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ピロリ菌除菌の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後はレセプトチェックの事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ピロリ菌メタアナリシス.jpg
これはAnnals of Internal Medicine誌に2009年に掲載された、
少し古い文献ですが、
ピロリ菌の除菌治療の効果について書かれた文章には、
概ねこの論文が引用されています。

ピロリ菌と委縮性胃炎について、
必ずご質問を受けることは、
胃カメラでピロリ菌が陽性の委縮性胃炎が見付かったのですが、
一体どれくらいの確率で胃癌になるのだろうか、
というものです。

ピロリ菌の感染がお子さんの時期に起こると、
長期的には委縮性胃炎というタイプの胃炎が進行し、
それが最終的に腸上皮化生という状態になると、
そこから胃癌が発症する、
という話が何処かで見て来た事実のように語られますが、
これは主にネズミの実験によるものです。

スナネズミを用いた実験においては、
ピロリ菌感染が萎縮性胃炎の進行から胃癌を起こすことや、
ピロリ菌の除菌により胃癌の発症が抑制出来ることが、
証明されています。

人間においては2001年に、
日本人の研究者が、
平均7.8年の経過観察期間において、
ピロリ菌の感染者では2.9%に胃癌が発症したのに対して、
非感染者では全く胃癌が発症しなかった、
というデータを発表しています。

これだけを読むと、
ピロリ菌を除菌すれば、
胃癌は発症しないように思えますが、
勿論そんなことはありません。

2009年に台湾での臨床試験の結果が論文になっていて、
その中に胃潰瘍の初回入院後、
1年以内にピロリ菌の除菌治療を行なった患者さんにおいて、
その後の胃癌の発症率を見たデータがありますが、
10年の経過観察で4%程度の患者さんには、
胃癌が発症しています。
これは日本のデータと比較すると、
かなり高い発症率です。

つまり、ピロリ菌を除菌しても、
胃癌の発症がゼロになる訳ではありません。

ピロリ菌の感染は胃癌の最も大きな要因の1つではありますが、
その全てではなく、
ピロリ菌がいなくなっても、
胃癌がなくなる、という訳ではないのです。

しかし、除菌をしない人に比べれば、
格段にその後の胃癌の発症率が、
減少することは事実です。

それではピロリ菌の除菌により、
胃癌の発症率はどの程度減少するのでしょうか?

この点においての、
現時点で一番信頼のおけるデータが、
最初に挙げた論文ですが、
これはそれまでの多くの臨床試験の結果を、
統計的に平均化して集計した、
所謂メタ解析の論文です。

これによると、
ピロリ菌に感染していて除菌をしない群では、
4~10年の観察期間において、
3307名中56名の胃癌が発症したのに対して、
除菌を行なった群では、
3388名中37名の胃癌が発症しています。

これは除菌治療によって、
胃癌の発症リスクが、
35%低下したことを意味しています。

これが概ね除菌治療の効果です。

ただし、その効果は、
除菌後すぐに現われるものではなく、
概ね4年程度の期間が経って、
明確な差となって現われます。

この解析に使用されたデータの対象者は、
概ね中年層が主体です。
軽度から中等度の萎縮性胃炎を持ち、
中には一定数は腸上皮化生と呼ばれる、
高度の萎縮性胃炎の変化を伴っています。

つまり、40~50代までにおける除菌治療は、
その時点である程度の萎縮性胃炎が進行していても、
将来の胃癌の発症予防に、
一定の効果が期待出来ます。

ここで問題になるのは、
もっと高齢者の除菌治療には意味があるのか、
ということと、
高度の萎縮性胃炎で腸上皮化生を伴っている状態であっても、
その時点での除菌治療に、
将来的な効果が期待出来るのか、
ということです。

この点で現時点で最もよく引用されているのは、
2008年のLancet誌に掲載された、
日本人の早期癌の患者さんのデータです。

この論文では、
平均70歳くらいの年齢層の、
早期癌と診断されたピロリ菌陽性の患者さんが、
対象となっています。

早期癌で内視鏡の治療を施行した後、
半数はピロリ菌の除菌を行ない、
残りの半数の患者さんでは除菌は行ないません。
そして、その患者さんを3年間観察します。
つまり、早期胃癌の再発率を比較しているのです。

その結果、
除菌を施行された患者さんでは、
最終的に167名中9名の患者さんが再び胃癌を発症し、
除菌を行なわなかった患者さんでは、
157名中24名の患者さんが胃癌を発症しています。
つまり、除菌治療はこの対象とされた患者さんでは、
65%胃癌の再発リスクを低下させています。
ただ、この数値は途中で脱落している患者さんが多いので、
そのまま割り算出来るようなものではありません。
統計処理の結果として、
3年間で未除菌者で9.6%の患者さんに癌が再発し、
除菌者ではそれが3.5%に低下しています。
これは1年当たりで換算すると1000人当たり40.5人と、
同じく1000人当たり14.1人の発症率に相当しています。
ちなみに日本人のトータルでは、
年間10万人当たり60人程度の胃癌の発症があると言われています。
これは欧米では20人を切っています。

