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尿酸が高いと本当に心筋梗塞が増えるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
何もなければ午後は少しゆっくり出来る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
尿酸とBMIとの関係.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血液の尿酸値を上昇させる遺伝素因と、
心筋梗塞や高血圧との関連性についての文献です。

血液の尿酸の値が高いと、
病気というイメージを持たれる方が、
多いのではないかと思います。

高尿酸血症という診断の下に、
尿酸を下げる薬を、
飲まれている方も多いのではないかと思います。

それでは、
尿酸を下げるとどのようなメリットが、
健康上あるのでしょうか?

何を当たり前のことを言っているんだ、
痛風を予防するために決まっているじゃないか、
と言われる方があるかも知れません。

それは確かにその通りです。

身体に尿酸が多く蓄積し、
関節に尿酸結晶を形成すると、
一種の自己炎症的な機序により、
足の親指に特徴的な、
猛烈な痛みの関節炎を起こします。

所謂痛風発作です。

1回でも痛風発作を起こした方の場合、
その再発予防の目的で、
尿酸を下げる薬を使用することは、
世界的にも推奨されている治療です。

しかし、
血液の尿酸値が高い人は大勢いても、
その中で痛風発作を起こす人は、
正確な統計はありませんが、
そう多い訳ではありません。

痛風発作を起こさない高尿酸血症の人は、
尿酸を薬で下げる必要があるのでしょうか?

この点は実は未だにグレイゾーンです。

尿酸というのは実は強力な抗酸化物質です。

1980年代にはそうした論文が複数出ていて、
心筋梗塞や脳卒中、発癌などを予防する作用があるのでは、
という仮説も提唱されていました。

人間の身体には、
動物には存在する尿酸を分解する酵素が、
進化の過程で発現しなくなっていて、
つまりは尿酸が溜まり易い構造になっているのですが、
その理由は尿酸が不足することが、
身体にとって深刻な影響を与えるためではないか、
という推測もなされています。

つまり、
一時は尿酸が高いことは、
健康に良いことだったのです。

ところが、
1990年代以降、
高尿酸血症が多くの病気と関連する、
という内容の疫学データが次々と発表されます。

その多くは尿酸値の上昇と、
心筋梗塞や脳卒中の発症、
高血圧やメタボリックシンドロームが、
関連している、というような報告です。

こうしたデータを重視する方は、
尿酸が高いことがこうした病気の発症に繋がるので、
痛風発作がなくても、
尿酸が高ければ薬を飲んで下げるべきだ、
という意見になります。

しかし、
本当に尿酸が高いことが、
たとえば心筋梗塞の発症に結び付くとして、
そのメカニズムは明らかではありませんし、
尿酸を下げることだけで、
他の条件を何ら変えずに心筋梗塞の発症を減らした、
というようなデータも存在しません。

また、
心筋梗塞のリスクには、
コレステロールや内臓脂肪の蓄積など、
多くの因子が存在しますが、
そうした因子を補正すると、
尿酸単独のリスクは、
殆ど有意なものではなくなる、
というデータも複数存在しています。

要するに、それらしいデータ自体は多くありますが、
明確に尿酸値単独で、
心筋梗塞や高血圧が発症する、
ということの証明はありませんし、
実際には他の危険因子の影響で、
尿酸が二次的に上昇している可能性もあるのです。

そこで今回の研究では、
尿酸値を上昇させる遺伝子変異の有無と、
心筋梗塞や高血圧の発症リスクとを、
過去の数万人規模の2つの疫学研究のデータを用い、
メンデルランダム化解析という手法を用いて、
解析しています。

尿酸値を直接的に比較するばかりではなく、
尿酸の上昇に結び付く遺伝子変異との関連を見ている、
というところがポイントで、
この手法はその遺伝子変異が、
病気の原因であるかどうかを、
判断するのに有益だとされています。

その結果…

尿酸値は確かに、
高血圧や虚血性心疾患と関連性が認められました。
しかし、
これを尿酸を上昇させる遺伝子変異のあるなしで解析すると、
そうした相関は認められなくなりました。

