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妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠前後の甲状腺機能の変化.jpg
2013年11月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症の、
出産後の経過を観察した文献です。

小ネタ的なものですが、
臨床的には意義のあるものなので、
ご紹介したいと思います。

潜在性甲状腺機能低下症というのは、
甲状腺ホルモンである血液のT3やT4の数値自体は、
明確には低下していないけれど、
甲状腺刺激ホルモンであるTSHの数値は、
上昇している、という状態のことです。

甲状腺のホルモンを作る力が低下すると、
それを感知してTSHは上昇し、
甲状腺をより強く刺激して、
ホルモンの産生を増やそうとします。
しかし、更にホルモンを作る力が低下すると、
そうした刺激があっても、
血液の甲状腺ホルモン値は低下します。

従って、
甲状腺に原因がある甲状腺機能低下症では、
まずTSHが上昇してT3やT4は正常という状態があって、
より進行すると、
TSHの上昇に加えて、
T3やT4も低下する、という状態に至ります。

この軽症の状態を、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。

一方でTSHは正常ですが、
血液の甲状腺ホルモン値は低下している、
という状態もあり、
これを低サイロキシン血症と呼んでいます。
(個人的は見解では、
その多くは遊離ホルモンのアッセイに問題があるのではないか、
と考えます)

通常甲状腺機能低下症で、
甲状腺ホルモンによる治療の対象となるのは、
概ねTSHが10μg/mL(年齢など状況により5)を越えて上昇していて、
T3もしくはT4の値が正常より低下している場合です。

つまり、
潜在性甲状腺機能低下症や低サイロキシン血症は、
一般的には治療の対象になりません。

しかし、例外があって、
それが妊娠をされている女性の場合です。

妊娠中には甲状腺機能に多くの変化が起こります。

まず、妊娠初期には、
一時的な甲状腺機能亢進症が起こることがあります。
これは胎盤から分泌されるhCGと言うホルモンが、
TSH様の作用を持って甲状腺を刺激するために起こる、
と考えられています。
妊娠初期の悪阻と呼ばれる吐き気などの症状は、
この甲状腺機能亢進症と関連があります。

この機能亢進症状は一時的なもので、
妊娠13週くらいまでには、
改善することが殆どなので、
T4の数値が正常上限の2倍を越えなければ、
治療の必要はないと考えられています。

一方で妊娠の初期から甲状腺ホルモンの必要量は増加します。
これは一部は胎児の利用のためでもあり、
血液量の増加のためでもあります。

このため、
特に橋本病という病気があって、
甲状腺でホルモンを作る力が弱いと、
妊娠中でなければ問題のない状態であったのに、
妊娠中にはホルモン需要の増加に対応出来ず、
一時的な甲状腺機能低下症が生じる場合があります。

更には妊娠中のTSHの数値が3を越えると、
流産や早産が増えるという知見があり、
このためアメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、
妊娠初期のTSHは2.5を上限とし、
中期以降のTSHは3.0を上限とする、
という指針が提示されています。

つまり、
通常であれば治療を要さないような、
潜在性の甲状腺機能低下症でも、
妊娠中に限っては、
甲状腺ホルモンによる治療が、
望ましいケースが多いのです。

ただし、この変化が一時的なものであるのか、
それとも出産後も持続するものであるのかについては、
まだ確とした見解がありませんでした。

今回の文献ではイギリスにおいて、
特に甲状腺疾患を指摘されていない、
523名の妊娠された女性に、
妊娠中期の28週の時点で甲状腺機能などの採血を行ない、
潜在性甲状腺機能低下症や低サイロキシン血症のあった方では、
出産後平均4.9年の時点で再測定を行なって、
甲状腺機能の推移を検証しています。

潜在性甲状腺機能低下症は、
TSHの数値が3を越えていて甲状腺ホルモンは正常として、
定義されています。

その結果…

潜在性甲状腺機能低下症は全体の12.4%に当たる、
65名で認められましたが、
そのうちの75.4%に当たる49名は、
出産後には正常に復していました。
一方で出産後機能低下となるリスクとしては、
橋本病の存在が明確でした。
TSHが上昇していない低サイロキシン血症は44名に認められましたが、
出産後に異常となったのは2例に留まっていました。

つまり、
妊娠中に見出された、
潜在性の甲状腺機能低下症は、
橋本病がある場合には、
出産後も治療の継続が必要な場合がありますが、
それ以外の多くの場合には、
出産後に治療の継続が必要なことはありません。
そして、低サイロキシン血症は、
基本的に病的な状態と考える必要はなさそうです。

他方で橋本病をお持ちの方では、
妊娠前の甲状腺機能が正常であっても、
妊娠中の変動は起こり易いので、
定期的な甲状腺機能のチェックは、
是非必要だと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心配ママ

度々申し訳ありません。先日の喉の違和感についてなのですが、昨日耳鼻咽喉科を受診したところ何も異常はありませんでした。私が感じる喉の違和感というのはいずれもガムを噛んでいる時に、一瞬喉にビー玉が詰まったようになるのです。次の瞬間には何も感じなくなっているのですが、それから自分は食道がんではないかという不安にかられています。
食道がんにはこのような症状はありますか?
by 心配ママ (2014-02-07 09:11) 

柊香

はじめまして。
毎回、とても興味深い内容で、拝読させていただくのを楽しみにしています。
「妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症について」ですが、
TSHとFT4が正常値で、FT3だけが低い「低T3症候群」の場合は、
妊娠中・出産後に何か影響が出ることはあるのでしょうか?

