燃えているか」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
江戸は燃えているか.jpg
三谷幸喜さんの作・演出で、
中村獅童さん、松岡昌宏さんがダブル主演の時代物が、
今新橋演舞場で上演されています。

これは勝海舟と西郷隆盛が話し合い、
江戸城の無血開城を決めたという、
有名な幕末の史実を元にしたもので、
中村獅童さんが勝海舟を、
藤本隆宏さんが西郷隆盛を演じ、
松岡さんは勝家に出入りしているイケメンの庭師、
という設定で、
腰の据わらない勝海舟の態度に業を煮やした、
松岡茉優さん演じる勝の娘が、
松岡さんの庭師を勝海舟の偽物にでっち上げて、
西郷隆盛と談判させる、というお話になっています。

1幕75分、2幕80分の2幕劇ですが、
舞台は勝海舟の家の縁側に固定されていて、
1幕は勝海舟の偽物が活躍し、
2幕は西郷隆盛の偽物が活躍する、
という三谷さんらしいシンメトリックな構成になっています。

基本的にはすれ違いと誤解からの喜劇で、
「君となら」に近い三谷さんの得意のパターンの家族劇です。

ただ、ラストは中村獅童さんの長台詞で締めくくられ、
真山青果さんの新歌舞伎めいたスタイルになっています。
おそらく元になっているのは「将軍江戸を去る」で、
そこでは戦争を回避するために、
山岡鉄太郎が将軍慶喜を説得するのですが、
それと同じような呼吸で、
「戦争は絶対してはいけない」と、
勝海舟が西郷隆盛を説得するのです。
三谷幸喜が新橋演舞場で、
真山青果をやる、と言う辺りに、
今回のお芝居の妙味があります。

通常シリアスな役柄に描かれる山岡鉄太郎を、
今回は飯尾和樹さんが演じ、
セリフもまともに言えないいい加減な山岡を見せる、
という辺りに、
三谷さんらしいある種の「悪意」のようなものを、
感じることが出来ます。

ただ、ラストに至るまでの展開は、
典型的な家族のシチュエーションコメディで、
今回の舞台はパルコ・プロデュースですが、
休館中のパルコ劇場に最も見合ったスケールの芝居、
という感じがあります。

真山青果っぽくなるラストだけは、
新橋演舞場の大きさが活きていましたが、
それまでの展開はちょっと小屋が大きすぎて、
散漫になるという感じがありました。
2幕は時々意識が飛びましたが、如何にも長すぎると感じます。
本来は1幕劇で2時間くらいで良いお芝居で、
それを演舞場用に、無理に引き延ばしたような感じがあるからです。

これは推測ですが、
元々はもっと小さな劇場向けに、
発想された作品ではなかったでしょうか。

そんな訳で大満足という感じではなかったのですが、
さすが三谷さんという、
観客を無理矢理でも満足させるような、
ある種のあざとさは見事で、
キャストは脇役に至るまで、
その役者さんが演じることで光るように、
極めて巧み肉付けされていますし、
演出もきっちりとした部分と、
獅童さんが大暴れするグダグダの場面との、
落差がまた上手いのです。

僕は松岡茉優さんが大好きなので、
彼女の仕草だけで眼福でした。
こうしたそれほど舞台での演技に長けていない、
映像中心の俳優さんを、
上手く使うのが三谷さんは実に巧みです。
今回も彼女の定番の表情や仕草や台詞を、
そのまま自然に舞台で再現しているのが素晴らしいと思います。

大抵の舞台演出家と称される人は、
「この娘の新しい面を引き出してやる」とばかりに、
無理な舞台演技をさせて失敗してしまうか、
この間の石原さとみさんのように、
大切な声をガラガラにさせてしまうのです。
その点三谷さんは、
役者さんの商品価値が何処にあるか、
観客がその役者さんの何を求めているのかを、
的確に判断してまた舞台で的確に実現する、
という点が素晴らしく、
その点では真のプロフェッショナルだと感じます。

