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新規分子標的剤「クリゾチニブ」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は現在臨床試験が国内外で進行中の、
新しい抗癌剤の話です。

その名前はクリゾチニブ(crizotinib )。
昨年10月のNew England Journal of Medicine 誌には特集が組まれ、
「癌治療競争の切り札か?」というような解説も付きました。

クリゾチニブとは、
一体どのような薬でしょうか?

2007年に日本の研究者の手によって、
肺癌の検体から、
EML4-ALK 融合遺伝子、という、
一種の癌遺伝子が発見されました。

EML4 とALK とは、
同じ第2染色体上にある別箇の遺伝子なのですが、
この2つが融合して1つになった異常な遺伝子が、
EML4-ALK 融合遺伝子です。
この融合遺伝子は異常な活性を持つ酵素を作り、
それが細胞を癌化させると考えられるのです。

このような遺伝子の変化は、
白血病などではよく知られていましたが、
肺癌のような固形癌では、
この発見が初めてのものです。

また、肺癌の遺伝子変異には、
例のイレッサの標的となったEGFRや、
K-ras などが知られていましたが、
EML4-ALK 融合遺伝子陽性の肺癌は、
タバコを吸わない方の腺癌に多く、
こうした既知の遺伝子変異がないなどの特徴がありました。

つまり、タバコを吸わない方の肺癌の一部は、
EML4-ALK 融合遺伝子が原因となって起こる病気である、
という推測が成り立つ訳です。

その比率は、
非小細胞肺癌の、
2~7%と報告されています。

さて、慢性骨髄性白血病には、
同様の遺伝子変異を示すものがあり、
その異常遺伝子によって作られる酵素活性を、
抑える薬を使用したところ、
劇的な治療効果が得られました。
この薬がグリベックで、
画期的な新薬として注目を集めました。

グリベックはABLチロシンキナーゼという、
酵素の阻害剤ですが、
同じようにALKチロシンキナーゼという酵素の阻害剤を作れば、
グリベックと同じように、
この酵素が発現している肺癌に有効なのではないか、
という考えが成り立ちます。

2007年のEML4-ALK 融合遺伝子の発見以降、
製薬会社は挙ってその阻害剤の開発に、
しのぎを削りました。

そして、その先陣を切って臨床試験が開始されたのが、
ファイザー社のクリゾチニブです。

クリゾチニブは実は、
最初からALK阻害剤として開発された薬ではありません。

METチロシンキナーゼという、
別の酵素の阻害剤として開発されていたのですが、
調べてみると、
ALKチロシンキナーゼの阻害作用が、
あることが明らかになったので、
急遽使用目的をそちらに切り替えたのです。

そうでなければ、
2007年に初めて発見された癌遺伝子を標的とする薬が、
2008年に臨床試験に入れる訳がありません。

臨床試験は当初アメリカとオーストラリア、
そして韓国で行われ、
昨年からは日本でも行われています。

その効果は現時点ではかなり画期的なもので、
昨年の発表によると、
異常遺伝子が陽性で、
(厳密には全ての事例で確定診断されている訳ではありません)
進行した肺癌の患者さんに使用した場合、
82名の患者中1名で腫瘍が完全に消失し、
46人に腫瘍の縮小などの改善が認められました。
平均の観察期間は半年で、
1年以上観察された事例も10例弱含まれています。

副作用は半年から1年程度の使用においては、
吐き気や下痢、視力低下、めまいなど、
比較的重症度の低いものに留まっています。
ただ、吐き気や下痢は使用した患者さんの、
ほぼ半数には見られており、
決して副作用のない薬ではありません。

グリベックやイレッサと同じように、
この薬も内服薬です。

通常手術の適応でない、
進行した非小細胞肺癌の予後は悪いので、
癌自体が治癒はしないにしても、
吐き気程度の副作用で、
日常生活を通常に送ることが出来、
癌の進行が抑えられた状態が、
数年に渡って維持可能だとすれば、
この薬の意義は極めて大きい、
と言って良いと思います。

それでは、
この薬の現時点での問題点は何でしょうか?

