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握力と病気や生命予後との関連について(2018年UKバイオバンクの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
握力と健康状態.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
握力と病気のリスクや生命予後との関連についての論文です。

体力(physical fitness )という言葉があります。
これは医学的には心肺機能と筋力を一緒にした言葉です。

心肺機能というのは、
心臓の収縮する力や、
肺活量などを示していて、
筋力は文字通り筋肉の収縮力を示しています。

慢性の病気では、
体力はその進行に伴い低下して行きます。

これは癌でも心臓病でも糖尿病でも同じです。

老化というのも、
ある意味慢性の病気ですから、
この場合にも体力は低下して行きます。

体力の低下により、
日常生活が維持出来なくなった状態が「寝たきり」で、
その終末が、
体力が低下して生命活動を維持出来なくなった状態、
すなわち「死」です。

このように考えると、
定期的に体力を測定してその推移を記録することにより、
その人がいつ病気になり、
いつ寝たきりになり、
そしていつ死に至るのかを、
ある程度推測することが可能となる理屈になります。

そのリスクが予め分かっていれば、
その原因を治療したり、
起こる可能性の高い病気を予防したり、
病気の進行を遅らせたり、
という効率的な予防医学的な介入にも、
道が拓けるのではないでしょうか?

さて、体力には2つの要素があります。

心肺機能と筋力です。

このうち心肺機能については、
心臓については血液検査のBNPなどの数値や、
心臓超音波検査などの測定値で、
呼吸については、
肺活量などの呼吸機能検査で、
ある程度定量的に評価することが可能です。
そして、それぞれについて、
一定の予後の推測も可能なことが示されています。

一方で筋力については、
重要な指標であることは認識されていても、
医療の現場で定期的に測定することはあまりなく、
一般の健診項目などにも含まれていないので、
それを病気や生命予後のリスクとして定量化する試みは、
遅れていた、という経緯があります。

筋力で最も簡便に測定可能なのは、
握力です。

この握力が生命予後と関連するという報告は、
これまでにも幾つかあります。
その代表的なものの1つが2015年のLancet誌に掲載された、
PURE研究と命名された世界規模の臨床研究で、
同時期にブログ記事にもしています。

これによると、
総死亡のリスクは、
握力の5キロの低下毎に1.16倍(1.13から1.20)有意に増加し、
心血管疾患による死亡が1.17倍(1.11から1.24)、
それ以外の原因による死亡も1.17倍(1.12から1.21)と、
それぞれ有意に増加していました。
病気毎の発症リスクでは、
心筋梗塞の発症リスクが1.07倍(1.02から1.11)、
脳卒中の発症リスクも1.09倍(1.05から1.15)、
とこちらもそれぞれ有意に増加が認められました。

しかし、糖尿病や肺炎の発症リスク、
肺炎もしくは慢性閉塞性肺疾患による入院、
転倒による外傷や骨折のリスクについては、
握力との間に有意な関連は認められませんでした。

また高所得国においては、
癌の発症リスクは握力が5キロ低下する毎に、
0.916倍(0.880から0.953)に低下するという、
他のデータとは逆の相関を有意に示しました。

今回の研究は同様の検証を、
イギリスの有名なUKバイオバンクという、
50万人を超える大規模な疫学データで行ったものです。
対象は登録の時点で40から69歳の一般住民502293名で、
中間値で7.1年という経過観察を行っています。