ただ、如何にもあざといですね。

そんな訳で見て損はない舞台ですが、
演舞場の公演としては、
ちょっと疑問も残る作品ではありました。
三谷さんの戯曲としては、
「水準作」という感じかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「岸 リトラル」(上村聡史演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

レセプトでバタバタしていて、
今日は遅い更新となりました。
診療は今もやっています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
リトラル.jpg
レバノン出身でカナダで活躍している劇作家、
ワジディ・ムワワドの作品を上村聡史さんが演出し、
比較的渋いキャストを揃えた公演が、
11日まで世田谷シアタートラムで上演されています。

これは15分の休憩を入れて3時間半という長尺で、
話も暗いですし正直かなりしんどい観劇でした。

作家本人に近い若者が主人公で、
ある日父の死を告げられ、
ゾンビのように実体化した父親と、
これも幻想でしかない守護騎士と一緒に、
内戦で荒廃したレバノンに行き、
そこで父親の埋葬場所を探す旅に出る、
というお話です。

割と日本の小劇場的な手法で書かれた戯曲です。

幻想として登場する映画製作スタッフによって、
主人公の行為が時々「虚構化」されるのですが、
これなど寺山修司の「レミング」にそっくりの趣向です。
幻想の荒野で友達を募って西遊記めいた旅を続けるのも、
鴻上尚史の「ピルグリム」を彷彿とさせますし、
幻想の騎士とのメタ芝居的掛け合いなどは、
野田秀樹の芝居にも近い味わいです。

ただ、それが翻訳劇として上演されると、
台詞は如何にも説明調でくどいですし、
こうした形而上劇は、
イメージがすぐに観客と共有されるような感じがないと、
舞台が弾まないと思います。
どうしても遠い異国の話で距離感が邪魔をしますし、
それで延々と説明的台詞が続くだけの芝居を、
3時間以上見ていろというのは、
かなり無理があるように思います。

セットもそれなりに凝ってはいるのですが、
色彩を含めて全体に如何にもモノトーンで地味ですし、
暗い話を余計に暗くしているように思います。
たとえば「レミング」では、
映画製作スタッフの乱入時には、
色彩や舞台の印象を、
ガラリと変えて見せるような工夫がありました。
今回の舞台はそうした演出上の工夫に乏しく、
舞台面が大きく変貌するような、
ハッとするような瞬間がありません。
ビニールを広げて上に上げ、
照明の雰囲気を変えたりしているのですが、
それを時間を掛けてダラダラ準備したりするので、
とてもハッとするような気分にはなれません。

そんな訳で、
非常に意義深い上演であることは間違いがないのですが、
「演劇勉強会」といった感じで、
こなれた娯楽作には昇華していなかったことは少し残念でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヨーグルトの心血管疾患予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヨーグルトの心血管疾患予防効果.jpg
2018年のAmerican Journal of Hypertension誌に掲載された、
ヨーグルトの心血管疾患予防効果についての論文です。

ヨーグルトやチーズなどの発酵食品は、
その元となる牛乳とは、
その性質が異なり、
牛乳のみの摂取量と心血管疾患などとの関連は、
あまり良い結果が得られていない一方で、
ヨーグルトやチーズのみの摂取量で解析すると、
その予防効果が認められたという報告も、
これまでに散見されています。

今回の研究はアメリカで看護師と医療従事者を対象として施行された、
大規模な疫学データを再解析したものですが、
高血圧予防のために開発されたDASH食という食事療法と、
ヨーグルトの心血管予防効果との関連を、
高血圧の患者さんで共に検証しているという点に特徴があります。

DASH食というのは、
アメリカで研究開発された、
高血圧の予防と改善のための食事です。
飽和脂肪酸とコレステロールを減らし、
野菜や果物を増やして蛋白質はバランス良く摂取する、
というのがその特徴です。

