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重症薬疹を起こし易い体質とその予測の可能性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

昨日は3枚書きました。

それでは今日の話題です。

今日は薬の重症の副作用が、
予測出来るのか、
という話です。

薬の副作用で身体に湿疹の出ることがあるのは、
皆さんも良くご存知のことと思います。

湿疹の原因として、
非常にポピュラーなのが、
抗生物質の代表である、
ペニシリンの副作用の湿疹です。

ハリソン内科学によると、
概ね100人に1人の患者さんに、
ペニシリンによる湿疹が現われる、
と書かれています。

この湿疹は麻疹のような湿疹の場合と、
蕁麻疹のような湿疹の場合の両方があり、
内服後比較的速やかに現われます。
そして、麻疹ではないか、
などと誤診することがなければ、
薬を中止することにより、
比較的速やかに改善します。

つまり通常は早期の診断に誤りがなければ、
重症化することは稀です。
勿論一度ペニシリンで湿疹の出た患者さんは、
二度は使わないことは必須ですが、
ペニシリンは湿疹やアレルギーが出易いので、
効果の劣る他の抗生物質を使おう、
というような考えは、
基本的には誤りだと思います。

問題になるのは、
時に命に関わり、後遺症を残すことも稀ではない、
重症の薬疹が存在する、ということです。

そして、そうした重症の薬疹は、
ペニシリンでも稀ですが起こる可能性があるのです。

重症の薬疹の代表が、
Stevens-Johnson 症候群です。
この薬疹は原因となる薬剤が使用されてから、
概ね2週間以内に、
発熱と共に水疱を伴う重症の湿疹が出現します。
口の中や唇、肛門の周囲や目の周りなど、
皮膚と粘膜との移行部に、
水疱や出血が現われるのが特徴です。

目は真っ赤に腫れ、口の周りは爛れますが、
それを薬の副作用ではなく、
ヘルペスや麻疹のような、
ウイルス感染と誤診して、
原因の薬剤を中止しないと、
病状は更に悪化します。

この病気のより重症なタイプは、
全身の皮膚が水疱化して、
表皮が壊死して剥がれ、
酷い火傷のような状態になるもので、
これを中毒表皮壊死症(TEN )と呼んでいます。
以前は別の病気という捉え方がありましたが、
現在ではStevens-Johnson 症候群の重症型と捉えるのが、
一般的です。
治療が遅れると現在でも2割以上が死に至るという、
非常に怖い病気です。

Stevens-Johnson 症候群というのは、
端的に言えば薬による全身の火傷です。
(厳密には薬以外の原因による、
同様の症状が存在しますが、
この項では薬の副作用に限った話とします)
症状は薬の中止とステロイドを主体とする治療で改善しても、
皮膚や肝機能障害などの後遺症を残すことが稀ではなく、
中でも主に角膜の障害による目の後遺症は、
有効な治療が確立されておらず、
失明に至ることもある深刻な問題です。

ところで…

こういう考え方があります。

ある抗痙攣剤は、
Stevens-Johnson 症候群を起こし易い薬剤として知られています。
ある精神科の専門医は、
「この薬は薬疹の頻度が高いが、
通常より少量から開始し、
徐々に増量すれば副作用を回避することが出来る」
というニュアンスの説明をしていました。
彼はその使用法で薬剤を使用している範囲においては、
重症の薬疹を経験したことはないそうです。

皆さんはこの考え方をどう思われますか?

ある種の薬疹においては、
確かに薬の量が増えれば、
それだけ副作用の頻度は増えるでしょう。
薬疹というのは、
薬剤が関わるアレルギー反応の一種ですから、
その抗原の量が少なければ、
アレルギー反応が起こり難い、
ということは当然想定はされます。

しかし、たとえば通常の半分の量でペニシリンを使用しても、
それで薬疹が回避される、
ということはない筈です。

更にはStevens-Johnson 症候群のような重症の薬疹が、
少量で使用すれば軽症の薬疹で終わる、
などということがあるでしょうか?

それはないのです。

何故ないかと言えば、
通常の蕁麻疹のような薬疹と、
Stevens-Johnson 症候群のような重症の薬疹とは、
そもそもその起こるメカニズムが違うからです。

薬疹というのは単一の現象ではないのです。
重症の薬疹にはその特有のメカニズムがあり、
ある薬を少量使えば軽い薬疹が出て、
大量に使えば重症の薬疹になる、
というようなものではありません。

従って、重症の薬疹の兆候があれば、
速やかに原因と考えられる薬剤を中止するのが、
唯一無二の対処法であって、
少量から薬剤を開始すれば、
それで必ず回避出来る、
という性質のものではありません。
当該の医師が重症の薬疹に遭遇していないのは、
「たまたま」であって、
その使用法が優れているからではないのです。

それではStevens-Johnson 症候群の起こるメカニズムは、
一体どのようなものであり、
それを回避する手立てはないのでしょうか?

