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水痘ワクチンは帯状疱疹の再発を予防出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
帯状疱疹ワクチンの予防効果.jpg
2012年のJournal of Infectious disease誌に掲載された、
帯状疱疹の再発を、
ワクチンで予防することが出来るのか、
という問題を検証した論文です。

今日はこの文献と、
今月のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、
帯状疱疹についての総説とを主なソースにして、
帯状疱疹の治療と予防についての、
問題点を考えたいと思います。

帯状疱疹というのは、
ヘルペスウイルスの1つである、
水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症です。

まず初感染の際には、
水ぼうそう(水痘)という形を取るのですが、
その水ぼうそうが治った後、
主に脊髄や脳神経の知覚神経節という部分に、
ウイルスが潜んでいて、
免疫の状態が低下した時などに、
今度はその神経の領域のみに、
帯状の痛みを伴う湿疹として出現するのです。

これが帯状疱疹です。

ただ、神経節に証明されるのは、
ウイルスそのものではなく、
その遺伝子の断片に過ぎないので、
本当に上記のようなメカニズムで、
ウイルスの再活性化が起こり得るのか、
と言う点については、
異論もあり、
まだ完全に実証された事実ではありません。

湿疹の典型的な画像を1枚お見せします。
こちらです。
中等帯状疱疹11.jpg

症状の経過としては、
まず当該部位の痛みが生じ、
それから1週間以内に、
特有の湿疹が、
知覚神経の走行に沿って現れます。

湿疹が10日くらいをピークにして、
改善に向かうと、
痛みの方も和らぐのが一般的ですが、
中には帯状疱疹後神経痛と言って、
湿疹が改善した後も、
数か月から数年以上痛みが持続することがあり、
それがこの病気の一番の問題点です。

帯状疱疹の発症に関係する因子のうち、
最も明確なものは年齢です。

お子さんの帯状疱疹がない、
という訳ではありませんが、
帯状疱疹の多くは50歳以上の年齢層に起こり、
年齢が高くなるにつれて、
その発症のリスクは上昇します。

高齢者においては、
帯状疱疹後神経痛の発症も、
より多いことが分かっていて、
こうした点から、
帯状疱疹の予防及び治療は、
主に高齢者がその対象となります。

ヘルペスウイルスには、
アシクロビルという抗ウイルス剤があり、
帯状疱疹についても、
その急性の痛みの期間を短縮し、
湿疹の持続期間も短縮する効果のあることは、
精度の高い臨床データでも確認されています。

通常アシクロビルはその効果が短時間しか持続しないため、
より長期間効果のあるように改良された、
バラシクロビル(商品名バルトレックス)や、
ファムシクロビル(商品名ファムビル)が、
国際的にも推奨されています。
通常1日3回で一週間の使用を行ないますが、
薬の値段が高いことが1つの問題点です。

さて、
バラシクロビルのような抗ウイルス剤は、
症状の緩和に効果がありますが、
それでも発症する前に予防することが出来れば、
それに越したことはありません。

また、
一番の合併症である帯状疱疹後神経痛については、
その抑制効果は明確には確認されていないので、
予防法があればその点でも、
治療に勝る効果が期待出来ます。

帯状疱疹のウイルスは、
元々水痘のウイルスと同じものです。

水痘の感染からある程度の期間が経つと、
徐々にウイルスに対する細胞性免疫が低下し、
そのためにウイルスの再活性化が起こるのでは、
と考えられています。

これがもし事実であれば、
細胞性免疫が低下しないように、
ワクチンの接種を定期的に行なうことにより、
帯状疱疹の発症が予防出来る、
という理屈になります。

つまりは、
水痘ワクチンを帯状疱疹の発症予防に使用する、
という考え方です。

水痘ワクチンは日本で開発された生ワクチンです。
つまり弱毒化したウイルス自体を、
接種して免疫を高めよう、という手法で、
日本由来の弱毒株であるOka株
(これは元になったウイルスの感染者が岡さんというお子さんだった、
ということから命名されました)が、
WHOの推奨する唯一のワクチン株として、
世界中で使用されています。