トータルで高血圧のある55898名の看護師の女性のデータと、
同じく18232名の医療従事者の男性のデータを解析したところ、
ヨーグルトの摂取量と心血管疾患(心筋梗塞と脳卒中を併せたもの)リスクには、
負の相関が認められました。
要するにヨーグルトを摂取しているほど、
心血管疾患のリスクは低下していたのです。

月に1カップもヨーグルトを摂取しない場合と比較して、
週に2カップ以上ヨーグルトを摂取していると、
女性で17%(95%CI: 0.74から0.92)、
男性で21%(95%CI: 0.66から0.96)、
それぞれ有意に心血管疾患のリスクは低下していました。

これをDASH食を実践している群に限って解析すると、
女性で16%(95%CI: 0.73から0.96)、
男性で30%(95%CI: 0.57から0.85)と、
男性ではより高いリスクの低下を認めました。

健康的な食事習慣と共に、
高血圧の患者さんが週に2回以上ヨーグルトを摂ることは、
心血管疾患のリスクをより低下するために、
有用な方法である可能性があるようです。

これまでの知見からも考えると、
成長期を過ぎた大人では、
乳製品の摂取はヨーグルトやチーズを主体とする方が、
生活習慣病の予防のためには良い可能性が高いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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最もバランスの取れた抗うつ剤はどれか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
21種の抗うつ剤のメタ解析.jpg
2018年のLancet誌に掲載された、
21種類の世界的に使用されている抗うつ剤の有効性と使いやすさを、
ネットワークメタ解析の手法で比較検証した論文です。

以前にも同じような論文が、
Lancet誌に掲載されていて、
その最新版というような趣のものです。

抗うつ剤は世界中で広く使用されている薬剤ですが、
その有効性は必ずしも精度の高い臨床試験において、
確立されている、という訳ではありません。

プラセボ(偽薬)と比較した有効性が、
明確に認められるようになったのも、
比較的最近開発された薬に限ってのことで、
同種の薬剤同士の直接比較のデータは、
より限られたものしかありません。

今回の研究は、これまでに行われた抗うつ剤に関する、
介入試験と呼ばれる精度の高い臨床試験をまとめて解析し、
ネットワークメタ解析という手法を用いて、
1つの研究の中で直接比較されていない薬剤間でも、
その有効性と利便性の比較を行うことを可能としています。

ここでは日本未発売の薬を含めて、
21種類の現在使用されている抗うつ剤が俎上に上がっています。

古い薬としては、
アミトリプチリン(トリプタノール)とクロミプラミン(アナフラニール)
がエントリーされ、
これは他剤との比較の試験などで、
取り上げられることが多いためです。
それ以外の三環系抗うつ剤などは、
偽薬と比較したような有効性のデータはなく、
対象となっていません。
SSRI以降の抗うつ剤は、
ほぼ網羅される感じになっています。

対象となったアミトリプチリン、クロミプラミンと、
SSRI以降の抗うつ剤は、
偽薬との比較で有効性は確認をされました。
これは偽薬よりうつ状態の指標がより改善している、
という意味です。

最も有効であったのがアミトリプチリンで、
次がミルタザピン(リフレックス)、デュロキセチン(サインバルタ)、
という順番になっていて、
最も有効性が低かったのは、
レボキセチンでした。

治療途中でドロップアウトが少ない忍容性については、
もっともドロップアウトが少ないのはアゴメラチン(日本未発売)で、
次がフルオキセチン(プロザック)、エスシタロプラム(レクサプロ)、
という順番になっていて、
最もドロップアウトが多かったのはクロミプラミン(アナフラニール)でした。

