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ビタミンEの補充による前立腺癌の増加について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ビタミンEと前立腺癌文献.jpg
今月のJournal of American Medical Association(JAMA)誌に掲載された、
ビタミンEの補充療法による、
前立腺癌のリスク増加についての論文です。

これは一般のニュースにもなったので、
それをお読みになった方もいらっしゃると思います。

ビタミンEとセレンというのは、
人間の体内で重要な働きを持つ抗酸化剤で、
その両者は似通った性質を持ち、
一種の相互作用もあることは、
多くの研究結果から明らかになっています。

過酸化物が身体において老廃物として障害作用を持ち、
それが老化や動脈硬化、癌などの原因となることは、
これも多くの研究結果から明らかな事実です。

であるならば、
抗酸化剤であるビタミンEやセレンを多く摂取することにより、
身体の酸化が抑えられ、
そのことにより老化や発癌が予防出来るのではないか、
という考えが生まれて、
それなりの説得力を持ち、
証明された事実ではないものの、
サプリメントとしてビタミンEが多く摂取され、
ビタミンEほどポピュラーではないものの、
セレンも摂取され、
それが健康に良いこととして、
多くの人に信じられている、
という現実があります。

1990年代にATBC試験と呼ばれる大規模な臨床試験があり、
これは喫煙男性を対象としたものですが、
1日50㎎という量のビタミンEを平均6年間余摂取することにより、
前立腺癌の発症率が35%減少した、
という結果が得られました。
つまり、ビタミンEに前立腺癌の予防効果が見られたのです。

次に2009年に発表されたPHSⅡという臨床試験があり、
そこではビタミンEを1日おきに400単位ずつ摂取し、
平均8年間の観察の結果、
前立腺癌の発症に何らの影響も与えなかった、
という結果でした。

つまり、ビタミンEが前立腺癌を予防出来るのか出来ないのかは、
まだ結論の出ていない問題なのです。

ちなみに、
ビタミンEの用量の単位には、
国際単位とmg表示とがあり、
通常サプリメントの天然ビタミンEは、
mgで表示され、
薬剤として使用されている合成ビタミンEは、
国際単位で表示されるのが一般的です。
合成のビタミンEは1mgがほぼ1単位で、
天然のビタミンEは1mgが1.5単位に相当します。

今回の論文はPHSⅡと同時期に施行された、
SELECT(the Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial )試験、
という試験の追加解析の結果です。

この研究では、
約35000人の中高年の男性を対象として、
偽薬を使用した群と、
セレンを1日200μg摂取した群、
ビタミンEを1日400単位摂取した群、
そしてセレンとビタミンEとを共に摂取した群の4群に分け、
平均7年、最長12年間の経過が観察されています。

その結果、偽薬とセレンの単独群、セレンとビタミンEとの併用群では、
前立腺癌の発症に有意な差はなく、
ビタミンEのみを使用した群では、
偽薬と比較して、
前立腺癌の発症が17%増加していました。

ちょっとこちらをご覧下さい。
ビタミンEと前立腺癌の図.jpg
横軸が観察期間、
縦軸は前立腺癌の発症確率を示しています。
数年後より、
次第にコントロールとビタミンE群との差が、
開いていくことが分かります。
こうした経過は、
データの持つ信頼性を増すものだと思います。

これは当初の予想とは正反対の結果です。

抗酸化剤であるビタミンEの使用により、
前立腺癌の発症が減ることが予想され期待されたのですが、
実際には逆にビタミンE群で前立腺癌の発症は、
むしろ増加してしまったのです。

論文自体には、
推測も含めて、
正直あまり明瞭にその説明は書かれていません。

しかも、その有害作用は、
ビタミンEとセレンを併用することにより、
消失しているのです。

これは一体どうしたことでしょうか?

これについては、論文の中に、
ビタミンEの有害作用を、
セレンには打ち消すような働きがあるのではないか、
という推測が述べられています。

セレンとビタミンEとは、
無関係の物質ではなく、
セレンの欠乏した状態で、
少量のセレンを投与すると、
ビタミンEの活性が高まるというデータがあるように、
両者の物質はある程度共同して、
体内の酸化を防ぐ働きをしているのです。

両者がバランスを取ることにより、
体内の酸化は適度な状態に保たれ、
どちらか一方が過剰になると、
そのバランスの乱れは、
生体にとってバランスを欠くものになるのかも知れません。

今回の結果をどう考えれば良いのでしょうか?

