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放射性ヨード治療による二次発癌について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺アブレーションによる二次発癌.jpg
昨年のCancer誌に掲載された、
低リスクの甲状腺乳頭癌に対する、
放射性ヨード131によるアブレーションという治療により、
その後生じた放射線誘発癌の頻度を検証した論文です。

昨日の記事に書きましたように、
低リスクの甲状腺乳頭癌の治療は、
日本では甲状腺の部分切除とリンパ節の切除が、
専ら行われますが、
アメリカでは甲状腺の全切除と、
その後の放射性ヨードによるアブレーションと呼ばれる治療が、
併用されることが多いのです。

放射性ヨードによるアブレーションには、
根治率を上げ、再発の早期発見を可能にするなど、
幾つかの利点があるのですが、
その一方で放射線治療ですから、
放射線の誘発により、
別個の癌を発症させてしまう、
というリスクを負う、
という欠点があります。

甲状腺癌の中でも、
再発のリスクの高い癌では、
その利点が欠点を上回っている、
と考えられますが、
皆さんもご存知のように、
甲状腺癌の大多数を占める乳頭癌は、
基本的にその生命予後は良いので、
再発のリスクの低い、
分化型の乳頭癌で初期の病期のものでは、
その利点よりも、
二次発癌のリスクの方が、
高くなるという可能性が、
否定出来ません。

そこで今回の文献では、
アメリカのこれまでの疫学研究のデータを利用して、
放射性ヨードのアブレーションに起因する、
放射性誘発癌の頻度を検証しています。
トータルで14589名の患者さんが、
放射性ヨードのアブレーションの治療を受け、
その中で治療後半年以降に、
3223名の別個の癌の患者さんが発症しています。

勿論この癌の全てが、
放射線治療に誘発されたものではないのですが、
患者さんの背景を同一にした、
平均的な癌の頻度と比較して、
特定の癌の頻度が、
明確に高くなっていれば、
それは放射線に誘発された二次癌の可能性が高い、
と判断する訳です。

その結果…

T1N0という、
大きさが2センチ未満で、
リンパ節を含む転移のない、
分化型の甲状腺乳頭癌に限って検討すると、
その二次癌の発症リスクは、
治療を受けていない場合に比較して、
1.21倍に上昇していました。

その中身を解析すると、
全ての癌が同じように増えているのではなく、
唾液腺由来の癌が11.13倍に、
白血病が5.68倍に、
それぞれ有意に上昇しており、
それがトータルな有意差の、
原因となっていることが分かります。

実際、年次統計を取ってみると、
全ての癌の頻度はあまり変化がないのに、
放射性ヨードのアブレーションが開始されて以降、
白血病の頻度のみが、
上昇していることも確認されます。

つまりこのことから、
放射性ヨード131の被曝により、
白血病と唾液腺の癌が、
放射線誘発癌として、
増加していることは、
ほぼ事実と考えられます。

この場合、甲状腺組織は死滅しているので、
甲状腺癌は二次癌としては発症せず、
弱いながらヨードの取り込みのある唾液腺と、
放射性感受性の高い造血細胞が、
主に被曝の影響を受けると考えられます。

ただ、この増加は、
絶対リスクで考えると、
トータルの癌の発症で年間1万人当たり4.6人、
唾液腺の癌で0.7人、
白血病で2.0人の増加に留まります。

これは年間で0.05%を下回ることになりますが、
放射線外照射による骨肉腫の発症率が、
0.03~0.2%と報告されているところから見て、
概ね同等のリスクと、
考えることが出来ます。

従って、
早期の甲状腺乳頭癌に対しても、
予後改善の効果が期待出来るのであれば、
放射性ヨードのアブレーションは、
施行することが否定されるべきではありません。

ただし、
若干ながら誘発癌の生じることも事実で、
その施行に当たっては、
患者さんの利益と損失とを、
慎重に秤に掛けての、
高次の判断が必要になることは、
間違いのないことだと思います。

個人的には、
頻度こそ少ないものの、
唾液腺の癌が10倍以上になるというのは、
問題ではないかと思います。

これは理屈は明らかで、
唾液腺がヨードを取り組むことから来ているので、
何らかの対策を講じることにより、
唾液腺の保護を図るべきで、
頻度は少ないからそのまま放置で良い、
というのは患者さんをあまりにないがしろにするものだ、
と思うからです。