その結果、総死亡のリスクは、
握力が5キロ低下する毎に女性で1.20倍(95%CI: 1.17から1.23)、
男性で1.16倍(95%CI: 1.15から1.17)
それぞれ有意に増加していました。
同様に心血管疾患による死亡のリスクは、
女性で1.19倍(95%CI: 1.13から1.25)、
男性で1.22倍(95%CI: 1.18から1.26)、
呼吸器疾患による死亡のリスクは、
女性で1.31倍(95%CI: 1.22から1.40)、
男性で1.24倍(95%CI: 1.20から1.28)
慢性閉塞性肺疾患による死亡のリスクは、
女性で1.24倍(95%CI: 1.05から1.47)、
男性で1.19倍(95%CI: 1.09から1.30)、
癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.13から1.21)、
男性で1.10倍(95%CI: 1.07から1.13)、
大腸癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.04から1.32)、
男性で1.18倍(95%CI: 1.09から1.27)、
肺癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.07から1.27)、
男性で1.08倍(95%CI: 1.03から1.13)、
乳癌による死亡のリスクは、
女性のみで1.24倍(95%CI: 1.10から1.39)、
それぞれ有意に増加が認められました。
ただ、前立腺癌についてはそうした有意な関連は、
認められませんでした。

女性の大腸癌と前立腺癌、肺癌(男女とも)を除くと、
明確な握力低下の存在(男性で26キロ未満、女性で16キロ未満)は、
そのリスクをより高めていました。
また、全体に年齢が若いほど、
握力低下と死亡リスクとの関連は強くなっていました。

死亡リスクの増加に関連する指標としての一般的なリスクスコア
(年齢、性別、喫煙歴、BMIなどから計算)に、
この握力の数値を加えることにより、
そのリスクの信頼性が高まることも確認されました。

このように今回の大規模な検証においては、
握力の低下は幅広く多くの病気による死亡リスクと、
明確な関連を持っていました。

呼吸器疾患や癌による死亡においても、
有意な関連が示されていることが、
以前のPURE研究との違いです。

握力というのは関節の痛みや変形、
頸椎などの整形外科的な疾患によっても、
かなり左右される指標なので、
対象者の分布によって、
別の結果が出ることもあると思われますが、
そうした病気を除外して考えれば、
筋力の簡便な指標として有用であることはおそらく間違いがなく、
今後より握力の数値を、
健診などでも重視してゆく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺微小乳頭癌のアクティブ・サーベイランス(2018年隈病院) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アクティブサーベイランスの歴史隈病院.jpg
2018年のThyroid誌に掲載された、
神戸の甲状腺専門病院である隈病院で、
1993年以降継続されている、
微小甲状腺乳頭癌に対するアクティブ・サーベイランスの歴史を、
まとめた論文です。

ここで対象となっている甲状腺微小乳頭癌(Papillary thyroid microcarcinoma)
というのは、甲状腺乳頭癌のうち、
診断された時点での大きさが、
最大径で1センチ以下の腫瘍のことです。

1センチ以下の甲状腺のしこりは、
通常触診では感知することは困難で、
別個の検査をした時に、
たまたま見つかるというのが通常でした。

それが超音波検査の進歩により、
診断される頻度が最近増加したのです。

これまでの別個の病気などで亡くなった方を解剖した結果では、
その5から36%に甲状腺微小乳頭癌が見つかっています。
15の研究データをまとめて解析した論文では、
併せて989体の解剖所見として、
その11.5%で甲状腺微小乳頭癌が発見されています。
こうした潜在癌の多くは非常に小さなもので、
報告によれば33から79%は1ミリ未満の大きさです。
その27から50%は多発性です。

大雑把に言って、
臨床的に診断される甲状腺乳頭癌の、
100から1000倍は多くの潜在癌が、
実際には存在していることになります。

癌の発見が増えるのは、
主に無症状の人に対して、
首の超音波検査やCT検査が行われることによります。
韓国では一時期甲状腺の超音波検査が、
公費による癌検診の安価なオプションとして、
一般住民に対して施行されたので、
甲状腺癌の診断数はそれ以前の15倍にまで増加しました。
その多くは微小癌の範疇に属するものです。

甲状腺微小乳頭癌の生命予後は非常に良好で、
リンパ節転移や遠隔転移を伴う事例を含めて解析しても、
死亡率は0.3%に満たないというレベルです。

微小癌であっても、
これまでの治療方針は原則は手術による切除でした。
しかし、甲状腺外に進展したり遠隔転移を起こすようなリスクの低い癌では、
手術をしないで慎重な経過観察のみを行うという方針も、
1つの選択肢として存在しても良い筈です。

同じく生命予後がトータルには非常に良い癌で、
検診による発見率の増加が問題となっていた前立腺癌においては、
進行のリスクが低いと判断される時に限って、
アクティブ・サーベイランスと言って、
定期的な経過観察を行いつつ、
進行の兆候がなければ治療はせずに様子をみる、
という方針が推奨されるようになってきています。

それでは、甲状腺微小乳頭癌においても、
アクティブ・サーベイランスが試みられても良いのではないでしょうか?