ネットワーク解析で個別の薬剤同士の比較を行うと、
他の薬と比べて有効性が高かったのは、
アゴメラチン、アミトリプチリン、エスシタロプラム、
ミルタザピン、パロキセチン(パキシル)、ベンファラキシン(イフェクサー)、
ボルチオキセチン(日本未発売)で、
逆に有効性が低かったのは、
フルオキセチン、フルボキサミン(ルボックス)、
レボキセチン、トラゾドン(デジレル)でした。
忍容性では、
ドロップアウトが他の薬と比較して少なかったのは、
アゴメラチン、シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、
セルトラリン、ボルチオキセチンで、
逆にドロップアウトが多かったのは、
アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、
レボキセチン、トラゾドン、ベンファラキシンでした。

要するに、
有効性が高く継続がしやすい薬として考えると、
エスシタロプラム(レクサプロ)辺りが、
日本で使用されている薬としてはバランスが良く、
副作用に留意して使用すれば、
アミトリプチリン(トリプタノール)やミルタザピン(リフレックス)も悪くない、
というような結果になっています。

ただ、今回使用されたデータは、
他と比較すれば精度の高いものですが、
一般的なデータの質としてはそれほど高くはなく、
抗うつ剤の評価というのは、
他の分野の薬と比較すると、
まだまだ科学的な分析や評価の質を高める必要があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第30回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

今日はいつもの告知です。

こちらをご覧下さい。
30回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
3月17日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
いつも通りにクリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「最新版花粉症の基礎知識」です。

先週くらいから花粉症が、
クリニックの周辺でも本格化しています。

今年は間違いなく去年より症状の強い人が多いようで、
クリニックにも毎日鼻や目の症状でつらい思いをされている方が、
相談にお見えになります。

花粉症というのはスギなどの花粉を主な抗原とする、
季節性のアレルギー性鼻炎と結膜炎のことですが、
何故これほど多いのか、
どうして日本のみで多いのか、
戦後のスギの植樹の問題などで本当に説明が可能なのか、
というような疑問は数多く、
専門書や論文を読んでも、
あまりそうした点を明快に説明してくれるものはないようです。

鼻炎の慢性化や悪化は全身的にも影響を与え、
免疫力の変化や低下に結び付く、
というような報告も多くあります。

アレルギーは免疫異常である、という考え方は、
もっと一般にも広まるべきかも知れません。

治療や予防については、
舌下免疫治療など新しい手技も導入されていますが、
それで問題解決とはいかないようです。
医療も含めて花粉症は商売として考えられている部分があり、
予防や治療の商品が、
山のように売られています。
今の時期花粉症関連のCMの比率はかなり高いのではないでしょうか?

乳酸菌が花粉症に効くのは本当でしょうか?
効かないという訳ではないのですが、
有効性を示したような研究は、
販売メーカーの息のかかったもの以外は、
ほぼないのが実際だと思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。
ご参加は無料です。

参加希望の方は、
3月15日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病の新分類(クラスター解析による試案) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病の新分類.jpg
今年のLancet Diabetes & Endcrinology誌に掲載された、
糖尿病を5つに分類するという試案についての論文です。

これは一般のニュースなどでも取り上げられていますが、
あまり具体的な内容が説明されていないのは、
クラスター解析という方法によるもので、
あまり分かりやすいものではなく、
すぐに臨床に応用出来る、
という感じのものでもないからです。

糖尿病の分類としては1型糖尿病と2型糖尿病という2つが、
古典的に行われて来ました。

1型糖尿病というのは、
年齢が若く発症して最初からインスリンの欠乏が高度で、
最初からインスリン治療の適応となります。
全てではありませんが、
膵臓のインスリン分泌細胞を攻撃する自己抗体である、
抗GAD抗体が陽性となっていて、
自己免疫的な機序により発症するとされています。

2型糖尿病は実際的には糖尿病の患者さんの大部分を占め、
肥満が先行して大人になってから発症し、
インスリン分泌の低下は病初期には軽度で、
インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が、
その発症に大きな役割を果たしています。
通常抗GAD抗体は陰性です。

