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コレステロールを下げると脳卒中が増えるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先週、こんなニュースがありました。

【脳卒中:高脂血症の人、死亡率半分 〇〇大、4万8000人分析】
コレステロール値が高く「高脂血症」と診断された人は、高脂血症ではない人に比べ、脳卒中で入院した際の死亡率が約半分と低かったとの分析結果を〇〇大医学部教授(医療統計学)らがまとめ、28日発表した。

これはどういうことかと言うと、
「日本脳卒中協会」というところに、
脳卒中で入院した患者さんのデータがあり、
それを解析したところ、
脳卒中の発作後の死亡率が、
コレステロールの高い人の方が低く、
コレステロールの低い人の方が高かった、
というのです。

著者の医学部教授のコメントとして、
「コレステロールは血管の材料になるので、
高いほうが血管の状態が良かったのだろう」
という記載がされています。

皆さんはこの記事の内容をどうお考えになりますか?

「おかしいぞ。俺はコレステロールを下げる薬を飲んでいるが、
その時の医者の説明は、
コレステロールが高いと動脈硬化が進んで、
血がドロドロになり、
詰まり易くなって心筋梗塞や脳梗塞の原因になるので、
それを予防するために薬を飲みましょう、
というものだった筈だ。
でも、この記事ではコレステロールが高い方が、
脳卒中の死亡率は低い、という結果になっている。
どっちかが嘘を吐いているのか、
それとも考え方が変わったのだろうか?」
と混乱される方も多いかも知れません。

今日はその点について、
現時点で分かっていることと、
分かっていないこととを、
僕なりにまとめてみたいと思います。

僕の手元に2009年版の「脳卒中治療ガイドライン」があります。
これは日本脳卒中学会を始めとする多くの学会が、
結集してまとめた医師用の手引きです。
治療の根拠については、全て元の文献が示されていますし、
その信頼度も国際的な基準で評価されています。

まあ、一応の信頼は置いても、
問題はない資料ではないかと思います。

それではその中から、
コレステロールと脳卒中に関する件を、
幾つか引っ張り出してみましょう。

その前に基本的な事項を確認しておきます。

脳卒中とは何でしょうか?

これは医学用語としては急性の脳が原因の発作のことで、
その中には脳梗塞と脳塞栓、そして脳出血などが含まれます。
そして更に脳出血には脳内出血とクモ膜下出血などが存在します。
要するに、脳卒中とはこうした脳の病気の総称のことです。

梗塞というのは脳を栄養している血管が詰まることで、
それは概ね脳の血管の動脈硬化を原因として起こります。
大きな血液の塊が詰まるのが塞栓で、
これは通常心臓病があって、心臓の中の血の塊が、
脳に飛んで詰まるのです。
クモ膜下出血は外傷の時以外では、
動脈瘤という血管のこぶが、
破裂して起こります。
脳内出血は脆くなった脳の血管が、
破けて周りに出血が起こるもので、
梗塞と一緒に起こることも多く、
また高血圧との関連が明らかです。

脳梗塞と動脈硬化に関連性のあることは間違いがありません。

とするなら、
動脈硬化を改善するような治療には、
脳梗塞の予防効果もある筈です。

ガイドラインはどうなっているでしょうか?

よく引用されている1980年代の海外の研究によると、
コレステロールの高い人では、
それだけ脳梗塞の発症が多い、とされています。
ただ、この場合のコレステロールは、
総コレステロール240mg/dl 以上で脳卒中の死亡が増え、
310以上で脳梗塞の発症が増える、というデータです。

つまり、脳梗塞とコレステロールに、
かかわりのあることは事実ですが、
実際の発生が増えるのは、310という、
かなり重症の高コレステロール血症についてのデータです。
たとえば、総コレステロールが250くらいの方で、
本当にコレステロールと脳梗塞とに関係があるのかどうかは、
そうしたデータが皆無ではありませんが、
それほど信頼度の高いものはありません。

従って、軽症の高コレステロール血症で、
脳梗塞が増えるかどうかは、
現時点で確実と言えるデータはないのです。

次にスタチンと呼ばれるコレステロール低下剤で、
患者さんのコレステロールを下げる治療をすると、
脳梗塞が予防出来るのか、という試験が複数行なわれています。
こうした病気のない方で、
病気を予防することが出来るのか、
という考え方を一次予防と呼んでいます。