実はこれまでに行われた、
甲状腺癌についてのアクティブ・サーベイランスの研究は、
ほぼすべてが日本で行われたものです。

中でもその先陣を切ってこの試みを行なっているのが、
神戸にある甲状腺専門病院の隈病院です。

隈病院は小さなしこりであっても、
細胞診で癌と診断されれば、
切除することが当たり前であった1993年に、
既にアクティブ・サーベイランスの試みを開始しています。

上記文献によれば、
1993年から2016年の24年間に、
4023名の低リスク甲状腺微小乳頭癌の患者さんが、
アクティブ・サーベイランスの対象候補となっています。

ただ、実際には1993年の時点では、
隈病院に勤務する外科医の中でも、
その是非についての見解は割れていたようです。

こちらをご覧下さい。
アクティブサーベイランスの効果隈病院.png
上記文献の中にあるグラフで、
各年ごとに診断された低リスク微小甲状腺乳頭癌の患者さんのうち、
どのくらいの比率でアクティブ・サーベイランスと手術が選択されたのかを、
示したものです。
黒い部分がアクティブ・サーベイランスで、
グレイの部分が手術です。

1993年の時点では、
実際にアクティブ・サーベイランスが選択されたのは、
患者さんの1割に満たなかったのですが、
その後急増して2014年以降は8割を超えています。

最近では2011年のみサーベイランスが選択される比率が低くなっていますが、
これは震災の年であることが影響をしていると思います。

当初は外科医が手術かサーベイランスかの決定をしていることが、
殆どであったのですが、
サーベイランスが選択されることが多くなって来ると、
内分泌内科医がその決定に当たるケースが、
最近では多くなっているようです。

アクティブ・サーベイランスの有効性と安全性については、
上記文献には詳しい記載がありません。

現状最もまとまっているのが、
以前にもご紹介したことのあるこちらの文献です。
隈病院の.jpg
2010年のWorld Journal of Surgery誌に掲載されたものですが、
1センチ以下の甲状腺乳頭癌が診断され、
細胞診での悪性度が低く、
臨床的に検出可能なリンパ節転移や、
周辺への浸潤が疑われる所見のないケースに限って、
患者さんの希望ですぐに手術と経過観察の2つの方針に振り分け、
平均で74か月の経過の比較を行った報告です。

アクティブ・サーベイランスを選択した患者さんは340例で、
腫瘍径が3ミリ以上拡大した事例は10年間で15.9%、
リンパ節転移が新たにみつかった事例は10年間で3.4%でした。
そして、腫瘍が増大したりリンパ節転移が見つかった時点で、
待機的な手術を行っても、
最初から手術を行った場合と比較して、
明確な予後の差は認められませんでした。

その後2015年にはすぐに手術をした場合と、
アクティブ・サーベイランスとの比較において、
手術の方が患者さんにとっての有害事象が多かった、
という結果が論文化されています。

ただ、このデータは単独施設のものである上に、
手術かアクティブ・サーベイランスかの振り分けを、
クジ引きではなく患者さんの希望になどにより、
主治医が決定するというプロセスを取っていて、
そこには当然かなりのバイアスが想定されます。
前立腺癌においての同様のデータは、
厳密にランダムな方法で施行されていますから、
比較するとかなり見劣りのする研究方法です。