最近抗GAD抗体が陽性で、
最初は典型的な2型糖尿病のように、
大人になってから徐々に進行しますが、
その後インスリン分泌が低下して、
1型糖尿病と同様の病態となる、
成人潜在性自己免疫性糖尿病(LADA)という病態が提唱されていて、
日本ではこれを海外で言われるより早く、
緩徐進行型インスリン依存性糖尿病(SPIDDM)と独自に呼んでいて、
その診断基準は微妙に違っています。
日本の専門の先生は、
独自の基準でこちらが正統、
のような主張を一時期されていましたが、
今では(SPIDDM / LADA)というような表記が多く、
欧米では上記の文献でもそうですが、
LADA以外の表記はされていません。
いつも良くある感じの経緯ですね。

さて、このLADAは1型糖尿病の亜型と考えるのが通常ですが、
糖尿病の大部分を占める2型糖尿病を、
全て1つの病気としてとらえるべきか、
という点にも議論があります。

たとえば、高齢者で初めて発症するようなタイプの、
緩やかに進行するような糖尿病は、
おそらく厳密な治療の必要性は、
低いのではないかと臨床医は誰でも思うところですが、
「高齢者の糖尿病は治療目標を高めに設定する」
というような、年齢のみを指標とした、
あまり科学的とは言えない緩い基準はあっても、
明確にどのような患者さんでは治療目標を緩めるべきなのか、
年齢という因子のみでそれを判断して良いのか、
というような点については、
あまり明確な指針が、
国内外を問わず示されていません。

網膜症のような合併症が、
同様の血糖レベルであっても、
急速に進行するような患者さんと、
そうではない患者さんがいますが、
それを区別するような指標も、
これまで存在していませんでした。

今回の検討は、
糖尿病と診断された時の状態によって、
幾つかの指標を組み合わせてグループ分けをすることにより、
その予後の推測や治療の選択に、
有用な臨床的分類の確立を目指したものです。

対象はスウェーデンにおいて、
糖尿病と新規に診断された8980名の患者さんで、
抗GAD抗体の有無、診断された年齢、体格の指標であるBMI、
血糖コントロールの指標であるHbA1c、
そしてHOMA2という計算法による、
インスリン抵抗性とインスリン分泌能を表わす指標の、
6つの変動する指標を用いて、
クラスター解析という方法で、
5つの群に分類しています。

①重度自己免疫性糖尿病(SAID): これは抗GAD抗体が陽性で比較的若い年齢で発症しているもので、ほぼこれまでの1型糖尿病に近い群です。
②重度インスリン欠乏型糖尿病(SIDD) : これは①に近い状態でありながら、抗GAD抗体が陰性の群です。
③重度インスリン抵抗性糖尿病(SIRD) : これはBMIが高くインスリン抵抗性が著明なタイプです。
④軽度肥満関連糖尿病(MOD) : これは比較的若く診断され、肥満はあるもののインスリン抵抗性は軽度で血糖上昇も軽度のものです。
⑤軽度加齢関連糖尿病(MARD): これは高齢発症で血糖上昇も軽度のものです。

この5群の分類において、
④と⑤よりも③は腎臓病を合併しやすく、
網膜症は②で最も多い、
という群間の違いが確認されました。

この群の分類は統計的なものなので、
すぐに臨床に応用可能、ということではありませんが、
本当に積極的で厳密な治療が必要な糖尿病と、
そうではない糖尿病を分類する試みとして非常に興味深く、
実際糖尿病の臨床の専門家は、
これに近い分類を頭に描きながら、
薬の選択などに活用していると思うのですが、
今後はより一般化した形で、
一般の臨床医に活用出来るような、
実用的な分類となることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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インフルエンザは空気感染するのか? [医療のトピック]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザの空気感染.jpg
2018年のPNAS誌に掲載された、
インフルエンザウイルスの感染の仕方についての論文です。

インフルエンザウイルスは、
飛沫感染もしくは接触感染で感染すると、
一般的には考えられています。

接触感染というのは、
ウイルスが付着した物を介する感染で、
飛沫感染というのは、
感染した患者さんが、
咳やくしゃみをして、
飛び散った飛沫が、
鼻や口から入り込むことによる感染です。

この飛沫感染に似た言葉に空気感染があります。

飛沫感染と空気感染というのは何が違うのでしょうか?

