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「スプリット」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
スプリット.jpg
アイデアに溢れたどんでん返しのある映画で有名な、
ナイト・シャマラン監督の新作が、
今封切り公開されています。

シャマラン監督の映画は、
「シックス・センス」「アンブレイカブル」、
「サイン」、「レディ・イン・ザ・ウォーター」、
「ヴィレッジ」を観ています。

どれも一筋縄ではいかない、
奇々怪々の作品なのですが、
所謂「どんでん返し」があるのは、
「シックス・センス」、「アンブレイカブル」、
「ヴィレッジ」の3本で、
「サイン」と「レディ・イン・ザ・ウォーター」の2本は、
シャマラン監督的には意外な結末なのかも知れませんが、
ヘンテコな伏線の回収作業はあるものの、
あたかもシベリア少女鉄道のお芝居のように、
「こういうもの」と思わないと、
楽しむことが出来ません。

この中で僕が最も好きなのは「アンブレイカブル」で、
奇妙なヒーローものとしてのお話が、
それを成立させるための奇怪な現実を呼び込むのです。
ラストに待ち構える「ショック」は、
新しいどんでん返しのあり方を、
教えてくれたような思いがありました。

さて、今回の作品はアメリカでは久々のスマッシュヒットとなり、
「シックス・センス」以来久しぶりに監督が、
「このラストは絶対に話さないでください」
という趣旨のことを予告で話しているので、
これはひょっとしたらかつての衝撃が再びなのかしら、
と何となく映画館に初日に足を運んでしまいました。

今回は3人の少女が、
23の人格を持つという謎の男に監禁される、
という導入のスリラーです。

男の診察をしていたカウンセラーの女性が登場して、
徐々に男を疑うようにもなりますし、
主人公の少女の生い立ちのトラウマなども、
怪しげに何度もインサートされるので、
如何にもどんでん返しがありそうな雰囲気は高まります。

そして…

ネタバレは出来ませんが、
個人的な感想としては、
「サイン」に似た脱力系のお話で、
力こぶを入れて観ていた分、
とても落胆を感じました。

「ラストの衝撃」というのはどんでん返しではなく、
別の「オチ」のことを指しているようなのですが、
その「オチ」は予備知識がないと意味不明のものなので、
これはちょっと不親切過ぎるのでは、と感じました。

要するにいつものシャマラン・クオリティです。

ただ、どんでん返しの期待をしなければ、
監禁もののサイコスリラーとしては、
なかなかスリリングに出来ていて、
それだけでは平凡ではあるのですが、
退屈はしない作品には仕上がっていたと思います。

シャマラン監督の憎めない方であれば一見の価値はあります。
ラストの脱力系のオチを含めて、
この奇妙さこそがシャマラン監督の世界なのだと思います。
くれぐれもラストのどんでん返しなどには、
期待をしないでご覧ください。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「無限の住人」(2017年実写映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
無限の住人.jpg
人気コミックを実写映画化し、
木村拓哉さんの主演で話題のチャンバラ映画を観て来ました。

監督の三池崇史さんはともかく多作で、
完成度などには頓着しない、
娯楽大作であっても趣味的な映画を作る人です。
多くの皆さんと同じように、
僕も何度も「騙された!見なければ良かった!」、
と叫んだ覚えがあります。
ただ、たとえば「スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ」のように、
ちょっと他の監督であれば、
とてもこの規模で作ることは無理だろう、
というように思う怪作もあり、
あれはとても楽しめました。
日本なのにウエスタンで、
登場するのは魑魅魍魎ばかりで、
しかも全員英語でセリフをしゃべり、
大真面目に血みどろ荒唐無稽アクションに興じるのです。

今回の作品に関しては、
ビジュアルを見ても、
奇怪な風貌の剣客達がゾロゾロ出て来て、
不死身のキムタクと死闘を演じるというのですから、
これは「ジャンゴ」の再来で、
三池監督の一番良いところが出るのではないかしら、
と不安もありながら、
仄かな期待をもって劇場に足を運びました。