一方で肥満の指標であるBMIに関わる遺伝子指標と、
尿酸値との関連を検討すると、
こちらは統計的に有意な因果関係が成立しました。

つまり、
肥満があると尿酸値は増加し、
肥満に伴う内臓脂肪の貯留などの影響により、
動脈硬化が進行して、
高血圧や虚血性心疾患が増加します。
尿酸値は肥満の結果であるので、
高血圧や虚血性心疾患のリスクと相関があるのであって、
尿酸値自体が、
虚血性疾患や高血圧の原因となっている訳ではない、
という結論です。

仮にそれが事実とすれば、
治療するべきは肥満であって、
尿酸値ではない、
ということになり、
尿酸が高いだけの理由で、
痛風発作がないのに尿酸を下げる薬を使用することは、
科学的に誤りだ、
ということになります。

ただし…

現時点でこれが実証された事実、
という訳ではありません。

尿酸値の上昇が心筋梗塞や高血圧の発症リスクになる、
というような文献は多く存在し、
その全てが今回の1つの結果で、
否定される、
ということにはならないからです。

ただ、
個人的にはこれは正しいのではないか、
と僕は思います。

たとえば、果糖を多く摂ると尿酸値が上がる、
というデータがあります。

しかし、
果糖とプリン体は無関係で、
果物に多くのプリン体が含まれている、
というようなこともありません。
確かに点滴などで果糖を大量に点滴すると、
代謝の関係で尿酸が増えますが、
これは特殊な状況のみに成り立つことで、
普通に果物を食べて、
同じことが起こるという説明にはなりません。

こうしたデータは従って、
尿酸値の上昇が肥満の結果である、
と考えると、すんなり筋が通る性質のものなのです。

今後別箇の対象群において、
同様の結果が複数得られれば、
今回の結論はより「事実」に近付きます。

今後の研究の結果を期待しながら待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

モカ

石原先生こんにちは。

今回もとても興味深いです。
つまり
1) 痩せていて尿酸値が高い人は高血圧や虚血性心疾患リスクは低い
2) 太っている人は薬によって尿酸値を下げても高血圧や虚血性心疾患のリスクは下がらない
ということなのでしょうか。

とても面白いです。
いつもありがとうございます。
by モカ (2013-07-24 15:36) 

おじさん

初めて書かせていただきます。とおりがかいの、医者です。医者とは言いましても、少しばかりの事情によりほぼ引退状態です^^;。

論文読み込みの確かさ、語り口の平明さ、趣味的な話題での幅広く深い見識・・・。感心しました!!

という事で、感想を一言お伝えしたいと思い書き込ませていただきました^^。
by おじさん (2013-07-25 00:53) 

MDISATOH

Dr.Ishihara今回も非常に興味深い記事有難う御座います。

昨日、腎内分泌内科外来に行き、BP:118/84mmHgで正常、4月に測定した臨床検査値も問題なしと言うことで処方も同じに成りましたが、私が検査結果で尿酸値が少し高いと言われた事をDr.S.に
告げると、Dr.S.は少しニャと笑い、更に私が「仕事が忙しいので、
晩酌に黒ビールを350mlのんでいる為じゃないんですか?」と言うと、Dr.は「まぁいいんじゃないですか~」言われたので、私はどちらかと言うと痩せている方で、つまり尿酸値が少々高くても問題ない。と
判断していると想いました。
因みに、処方は、ニフェジピンCR錠40mg朝食後1錠、同錠20mg夕食後1錠です。
by MDISATOH (2013-07-25 07:04) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
これが確実ということではありませんが、
何もなくても尿酸を下げるべき、
という考えは非常に疑問であることは確かです。
by fujiki (2013-07-25 08:11) 

fujiki

おじさん先生
コメントありがとうございます。
励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-07-25 08:13) 

fujiki

MDISATOHさんへ
コメントありがとうございます。
尿酸の管理については、
国内外でかなりの温度差があり、
高尿酸値症で治療中の方が非常に多いことを考えると、
大きな問題のように思います。
by fujiki (2013-07-25 08:15) 

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