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マイコプラズマ感染症の謎(解決編) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に続いて、
マイコプラズマ感染症の話です。

咳の風邪や肺炎の原因として、
皆さんにもお馴染みのマイコプラズマ感染症ですが、
そこには長年幾つかの謎が指摘されていました。

その第一はこの病気が何故か乳幼児には少なく、
学童期に多い、ということであり、
もう1つはこの病気に罹ると、
特有の免疫の異常が起こる、
ということです。

マイコプラズマに身体が感染すると、
当然身体はマイコプラズマに対する抗体を作ります。
その抗体価を測定してみると、
不思議なことに、
本来感染することが稀である筈の乳幼児でも、
結構その抗体価が上昇していることが判明しています。

つまり、実際には乳幼児も感染はしているのに、
その肺炎や激しい咳のような症状は起こしていないのです。

乳幼児の方が細胞免疫の働きは弱い筈です。
であるなら、その症状も強くなっていい筈なのに、
実際には乳幼児では殆ど軽症に終わっているのです。

他にも不思議なことがあります。

肺炎マイコプラズマのように、
肺炎を高率に起こすような病原体は、
身体の細胞を攻撃するような、
特有の毒素を持っているのが一般的です。

しかし、細胞を取り出して実験してみると、
その毒性は弱く、
とても単独で肺炎を起こすような病原体とは思えないのです。

これは一体どういうことでしょうか?

更にはある種の免疫不全の患者さんにマイコプラズマが感染すると、
確かに重症になって呼吸困難に陥りながら、
肺には肺炎の像は全く出なかったのです。

これは何を意味しているのでしょうか?

1980年代から90年代に掛けての一連の研究により、
その謎はほぼ解明されました。

端的に言えば、
マイコプラズマが肺炎を起こすのは、
マイコプラズマ自身の毒性によるものではなく、
その感染に伴う、
身体の免疫系の活性化による、
サイトカインの上昇によるものなのです。

これは以前お話した自己炎症の概念に近いものです。

マイコプラズマが人間に感染すると、
その菌体の成分が、
自然免疫という免疫の仕組みを刺激します。
すると、過剰なサイトカインが放出され、
その結果として肺に高度の炎症が起こるのです。

その反応は初感染より、何度も感染した場合に、
増幅するものであることが確認されています。

実は、マイコプラズマの初感染は、
その多くは乳幼児期に起こるのです。
ただ、その時期にはまだ免疫機能の発達が未熟なため、
逆にサイトカインの過剰反応は起こらず、
感染は軽症で済むのです。
乳幼児期の所謂軽い風邪症状が、
実はマイコプラズマの初感染の症状であったのです。
その後の再感染が学童期に起こると、
今度は免疫系が成熟しているため、
サイトカインの過剰反応が起こり、
その結果として、
肺炎が生じるのです。

つまり、マイコプラズマ肺炎というのは、
肺炎マイコプラズマへの複数の接触がもたらす、
免疫異常症のことなのです。

それでは、マイコプラズマ肺炎の治療はどうするべきか、
という問題が生じます。

マイコプラズマの感染自体は、
概ね2週間程度は持続する、
と考えられています。
免疫異常のきっかけは矢張り菌成分の存在ですから、
それを早期に除去することは、
症状を早く終息させるためには、
意味のある治療行為の筈です。

従って、なるべく早期の、
マイコプラズマに効果のある抗生物質の使用は、
回復を早めるのに効果のあることが、
臨床的にも確認されています。

主に使用されるのは、
マクロライド系と呼ばれる抗生物質で、
クラリスロマイシン(商品名クラリシッド、クラリスなど)や、
アジスロマイシン(商品名ジスロマック)がその代表です。

こうした薬剤は頻繁に使用されているために、
少なからず耐性菌のあることも知られています。
その場合、ニューキノロンというタイプの薬剤や、
テトラサイクリンというタイプの薬剤も、
有効性は確認されているので変更しての使用が可能です。

ただ、現状マクロライドの耐性菌は感染力も弱く、
重症化の事例も少ないことより、
通常はまずマクロライドを使用する、
という方針で問題はない、という考えが一般的なようです。

たとえばペニシリンのような抗生物質は、
細菌の細胞壁を作らせないようにする薬なので、
細胞壁のないマイコプラズマには、
全く効果はないのです。

肺炎の重症化が疑われる事例では、
ステロイドを早期に使用するのが望ましいと考えられます。
重症化は菌の増殖によるものではなく、
身体の免疫の過剰反応なので、
免疫による炎症を強力に抑え込む、
ステロイドの使用が理に適っているのです。

今日はマイコプラズマ肺炎についての、
最近の考え方をお話しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

ティーツリー

はじめまして。「マイコプラズマ 耐性菌」で検索してたどりつきました。
先生の記事はとてもわかりやすく、おもしろく、な〜るほど、と興味深く読ませていただきました。私はアレルギー体質で、成人になって咳喘息から喘息になりましたが、あの咳はマイコ感染だったかも、と思いました。

