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心因性発熱を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心因性発熱.jpg
2007年のBioPsychoSocial Medicine誌という、
あまり馴染みのない雑誌に掲載された、
心因性発熱についての論文です。

先日医療系のサイトで、
不明熱の原因はストレスであることが多く、
その頻度が増えているが、
あまり一般の医者はその事実を知らず、
そのことにより誤診が多く、
患者さんが苦しんでいる、
というニュアンスの記事がありました。

それを読むと、
ストレスで発熱の起こることは、
実証された事実である、
というような意味合いの記載がありました。

それは事実でしょうか?

上記の文献はこの分野で多くの論文を執筆されている、
岡孝和先生によるレビューで、
日本のこれまでの症例報告を解析し、
195例の心因性発熱の事例を検証しています。

ストレスで発熱の起こる病態を、
心因性発熱(psychogenic fever )
と呼んでいます。

この病名は元々は小児科領域のものです。

小さなお子さんでは、
病院や学校に行く時だけ、
40℃以上の高熱が出て、
他の時はケロリとしている、
というような特徴的な発熱症状が存在します。

勿論こうした現象の中には、
学校や病院に行きたくなくて、
温度計を操作するような、
一種の詐病も存在する訳ですが、
そうしたことではなく、
実際にストレスが、
発熱を起こす、
という現象が事実としてあるのです。

何故ストレスにより発熱が生じるのでしょうか?

このことを考えるには、
通常の風邪などによる発熱が、
どのようにして起こるのかを、
まず考える必要があります。

ウイルス感染などで発熱が起こるのは、
ウイルスから身体を防御する働きを持つ、
免疫系の細胞から、
インターロイキン6などの、
所謂「炎症性サイトカイン」を放出されるからです。

この炎症性サイトカインは、
脳の血管内皮細胞からプロスタグランジンE2 という物質を放出させ、
このプロスタグランジンが脳の体温調節中枢に働くことにより、
「発熱反応」が生じます。

つまり、
通常の発熱は身体の末梢に原因があり、
血液に放出された物質が、
脳に影響を与えることにより生じます。

しかし、
もっと直接的に脳の体温調節中枢が刺激され、
発熱を生じることも想定されます。

一般的に心因性の発熱というのは、
脳の体温調節中枢が直接刺激されることにより、
発熱が生じるものと考えられています。

心因性の発熱とそうでない発熱とを、
見分ける方法はないのでしょうか?

サイトカインの上昇による発熱であれば、
そのサイトカインが肝臓で、
CRPという炎症反応性蛋白の産生を促すので、
通常CRPが上昇します。

また、その反応はプロスタグランジンを介していて、
通常使用される解熱剤は、
プロスタグランジンを抑制する薬なので、
身体の発熱であれば、
解熱剤が効くけれど、
心因性発熱はプロスタグランジンとは無関係に起こるので、
解熱剤が有効でない、
という違いがあります。

つまり、
ある種のストレスの条件下で発熱が起こり、
概ねそれ以外の全身状態は良好で、
解熱剤が効果がなく、
発熱が持続しても炎症反応が上昇しない場合、
それは心因性発熱の可能性が高い、
と言うことが出来るのです。

以上は基本的にはお子さんの発熱の場合の話です。

大人にも不明熱というものがあります。

典型的なものは概ね昼から夕方に掛けて熱が上がり、
それでも38℃は超えないことが殆どです。
しかし、発熱と共にだるさがあるので、
本人にとっては不快です。

最初は風邪を引いているのかな、
と思いますが、
それが1ヶ月を超えても、2か月を超えても、
微熱だけが持続して身体がしんどいので、
悪い病気ではないかと不安になります。

勿論こうした症状の方で、
調べてみると別の病気の見付かることもありますが、
概ね多くの方の場合、
血液検査やレントゲンの検査をしても、
特に異常な所見は見付かりません。

こうした症状が、
お子さんと同じ心因性発熱である、
というのが上記の論文の著者らの主張です。

動物実験において、
プロスタグランジンを介さない、
ストレスにより誘発される発熱現象のあることは証明されています。
これは多くはネズミなどの実験で、
基本的に持続性のものではありません。
脳内のストレスホルモンの関与や、
交感神経の緊張が、
その原因ではないかと考えられています。
人間にも同様の現象はあるのですが、
発熱は一過性で37℃を越えることはありません。

つまり、
生理的にもストレスの急性反応としての発熱はあるけれど、
数か月続くことはなく、
発熱も37℃を超えることはありません。

従って、
先にご紹介したようなストレスに伴うと思われる、
慢性の高体温の状態は、
生理的なものではなく病的なものと考えられるのです。

それでは、
ストレスにより病的で持続的な発熱が、
生じるメカニズムは何でしょうか?

