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CYP2C19の多型とクロピドグレルの効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CYP2C19とクロピドグレル.jpg
最近のBritish Medical Journal 誌に掲載された、
肝臓の代謝酵素の個人差と、
その薬剤に与える影響についての論文です。

チトクロームP450というのは、
肝臓において多くの物質の分解にかかわる、
代謝酵素の総称です。
これには多くの種類があり、
CYPという名称で呼ばれます。
一定の規則によってその1つ1つの名称が振り分けられ、
CYP3A4とか、CYP2C19のように呼ばれます。

この酵素が特に医療上重要性があるのは、
薬の代謝に大きな影響を与えているからです。

殆どの薬剤が、
大なり小なりCYPによる代謝を受けます。

たとえば血を固めにくくする薬のワーファリンは、
CYP2C9 で分解されますが、
このCYPにはその作用の通常より弱い変異遺伝子が、
存在することが分かっています。

この変異遺伝子を持っている人は、
持っていない人に比べると、
ワーファリンが分解され難いので、
同じ量のワーファリンでも、
他の人よりその効きが強くなります。

予めそのことを知っていれば、
そうした人には慎重に、
通常より少量のワーファリンを、
使用するという対応が取れますが、
その情報がないと通常と同じようにワーファリンを使用して、
副作用が起こり易くなる、
という事態も想定されるのです。

こう考えてみると、
CYPの遺伝子に変異があるかどうかの情報は、
お薬を安全に使用する上で、
非常に重要なものである、
ということが分かります。

上記の論文で取り上げられているクロピドグレル(商品名プラビックス)は、
世界的には最も多く使用されている抗血小板剤です。

アスピリンやプレタール、パナルジンと同様に、
血栓傾向のある患者さんに対して、
心筋梗塞や脳卒中の、
主に再発予防の目的で使用されます。

この薬はその物自体は効力がなく、
肝臓の酵素の働きで代謝されることによって、
その薬効を現わす、というタイプの薬です。

その主な代謝酵素は、
CYP2C19 であると考えられています。

このCYP2C19 には*2や*3という、
通常よりその作用が弱い変異が存在することが分かっています。
日本人の場合、
その*2変異遺伝子の出現頻度は、
28.4%というデータがあります。
(メディビック社の資料より引用させて頂きました)
遺伝子は2つが対になっていますから、
2つ共変異遺伝子であれば、
その作用はより弱くなり、
そうした方が日本人の6.8%程度存在すると計算されます。

CYP2C19 が仮に全く機能しないとすれば、
クロピドグレルは活性を持つことが出来ず、
その抗血小板作用も生じることがありません。

つまり、効果があると思って薬を飲んでいても、
実際には薬が活性型にならずに、
何の効果もない人が、
少なからず存在するのではないか、
という可能性があるのです。

2008年以降、
クロピドグレルの血栓症再発予防効果と、
CYP2C19 の変異との関係を、
検討した臨床研究が複数発表されました。

その多くは、
CYP2C19*2 の変異のある患者さんは、
変異を持たない患者さんより、
心筋梗塞の再発や、
閉塞部位に挿入されたステントの閉塞が、
より多く発症した、
というものでした。
2009年までにまとめられた内容によると、
変異のある患者さんでは、
そうではない患者さんに比較して、
1.5~2倍、心筋梗塞の再発やそれに伴う死亡が増加した、
とされています。
特にステントという人工の管の閉塞は、
より関連性が高く、
変異のある患者さんでは3~4倍多い、
と報告されています。

こうした結果を受けて、
2010年にはアメリカのFDAが、
クロピドグレルの使用時には、
CYPの変異の有無をチェックして、
適当な対応を取ることが望ましいとの、
警告文を義務付けています。

ところが…

2010年に発表された大規模臨床研究では、
一転して心臓疾患の経過とCYP2C19 の多型との間には、
明確な相関が得られませんでした。

また、実はクロピドグレルの活性化には、
CYP2C19 ばかりでなく、
CYP3 のタイプの酵素とCYP以外の代謝酵素も、
重要な関与をしている、
というデータも報告されました。

そこで上記の論文では、
これまでの主だった臨床研究を分析し、
トータルに統計処理をした上で、
CYP2C19 の多型と心疾患の予後に、
関連性があるかどうかを検証しています。

その結果、
ステントの閉塞に関しては弱い関連性が認められましたが、
その研究結果は比較的古い小規模なものに限られていて、
そうした点を勘案して分析すると、
その相関自体も消滅してしまいました。
心筋梗塞の再発やそのための死亡等に関しては、
全く関連性は認められませんでした。

この結果の示すものは何でしょうか?

CYP2C19の多型とクロピドグレルの活性化との間に、
関連性のあることは事実です。

ただ、実際には詳細に分析してみると、
クロピドグレルの代謝はCYPのみに依存している訳ではなく、
トータルに見るとその関与は、
それほどのものではなくなるのです。

研究にもトレンドというものがあります。

肝臓の代謝酵素の遺伝子の個人差によって、
薬剤の有効性が変わる、
という知見は非常に衝撃的なものであり、
多くの薬剤について、
その影響が調べられたのは当然のことです。

そこで一旦CYPの多型と心疾患の予後とに関連がある、
という報告が出てしまうと、
その研究自体が不充分なものであっても、
結果が事実としてひとり歩きをしてしまい、
次々と同じような研究結果が乱立するような事態となるのです。

最初の研究はCYP2C19*2 のみを、
それも不充分な検出法で検討したものであったので、
より詳細な検出が可能となり、
他の変異も含めて検討されるようになると、
その結果は自ずと違うものになっていったのです。

しかし、それではCYPの変異を検査することが無意味であるかと言うと、
勿論そんなことはありません。

たとえばワーファリンとCYP多型との関連は明瞭なもので、
その効果も最大10倍という開きがあることが分かっています。

昨今問題になっている新規の抗凝固剤ダビガトラン(プラザキサ)の、
出血による副作用死の事例でも、
ワーファリンの効果が不安定な患者さんでの、
切り替えの事例でリスクが高いことが想定され、
その裏にはCYPの多型の関与が考えられます。

つまり、ある意味CYPの多型を調べておくことは、
特定の薬剤を安全に使用する上では、
必須と思われるのに、
日本ではそうした対応が、
殆ど行われてはおらず、
保険診療上のそうした点への手当もないのです。

こうした点は今後早急に検討されるべき点ではないかと思います。

今日はCYPの多型と薬剤との関連についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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浮釣木

石原先生、いつも先生のブログを興味深く読ませていただいています。
今回のプラビックスとCYP2C19の話はとても良かったです。
実は、長年母が飲んでいたアスピリンをやめて、プラビックスに変更しようと思っていましたが、CYP2C19の多型がプラビックスの活性を低下させてしまうということを知って、使用をためらっていました。
しかし、先生のブログで大規模臨床研究の結果、CYP2C19との関連が否定されたということを知って、決心がつきました。
プラビックスを使ってみようと思います。
ありがとうございます。
by 浮釣木 (2015-01-12 19:15) 

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