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芍薬甘草湯による「横紋筋融解症」のメカニズム [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は漢方薬と「横紋筋融解症」についての話です。
「横紋筋融解症」の説明については、
昨日の記事をご覧下さい。

芍薬甘草湯という漢方薬があります。
芍薬と甘草という、2種類の生薬を混ぜただけの、
極めてシンプルな調合の薬です。

漢方薬は、基本的にその組成である生薬の種類が少ないほど、
急性の強い効果を持つ、という特徴があります。
従って、芍薬甘草湯は、そうした強い作用を持つ薬の1つです。

この薬は簡単に言えば、痙攣止めの薬です。
筋肉の痙攣と痛みを抑える作用があります。

従って、この薬は急性の症状を取るための薬であり、
基本的に痛みや痙攣のある時のみ、
使用することが望ましいのです。

ところが…

最近この薬はよく「こむら返り」に使用されます。
その場合、漫然と長期間使用されることが、
実際には多いのです。

そして、そうした長期間の使用により、
筋肉が壊れて身体に力が入り難くなる、
「横紋筋融解症」の副作用の報告が、
多く見られるようになっています。

では何故、芍薬甘草湯で、
「横紋筋融解症」が起こるのでしょうか?

この薬には甘草という生薬が、
通常1日量で6g 含まれています。
その主成分はグリチルリチン酸と呼ばれ、
強力ネオミノファーゲンという商品名で、
肝障害の薬としても使われています。

この生薬には、ステロイドのホルモンの代謝を妨害する、
という性質があります。
ステロイドには糖質コルチコイドと、
電解質コルチコイドという種類があります。
甘草が多量になると、
糖質コルチコイドの細胞の中での働きが妨害され、
細胞の中に過剰に溜まったホルモンが、
電解質コルチコイドとして働くので、
結果として、電解質コルチコイドの作用が強まります。

これを「偽性アルドステロン症」と呼ぶことがあります。
アルドステロンは電解質コルチコイドの代表です。
この病態では、アルドステロンは低いのに、
アルドステロンの過剰のような症状が出るので、
こうした名称がある訳です。

電解質コルチコイドは、血圧を保ち、
ナトリウムを身体に蓄えるホルモンです。
その働きが過剰になると、
血圧は上がり、ナトリウムの代わりにカリウムが排泄されるので、
血液のカリウムが欠乏します。

これを低カリウム血症と言います。

血液の中のカリウムの正常濃度は、大体4mEq/l です。

実は筋肉の働きとこのカリウムの濃度との間には、
大変密接な関係があります。

カリウムの濃度が正常でないと、
筋肉は正常に動くことが出来ません。

通常カリウムの濃度が3を切ると、
筋肉をだるく感じ、力が入り難くなります。
人によっては筋肉の痛みを感じます。
そして、2を切るくらいの低カリウム血症になると、
高率に「横紋筋融解症」が出現するのです。

これはカリウムの低下により、
筋肉に栄養が運ばれなくなり、
筋肉の中の代謝が障害され、
そこに刺激が加わることにより、
脆くなった筋肉が壊れるのだ、と説明されてます。

通常「横紋筋融解症」では、
脱水が高度になり、血液は酸性になって、
腎不全が起こります。
従って、通常カリウムは上昇します。

ただ、芍薬甘草湯による「横紋筋融解症」では、
筋肉が壊れ、力が入らなくなり、時に痛みや吐き気が起こりますが、
脱水にも腎不全にも、通常なることはありません。

これは何故かと言えば、
大部分の「横紋筋融解症」では、
血液のカリウムが上昇するのに対して、
芍薬甘草湯による「横紋筋融解症」では、
カリウムが高度に低下している、という違いがあるからです。
電解質コルチコイドの働きが強まるので、
血液量は保たれ、筋肉は壊れても脱水にはなりません。
血液もアルカリ性になり、酸性にはなりません。
筋肉が壊れて出るミオグロビンも、
排泄が速やかなので、
特有の赤ワイン色の「ミオグロビン尿」も見られることは少ないようです。

