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ACE阻害剤に伴う肺癌リスク増加について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACE阻害剤と肺癌リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心臓に対する作用などで評価の高い降圧剤に、
肺癌リスクを上げるような健康影響があるのではないか、
というショッキングな内容の論文です。

ACE阻害剤という降圧剤があります。
血圧を上げるホルモンの反応の一部を、
ブロックするというメカニズムの薬で、
心臓の保護作用から、
心不全の治療薬としても、
その評価は確立しています。

ただ、ACEという酵素を阻害することにより、
ブラジキニンやサブスタンスPといった、
血管拡張や血管透過性亢進に関わる生理活性物質を増加させ、
このため空咳や浮腫みなどの副作用や有害事象が、
比較的高率に生じます。
この咳についてはただし、
高齢者の誤嚥を防止する効果が期待されるとして、
肯定的に評価する考え方もあります。

しかし、ブラジキニンは増加すると肺に集積し、
肺癌の増殖を刺激するという報告があります。
また、サブスタンスPも肺癌組織での発現が認められていて、
癌の増殖と血管新生に関連すると報告されています。
こうした物質を増加させるACE阻害剤は、
肺癌を増加させるというリスクが危惧されるのです。

これまでに幾つかの疫学データが発表されていますが、
結果は様々で一定の結論に至っていません。
個々のデータは例数が少なく、
観察期間もそれほど長くはないので、
それで結論を出すのは時期尚早と言えるのです。

今回のデータはイギリスの、
プライマリケアのデータベースを活用したものですが、
1995年から2015年に新規に降圧剤を開始した、
トータル992061名を対象として、
ACE阻害剤を使用した場合の肺癌発症リスクを、
アンジオテンシン受容体阻害剤(ARB)を使用した場合と比較しています。

ARBはアンジオテンシンやアルドステロンを抑える、
という意味では同様の作用を持つ降圧剤ですが、
ブラジキニンやサブスタンスPは増加させる作用はありません。
そのために、コントロールとして適切と判断されたのです。

平均で6.4年の観察期間において、
7952件の肺癌が新規に発症しています。
ARBを使用している場合と比較して、
ACE阻害剤を使用していると、
1.14倍(95%CI: 1.01から1.29)
肺癌発症リスクは有意に増加していました。

このリスクはACE阻害剤の使用期間が長いほど高く、
5年以上の使用では1.22倍(95%CI: 1.06から1.40)、
10年以上の使用では1.31倍(95%CI: 1.08から1.59)と、
それぞれ有意に高くなっていました。

肺癌のリスクとして最も大きなものは喫煙ですが、
今回のデータでは非喫煙者においても、
同様の関連が認められていました。

このように今回の大規模な疫学データにおいては、
肺癌リスクはACE阻害剤の使用により、
増加する傾向を示していました。

ただ、ACE阻害剤には空咳の副作用があり、
そのためにレントゲンや胸部CTなどの検査が、
通常より行われることが多く、
そのバイアスの影響は想定されます。
また、この研究ではコントロールにARBを使用しているのですが、
ARBには癌リスクを低下させる可能性がある、
という報告があり、
それが事実であるとすると、
この比較は適切ではない、という考え方も出来ます。
このように、この研究はまだこれだけで、
この問題の結論を出すには早すぎるので、
今後の更なる検証の結果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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