行ったのは品川プリンスシネマのシアター1でしたが、
観客は数えるほどで、
スクリーンは上下が切れてシネスコになるという、
僕の嫌いなタイプでした。

最初から元気は出ません。

映画としては「ジャンゴ」の路線に近いもので、
理屈はなくひたすら荒唐無稽なチャンバラの連続する世界で、
その意味では予想通りでした。

ただ、正直あまり血沸き肉躍る感じにはなっていません。

まず、主人公が不死身だというだけで強くはなく、
強い相手にはすぐに負けてしまうのですが、
それから復活してすぐ勝負がつくという感じで、
決闘の醍醐味がありません。
北村一輝さん演じる怪人は見かけは物凄いのに、
隙をついて殺してしまうだけで終わりますし、
滅茶苦茶強い戸田恵梨香さんに対しては、
最初からあまり戦意がなく、
「俺は死にたい」みたいな感じですし、
結局戸田さんの方が、
「戦うことに疑問を感じた」みたいなことを言って、
勝手に去っておしまいです。
海老蔵丈は同じ不死身という設定ですが、
もう死にたかったようで、
勝手にバラバラになっておしまいです。

なんじゃこりゃ!

とても元気が出ません。

トータルには角川映画の「魔界転生」みたいなタッチの映画で、
あれも実際に観るとかなりガッカリだったのですが、
もう少し対決の躍動感はありましたし、
徹底した「悪」がもっと登場して盛り上げてはくれました。
主人公は千葉真一さんの柳生十兵衛ですから、
こちらは強いのは当たり前ということで、
安心して観ていることが出来るのです。

それが今回のキムタクは、
不死身の身体を呪っていて、
死にたいというくらいに思っていて、
その上簡単に何度もやられてしまうので、
とても感情移入の仕様がないのです。
敵に対してもただ破れかぶれで立ち向かうだけで、
作戦というものは何もありません。
敵側も最初の方で「不死身」という設定が分かるのに、
それに対して効果的な対策をとるような姿勢がありません。
この頭脳戦の要素が全くないというところが、
この作品が盛り上がらない大きな理由です。

キャストは概ね頑張っていましたし
(特に徹底した悪党を演じた市原隼人さんが良かったです)、
過去の時代劇へのオマージュと言う感じの画面構成も、
悪くないと思いました。
次々と見せ場が繰り出されるので、
そう退屈はせず2時間20分を過ごすことが出来ます。
ハラキリ、ゲイシャ、コスプレと、
海外へ売るために日本の売り込みエッセンスを取り入れるのも、
さすが職人芸という感じはあります。
ただ、PG12が限界のレートだったと思うので、
三池監督としてはもっとバイオレンス描写は過激にしたかったと思うのですが、
比較的穏当なものにとどまっています。
三池監督のいつものスタイルで、
エロスの要素は極めて希薄です。

そんな訳でとても三池監督趣味の作品ではありながら、
そこここに中途半端な感じがあり、
それほど弾むような娯楽作にはならなかったことは、
とても残念に思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「T2トレインスポッティング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
T2 トレインスポッティング.jpg
スコットランドのジャンキーの若者の生活を、
生き生きと描いた人気作
「トレインスポッティング」の続編が、
20年ぶりに同じ監督、
ほぼ同じメイン・キャストの出演で今公開されています。

これは前作が好きな人には絶対のお薦めで、
勿論明るい話ではないのですが、
小さなエピソードの1つ1つが楽しく、
躍動感に満ちています。
ちゃんとジンワリと胸が熱くなるような場面もありますし、
ダニー・ボイル監督の演出手腕はさすがの安定感で、
ポップでありながら、
ミュージックビデオのような軽みには堕していません。

内容的には主人公のレントンと、
悪ガキ仲間のサイモンはある意味相変わらず。
凶悪おじさんのベクビーは、
怒涛の大活躍でちょっとホロリとするような見せ場もあり、
ちょっと足りない愛すべきスパッドは、
ある意味今回は主役級の扱いで、
ラストは入れ子の箱のように物語を締めくくります。