その結果にはかなりばらつきがあって、
海外の試験では、
日本では使用出来ないような高用量のスタチンを使用すると、
脳卒中全体の発症が3割ほど低下した、
というデータが存在します。
しかし、日本の同様の研究では、
使用した方としない方との間に、
明確な差は出ませんでした。
つまり、コレステロールを薬で下げると脳卒中を予防出来るか、
という質問には、
現時点ではその可能性はあるけれど確実ではない、
というくらいが事実だと思います。

次に一度脳卒中を起こした患者さんで、
コレステロールを薬で下げると、
脳卒中の再発が予防出来るのか、
という検討が存在します。
これを脳卒中の二次予防と言います。

これにはSPARCL試験という有名な海外の試験があります。
脳卒中を起こした患者さんにコレステロールを下げる治療をすると、
脳卒中全体は約16%低下しました。
つまり、二次予防効果がある程度認められたのです。
しかし、その中身を見てみると、
脳内出血の発生は、
実はコレステロールを下げた方が、
却って増えている、という結果が得られたのです。

この試験の結果を受けて日本のガイドラインでは、
高血圧性脳内出血を起こした方では、
コレステロール低下療法は、
慎重に行なうべき、とされています。

今までの内容をちょっとまとめてみましょう。
脳卒中の予防に限って考えると、
コレステロールが少し高い程度では、
別に治療の必要はないのです。
それをしたからと言って、
少なくとも日本で使用している薬の量では、
明確にその予防になるという根拠はあまりないからです。
逆に血圧が高い方で、
その血圧をコントロールせずに、
コレステロールを強力に下げる治療を行なうと、
脳内出血のリスクは少し高まる可能性があります。

そこで上の記事に戻って考えてみましょう。

まずここに登場する先生はちょっと曲者で、
医療統計学の専門と言いながら、
「コレステロールを下げる薬はインチキだ」というような、
やや特殊な考え方を、
主に疫学データのみを元に、
声高に主張されている方です。
その言い方が過激で挑発的で面白いので、
マスメディアには頻繁に登場します。

ただ、上の記事の内容はこの先生にしては、
比較的穏当なものです。
コレステロールが低いと脳出血は増える、というのは、
正式なガイドラインにも示されていることなので、
別に突飛な意見ではありません。
ただ、より正確な言い方をすれば、
強力にコレステロールを薬で低下させると、
脳出血を増やす可能性がある、
というくらいが妥当だと思います。

脳梗塞も含めて死亡が半分になった、
というのはちょっと俄かに信じ難いのですが、
脳卒中の発生が減ったのではなく、
脳卒中後の死亡率が減った、
というのがちょっとトリッキーで、
おそらく他のもっと直接的な比較もしたのだと思いますが、
この先生にとって「面白い」結果が出なかったので、
このような持って回った表現に落ち着いたのだと思います。
ただ、先生のコメントとされる、
「コレステロールが高いと血管の状態が良い」
というのはそんな根拠が何処にもある訳ではなく、
科学者たるものの発言としては、
幾らなんでも頂けないな、と言う気はします。

コレステロール降下療法は、
こと心筋梗塞の予防、という観点においては、
これはもう確立された治療法です。
そのこと自体は間違いがありません。

ただ、脳卒中の予防、と言う点について言うと、
心筋梗塞ほどの確実性はないのです。
従って、特に脳に微小なものであれ、
出血の既往のある場合には、
その使用には慎重な対応が必要となるのだと思います。

僕は個人的にはリスクのある患者さんでは、
まず脳のMRIはチェックし、
微小なものであれ出血の存在する方では、
コレステロールの低下剤は使用を控えます。
また、血圧の不安定な方では、
まず血圧のコントロールを優先し、
それからコレステロールの対応を考えます。
EPA製剤や他の抗酸化剤の使用も考慮します。

コレステロールをスタチンで低下させることが、
少なくとも心臓の血管においては、
画期的でかつ有効性の高い治療であることは間違いがありません。
理屈から言えば、おそらく全身の動脈硬化の改善にも繋がる筈です。
その一方で脳卒中の発生には、
心臓の血管とは違う特殊性があり、
その一部には却ってコレステロールの低下が、
新たなリスクに繋がる場合もあるのです。