ただし、
このワクチンは水痘の発症予防には有効ですが、
帯状疱疹の発症予防には、
より強い免疫刺激が必要となるのでは、
という観点から、
通常のワクチンの10倍以上の抗原量が含まれるワクチンが、
メルク社で商品化され、
60歳以上の成人38000人以上を対象とした、
臨床試験が行なわれました。

その結果は2005年のNew England…誌に掲載されていますが、
これによると、
3年間の経過観察期間中、
957症例の帯状疱疹が発症し、
ワクチンの接種により、
帯状疱疹の発症率は有意に51.3%減少し、
帯状疱疹後神経痛の発症率も、
有意に66.5%減少した、
とされています。

この結果を元に、
アメリカのFDAはこのワクチンを認可し、
まず60歳以上で採用、
その後臨床試験の結果より、
50~59歳の年齢層では、
70%の発症リスクの低下を認めたため、
推奨年齢を50歳以上に引き下げています。

このワクチンの有効性は、
概ね5年程度は持続する、
と考えられています。

これが事実とすれば、
このワクチンは5年毎に接種し続ける必要があります。

その一方でワクチンの有効性は、
年齢が高くなるほど低下します。

ある臨床試験の結果では、
70歳以上の発症リスクは、
38%しか下げてはいません。
帯状疱疹後神経痛の発症予防効果は、
より多い67%となっていますから、
それでも接種には一定の意義がある、
という解釈です。

そこで1つの疑問は、
1回帯状疱疹を発症した高齢者において、
その再発予防にワクチンを接種する必要性は、
あるのだろうか、
という点にあります。

昔の教科書には、
帯状疱疹は一生に1回しか発症しない、
と書かれていたことがあったのですが、
実際にはそんなことはなく、
何度も帯状疱疹に罹る、
という方は存在しています。

ただ、罹り難いことは確かで、
その頻度が少ないのであれば、
ワクチンを接種する意味合いも、
それほど大きなものではなくなります。

現行アメリカにおいても、
帯状疱疹を発症した患者さんの、
再発予防にワクチンを接種することは、
想定はされていません。

しかし、
実際には1回罹った患者さんは、
絶対に2回は罹りたくない、と思うのが常で、
そのためワクチン接種の希望者は、
むしろ1回罹ったような方に多いのです。

その点を検証する目的で、
上記の文献においては、
カリフォルニアの医療記録を使用して、
60歳以上で帯状疱疹罹患後、
半年から2年以内にワクチンを接種した場合と、
接種をしなかった場合において、
その後の帯状疱疹の再発に、
どのような影響があったのかを検証しています。
ワクチン接種後1年以内の再発は、
ワクチン接種とは無関係の可能性が高いとして、
除外されています。
観察期間は最長で4年程度です。

ワクチン接種者1036人と未接種者5180人の検討において、
年齢が70歳未満では、
ワクチン未接種の場合、
年間1000人当たり2.20人の再発が見られたのに対して、
ワクチン接種者では、
年間1000人当たり0.99人の再発が見られました。
これは差が付いているように見えますが、
実際には再発の例数が少ないため、
統計的には有意な差が付いていません。
これが70歳以上になると、
ワクチン未接種で2.62人に対して、
ワクチン接種者で2.73人と、
全く差は付いていません。

ここから分かることは、
少なくとも帯状疱疹の発症後、
3年くらいの期間においては、
再発は極めて少ないので、
慌ててワクチンを接種する必要性は低い、
ということです。

概ね5年くらいが経過すれば、
そのリスクも高まりますから、
ワクチン接種を行なうのであれば、
そのくらいの期間は開けることが、
妥当なように考えられます。

日本においては、
現状帯状疱疹予防のための、
ワクチン接種は行なわれていません。

水痘ワクチンを、
その目的で接種されているケースもありますが、
アメリカで使用されているワクチンは、
その10倍以上の抗原量のものなので、
とても比較にはなりませんし、
水痘ワクチンでも効いた、というような報告も、
国内ではチラホラありますが、
精度の高いデータとは、
到底言えないレベルのものです。

