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歌舞伎座三月大歌舞伎(2017年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が診療を担当する予定です。

4月1日(土)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
3月大歌舞伎.jpg
三月の歌舞伎座に足を運びました。
眼目は海老蔵の「助六」です。

歌舞伎には非常に多くのレパートリーがありますが、
その中でも「助六」はかなり特殊な性質のものです。

小山内薫は明治時代に、
「自分はこの芝居を見ると、
祖先の社会を眼前に見る様な心持がして、
身内の江戸っ子ブラッドが躍るようである」
と書いています。
谷崎潤一郎も確か、
似たような趣旨のことを何処かに書いていました。

明治時代と言えば、
江戸時代はつい先刻のことですから、
そうした感慨を当時の人が持っていたというのは、
今では少し不思議な思いもしますが、
幕末と江戸の最盛期とはまた別個のもので、
明治時代に既に、
江戸の最盛期の息吹を感じさせる歌舞伎劇は、
この「助六」の他にはなかったことが分かります。

助六という狂言は、
二代目の團十郎が助六を演じた、
正徳3年(1713年)の「花館愛護桜」に始まり、
3年後には「式例和曾我」という別の台本で、
同じ助六を團十郎が再演しています。

元禄時代に京都で助六という商人と、
揚巻という女郎との心中事件があり、
それがそもそもの始まりになっていますが、
「花館愛護桜」では、
男伊達という喧嘩が強く男振りの良い男として、
主人公の助六が描かれ、
揚巻との逢引きを、
意久という敵役が邪魔する、
という現在の助六にも通じる基本的なプロットが、
確立されています。

それが、
次の「式例和曾我」になると、
助六は実は曾我五郎という、
他の狂言の復讐を遂げる兄弟キャラに姿を変え、
その設定も現代に受け継がれています。

このように、
助六というキャラは同じでも、
上演の度毎に、
そのストーリー自体は変更したり、
その時代や設定を変えたりするのが、
歌舞伎の狂言の特徴の1つです。

現在上演されている「助六由縁江戸桜」は、
現行の歌舞伎の演目の中では、
非常に特殊な作品です。

歌舞伎は元禄時代に始まったとされますが、
元禄歌舞伎がそのままの形で、
今上演されているという訳ではなく、
今上演されている歌舞伎の演目の殆どは、
主に幕末期か明治になってから、
整理されたり修正されたりしたものです。

「忠臣蔵」など本格的な歌舞伎の代表のように言われる、
義太夫狂言と呼ばれるものは、
元々原作は文楽で、
原作の台詞自体は江戸期のものですが、
歌舞伎としての台本や現行の演出自体は、
これも主に明治以降に整理されたものです。

その中ではこの助六は、
元の台本は元禄期から間もない頃に整理されていて、
そこに書かれた台詞の多くは、
江戸中期の安永期に書かれたものです。
しかも文楽ではなく、
純然たる歌舞伎台本です。

その意味でこの助六は、
現代上演が継続されている演目の中では、
最も濃厚に、
江戸歌舞伎の匂いを残しているものなのです。

この作品は歌舞伎十八番の1つとして、
團十郎の成田屋の家の藝とされています。

歌舞伎十八番と銘打たれている狂言の中でも、
「勧進帳」などは現行の作品は明治になって成立したものですし、
時間も手頃で上演頻度も高く、
團十郎以外の役者も、
主役の弁慶を演じています。
むしろ成田屋以外の上演の方が多いのです。

しかし、
唯一この「助六」は、
他の役者も助六を演じはしますが、
團十郎が演じる「助六」こそが、
本物とされていて、
團十郎以外による上演はあまりありません。

更には襲名披露や杮落としなどの、
特別なハレの興業でのみ上演され、
通常の上演自体があまりありません。

その理由の1つは、
助六の狂言は現行の台本でも、
休憩なしで上演時間は2時間を優に超え
(今回の上演は2時間で少し短縮版です)、
登場人物も非常に多く、
端役に至るまで幹部級の俳優が務めることが、
定例化しているので、
通常の興業で上演することが、
非常に困難である、
ということにあります。

従って、
「助六」が上演される、
と言うこと自体が、
歌舞伎にとっては特別のイベントなのであり、
その舞台の緊張感が、
劇場自体を特殊な祝祭空間に変える、
というところに、
「助六」の得難い魅力があります。

