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「ヘイル、シーザー!」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画の話題です。

それがこちら。
ヘイル、シーザー.jpg
コーエン兄弟の新作映画「ヘイル、シーザー!」を観て来ました。

これは1951年のハリウッドが舞台の、
映画愛に満ちた素晴らしいコメディで、
昔の映画界のシステムを描いているところは、
同監督のかつての「バートン・フィンク」にも似ています。

ただ、あちらがダークなファンタジーで、
ホラーめいたテイストもあったのに対して、
今回の新作は敢くまで陽性で、
映画界の暗部や社会の暗部もサラリと見せながら、
それを「大人の余裕」で何処までも楽しいコメディに仕上げています。

映画が好きな方には誰にでも、
自信を持ってお薦め出来る楽しい作品です。
特に昔のハリウッド映画が好きな方には、
これはもう絶対のお薦めです。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公はジョシュ・ブローリン演じる、
ハリウッドの映画会社のトラブル処理のエキスパートで、
スタジオで発生する様々なトラブルを、
時には犯罪スレスレの方法を用いて、
迅速に解決することが仕事です。

映画は彼の他愛のない告解から始まり、
翌日(?)の告解で終わります。

その間に多くの事件が勃発し解決します。
一番のメインになるのは、
ジョージ・クルーニー演じる名優が、
史劇の大作の撮影中に誘拐される事件ですが、
それ以外にも、
田舎者の西部劇のスターが、
芸術映画に抜擢されて四苦八苦する顛末や、
スカーレット・ヨハンソン演じるミュージカル女優が、
妊娠してしまったため、
その子供の扱いに難渋するなど、
多くの事件が並行して語られ、
主人公の何でも屋自体も、
ロッキード社からの引き抜きに悩みます。

結局「映画愛」が多くの事件を解決するキーワードになり、
いつもの日常が撮影所に戻って来たところで物語は終わります。

誘拐事件はミステリーやハードボイルドではなく、
ある社会と政治絡みの事件と関連したもので、
その顛末など、
巧みに当時の状況や社会性が取り込まれています。
ただ、それが深刻になったり、
一方に立場が大きく偏ったりすることなく、
「映画という日常こそが全て」
というテーマに落とし込まれる構成が巧みで、
コーエン兄弟の成熟を見る思いがします。

映像は美しく、
多くの映画の撮影シーンと、
そのラッシュが登場するのですが、
その完成度は高く、
これはもう本当にワクワクする楽しさです。

豪華なキャストが割と小さな役柄を、
喜々として演じている感じも非常に楽しく、
とてもステキな気分で映画館を後にすることが出来ました。

軽い映画ですが非常にお薦めで、
最近で2時間の上映時間を、
ここまで短く感じたことはありませんでした。

三谷幸喜さんの「ザ・マジックアワー」は、
おそらくこの作品のような世界を目指したのだと思いますが、
皆さんがご覧になればお分かりのように、
その出来には悲しくなるほどの差があり、
日本映画というものについて、
色々と考えさせられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

瀬戸山美咲「埓もなく汚れなく」(オフィスコットーネプロデュース) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
石田医師は休診のため、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
埓もなく汚れなく.jpg
ミナモザの瀬戸山美咲さんが作・演出をした新作が、
オフィスコットーネプロデュース公演として、
今下北沢で上演されています。

瀬戸山さんの作品は、
「見えない雲」と「彼らの敵」を観ていますが、
ノンフィクション的なテーマの設定と、
詳細なリサーチに基いた、
緻密で深い心理描写が素晴らしく、
特に「彼らの敵」は傑作だったと思います。
ただ、脇役の扱い方や、
演劇的な展開のさせ方は、
少し素人めいたところがあり、
トータルな戯曲の凝縮度は、
今ひとつに感じるところもあります。

今回の作品は、
オフィスコットーネが集中的に上演している、
早逝した関西の劇作家、大竹野正典さんを主人公に、
特にその妻との関係に焦点を当てて、
いつもながら確かな取材に基づいた、
緻密なドラマを展開させています。

ただ、「彼らの敵」と比べると、
作品の核になる部分が、
少し弱いかな、と感じるのと、
主役の西尾さんの線の細い感じが、
酒飲みでパチンコとタバコ好きのおっさん、
という大竹野さんのイメージと、
かなり離れた感じのする点、
そして主人公の妻を演じる占部房子さんの、
名演と言って良い繊細な芝居と、
毛皮族時代に近い怪演で抽象的な役柄を演じる、
柿丸美智恵さんらの芝居とが、
あまりアンサンブルをなしていない、
という点は不満に感じました。