ビタミンEはサプリメントとして使用される物質としては、
結構曰くのあるものです。

その必要量は成人男性で、
1日9mgに設定されていますが、
サプリメントでも最低で50mgが使用されます。

ビタミンEの使用により、
脳梗塞は10%減少するけれど、
脳出血は22%増加する、
というメタ解析のデータがあり、
脳出血のリスクは、
1日50mgの使用でも増加した、
という文献もあります。

1日3200単位という大量の使用により、
酸化ストレスが軽減した、
という報告がある一方で、
高用量のビタミンEで死亡率が増加する、
という疫学データもあります。

1日300mgの使用により、
脂肪肝炎の患者さんの多くでは、
他のどんな薬剤より著明に、
その肝機能の改善効果が認められます。

これがビタミンCやコエンザイムQ10であれば、
過剰投与で問題の起こった、という報告は殆どなく、
この点で同じ抗酸化剤と言っても、
ビタミンEは同じように考えることは危険なのです。

その一方で、
これは確実な効果の期待出来ることの、
裏返しでもあり、
今回のセレンとのバランスの重要性を含めて、
ビタミンEの有効な使用法についての、
検証が必要なのであり、
ビタミンEはサプリメントとしてではなく、
あくまで薬剤として管理すべき物質であると、
僕は思いますし、
そのことを今回の結果は、
示唆するものではないかと考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

midori

ビタミンというと、たくさん摂っても
身体に害の無いようなイメージがありますね。
いつも勉強になります、ありがとうございます。

さて。忙しくてなかなか伺えないのですが、
来週はお休みを取るので伺います。
おかげさまで、症状は11日からパッタリ無くなりました。
by midori (2011-10-21 11:58) 

MDISATOH

Dr.Ishihara興味深い記事でした。私は双極Ⅰ型の鬱状態の緊張性頭痛の治療に、ビタミンEを処方してもらっています。今は朝食後、
50mgを1錠飲んでいますが、ビタミンEは脂溶性ビタミンなので、
余り多く無い方が良いと主治医に言われました。
by MDISATOH (2011-10-21 17:47) 

ごぶりん

喫煙によってビタミンEが不足するんでしょうか?
今年の春ぐらいの医療関係の記事で喫煙がALSの危険因子というのと、
2年以上のVitE摂取でALSのリスクが低下というのが立て続けに
出てたような気がしたので。

いずれにしてもエパデールやノイキノンをOTCで買うより安いから出してという
患者さんの求めに応じてホイホイ処方する医師にはとくに注意して戴きたいですね。
by ごぶりん (2011-10-21 21:42) 

acco

☆こんばんは☆

『日本人の食事摂取基準(2010年版)』では、
ビタミンEの耐容上限量は、成人男性で800㎎/日ですが、
ビタミンEは脂溶性ですから、耐容上限量の半量もの量を
長期間摂取するのは、ちょっとリスキーな気がします。
日本では実現しない実験ですね。

今回の結果を受けて、次回の改訂では
耐容上限量が下方修正されるかもしれません。

☆おやすみなさい☆
by acco (2011-10-22 02:32) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
来週は学生さんが研修に来るので、
ちょっとバタバタしているかも知れませんが、
診療は通常通りなので、
お待ちしています。
by fujiki (2011-10-22 08:22) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。
ビタミンEの使用については、
今後も検証が必要だと思います。
サプリには50㎎上限で良いのではないかと思いますが、
肝疾患には150mgは最低でも必要だと思います。
by fujiki (2011-10-22 08:25) 

fujiki

ごぶりんさんへ
ATBC試験の結果は、
確かにその意味合いだと思います。
脂溶性のビタミンは結構曲者で、
サプリメントの範疇考えるのは、
危険ではないかと思います。
by fujiki (2011-10-22 08:28) 

fujiki

acco さんへ
コメントありがとうございます。
ビタミンEは血流改善などの目的で、
300mgまでは結構長期使用されていますから、
その点も今後問題となってくるかも知れません。
by fujiki (2011-10-22 08:31) 

ide

もう20年ほど前でしょうか、ビタミンE入りの歯磨き粉を知り合いからもらって使ってみたところ、歯茎の腫れが一日で治ってしまいその効果に驚きました。副作用も聞いていたので腫れたときにしか使っていなかったのですが、そのうち市場から消えてしまいました。
しかし最近また出回っているようで、白板化してきた歯茎に使っています。若いときの様にはいかないみたいですが、効果はあるような気がします。
医薬品扱いになって高価のものなるのは勘弁してほしいですね。
by ide (2012-01-19 01:35) 

fujiki

ide さんへ
コメントありがとうございます。
医療費を減らせ、という大合唱で、
それが絶対的な「正義」なのですから、
そうしたご心配は多分ないと思います。
by fujiki (2012-01-19 08:19) 

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