ところで、2週間ほど前マイコプラズマの家族内感染で発症しました。ジスロマックが効かず、熱が出たため再受診したところ、幸い肺炎にはなっていませんでしたが、ミノマイシンに変更となりました。ジスロマックはきつかったので、ミノマイシンもあまり気がすすみません…が、早期治療には必要なのですね。

これまで呼吸器科でも耳鼻科でもクラリスやクラリシッドを処方されることが多くて、以前はよく効くという印象でしたが、今は効き目が鈍くなっているような気がします。
耐性菌は抗生剤の使いすぎによる社会の問題ですよね。個人の薬剤耐性の問題もあるのかな、とふっと思いました。

by ティーツリー (2011-01-18 22:37) 

fujiki

ティーツリーさんへ
コメントありがとうございます。
確かにクラリスロマイシンは、
日本では少量持続投与、という、
耐性菌を誘導するために行っているのでないか、
と思えるような治療が、
広く行われているので、
推奨される先生は耐性誘導はしない、
と言われるのですが、
僕は確実に多くの患者さんで、
逆効果になっているのではないか、
という意見です。
by fujiki (2011-01-19 08:40) 

machirudaママ

はじめまして。

私はマイコプラズマに何度も悪夢を見させられているので、この記事、なるほど!と読ませていただくとともに、謎がさらに深まってしまったのでコメントします。

3歳の娘が現在、3度目のマイコプラズマ感染中です。

この娘、もちろんインフルエンザや夏風邪(いわゆるアデノとか)にもしっかり罹るのですが、冬の一般的な風邪はたいがい鼻水程度で済んでしまいます。にもかかわらずマイコプラズマは、がっつり・・2度の入院を経験しました。

何故こんなにマイコプラズマだけ?と色々調べましたが、マイコプラズマには抗体ができないので何度も罹るという話もあれば、ある小児科の先生は、(なんの根拠かしりませんが)一年に2度もマイコプラズマには罹らないはず。と言っていました。

先生のお話では、抗体ができることによって、マイコプラズマが次に入ってくると免疫が活性化して過剰反応が起こるとのことでした。これは初耳です。

では、最初のマイコプラズマ感染が1歳のときだった娘は、それ以前にマイコプラズマにかかっていたのでしょうか?(このときは肺炎でなく気管支炎という診断でした。)免疫機能が成熟化していたとは思えないくらい、それ以前に風邪で薬を飲んだことも病院に行ったことさえなかったのに・・

2度目は3歳半で感染。この時は高熱が出たのですが、3歳10ヶ月でかかった今回は、熱は微熱程度で咳はひどいですが、種類の違うマイコプラズマなのでしょうか?

それから、学童期に入ると彼女はさらにマイコプラズマと闘う機会が増えるのか不安です。

いえいえ、全ての質問に答えてくださいなんて、虫のよいことはいいません。ただ、なんでだろ・・・という気持ちが強すぎて色々書いてしまいました。

他の記事もこれから読ませていただきますね。
by machirudaママ (2011-05-06 17:40) 

fujiki

machirudaママさんへ
コメントありがとうございます。
マイコプラズマの免疫については、
まだ不明の点が多くあるのが現状と思います。
動脈硬化巣や胃の粘膜、
気管支喘息の気道の病巣などから、
マイコプラズマの持続感染が証明された事例は、
複数存在し、
マイコプラズマの感染は、
完全に除菌され、菌がなくなる場合と、
持続感染に移行する場合の、
両者があることはほぼ間違いがありません。
ただ、完全に除菌されなくても、
一旦抗体価が上昇すれば、
全身的な感染症状を生じない状態が、
しばらく続くことは確かだと思います。
このしばらくが、
どのくらいの期間か、
1年なのか半年なのか、
と言う点については、
僕の調べた範囲で明確な記載はありませんでした。
「1年に二度は罹らない」という先生のご意見は、
おそらくは経験的なものではないかと思います。

従って、
お子さんが短期間で二度マイコプラズマの感染により、
全身的な症状を来たしたとすれば、
潜伏していた体内のマイコプラズマが、
何らかの要因で増殖したケース
(実際には稀だとは思います)と、
タイプの違うマイコプラズマに、
再感染した可能性の両者が考えられます。

ただ、マイコプラズマの診断は、
実際的には難しく、
抗体価が高いだけの判断であれば、
それはただ以前の感染の影響を、
見ているだけの可能性もあります。
迅速診断はIgM抗体を測定しているだけで、
インフルエンザのように、
抗原に反応するものではないからです。
従って、マイコプラズマ様の症状を呈した、
別のウイルス疾患の可能性もあると思います。
要するに診断は100パーセントのものではありません。

1歳時での感染は初感染であれば、
通常は軽症ですが、
これは勿論例外はある事項で、
比較的重症の全身症状を呈することも、
ない訳ではないと思います。
by fujiki (2011-05-06 22:24) 

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