心臓だけがあって脳のない人間も、
脳はあるけれど心臓はない人間も、
実際には存在しないのですが、
研究というのは臓器別に行なわれ、
専門家も臓器別に存在するので、
心臓には良いけれど、脳にはあまり良くない、
と言う治療も実際には有り得るのです。

重要なのはそのバランスを見る、ということで、
その点が現在の医療に内外を問わず、
やや欠けている点なのではないかと思います。

そこに、上の記事に登場するような先生の、
介入する余地がある訳です。

ただ、この先生は大学の碌を食んでいる訳で、
その大学にはコレステロール降下療法に、
積極的な先生も多くいらっしゃる訳です。
その大学病院には、
コレステロールを下げる薬を飲んでいる、
多くの患者さんが通っています。

それであるなら、
本来は大学の他の科の先生とも連携を取り、
より患者さんのためになる治療に向けて、
もっと実際的な努力をするべきで、
他人の集めたデータを元に、
「薬なんか飲むな、ガイドラインもインチキだ」
という過激で多くの患者さんに不安と混乱とを招く発言を、
ただメディアで垂れ流すだけと言うのは、
あまり人間として品の良い行ないとは、
僕には思えません。

何よりも、同じ大学の病院に通う、
多くの患者さんのことを考えていません。
研究というのは患者さんのためにあるべきもので、
その観点から僕はこの先生のやり方に、
賛同する気持ちにはなりませんし、
そうした先生の研究結果を真に受けることは出来ません。

今後より精度の高く、
より公平で実際の患者さんに資するような、
研究成果を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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fujiki

Liz さんへ
コメントありがとうございます。

僕の欲しい情報は、
あまりネットには流れていないので、
残念ですが基本的にはそれほどの興味はありません。
このサイトは良いなと思うと、
大抵少しすると潰れています。
by fujiki (2010-07-03 21:34) 

後期高齢者(男)

NHK等のマスコミの医療情報は、何処まで信じていいのやら一般人はとまどうばかり。私は中性脂肪210、LDL140、HDL37、総コレ219、尿酸8.0で行政からは精検の通知をうけていますが、酒・たばこ・悪さ、いずれもせず家族性かと考えていますが、以前にベザスターsr200の処方を受けたこともありますが、服用する気も起こりません。「薬は毒である!」の心情を消す方法はないものでしょうか。
by 後期高齢者(男) (2010-07-04 09:19) 

fujiki

後期高齢者(男)さんへ
コメントありがとうございます。

お酒を飲まれず、体重の増加もないとすれば、
体質的なものが考えられると思います。
ただ、データを拝見しますと、
お食事の組成が、
やや動物性脂肪に偏り勝ちなのではないか、
とは推測されます。
(誤りであれば申し訳ありません)
僕の考えは、
まず動脈硬化のご病気に繋がる徴候が、
どの程度お身体にあるか、ということで、
超音波による血管の動脈硬化の進行の有無や、
眼底の動脈の異常があるかどうか、
また、やや過剰検査にはなるかも知れませんが、
頭部のMRI検査を行なって、
ある程度の動脈硬化の進行が疑われれば、
まずはEPA製剤(青魚の脂の抽出物です)や、
ニコチン酸など、
副作用の少ない薬を使用してみるのはどうかな、
という考え方です。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2010-07-04 10:19) 

後期高齢者(男)

ご助言ありがとうございました。さしあたって超音波検査を受けてみるつもりです。なお、眼底は今までは異常なくK-W 0 であります。
by 後期高齢者(男) (2010-07-04 15:34) 

fujiki

Liz さんへ
診療所のそばにも、
次々と開院されています。
内科もやたらとありますし、
本気で考えると不安にもなりますが、
僕が必要とされなくなれば、
自然に潰れるだけのことなのだから、
それまでは誰かに生かされていると思って続けよう、
というくらいに考えています。

by fujiki (2010-07-04 21:12) 

fujiki

Liz さんへ
ご指摘ありがとうございます。
基本的に医者という人種が嫌いだからかも知れません。
ただ、確かに患者さんの混乱を助長しては意味がないので、
慎重さをより心がけたいと思います。
by fujiki (2010-07-05 09:07) 

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