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高齢者糖尿病の血糖コントロールをどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者糖尿病の血糖コントロール.jpg
今月のBritish Medical Journal誌の解説記事ですが、
高齢者の糖尿病の管理についての、
基本的な考えがまとめられています。

今年の5月20日に、
日本糖尿病学会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」
というステートメントを出しました。

これまでの日本のガイドラインでは、
基本的に年齢により血糖のコントロール目標を変える、
という視点はありませんでした。

糖尿病の患者さんにおける血糖コントロール目標は、
1から2か月の血糖コントロールの指標である、HbA1cを、
3段階に分けて設定していました。

血糖正常化を目指す際の指標としては6.0%未満、
合併症予防のための目標としては7.0%未満、
そして治療強化が困難な際の目標としては、
8.0%未満です。

これは意味合いとしては、
高齢者においても、
その方がお元気であれば、
7.0%未満を目標として考え、
その方が他の病気を持っていたり、
認知症があったり、
薬の副作用で低血糖が起こりやすかったりした場合には、
8.0%未満の目標を用いる、
というように概ね理解されています。

僕はこの考え方が決して間違っているとは思わないのですが、
具体性があまりないので、
たとえば85歳でSU剤を使用していて、
HbA1cが6.5%であり、
実際には低血糖による転倒を繰り返したりしていても、
外来を受診される患者さんがお元気であると、
そのまま処方が継続される、
というケースを生むことが多くなります。

これは全ての慢性疾患の薬物治療に言えることですが、
薬の効果は若い年齢の方が高く、
高齢になるほどその影響は低くなります。
その一方で概ね薬の副作用や有害事象は、
高齢であるほど起こりやすくなりますから、
ある時点で薬を減量し、
可能であれば中止する、
という必要性が生じてくるのです。

しかしどうしても継続して患者さんを診ていると、
同じ薬をそのまま継続する、
ということになりがちで、
そうした対応をしないまま、
ダラダラ処方が継続される事態となります。

つまり、上記の85歳の患者さんの場合、
どう考えてもSU剤は減量し、 
場合によっては他の低血糖を起こしにくい薬に変更する、
また場合によっては処方を中止して経過を見る、
というような対応をするべきですが、
それが行われないことは、
実際には多いと想定されます。

これが一般の臨床医の怠慢であることは一面の真理ですが、
専門の先生や学会のレベルにおいて、
どのくらいの年齢でどのような状態になれば、
どのような方法で処方を変更するのか、
というような具体的な指針が、
存在していない、ということも、
同じくらい大きな怠慢である、
と言うことが出来ます。

病気のガイドラインは、
その病気のみを単体で見ていて、
その患者さんをトータルで、
かつ時間的な有限の存在とは見ていない、
という点が大きな問題なのです。

さて、それでは先月、
高齢者糖尿病の血糖コントロールは、
どのように変更されたのでしょうか?

基本的には3段構えになっています。

まず、認知機能が正常でADLが自立している場合、
このケースではHbA1cが7.0%未満を、
原則としては目標に設定しますが、
インスリンやSU剤など、
低血糖を起こしやすい薬が処方されている場合には、
65歳以上75歳未満では6.5(下限)から7.5%未満、
75歳以上では7.0(下限)から8.0%未満、
という指標になっています。

次に軽度の認知機能低下があったり、
ADLの軽度の低下が認められる場合には、
これも原則としては7.0%未満ですが、
SU剤などが使用されている場合には、
7.0(下限)から8.0未満と引き上げられています。

更に中等度以上の認知機能低下やADLの高度の低下、
併発する内臓疾患などがある場合には、
HbA1cの目標値は8.0%未満とし、
SU剤などが使用されている場合には、
7.5(下限)から8.5%未満が目標となります。

欧米では、こうした高齢者糖尿病の血糖コントロールのガイドラインが、
2000年代の初めには色々な形で作成されていて、
2011から2012年くらいにほぼ決定されています。

アメリカ糖尿病学会(ADA)の指標は、
今回の日本の指針と同じように高齢者の状態を3種類の区分していて、
要するにそれをパクッて日本の基準は遅ればせで作られたのですが、
HbA1cの数値については、
元気な高齢者が7.5%未満、
軽度の認知症などがある場合には8.0%未満、
高度の認知症などがある場合には8.5%未満、
というように数値は微妙に違っています。