その発症予防としての有効性は、
ほぼ国外では確立していますから、
今後高齢化社会において、
その必要性は高まると考えられ、
日本においても、
帯状疱疹予防目的の、
ワクチンの検討が行なわれるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(補足)
海外の帯状疱疹予防用のワクチンの抗原量は、
国産の水痘ワクチンよりずっと多いのですが、
ウイルス力価は同等レベルである、
という記載が国内の専門家の書かれたものに見受けられます。
その根拠がどの程度のものかは、
はっきりと分かりませんでした。
コメント欄でご指摘を受け、補足します。
(2015年6月6日午後2時補足)

(再度補足)
日本のワクチンの力価は1000PFU以上で、
メルク社の帯状疱疹予防ワクチンの力価は、
19400PFU以上ですから、
ここには歴然と10倍以上の差があります。
ただ、この力価は基準の下限を示していて、
実際にはZOSTAVAXの力価が、
18700から67000PFUで、
国産水痘ワクチンの力価が、
平均で30000PFU程度なので、
同等と考えて差し支えがない、
ということになっています。
(日本語の文献からの引用ですが、
その根拠となる数字の元までは確認していません)
ただ、これは国産ワクチンは検定としては、
1000PFUを超えていればそれでOKなのですから、
何か釈然としないモヤモヤしたものを感じます。
本当にこれで良いのでしょうか?
(2016年4月29日午後2時補足)
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テツ

おはようございます。

とても興味深い記事でした。
知り合い(62歳)が、帯状疱疹になったときになかなか治らず、バルトレックスを2週間以上も飲まされて、リリカも眠たくて仕方がなかったって以前に言ってました。

アシクロビルにしてもヘルペスのウイルスの増殖を抑える薬のようなので、ヘルペスのウイルスを殺菌するような薬を開発してほしいです。
なかなか難しいでしょうが・・・。
by テツ (2013-07-22 12:06) 

まるこ

初めまして。
かなり以前の記事で申し訳ないのですが、疥癬治療について是非教えていただきたくてコメントさせてもらいました。
18才の息子が今年の3月から手指の痒みを伴う小さな発疹と、発疹も赤みもない全身の痒みで皮膚科に通い出しそこで出されたステロイドを塗り続け、ひどくなる一方で、6月に入ってからはセレスタミン錠を出され12日間飲み続けても少しも良くならず怖くなってあれこれ調べてやっと疥癬を疑い、別の皮膚科でこれまたかなり疥癬を否定されたけど、お願いしてやっと顕微鏡で確かめて貰えて疥癬と診断されました。ひどくなった本人は1週間間隔で2回ストロメクトールを処方され、既に痒みに悩まされだしていた他の家族3人も1回のみストロメクトールを使えました。
それから3週間、マシになってた18才の息子の痒みと手指の発疹が再発しだして不安なのですが皮膚科ではダニが発見できないから薬は出してもらえず、ここで知った安息香酸ベンジルの方法を試したいと思うのですが、無水アルコールとも、簡単に手に入れる事はできるのでしょうか。
お教えください。
by まるこ (2013-07-22 21:46) 

fujiki

テツさんへ
コメントありがとうございます。
アシクロビル以外の治療薬というのは、
現状は難しいかも知れません。
ただ、確かに治りの悪い方が、
いらっしゃるのは事実ですね。
by fujiki (2013-07-25 07:59) 

fujiki

まるこさんへ
コメントありがとうございます。
安息香酸ベンジルは一種の皮膚毒ですので、
リスクもあり、
通常医療機関以外での処方は困難と思いますし、
ネットなどで購入可能なケースはあるかも知れませんが、
あまりお勧めは出来ません。
by fujiki (2013-07-25 08:01) 

まるこ

お忙しい中、お返事どうもありがとうございましたm(_ _)m
そうだったのですね…
私もあちこち、薬局を回って探してみたのですがどこにもなくて諦めていました。
無水アルコールだけはあったので慌てて買ってしまいましたがf^_^;