今回の上演は、
海老蔵も本公演で7回目くらいになりますから、
これまで以上に血肉の通った助六を期待しました。

ただ、実際には僕が観た初日から3日目くらいの舞台は、
あまり胸躍るものではありませんでした。

まずキャストが弱いと感じました。
大舞台での本役と言えるのは、
意休の左團次と白酒売の菊五郎くらい。

立女形は今本当に乏しいので仕方がないのですが、
雀右衛門(僕は芝雀の方がしっくり来ます)の揚巻は弱いですし、
華やかさがありません。
くわんべら門兵衛に歌六も如何にも弱くて、
どうして幸四郎が出てくれなかったのだろう、
という感じです。
通人に亀三郎というのも、
盛り上がりませんでしたし、
遊びもあまりなくガッカリしました。

何より助六の海老蔵に迫力がなく、
台詞も弾みませんし、
形も決まりません。
多分色々とお疲れだと思うので、
仕方がないとは思うのですが、
今回は正直とてもガッカリの低レベルの助六でした。

その一方で同時に上演された「引窓」は、
久しぶりに重厚な義太夫狂言を観たな、
と言う思いで、
僕はあまり高麗屋は好きではないのですが、
今回の幸四郎は悪くないと感じました。

そうは言っても矢張り「助六」は特別なので、
また上演があれば、
1回は観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

キスペプチンとその不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
キスペプチンと性衝動.jpg
今年のThe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
キスペプチンという脳ホルモンと、
大脳辺縁系の働きについての論文です。

最近脳視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌に、
大きく関連するもう1つの物質として、
キスペプチン(KISSI)が新しい話題となっています。

キスペプチンは54個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、
視床下部や大脳辺縁系などの神経細胞から、
産生される神経ペプチドです。

発見は1996年で、
ペンシルバニア大学のグループがその遺伝子を発見し、
当初は癌抑制能を持つ遺伝子と考えられました。
キス・チョコレートで有名な工場がそばにあったことなどから、
Kiss1遺伝子と命名されたのです。
2001年には別個に日本の研究者が、
癌抑制作用を持つペプチドを発見し、
メタスタチンと命名しましたが、
それがKiss1遺伝子がコードするペプチドであることが、
その後判明します。

それからキスペプチンの遺伝子がないと、
思春期が来ないことなどが報告され、
キスペプチンは生殖と関連のある脳ホルモンであることが、
徐々に明らかになって来たのです。

女性ホルモンの分泌には幾つかの謎がありました。

普通ホルモンはネガティブ・フィードバックと言って、
刺激ホルモンにより刺激されたホルモンが増加すれば、
それにより刺激ホルモンは逆に抑制される仕組みで調節されています。
しかし、女性ホルモンに関しては、
そのネガティブ・フィードバック以外に、
高度にホルモンが増加すると、
それが更に刺激ホルモンを刺激するという、
ポジティブ・フィードバックの仕組みも兼ね備えています。
何故このような仕組みが成立しているのかは謎でした。
また、女性ホルモンの最も高次での調節をしている、
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、
パルスのように間欠的に放出されているのですが、
その調節の仕組みも謎でした。

実はこの2つの謎の答えに、
キスペプチンが大きく関わっていることが明らかになったのです。

こちらをご覧下さい。
キスペプチンの作用の図.jpg
2003年の海外文献を翻訳した解析記事からの引用ですが、
キスペプチンの分泌様式を図示したものです。

キスペプチンは、
前腹側室周囲核から内側視床前野の部分と、
視床下部弓状核の部分の2か所の神経細胞から分泌され、
それぞれ異なる役割を果たしながら、
交互に関連を持っています。

女性ホルモンであるエストロゲンによって、
視床下部弓状核からのキスペプチン分泌は抑制されます。
これはネガティブ・フィードバックです。
一方で前腹側室周囲核から内側視床前野においては、
エストロゲンにより更にキスペプチン分泌が促進するという、
ポジティブ・フィードバックが成立しています。

キスペプチン分泌細胞は、
神経伝達物質であるダイノルフィン(オピオイドの一種)と、
ニューロキニンBという2種類のペプチドも、
分泌していることが分かっていて、
キスペプチン細胞がニューロキニンBの作用により活性化し、
少し遅れて出るダイノルフィンにより抑制される、
というサイクルを繰り返します。
それより分泌されるキスペプチンも脈動的になり、
それがGnRH分泌細胞を刺激することで、
GnRHのパルス状の分泌が行われているのです。