今回このややマニアックな話題を取り上げたのは、
放射性ヨードの人体への影響について、
示唆的なものを含むように、
思えたからです。

勿論アブレーションに使用する放射性ヨードは、
37億ベクレル内外、という大量ですから、
今回の福島の被曝とは比較にはなりませんが、
仮に甲状腺以外に影響が出るとすれば、
唾液腺と造血機能が、
そのポイントになる、
ということは押さえて置くべき点ではないかと思いますし、
その上昇頻度の感覚も、
捉えておくべきではないかと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
数字のミスあり。
1万人に1人であるところが、
10万人に1人となっていました。
訂正しました。
(2012年5月31日午前6時)
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コメント 3

人力

いつもながら素晴らしい資料を紹介いただきありがとうございます。

37億ベクレルの放射性ヨウ素を取りこんだ甲状腺細胞は、癌になるどころか死滅してしまう所がこの治療法のミソですね。

これより低い被爆量だと、唾液腺同様に、甲状腺で癌を誘発するといと解釈出来ます。

唾液腺の放射性ヨウ素の取り込みによる被爆量を調べれば、甲状腺の被曝と発癌率を類推出来るデータ得られそうで興味をそそられます。

何れにしても、体内に取りこまれた放射性ヨウ素は血流に乗ってある程度体中を運ばれますが、その時に大量のβ線を撒き散らします。それによる発癌率の上昇が、白血病で10万人に2人という確率ですから、いかに人間の体が放射線に対して強い耐性を持つかという事を裏付けている様に私には見えます。

37億ベクレルを体内に取り込んだ人は、多分、放射性ヨウ素が体外に排出されるまで、隔離されるのでは無いでしょうか。1m以内に近づくと他人を外部被曝させてしまう危険性あると判断されるのでは?
まさに、歩く放射線源ですね。

造影剤など、放射線を常用する医療に従事される医師や技師の方々は、日常的に被曝の危険性が高いと思われますが、その様な方々の発癌率が高いのか、低いのかも気になる所です。
by 人力 (2012-05-30 18:42) 

fujiki

人力さんへ
いつもありがとうございます。
年間10万人に2人は誤りで、
年間1万人に2人です。
人力さんのコメントを読んで、
おかしいなと思い、
見直したらミスでした。
申し訳ありませんでした。
ただ、言われるように、
それにしても少ない確率であることは、
間違いがありません。
確かに甲状腺以外はすぐに排泄されるとは言っても、
一時的には大量の放射線が血液に廻ることは確かで、
その意味ではこの治療には、
ある種結果オーライの、
乱暴さがあります。

周辺に与える放射線量には規定があり、
それを下回るまでは入院となります。
ただ、その規制値が厳しいので、
この治療は日本では、
あまり普及していません。
アメリカではこの治療はずっと多く行なわれていますから、
アメリカの下水などを調べれば、
日本よりずっと多い量の、
放射性ヨードが検出されると思います。
by fujiki (2012-05-31 06:14) 

J母

甲状腺がんのことを調べていてこちらにたどり着きました。オーストラリア在住で、昨年、まさにおっしゃるとおり「欧米式」治療を受けました。全摘出とRAI治療です。ちょうど一年になるので、来週、全身スキャンを受けることになっています。昨今は、インターネットが使えて便利なので、私も甲状腺がん(乳頭がん)については日本のもの、オーストラリアのもの、いろいろ調べ、外科医にも「私は日本人で、日本では、あまり全摘はしないようなのですが…」という話をしてみましたが、やはり「日本は、欧米のどの国とも違い…」という前置きで治療法について説明してくれ、基本的には、「いかなる再発のリスクをも避ける」ということが前提にあるのではないかと思いました。私自身、その医師を信頼しているので、説明に納得した上で手術、治療を受けましたが、二次発ガンの可能性までは、説明は受けませんでした。そういう危険性を考えると、ちょっと怖い気もしますが、気にし始めたらきりがないような気もしますので、とにかく気持ちをおおらかに保つよう、心がけています。興味深いお話、ありがとうございました。
by J母 (2012-08-19 19:58) 

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