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「密やかな結晶」(鄭義信脚本・演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は演劇の話題です。

それがこちら。
密やかな結晶.jpg
小川洋子さんの1994年作のファンタジーを、
鄭義信さんが台本化して演出し、
石原さとみさんが主演を勤めた舞台が、
本日まで池袋で上演されています。
その後地方公演もあるようです。

これは一言で言えば、とても珍妙な舞台でした。

宣伝のチラシを見ると、
何かスタイリッシュで繊細な舞台を、
想像してしまいます。

原作を読むと、
一筋縄ではいかない、
非常に繊細で微妙な作品で、
小川さんらしい際どくてエロチックで、
危険な感じも潜んでいます。
それでいて表面的には純然たるファンタジーなので、
こんなものはとても演劇には向かなそうだな、
というように感じます。

こうした裏のあるファンタジーの舞台化としては、
蜷川幸雄さんの「海辺のカフカ」の演出が、
さすが蜷川という1つの超絶技巧を見せてくれました。
オープニングの光り輝くボックスが、
宝物を入れてシガー・ロスの曲に乗り、
無数に乱舞する情景の素晴らしさは、
今も脳裏に焼き付いています。
また、ケラさんは意外にこうした世界を、
オリジナルで巧みに見せるという藝を持っている演劇人です。

鄭さんはもっと泥臭いスタイルの、
アングラ志向の人間ドラマが持ち味ですから、
誰がキャスティングしたのかは分かりませんが、
およそ小川さん作のファンタジーの舞台化には、
向いていないように思えます。

果たしてその結果は如何に…
と持って劇場に足を運ぶと、
前半は何と「子供向けミュージカル」となっているので、
脱力してしまいました。

ある架空の島で、
1つずつ「物」が消滅してゆき、
心の中ではその消滅を記憶している人を、
秘密警察が探し出して捕らえてしまう、
という話なのですが、
秘密警察の連中が歌って踊り、
物語を説明するのです。

ベンガルさんが秘密警察のボスの山内圭哉さんに対して、
「関西弁を話すと、架空の島という設定に合わないよ」
みたいな「糞セリフ」を発するところなど、
あまりのひどさと詰まらなさに、
頭を抱えて下を向くしかありませんでした。

酷い芝居でした。

ただ、後半はかなり鄭さん得意のアングラ芝居に、
強引に内容を寄せていて、
それなりに見応えが出て来ました。

従って後半は、
ほぼ原作とは無関係な世界になります。

主人公の石原さとみさん演じる島の小説家は、
記憶を失わない体質の、
鈴木浩介さん演じる編集者を、
自分の家の隠し部屋に匿うのですが、
その編集者と山内圭哉さんが兄弟という設定になっていて、
2人の愛憎が表現されるのは、
いつも鄭さんのドラマに共通する、
兄弟の愛憎に物語りを寄せていますし、
ラストで鈴木さんが抱きしめる中、
石原さんが消滅してゆくのは、
唐先生の「少女都市」で、
ガラスになった少女を田口が抱きしめる、
という場面に明らかに寄せています。
こうした設定はいずれも原作にはないのです。
また原作では病死する「おじいさん」を、
島の老女達のリンチで殺害するのも、
如何にも鄭さんの世界です。

ラストでは最初に消滅した「薔薇」が、
舞台奥の暗闇で乱舞し、
そこに向かってセットが後退するのは、
要するにテント芝居のラストをやっているのです。
「愛してる」という言葉が消滅し、
それが最後に帰って来るという、
気恥ずかしくて死にそうになる展開も、
勿論原作にはない鄭さんのオリジナルです。

キャストでは石原さとみさんは、
なかなかの熱演を見せていましたが、
声が悪く、ラストなどは耳障りな金属音のように、
なってしまっていました。
彼女にアングラ芝居は似合わないと思いましたし、
もっと声を大切に使ってくれるような、
スタッフと仕事をして欲しいと思いました。
彼女の持ち味はこんなところにはない筈です。

ベンガルさんは好きなのですが、
今回はほぼアンサンブル的扱いで、
最近お元気のない感じではありますが、
この扱いは酷いな、と感じました。

そんな訳で、
どうしてこの企画が鄭さんだったのだろう、
という疑問ばかりが残る珍妙な舞台で、
小川さんの繊細な原作とは、
全くの別物ですし、
今年の観劇の中でも落胆度の高い芝居となってしまいました。

とても残念ですが、
企画をされる方は是非、
もっと適材適所ということを、
お考え頂きたいと思います。

それでは最後の記事に移ります。

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