つまり、GnRH分泌細胞がその特有のパルス様分泌の主体ではなく、
それは実はキスペプチン細胞の性質であったのです。

今回ご紹介する論文は、
このキスペプチンが性欲や性衝動にも関連している、
大脳辺縁系にも発現していて、
それが性衝動のコントロールをしているのではないか、
という仮説の元に、
29名のボランティアの異性に性欲を感じる男性に、
キスペプチンを75分間持続的に注射し、
性欲を促すような写真や、
男女の幸せな結びつきを示す画像、
更には非常にネガティブな感情を刺激する画像などを見せて、
その時の大脳辺縁系の神経活動を、
偽薬の注射と比較して、
機能性MRIで解析しています。

その結果、
他の画像では得られなかった大脳辺縁系の神経活動の亢進が、
キスペプチンを注射した際の、
性的な画像や男女の結び付きの画像で惹起され、
偽薬ではそうした反応は見られませんでした。
またネガティブなイメージ画像を見せた際には、
キスペプチンの注射で前頭葉が興奮し、
ネガティブな感情が打ち消されていることが示唆されました。

要するにキスペプチン産生細胞は、
一種の脳内麻薬を産生し、
性欲による興奮や性衝動に関わっています。
ただ、その性欲は性交渉と切り離した、
男女の結び付き自体も求める方向に働いていて、
性的なパートナーを求め、
その相手を一緒に生活することで、
感情的な安定と充足を得るという一連の流れが、
脳の中にすでに用意されていることを、
示唆してもいるのです。

まあ、こうした少人数の脳の機能に関わる研究は、
結果がその後否定されることも多いので、
今の時点では話半分で受け取った方が良いように思いますが、
生殖と性欲と人生の充足、
また今日は触れませんでしたが、
肥満などの代謝とも結びついた機能を持つキスペプチンは、
今後生殖や内分泌のトレンドとして、
多くの知見を生み出すことは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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降圧剤(レニン・アンジオテンシン抑制薬)によるクレアチニン上昇について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとクレアチニン.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血圧の薬による腎機能低下のリスクについての論文です。

ACE阻害剤とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、
カルシウム拮抗薬と共に、
最も広く使用されている血圧降下剤です。

カルシウム拮抗薬と比較すると、
腎臓保護作用などの臓器保護作用があることが、
ACE阻害剤やARBの利点であると考えられています。
こうした薬の主な作用は、
アンジオテンシンⅡという物質の働きを抑制することで、
アンジオテンシンⅡは腎臓から出る輸出細動脈を収縮させて、
腎臓の糸球体の圧力を上げ、
それが高血圧による腎機能低下の、
主な原因だと考えられているからです。

ACE阻害剤やARBを使用することにより、
輸出細動脈が拡張するので糸球体の内圧が低下し、
高血圧による腎機能の低下を予防することが期待出来るのです。

ところが…

ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能が比較的急激に低下することがあることが知られています。

これは薬剤の臨床試験の時には、
ごく僅かな頻度でしかなかった有害事象でしたが、
実際の臨床で薬を使うようになると、
その報告は急増して大きな問題となったのです。

何故、腎保護作用のある薬で、
腎臓が悪くなるようなことが起こるのでしょうか?

一応次のように考えられています。

高齢者などで見た目より実際には腎機能が低下していて、
腎臓の糸球体の血流量が低下しているようなケースでは、
輸出細動脈が広がることにより、
更に腎血流が低下して、
血流低下による腎障害を来しやすくなるのです。
こうした薬の腎保護作用は、
高血圧で糸球体の圧力が高いことが前提になっているのですが、
実臨床では意外にそうでないケースがある、
ということかも知れません。

更には利尿剤を併用していて脱水があったり、
それ自体腎血流低下作用のある消炎鎮痛剤
(ロキソニンなどの痛み止めなど)を使用していると、
相乗効果でそのリスクが高まると想定されます。

そこで現行のイギリスのガイドラインにおいては、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能の指標であるクレアチニンの数値が、
30%以上増加した場合には、
薬の中止を検討するべき、
という方針が示されています。