注意すべき点は、
この研究では極めて小さな早期癌も検出しているので、
スクリーニング目的の胃カメラより、
より多くの癌を見付けていて、
単純に初発の癌の発見率と、
比較は出来ない、ということです。

この対象となった患者さんは、
早期胃癌を既に発症しているのですから、
萎縮性胃炎は当然高度の状態にあり、
腸上皮化生はほぼ7割で認められています。

つまり非常にリスクの高い患者さんです。

こうした患者さんにおいても、
除菌治療は再発の抑制に、
威力を発揮しているのです。

ただ、最近の台湾の研究では、
腸上皮化生を伴う患者さんでは、
胃癌の発症予防効果は確認されておらず、
本当に腸上皮化生の状態でも除菌治療が有効なのか、
という点については、
まだ議論の余地が残っています。

それでは、
今日の内容をまとめます。

基本的に日本人のデータを中心として考えると、
高度の萎縮性胃炎の状態で、
早期胃癌の見付かった方では、
最大限高い見積もりをして、
極初期の癌も全て検出した場合、
概ね3年間で10%の方が、
胃癌を再発する可能性があります。
中等度の萎縮性胃炎の状態では、
概ね8~10年で、
1.7~4%の方が胃癌を発症する可能性があります。

このリスクはピロリ菌の除菌をすることにより、
中等度の胃炎の方では35%程度、
高度の萎縮性胃炎で早期胃癌の方の再発を65%程度、
低下させることが期待出来ます。

これが現時点で分かっている範囲での、
除菌治療の胃癌予防に対する効果です。

ただし、これは萎縮性胃炎から生じる、
比較的高分化の腺癌に限った話で、
スキルスを含む未分化で悪性度の高い癌では、
現時点で有意な予防効果は確認されていません。

また上記の数字は報告によってもかなりの幅があり、
アジアのデータが主体ですが、
それでも日本と中国と台湾のデータにも、
かなりの開きがあります。
更には年齢などのファクターも、
大きく影響すると思われますが、
現時点では大雑把な推測しかありません。

従って、現時点では絶対的なものではなく、
1つの参考程度に考えた方が良さそうです。

今日はピロリ菌の除菌治療の効果についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 13

kakasisannpo

まだまだ、明瞭な結果が出てないように伺いましたが。
それくらい複雑な問題なのでしょうね
by kakasisannpo (2012-02-01 10:19) 

midori

先生こんにちは。

ピロリ菌を殺してから、なんとなーく
激しいもの(肉とか油とかガッツリ系)に対して食欲がないとか
(加齢による嗜好の変化もあるでしょうが、
 ホントに高齢者のような食事内容になっています)、
二日酔いならぬ二日満腹とでもよぶべき状況
(一度食べ過ぎると丸一日くらいダメな感じ)に
なることが多い気がする、という感じです。
まぁ、地味で腹八分目の食生活というのは
身体には良いのでしょうけれど、
痩せたといえば聞こえは良いですが、
なんだか貧相な感じに。。。(笑)。

先日、健康診断を受けまして、
おそらく何かしら軽度で引っ掛かっているでしょうし、
胃のX線検査のバリウムで酷い体調になり(昨年に引き続き)、
今後は内視鏡検査を定期的に受けることにしようかなと
思っていますので、近々ご相談に伺わせて頂きます。
宜しくお願い致します。
by midori (2012-02-01 12:51) 

fujiki

kakasisannpo さんへ
分化型の胃腺癌とピロリ菌の感染との間に、
関連性のあることは間違いがなく、
除菌がその後の癌の発症に、
それなりの影響をもたらすことも、
日本のデータに関しては一致しています。
ただ、アジアにほぼ限定した現象なので、
欧米のデータは殆どなく、
中国の臨床試験では、
あまり明確な除菌の予防効果が、
確認されていません。
それでもメタ解析を行なうと、
トータルには予防効果が一定レベル認められた、
というのが最初にご紹介した文献です。
台湾のデータは日本の研究に沿うものですが、
日本のデータより、
その予防効果は限定的なようです。
by fujiki (2012-02-01 22:48) 

fujiki

midori さんへ
了解しました。
お待ちしています。
by fujiki (2012-02-01 22:51) 

ゆうのすけ

私は 昨年12月頭に 今まであまり経験したことがないくらい キツイ胃炎を経験して 殆どかかることのない医療機関に何年振りかに かかりました。
1stステージの胃潰瘍だと胃カメラを飲んで診断されました。
初期でもこんなに きついものなのかと感じたのが一番の印象でした。