ヨーロッパの糖尿病作業部会の指針では、
70歳以上の高齢者において、
毎年その身体機能や認知機能をチェックした上で、
SU剤であるグリベンクラミド(商品名オイグルコンなど)は、
用いないことを条件として、
85歳以下では心血管疾患リスクも算出しています。
その結果として、
血糖コントロールの意義が大きい場合には、
7.0から7.5%を目標とし、
身体状態や認知機能が低下している場合には、
7.6から8.5%を目標としています。

それでは、一体どのような薬をどのように使って、
この目標をクリアすれば良いのでしょうか?

ガイドラインとは称していても、
その辺りの具体策はあまり記載はされていません。

高齢者糖尿病の治療の難しさは、
合併症予防を目的とするような、
厳密なコントロールはもう必要はなく、
低血糖を起こすことは極力避けたいのですが、
その一方で平均血糖値が200mg/dLを超えるような過血糖も、
糖尿病性昏睡などのリスクを考えると、
極力避けたい、というジレンマがあることです。

7.6から8.5などという都合の良いことを言っても、
それを継続的に達成することは、
そう簡単なことではないように思います。

日本の指針の場合、
まだ詳細は明らかにされていませんが、
日本老年医学会の、
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を、
参照として薬剤の決定をする、
というようなニュアンスが書かれています。

そこで「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を読んでみると、
全ての高齢者に対して、
SU剤、ビグアナイト剤、チアゾリジン薬、α‐グルコシダーゼ阻害剤、
SGLT2阻害剤、インスリン製剤は、
いずれも中止を考慮するべき薬剤という括りになっています。

これをまともに読むと、
インクレチン関連薬以外の糖尿病治療薬は、
全て高齢者には不適である、
ということになります。

このガイドラインにおける高齢者は、
基本的に65歳以上ということのようですから、
それを鵜呑みにすると、
全ての2型糖尿病の患者さんは、
65歳を超えた瞬間に、
インクレチン関連薬に治療薬をスイッチすることが望ましい、
ということになってしまいます。

これはどう考えても現実的とは言えません。

欧米においては、
2型糖尿病の治療薬の第一選択はビグアナイト系のメトホルミンで、
これは高齢者においても変わりません。
ただ、日本では添付文書上、
高齢者への使用は慎重投与の扱いで、
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」でも、
75歳以上から開始する場合は原則使用はするな、
という記載になっています。

それではどうすれば良いのでしょうか?
75歳以上での糖尿病の治療は、
全てDPP4阻害剤というのが正解なのでしょうか?

単剤で様子を見るとすれば、
DPP4阻害剤は悪い選択肢ではないと思います。

ただ、メトホルミンも当然候補としては残すべきだと思います。
上記薬物療法のガイドラインは、
海外の臨床試験の成績と、
日本の大して根拠のない添付文書の記載とを、
それほど区別することなく羅列して、
1つでも問題のある記載があれば、
「中止するべき薬剤」に含めるという、
実地の臨床をほぼ無視したような記述になっています。
これでは、
1人の医者に取材して、
「僕はDPP4阻害剤は嫌いだから出さない」
というコメントをもらうと、
それを根拠として、
「糖尿病では薬を飲むな!」というような記事に仕立てる、
週刊誌の安手の医療特集と質はそれほど変わりません。
データの重み付けを無視して、
1つでも否定的なデータや見解があれば、
「使用不可」の薬剤に分類して羅列する、
という手法自体は同一だからです。

メトホルミンを不可とする根拠は、
日本の添付文書以外には引用されていないのにも関わらず、
他のデータの根拠の殆どは海外データです。
そして、その海外データではメトホルミンが第一選択なのです。

これでは観念的な砂上の楼閣としては意味をなしても、
実地の臨床においては、
混乱を招くことにしかならないように思います。

個人的な考えとしては、
75歳以上の年齢層においては、
グリベンクラミドのような古いタイプのSU剤は禁忌として考え、
それ以外の薬剤については、
なるべく低用量を使用して、
HbA1cが8%をなるべく超えないようにコントロールする、
というくらいが妥当な判断であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。