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進行性肝細胞癌の遺伝子マーカーについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肝臓癌の幹細胞マーカー.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
進行性の肝細胞癌の遺伝子マーカーについての論文です。

肝細胞癌は、
手術や塞栓術、ラジオ波による治療など、
多くの治療法が実用化されている癌ですが、
それでも進行した肝細胞癌については、
その予後は楽観の出来るものではありません。

肝細胞癌の治療を進歩させるポイントは、
おとなしい性質の癌と、
進行が早く予後が悪いタイプの癌とを、
簡単に見分ける方法がないのか、
と言う点と、
予後の悪いタイプの癌に対して、
有効な治療法がないのか、
と言う点にあります。

多くの癌は放っておいてもそれほどの悪さをせず、
一部の進行の早い癌は、
治療をしても効果は期待出来ないので、
癌は放置するのが最善だ、
というようなことを、
言われる方がいます。

この発言は極端過ぎるのですが、
一面の真理を突いている部分もあります。

これまでの多くの癌治療は、
「それが癌である」という一事を持って、
治療を行なっていたので、
勿論癌の性質をある程度評価はしますが、
組織の所見と病気の進行の度合いが、
主な物差しになっていて、
その大雑把な括りの中にあるものは、
全て同じ癌として、
治療を行なっていたのです。

しかし、
実際には同じ早期の癌であっても、
性質が大人しいものと、
そうではないものとがあり、
それを見分ける手段はあまりありませんでした。

そうなると、
大人しい性質の癌は、
治療をしなくてもそれほど予後は変わらず、
一部の進行の早い癌は、
治療をしても再発が多いなど、
予後は必ずしも芳しいものにはならず、
「それなら放置しても同じことだ」
という極論が、
当たらずとも遠からず、
ということになってしまいます。

従って、
問題は放置すれば高率に命に関わる癌を、
見分けるマーカーの発見と、
それをそうした悪性度の高い癌の治療に結び付ける、
という技術の開発にある、
ということになります。

今回の文献においては、
SALL4と呼ばれる遺伝子が、
そのマーカーの候補として選択され、
多角的な検討が行なわれています。

SALL4とはどのような遺伝子でしょうか?

SALLはジンクフィンガー蛋白質を、
コードしている遺伝子のことです。
この蛋白質は遺伝子のDNAに結合する性質を持つ、
特殊な蛋白質です。

この蛋白質をコードしている遺伝子は、
ショウジョウバエからヒトまで保存されていて、
哺乳類では4種類が確認されています。
その4番目のものがSALL4です。

SALL4は、
胚幹細胞という、
全ての細胞の元になる細胞には、
多く発現していて、
その自己複製と多分化能の維持に関わり、
細胞が分化して組織を形成すると、
その発現は低下して、
成熟した細胞ではその働きはなくなります。

SALLは遺伝子を改変するので、
まだ複数の細胞に変化する過程にある時には、
必要となるのですが、
特定の細胞に分化すると、
今度は必要ではなくなるのです。

しかし、
一部の癌細胞においては、
再びこのSALL4の遺伝子の発現が、
見られることが知られています。

肝細胞癌もその1つです。

今回の研究においては、
シンガポールの専門医療機関で切除された、
179例の原発性肝細胞癌の肝臓の組織を解析し、
解析可能であった171例中、55.6%に当たる95例で、
様々なレベルのSALL4の遺伝子の発現が認められました。
SALL4の発現が多い癌と少ない癌とを比較すると、
発現の多い癌で、
明確にその臨床的な予後が悪いことが確認されました。

この予後の違いは、
別個に香港での組織の検討においても、
同様に認められました。

この遺伝子を持つ肝細胞癌の細胞の性質を見ると、
細胞の増殖に関わる機能と、
転移に関わる機能を遺伝子の特性として持っていることが、
遺伝子の解析で確認され、
この遺伝子の発現を止めることで、
腫瘍の形成が阻害されることも確認されました。

こちらをご覧下さい。
肝臓癌の幹細胞の説明の図.jpg
今後の肝細胞癌の治療の可能性を、
図示したものになります。

つまり、
まだ臨床的に応用可能、
というレベルではありませんが、
まずこのSALL4の遺伝子の発現を検査することで、
その肝細胞癌が、
予後の悪い性質のものであるかどうかが、
明らかになり、
仮にSALL4の遺伝子の発現が強く認められれば、
その発現を阻害するような治療を行なうことにより、
その予後を改善させる可能性が示唆されたのです。

今後の研究の進歩に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ひでほ

F4チャイルドBのひでほです。
たいへん参考になりました。
by ひでほ (2013-06-24 11:09) 

fujiki

ひでほさんへ
コメントありがとうございます。
まだすぐ臨床応用出来る、
というものではありませんが、
ご参考になれば幸いです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-06-25 08:22) 

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