4人の20年前と同じ役者さんは皆抜群で、
前作を知れば知るほど胸が熱くなりますし、
他のキャストの20年後にもそれぞれの味わいがあります。

ラストは正直物足りない感じはあるのですが、
変に深刻な修羅場になるよりも、
観客の心に幸福な気分を残して良かったのではないかと思いました。
どう物語をもってゆくかは、
スタッフも相当頭を悩ました筈です。

この20年は何だったのかと考えると、
僕自身も冷静ではいられません。
世の中は確実に悪くなっていて、
誰かを憎めばそれで何となく落ち着く人は、
それで良いのかも知れませんが、
世界が悪くなってゆくのを、
誰の責任にもしたくないと思うと、
その閉塞感にもうんざりします。

この映画の描く現在はかなり牧歌的なのですが、
世界の深刻さは作り手もよく理解している筈なので、
これは苦いユートピアとして、
観るべき映画なのかも知れません。

これはとても面白い映画ですが、
オリジナルを知らないと全く楽しめないので、
未見の方は是非ソフトで視聴してから、
映画館に足をお運びください。

痺れますよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「午後8時の訪問者」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
午後8時の訪問者.jpg
デンマークの名匠、
ダルデンヌ兄弟監督の新作映画を観て来ました。
2016年のベルギー・フランス合作で、
舞台はベルギーです。

地味な映画ですが、
臨床の医者であれば、
誰でも心当たりがあるような導入になっていて、
予告を見てそのことに興味があったので、
それほどの期待はせずに鑑賞しました。

主人公は若い女性の臨床医で、
大学の研究室にポストを得て、
そこに移るまでの短い間だけ、
高齢で引退する開業医の代診をしていたのですが、
ある日診療時間を1時間オーバーした午後8時過ぎに、
玄関のブザーが鳴らされます。

主人公はその時クリニックの中にいて、
生意気な若い研修医の指導をしていたのですが、
その男性研修医の態度が悪いのでいらだっていて、
普段なら応対するところを、
ドアを開けることなくブザーを無視してしまいます。

ところが翌日警察がクリニックを訪れ、
防犯カメラの画像を解析した結果、
その時のブザーを鳴らしたアフリカ系の少女が、
その夜に殺されていたことを知ります。

彼女がその夜ブザーに応えてドアを開けていれば、
少女は殺されないで済んでいた可能性が高かったのです。
少女の死を自分の責任と捉えた主人公は、
大学の職を投げ打ってクリニックを継ぐことを決め、
それと同時に少女の死の真相を探り始めます。

意外にありそうでなかった設定で、
なかなか臨床医としては興味の沸く展開です。

ただ、これは医療ミステリーという性質のものではなくて、
移民の少女が助けを求めている時に、
それを見て見ぬふりをする心理を非難するという、
反トランプ主義のようなものが主題の作品です。

なので、それほど意外な真相があるとか、
サスペンスに富んだ展開がある、
という訳ではありません。
一応納得のゆく結末には至るのですが、
ミステリ―として考えると凡庸に思えます。
ただ、これは反トランプ主義が主題の映画なので、
その意味ではこれで充分なのだと思います。

こうした「思想押し付け映画」は大体そうなのですが、
脇筋に「人間ってそれでも捨てたものじゃない」的な、
大甘の人間賛歌のようなエピソードを持ってきていて、
この映画でも最初は批判していた研修医は実は良い奴で、
途中で主人公の説得に感じ入り、
一度はあきらめた医師への道を、
また目指すようになる話などを入れていました。
ただ、ケン・ローチ作品などでもそうですが、
主題の厳しいリアルな感じと比較して、
そうした脇筋があまりにご都合主義で楽天的で絵空事なので、
オヤオヤという気になるのです。
主人公が大学での就職を断って、
開業医を継承するという決断も、
何か身体がムズムズ痒くなるような感じがします。

それでもこの映画を結構面白く観られたのは、
ベルギーの医療事情などが割と語られていたり、
クリニックでのプライマリケアの診察などが、
割と詳細に演じられていて、
その辺りが興味深かったからです。

ベルギーもかかりつけ医制のようで、
かかりつけ医を登録し、
基本的にはその医師が初期診療は全てするようです。

それほどの必要がなくても、
往診には気軽に応じています。
ただ、かかりつけ医の開業医は、
かなり下に見られているようで、
クリニックを継承すると言うと、
引退する開業医は、
「保険の患者ばかりで儲からないし大変だよ」
みたいなことを言います。

