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慢性呼吸器疾患の抗生物質長期療法について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ジスロマックのCOLD増悪予防効果.jpg
肺気腫に代表される、
慢性の呼吸器疾患に対して、
1年間アジスロマイシン(商品名ジスロマック)を、
連日使用したところ、
使用しなかった患者さんに対して、
その肺の状態の急性増悪の発症回数が、
1年当たり27%有意に低下した、
という論文です。
New England Journal of Medicine誌の、
今月号に掲載されました。

長期間の喫煙が、
肺気腫などの肺の慢性の病気の原因となることは、
よく知られているところです。

一旦ある程度病状が進行してしまうと、
元の肺の状態に戻すような治療は、
残念ながら存在しません。

特に日常の生活でも息切れがして、
酸素の吸入が必要になるような状態になると、
急性増悪と言って、
そうした患者さんの呼吸の状態が急激に悪化することと、
肺癌の併発とが大きな問題になります。

一旦進行した肺気腫の患者さんが急性増悪を来たすと、
その後1ヶ月以内の死亡率は、
26%に及ぶ、という海外の報告もあります。

急性増悪の要因は、
その全てが分かっている訳ではありませんが、
細菌感染症の併発が、
その大きな要因の1つであることは、
間違いがありません。

そこで抗生物質を使用することで、
肺気腫の患者さんの急性増悪が、
予防出来るのではないか、
という考えが生まれました。

細菌性の肺炎や気管支炎を併発した時に、
抗生物質を使用するのは、
その治療のためには勿論必要なことですが、
この場合はいつ起こるか分からない、
急性増悪の予防のためなので、
ある程度の期間継続的に抗生物質を使用するのです。

これまでにそうした試みが幾つか行なわれましたが、
あまり明確に効果を示したものはありませんでした。

2008年に100名余の肺気腫の患者さんを対象として、
エリスロマイシンという抗生物質を、
1日500mgという少量で1年間持続して検討した、
という研究があり、
これによるとその期間の急性増悪を、
有意に35%低下させています。

エリスロマイシンを少量持続で使用する、
というのは日本人の臨床家が始めた方法で、
当初はび慢性汎細気管支炎という、
アジアに多いやや特殊な病気にのみ、
有効性が認められたものでしたが、
その後多くの気道の慢性疾患に、
その効果が試みられた、
という経緯があります。

日本でも肺気腫の急性増悪の予防に、
エリスロマイシンを使用した研究がありますが、
盲検法でないなど、
その試験の精度に問題があって、
海外の同様の報告ほど評価はされていません。

今回の論文は、
エリスロマイシンと同じ、
マクロライド系のより新しい抗生物質である、
アジスロマイシンを使用し、
トータル1000例を超える肺気腫の患者さんを、
くじ引きで2つの群に分けて、
1年間の抗生物質の使用で、
両群の急性増悪の頻度などを検証したものです。

アジスロマイシン使用群では、
1年間の急性増悪が57%の患者さんに認められたのに対して、
未使用群では68%の患者さんに認められ、
1年当たりの急性増悪の発生回数が、
アジスロマイシン使用群の方が、
27%有意に低下した、
という結果が得られました。

アジスロマイシンの使用量は、
1日250mgで毎日の服用です。

この薬は日本では急性の感染症の場合、
500mgを3日間、というのが基本的な使用法で、
非定型抗酸菌症や結核の治療のために、
1日500~600mgが比較的長期間使用されることもあります。

要するに通常の感染症に使用する量の半分程度の量を、
毎日1年間使用する、ということになります。

今回の研究のポイントは、
症例数がこれまでの研究よりずっと多い、
ということと、
吸入ステロイドや吸入の抗コリン剤、交感神経刺激剤など、
通常の肺気腫の治療は既に行なっている、
比較的重症の患者さんを、
対象としたことにあります。

従って今回急性増悪が27%有意に低下したのは、
抗生物質の長期使用の、
上乗せ効果が確認された、
ということになるのです。

それでは、抗生物質の連用に、
何か問題はないのでしょうか?

アジスロマイシンの使用で、
問題になる副作用の1つは、
QT延長と呼ばれる心電図変化を起こし、
それが重症の不整脈の原因となることがあることです。

そこで今回の研究では、
安静時の脈拍数が100を超える人と、
QT時間に心電図で延長傾向のある人は、
除外されています。

そのため、心疾患や不整脈の発生では、
特に問題は見られませんでした。

ただ、抗生物質を使用した患者さんの5%に、
使用前と比較して、
聴力の低下が認められています。

もう1つ問題になるのは、
長期間抗生物質を使用することによる、
耐性化の問題です。

今回の研究においては、
その全例ではなく、
使用前後の比較のないものもあるので、
不充分な検討ではありますが、
咽喉や鼻腔の細菌培養を行ない、
治療による耐性菌の増加の有無をチェックしています。

その結果、
抗生物質を使用した事例の方が、
ほぼ2倍の耐性菌の増加を認めました。
耐性菌の検出率は抗生物質使用患者さんでは、
8割を超えています。

つまり、長期間抗生物質を使用すれば、
当然その抗生物質の効かない菌が、
身体の中で増加する、
という現象が起こるのです。

ただ、マクロライド系の抗生物質には、
抗菌作用以外に、
抗炎症作用や免疫系の調節作用が、
存在すると考えられていて、
そのために耐性菌自体は増えても、
肺気腫の患者さんの急性増悪には、
結び付かないのではないか、
というのが、
今回の論文の著者の推論です。

今回の結果をどのように考えれば良いでしょうか?

急性増悪の生じ易いと考えられる、
肺気腫の患者さんで、
心機能低下や心電図変化の見られない方では、
まず通常の吸入ステロイドや吸入抗コリン剤の使用を行なった上で、
状況によってはジスロマックの1日250mgの使用を、
1年程度継続することに、
急性増悪を予防する効果が期待出来ます。

ただ、聴力低下の副作用が、
5%の患者さんでは発症し、
その影響は不明ですが、
8割の患者さんではその抗生物質への、
耐性菌が出現します。
仮にその耐性菌が肺炎などの原因となった場合には、
その治療は困難なものになる可能性があります。
また、その1年を超える使用についての効果は、
未知数です。

現状日本ではアジスロマイシンの長期の使用は、
保険診療では困難なので、
その代用としては、
エリスロマイシンの400~600mg程度の使用が、
考えられますが、
それが本当に同様の効果がある治療であるかについては、
主により症例数が少なく、
その研究のデザインの信頼性にも劣る、
日本の臨床研究のデータを、
信用するしかありません。

いずれにしても、
抗生物質の長期間の予防的な使用というのは、
有効性のある程度期待出来る反面、
有害な事象も充分想定出来る治療法なので、
その治療法の選択には、
充分慎重な検討が、
必要なのではないかと思います。

今日はは肺気腫の抗生物質治療の、
最新の知見の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

hiro

いつも先生のブログ読み参考にさせて戴いています。
ジスロマックのこと、肺気腫ではありませんが私は歯科医院で歯周病の治療に処方されました。最近では歯科で使用されることも多いようです。500mgを3日間飲むと7日効果が持続するとのことでしたが、
私の場合1回飲んだらひどい下痢に襲われ一日で断念しました。
1日でも効いたのか、歯磨きの効果出たのか、わかりませんが状態はよくなりました。でも下痢の副作用は困りました。
by hiro (2011-08-29 10:59) 

fujiki

hiro さんへ
コメントありがとうございます。
ジスロマックの下痢は、
結構多い印象はあります。
by fujiki (2011-08-30 08:11) 

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