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グアンファシンの記憶機能改善効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

昨日は4枚書きました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
年齢による記憶力低下.jpg
今年の8月のNature誌に掲載された、
加齢に伴う記憶力の低下と、
その改善の可能性についての、
主に猿の脳を用いた研究についての論文です。

これが、非常に面白いのです。

よく自然な老化による物忘れと、
認知症による物忘れは、
何が違うのか、
というような議論があります。

年齢と共に脳の働きが低下するのは、
人間のみならず、
脳を持つ全ての生き物に共通する現象です。

しかし、たとえば人間に近い猿でも、
所謂人間の認知症のような病態は、
存在しないと考えられています。

つまり、自然な老化はあっても、
認知症はないという状態のモデルとして、
猿の脳は研究の対象と成り得るのです。

自然な老化であっても、
認知症の初期症状であっても、
最初に記憶力の低下として、
自覚されることが多いのは、
ほんの僅か前の時間に記憶した、
どちらかと言えば些細な内容を、
すっかり忘れてしまう、
という現象です。

手帳を棚に置いてそのことを忘れてしまったり、
何かをしようと2階から1階へと階段を下りたのだけれど、
1階に着いてみると、
何をしようとしていたのか、
すっかり忘れてしまう、
というような現象です。

これを作業記憶(ワーキングメモリー)が障害された、
というような言い方をすることがあります。

記憶には、
電話番号をその場で記憶するように、
短時間だけ保持される記憶と、
思い出のように、
長時間保持される記憶があります。

このうち短期間記憶を保持する脳の機能は、
通常その記憶の情報を用いて、
何らかの行動を起こすことが、
その前提になっています。

電話番号の数字を短期記憶として保持したのは、
それをメモに残すとか、
その番号にすぐ掛け直す、
といった、
その後の行動に結び付いた脳の機能なのです。

棚に置いた手帳のことを忘れてしまうのは、
棚に置いた時に、
それを次にどうするかという、
行動のプランが存在したにも拘らず、
そのプランの実行時まで、
短期記憶が保持出来なかったことを意味しています。

つまり、これも作業記憶の障害なのです。

いやいや、何の気なしに物を置いて、
それで忘れてしまうことだってあるではないか、
と言われる方がいるかも知れません。

しかし、それはもうやや哲学的な話になりますが、
おそらく人間はそうした行動はしないのです。
物を何処かに置いたのは、
その置いた時点では、
次の行動予定が存在した筈で、
それがないように思えるのは、
それが記憶として保持されずに、
失われてしまったからなのです。

この作業記憶に関わる一番重要な脳の部分は、
前頭葉の前方の部分であることが、
最近の研究から明らかになっています。

その部分の記憶を保持する脳機能が、
年齢と共に低下する、
と言う現象は、
人間と猿に共通するものです。

つまり、自然の老化における、
1つのメカニズムであることは間違いがないのです。

僕が臨床的に経験上間違いのない事実と思えることは、
この作業記憶の障害が、
比較的急速に起こると、
人間はそのために現実との折り合いの仕方を喪失し、
そのことにより精神的な均衡を崩して、
明らかに認知症の範疇に入るような、
症状を呈するようになる、
ということです。

病気としての認知症というのは、
あくまである程度広範な、
脳の変性と機能低下とを伴うものですが、
実際にはそうした病気が存在する一方で、
自然の老化による変化に、
人間の精神が適応出来ずに、
同様の症状経過を呈する事例が、
少なからず存在するのではないでしょうか?

それを一括りで「認知症」として同じ治療を行ない、
同じ薬を長期処方してそれで良しとしているところに、
認知症の治療についての、
大きな問題があるように、
僕には思えます。

閑話休題…

話が逸れましたので、
上記の論文の内容に話を戻します。

こちらをご覧下さい。
エスタリックの効果.jpg
この図は上記の論文自体にあるものではなく、
それを解説した、
New England Journal of Medicine誌の解説記事にあるものです。
左側の図は、
作業記憶を司る脳の部分の神経活動が、
年齢と共に低下することを示したものです。
つまり、短期記憶の保持機能の低下状態です。
これは猿の脳の知見です。

そして、右の図は、
その低下した脳の機能が、
グアンファシンという薬の使用により、
改善していることを示しています。

高齢の猿の脳の前頭葉では、
サイクリックAMPという伝達物質の濃度が上昇しており、
このシグナルの過剰な亢進が、
作業記憶の障害を引き起こす、
要因の1つと考えられています。

グアンファシンという薬は、
中枢性の交感神経を抑制する作用のある薬として、
降圧剤として使用されている薬剤ですが、
脳内においてカリウムチャネルを開き、
サイクリックAMPのシグナルを、
結果として抑制する効果があることが確認されています。

従って、この薬により、
作業記憶の改善が生じることは、
理屈にも合っていることなのです。

この薬はアメリカにおいては、
すでに記憶障害に対しての治験が始まっています。
ただ、上記の実験結果は猿の脳に直接…
という実験系での話なので、
内服により同様の効果が出る、
という訳ではありません。

日本においては、
エスタリックという商品名で長く販売されていましたが、
現在は「効果がなく儲からない薬」として、
平成17年に販売中止になってしまいました。

今も使用出来れば、
値段も安く画期的な効果が期待出来るのに、
それが出来ない状態になっているのです。

日本の専門家も製薬会社も行政も、
本当にこういう所のセンスのなさが最悪です。

メカニズムに特徴のある薬は、
たとえ古い薬で、
現状では代替薬が存在しても、
決して販売中止にしてはいけないのです。

このグアンファシンは、
一部の発達障害の治療にも、
効果のあることが報告されていますが、
そのメカニズムを考えれば、
これは当然のことで、
そうした知見がありながら、
販売が中止されるという実状は、
本当に絶望的な思いがします。

多分数年後には、
この薬は新薬として、
数十倍の値段で再発売される可能性があるのでは、
と思いますが、
そうしたとてつもない不合理さが、
現在の医療の実態なのです。

今日は古くからある血圧の薬で、
記憶機能が改善する可能性がある、
という最新の知見についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

ごぶりん

実験データーで、サルの脳に直接…という記述があるのは、投与方法が内服ではないということなんでしょうか?
また、評価方法(グラフではfiring rateとありますが・・・。)も気になります。

作業記憶障害は、出来れば薬に頼らず、物理的な方法で治したいです。
by ごぶりん (2011-10-13 22:28) 

katz

おはようございます。
最近のこどもの軽度発達障害には前頭葉機能の障害が大きいと指摘される先生もおられるので、治療に結びつくといいですね。
by katz (2011-10-14 08:36) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
これは結構画期的ではないかと、
僕は思います。
個人輸入をしようかと考慮中です。
by fujiki (2011-10-14 13:12) 

fujiki

katz
コメントありがとうございます。
病状によっては有効性があるようですが、
その選択が難しいのが悩ましいところだと思います。
by fujiki (2011-10-14 13:13) 

m.m.

小児期ADHDの治療薬「インチュニブ」として製造販売承認されましたね。
by m.m. (2017-04-04 19:24) 

fujiki

m.m.さんへ
昔売っていた安い降圧剤が、
姿を変えて再登場するのですから、
複雑な思いがします。
認知症の初期には良いのではないかと、
個人的には思います。
by fujiki (2017-04-04 21:48) 

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