こうした方針があると、
クレアチニンが30%上がらなければ、
少し上がっても問題はないようにも読めますが、
その根拠はそれほど明確なものではありません。

そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データを活用して、
ACE阻害剤もしくはARBの使用後、
2か月以内に測定されたクレアチニン値の変化と、
その後の腎障害の進行などとの関連を検証しています。

対象となっているのは、
ACE阻害剤もしくはARBを開始した患者、
トータル122363名で、
このうち1.7%に当たる2078名では、
血液のクレアチニン値が開始後に30%以上増加していました。
30%以上クレアチニンが上昇するのは、
女性、高齢者、心血管疾患罹患者、
非ステロイド系消炎鎮痛剤やループ利尿剤、
カリウム保持性の利尿剤(スピロノラクトンなど)の使用者に、
多く認められました。

そして、クレアチニン値が30%以上増加した患者は、
そうでない患者と比較して、
末期腎不全になるリスクが3.43倍(95%CI;2.40から4.91)、
心筋梗塞になるリスクが1.46倍(95%CI;1.16から1.84)、
心不全になるリスクが1.37倍(95%CI;1.14から1.65)、
総死亡のリスクが1.84倍(95%CI;1.65から2.05)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、クレアチニンの増加率を、
もう少し細かく検証すると、
末期腎不全になるリスクは、
クレアチニンの増加が10%未満と比較した場合に、
10から19%の増加でも1.73倍(95%CI;1.41から2.13)、
20から29%の増加でも2.58倍(95%CI;1.87から3.56)、
と増加していて、
総死亡のリスクも同様に、
10から19%の増加でも1.15倍(95%CI;1.09から1.22)、
20から29%の増加でも1.35倍(95%CI;1.23から1.49)、
と有意に増加が認められました。

つまり、
クレアチニン濃度が使用前の30%増加で線引きをすることには、
一定の意味はあるのですが、
実際にはそれより軽度の増加でも、
腎不全や総死亡のリスクには差が付いていて、
軽度の増加であれば問題ない、
というようにも言い切れません。

いずれにしても、
ACE阻害剤やARBを使用する際には、
使用開始後2か月以内に、
一度は必ずクレアチニンを測定し、
10%を超える上昇傾向が認められた場合には、
薬剤の中止を含めた検証が、
必要だと考えられます。
特に高齢の女性であったり、
消炎鎮痛剤を継続的に使用していたり、
利尿剤と併用している患者さんでは、
よりリスクが高いと考えて、
慎重に使用する必要があります。

一時期には、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
一時的に上昇するクレアチニンは問題ではない、
というような見解が、
専門の先生から示されていたことが、
あったようにも記憶しているのですが、
今回の検証などを見る限り、
そうした考え方は危険であるように思われます。

ACE阻害剤やARB(特にACE阻害剤)が、
血圧のコントロールや心疾患の管理において、
非常に有用性の高い薬剤であることは間違いがありませんが、
以前想定していたよりその腎機能に与える影響は大きく、
腎機能が低下した場合の予後に与える影響も大きいので、
その点には慎重な判断が必要なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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糖尿病による認知症リスクの増加とその他のリスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病と認知症リスク.jpg
今年のAlzheimer's Research & Therapy誌に掲載された、
認知症と生活習慣病との関連についての論文です。

認知症の原因は、
まだ完全に解明をされている訳ではありませんが、
動脈硬化が明確な原因となる脳血管性認知症以外の認知症においても、
糖尿病や高血圧、脂質異常症が認知症の発症のリスクになる、
と言う点については多くの疫学データにより確認されています。

ただ、
2型糖尿病のベースには多くの場合インスリン抵抗性があり、
インスリン抵抗性と脂質異常症、高血圧症は相互に関連があります。
単純に考えても糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧と脂質異常症の合併がありますから、
この3つの病態は完全に独立したものとは言えません。

ややこしいことに、
高コレステロール値症の治療薬であるスタチンは、
新規糖尿病のリスクを軽度ながら増加させます。

これまでに個別の病態と認知症リスクとの関連については、
多くの疫学データがありますが、
糖尿病の患者さんが脂質異常症を合併している場合と、
そうでない場合とでどのくらい認知症のリスクが変わるのか、
というような相互の関連については、
あまり大規模な検討がありませんでした。

