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福島県甲状腺先行検査結果を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

福島県において昨年10月から、
原発事故による健康影響検査の一環として施行されている、
甲状腺の超音波検査の結果の一部が、
先日公表されました。

今日はその結果について、
僕なりに考えてみたいと思います。

この検査は震災時に0歳から18歳までの全県民に対して、
甲状腺の超音波検査を、
数年間隔で一生涯行なう、というものです。
トータルな対象者は約36万人に達するのですから、
これはもう世界的にも例のない、
大規模な甲状腺検診です。

先行検査は平成23年10月から、
順次実施され、
概ね平成26年3月までに終了の予定とされています。
その後20歳までは2年毎、
それ以降は5年毎に検査を行なうとなっています。
改めて途方もない規模の検診です。

今回発表された資料によると、
平成23年12月末日の時点で、
14442名に検査が実施されていて、
これは予定された対象人数の73.3%となっています。

このうち福島県立医科大学で検査が施行された、
3765名の検診結果が公表されています。
これは川俣町、浪江町、飯館村が対象で、
対象人数の76.7%が検査を受けています。

その結果はどうだったのでしょうか?
次をご覧下さい。
福島甲状腺検診結果.jpg
検査結果の一覧表です。
これを見る上での1つのポイントは、
この超音波検査が、
甲状腺の全ての異常をチェックするものではなく、
基本的に結節(所謂しこり)と嚢胞(液体の入った袋のようなもの)の、
有無をチェックするのが目的だ、
という点にあります。

この検査の元になった、
チェルノブイリでの甲状腺超音波検診では、
論文を読む限りは、
甲状腺内の5ミリ以上の所見は、
全てカウントする、という方針になっています。

所見は結節、嚢胞、それ以外の超音波異常、
の3つに分類され、
必要に応じて穿刺吸引細胞診が施行されています。

つまり、
今回の日本の検診では、
チェルノブイリの検診よりも、
より狭い範囲の異常の検出に、
その力点が置かれているのです。

これが今回のデータを読む上での、
大きなポイントです。

結節はチェルノブイリと同じ5ミリを、
その異常の指標としていますが、
嚢胞に関しては20ミリを指標としています。

これは嚢胞の大多数は良性のものであるためと、
チェルノブイリの知見では、
濾胞癌のような嚢胞変性を伴う癌は、
増えていない、という知見が元になっていると思います。

また、これまでのデータ上、
数ミリの嚢胞が甲状腺に見付かる比率は、
かなり多いもので、
それを異常所見としてカウントすると、
見掛け上甲状腺の異常所見の比率が、
非常に多くなってしまうので、
その結果が報道された時に、
あらぬ疑惑や憶測を呼ぶことになるのでは、
と危惧したためと思われます。

上の結果を見て頂くと、
20ミリを超える嚢胞は、
実際には1例も検出されてはいません。
その一方で20ミリ以下の嚢胞は、
28.8%に検出されています。

嚢胞以外のしこりは、
大きさに関わらず2.2%ですから、
所見の多くは嚢胞であった、
ということが分かります。

実際に甲状腺の超音波検査をやってみると、
2センチを超える嚢胞というのは、
かなりの大きさです。
勿論稀にそうした嚢胞もありますが、
それは逆に悪性の存在を殆ど感じさせないものですし、
小児の甲状腺には滅多にない所見だと思います。

しこりの5ミリと言うのも、
超音波検査で検出される甲状腺のしこりとしては、
かなり大きな部類で、
今の標準的な機器では、
0.5ミリ程度のしこりも、
検出は可能だと思います。

仮に原発事故後に増加する可能性のあるのが、
小児の甲状腺乳頭癌のみであるなら、
こうした方針は誤りではないと思います。

たとえば1ミリ未満のしこりであっても、
実際には微小の乳頭癌である可能性はある訳です。
それは剖検の事例が証明しています。

ただ、その予後は未分化癌以外は通常は良いので、
臨床的には5ミリを1つの目安にして、
増加傾向を見ながら、
必要に応じて細胞診の検査を検討する、
という方針で問題はないのです。
それより慎重な姿勢を取れば、
却って不必要な検査や治療を、
増やす可能性が高いからです。