飛沫というのは水分を多く含んだ粒子で、
これは咳やくしゃみ以外では飛び散りません。
飛沫より小さく、水分の少ない粒子が飛沫核で、
これは通常の呼吸でも空気中に漂い、
長く浮遊しているという性質があります。
大きさで言うと、
直径が5μmより大きいのが飛沫で、
それより小さいのが飛沫核です。

もし飛沫核に乗って漂う性質のあるウイルスであれば、
それは患者さんが普通に呼吸しているだけでも、
その近く数メートルくらいに寄っただけで、
感染する可能性がある、ということになります。
これが空気感染です。

つまり、飛沫感染より空気感染をする病原体の方が、
より感染が広がりやすいのです。

麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)は、
空気感染をすることが知られています。
一方でインフルエンザウイルスは、
飛沫感染が主で空気感染はあまりしないと考えられています。

ただ、その根拠はそれほど実証的に確認されたものではなく、
最近では空気感染がインフルエンザでも起こるのではないか、
という見解もしばしば見られるようになりました。

今回の研究はアメリカにおいて、
インフルエンザの感染者142名を対象として、
発症から1から3日目に呼気のサンプルと、
鼻粘膜から採取された検体から、
インフルエンザの感染様式を検証しています。

インフルエンザ感染が確定している患者さんにおいては、
鼻粘膜の検体と空気中の飛沫および飛沫核で、
ウイルス遺伝子が検出され、
飛沫核の39%と鼻粘膜の検体の89%で、
ウイルスが培養可能でした。

ウイルス遺伝子量は、
鼻粘膜が最も多く、
次が飛沫核の検体で、
最も少ないのが飛沫の検体でした。

飛沫と飛沫核のウイルス遺伝子量は、
体格(BMI)が大きいほど多く、
咳を沢山しているほど多く、
発症からの時間が経っているほど少なくなっていました。

鼻粘膜の検体のウイルス遺伝子量が多いほど、
上気道炎症状の多くなっていましたが、
飛沫や飛沫核のウイルス遺伝子量と、
鼻粘膜のウイルス遺伝子量との間には、
明確な関連は見られませんでした。

くしゃみはインフルエンザ感染では少なく、
くしゃみと咳がなくても、
飛沫や飛沫核にはウイルス遺伝子が確認され、
その感染力も確認されました。

このようにインフルエンザ感染においては、
飛沫感染のみならず空気感染も起こり得ることが、
今回の実験でほぼ確認されました。

ただ、実際に周辺の人間への感染については、
今回の実験で確認をされている、という訳ではないので、
その点についてはまだ今後の検証を待つ必要がありますが、
インフルエンザは空気感染をすることもある、
というようには考えて、
予防の対策を講じる必要があることは、
ほぼ間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「15時17分、パリ行き」 [映画]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
1日研修会があるのでヘロヘロになる予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
15時17分、パリ行き。.jpg
2015年のテロリストによる銃乱射事件を、
「えっ?」と思うような手法で映画化した、
クリント・イーストウッド監督の新作映画を観て来ました。

これは映画史に残る1本で、
極めて困難な趣向に挑戦し、
それを1つの作品として完成させた力技は、
イーストウッド監督ならではです。

ただ、非常に残念ながら、
面白くはありません。(個人的な感想です)

前作の「ハドソン川の奇跡」も、
実際の旅客機事故を題材として、
それを再現した上で、
実在の人物を称えるという映画でしたが、
主役はトム・ハンクスでした。

今回の作品はそれを更に押し進めて、
一歩間違えば大量の死者の出る大惨事になるテロ事件を、
直前で未然に食い止めた、
たまたま居合わせた乗客、
特に犯人を取り押さえた3人の若者と、
負傷した彼に救急処置を施した医師の4人を、
実際の当人に演じさせ、
ラストはフランス大統領による、
彼らを称える実際の演説で締め括る、
という超絶な趣向を実現させています。