現在は薬(プロテカジン)を服用して 胃潰瘍治療中で 来月頃 ピロリの検査を受ける予定です。そこで見つからなければ 治療終了らしいのです。もう痛みも 調子が悪いこともないのですが この機会に集中して治してしまおうと現在進行形です。

今回の記事は 興味深く拝見させていただきました!☆

毎日寒いですね。お忙しい時期ですが お身体御自愛くださいね。^^
by ゆうのすけ (2012-02-01 23:38) 

fujiki

ゆうのすけさんへ
コメントありがとうございます。
胃潰瘍の症状の出方には、
かなりの個人差があって、
びらん程度でも凄く痛みのある人がいる一方で、
穴が開くような潰瘍でも、
症状の殆どない人もいます。
早く良くなるといいですね。
by fujiki (2012-02-02 08:12) 

iyashi

ピロリ菌の除菌が保険適応になった当初は、確かピロリ菌除菌に否定的な医師もいて、患者の状態により適当と判断される場合に除菌をするというのが妥当と考えられていたように記憶しています。
それが今ではピロリ菌の除菌が必須と言う感じになってしまっているのに少し違和感を感じていました。
今回の記事も大変勉強になりました。
by iyashi (2012-02-05 13:24) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
日本だけのデータに関しては、
矢張り早期の除菌が胃癌の発症予防に結び付く、
という知見はほぼ立証されています。
ただ、欧米にはピロリ菌の感染自体が少ないので、
しっかりとしたデータはなく、
中国のデータは胃癌予防には、
否定的な結果が主です。
台湾の研究ではほぼ日本に近いデータですが、
予防効果は日本のデータよりはかなり劣ります。
この辺をどう考えるのか、
という点で考えは分かれるところだと思います。
by fujiki (2012-02-06 08:17) 

aya

初めまして、私は34才女です。
今年初めに胃カメラをうけピロリ菌がみつかりました。
その際は軽度の萎縮性胃炎といわれたのですが、7月に胃の調子が悪く別の病院で胃カメラしたときには、鳥肌胃炎だと言われました。
鳥肌胃炎はピロリ菌が原因のもので、スキルス胃癌になる可能性が非常に高いと言われました。
除菌は7月に二次除菌で成功しましたが、リスクは高いままなようで大変不安になりました。
先生はスキルスはピロリ関係あるとは言えないと書かれていましたが、鳥肌胃炎があるとリスクが高いのでしょうか。
胃カメラをしても早期発見はむつかしいですか?
1才の子がいるので、まだしばらく死ねません。
考えだすと胃が気持ち悪くなります。
by aya (2014-09-14 17:14) 

fujiki

ayaさんへ
詳細は明日ブログの記事にしますので、
お読み頂きたいのですが、
スキルス胃癌が鳥肌胃炎で多い、
と言う見解にはやや誤解があり、
確かに未分化型の胃癌が多い、
という報告は1つあるのですが、
それほど精度の高いデータではなく、
報告された患者さんは手術などの治療で根治されています。
勿論全て胃カメラで見付かっています。
鳥肌胃炎はむしろ比較的急性の、
ピロリ菌感染に伴う胃炎の変化の1つで、
除菌により改善する可能性が高く、
定期的な胃カメラ検査を継続していれば、
特に心配はないと、
現状は考えて頂いて良いと思います。
by fujiki (2014-09-15 14:30) 

mariko

はじめまして。
平成25年10月に内視鏡でびらん性萎縮性胃炎、
平成26年6月に萎縮性胃炎(経度)、ピロリ菌:抗体濃度73.6U/ml(病院から勧められたわけでなく、自ら検査を依頼)
このため、7月にピロリ菌除菌を行い、2度目の除菌で成功しました。
そして、今年27年5月末の内視鏡で、慢性(非活動性)胃炎(萎縮性+頂上皮上生)となっていました。
平成26年の診断から、除菌をおこなって、今回進行しているのですが、除菌しても意味がなかったのでしょうか・・・
by mariko (2015-06-09 09:44) 

fujiki

marikoさんへ
もし同じ医療機関で検査をされたものでしたら、
前回と比べて悪化と言えるのかどうかを、
お問い合わせして頂くのが良いと思います。
見る医者によっても、
所見の変わることはよくあることだと思います。
仮に明確に悪化があるのだとすると、
ピロリ菌が再燃している可能性も考えた方が良いので、
もう一度ピロリ菌の検査は、
やっておいた方が良いと思います。
by fujiki (2015-06-09 15:20) 

mariko

回答有り難うございます。
問い合わせをしてみたいと思います。
もう一つお聞きしたいのですが、内視鏡はすべて、人間ドックで行いました。一度も内服薬を処方されたことはありませんが、大丈夫なのでしょうか・・・
by mariko (2015-06-11 13:01) 

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