ただ、現状はこれを超えるような研究は、
国内外を問わず存在していないのです。

低リスクの微小甲状腺乳頭癌の診断後の対応として、
積極的な治療以外にアクティブ・サーベイランスという選択肢を設けることは、
国内外のガイドラインにおいても、認められている事項ですが、
その有効性と安全性については、
より精度の高い多施設の臨床試験において、
確認をされる必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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水分を多く摂ると腎機能は低下しにくいのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
水分摂取と腎機能.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
水分摂取を増やすことが、
慢性腎臓病の患者さんの予後改善に結び付くかどうかを、
検証した論文です。

水を沢山飲むと健康に良い、
というのは意外に良く耳にする健康情報ですが、
その根拠が明確にされることはあまりなく、
具体的な水分の摂取量についても、
曖昧であることが殆どです。

アメリカでは1日にグラス8杯の水を飲むと良い、
というように言われることが多く、
これは1945年に専門機関が、
1日の水分量は2.5リットルを推奨したことから来ています。
ただ、この推奨は水分量全体でということで、
その大部分は食事から摂取していることが前提となっています。
つまり、食事以外に2.5リットルを追加で飲め、
という意味ではありません。

こうした水分摂取の推奨の殆どは、
根拠となる臨床データなどはないものですが、
唯一腎機能の低下予防という観点では、
一定の根拠が存在しています。

腎不全のモデル動物においては、
より多くの水分を摂取することが、
腎機能低下の要因となる、
AVP(抗利尿ホルモン)を抑制し、
腎機能の低下を予防することが報告されています。
人間においても水分摂取量が多いほど、
腎機能が保たれ、尿路結石のリスクが減少することが、
報告されています。

ただ、実際に腎機能が低下した慢性腎臓病の患者さんで、
より水分を多く摂ることが予後の改善に繋がるかどうかは、
これまでに明確な結論が出ていませんでした。

そこで今回の研究ではカナダの複数の腎臓病クリニックにおいて、
ステージ3の慢性腎臓病の患者
(推算糸球体濾過量が30から60mL/min/1.73㎡)
で1日の尿量が3リットル未満の631名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は通常の飲水量を維持し、
もう一方はより多くの水分摂取を促して、
1年間の経過観察を行っています。

水分の具体的な摂取量はこちらをご覧下さい。
水分摂取量.jpg
これはこの量の水分を、
食事以外に摂るという意味ですが、
たとえば体重が70キロ以上の男性では、
1日に1.5リットルの負荷を目指し、
3回の食事で500ミリリットルずつ水を飲む、
ということになります。

これは1つの目安ですので変動はあるのですが、
実際には平均で登録時には各群とも、
1日尿量は1.9リットル程度で変わらないのですが、
それが水分摂取群では、
1年後には平均で0.6リットル増加しています。

この水分負荷を行なうことにより、
AVP(抗利尿ホルモン)の状態を反映するコペプチン濃度は、
未施行と比較して有意に低下し、
腎機能の指標の1つであるクレアチニンクリアランスにも、
有意な低下の抑制が認められました。
ただ、今回主な判定目標とした糸球体濾過量については、
両群で有意な差はありませんでした。

今回の結果はそういう訳で、
水分負荷を行なっても腎機能の低下には有意な差はなかった、
ということになるのですが、
数値によっては一定の差は認められ、
どうやら、そう悪くはない、
ということは言えそうです。
今後より試験のデザインを工夫して、
症例数も増やして観察期間も長く取った、
より精度の高い検証が行われる必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者低血糖時グルカゴン反応に対するDPP4阻害剤の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4阻害剤と低血糖高齢者.jpg
2018年のDiabetes Obes Metab誌に掲載された、
65歳以上の高齢者糖尿病における、
低血糖時のホルモンの反応が、
糖尿病の薬によりどのように影響されるのかを検証した論文です。

これは今少しトピックとなっているテーマの1つです。

今糖尿病の治療薬として、
大きな柱となっているのがインクレチン関連薬です。

「インクレチン」とは一体何でしょうか?

