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唐十郎「黄金バット 幻想教師出現」(オルガンヴィトー上演版) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
黄金バット.jpg
1981年の唐先生の状況劇場時代後半期の戯曲を、
唐組旗揚げ初期のヒロイン、
不二稿京(当時藤原京)が主催する劇団オルガンヴィトーが、
世田谷の太子堂八幡神社境内で、
テント芝居として明日まで上演しています。

唐組の初期にはこの藤原京と長谷川公彦が、
ヒロインとヒーローとして舞台を支えましたが、
2年で唐組を去り、揃って劇団オルガンヴィトーを結成しました。

僕はいつも良くなって来たところで、
すぐに唐先生のところを去ってしまう役者さんが多いのが、
仕方のない事情があるのでしょうが、
いつも無念に感じていたので、
オルガンヴィトーを観には行きませんでした。

藤原京さんは「鉄男」の塚本晋也と一緒の仕事など、
映画などでも多彩な活躍をされましたが、
長谷川公彦さんはしばらくして劇団を去りました。
しかし、その後もオルガンヴィトーは、
唐組を退団した役者さんの受け皿のようになっていて、
今も複数の役者さんがそうして所属しています。

今回は場所が水族館劇場でも最近お馴染みの、
太子堂八幡神社だったことと、
作品が初演以降おそらく一度も上演されたことのない、
「黄金バット 幻想教師出現」だったので、
一体どのくらいのレベルのものをやっているのだろう、
と興味を持って足を運びました。

会場の様子を窺って見ると、
水族館劇場の10分の1くらいのうらびれたテントが建っていて、
舞台の横はただの幕が下がっているだけです。
それも「今日は蒸すから横は開けたままにしようね」
みたいな話をしています。
桟敷ではなく一応長椅子の客席ですが、
びっくりするほど汚い座布団が敷いてあります。
詰めても50人は入らないくらいのスケール感です。
テントの後ろは是非開いて欲しいと思っていたのですが、
テントの重い布がしっかり舞台の背後には降りていて、
どうも後ろは開きそうにないな、
と分かったので、尚更テンションは低くなります。

3幕劇なので2回幕間がある筈で、
これで役者が酷かったら、
幕間で帰ろうと思っていると、
前説を聞いてビックリ、
「休憩はしないで2時間半ぶっ続け」
という発言です。
仕方なく覚悟を決めて最後まで観ることにしました。

最初に保村大和さんという役者さんが出て来ると、
これが意外に声も出ているし口跡もまずまずなので、
途中で素人っぽい言い間違いの仕方をしたので、
オヤオヤと思いましたが、
これなら観てもいいかな、
という気分になります。
それからも出て来る役者さんは、
まずまずのレベルで、
セットがあまりにせこいのがガッカリはしますが、
水は吹きあがるし宙乗りもあるので、
まあこれなら悪くないな、という気分になります。
何より唐先生の戯曲を、
素直に立ちあがらせている、
品のある演出に感心します。
殆ど何もしない照明も、
音効の入れ方も悪くありません。
唐組より前の時代の雰囲気が、
濃厚に感じられると言う意味では、
今唐先生の戯曲を上演する集団としては、
唐ゼミや新宿梁山泊より、
遥かに正統派だと感じました。

水を使いたくて強引に戯曲の設定を改変したことと、
素人レベルの美術センスとセットの貧相さが、
かなりの減点ポイントではあるのですが、
紛うことなき唐先生の世界に、
しばししっかり浸ることが出来ました。

以下、ネタばれを含む感想です。

この作品は1981年に状況劇場で初演されたもので、
唐先生の作品としては知名度は低いものです。
僕は唐先生の作品を状況劇場で最初に観たのは、
1982年の「二都物語」と「新二都物語」の連続上演で、
この「黄金バット」は観る機会はあったものの、
結局行くことはありませんでした。

この時期は根津甚八が去り、小林薫も退団した時期で、
それに代わる男優の主役が、
明確に定まっていなかった時です。
同年には蜷川幸雄と組んだ「下谷万年町物語」があり、
当時の永遠の紅テントのヒロイン、
李礼仙の内面を掘り下げるような,
暗い抒情を湛えた戯曲が生まれました。

この作品はそうした時期の佳作で、
状況劇場の代表作の1つ「唐版●風の又三郎」に、
非常に似通った構成と構造を持ちながら、
より暗く鬱屈した情念に満ち、
李礼仙の心の奥底にある底なしの沼を探るような、
ダークサイコロマンのような趣きがあります。

主人公は発達障碍の青年で、
そこに黄金バットのマントを隠し持った、
かつての教師が連れ添い、
ヒロインはかつてまた別の発達障碍の少女を、
自死するのを止めることが出来なかったために、
教師を止めて謎の風鈴学級の生徒となった女教師です。

彼らは発達障害の青年の幼馴染の女性の一家が所有する、
空き地のトイレに風鈴学級を開き、
黄金バットのマントを翻して空に消えたかつての恩師が、
戻って来るのを待つのですが、
その儚い幻想は、
「現実社会」を代表する、
多くの奇怪な悪役達に蹂躙され、
女教師も命を落とします。

