So-net無料ブログ作成

深部静脈血栓症の再発予防における薬剤選択について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アピキサバンと静脈血栓症.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
静脈血栓塞栓症に対する長期の再発予防に際して、
アピキサバンという抗凝固剤を使用した臨床試験の結果についての論文です。

静脈血栓塞栓症は、
足の静脈や女性の骨盤周辺の静脈に生じた血栓が、
その場所に詰まって炎症を起こしたり、
そこから飛んで肺の動脈に詰まって、
肺塞栓症を起こしたりする病気です。
心臓に小さな穴が生まれつき開いていると、
そこを通って血栓が移動し、
脳梗塞という形を取ることもあります。

明確な誘因があって起こった静脈血栓塞栓症で、
その誘因が排除されたような場合には、
通常症状出現時より3カ月間は、
血栓を出来難くする、
所謂「抗凝固療法」を行ない、
その後に新たな血栓などの発生がなければ、
治療は中止されます。

ただ、
多くの静脈血栓塞栓症には、
明確な誘因はなく、
再発し易い状態はその後も持続すると考えられるので、
一体いつまで抗凝固療法を続けるべきか、
と言う点が一番の問題になります。

これまで抗凝固療法としての第一選択は、
ワルファリンという薬です。

ワルファリンの治療を中断すると、
年間で6~10%の再発リスクがある、
という統計があります。

従って、
ワルファリンを続けることで、
何の不利益もないのであれば、
一生涯治療は継続されるべきだ、
ということになります。

しかし、
ワルファリンは納豆を食べられないなど、
食事に制限が加わる上に、
定期的な血液検査で、
その効果を確認しつつ治療を行なう必要があります。
このことは、
治療を受ける患者さんにとっては、
大きなご負担になります。

そして、
何よりの問題は、
薬の使用により血が固まり難くなるので、
脳出血や消化管出血などの、
出血系の合併症がかなりの頻度で生じる、
ということにあります。
このリスクは重症なものだけで、
1年当たり1~2%と考えられています。

少し前まで、
ワルファリンを一定期間の後に終了するか、
そのまま継続するか、
ワルファリンを減量して継続するか、
再発予防効果はワルファリンより低いのですが、
出血系の合併症が少ない低用量のアスピリンに切り替えるかの、
それだけの選択肢しかありませんでした。

しかし、
最近になりワルファリンに変わり得る薬として、
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)と、
Ⅹa因子阻害剤のリバロキサバン(商品名イグザレルト)、
同じくⅩa因子阻害剤のアピキサバン(商品名エリキュース)が、
利用出来るようになりました。
(エリキュースは2月26日に発売になりました)
ただし、健康保険上はこの3種類の薬は、
現時点では深部静脈血栓症の適応は持っていません。

この3種類の薬は、
いずれも食事制限や量の調節が、
原則として必要なく、
効果はワルファリンとほぼ同等と考えられているので、
ワルファリンに代わって、
深部静脈血栓塞栓症の再発予防薬としての可能性が、
期待されています。

今回の文献はそのうちのアピキサバンの効果を見たもので、
静脈血栓塞栓症で半年~1年のワルファリンによる抗凝固療法を使用し、
その後の治療方針の定まっていない患者さん2486名を対象とし、
5mgを1日2回のアピキサバンへの切り替えと、
その半量の2.5mgを1日2回の使用への切り替え、
そして偽薬の3群に分け、
患者さんにも主治医にも分からない形で使用し、
その後1年間の経過を観察しています。

その結果…

1年間の再発は、
偽薬では8.8%に見られたのに対して、
アピキサバンの少量使用群でも、
通常量使用群でも、
再発率は1.7%と、
絶対リスクで7%余低下しています。
相対リスクでは8割近い低下です。
これは勿論有意な差で、
しかも興味深いことには、
通常の治療用量の半量でも、
その効果は殆ど変わっていません。

重篤な出血系の合併症は、
偽薬で0.5%、アピキサバンの少量で0.2%、
通常量で0.1%と殆ど差が見られていません。
臨床的に意味のある出血系の合併症全体で見ると、
偽薬と比較して、
少量のアピキサバンでは1.2倍、
通常量のアピキサバンでは1.6倍の相対リスクの上昇が、
認められました。

この結果を見る限り、
アピキサバンの半量での使用は、
少なくとも1年の継続使用においては、
出血のリスクを殆ど増やすことなく、
再発リスクを8割低下させているのですから、
ワルファリンに代わり得る治療の選択肢として、
現時点で最有力候補ではないか、
と思われます。

上記の文献が載ったのと同じ号に、
ダビガトランとワルファリンを、
同様の静脈血栓塞栓症の再発予防に用いた、
試験結果が掲載されています。

この試験では偽薬の比較はありませんが、
ダビガトランの効果はワルファリンとほぼ同等で、
出血系の臨床的な合併症の頻度は、
年間5.6%とダビガトランが有意に低値となっています。

ただ、アピキサバンの低用量での出血系合併症の、
年間発症率は3.2%ですから、
これは矢張りアピキサバンに軍配が下るように思われます。

これ以外に現時点でのこの分野の、
主だった大規模臨床試験は、
ダビガトランを偽薬と比較したものと、
リバロキサバンを偽薬と比較したものがあり、
いずれも再発予防効果は同等で、
臨床的に問題になる出血系の合併症は、
1年間で5~6%くらいとなっています。

日本人は特に脳出血の発症は、
欧米より多いと考えられ、
その意味では、
より出血系の合併症のリスクを重く考え、
治療の選択をする必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(23)  コメント(3)  トラックバック(0) 

nice! 23

コメント 3

モカ

こんにちは。
いつも最新情報をわかりやすく説明してくださりありがとうございます。

先日知人がTIAになり、その後ワルファリンを服用しています。
原因が心原性かどうかわからないため、安全をとってワルファリンになったようですが、納豆や出欠などで少し悩んでいました。

また、他の知人はだいぶ前に心原性の脳梗塞になったのですが、その後ずっとワルファリンを飲んでいて、先日ダビガトランに変更になり、納豆解禁を喜んでいました。

今回の研究データが活かされて薬の選択の幅が広がるといいなと思いました。
by モカ (2013-03-04 11:43) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
患者さんには色々と制限が掛かるので、
その点が問題ですが、
ワルファリンにはワルファリンの良さがある、
というのが最近の実感です。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-03-05 08:17) 

モカ

石原先生ご返事ありがとうございます。

上の書き込みの訂正です
誤「出欠」→正「出血」

失礼いたしました。
またこれからもよろしくおねがいいたします。
by モカ (2013-03-05 11:50) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0