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チェーホフ「桜の園」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療はいつもの通りです、
土曜日なので趣味の話題にします。

今日はこちら。
桜の園.jpg
三谷幸喜が演出し、
三谷版「桜の園」と銘打った、
チェーホフの「桜の園」が上演中です。

チェーホフは嫌いではありませんが、
翻訳劇の限界もありますし、
余程良い上演でないと、
その作品の真価を感じることは難しい、
というのが今の時点での実感です。

チェーホフの長編戯曲のうち、
初期のコミックを除くと、
上演されるのは「かもめ」、「三人姉妹」、
「ワーニャおじさん」、「桜の園」の4作品だけです。

このうち僕が最も回数を見ているのは、
「三人姉妹」で3パターンくらい。
「かもめ」が2パターンで、
「ワーニャおじさん」は1回だけ。
そして、「桜の園」は今回で3パターン目になります。

中では「三人姉妹」が一番愛着があり、
個人的にはチェーホフ戯曲中の頂点だと思います。
ただ、その印象はアラン・アッカーマン演出のTPTの舞台に、
感銘を受けたからで、
矢張り芝居というのは、
良い上演に巡り合えないと、
どんな名作でもその真価は分からないようです。
その舞台については、
以前に記事にしました。
こちらです。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2009-03-20

「桜の園」は最初に見たのが、
森光子が主役で舞台を日本に移したという珍妙な演出のもので、
何処が面白いのかちっとも分からず、
2度目はTPTで佐藤オリエが主役を演じたものでしたが、
陰々滅々とした印象で、
最後まで見るのが苦痛でした。

そんな訳であまり「桜の園」には良い印象がなく、
何故三谷幸喜が今更演出するのだろう、
と正直疑問でもありました。

しかも、
前宣伝では、
これまでとは一線を画す、
「喜劇としてのチェーホフ」を目指す、
というのですから、
原作がめちゃくちゃになるようなことはないかしら、
と危惧を持たれた方も多かったのではないかと思います。

しかし、
蓋を開けてみると、
非常にオーソドックスな仕上がりで、
原作の魅力を、
かなり忠実に今の観客に伝える内容になっていたことには、
ちょっと驚かされました。

以下、ネタばれがあります。

まず、最初に青木さやかによる前説があり、
「チェーホフもやり方次第でとっても笑える面白い芝居になるんだよ」
という前宣伝と同じ内容を、
ご丁寧に「ヘビーローテーション」の替え歌で歌って披露します。

その後には、
ロシア語に通訳が付く形での、
観劇の注意のアナウンスがあります。

まあ、如何にも三谷幸喜という念の入り方ですが、
そこまでして詰まらなかったら、
却って逆効果じゃないかしら、
という危惧も覚えます。

ただ、作品は変に読み替えをすることなく、
舞台美術も衣装も堂々たる翻訳劇のスタイルで、
大道具など、
ここまでかっちり作られた邸宅のセットで、
「桜の園」が上演されたことなど、
最近ではなかったのではないか、
とさえ思えました。

照明も見やすく綺麗ですし、
色彩も明るく豊かで、
音楽を舞台袖で生のピアノで演奏する、
という趣向も気が利いています。

こうした整頓された明るさを見ると、
三谷幸喜という人の頭の中も、
結構すっきり明るく整頓されているのだな、
ということが何となく分かります。
その対極は野田秀樹で、
彼の舞台の乱雑で暗い印象は、
そのまま彼の頭の中の散らかり方を、
示しているように思います。

三谷幸喜の「桜の園」上演のアイデアは、
まず休憩なしで上演可能なくらいに、
スピードアップを図ろう、
というところにありました。

この作品は4幕劇で、
2幕は短いので、
概ね1、2幕の後に1回休憩の入るような上演が、
一般的です。

2幕は室内で、
他の3幕は屋敷の中が舞台になっています。

しかし、この場割を優先すると、
舞台転換の必要性から、
あんまりガッチリした室内のセットが組めず、
屋外の場面もあまり解放感がなくなります。

チェーホフの作品は、
屋外の場面の解放感が、
結構重要な要素になっていて、
「かもめ」のオープニングの田園風景や、
「三人姉妹」の4幕の庭の向こうの川の広がりなどが、
草の匂いが台詞から立ち昇ってくるように、
鮮やかなタッチで描かれています。

従って、
本来ならこの屋外場面の解放感を、
他の場面とは異なる空気感で、
描く必要があるのですが、
実際にはそうした雰囲気の醸成に成功した舞台というのは、
僕の知る限りは殆どなくて、
中途半端な密室劇のような演出に、
なっていることが多いのです。

それであるなら、
全ての幕を同じ場面に構成して、
スピードアップを図ることは、
決して誤りではなく、
むしろ作品の流れを途切れることなく演出した方が、
作品の本筋を、
すっきりと追うことが出来るのです。

そのため、
この三谷版「桜の園」は、
休憩なし2時間15分弱に収まっています。

欲を言えば、
2時間を切れればより良かったのでは…
と思います。
上演を見る限りは、
それは不可能ではなかったように思えます。

「笑えるチェーホフ」と言うのは、
前宣伝用のコピーのようで、
実際には左程笑えるような場面がある訳ではありませんし、
三谷幸喜自身、
そうした点にこだわっているようには、
作品を見る限りは思えません。

実際には原作に即して、
原作当時の人物のこっけいさを、
なるべく現在でも分かり易く提示することと、
ウェルメイドで明るく明快な舞台にすることで、
チェーホフの本来の明晰さを、
取り戻そうとした試みのように、
僕には思えました。

特にヒロインの没落貴族の女主人が、
供を引き連れて舞台に登場するところなど、
ただ歩いて入って来るだけのことなのですが、
華やかで哀しく、ノスタルジックな興趣に満ちていて、
生ピアノの抒情的な旋律の伴奏音楽と共に、
強く印象に残ります。

その女主人が浅丘ルリ子というのも、
何とも言えず気分ですし、
彼女の演技もこの枠の中においては、
絶妙のものでした。

たとえば「国民の映画」のオープニングのシーンのように、
この場面を観るだけで、
ああ、これがやりたかったんだな、
と僕は得心した思いがしたのです。

この場面だけに限っては、
非常に審美的で辛辣な批評家であった、
三島由紀夫も観れば気に入ったと思います。
(飛躍のある表現をお許し下さい)

トータルにはかなり役者の出来にはむらがあり、
全てが三谷幸喜の意向とは、
とても思えません。

ただ、翻訳劇の上演としては、
水準以上のものだったと思いますし、
三谷幸喜の才能の別の一端も、
垣間見たような思いがしたのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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