しかし、僕はチェルノブイリの結果を、
少し前提にし過ぎているような気がします。

確かに公式見解としては、
チェルノブイリ事故後に、
増加したのは小児甲状腺癌だけです。

ただ、これはロシア語の文献しかありませんし、
その信頼性にも疑問の残るところはありますが、
チェルノブイリ事故後数年から、
甲状腺の腫大や機能異常が、
増加した、という報告はありますし、
先日ご紹介したチェルノブイリ事故後の、
小児甲状腺超音波検診の結果を見ると、
乳頭癌だけではなく、
慢性甲状腺炎や嚢胞性病変も、
汚染地域で多くなっている、
という傾向は認められます。

従って、
確かにチェルノブイリと全く同じことが、
その被曝量に応じて起こる、
という仮定に立って考えれば、
甲状腺乳頭癌のスクリーニングのみを行なえばそれで良く、
かつ被曝量はおそらくはずっと少ないのですから、
そのリスクもずっと少ないことになる訳ですが、
その考え方は、
他の事象の起こる可能性を、
ある意味全て切り捨てているのですから、
これだけ大規模な検査をしておいて、
チェックするのはそれだけで良いのか、
と言う点については、
正直僕は疑問に思うところがあります。

特に嚢胞のサイズを20ミリを境としているのは、
科学的な判断というより、
政治的な判断だと思います。
それ以下では問題がない、ということではなく、
なるべく異常の比率が低くなるように、
調節しているという節があるからです。
本来はチェルノブイリの検診と同じように、
5ミリを超える病変は、
全て拾い上げる、
という判断の方が、
妥当だったのではないでしょうか?

ただ、これは今回が初回の検査だからであり、
実際には多くの情報が、
一緒に所見として取られている筈で、
数年後以降の、より本格的な検討においては、
その異常の振り分けの基準も、
変更することを想定しているのかも知れません。

それでは次をご覧下さい。
甲状腺検診結果通知書.jpg
これは検討会の資料の中にある、
検診を受けた方へと送られる、
検査結果の見本の文面です。

書かれていることに誤りはありません。

ただ、この文面であると、
次回の検査が平成26年以降に、
行なわれることは書かれていますが、
その検査の意味合いは、
今回の検査と同等か、
それより低いもののように、
感じられてしまう恐れがあるように思います。

多くの方がご存知のように、
今回の初回の検査の目的は、
被曝の影響を見るためではなく、
あくまで被曝以前に甲状腺に問題がないかどうかを、
確認する意味合いで行なうものです。

つまり、本当に大事なのは、
これから2年後
(実際には昨年初回の検査を行なった方の、
2回目以降の検査は3年後以降になる訳です。
被曝の多い地域から初回の検査を行なうのは、
これも一種の政治的な判断ですが、
実際には2年毎の検査にはならないのです。)
もしくはそれ以降の検査にあるので、
今回検査を受けた方は、
「絶対に」2年後以降の検査を受けなくてはならないのです。

本当に重要なことは、
数年毎に検査を欠かさないことだ、
という点を、
もっと強調した文面が、
望ましいのではないかと思いました。

当初の専門家の考えは、
数年後に甲状腺の検診を施行する、
というものでした。

本来は1人でも多くの方に、
特に被曝後数年後から10年後くらいの期間に、
検診を受けて頂き、
その場合は極軽度の所見も拾い上げて、
経過を見ることが望ましいのです。

こうして被曝直後に大騒ぎをして検診をすると、
その時に異常のなかったお子さんは、
次回以降の検査を受けない可能性が高くなるからです。

ただ、実際には世論に押されて検診の前倒しをした訳ですから、
それが却って逆効果になることのないように、
数年後の検診の受診率を、
むしろ今回より上げないといけないと思いますし、
メディアの皆さんにも、
是非そのための報道の充実を、
「数年後に」お願いしたいと思います。