大人も老人も診ますし、
子供も診ます。
お子さんの咽頭炎では、
解熱剤の屯用と共に、
生理食塩水を使って家で喉を洗浄することが指示されていました。
腰椎ヘルニアが疑われる疼痛の患者さんの依頼では、
往診してすぐにモルヒネを注射してから、
病院の受診を指示していました。

クリニックでの検査は原則せず、
検査は外に依頼したり病院に紹介するのですが、
その代わり聴診を詳細に取ったり、
診察は慎重に行なっています。

映画はテンポは遅くはないのですが、
音効は自然音のみで基本的にはなく、
ラストまでほぼ同じテンポで進行するので、
内容に興味が持てないと退屈に感じるかも知れません。

カットの1つ1つは意外に長く、
ドアの前で横向きの2人が長々と対話するような、
映画文法的にはオヤオヤと思うような場面もあるのですが、
車で主人公が襲われる場面などは、
車に乗せたキャメラでワンカットで撮っていて、
その辺りはさすがベテランという気がしました。

総じて丁寧な作りの良心的な映画ですが、
地味なので退屈には感じます。
あまり期待をし過ぎることなく、
リラックスして観ると、
意外に悪くないね、
というくらいにお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「はじまりへの旅」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は映画の話題です。

それがこちら。
はじまりへの旅.jpg
俳優として著名なマット・ロスが脚本と監督を勤め、
「指輪物語」のビゴ・モーテンセンが主役を演じた、
感動的なロード・ムービー、
「はじまりへの旅」を観て来ました。

これは本当に素晴らしい映画で、
今年観た映画の中では最も心を揺さぶられました。

「森で暮らす風変りな一家が旅に出たことから起こる騒動を描いた、
心温まるコメディ・ドラマ」
というような宣伝文句になっていて、
ポスターも上のようなほのぼのした感じを漂わせたものなので、
そうした薄味のコメディ映画を想像されて、
あまり映画館に足を運ぼう、
という気分にならないかも知れません。

僕も正直そうでした。

ただ、その割には映倫区分はPG12になっています。

何故ほのぼのした家族のコメディ映画が、
PG12なのでしょうか?

観るとすぐにその理由は分かります。

この映画はそんな生易しいものではないのです。

登場する一家のあり様は尋常ではありませんし、
展開されるドラマも尋常なものではありません。
それでいて作り物ではないリアルさがそこにあって、
僕達が当たり前と感じていた生活を、
根底から揺さぶるような刃が潜んでいます。
更には、その世界に一旦馴染んでしまうと、
彼らのことが途方もなく愛しく思え、
ラストには溜まらない感動に、
胸が溢れそうな思いにとらわれるのです。

アカデミー賞に相応しい作品であるように思いますが、
それでいてこの作品が作品賞にノミネートされず、
高名な映画評論家の先生も、
奥歯に物が挟まったような批評しかしていない理由も、
また分かるような気がします。

この作品は人間と家族の真実を描いているのですが、
その真実というのは、
無難で平穏を第一に考えるような社会にとっては、
最悪の危険思想であるからです。

昔は社会変革を叫んでいながら、
今はテレビを見て文句を言う程度で、
平穏に生活を送っているような大人がこの映画を観れば、
何等かの胸騒ぎを絶対に感じると思いますし、
それが素直にこの映画を素晴らしいと、
言えない理由ではないかと思います。

たとえばケン・ローチの「わたしは、ダニエル・ブレイク」は、
概ね評論家の皆さんは大絶賛で、
それはあの映画が思想の押し付けのようなもので、
ああした思想の押し付けは、
大衆の洗脳がお好きな皆さんには好ましいものだからです。

しかし、真実というのはもっと多面的で、
1つには割り切ることが出来ず、
もっと苦い後味のするものではないでしょうか?