そこで今回の研究は台湾において、
健康保険の医療データを解析することにより、
2000年から2002年に新規に糖尿病と診断された10316名と、
41246名の非糖尿病の集団を比較して、
糖尿病と高血圧、脂質異常症の、
認知症の発症に関わるリスクを検証しています。
経過観察は2009年まで行われていて、
年齢は20歳から99歳が登録時に対象となっています。

その結果…

糖尿病群においては333件の認知症が診断されていて、
非糖尿病群と比較して年齢や他の心血管疾患などの因子を補正して上で、
認知症のリスクは1.47倍(95%CI; 1.30から1.67)、
有意に増加していました。

そして、糖尿病の患者さんが、
その後に高血圧や脂質異常症を合併しても、
認知症のリスクは有意には増加しませんでした。

脂質異常症を糖尿病に合併すると、
その後の認知症リスクは有意ではないものの、
むしろ低くなり、
スタチンを継続使用している患者さんでは、
認知症リスクは有意に低下していました。
一方でスタチンを未使用の患者さんのみで解析すると、
脂質異常症を合併した方が、
認知症リスクは有意に低下していました。

一方で糖尿病のない群では、
高血圧があることにより認知症のリスクは、
ない場合と比較して1.22倍(95%CI:1.05から1.40)となり、
脂質異常症があることにより、
1.22倍(95%CI;1.05から1.40)とそれぞれ有意に増加していました。
両者を合併した場合の認知症リスクは、
1.33倍(95%CI;1.09から1.63)とこれも有意に増加していました。

つまり、
糖尿病が生活習慣病としては、
最も大きな認知症のリスクになり、
そこに高血圧や脂質異常症が合併しても、
認知症のリスクという面では、
それほど大きな影響を与えるものではない、
という結果になっています。
サブ解析なので何処まで意味を持つものかは分かりませんが、
糖尿病の患者さんでコレステロールの高いことは、
むしろ認知症のリスクを低下させていて、
その一方でスタチンを使用することにより、
認知症は予防されていました。

ただし、
今回のデータは健康保険の記録を解析しただけのものなので、
患者さんへの治療もまちまちで、
その影響もスタチン以外にも想定され、
観察期間も認知症の発症を見るという意味では、
10年未満というのは短いと思います。

また、何より認知症はひとまとめにされていて、
その多くはアルツハイマー型であると推測される、
というような記述はあるものの、
脳血管性認知症とそうでない認知症においては、
発症リスクには大きな差がある筈で、
その点の検証がないという点も大きな問題だと思います。

その意味で、
ネットで紹介をされる方がいたので読んでみたのですが、
あまりそのまま鵜呑みに出来るようなデータではない、
という印象を持ちました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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美容院脳卒中症候群について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
美容院脳卒中症候群.jpg
これは1993年のJAMA誌のレターですが、
美容院での洗髪後に、
脳卒中を来した主に高齢の女性の症例を、
5例まとめて紹介したものです。

美容院で髪を洗う時に、
首の後ろにシンクを置いて、
首を大きく後ろのそらせるような姿勢をとりますね。

この時に首が過伸展して、
首の骨の中を走行している、
椎骨動脈という頸動脈が屈曲します。

その場所に何もなければそれまでのことなのですが、
動脈硬化が進行していて、
血管が固くなっていたり、
血管に傷がついていたりすると、
その場所の血流が一時的に遮断されたり、
その周辺にあった血栓が、
脳へと飛んで詰まるという可能性が否定出来ません。

椎骨動脈はまた、
脳動脈解離が起こりやすい部位としても知られています。
生まれつき血管に弱い場所があったり、
首に強い衝撃を受けたりすると、
その部分の血管が裂けて、
血管が詰まったり、
その部位の血栓が脳に飛んで梗塞を起こす、
ということも報告されています。

端的に言えば、
首を強く後ろにそらせるだけで、
一時的に脳への血流の一部が遮断され、
意識消失やめまいが起こる可能性は、
誰にでもあるのです。
この症状は年齢に関わらず起こりうるのですが、
首の血管の動脈硬化が進行していれば、
より屈曲による影響が大きくなります。
ただ、症状が基本的には一過性です。

それを図示したものがこちらになります。
2006年のCerebrovasc. Dis誌の1例報告から取ったものです。
美容院脳卒中症候群の図.jpg
これは割と分かりやすい図ですよね。
矢印の部分が圧迫されるのです。