勿論ドキュメンタリーの再現ドラマで、
本人が自分の役を演じることはテレビなどでもありますが、
1本の長編劇映画をその手法で作り、
登場人物の過去のエピソードや、
他愛のない旅行の時のエピソードなども、
全て本人に演じさせるというような映画は、
これまでにあまり類例がないと思います。

監督のインタビューによれば、
当初は役者さんに役を演じさせるつもりで、
当人に取材をしていたが、
しているうちに、
「こいつらに実際にやってもらおう」と思いつき、
方向転換をした、という意味のことを語っています。

それが事実であるかどうかはともかく、
こうしたフットワークが可能であったとすれば、
イーストウッドであったからで、
通常はとても成立は困難な企画であったと思います。

ただ、良く考えると、
この映画の「虚構」は「テロリストの犯人」だけ、
ということになり、
現実の人間をヒーローとして祭り上げて、
実在している犯人のみを虚構の「悪」として断罪する、
というのは、
ややヒューマニズムの観点からは危うい手法である、
という感じもします。

ひねくれた監督であれば、
その現実と虚構の狭間を、
ひとひねりしたくなるところだと思いますが、
それを全くせず、
実在の人物の行為を100%肯定した、
勧善懲悪の物語に仕立てるところ、
その基礎にキリスト教の神を持ってくるという辺りが、
イーストウッド監督らしい、
というようにも思うのです。

実在の人物の演技はとても自然で、
おそらく一発撮りに近かったのかな、
というように推測されますが、
その辺りの裏話も知りたいところです。

このように映画ファンとしては興味は尽きないのですが、
実際に1本の映画として面白かったかと言うと、
正直あまり面白くはありませんでした。

素材はフィクションにするには地味で、
事件自体はある意味数分で終わってしまいます。
尺の大部分は主人公の若者3人の、
ヨーロッパ旅行の他愛のない描写が延々と続くので、
監督の意図は何となくわかるものの、
面白いとは感じることは出来ませんでした。

そんな訳で娯楽映画としてはある意味落第なのですが、
映画史に残る一作で、
一見の価値のある作品であることは間違いのないことだと思います。

皆さんは観たいと思いますか?

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「シェイプ・オブ・ウォーター」 [映画]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
シェイプ・オブ・ウォーター.jpg
昔懐かしい「大アマゾンの半魚人」を元ネタに、
映画ファンの心をくすぐるノスタルジックな趣向満載の、
ファンタジックなラブストーリー映画です。

これはなかなかいいですよ。

色々な理由で社会から弾かれてしまった人間と、
人外の生き物とが交流する話ですが、
1962年を舞台にしているのがミソで、
アメリカが最も力を持っていた時代の、
光と影の部分が描き込まれているのが、
物語に膨らみを与えていますし、
荒唐無稽な話に、
ある種のリアリティを与えているのです。

更には主人公が30年代の映画ファンで、
彼女の住んでいるのが古い映画館の階上、
というような仕掛けもあり、
幻想ですがミュージカルシーンのサービスもあります。

「大アマゾンの半魚人」は1950年代に、
3作品が制作されたSFホラーのシリーズで、
その半魚人の造形はかなりオリジナルに寄せています。
また、悪役の軍人を演じるマイケル・シャノンは、
モンスター役者のボリス・カーロフにかなり寄せていると思います。

そんな訳でかなり盛り沢山の映画です。
基本的にはティム・バートンに近い世界で、
「シザーハンズ」辺りが好きな方には、
気に入って頂けると思います。
主人公にハンディキャップがあるという設定も、
如何にもという感じです。
ただ、かなりキワどい変態的な部分もあり、
R15+という制限があるのはそのためです。

