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続・リラグルチド問題を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は一昨日に続いて、
糖尿病の新薬、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)の、
深刻な副作用報告の話です。

一昨日の記事をお読みでない方は、
まずこちらからお読み下さい。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2010-10-12

よろしいでしょうか?

それでは話を進めます。

糖尿病の新しい注射薬リラグルチドは、
膵臓の機能を回復させる効果が動物実験で期待され、
鳴り物入りで今年の6月に発売されました。

ところが、その使用開始後、
ほんの4ヶ月の間に、
投与翌日に患者さんが糖尿病ケトアシドーシスの状態となり、
患者さんが死亡するという事例が2例も報告されました。
糖尿病ケトアシドーシスの事例は、
死亡例以外にも2例が報告されています。
また、重症の高血糖の事例も、
別個に16例報告されました。
血糖を改善する筈の薬を開始したら、
重症の高血糖の合併症が起こって亡くなった方もいた、
というのですから、
これは非常に深刻な事態です。
(以上の報告は10月12日時点のものです)

糖尿病性ケトアシドーシスというのは、
極度のインスリンの欠乏状態のために、
身体の代謝のバランスが急激に崩れ、
そのまま治療をしなければ、
ほぼ確実に死に至る、
糖尿病の重症な状態のことです。

患者さんは感染などのストレスや、
糖尿病の治療の中断を誘因とし、
急性のインスリン欠乏状態に陥ります。
すると、血糖を上げるホルモンである、
グルカゴンやステロイド、カテコールアミンが、
相対的に過剰な状態になります。
ストレスはそれ自体、
カテコールアミンやステロイドを上昇させますから、
ストレス状態はそれだけで、
糖尿病の患者さんではケトアシドーシスのリスクになるのです。

インスリンと他のストレスホルモンとのバランスが崩れると、
細胞はブドウ糖を利用出来なくなり、
このため肝臓は身体が飢餓状態にあると判断して、
脂肪酸を分解します。
大量の脂肪酸が分解されると、
ケト酸という酸が血液に流れ込み、
これが血液を酸性にします。

糖尿病のない人でも、
たとえば脂肪だけの食事をして、
その後激しい運動をすると、
エネルギーが必要なのにブドウ糖が足りないので、
同様のことが起こって体調を崩す可能性があります。

このようにして血液が高度の酸性になると、
脳の働きが強く抑制されるために、
昏睡状態となり、呼吸は停止し、
遂には死に至るのです。

インスリンが注射薬として治療に使われるようになるまでは、
このケトアシドーシスが、
糖尿病で亡くなる原因のトップでした。

しかし、現在では糖尿病の治療が進歩したために、
ケトアシドーシスで亡くなる患者さんは、
ゼロではありませんが、
治療の中断や全身状態の悪化など、
特定の場合以外には、
極めて稀になって来ています。

ところが…

今回の事例は2例とも糖尿病の治療中で、
インスリンの治療を行なっており、
それを一旦中止してリラグルチドに変更したところ、
その翌日にケトアシドーシスを来たしその後亡くなられた、
と言うのです。

それ以外に重症の高血糖の事例が、
18例報告されていますが、
そのうちの15例もそうしたインスリン注射からの変更でした。

日本糖尿病協会の声明によれば、
臨床試験でこうした事例は1例もなく、
専門医でない医者が、
本来使用すべきでない患者さんに、
薬を使用したために起こった事態だ、
という解釈をしています。

この薬は本来、
糖尿病の治療を開始する患者さんや、
経口糖尿病剤を使用していたような患者さんが、
その代わりに使用する薬剤、
というような位置付けで添付文書は記載されています。

それでは、
インスリンの治療を行なっていた患者さんが、
インスリンを中止して、
他の薬剤に変更することは有り得るでしょうか?

これまでも、インスリン治療で血糖が改善した患者さんを、
退院時にSU剤に変更する、
ということはしばしば行われる治療行為です。
身体からのインスリンがある程度出ている患者さんであれば、
それでケトアシドーシスになることは、
まあ通常はありません。
勿論患者さんの全身状態が良く、
インスリンの量も10単位程度でコントロール出来ていることが、
そもそもの要件です。

たとえば僕のかかわっている老人ホームでは、
入院中はインスリンを使用しているご高齢の患者さんが、
老人ホームの入所にはインスリン注射をしていたら難しい
(実際にはそうではないですが)
と見做されると、
退院直前に慌ててSU剤に変更し、
そのままホームに入所されることなどは、
よくあることです。

そうした病院は糖尿病の専門医のいる施設ですが、
別に慎重に様子を見る姿勢などはなく、
「はい、飲み薬に変更しましたから、
いつでも退院出来ますよ。じゃ、明日退院ですね」
というような具合です。

本来はこうしたケースでも、
ケトアシドーシスの危険はあるのです。
従って、1週間程度は慎重に様子を見るべきだと、
僕は思いますが、
そんな慎重な姿勢を見せる主治医は滅多にいません。

