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「クロルタリドン」の死を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理をして、
それから今PCに向かっています。
背中が痛く首は曲がらず、
かなりきつい状態です。

それでは今日の話題です。

高血圧の治療薬のうち、
最も歴史が古く、
かつその有用性を証明するデータの多いのは、
利尿剤、というタイプの薬剤です。

利尿剤は、
その名の通り、
おしっこの量を増やす薬です。

おしっこを増やすことが、
何故血圧を下げることになるのでしょうか?

非常に単純には、
血圧は血管の抵抗と血液の量とを、
掛け合わせたものとして表現されます。

このうち今使用されている多くの降圧剤は、
血管を広げて血管の抵抗を下げることにより、
血圧を下げるタイプの薬剤です。

その一方で、
血液の量を減らすことにより、
血圧を下げる効果を持っているのが、
所謂利尿剤なのです。

厳密に言えば、
現在使用されている降圧目的の利尿剤は、
水分よりも余分な塩分を、
身体の外に排泄するのが、
その主な役割です。

高血圧になり易い体質の人というのは、
塩分を身体に貯留し易いことが多いのです。
塩分が身体に溜まると、
何故血圧が上がるのか、というメカニズムも、
厳密には解明されていない部分があるのですが、
ここではそのことには触れません。
塩分が溜まると血圧が上がるのだ、
と取り敢えずは簡単にお考え下さい。

利尿剤の発見は、
そもそもは偶然の産物でした。

サルファ剤という抗菌剤を使用すると、
おしっこが沢山出て腹水が改善しました。
これが炭酸脱水酵素という酵素を、
腎臓の尿細管で阻害するためであることが明らかになり、
そうした酵素の阻害作用を強めた薬として、
作られたのがアセタゾラミドです。
1950年のことでした。

この薬は今でも現役で使われています。
商品名はダイアモックスなどです。
ただ、この薬の利尿作用は、
強力な上にナトリウムのみを排泄する形で行なわれるので、
身体はアルカリを排泄して酸性になります。

従って、通常は副作用が強いので使用はされず、
緑内障の発作時など、
特殊なケースでのみ、
短期間使用されています。

その後1950年代の後半に、
クロロチアジドという薬が開発されました。
これがサイアザイド系利尿剤と呼ばれる、
一連の薬の始まりです。

この薬はそれ以前の炭酸脱水酵素阻害剤の構造を変え、
ナトリウムだけでなく、
クロールも排泄されるようにしたものです。
このことによりおしっこは増えても、
血液が酸性になることはないのです。

この系統の薬には、
ヒドロクロロチアジド(現在単剤の使用は困難)や、
トリクロルメチアジド(商品名フルイトランなど)
などがあります。

この薬から派生した薬として、
クロルタリドン(商品名ハイグロトン)があります。
サイアザイド系の利尿剤は、
カリウムも排泄するため、
血液のカリウムの下がる副作用がありますが、
この薬は大量の使用でなければ、
動物実験でもカリウムの喪失は認められていません。
また、その効果持続時間が、
48時間と極めて長く、
降圧剤として使用した場合に、
その効果が安定している、
という利点があるのです。

その後更に強力な利尿剤である、
ループ利尿剤が開発されました。
その代表はフロセミド(商品名ラシックスなど)で、
現在でも心不全や肝硬変、腎不全など、
多くの身体に水や塩分が貯留する病気の治療に、
使われています。

ただ、この薬は利尿作用が強く、
その効果の持続は短いので、
降圧剤としては不適当だったのです。

サイアザイド系の利尿剤は、
最初の効果的な降圧剤として、
世界で幅広く使われました。

しかし、その後血管を広げるタイプの、
強力な降圧剤が相次いで開発されたため、
特に新薬を有難がる日本では、
その使用は徐々に減少し、
一時は忘れられた薬となっていました。

そして…

ここでちょっと内輪の自慢話なのですが、
1980年代の終わり頃に、
所属していた大学の医局の先輩が、
多くの高血圧の患者さんの10年以上の経過を分析したところ、
その心肥大の抑制効果や降圧効果において、
サイアザイド系の利尿剤が、
最も有効性があったことを、
まとめて論文として発表しました。

しかし、当時はあまりこうした研究は、
注目を集めるものではなかったのです。

風向きが大きく変わったのは、
2002年のことです。

ALLHAT 試験と呼ばれる、
4万人以上を対象とした大規模な臨床試験が、
アメリカを中心に行なわれ、
その結果として、
サイアザイド系の利尿剤は、
他のより高価で新しい降圧剤と同等の、
心筋梗塞予防効果が得られたのです。
部分的な解析では、
他剤より更に優れた効果が得られたケースもありました。