岡先生の書かれた物を読むと、
脳内のセロトニン系の神経伝達の機能の低下が、
その要因ではないかと推論されています。

実際に同じ著者のグループにより、
こうした大人の心因性発熱と思われる患者さんに対して、
SSRIなどセロトニンを脳内で上昇させるタイプの薬剤を使用し、
効果があったとする症例報告も発表されています。

ただ、その明確なメカニズムが、
つまびらかにされている訳ではありません。

個人的な僕の感想としては、
過敏性腸症候群にしても、
慢性疼痛にしても、
心因性発熱にしても、
何でもかんでもセロトニンの不足かCRHの上昇が原因、
というのはあまりに単純過ぎる仮説だと思いますし、
SSRIという魔法の薬を使用すれば、
そうした症状がたちどころになくなるなら、
それはもう願ったり叶ったりですが、
現実にはそうした薬剤が有効であるのは、
患者さんのごく僅かだと、
経験的には思いますし、
古典的うつ病以外にSSRIを使用することで、
却って病状が複雑化したり、
患者さんが副作用や離脱症状に苦しんだりすることは、
決して稀なことではないのですから、
もう少し慎重な検証が、
まずは必要なのではないかと思います。

MedlineでPsychogenic Feverを検索すると、
殆ど岡先生のグループを始めとする日本人の論文しか、
引っ掛かりません。

また、
the New England Journal of Medicineの記事検索をしても、
そうした用語は殆ど表示されません。

つまり、
こうした概念の存在することは事実ですが、
それが世界的に認知されている、
というのはどうも微妙な感じがします。

こうしたことは、
実際には極めて多いような気がします。

勿論こうした「国内でのみ認知された病態」が、
IgG4関連疾患のように、
世界的にも認知され研究の進むこともあります。

しかし、
大多数はそうではなく、
特定の影響力のある先生がいらっしゃる間だけ、
非常に大きな問題であり画期的な発見であるように喧伝され、
しばらくすると忘れられてしまう、
ということが多いのです。

国内の医療の情報というのは、
こうしたある種の宣伝によって作られた、
閉じた小さな世界であるようです。

医療系のサイトやマスメディアの医療コーナーにおける、
心因性発熱の記事には、
ほぼ全て岡先生が登場し、
「心因性発熱のメカニズムは解明されているが、
実際には多くの患者さんが誤診されている」
というような説明になっています。

それは勿論1つの見方ではあるでしょうが、
そうした説明のみが広く流布されると、
不明熱のメカニズムがもう既に、
余すことなく解明されているように、
誤解される方が多いのではないかと思います。

実際にはストレス誘発性の発熱のあることは、
動物実験でも人間でも実証された事実ですが、
何故ストレスが持続的な発熱をもたらし、
通常より高い温度を示し、
不快なだるさなどの症状を伴うのかについては、
幾つかの仮説はあっても、
まだ解明されている事実はあまりないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ちばおハム

fujikiさんのblogにはいつもまじめなコメントが多いので、こんな(バカらしい)コメントはちょっとふつりあいなのですが・・・

うちの長男は心因性の中耳炎じゃないかと思われるものを毎年、学年が変わるごとに発症してました。
ストレス性中耳炎・・・と私が勝手に呼んでました。
4月~5月にかけて毎年。
学年が変わって先生や友達が変わると起きる中耳炎。

すみません、全く根拠はありません。
by ちばおハム (2012-06-07 14:38) 

fujiki

ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
ふつりあいなどと、
そんなことはありません。
心因性の感染症というのも、
実際にあるのではないかと思います。
by fujiki (2012-06-08 21:58) 

あんみつ

初めてコメントいたしますm(_ _)m いつも興味深く拝読しております。

長年、気分障害のために精神科に通院中です。仕事、家事はこなしています。
ここ数年、炎症反応を伴わない発熱を繰り返しています。CRP、WBCの上昇はなく、甲状腺ホルモンもほぼ正常、器質的には原因が不明です。
疲労、心労が蓄積すると37~38℃の微熱と倦怠感があらわれる…といった感じです。
私も岡先生の論文を読みましたが、日常SSRIを服用しているので、疑問の解消には至りませんでした。

主治医からは過労を避け休むこと、発熱時はワイパックスを屯用に勧められましたがあまり芳しくなく、近所の内科で柴胡桂枝湯を処方され、幾分良いかな…という感じです。内科の先生も首を捻っておられましたが…

何とかメカニズムが明らかになり、対策を打てるようになればと願っています。
長文失礼しました。
by あんみつ (2012-06-09 09:17) 

