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禁煙治療による精神神経症状のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
禁煙治療と精神神経症状.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
禁煙治療による副作用としての精神神経症状の、
リスクについての論文です。

バレニクリン(商品名チャンピックス)は、
現在使用されている禁煙補助剤の中で、
最も有用性が高いことは世界的に認められ、
使用がされている薬剤です。

この薬は脳においてニコチン様の作用を示すことが、
その主な作用となっているので、
発売の当初から脳への刺激が、
精神系の副作用に繋がるのではないか、
という危惧がありました。

バレニクリンの使用により、
うつ状態や自殺企図、自自殺リスクの増加などが、
生じるのではないか、という報告も一部にあり、
それが問題視されたこともありました。

ただ、少数の事例の報告はあっても、
ある程度まとまった集団のデータで、
そうしたリスクの増加が示唆されたことはなく、
薬には意地悪なことで有名なコクラン・レビューが、
2012年にまとめた報告でも、
不眠や悪夢のリスクの増加は指摘されていますが、
それ以外の精神系の有害事象は触れられていません。

もう1つ問題となるのは、
こうした薬を精神疾患のある患者さんに使用した場合の影響で、
以前ご紹介したBMJ誌のメタ解析では、
それほどの影響は認められない、
という結論になっていますが、
この点についてはそれほどまとまった研究が、
多く存在しているという訳ではないので、
禁煙治療薬は精神疾患の患者さんには使用するべきではない、
という見解も根強くあります。

今回の研究は、
これまでで最も大規模なもので、
例数も多く試験のデザインも非常に厳密な方法が取られています。

禁煙治療として、
バレニクリンを使用した場合と、
日本では未発売のニコチン拮抗薬である、
ブプロピオンを用いた場合、
そしてニコチンのパッチを使用した場合の3通りを、
偽薬によるコントロールと比較しています。

患者さんはくじ引きでどのグループになるかを選択し、
偽薬を使用して、
どの治療が行われたのかは、
患者さんにも主治医にも分からないように試験は進められます。

12週間の治療が行われ、
その後12週間の経過観察が行われています。

対象者は世界16ヵ国の140ヶ所の施設で登録され、
その総数は8144名で、
内訳は4116名の精神疾患を持つ患者さんと、
4028名の精神疾患のない対象者です。

主な判定項目は、
禁煙治療期間と観察期間における、
中等度から高度の精神神経症状で、
これは日常生活に制限の生じるような症状が、
新たに出現するか悪化してそうした状態になること、
として定義されています。

その結果…

精神疾患のない対象者においては、
中等度から重度の精神神経症状は、
バレニクリン群の1.3%、
ブプロピオン群の2.2%、
ニコチンパッチ群の2.5%、
そして偽薬群の2.4%で認められました。
各群間の比較では、
バレニクリン群が偽薬より有害事象が少なく、
ブプロピオン群よりバレニクリン群が有害事象が少ない、
という結果になりました。
他の群間には有意な差は付いていません。

精神疾患の患者さんにおいては、
中等度から重度の神経症状が、
バレニクリン群の6.5%、
ブプロピオン群の6.7%、
ニコチンパッチ群の5.2%、
偽薬群の4.9%に認められ、
各群間に有意差はありませんでした。

禁煙の成功率については、
バレニクリン群が最も有効性が高く、
ブプロピオン群とニコチンパッチ群の有効性は同程度で、
いずれの治療も偽薬よりは優れていました。
そして、この傾向は精神疾患の患者さんでも、
そうでない対象者と同じように認められました。
ただ、精神疾患の患者さんでは、
そうでない対象者より禁煙の成功率は低くなっていました。

今回のこれまでで最も規模が大きく、
デザインも厳密な臨床試験において、
バレニクリンは他の治療と比較して有効性が高く、
その精神神経症状のリスクは、
精神疾患の患者さんでもそうでなくても、
偽薬と比較して明らかに高い、
ということはありませんでした。

ただ、精神疾患のある患者さんでは、
どんな治療であるかには関わらず、
治療中の精神神経症状の出現率は高く、
その禁煙の成功率も低いので、
そうした患者さんへの禁煙治療についは、
原疾患の安定した時期を狙うなど、
患者さんの状態に合わせた、
慎重な対応が必要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。