病院ではあいかわらず丘疹のある手と発疹のあるお尻のみに塗るオイラックスしか出してもらえないので、このままひどくなる様なら違う皮膚科に変わる事も検討してみます。
ほんとうにありがとうございましたm(_ _)m
by まるこ (2013-07-28 14:30) 

suwamaru

いつもこのサイトで勉強させていただいています。帯状疱疹ワクチンについて、年末に患者さんから質問され、遅ればせながら今頃調べています。先生の記載に異議はなく非常に納得していますが、日本の水痘ワクチンの力価については、米国の帯状疱疹ワクチンと同程度の力価であるようです。
by suwamaru (2014-01-01 14:24) 

たろう

いつも勉強になるお話ありがとうございます
帯状疱疹の患者様には抗ウイルス薬を投与し大半の方は後遺症を残さず、問題になることは少ないかと考えております
今回の予防的ワクチン投与の必要性の高い方はかなり限定されてくるかと思います
5年毎の接種、副作用等含め費用対効果を考えた場合予防投与すること自体どこまで意味のあることかと考えてしまいます
むしろ帯状疱疹の啓蒙活動を行なうことで早期治療できるようにすることが大事かと考えます
by たろう (2015-06-06 12:36) 

fujiki

suwamaruさんへ
抗原量には差があるのですが、
確かにウイルス力価は同等という説明がされています。
ただ、直接比較をされたものではないと思うので、
私は正直懐疑的に感じています。
by fujiki (2015-06-06 13:41) 

fujiki

たろうさんへ
コメントありがとうございます。
予防出来るものなら是非したい、
という考えの高齢の方は、
お聞きするとかなり多く、
ワクチンのニーズ自体はあるように思います。
ただ、ご指摘にように費用対効果は問題です。
最近グラクソの新ワクチンが導入間近で、
アメリカは積極的な導入に動くように思います。
by fujiki (2015-06-06 13:47) 

澤

水痘ワクチンについて調べていて、ブログ拝見いたしました。論文を引用してのわかりやすい記事をありがとうございます。
追記の水痘ワクチンウイルス力価についてですが、感染症誌2011:85:161に「水痘ワクチンの力価と流通時のワクチン力価の安定性(神谷斎ら)」という記事があり、国産ワクチンには40,000PFUを超える力価があったとされております。先生のご指摘通り、国産水痘ワクチンの添付文書には「1000PFU/dose以上」と記載されております(普通に読めば、帯状疱疹への効果には疑いを持たせかねない記載だと思います)。国内の専門家による「ウイルス力価は同等」の根拠となっているのはこの論文ではないでしょうか。
by 澤 (2016-03-26 01:13) 

fujiki

澤さんへ
コメントありがとうございます。
再補足をしました。
要するにワクチンの検定としては下限を決めているだけで、
1000PFU以上というワクチンに、
実際には平均で30000PFUくらいは含まれている、
ということのようです。
ただ、そうであるなら、
帯状疱疹予防用のワクチンとしては、
その力価の下限を、
たとえば20000PFU以上のように、
海外ワクチン同様に変更するのが筋というものではないでしょうか?
どうも釈然としません。
by fujiki (2016-04-29 14:39) 

Miya

娘ですが4歳ごろ、おたふくかぜと水ぼうそうの予防接種をいたしました。以後、おたふくかぜも水ぼうそうもかかったことはありませんが、小学4年生ごろより、つかれた時などにプツプツと半身のわずかな場所ですが発疹がでるようになり、ヘルペスと診断されました。
これは、生ワクチンの予防接種による菌によるものではないでしょうか。
時々そのような症状がでるため、心配です。
あの予防接種をしなかったらこんなことにはならなかったのではとくやまれてなりません。帯状疱疹にはならないということはありえません。本当に必要な予防接種とはおもえません。
by Miya (2016-06-09 01:01) 

帯状疱疹とパーキンソン発症に関連について

興味深い記事をありがとうございます。
先生の説明で、帯状疱疹と水疱瘡のワクチンについて理解が深まりました。
ところで、ヘルペスウィルスによる帯状疱疹にかかった高齢者が、パーキンソン病を発症しやすくなると言うことはないでしょうか?
随分前ですがヘルペスにかかって治ったと思ったらパーキンソン病が出て来た身内がいたもので、気になっています。
by 帯状疱疹とパーキンソン発症に関連について (2017-09-25 20:18) 

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