日本でもサイアザイド系の利尿剤の再評価の気運が高まり、
サイアザイド系利尿剤と他の新しい降圧剤との合剤が、
一時期鳴り物入りで多く発売されました。

この抱き合わせ販売には、
幾つかの問題点があります。

利尿剤は発売から時間が経っているため、
非常に安価な薬で、
製薬会社にはあまり使うメリットがありません。
従って、単剤ではなく、
より高価な降圧剤と抱き合わせの形で、
使用するような形を取ったのです。

ただ、本来はまず単剤の効果を検討するべきで、
最初から合剤ありきの姿勢は、
何処か歪んだものではないかと思います。

更には利尿剤再評価のきっかけとなった、
ALLHAT 試験では、
使用されている利尿剤はクロルタリドンです。

しかし、日本で発売されている合剤に含まれているのは、
それとは違うヒドロクロロチアジドです。

最初に説明しましたように、
クロルタリドンはその持続時間の長さに特徴があります。
従ってその効果もヒドロクロロチアジドとは違うのです。

しかし、その結果が同種の利尿剤全体に、
強引に根拠なく拡大され、
ごく一部の薬剤を除いて、
単剤の利尿剤は、
次々とその製造が中止となっています。

こちらをご覧下さい。
クロルタリドン.jpg
海外の臨床試験で、
その有用性の認められた降圧利尿剤、
クロルタリドンが、
もう使用出来なくなる、
という製薬会社からのお知らせです。

皆さんは当然この薬にはジェネリックがあると、
思われるかも知れませんが、
そんなものはありません。

本来ならこうした、
有用性があるのに安くて採算の取れない薬こそ、
ジェネリックの出番だと思いますが、
実は必要性があってもジェネリックもなく、
存在が消滅してしまう薬は、
多く存在するのです。
要するに採算性の悪い薬は、
ジェネリックの企業にとっても嫌だからです。
単純に発売から時間が経てば、
そのまま薬価を下げてゆく、
という機械的な方針の弊害がここにあります。
古い良い薬が使えなくなるのです。
そしてそのことを、
行政も御用学者の先生も、
平然と見過ごして涼しい顔です。

アメリカで最も評価されている降圧剤が、
日本ではその販売が中止され、
それを行政も認めているのです。

こんな馬鹿な話があるでしょうか?

ジェネリック制度を含めた日本の医療行政の胡散臭さ、
高血圧のご意見番のような御用学者の先生のいかがわしさが、
このこと1つにも現われているように、
僕には思えてならないのです。

今日は世界で評価されている降圧剤が、
日本では使えなくなっている、という話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

アミナカ

私の母も高血圧と狭心症で薬を飲んでいますが、ニトロペンくらいしか何を処方されているか把握していませんでした。先生のブログを読んで改めて何を飲んでいるのか家族が把握しておくことができました。
それにしても、同じ疾患でも男女差や個人差があるのに、有用性のあるお薬の選択肢が減ってしまうのは残念な事ですね。
ジェネリック医薬品の名前もややこしく最初のお薬に敬意をはらって○○1、○○2で…は極端ですが(愚) 実際、ジェネリックでなくても私自身も処方されたお薬と診療明細書の名前が間違っていた事もあります。それに…不謹慎ですが、今日のブログのタイトル、ハードボイルドなミステリー小説みたいな響きです(愚)スミマセン。。
テレビCMで度々耳にする薬と違ってなかなか覚えられません。
先生、お背中お大事に。
by アミナカ (2011-02-07 21:43) 

ゆうのすけ

寒いせいでしょうか?お身体御自愛くださり お仕事頑張ってくださいね!^^☆
by ゆうのすけ (2011-02-07 22:05) 

fujiki

アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
ジェネリックというのは、
医療費を削減させながら、
医療経済は発展させよう、
というような矛盾した変な色気があるのです。
そしてお役人様にとっては、
薬価制度という悪の仕組みを、
こっそり守るためのカモフラージュなのです。
大々的にCMを打ち、
芸能人に払う巨額のお金があるのなら、
その分を節約に廻すべきです。
医療費削減なのに、
薬の種類が増えるのは、
ナンセンスの極みです。
しかし、そんなことを言っても、
ジェネリックという言葉は、
既に言霊になっているので、
ひれ伏して従うしかないのです。

背中と首はまだ治りません。
by fujiki (2011-02-08 08:21) 

fujiki

ゆうのすけさんへ
コメントありがとうございます。
早く痛みが取れるといいのですが…
by fujiki (2011-02-08 08:21) 

アミナカ

私の場合、
金融関係のCMに芸能人が出演しているのも違和感を感じてしまいます。
これも仕方ない事なのかもしれませんが。
安易に安心を植え付けるような…
何度も愚痴っぽいコメント失礼しました。
背中と首、お辛そうですね。
痛みが早く軽減されますように。
by アミナカ (2011-02-08 14:36) 

山口

ただの患者ですが、クロルタリドンの販売中止理由を調べていて、先生の説明でよく解りました。更に、利尿剤の歴史や、日本の変な事情も勉強になりました。ありがとうございます。
by 山口 (2019-01-02 22:22) 

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