従って、血液が酸性になり脱水と腎不全が起こるのが、
「横紋筋融解症」の特徴だとすれば、
そのいずれの特徴も満たさないことになり、
本当にこれを「横紋筋融解症」と呼ぶのが適切なのか、
僕はやや疑問に思います。
治療も点滴はしますが、
カリウムの補充と電解質コルチコイドの作用に拮抗する薬の使用が、
その主体になります。

僕の調べた事例では、
血液のミオグロビンは2500ng/ml を超え、
クレアチンキナーゼは15000IU/l を超えていました。
この数値だけ見れば、非常に重症の「横紋筋融解症」です。
しかし、この事例の方は腎機能は正常で、脱水も強くはなく、
比較的速やかに回復しています。

このことは、カリウムの低下と電解質コルチコイドの作用増強が、
「横紋筋融解症」の悪化を食い止めている、
という言い方も出来るのです。

むしろ問題になるのは、重度の低カリウム血症の存在で、
心臓の働きを弱め、
お命に関わる不整脈の原因となることもあります。
従って、この病態は低カリウム血症による、
筋肉の異常であって、「横紋筋融解症」の病態とは、
ちょっと違うのではないか、
というのが僕の考えです。

いずれにしても、甘草を含む漢方薬で、
低カリウム血症の副作用が多いことは事実です。
こうした薬剤の使用については、
血液のカリウム値の測定を、
定期的に行なう必要がありますし、
特に芍薬甘草湯については、
1日量に7.5g を使用するのは適切ではなく、
通常2.5g (1包)の使用に留めるべきではないかと考えます。

実際僕は決してこの薬剤の1日7.5g の使用はしていません。

漢方薬は基本的には安全性の高い薬です。
しかし、本来体質に合わせて選択するタイプの薬を、
こむら返りには芍薬甘草湯のような、
一種のマニュアルで処方するような使用が、
特に漢方の基本原理を理解しない医者の手で横行しているので、
このような通常は起こり難い副作用が、
頻発しているという実状があるのです。

漢方薬は時に画期的な効果のある薬ですが、
何となく処方される薬ではなく、
何となく飲むような薬でもありません。
漢方だから安全、というようなこともありません。

その特性をよく理解した上で、
上手に使用してこそ意味のある薬なのです。

今日は芍薬甘草湯の副作用のメカニズムについての、
ちょっとマニアックな総説をお送りしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 11

kawa

透析施設で勤務する薬剤師です
非常に興味深いお話ありがとうございます

当院でも透析患者には日常的に芍薬甘草湯は処方されています
たいていは、1日1包であることが多いですが、たまに1日3包が散見されてます。また、通常の患者には1日3包はザラです

漢方=安全という共通認識が、医療従事者、患者間に確立されているような空気があります。漢方もまた紐解くと西洋薬ということをあらためて再確認し明日からの仕事に役立てたいです

 横紋筋融解症は高脂血症のくすりの時にしか注視しないことがあるのでそういうことの無いように注意します
by kawa (2009-09-04 02:35) 

fujiki

kawa さんへ
コメントありがとうございます。
僕自身は内容の通り、
芍薬甘草湯は基本的に頓服の処方と考えていますが、
1日7.5g も添付文書通りの処方ではあり、
出される先生それぞれの考え方もあるので、
それを一概に否定するつもりはありません。
「1つの考え方」として、お読み頂ければ幸いです。
僕自身も何度も薬剤師の方に指摘されて、
処方の誤りやミスに気付かされることがあります。
医者とはまた別の目で薬の現状を捉え、
ご指摘を頂ければ、必ず医者のためにもなります。
(勿論何より患者さんのために)
お仕事頑張って下さい。
by fujiki (2009-09-04 08:38) 