地味な公開ですが結構お客さんは入っていて、
皆さん分かっているなあ、という感じがします。

以下、若干内容に踏み込みます。
後半のネタバレはしませんが、
なるべく鑑賞後にお読み下さい。

ビゴ・モーテンセン演じる主人公は、
革命主義者の過激派の活動家で、
同じく共鳴する活動家の女性と恋をして結婚。
彼女は大富豪の娘で弁護士のインテリなのですが、
そのキャリアを投げ打ち、
アメリカ北西部の森の中で、
おぞましい現代社会とは隔絶した暮らしをしています。

2人は6人の子供をもうけ、
自分たちで独自の教育を施していたのですが、
妻は双極性障害で6人目の子供を産んだ直後に病状が悪化。
手に負えなくなった主人公は、
結果的に拒否していた現代社会に頼り、
自分の姉の伝手で病院に入院させますが、
彼女は入院中に手首を切って自殺してしまいます。

彼女は異常としか思えないような遺言を残していたので、
それを達成するために、
主人公は6人の子供たちと共に、
数千キロ離れた妻の実家への旅に向かうのです。

このオープニングの段取りをお話しただけでも、
この作品がかなりとんでもない代物であることは、
お分かりが頂けるのではないかと思います。

更には2人の子育てが相当壮絶なもので、
いきなり鹿の首をナイフで掻き切って、
内臓を生で食い千切って、
それが大人になる儀式だと悦に入っていますし、
子供同士が本気での殺し合いのような戦闘訓練に興じています。

そこには子供を育てるということの崇高さと、
その恐ろしさのようなものが、
同時に描かれているような気がします。

物語はそれからかつてのアメリカン・ニューシネマを意識した、
ロードムービーの体裁で展開され、
葬式に殴り込むという、
「卒業」のような展開を経て、
母親の意志を汲んだ弔いの、
ちょっと壮絶なクライマックスへと至ります。

凡百の映画が10本束になっても敵わないような、
衝撃と感動とがそこに待っています。

この映画のマット・ロスはまさに天才で、
台本も演出もほぼ完璧と言って良いと思います。

ロードムービーですが探しているのは、
最初から死んでいることが分かっている女性です。
存在しない彼女の狂気が、
物語の原動力になっているという悲しさは、
おそらく今の社会の持つ喪失感そのものの投影なのです。

父親に狂気を見て、家族から離脱を図る少年を、
1人おいているという趣向も上手いと思います。
その残酷さを含めて、
監督は子供というものを本当に良く知っていると思います。

何にせよ、絶対に今観るべき1本、
としか言えない傑作です。

是非是非騙されたと思って劇場に足をお運びください。

期待は多分裏切られないと思います。
観終わって、何か素直に感動出来ないモヤモヤを感じたとすれば、
それはあなたの心の中にあって、
あなたが封印していた何かが、
目覚めようとしているからなのです。

最後に一点だけ不満は、
僕が観た新宿ピカデリーの4番シアターで、
あの劇場はシネスコをそのまま映す大きさがスクリーンになく、
上下が切れたシネスコになっています。
あの劇場は酷いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が外来を担当し、
午後は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
わたしは、ダニエルブレイク.jpg
昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた、
ケン・ローチ監督の新作社会派映画を観て来ました。

これは英国社会のセーフティーネットの、
非人間性と胡散臭さを徹底して批判した社会派の映画で、
主張は明確で分かりやすく、
語り口も平明でなめらかです。

主人公は59歳の大工さんで、
心不全(弁膜症性ではなさそう)に罹患して、
一命をとりとめますが、
主治医からは当面仕事をすることを禁じられます。

それで障碍者としての給付を受けようとするのですが、
日本の介護保険の申請のような聞き取りの検査を受け、
「身の回りのことは出来ます」というようなことを言ってしまうので、
給付は降りなくなってしまいます。

それで日本の失業手当のようなものを、
申請するのですが、
今度は求職活動をしないと認められないと言われ、
実際には仕事をすることを禁止されているにも関わらず、
履歴書の書き方の講習を受けさせられたり、
実際に仕事に応募して、
採用されてから「実は働けない」と言って、
相手に激怒されるなどの、
理不尽な仕打ちを受けることになります。