インクレチンとは、
小腸から分泌される一種の消化管ホルモンで、
主に膵臓の細胞を刺激して、
インスリンを出させる作用を持っています。

インスリンを出させる、
最も強い刺激は、
勿論ブドウ糖です。

食事を取ると、その中の糖分が、
吸収されて血液に入り、
膵臓の細胞の中に入ると、その刺激が、
膵臓の細胞からインスリンというホルモンを出させるのです。
このインスリンが筋肉の細胞などに、
ブドウ糖を使わせる作用があるので、
ブドウ糖は速やかに細胞の中に入って利用され、
上がった血糖は正常に戻るのです。
このインスリンが足りなくなったり、
その効きが悪くなって、
余分な糖分が血液に増える病気が、
皆さんお馴染みの糖尿病です。

さて、ブドウ糖がインスリンを刺激するのは当然ですが、
食事をすると同時に小腸からは、
インクレチンという物質が分泌され、
それが膵臓の細胞にくっつくと、
その刺激も矢張り、インスリンを出させる作用があるのです。

つまり、インクレチンとは、ブドウ糖以外に、
食事に伴って分泌され、
膵臓のインスリンを出させる物質のことです。

インクレチンにはGIP(glucose-dependant insulinotropic polypeptide )と、
GLP-1(glucagon-like peptide-1 )の2種類があります。

このうちGLP-1 は、
小腸の下の方や大腸の一部から分泌され、
GIP は十二指腸から分泌されます。

どちらのホルモンも、食事の刺激があると、
分泌されて膵臓を刺激し、
インスリンを出させる作用は同じです。
また、膵臓の細胞を増加させる作用も、
共に持っていると言われています。
インクレチンは、膵臓の、一種の再生因子なのです。

ただ、GLP1が血糖値の高い時に、
膵臓α細胞からのグルカゴンの分泌を抑制する作用がある一方で、
GIPは低血糖時のグルカゴン分泌を促進すると報告されています。

GIPのこの作用は、
血糖の上昇に結び付く可能性がある一方で、
糖尿病薬に付きものの副作用である、
低血糖を予防するような効果があるとも思われます。

インクレチン関連薬にはDPP4阻害剤とGLP-1アナログの2種類があります。

DPP4阻害剤は飲み薬で、
DPP4というインクレチンなどを代謝する酵素を阻害して、
結果としてインクレチンの作用を増強する、
というタイプの薬です。
一方でGLP-1アナログは注射薬で、
インスリンのようにGLP-1そのものを注射します。

ここでお分かりのように、
同じインクレチン関連薬でも、
DPP4阻害剤はGIPとGLP-1を共に増加させ、
GLP-1アナログはGLP-1のみを増加させる、
という違いがあります。

この違いや薬の効果や安全性に、
何か影響を与えるものなのでしょうか?

糖尿病の患者さんの長期予後を改善する上で、
食後のグルカゴンの上昇を極力抑えることと、
医原性の低血糖を起こさないことが、
2型糖尿病の患者さんの管理においては重要なことです。

ここでインクレチン関連薬は、
高血糖時にのみインスリン分泌を促進する性質があるため、
低血糖を起こしにくいことが期待されています。
特にDPP4阻害剤はGLP-1だけではなくGIPも増加させるため、
低血糖時にグルカゴンの上昇反応を、
刺激するという可能性も想定されます。

グルカゴンはインスリンに拮抗するホルモンで、
その上昇は糖尿病の合併症などの進行に、
大きな影響を与えると考えられ、
最近ではインスリンより糖尿病の病態に本質的な役割を持っている、
というような意見もあります。
その一方で低血糖時に速やかにグルカゴンが上昇することが、
重症な低血糖の予防に、
これも非常に重要な役割を果たしています。

