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EBウイルス慢性感染症の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は昨日のEBウイルスの話の続きです。

EBウイルスは通常の生活をしている以上、
罹らないでいることは困難な病原体ですが、
人間は基本的にこの病原体を死滅させることは出来ないので、
この病原体に感染したリンパ球を持ったまま、
その後の人生を送らなければなりません。

通常はこのウイルスはCD21という抗原が陽性の、
Bリンパ球と言う細胞に主に感染します。
そして、これをTリンパ球とNK細胞という細胞が、
押さえ込みます。

ところが…

CD21というマーカーはTリンパ球の一部とNK細胞にも、
部分的に存在します。
つまり、理屈から言うと、
こうした細胞にもEBウイルスの感染が起こり得るのです。

そして、NK細胞やT細胞にEBウイルスが感染して、
その細胞が不死化すると、
身体にとっては恐るべき事態が生じます。

これが慢性活動性EBウイルス感染症、
略してCAEBV です。

診療所で実際に経験した事例ですが、
患者さんは30代の男性です。

ある年の春から、
高熱と咽喉の痛みが持続し、
医者に行くと咽喉の所見から、
「扁桃炎ですね」
と軽く言われるのですが、
抗生物質を使っても、
一向に熱は下がらず、
1ヶ月は症状が持続します。
その後一時症状は改善するのですが、
またしばらくすると、
同様の高熱や咽喉の痛みが現われ、
肝機能の数値も上昇します。
身体はだるく、
仕事は休みがちになります。

何度目かの発熱の時に血液を検査すると、
γグロブリンという抗体の数値が、
異常に低下しており、
また貧血も認められました。
つまり、免疫不全の状態になっていたのです。

それで大学病院の血液内科に紹介し、
慢性活動性EBウイルス感染症の診断が確定しました。

血液のEBウイルスの抗体価のうち、
VCA-IgG 抗体が640倍以上、というのが1つの目安となり、
後は血液のウイルス遺伝子検査や、
骨髄やリンパ節の生検で、
その診断は行なわれます。
ただ、診療所レベルで行なえるのは、
EBウイルスの抗体価の測定までです。

EBウイルスに感染した細胞が、
T細胞かNK細胞かによって、
その症状の出方も違います。

T細胞に感染した場合に最も怖いのは、
「血球貪食症候群」で、
これは増殖したT細胞が、
大量のサイトカインなどの炎症物質を放出するので、
その刺激によりウイルスや感染細胞を食べてしまう働きを持つ、
マクロファージという大型細胞が増殖し、
自分の赤血球や白血球の細胞を、
見境なくバクバク食べてしまうのです。

これにより急激に貧血や血小板の低下が進行し、
血管は壊死した細胞により塞がれ、
DICという状態から、
治療をしなければほぼ確実に死に至ります。

血球貪食症候群の原因は、
ウイルスとしてはEBウイルス感染に伴う事例が最も多く、
また重症化し易いと言われています。

NK細胞にEBウイルスが感染した場合には、
「蚊アレルギー」という、
ちょっと特殊な症状が出現することが知られています。
(これはドラマでも取り上げられていました)

どういうものかと言うと、
蚊に刺された跡が、
大きな水疱になって腫れ上がり、
その後に発熱やリンパ腺の腫れなどの、
EBウイルス初感染に似た症状が続くのです。
時にそれが「血球貪食症候群」に移行することがあります。
水疱の跡は治ると種痘の跡と同じようになります。

この病気は殆ど日本でしか報告されておらず、
その正体は長く謎に包まれていましたが、
1990年に蚊アレルギー患者では、
NK細胞という種類の白血球が異常に増加している、
という知見が得られ、
そこからこの病気がEBウイルスがNK細胞に、
感染したためであることが、
明らかになったのです。
蚊の唾液中の成分に反応するT細胞の反応を、
NK細胞が増強し、そうして増えたT細胞が、
今度はNK細胞に感染したEBウイルスを活性化するのでは、
と考えられていますが、
特定のアレルギーとウイルス感染とが関連している、
というこの病気の事例は、
おそらくは多くのアレルギーの謎を、
解き明かす糸口になるのでは、
と僕には思えます。

現状EBウイルスを退治出来るような薬はありません。

従って、過剰な免疫を抑え込むような治療が、
その中心になります。
ステロイドや一部の分子標的薬、
免疫抑制剤などが使用され、
また、リンパ系の悪性腫瘍と同様に考えて、
複数の抗癌剤を組み合わせた化学療法や、
造血幹細胞移植が試みられることもあります。