日本でも似たようなことはあるのですが、
主治医が仕事が出来ないという証明をすれば、
失業の給付自体は受けられると思うので、
おそらく仕組みが少し違うのだと思いますが、
何故主治医の方にもっと文句を言わないのか、
というような点については、
観ていても良く分かりません。

また、求職活動をしていないと失業の給付が受けられない、
ということは日本でもあると思いますが、
毎月ハローワークに行けばほぼOK、
という感じのものであったと思うので、
映画のように厳しい審査で締め上げられる、
というような状況はないように思います。

映画はこの主人公の顛末と、
彼を取り巻く人間として、
2人の子供を育てるシングルマザーの女性と、
仕事に就かず一攫千金を狙う黒人の青年などが描かれ、
人間同士が助け合う結び付きの素晴らしさと、
それを踏みにじる官僚主義の冷徹さを描きます。

明快で分かりやすく、面白い映画だと思います。

ただ、1つの主張をやや押し付けるような感じがあり、
その一方で登場人物は聖人君子には描かれていないので、
何となくモヤモヤした部分が残ります。

この映画においては国家の社会保障政策と行政は、
まあ悪の権化のように描かれています。
主人公とそれを取り巻く人々は圧倒的な正義として描かれています。
ただ、主人公にもかなり落ち度があり、
性格的にも偏狭で自分勝手で、
短絡的な思考を持っていることも事実です。
カッとして役所の壁に埒もない落書きを書きなぐり、
警察から厳重注意を受けたりもするのですが、
それをある種の英雄的な行為のように描いています。
しかし、こんなものが英雄的な行為でしょうか?
色々な見方があると思いますが、
ただの無意味な迷惑行為のようにしか、
個人的には思えませんでした。

要するに複雑で人間的な人物を描いているのに、
作品の構成としてはその人物が絶対の正義になっているので、
観ていてモヤモヤしてしまうのです。
政治的な主張を持つ映画にありがちの欠点ではないかと思いました。

同じストーリーであっても、
もう少し複雑な味わいで、
一方に決めつけるような結論がない方が、
色々な感想の余地を残して個人的には好みです。

そんな訳で個人的にはあまり乗れなかったのですが、
映画というのはこうした政治的な側面を多分に持つものでもあり、
そうした映画としては、
ケン・ローチ監督の執念を見る思いもあり、
イギリスの社会保障の状況を知るという興味もあり、
決して観て損というようには感じませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」(2017年実写版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴーストインザシェル.jpg
その後に多大な影響を与えた押井守監督の
「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」をベースに、
そこに原作のコミックと、
その後に制作されたアニメシリーズのエッセンスなども入れ込んで、
アメリカ映画として制作された実写版が、
今封切り公開されています。

主役のサイボーグの「少佐」はスカーレット・ヨハンソンで、
その上司をビート・たけしが、
人間時代の母親を桃井かおりが、
彼女をサイボーグ化した科学者をジュリエット・ピノシェが演じる、
というなかなか豪華で興味深いキャストで、
小出しにされる紹介映像などもなかなか凄そうなので、
期待された方も多いのではないかと思います。

僕もそんな訳で期待して初日に行ったのですが、
実際には典型的なエクスプロイテーション映画(見世物映画)で、
個人的には今年一番ガッカリの鑑賞になりました。

ただ、褒めている方や、
なかなか頑張っている、というような意見の方も多いので、
これはもう本当に個人の感想ということで、
ご容赦頂きたいと思います。

以下、悪口大会なのでご容赦下さい。

押井監督の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」と、
その続編の「イノセンス」は好きなのですが、
映画はその哲学的で難解な感じは皆無で、
「人形遣い」も出て来ません。
ビジュアルは確かにそのままに再現されている部分はあるのですが、
1995年には斬新だったビジュアルについては、
もう他の映画でさんざんパクられているので、
目新しい感じは全くありません。

物語はほぼ「ロボ・コップ」で、
その上悪役に魅力のないロボ・コップです。
「ロボ・コップ」の映画の魅力の多くは、
その悪役の造形と大暴れにこそあったので、
それがない「ロボ・コップ」というのはもう、
見る値打ちがほぼないと言って間違いがありません。
それが今回の映画です。