最後に今回の検診を受けられたお子さんの保護者の方への、
僕なりの提案は、
検診を受診された際には、
極力その時の超音波の所見用紙を、
もらうように希望されるのが良いのではないか、
ということです。

所見用紙にはもっと細かい甲状腺の超音波の所見が、
書かれている筈で、
しかしその所見は将来的にも開示はされない可能性が高い、
と思われるからです。

この検診は皆さん自身の健康のために、
皆さん自身の税金で施行されているものですから、
希望があれば提供を受ける権利はある筈です。

そして、
仮に所見用紙にも結節や嚢胞以外の記載がないとしたら、
その検診自体の目的と有効性に、
疑問が残るのではないかと僕は思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

みみ

はじめまして。毎日読ませていただいております。とても勉強になりありがたいです。今回初めてコメントさせていただきます。昨年甲状腺腺腫がみつかり、良性でしたが、今後一年~二年に一度経過観察を、と言われました。大きさは二センチ、嚢胞を伴っております。ちなみに私は現在30歳です。ふと考えたのですが、私は、この腺腫があるために、経過観察の際に、この腺腫とは別に、命にかかわらない微小癌がみつかるかもしれませんよね。しかし、命にかかわるかどうかはわからないので、見つけたが故に、びくびくしてしまうこともありうる。微小癌のメカニズム早く解明されるとよいと思いました。超音波が進歩して、早期発見もあれば、ときに見つけなくてもよいものまで見つけてしまう、なかなか複雑ですね。
ちなみに甲状腺癌予防に効果的なことはありますでしょうか?
もしあれば教えてください!
by みみ (2012-01-31 00:37) 

fujiki

みみさんへ
コメントありがとうございます。
基本的にはあまり気にされないで良いと思いますが、
ヨードは過不足なく摂って頂くのが良いと思います。
TSHの上昇傾向があれば、
それを抑える目的でチラジンは使用した方が良いと思いますが、
そうでなければ、特に必要はないと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-01-31 08:12) 

とし

いつもブログを拝見させて頂いております。
先生のすばらしい解説はいつも大変勉強になります。
2歳の子供が原発事故時からしばらく福島県中通りのそれなりの汚染地帯に滞在しておりました。
政府のただちに健康に影響はないという説明を信じて、散歩なども普通にしていたため、もしかしたら甲状腺等価線量で数十ミリシーベルトのヨウ素被ばくをしたかもしれません。
専門家のみなさんがいうには、チェルノブイリで明らかに甲状腺癌が増加したのは甲状腺等価線量で数百ミリシーベルト以上のヨウ素被ばくをした子供たちらしいですが、先生は子供の数十ミリシーベルトのヨウ素被ばくの影響をどのようにお考えでしょうか?
ご意見をお聞かせいただければ幸いです。

by とし (2012-01-31 12:13) 

fujiki

としさんへ
コメントありがとうございます。
放射性ヨードの半減期は短いので、
現実にはチェルノブイリにおいても、
今回の福島においても、
実際の被曝量が測られた訳ではなく、
被曝量自体は後からの推測に過ぎません。
そもそも何故数年という短期間で、
小児甲状腺乳頭癌のみが増加したのか、
という発癌メカニズムも分かっていません。
本当に放射性ヨードが原因なのか、
という点についても証明はされていないのです。
従って、確証を持ってこのことを断言出来る人は、
誰もいないと僕は思います。

甲状腺癌の最も強い誘発因子が、
放射線であることは間違いがなく、
かつて良性の頸部疾患に対して、
放射線治療が行われ、
その後に甲状腺癌が多発したことで、
その事実は証明されています。
しかし、これは外部被爆であって、
内部被曝ではありません。
従って、この事例から、
現在の被曝の影響を云々することは出来ません。

チェルノブイリでの甲状腺癌の患者さんの被曝量についても、
数十ミリシーベルト程度という意見もあれば、
数百ミリシーベルト以上という意見もあって、
これも一定はしていません。