ただ、今回死亡事例として報告された2例を読むと、
そうしたこれまでの一般的な切り替えとは、
全く次元の違う深刻さを持つものだと思わざるを得ません。

以下、簡単にその内容をご説明します。

1人目の方は透析をされている60代の糖尿病の患者さんです。
12年前からインスリン治療を開始とし、
1日トータル26単位のインスリンを使用していました。

ところが、ある日透析後にインスリンが一切中止され、
リラグリチドの開始量(維持量の3分の1)が、
その代わりに使用開始となったのです。

その翌日に状態は悪化し、
糖尿病性ケトアシドーシスにて救急搬送。
搬送時の血糖値は1450mg/dl です。
その後肺炎を併発し、入院4日後に死亡されています。

この方の事例は、
個別に今後問題になる可能性もあり、
軽率な発言は出来ませんが、
リラグリチドは飲み薬のオイグルコンの少量と、
血糖の降下作用に関してのみ言えば、
同等の作用しかないのですから、
1日26単位のインスリンが必要な方が、
それを全て切ってオイグルコンの少量に、
スイッチするのと同じと考えると、
僕にはこの主治医の感覚が、
正直全く理解が出来ません。

世の中には恐ろしいこともあるものです。

2人目の方も60代の男性で血糖コントロール目的で入院中でした。

数種類の飲み薬と共に、
インスリンが1日48単位(!)使用されていたのですが、
そのインスリンを一気に中止し、
代わりにリラグリチドの初期量が投与されたのです。

その翌日に血糖は992mg/dl に上昇し、
嘔吐が出現。
3日後に心肺停止で亡くなられています。

これもまた信じ難い治療です。

インスリンを飲み薬に切り替える場合、
切り替えの時のインスリン量は、
10単位内外かそれ以下とするのが原則です。
幾ら糖尿病の専門でなかったとしても、
それ以上の用量のインスリンを使用していて、
それをリラグルチドに一気にスイッチするような乱暴な医者が、
僕はこの日本に存在するとは信じたくはないのですが、
事例を読む限り実際にそうした処方が行なわれたのであり、
驚いたことにそのうちの1例では、
1日48単位のインスリンが、
一気に中止されています。
(ただ、海外の文献上は同種の薬剤で、
こうした切り替えも事例はあります)

今回の死亡事例は、
通常の副作用報告とは次元の違う深刻さを持つもので、
ある意味全ての臨床医の治療の信頼性を揺るがすものです。

今後より詳細かつ厳密な検証が、
行なわれることを強く希望したいと思います。

現在当該のお薬を使用中の方で、
本記事をお読みになり不安をお感じになった方は、
無断で中止はせず、
必ず主治医にご相談下さい。
もとよりケトアシドーシスのような副作用については、
適切な使用であれば起こる可能性は殆どなく、
死亡例を含む副作用の事例は、
現在公開されている資料を読む限りは、
明らかに不適切な使用法によるものです。
この文章は決してこの薬を使用中の患者さんに、
不安を煽るような意図はありませんので、
どうかその点は誤解のないようにお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
当記事は10月18日加筆変更しました。
当初の記事には、GLP-1アナログ自体が、
危険な薬であるかのような記載があり、
実際にこの薬を使用されている患者さんに対して、
不適切な表現だったことをお詫びします。
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コメント 4

萩野 尚

同様の意見を持って「みみ屋の診察室」に意見を書いたのです。
読売新聞の主催で「糖尿病講演会」の広告があり、
~インスリン治療は怖くない~との講演では、普通の内科医はインスリン治療の知識は皆さん持っているから、安心してこの治療を始めた方が良いとの趣旨です。
私自身耳鼻科医であり、15 年以上最初からインスリンを使っておりまして、内科の先生に常に患者さん皆に出来るだけ早くインスリンを使用するように薦めてきました。でも、内服薬で出来るだけ引っ張るのが、普通です。 A1c が一向に改善されなくても、平気で 8-9 位を続けている専門医が多いのです。
Citroen DS と言う 40 年前の France 車の BLOG が主体です。
by 萩野 尚 (2010-10-14 19:47) 

fujiki

萩野尚さんへ
コメントありがとうございます。
今回のことは、
本当に糖尿病の診療に従事する医者の端くれとしては、
信じたくない思いで一杯です。
by fujiki (2010-10-14 21:13) 

chaibo

糖尿病の診療をしている内科医で、DPP-4阻害剤の作用機序を勘違いしていた医師を僕は数人知っています。
多くはないけど、愚かで雑な医師は確実にいますよ。
「信じたくない」思いはわかりますが、だからといって原因を他に無理やり求めてませんか?
薬剤メーカーの人たちや臨床試験に携わった人たちがこの記事を読まれたらどう思うでしょう?
医師の発言というのは患者サイドからみれば非常に重いので、推測で書かれる場合は十分なご配慮をお願いします。

by chaibo (2010-10-16 09:16) 

fujiki

chaibo さんへ
コメントありがとうございます。
すいません。
読み返すと、憶測の多い、
配慮を欠いた記事だったと思います。
取り急ぎ改稿しました。
まだ不充分な点がありましたら、
ご指摘下さい。
by fujiki (2010-10-17 22:08) 

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