最初にエクスプロイテーション映画と言ったのは、
それほどお金が掛かっている映画ではなく、
トータルにはかなりしょぼいのですが、
一点豪華主義でお金を掛けた場面のみを、
封切り前に何度も何度も見せてしまって、
「出だしでここまで凄いのなら、本編はさぞ凄いだろう」
と思わせて観客を騙そう、
という魂胆がありありとあるからです。

実際にはこの映画はオープニングのみがまあまあ凝っていて、
その後はどんどんしょぼくなり、
最後まで大して盛り上がることもなく終わってしまいます。

予算規模としては、
「ドクターストレンジ」や「キングコング髑髏島の巨神」の、
10分の1くらいかなあ、と感じるスケールです。
それを同じくらいの大作のように宣伝する手法が、
エクスプロイテーションです。

唯一この映画で素晴らしかったのは、
主役のスカーレット・ヨハンソンで、
この映画の彼女は全てが完璧に素晴らしく素敵で、
こんなしょぼい映画に出てもらったことが、
申し訳なくなるような感じです。
ビートたけしさんは日本語の台詞が棒読みの上聞き取れないという、
何か唖然とするような芝居で、
乗り気な仕事であったとは到底思えません。

いずれにしても、
典型的なB級からC級くらいの娯楽映画で、
お金があまりないのに無理をしている感じは、
アメリカ制作とは言え、日本のSF映画のようです。
あまり3D仕様にはなっていないので3Dで観る必要はなく、
スケールはしょぼいので、
アイマックスなどの大画面で観る必要もないと思います。

勿論以上は個人の感想ですので、
違う感想をお持ちの方はお許し下さい。

個人的にはとてもガッカリでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「クーリンチェ少年殺人事件」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事はまた映画の話題です。

それがこちら。
クーリンツェ少年殺人事件.jpg
台湾映画の歴史的傑作と言われる、
「クーリンチェ少年殺人事件」が、
25年ぶりにフィルムをデジタル化して修復し、
今再公開されています。

封切りの1991年頃は僕が一番映画を観ていなかった時期で、
この作品の初公開版も観ていません。
封切りは188分であったそうですが、
その後236分というより長尺のバージョンが公開され、
今回公開されているのもその236分版です。

これは1961年の台湾を舞台にして、
第二次大戦後に中国本土から台湾に渡って来た一家が、
閉鎖的で抑圧的な環境と、
不運な偶然などから苦境に陥る物語です。

主人公はその一家の次男の高校生の少年で、
受験の失敗から不良高校生達との抗争に巻き込まれ、
曰くのある少女との淡い恋も無残な結末に至ります。

名作だとは確かに思いますが、
ほぼ4時間の上映時間で休憩なしというのは、
映画館で観る映画としては正直きついと思います。
僕が鑑賞した回は満席で、
上映時間中1人も途中でトイレに行く人はいませんでした。

皆さんさすがだなあとは思いますが、
僕自身ドキドキしてしまって、
まだまだ終わらないだろうなあ、
などと思うと、
あまり作品の世界に集中することは出来ませんでした。

僕は最初の188分版は観ていないのですが、
この内容で3時間8分というのは妥当な長さという気がしますし、
これなら休憩なしでも良いと思います。

今回の236分版はかなり編集はゆるい感じで、
1つ1つの場面のお尻は長過ぎると思います。
幾つかの山場があるのですが、
そこに向けて盛り上がるという編集にはなっていないので、
何となくモヤモヤしてしまいます。
「ニュー・シネマ・パラダイス」の時も、
結局最初の短縮版が一番観易く素直に感動出来て、
後から登場した長尺版は、
これが本当であるのは分かっても、
何かモヤモヤしてしまったのと同じような気分です。

今度是非188分版を観てみたいな、
というように思いました。
娯楽作品としては4時間休憩なしというのは、
成立はしていませんよね。
以前「旅芸人の記録」を観た時も、
トイレが気になって集中は出来ませんでした。

個人的には映画というのは、
特別な場合でなければ最初に公開されたバージョンが、
監督は不満であっても一番良いことが多いようです。

それでは次の記事に続きます。
今度は演劇です。

「ムーンライト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ムーンライト.jpg
昨年の米アカデミー作品賞を受賞した、
「ムーンライト」を封切り初日に観て来ました。