あんみつ

文中、「SSRI」とあるのは「SNRI」の誤りでした。訂正いたします。
by あんみつ (2012-06-09 19:22) 

teru

始めまして。
いま、まさに心因性発熱(約2ヶ月継続)のため入院加療中です。
ドグマチールの服薬を始めて約20日ですが、熱は36度台に下がることもありますが、微熱のため体のだるい日もあり、以前の生活に戻れるのか、と不安な日々です。
上の方が書いておられるように、早く効果的な対策がとられることを切に希望します。

by teru (2012-06-10 16:58) 

fujiki

あんみつさんへ
コメントありがとうございます。
名案があれば良いのですが、
現時点ではなかなか難しいようです。
心因性発熱には解熱鎮痛剤は効果がない、
というのが原則なのですが、
個人的には頓服でお辛い時には、
消炎鎮痛剤を飲んで頂いて、
一定の効果はあるように思います。
あと、副腎不全の可能性はどうかな、
と思いますが、
お調べになっているでしょうか?
by fujiki (2012-06-11 08:41) 

fujiki

teru さんへ
ご一読ありがとうございました。
経験的には数か月~半年くらいで、
軽快する方が多いと思います。
原因がはっきりしない体調不良で、
入院もお辛いと思いますが、
改善することの多い病態と思いますので、
お気持ちを軽く持って、
療養をして頂ければと思います。
by fujiki (2012-06-11 08:45) 

teru

気分が軽快になるようなお返事、ありがとうございます。

心因性発熱で入院?と不審に思われたかもしれません。
微熱が2週間ほど続いた頃から、いくつかの病院を転々とし、ついには大学病院の血液内科まで受診、どの病院においても血液、レントゲンの検査結果に異常がなかったものの、倦怠感から食欲不振、不眠となり、脱水状態となって3週間前に(主治医には失礼ですが)行き先がなくなった状態で心療内科を受診し、入院したものです。
こちらのブログにはドグマチールのキーワードで訪問しました。
私のストレスは人並みと思っていましたので、入院時の症状の改善になぜドグマチールが処方されたのか、と。

お返事いただいたことを励みにしていきます。
再度の長文失礼しました。
by teru (2012-06-11 13:35) 

あんみつ

コメントをありがとうございます。副腎不全について主治医も含め話題にしたことはありませんでした。今度、相談してみようと思います。
by あんみつ (2012-06-12 23:01) 

opera

勉強させていただきました。ありがとうございました。
35才、会社員です。
痩せようと思い、'14.8月末から1日豆腐2丁+野菜サラダ+コーヒー1杯+晩酌で生活していました。だんだんと食欲がなくなり、軽い目まい、立ちくらみ、疲れやすいなどの症状がありましたが病気という自覚はありませんでした。そして、10/末出張先で倒れて入院するはめに。MRI、CT、心電図、血液検査、胃カメラ、眼、耳どれも異常無し。"多発性硬化症""てんかん"など病気を疑われた後に、"重度の脱水症"と診断されました。しかし倒れてから37.4度付近の熱が続いています。仕事、休日関係なく37.4度付近で、起床時にたまに36.7度までさがっていることがありますが、数分後には37.4度付近に。発熱してから今月で3ケ月目です。最近は"熱を下げるにはどうすれば良いか?"ではなく"熱につ強くなるためにはどうすれば良いか?"を考えています。
また、就寝時に背中から腕、足にかけて"ざ〜"っと電気がゆっくり流れるような感覚が1、2度発生しています。
あとどれくらいこの熱が続くのか分かりませんが、めげずに前を向きます^o^
by opera (2015-01-01 18:48) 

りん

女子高校生です。
一昨日の夕方、ちょうど部活のあたりくらいから具合悪くなって、昨日はとりあえず行きましたが具合悪くて1時間目で早退してきました。
でも家帰ってから平熱よりは高いけど熱は下がって普通に過ごせました。
今日朝やはり平熱よりは高いけど熱と言える熱はなかったので学校行きましたが具合悪くなって1.2時間目保健室で休みました。けど2時間しかいれないといわれ3、4時間目は具合悪いながらにでました。そしたら、お昼更に具合悪くなって7度いって帰ってきました。けど今は頭痛があり、平熱よりは高いけど7度はない状況です。

私が通っているのは進学校なのでこれが続くときついです。
ただの体調不良でしょうか。
どう思いますか?
by りん (2015-09-10 15:08) 

fujiki

りんさんへ
今の時点では、
お風邪などの可能性を考えて頂いた方が良いと思います。
数日は様子を見ても良いのではないでしょうか?
by fujiki (2015-09-11 07:30) 

涙の母

心因性発熱、心因性高体温、不明熱
などの検索でこちらにたどり着きました。
私の子供は小学生5年生の夏休みから、この病気(症状)です。
もうすぐ3回目の夏休みを迎えます。
国立病院に入院もしました、O先生も訪ねて栃木県まで行きました。国立病院では治療はないと言われ、紹介先のメンタルクリニックでは治らないと言われました。心が折れてしまい、どこ病院にもかかっていません。発熱時はハイフィーバーH表示です。
このまま治らないままなのでしょうか。。
by 涙の母 (2019-07-10 09:48) 

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