この病気の長期経過は、
2006年に日本で纏められた文献によると、
解析された82例中、観察期間中に47例が死亡し、
5年生存率は59%でした。
つまり、予後はあまり良好ではありません。
その死因は肝不全、悪性リンパ腫、血球貪食症候群、
心筋梗塞、消化管出血などとなっています。

ワクチンの開発も進められていますが、
これまでに、リンパ球に感染するような病気に対する、
ワクチンが成功した事例はなく、
あまり安易に期待は持たない方が良さそうです。
EBウイルスを根絶するようなことは不可能なので、
天然痘のような成果は得られないですし、
癌予防のようなワクチンも、
余程慎重に開発し使用しないと、
新たな薬害を生む可能性も高いと思います。

誰でも罹る病気なので、
怖がり過ぎる必要はありませんが、
原因のはっきりしない熱が続く場合などは、
この病気の可能性を考えて検査をする必要性があります。

明日もEBウイルスに関する、
補足的な話をするつもりです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ふみふみ

はじめまして。ロゼレムを検索したくて間違えてロゼラムと入力してしまいこのブログにたどりつき、興味深く拝読しています。
また、質問とかもしたいです。

by ふみふみ (2010-08-25 17:47) 

fujiki

ふみふみさんへ
すいません。
最初の記事では間違えてロゼラムと書いてしまいました。
以前チャンピックスを間違えて、
キャンピックスと書いたら、
その方が検索が多かったことがありました。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-08-25 20:53) 

ペポ

先生のおっしゃているのは、蚊刺過敏症ですか?

息子が蚊に刺されで異常に腫れるので、調べていく
うちに蚊アレルギーと蚊刺過敏症にぶつかり
どうちがうのかなぁと調べてみたことがあります。
(記述される方で違いがあるみたいで、
いまいち、差が分かりにくかったですが・・。)

息子は、手の甲1箇所の蚊刺されで手首から先が紫に変色し
手の厚みが2倍、大きさ1.5倍に膨れ腫れあがります。

発疹や熱は出ないです。
いっぺんに別の部位に十箇所くらい刺されたら、なりそうですけど。

蚊に刺されによる腫れだけでなく、
全身への発疹や発熱症状がでるタイプですよね。
EBウィルスと関係するのは。
by ペポ (2010-09-07 13:33) 

fujiki

ペポさんへ
コメントありがとうございます。
手持ちの文献では、
「蚊アレルギー」と「蚊刺過敏症」は同一のものとして、
記載されています。
通常病的なものは、
ペポさんが言われるように、
発熱やリンパ腺腫脹などの、
全身症状を伴うものを指すのだと思います。
by fujiki (2010-09-08 17:28) 

まさに

家族が似た症状で困っています。
他に風邪症状がないものの飲み込むたびに辛い咽頭痛が続くので抗生剤を出してもらい、一週間で治らずステロイド処方、咽頭痛は治りました。と思うと夜40度前後の熱、昼37度後半、を二週間程繰り返し、血液検査すると白血球1万、CRPは0.7で血小板は若干少なめ、肝臓ast alt両方60以内位(数ヶ月前は正常値)、LDHはギリギリ正常範囲でした。亜急性甲状腺炎ではと言われそれも検査しましたが違いました。数年前から軽度の脾腫あり、症状が胃腸炎でもなく原因不明で、微熱はもう1ヶ月続いていて、辛いです。
先生のみた患者さんもお若いですし色々検索すると若い方がなりやすい病気のようですが、70近くでも慢性活動型EBウィルス感染症はありますか?
咽頭痛は今はないですが、高熱の繰り返しでインフルでもなく他の原因もお医者さんも首をかしげるばかりで。
年明けも熱が下がらず、先生のこの記事の方に似ていて予後が悪いということで恐ろしくなりました。
病院が開いたら受診予定ですが、症状から、白血病、悪性リンパ腫、慢性活動型EBウィルス感染症などが心配です。どういう検査をお願いしたら良いのでしょうか。
by まさに (2018-01-01 16:34) 

まさに

補足です
グロブリンの値はIgG IgM IgAを検査していただきIgAだけが低く基準の下限値の半分しかありませんでした。
(GとMは範囲内)
by まさに (2018-01-01 16:43) 

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