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アメリカにおける経鼻インフルエンザワクチンの推奨取り消しについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンとその違い.jpg
2015年のPediatrics誌に掲載された、
経鼻インフルエンザワクチンの効果についての論文です。

現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは、
スプリットワクチンと言って、
バラバラにしたウイルス抗原を、
そのまま注射するというもので、
それ以前の全粒子型のワクチンと比較すると、
その効果は落ちますが、
安全性が高く、重篤な有害事象の少ないのが特徴です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」の流行時には、
迅速に流行株の抗原をワクチンにしたので、
その有効性は非常に高く、
インフルエンザワクチンの有効性を再認識させました。

ただ、このタイプのワクチンは、
血液での抗体は誘導しても、
粘膜の抗体は誘導しないため、
感染自体を阻止することは出来ない、
という意見や、
成人と比較して小児への有効性が低い、
という意見、
少しでも流行しているウイルス抗原が、
ワクチン抗原と異なっていると、
その有効性が低くなる、
というような意見などがあって、
特に小児に対しては、
より有効性の高いワクチンが必要だ、
という考えが根強くありました。

その有力な候補として考えられたのが、
経鼻のインフルエンザ生ワクチンです。

経鼻インフルエンザ生ワクチンは、
低温馴化ウイルスと言って、
鼻の粘膜では増殖するけれど、
それを超えて肺炎などを起こすことはないように、
その働きを弱くしたインフルエンザウイルスそのもので、
その表面の抗原タンパク質は、
流行の予測される抗原を、
遺伝子工学の技術を用いて入れ替えて作られています。

このウイルスを、
スプレータイプの器具を用いて、
鼻の粘膜に噴霧します。

すると、
鼻の粘膜のみにインフルエンザのワクチン株による感染が起こり、
それが粘膜と血液の両方の免疫を誘導する、
という仕組みです。

これが経鼻インフルエンザ生ワクチンで、
商品名はフルミストと言われるものが、
2003年にアメリカで承認され、
2011年にはヨーロッパでも承認されました。

このワクチンは何よりも注射ではなく、
点鼻で接種が可能である、ということが利点で、
それに加えて注射の不活化ワクチンとは異なり、
粘膜の免疫を誘導することから、
特に小児においては、
有効性の高いことが期待されました。

実際、アメリカで発売後に施行された臨床データにおいては、
80%以上という高い有効性が報告されました。

このため、アメリカでは2014年、
2から8歳の小児では不活化ワクチンではなく、
経鼻生ワクチンの接種が推奨されることになりました。

日本においてもこの頃から、
一部の小児科のクリニックなどでは、
輸入したフルミストを、
自費で接種するような試みが行われました。

ここまでは良いこと尽くめの経鼻生ワクチンで、
向かうところ敵なしと感じられたのですが、
2013年から14年のシーズンに、
2009年に「新型インフルエンザ」と呼ばれたのと同じタイプのウイルスが流行し、
それに対して経鼻生ワクチンは、
全くの無効であったことが、
その後の解析で明らかになると、
ちょっと風向きが変わり始めます。

2015年のシーズンにおいて、
アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)は、
2から8歳の年齢層において経鼻生ワクチンを優先する、
という方針を切り替え、
生ワクチンでも不活化ワクチンでも、
どちらでも良いという指針に後退します。

上記文献はCDCが主導したもので、
2010年から14年の4シーズンのそれぞれにておいて、
経鼻生ワクチンと従来の不活化ワクチンの注射との有効性を、
比較検証したものです。

その結果は驚くべきもので、
どのシーズンにおいても不活化ワクチンと比較して、
生ワクチンの方がよりインフルエンザを予防した、
という結果はなく、
特に2009年に流行したH1N1に関しては、
はっきり無効と言って良い結果となり、
明確に不活化ワクチンよりその効果は劣っていました。

更に2015から16年のシーズンの解析においては、
2歳から17歳の年齢において、
トータルな経鼻インフルエンザ生ワクチンの有効率は3%で、
それに対して従来の不活化ワクチンは63%でした。
3%というのは要するに無効ということです。

この結果を受け、
つい最近出たACIPのステートメントにおいては、
2016年のシーズンにおいて、
明確に全年齢において、
経鼻生ワクチンの推奨を取り下げました。

現状のフルミストは、
季節性インフルエンザの予防としては、
完全に推奨を外れる結果となったのです。

けいゆう病院の菅谷先生の論考によれば、
これは経鼻生ワクチンそのものの構造的な欠陥の可能性が高く、
単純にワクチンと流行の抗原が一致しない、
というような性質のものではないようです。

理屈から言えば、
弱毒化した生ワクチンで、
抗原のみを不活化ワクチンと同じ流行株に置換しているのですから、
間違いなく不活化ワクチンより効果があると思われるのですが、
実際には不活化ワクチンの方が有効性が高い、
という辺りに、
ワクチンというものの不確かさというか、
今ある知識のみでは計れないものを、
感じる思いがします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ドクテロイドK

以前「ユニバーサルワクチン」の事で恥ずかしい書き込みをしてしまい、以来コメントの書き込みをためらっていたのですが、今回も非常に興味ある記事をご紹介いただき、恥を忘れて投稿いたします。

Nasal spray vaccine (FluMist)が効かなかった理由の仮説を読みました。3年連続で同じ株を使用したため、(流行期の暴露をブロックする程の力価ではない)低力価の抗体存在下で、弱毒化ウィルスの感染そのものがブロックされたのではないかというものです。抗原を強制的に体内に注入する方法と異なり、局所で小規模の感染症を引き起こす必要があるFluMistの弱点ですね。ある意味ではワクチンが効いていたという事でもあります。

中等度以下の力価の抗体が、Antigen driftに関与するという仮説(コンピューターシミュレーション)を読んだことがあります。ワクチン株と近似の株に暴露された場合は感染がブロックされるが、driftが強くなると感染する。従って、周囲に感染が流行している場合は、ワクチン接種者によってdriftの強い株が選択される結果となり、接種率が高くなるほどdriftの進行が速くなる、というものです。ただし、ワクチン接種率が非常に高くなれば(この仮説では80%以上)、感染の流行自体が起こらなくなって、Antigen driftも生じない、と書かれていました。
by ドクテロイドK (2016-06-30 13:06) 

fujiki

ドクテロイドKさんへ
コメントありがとうございます。
懲りずにぜひまたコメントをお寄せ下さい。
言われるようなことも、
確かに可能性はあると思います。
ただ、何となくですが、
もっと基本的な部分で、
フルミストには欠陥があった、
という可能性の方が、
高いようにも思います。
日本では別個の経鼻ワクチンの治験が、
行なわれているようですから、
その実現にも期待したいと思います。
フルミストとは違って、
そちらは大成功、ということになると良いのですが…。
by fujiki (2016-06-30 16:23) 

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