一方で椎骨動脈に生まれつき弱い部分があったり、
動脈硬化で脆くなった血管に傷が付いたりすると、
椎骨動脈解離が進展刺激に伴って起こる可能性があり、
その場合は一時的ではなく持続的な血管の閉塞が生じたり、
その部位の血栓が飛んで、
脳卒中を起こすリスクが高くなります。

こうした現象の最初の報告は1992年のNeurology誌に発表されていて、
美容院脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)という名称も、
そこで初めて登場しています。
これは2例の報告で、
いずれも高齢の女性が美容院の洗髪後に、
脳梗塞の症状を来した、というものです。

上記のJAMA誌のレターはそれに続くもので、
今度は5例の報告がまとめられています。
そのうちの4例は75歳以上の女性ですが、
もう1例は54歳という若い女性です。

高齢者の1例は元々椎骨動脈の血流に問題があり、
過伸展により一時的な閉塞を来したもので、
12時間くらいの経過で後遺症なく元に戻っています。
しかし、それ以外の事例は実際に脳梗塞を発症していて、
症状も完全には改善しないまま後遺症として残っています。

54歳の事例も脳梗塞の症例で、
おそらくは体質的な椎骨動脈の解離が、
元にあったものと推測されます。

この問題では昨年の暮にイギリスで、
45歳の男性が洗髪の2日後に脳梗塞で倒れ、
それが洗髪時の頸部過伸展によるものだとして、
多額の賠償金が支払われた、
という事例が報道されています。

2013年にはアメリカで、
48歳の女性が洗髪時に左手足の違和感を覚え、
その1週間後に脳梗塞を起こして、
これも美容院の過失が問われています。

ただ、この2つの裁判になった事例は、
いずれも中年で高齢者ではなく、
洗髪後2日と7日と大分時間が経ってからの発症なので、
本当に洗髪時の頸部過伸展が、
脳梗塞の直接的な原因であったのかについては、
やや疑問を感じます。

典型的な美容院脳卒中症候群というのは、
首を過伸展した瞬間に、
吐き気やめまいなどの症状を強く生じ、
それからあまり時を置くことなく、
手足のしびれなどの症状が続くものだからです。

高齢者が首の過伸展によって、
一過性の脳虚血の状態になりやすいこと自体は事実です。

ただ、洗髪後の明確な脳梗塞の発症が、
どれだけ関連するものかは、
まだ科学的に実証された事実ではないと思います。

その頻度は不明ですし、
科学的な知見も、
実際には症例報告のようなものしかありません。

最近でまとまった報告としては、
2016年のInternational Journal of Strokeという医学誌に、
「Beauty parlor stroke syndrome revisited: An 11-year single-center consecutive series」
という文献が掲載されています。

これはダウンロードが有料で40ドルという高額なので、
内容もそれほど大したことはなさそうですし、
アブストラクトしか読んでいません。

これは単一施設で11年間の、
美容室訪問後に脳梗塞を来した事例を集計したものです。
母数が分かりませんが、
11年での例数は10例と報告されています。
まあ、それほど多いとは思えません。
興味深いことは頸部の過伸展による解離は2例しか確認されておらず、
心臓からの血栓が飛んだ事例も含まれています。
2例はドライヤーで髪を乾かした際の、
血圧の変動が要因ではないかと推測しています。

つまり、美容院受診後の脳梗塞の全てを、
洗髪時の頸部過伸展に結び付けるのは、
やや単純すぎるのではないかと思われます。

一般的に言って、
お風呂や水泳の後に心血管疾患の多いのと同じ理屈で、
全身、特に頸部から頭部の血流状態が、
変化しやすい美容院の施術という状態が、
こうしたことのきっかけになりやすいのであって、
美容院受診後に脳梗塞を起こしたからと言って、
それを全て美容院のせいにして賠償金というのも、
何処か歪んだ判断にようにも思えてなりません。

この問題については、
もう少し科学的な検証が、
しっかりと行われるべきではないかと思います。

ただ、くれぐれも洗髪時に首をそらせる際には、
急激ではなく様子を見ながら慎重に行うべきですし、
特に高齢の女性や心臓などの持病のある方では、
基本的に強い進展は望ましくはないと、
そう考えた方が良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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