ただ、これまでの研究においては、
低血糖時のグルカゴン上昇の反応に、
DPP4阻害剤とGLP-1アナログで特に差はない、
という結果が多いのです。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
血糖降下剤の副作用の低血糖のリスクが高い、
65歳以上の高齢の2型糖尿病患者で、
メトホルミンによる治療を行って、
コントロールの指標であるHbA1cが6.0から8.3%の28名を対象として、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はDPP4阻害剤のシタグリプチン(商品名ジャヌビア、グラクティブなど)
を1日100ミリグラムで1回で上乗せ使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
4週間の治療を行い、治療終了後に、
朝食負荷によるインスリンやグルカゴンの反応と、
人工膵臓を活用して人工的に低血糖を誘導し、
低血糖時のグルカゴンの反応を比較検証しています。
更に4週間の未使用期間をおいて、
両群を入れ替えて同じ検証を再度施行しています。

その結果、
食後のグルカゴン濃度の上昇と、
血糖値が3.5mmol/L(63mg/dL)の時点でのグルカゴン濃度は、
偽薬と比較してDPP4阻害剤使用時には抑制されていましたが、
血糖値が3.1mmol/L(56 mg/dL)の低血糖の時点では、
グルカゴン濃度には両群で差はありませんでした。

今回の検証ではDPP4阻害剤を上乗せした方が、
低血糖時のグルカゴン上昇が促進される、
という結果は得られませんでしたが、
高血糖時のグルカゴン分泌を抑制して、
患者さんの長期予後の改善に結び付く可能性があり、
低血糖時のセイフティガードとしてのグルカゴンの上昇にも、
悪影響を及ぼしていないという点から考えて、
高齢者に適した糖尿病治療薬であるというこれまでの見解を、
サポートする知見であると言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「君の名前で僕を呼んで」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
君の名前で僕を呼んで.jpg
「モーリス」のジェームズ・アイボリーが脚本を書き、
新進気鋭のスタッフとキャストが顔を揃えた、
原作は異なりますが、
「モーリス」のリメイクといった狙いの映画です。

北イタリアの優雅な別荘で、
17歳の高校生の大学教授の息子と、
24歳の大学院生の青年が一夏の恋に落ちます。
今ならすぐに同棲、結婚の流れにもなるのですが、
時代は1983年に設定されていて、
その恋は秘めたるもののまま終わります。

物語は繊細かつ濃厚に、
その一夏の美形の男性同士の恋愛を、
ひたすらに綴って終わります。
それ以外の要素、社会性とか貧富の差とか、
性感染症とか上流社会の嫌らしさとか、
そうした余計なものは何もありません。
エリートの美少年が美しくホモセクシュアルな初恋をして、
切なくなってお終いです。
その意味でとても純粋な映画です。
ただ、イージーリスニング風のバロックに、
ポップス調の主題歌がポイントで被ったり、
電車の別れなどの如何にもの構図や、
水や果実などを使った露骨な性愛の象徴的表現など、
ちょっと昔の文芸映画のようでいて、
そのまがい物のような胡散臭さもなくはありません。

それでも、かつての同性愛の文芸映画の系譜を、
ここまで忠実に再現した辺りは、
演出にもなかなかの技量が伴っているとは言って良いと思います。

主役を演じているのは、
もう人気者のセレブ俳優アーミー・ハマーと、
新鋭でこれ以上はない美少年のティモシー・シャラメで、
ハマーはやや風格があり過ぎて、
大学院生というより助教クラスに見えますが、
いずれ劣らぬ美しさであることは確かで、
その2人が北イタリアの抜けるような青空の下、
ほぼ全編半裸での営みを繰り返すのですから、
個人的にはあまりそうした興味はないので、
それほどのめり込む感じにはなりませんが、
好きな方にはたまらないのではないかと思います。

映像は陰の部分の表現が素晴らしく、
夜の木陰の青さの複雑な階層であるとか、
昼間の家の中の日差しの当たらない部分の色合いなどが抜群で、
これは是非映画館で観て頂きたいと思います。

客席は女性中心で結構大入りになっていて、
その一方で男性客は、
「ああ、よく寝た」というような感想を漏らしている方が多い、
という印象でした。

そうした訳でかなり好みが分かれる映画ですが、
映像のクオリティは非常に高く、
こうしたものだと割り切って、その世界に浸り込めれば、
なかなか極上の後味が待っている映画だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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