Stevens-Johnson 症候群は、
全身に火傷のような変化が現われ、
目などに後遺症を残す重症の薬剤の副作用です。

この現象の本態は、
皮膚の表面、すなわち表皮の細胞が障害され、
壊死することです。

薬が何故、皮膚を壊死させるのでしょうか?

それは身体の免疫が、
自分の皮膚を攻撃するためと考えられています。

その攻撃の主体は、
細胞障害性T細胞、と言われるリンパ球です。

細胞障害性T細胞は、
細菌やウイルスなど、
身体を攻撃する外敵を、
退治する役割を持つ細胞の筈です。

その正義の味方の筈の細胞が、
何故か自分の身体の皮膚を攻撃し、
壊死させてしまうのです。

何故こんなことが起こるのでしょうか?

現時点ではっきりと分かっていることは、
特定のT細胞が、
自分の表皮に対する障害性を獲得している、
ということだけです。
それも、非常に強力な障害性です。

今想定されているメカニズムの1つはこうです。

薬疹を起こす薬というのは、
単独では抗原になるほどの大きさはないのです。
それが、自分の表皮の細胞から出てくる、
ケラチンなどの蛋白質と結合します。
すると、表皮の自己抗原と薬との複合体が、
身体にとって異物として認識され、
それがその異物を攻撃することに特化した、
細胞障害性T細胞を増殖させるのです。
つまり、薬が自前の蛋白質にくっつくことで、
それが「非自己」と認識され、
攻撃が始まる、というメカニズムです。

このメカニズムは所謂「接触皮膚炎」と呼ばれているものと、
基本的には同一です。
いかし、それでは何故、
通常の接触皮膚炎より遥かに強力な反応が、
しかも全身に起こるのだろうか、
という疑問が生じます。

そこで一方では、T細胞の受容体など、
表皮抗原とは別の部位に、
薬品の成分が結合して、
T細胞の働きを狂わせるのではないか、
というような意見もあります。

ただ、この場合は今度は、
何故そうした狂ったT細胞が、
表皮の細胞のみを攻撃するのだろうか、
という疑問が生じる訳です。

最近の研究では、
制御系T細胞と呼ばれる別個のリンパ球が、
通常は細胞障害性T細胞の暴走を、
抑える働きをしているのですが、
その機能が低下するような状況が、
何らかの形で生じると、
こうした病態が起こるのではないかと考えられています。

つまり、予め細胞障害性T細胞が、
暴走し易いような環境のあるところに、
引き金となる薬剤が使用されると、
こうした重症の薬疹を生じるのだと、
思われるのです。

それでは、Stevens-Johnson 症候群を、
起こし易い体質というものが、
存在するのでしょうか?

HLA(ヒト白血球抗原)は、
主要組織適合抗原とも呼ばれるように、
自己と非自己の鑑別に、
重要な役割を果たしています。
このHLAには多くのタイプがあり、
そのタイプが一致すると、
臓器移植の定着率が高いことは、
皆さんもよくご存知だと思います。

2004年に台湾の研究者の手によって、
ちょっとびっくりするような論文が発表されました。

カルバマゼピン(商品名テグレトールなど)は、
Stevens-Johnson 症候群を起こし易い薬剤として知られています。

この症状を起こした44例の患者さんのHLAを解析したところ、
全例で特定のタイプのHLAが検出され、
その薬剤を飲んでも問題のなかった人では、
殆ど検出されなかった、というのです。
これはHLA-B*1502 というタイプのものです。
その後事例は2006年までに60例に増え、
そのうちの59例が同じHLAタイプの陽性者でした。
これが仮に副作用と直結しているものだとすれば、
予めこのタイプのHLAがないかを調べた上で薬を使用すれば、
深刻な薬疹の副作用を怖れながら薬を使う必要がなくなり、
かつ深刻な副作用に苦しむような患者さんがいなくなるのですから、
これは素晴らしい発見だと言えます。

