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地中海ダイエット論文の取り下げとその影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
地中海ダイエット論文取り下げの波紋.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された検証記事ですが、
地中海ダイエットの健康への効果を実証したとして、
発表当時大いに話題となった論文が、
取り下げられ、再解析の上再掲載された顛末と、
その問題点を検証したものです。

この雑誌の検証記事は、
その妥当性はともかくとして、
いつもかなり辛辣で面白いのですが、
今回も世界一の臨床医学の専門誌である、
the New England Journal of Medicine誌を、
ある意味徹底しておちょくるような内容となっています。

地中海ダイエットと言うのは、
地中海沿岸の地方で、
心臓病の死亡率が低いことに注目して発案され、
1960年代から提唱されている食事療法です。

その内容は、
オリーブオイルや魚介類、果物やナッツ、野菜を多く摂り、
その一方で赤身の肉や肉の脂身、
卵や乳製品、バターや生クリームなどは制限する、
という食事法です。
アルコールはワインが推奨されています。

この地中海ダイエットが、
心筋梗塞や脳卒中の予防効果を有するのではないか、
という考えは以前からあり、
これまでに観察研究のデータや、
心筋梗塞を起こした患者さんの再発予防のデータは存在していますが、
まだそうした発作は起こしてはいないけれど、
起こすリスクの高いような方においての、
予防効果について精度の高いデータは、
これまでにあまり存在しませんでした。

その一次予防効果について検証された画期的な内容の論文が、
2013年のthe New England Journal of Medicine誌の巻頭に掲載されました。

それがこちらです。
地中海ダイエットのオリジナル論文.jpg
この研究はスペインにおいて、
7447名の心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い方を、
ほぼ2500名ずつの3つの群に分け、
1つの群はコントロールとして、
低脂肪の指導のみを行ない、
もう1つの群は通常の地中海ダイエットに、
エクストラヴァージンオリーブオイルを強化し、
3つ目の群ではオリーブオイルではなくナッツを増やして、
その後の経過を観察しています。

試験はもっと長期間の予定でしたが、
明確な差が付いたために、
平均観察期間が5年弱の段階で中途終了となっています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

心筋梗塞や脳卒中の発症とそれによる死亡は、
トータルで288名に発症し、
内訳はコントロール群で109件に対して、
オリーブオイル強化の地中海ダイエットでは96件、
ナッツ強化の地中海ダイエットでは83件となり、
いずれもコントロールと比較して、
ほぼ30%の相対リスクの低下を有意に認めました。

興味深いことには、
このリスクの低下は、
心筋梗塞よりもより脳卒中において多く見られ、
脳卒中のリスクの低下は、
40%に達していました。

脳卒中の発症予防に、
これだけ明確な差のついた食事療法のデータというものは、
これまでに存在しなかったと思います。

この多く薬剤を凌駕するようなダイエットの効果は、
地中海ダイエットの評価をいやが上にも高めることとなりました。

しかし…

この論文については、
その発表当時から疑問を呈する意見もありました。

この研究では、
通常の食事にオリーブオイルとナッツを足しているだけで、
それ以外の地中海ダイエットの特徴には、
あまり注意が払われていません。
コントロール群の食事内容も明確ではないので、
どの程度地中海ダイエットの効果を見ているのか、
判然としない点があります。

また、心筋梗塞と脳卒中と死亡リスクが併せて算出されている中で、
個別に有意な低下が見られているのは脳卒中のみです。
その点もやや不自然な印象があります。

そして、2017年の麻酔科学の専門誌に、
ショッキングな論文が掲載されました。

無作為介入試験とされる臨床試験の論文のデータを、
独自の解析でそれが本当に無作為に分けられているのかを検証したところ、
一流の専門誌に載った論文でも、
その多くで不自然なデータの分布が認められた、
という内容でした。

要するにデータの改竄もしくは恣意的な群分けが、
多くの論文で疑われるという結果です。

この基準を当てはめてみると、
2013年の地中海ダイエットの論文は、
明らかに群間のデータが揃いすぎていて、
データの信頼性は低いということが、
誰の目にも明らかになったのです。

そして、2018年にこの論文は取り下げられ、
代わりに無作為ではない臨床試験として、
データを再解析した論文が同誌に再掲載されました。
その論文がこちらです。
地中海ダイエットの修正論文.jpg
この論文では、
2013年の論文のデータのうち、
1588人分は適切に無作為に群分けされていなかった、
と認めています。

対象者には多くの家族が含まれていて、
くじ引きをすることなく、
1つの群に入れられるなどしていたのです。

ただ、そうした点を勘案しても、
臨床試験としての結論は、
ほぼ変わらなかった、という結論になっています。

そんなことがあるでしょうか?

にわかには信じがたい結果です。

この研究は早期に有意差が出て打ち切られているため、
再検証のための充分なデータが、
実際にはないのではないか、というのが、
解説記事の筆者らの意見です。

2013年の論文のデータは、
メタ解析などとして、
実際には他の数多くの論文でも活用されています。

そうしたメタ解析の信頼性を、
どう考えれば良いのでしょうか?

今回の事例は、
New England誌が、
無理矢理にその体面を保ったような玉虫色のものですが、
国内外を問わず臨床試験のデータの信頼性というのは、
医学の根幹を揺るがすような問題を秘めているようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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