私は血液検査で、よくT3だけ「LOW」のマークがつきます。
現在妊娠しているわけではないのですが、
気になったので、教えていただけると嬉しいです。
どうおよろしくお願いいたします。

by 柊香 (2014-02-07 19:45) 

双子兄

長きに渡りブログを拝読しておりました。
総じて初めての書込みになります。

25日以降通院出来ていません。
目眩も胃痛も、治まり知らずです。
「休む」の意味も、「寝る」位しかわかりません。

悪くなりたくないです。
でも両腕は注射で硬くなって、点滴の血管も硬くなってしまって看護師さん達に迷惑かけてるとしか思えなくなって。

色々宜しくない考えに囚われる中、一昨日夜にトラウマトリガーを引いてしまい、今も酷いフラッシュバックで眠れません。
例の子の事も、今だに怒りが湧かないどころか、許そうとする気持ちが頻繁に出てきます。
同居人さんはその事について、きちんと話したり意見を出す事はありません。
あの子の事や自分達の事を言おうとすると、
「飯が不味くなるからやめて!」
「苛々するから聞きたくない!」
と言われます。

同居者からのケアって何ですか?
頼るって、具体的にはどんな事をですか?

自分はいったいどうしたらいいんでしょうか…。
by 双子兄 (2014-02-08 06:54) 

fujiki

心配ママさんへ
通常はあまりないと思います。
今はあまりご心配はされず、
お時間的に余裕のある時に、
胃カメラを再検されるのが良いと思います。
by fujiki (2014-02-08 08:41) 

fujiki

柊香さんへ
橋本病の自己抗体が陰性で、
TSHが正常であれば、
少なくともご妊娠中のご心配はないと思います。
by fujiki (2014-02-08 08:42) 

fujiki

双子兄さんへ
もし今日の午後可能でしたら、
ご受診下さい。
点滴のことは気にされないで良いです。
ただ、雪なので、
お天気によってはご無理はされないで下さい。
by fujiki (2014-02-08 08:44) 

柊香

お忙しい中、お返事をいただき、ありがとうございます!

「T3」が毎回低いことに対しては、
医師は「心配ないです」というだけで、
それ以上の質問はできず、橋本病の自己抗体は調べたことがありませんでした。

今度、血液検査をする際は、自己抗体の検査もお願いしようと思います。

これからも、ブログを拝読させていただくのを、
楽しみにしております!

by 柊香 (2014-02-08 10:55) 

大町

初めまして。
ネットで甲状腺の事を調べていたら、ここにたどり着きました。

一つ質問させてください。
去年の9月にはTSHの値が0.74の正常値だったのですが、今年の2月に妊娠をし、3月の前半に流産(8w)のため手術をしました。

4月の頭にTSHを計測したら、6.11にまで数値が上がっていました。T4の値は2回とも正常値でした。
こういう文面だけでは、一概には言えないとは思います。
分かってはいるのですが、お聞きさせてください。
妊娠によって一時的に数値が上がったとも考えられますか?

by 大町 (2014-04-04 23:11) 

fujiki

大町さんへ
妊娠時に上がった可能性はあると思います。
橋本病のあるかないかで、
その解釈は異なりますので、
橋本病の自己抗体のチェックと、
甲状腺の超音波検査は、
もしされていないようであれば、
やっておいた方が良いように思います。
by fujiki (2014-04-07 08:27) 

大町

お礼が遅くなってしまいすみません。橋本病の抗体はまだ検査していないので、今度話をしてみたいと思います。ありがとうございました。少し心が軽くなりました。
by 大町 (2014-04-16 15:44) 

妊娠中です

はじめまして。潜在性甲状腺機能低下症を調べていてこちらにたどり着きました。
ただいま、妊娠14週の妊婦です。過去に甲状腺を全摘し、チラージンを100飲んでいましたが、今回の妊娠のため125に増やしました。しかし、前回12週の血液検査でTSHが15.2と非常に高くなっていました。昨日よりチラージン150に増やしました。年末には、0.95と落ち着いていたので安心していたのですが…1番大切な7週~14週の間にTSHが非常に高いままだったようです。胎児への影響がとても心配です。ft3.ft4は
正常範囲内です。やはり、胎児への影響は大きいでしょうか。よろしくお願いいたします。
by 妊娠中です (2016-02-13 16:30) 

fujiki

妊娠中です…さんへ
甲状腺機能低下症における流早産の増加は、
橋本病にほぼ限ったもので、
甲状腺全摘後に同じことが当て嵌まるかどうかは、
明確ではないと思います。
全摘後はどうしても甲状腺機能は不安定になりますから、
記載のレベルの変動は、
やむを得ない範囲ではないかと思います。
あまりご心配はせずに、
ご妊娠を継続されるのが良いと思います。
by fujiki (2016-02-15 08:15) 

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