もう少し別の捉え方があったのではないかと思いましたし、
主人公2人の芝居以外の部分の、
やや乱雑でまとまりのない感じが気に掛かりました。

以下ネタバレを含む感想です。

作品は海の事故で急死した大竹野さんの人生を、
男女関係でもあり、家族でもあり、
そして同じ演劇という山を目指す登山家でもある、
妻との関係を軸に描いています。

大竹野さんはアマチュアであることに拘り、
仕事をしながら劇団を持って演劇を続けたのですが、
世間と関わることや、
周囲から期待を持たれたりすることによる、
精神の不自由さが耐えられなくなり、
劇団を解散して登山ばかりをするようになります。
それが数年のブランクの後、
登山家の遭難を描いた2人芝居の「山の声」を書き、
それを上演した後に、
海で不慮の死を遂げます。

作品はスタンスとしては、
主人公の一番の理解者である妻が、
夫の作品を世に出したい、
多くの人に見てもらいたい、
という思いで夫に接することが、
却って主人公には拘束のように感じられ、
そこから逃げようとして後ろ向きの行動を繰り返すのですが、
劇団を解散し、
たった1人で山に登り続けるうちに、
抜き差しならぬパートナーとしての妻の存在に気付き、
常に1人で山に登り続けた登山家が、
最後に後輩と登って遭難する、
というドラマを描くことにより、
妻と一緒に「芝居」を生きる、
という決意をする、という物語になっています。

主人公の海での死には、
何らかの意図や意味合いがあるようにも思えるのですが、
モデルの遺族に配慮してか、
作者はその辺りにはあまり踏み込んでいません。

作品の後半は、
遺作となった「山の声」を主人公が執筆し、
それをそばにいる妻に語り聞かせるという長いパートになります。
何となく三好十郎の作品を思い浮かべました。
そして、遂に完結して、
主人公がバタリとその場に横になると、
そこで暗転して舞台も終わりになります。

作品は主人公と妻のパートに関しては、
基本的に時系列で物語は展開されます。
ただ、主人公が海で行方不明になる場面が、
何度か途中でインサートされ、
主人公の娘さんのパートもあります。
主人公の仲間としては、
数人が登場しますが、
その扱いはあまり有機的に筋に絡む、
という感じではなく、
柿丸美智恵さんが演じる赤いコートの女は、
時空を超えて主人公の理解者であるような、
空想的なキャラで、
その場面は全体の中では、
かなり浮いていたように思いました。

主人公の娘との関係や、
娘の婚約者との関係など、
もっと膨らませないと、
意味をなさないように感じましたが、
その点は未整理のままに終わっています。

主人公は学生時代に、
唐先生の状況劇場の、
おそらくは「唐版・犬狼都市」に、
衝撃を受けたということのようなのですが、
そこは見に行く前に、
ライトがバッと赤くなり、
その次は時間が飛んでいる、
という感じの展開になっています。

主人公の劇団の舞台の実際や、
練習風景や劇団員との交流なども、
もっとあっても面白いと思うのですが、
殆どそうした場面は出て来ません。

主人公が妻の拘束から逃れるため、
浮気をする、という件があるのですが、
相手がどんな女のひとであるのかも描かれません。

このように、妻以外の主人公を取り巻く人間関係が、
あまり立体的に描かれていないので、
主人公がどのような生活を送っていたのかが、
肌触りとして見えて来ません。

その点がこの作品の構成上の不満です。

舞台はほとんど素舞台で、
背後の壁には山を表現したような木板の装飾があるのみです。
後はちゃぶ台が登場するくらいで、
プロの舞台としては、
ちょっと寂しい感じがしました。
シンプルでももちろん良いのですが、
細部がやぼったくてセンスを感じないのです。

役者としては、
妻役の占部房子さんが抜群で、
彼女の繊細な演技が、
この作品の質を大きく底上げしていたと思います。
ちょっと満島ひかりさんに似ていました。

それ以外のキャストも頑張ってはいたと思うのですが、
作品の中の立ち位置には違和感があったり、
変に大声でセリフをしゃべらせたりと、
この芝居の中であまり効果的に機能していなかったように、
思えたのが残念でした。

総じて魅力的なキャストを集めていながら、
演出がアンサンブルの点でうまく機能しておらず、
ギクシャクした出来栄えになっていたのが残念な公演でした。

オフィスコットーネで古沢さんが以前演出した舞台も、
そうしたギクシャクした感じは似ていました。
何か、舞台作りにそうした要因があるのでしょうか?

素材は良いと思いますし、
練り直した再演を期待したいと思います。

頑張って下さい。

今日はもう1本映画の記事があります。

それでは次に続きます。