ところが…

ヨーロッパと日本で行なわれた同様の検討では、
2004年の論文と同じ結果は出ませんでした。

つまり、当該論文が全くのでっち上げ、
ということはないと思いますが、
どういう集団を対象にするかによって、
その結果は異なるものになることは確実で、
「重症薬疹を起こす体質」は、
ある薬剤とHLAのタイプが、
1対1で対応する、というような、
単純なものではないようです。

僕の手元にある2010年9月投稿の文献では、
カルバマゼピン使用後に生じた、
日本人の重症薬疹の患者さん7例のうち、
HLA-B*1502 の陽性者は1人も存在しませんでした。
元の論文は漢民族を対象としたものですが、
日本人ではこのタイプのHLAの陽性頻度は極めて低く、
マーカーとして有効な可能性は、
どうもあまり高くはなさそうです。

同様のHLAのタイプと重症薬疹との関連では、
アロプリノールという尿酸低下剤による薬疹と、
HLA-B*5801 と重症薬疹の発症との関連性が、
別個に指摘されています。
これも最初の報告は海外で、
漢民族との関連性が最も高く、
白人でも漢民族ほどではないものの、
同様の傾向は認められています。
日本人での検討においては、
矢張り上記の論文において、
アロプリノール使用後の重症薬疹10例中、
同じHLAの陽性者は4名でした。
ただ、通常日本人における陽性率は0.6%程度なので、
これは有意に高い確率なのです。

現時点でもHIV感染症の治療薬など、
一部の薬剤については、
より薬疹と特定のHLAとの結び付きが強いことがわかっていて、
予めHLAのタイプを調べて、
副作用を減少させられることが確認されています。
しかし、それはまだ非常に限定的な使用であり、
一方でカルバマゼピン(商品名テグレトールなど)や、
アロプリノール(商品名ザイロリックなど)が、
非常に多く処方されている現状を考えると、
もっと迅速な予防のための措置が、
取られる必要があるのでは、
と思わざるを得ません。

重症の薬疹は、
その頻度は少なくとも、
薬というものに対する信頼を根底から揺るがせる、
深刻な問題で、
特に発症頻度の多い薬剤についての、
発症リスクの高い患者さんを予め推測するような研究は、
何にもまして優先的に研究すべき課題ではないかと、
僕には思えてならないのです。

今日は重症薬疹のメカニズムについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

ゆうな

 いつも、大変参考になる記事をありがとうございます。

 実は、私の家人が、以前同様の症状を起こしました。幸い、大事には至らず、ステロイドの内服治療で、快癒しましたが、持病があるため、全ての薬剤を中止することができない状態です。
 本人は、もう治っていると考えているらしく、薬を服用することに不安感を抱いていません。
 私としては、やはり、同様の症状がいつ再発するかもしれないと思いつつも、本人がとにかく頑固で、気をつけるよう言われることに不快感を強く示しますので、こちらが注意して見守っているしかないのが現状です。

 今日、先生の御意見を拝読しまして、血液検査で、もしかしたら、薬剤の危険性を予め確認することができるかもしれないという知識を得ることができました。
 確実ではないにしても、全く何も考えずに服薬するよりは、安心感が得られます。

 今後、以上の事を踏まえて、家人に接していきたいと思っています。

 本当にいつも、先生の御指示下さる記事に感謝しています。
 どうか、お体だけはお大事にして頂いて、これからも、私達に御教示下さいます様、お願い申し上げます。

                      ゆうな拝
by ゆうな (2011-09-30 09:27) 

sunnyside

いつも興味深く読ませていただいています。ありがとうございます。
わたしはペニシリンアレルギーで昔たびたび薬疹が出て
(伝えてあっても処方された)
現在病院にかかる時薬についてしつこく、相手を信用していない態度なくらいで臨むので嫌な患者だと思われていることでしょう。
質問してもいいでしょうか。
一般的に薬を飲んでいるときは何ともなくて飲み止めてから1週間、2週間してから薬疹が出たりすることはありますか?

これからも愛読させていただきます。
by sunnyside (2011-09-30 12:11) 

fujiki

ゆうなさんへ
コメントありがとうございます。
副作用によっては、
特定の薬剤にほぼ限定されているものもあるので、
その辺りのご判断が重要ではないかと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-10-01 08:16) 

fujiki

sunnyside さんへ
コメントありがとうございます。
それは皆無ではありませんが、
純粋に薬剤による副作用であれば、
内服中より体調不良のあるのが、
一般的だと思います。
たとえば薬の影響により、
皮膚炎の一種の準備状態となり、
それが他の刺激やウイルス感染などにより、
顕在化する、という可能性はあります。
by fujiki (2011-10-01 08:19) 

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