ラストは発達障害の青年とかつての教師の前に、
笑い声と共に黄金のマントをまとい、
黄金バットと化した女教師の幻が、
宙を飛びます。

唐先生としては、
残酷でグロテスクな描写に満ち、
かなり内省的でダークな気分の強い戯曲です。

切り取られた耳が何度も登場し、
それが登場人物によって噛み砕かれたり、
無雑作に捨てられたりもしますし、
黄金バットと共に校舎から落ちた女性が、
第二の女教師として主人公の前に現れ、
後遺症で手首がポロリと取れたりもします。
赤痢の便を主人公に食べさせて、
それが教育だと凄むようなビックリの場面もあります。

公衆便所は唐先生の戯曲では、
何度も登場するイコンのような存在ですが、
この作品ほど糞便や尿が、
前面に登場する作品もあまりないと思います。

それでいて、
主人公の女教師の台詞は非常に詩的で、
かつ心の深淵を覗き込むような深みがあり、
教え子の自死の真相を探る切ない台詞には、
唐先生でしか書きえない、
切ない詩情の煌めきがありました。

今回特に思ったことは、
唐先生の戯曲における李礼仙の存在の重さで、
矢張り彼女は唐先生にとっても、
唯一無二の水先案内人で、
ヒロインの台詞の中にあるこの詩情と深みというものは、
李礼仙以外のヒロインにその後書かれた台詞の中には、
決して見られないもののように思いました。

ただ、作品としての欠点は、
風の又三郎に対比されるヒーローが、
黄金バットであることで、
その黄金のマントが手から手に渡ることで、
ヒーローが変化するのが肝なのですが、
初演当時としてもあまりにレトロで、
観客の心を掴むには至らなかったのではないかと思います。

今回のオルガンヴィトーの上演は、
この作品を正攻法で上演していて、
その点が非常に好感が持てます。

原作を改変しているのは一点だけ、
原作で登場する「モグラ・タンク」を、
ヘンテコな風鈴の付いた船にしていることで、
プールと水を使いたかったというのは分かるのですが、
原作に登場しない池が舞台にあること自体はともかくとして、
モグラ・タンクが登場しないと、
作品の意味合いがまるで変ってしまうので、
これは是非原作通りにして欲しかったと思います。

また、ラストは一応主人公の宙乗りもあるのですが、
後ろを開けずちょっと上に上がるだけなので、
迫力がありませんし、
船が前に出て来るので、
灯りが消えても終わりという感じが乏しく、
何となく間抜けな感じになってしまいました。
あれは何らかの形で、
彼方に消える、
という印象が是非必要だったと思います。

総じて美術やセットには問題がありました。

良かったのは第一に役者で、
女教師役の不二稿京さんは、
唐組時代からその語りのリズムには定評があり、
緑魔子さんをよりパワフルにした感じだったのですが、
久しぶりに聴く彼女の台詞は、
より磨きが掛かっていて、
唐先生のロマンを見事に体現していました。
ただ、お年のことは申し上げると失礼なのですが、
今回の主役には、
正直かなりギリギリに感じる部分はありました。
(失礼の段お許し下さい)

他のキャストも概ね好演で、
かつて唐組でメインキャストであった、
堀本能礼さんと飯塚澄子さんが揃って出演し、
飯塚さんは役が小さいのが気の毒でしたが、
懐かしく感じましたし、
初演で不破万作が演じた、
大久保鷹の夜の男めいたメメズの介を、
暴力的にそれらしく演じた堀本さんはなかなかでした。
初演の唐先生の役は高橋茶太朗さんで、
前半に飛ばし過ぎて息切れするなど、
スタミナ配分には疑問が残りますが、
唐組の辻孝彦にも似た藝質で、
唐先生とはまた別箇の悪党ぶりがなかなかでした。

更には初演で御旅屋暁美さんが演じた、
主人公に対立する女教師を、
川上史津子さんが演じていて、
左手の作り物がもっと出来が良ければ、
更に良かったとは思いますが、
楳図かずお的な怪奇味を醸した熱演で、
ところどころに素人っぽいとちりがあるのが不思議ですが、
この役は間違いなく初演を超えたと思います
(実際には初演は観ていませんが、間違いはありません)。
川上さんは前説も担当していて、
こちらもなかなか聴き応えがありました。

キャストに次いで良かったのは、
音効と照明で、
照明は殆ど何もしていないのですが、
それが非常に良く、
音効はレトロな雰囲気と入れ方が、
かつての状況劇場を彷彿とさせて懐かしく、
そうだよね、
こういう風にやれば唐先生の台詞は一番活きるんだよ、
と膝を打つ思いがしました。
余計なことを山ほどやって、
それで却って失敗している新宿梁山泊と唐ゼミの方は、
是非参考にして頂きたいと思いました。

総じてここ5年くらいで観た唐先生の戯曲の上演の中では、
一番台詞を素直に耳にすることが出来、
その詩的な描写に素直に酔うことが出来ました。
繰り返しになりますが、
唐組の感じではなく状況劇場の匂いがあったのです。

願わくばまた上演を重ねて欲しいと思いますし、
是非美術と装置は一考して頂いて、
ラストは彼方に去る工夫をし、
モグラ・タンクを船にするような、
無理矢理な改変はしないで欲しいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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