かも公方

私の持っている漢方薬の本には(漢方薬の選び方・使い方/木下繁太郎著/土屋書店)には、長期連用には芍薬甘草附子湯を使うと有ります。芍薬甘草湯は頓服ときちんと書かれています。漢方薬も正しく使い分けをしないと恐ろしいですね。
by かも公方 (2009-09-04 12:40) 

fujiki

かも公方さんへ
コメントありがとうございます。
芍薬甘草附子湯は、
芍薬甘草湯の虚証の処方ですね。
要するに虚実をきちんと把握して使うべきなのに、
何でも痛みがあれば同じ処方、
という西洋医学的考えで漢方を用いるのが、
一番の誤解なのだと思います。
by fujiki (2009-09-04 22:36) 

みんみん

検索でふらりと立ち寄らせていただきました、みんみんと申します。

頻繁に起こるこむら返りで、芍薬甘草湯を処方され1日3回3週間服用しました。とてもよく効きます。昨日病院で、今後は診察なしで2週間分ずつ出しますと言われました。

前回薬剤師さんが「これは普通は頓服の薬なんですがねぇ・・・」と言っていたのが気になっていましたが、病院では聞きそびれました。
今回の薬剤師さんに聞くと「漢方薬だから長く飲むことで効いてくるんですよ」とのことでしたが、なんか違う気がして検索し、こちらにたどりつきました。

やはり連用には注意が必要な薬のようですね。
有用な情報をありがとうございました。
by みんみん (2009-09-16 14:33) 

fujiki

みんみんさんへ
コメントありがとうございます。
本来の使用法から言えば、
基本的には頓服か、
ごく短期間の使用に留めるのが、
この薬の考え方だと思います。
「長く飲むことで効いてくる」というのは、
漢方薬全般に対する誤解で、
少なくともこの薬に関しては誤りだと思います。
by fujiki (2009-09-17 06:24) 

みんみん

早速のご返信ありがとうございます。

体のあちこちがしょっちゅう痙攣してとても困っているので、
副作用が出て芍薬甘草湯が飲めなくなるという事態は避けたいです。もちろん一番いいのは根本的に原因を取り除くことですが、いろいろ検査はしても特に悪いところはないようです。

それで、手元の薬を飲みきるまでまたずに主治医の先生に相談してみようと思います。
ブログのほかの記事も大変興味深いので読ませていただきます。
大変お忙しいことと存じますのでどうぞ先生もお体にお気を付けくださいますように。
by みんみん (2009-09-17 09:04) 

のぞみ

腰痛で何ヶ月か寝たきりで足が弱ってしまい、歩くと特にふくらはぎがつりそうになるので「こむら返り」対策にクラシエの芍薬甘草湯を買いました。飲む前に副作用を検索していたら、こちらにたどり着きました。ためになりました。ありがとうございました。
by のぞみ (2013-09-05 23:43) 

fujiki

のぞみさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2013-09-07 12:38) 

rita

はじめまして。芍薬甘草湯を検索していてこちらにたどり着きました。

先週から右足の指に急な激痛が走るようになり、整形外科でこの薬を1日3回食前(1週間分です)に服用してくださいと処方されたのですが、ついさっきから難聴や頭痛、めまいという高血圧のような症状が出たので横になっていました。

今日はもう病院の診療が終わってしまい電話が繋がらないため、明日相談の電話をしたいと思っていたところです。

漢方なのであまり強い薬じゃないと思っていたんですが、芍薬甘草湯は結構強いんですね。
このブログを読んで処方が多かったのかな?と思いました。

この薬は頓服として出される薬だと言うのは知ってるんですが、飲むのをやめるとまた足の痛みは戻ってしまうのでしょうか?
by rita (2014-02-27 19:18) 

ym

以前クラビットの副作用(末梢神経障害)見て頂いた者です。その節は本当にお世話になりました。おかげさまで精神的には大分落ち着いたのですが、この1カ月近く筋肉痛と筋肉のぴくつき(目にははっきり見えますし、足の至る所が収縮します)、さらに脱力感、疲労感がひどくなっています。朝起きるときは疲労感でいっぱいです。そんな状態のため、芍薬甘草湯を試してみようかと思い始めていますが、私は不整脈を指摘されたこともあり、先生のブログを拝見しやはりやめたほうがいいのかなと思っています。なにか気をつけることなどございましたらご教示頂ければ幸いです。
by ym (2017-08-19 17:35) 

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