従って、分からない、というのが正直なところで、
後は「分からないから心配ない」と考えるか、
「分からないから油断は出来ない」
と考えるかの、
考え方の問題だと思います。

としさんのお子さんに関して言えば、
僕は個人的には心配はないと考えますが、
確証のある意見ではありません。
それほどご心配はすることなく、
しかし、定期的な検査は続けて頂くのが、
現時点では良いのではないかと思います。
by fujiki (2012-01-31 13:55) 

とし

早速のお返事ありがとうございます。
大変わかりやすく、納得できる解説でした。
政府のみなさんも先生のように論理的に説明して頂ければ現在の被ばく情報に関する混乱も少ないと思うのですが。
今後もブログで勉強させて頂きます。
ありがとうございました。
by とし (2012-01-31 14:53) 

人力

大変勉強になりました。
ありがとうございます。

チェルノブイリのデータでも気になるのですが、放射線に汚染ていない地域の比較になるデータがあれば、福島が他の地域に比べて異常があるのか、それとも福島のデータに現れる異常が、放射線由来のものなのかの判断が付けやすいと思われます。

福島並の人数を一つの県で集めるのは不可能ですから、全国で有志を募って検査をするなどという方法が取れれば、全国平均というリファレンスが出来るのでは無いかと思われます。

対照群は、被曝量が少ないと過程すれば、経年で追跡する必要は無く、現時点の各年齢の子供を検査すれば、福島に対するリファレンスとして機能すると思うのですが、如何でしょうか?

検査対照を全国とする事で、遺伝的因子の影響を薄める事が出来ると思います。

ただ先生も書かれている通り、子供の甲状腺癌はある程度時間が経ってから発症しますから、現状の比較を持って、「安全である」という結論を政府が導かないように、国民は監視する必要があります。
by 人力 (2012-02-01 08:51) 

fujiki

人力さんへ
コメントありがとうございます。
今回の検診は、
福島県の全域で行なわれるので、
放射性物質の降下量の少ない地域を、
対照群として解析するのではないかと思います。
日本の別の地域を対照としてデータを取っても、
環境や生活習慣はむしろ差が大きくなるので、
同じ福島県で対照群を設定する方が、
理に適っているという面もあると思います。
by fujiki (2012-02-01 22:37) 

あめり

甲状腺のエコーで コロノイドのう胞が2ミリサイズでたくさんありました。福島県在住の中学生と小学生です。
心配はないよと 言われましたが とても心配です。
食べ物も気を使ってきたし 避難したり 休日ごとの保養。。。。
そもそも こどもにのう胞はできているものなのでしょうか?
何が原因でできるものかが 調べても分かりません。
福島から引っ越しのできなかったのが 原因なのか。。。。
なんとか のう胞を消したいです。もし方法があればぜひ教えてください。よろしくお願いします。
by あめり (2012-07-04 21:34) 

fujiki

あめりさんへ
私は個人的には、
エコーにおける2ミリ程度の大きさの嚢胞は、
しこりとしての嚢胞ではない可能性もあり、
お気にされる必要はないのではないかと思います。
甲状腺組織の成長に伴い、
エコー所見上消失する可能性もあると思います。
(これは根拠のあるものではなく、
あくまで個人的な見解です)
問題はどちらかと言えば、
甲状腺自体の大きさや、
内部のエコーレベルが均一かどうか、
というような点にあり、
甲状腺全体のエコーレベルに、
不均一性がなくそのエコー輝度も正常であれば、
基本的には病的な所見ではないものと考えます。
by fujiki (2012-07-05 08:33) 

あめり

お返事をいただき本当にありがとうございます。
少しほっとしました。
成長に伴い消失の可能性があるのですね。
子供自体に のう胞はできるものなのでしょうか?
心配はつきませんが ここ福島で生活をするしかないので 消失することを願いながら頑張ります。
ありがとうございました。
by あめり (2012-07-08 22:09) 

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