まず、EML4-ALK 融合遺伝子が、
この変異陽性の肺癌の病態の本質なのだとすれば、
もっと著効しても良いのでは、
というようにも思えます。

それが達成されない要因の1つは、
昨年10月のNew England…の特集にも、
そうした報告が既にあったように、
癌の側で阻害剤に対して耐性を獲得することがある、
という事実です。
耐性化した癌に対する効果のある薬剤も、
当然作ることは可能ですが、
いたちごっこの様相を呈することになります。
つまり、最初は効いていても、
次第に効かなくなることが、
有り得るのです。

また、酵素の阻害作用が、
充分なものなのか、
と言う点ももう1つの問題です。

最初にお話ししたように、
この薬は元々は他の酵素の阻害剤として開発された薬なので、
その効果は必ずしも特定の酵素の阻害に、
特化したものではないのです。

従って、現在開発中の、
より次世代のALK阻害剤の方が、
もっと強力な効果を示す可能性が考えられます。

つまり、この薬剤はまだ完全形ではないのです。

この薬は所謂分子標的薬で、
副作用で訴訟になっている、
イレッサと似通った部分があります。

ただ、イレッサは、
当初遺伝子の変異などの検査をせずに、
広く使用され、
それが大きな問題の要因になったのですが、
クリゾチニブは遺伝子変異の有無を、
予め確認した上で使用されることが、
ほぼ確実なので、
そうした意味では同じ問題の起こる可能性は、
現時点では低いと思われます。

研究に携わる先生も、
イレッサと同じ轍を踏みたくはない、
という思いは強くお持ちだと思いますので、
その使用は限定的かつ慎重なものになると考えられます。

クリゾチニブは、
肺癌治療において、
ブレイクスルーに成り得る新薬であることは、
ほぼ間違いがありませんが、
その安全性を含めてまだ未知数の部分を多く残しており、
その前途を期待しつつ、
慎重にその経過を注視したいと思います。

それでは今日はこれくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

さすらいの、、、

Ca関係の薬剤が間断なく開発されているのに1950年からのハーファリンの進歩はどうなっているのでしょうか。今春発売と掛け声はなやかなタビガトラン、どうなっているのでしょうか。
by さすらいの、、、 (2011-02-18 11:00) 

シロ

アドバイスありがとうございました!なんとかいけましたが微熱があり食欲がなくてほとんど食べられないので、内科に行ったら胃腸炎といわれました。点滴うっていただきました。来週は抜歯やめて親知らずは虫歯治療でいきたいと思います。
by シロ (2011-02-18 21:57) 

fujiki

さすらいの、、、さんへ
コメントありがとうございます。
それだけワーファリンが優れた薬、
という言い方は出来なくはないと思います。
その欠点を、
ダビガトランがどの程度解消してくれるかは、
現時点ではまだ未知数の部分があると思います。
by fujiki (2011-02-19 08:17) 

タカス ハツコ

尊敬な石原先生:初めまして、私は日中医療通訳士の高須肇子と申します。中国の患者さんからのご依頼がありますか、 クリゾチニブ製剤(販売名:ザーコリカプセル 200mg 及び同カプセル. 250mg )が欲しいです、買いたいですが入手方法を教えて頂きますか?宜しくお願いします。返事をお願いします!高須
by タカス ハツコ (2012-05-24 22:47) 

fujiki

高須さんへ
これは個人輸入のような形は、
おそらく可能だと思いますが、
責任を持ったお答えはしかねます。
薬の性質上、
診療所での処方は出来ません。

どのようなご事情があるかは存ませんので、
何とも言えないのですが、
使用には専門的な判断が不可欠な薬ですので、
専門医の指示の下に、
使用されるのが良いのではないかと思います。
by fujiki (2012-05-25 08:37) 

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