不満は全体にやや詰めが甘いことで、
半魚人にはもう少し大暴れをして欲しいところなのですが、
せいぜい猫を間違えて殺してしまうくらいですし、
悪役も組織ではなく悪い軍人が1人なので、
どうも緊迫感や盛り上がりには欠けるのです。

美術などは素晴らしいですし、
語り口も後味も良いのですが、
少し変態的な割には、
淡泊に終わってしまったという感じがありました。

キャストは主人公のサリー・ホーキンスが文句なく良く、
言葉が喋れない設定でほぼセリフはないのに、
観終わってみると一番喋っているように感じる素敵な芝居です。
彼女の友人で会社を首になったホモの画家のおじさんが、
またとても良い感じなのです。
繰り返しになりますが、
美術や音効のセンスも抜群です。

お薦めですが、
個人的には多くのティム・バートン作品と同じように、
凝りに凝っている割に、
詰めが甘くちょっと物足りない感じはありました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの大腸癌予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コーヒーと大腸癌.jpg
2018年のInternational Journal of Cancer誌に掲載された、
コーヒーの習慣と大腸癌のリスクとの関連についての論文です。

これは日本のがん予防についての研究班が、
日本のこれまでの8つの疫学データをまとめて解析したものです。

コーヒーを飲む習慣は、
それが1日にカップ3杯から4杯くらいまでであれば、
概ね健康上の害はなく、
むしろ病気を減らし生命予後にも良い影響を与える、
という報告が多く見られています。

2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アンブレラレビューという手法で、
これまでの疫学データをまとめて解析した論文によると、
妊娠中と閉経後の女性の場合を除けば、
概ね病気のリスクは低下していて、
総死亡のリスクも17%有意に低下していました。

病気としては心血管疾患と共に、
癌のリスクが2割弱程度有意に低下していました。

それでは、個別の癌とコーヒーを飲む習慣との関係はどうでしょうか?

これまでに肝臓癌や子宮癌のリスクを低下させた、
という報告があり、
調査はされているもののその効果が明確ではないのが、
大腸癌のリスクについてのコーヒーの影響です。

そこで今回の研究では、
日本人を対象とした8つの臨床試験に登録された、
トータル320322名の健康調査のデータをまとめて解析し、
コーヒーの習慣と大腸癌のリスクとの関連を検証しています。

その結果、
トータルには男女どちらにおいても、
コーヒーの飲用習慣と大腸癌のリスクとの間には、
有意な関係は認められませんでした。

そこで性差と共に大腸癌の部位毎の解析を行うと、
女性の結腸癌においては、
1日1杯未満しかコーヒーを飲まない人と比較して、
1日3杯以上コーヒーを飲む人は、
癌の発症リスクが20%(95%CI: 0.64から0.99)
有意に低下していました。

結腸癌を遠位と近位に分けての解析では、
有意な差は認められませんでした。

更に喫煙の有無で同様の解析を行うと、
非喫煙者の女性の直腸癌については、
コーヒーを1日3倍以上飲む人の方が、
1杯未満の人と比較して、
癌の発症リスクが1.44倍(95%CI: 1.06から1.95)
これのみ有意に上昇していました。

このようにサブ解析の仕方によって、
一部には有意差が出るのですが、
一定の傾向はない上にその差も微妙な程度で、
トータルに考えると、
コーヒーの摂取と大腸癌のリスクとの間には、
それほど明瞭な関連はない、
と考えるのが現状は妥当であるように思います。

あるサイトにこの論文が紹介されていて、
「頻回のコーヒー摂取で直腸がんリスクが高いことを除き」という文章があり、
医師がコメントで「頻回とはどのくらいなのか分からない」
という意味の質問をしていたのですが、
これは確かにabstractではfrequentと書かれていますが、
実際にはコーヒーの摂取量は3群での比較しかしていないので、
1日3杯以上のことなのです。
この辺り原文も紛らわしいですし、
サイトの記事も如何なものかと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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