最近のアカデミー作品賞の受賞作は、
あまり好みに合わないことが多いのですが、
この作品は繊細で詩情に溢れた素敵な映画で、
最近の受賞作の中では個人的には一番好きです。

黒人でゲイで麻薬の売人で、
唯一の肉親の母親は麻薬中毒という、
かなり凄まじい設定の主人公の、
少年期と思春期と青年期とを、
それぞれ別の俳優が演じて、
3つのオムニバスのように構成されています。

話はかなり殺伐としてドロドロした部分があるのですが、
一番暴力的な部分は、
3つのエピソードの間の時間にあって、
語られていないという構成がユニークで、
それでいて物足りなさは不思議と感じません。
それは語るべきことがしっかりと語られているからで、
むしろ省略の部分に、
「取返しのつかない何かが終わったしまった」
という情感が滲み出て、
それが観客の心に深い余韻を残すのです。

これまでのアメリカ映画の感動のさせ方とは、
ちょっと違う感じがあり、
ウォン・カーウェイにも似た感じがありますし、
初期の北野武映画に近いような感じもあります。
そうした映画がお好きな方には、
是非観て頂きたいと思います。

主な舞台はマイアミですが、
その乾いた空気感のようなものが、
リアルに肌触りとして感じられます。
それに対比されているのが、
主人公が恋焦がれる象徴としての「海」で、
少年時代の主人公が、
薬の売人の男と一緒に海に入る場面が、
観客まで一緒に水に触れているような、
体感的な描写で素晴らしく、
その後は洗面台の冷水でしか、
主人公は水と触れることがないのですが、
最後に恋人の胸の中で、
少年時代の姿の主人公は、
静かに月光の輝く海に帰って来るのです。

とても素敵なラストでした。

主人公を演じた3人はいずれも素晴らしく、
決して似たビジュアルではないのですが、
巧みな編集は観客を混乱させることがありませんし、
ちょっとした仕草や表情が、
確かに同一人物であることを感じさせるのが上手いと思います。
少年時代の主人公の庇護者であった薬の売人を演じた、
マハーシャラ・アリがアカデミーの助演男優賞を取っていて、
出番は短いのですが、
確かに印象的な演技です。
どうしようもない母親を3つの時代全てで演じたナオミ・ハリスも、
マハーシャラ・アリに劣らぬ名演でした。

映像はシネスコの画面を活かした、
体感的な描写や空気感が素晴らしく、
技巧的なワンカットや、
MV的なカットもあるのですが、
正攻法の描写と遊びの部分が綺麗に融合しています。
如何にも黒人映画という感じの音効も素敵でした。

そんな訳で非常にクオリティの高い、
繊細で情感に溢れた素敵な映画で、
それほど長くもありませんし、
是非にお勧めしたいと思います。
清涼感のあるスッキリとした後味は、
最近の映画ではあまり感じられない性質のものだと思います。

それでは次の記事に続きます。
もう1本映画、それから演劇です。

「キングコング:髑髏島の巨神」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午後は休診となります。
受診予定の方はご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
キングコング:髑髏島の巨神.jpg
あの「パシフィック・リム」のスタッフが、
「ゴジラ」に引き続いて、
今度は「キングコング」を現代に蘇らせました。
そのアイマックス3D版を初日に見て来ました。

これは東宝の特撮怪獣映画をリスペクトした、
怪獣ファンにはともかく楽しい映画で、
特撮も勿論凄いですし、
設定やストーリーもマニアックに作り込まれています。

プロローグは第二次世界大戦末期に、
謎の孤島髑髏島に、
戦闘中のゼロ戦とアメリカの戦闘機が、
不時着するところから始まり、
そこから本編はベトナム戦争終結時という時間軸で展開されます。

ここで「地獄の黙示録」や「プラトーン」を大胆に換骨奪胎し、
ベトナム戦争映画の密林の軍隊ドラマを、
そのまま怪獣王国のような魔の島で展開させています。

「地獄の黙示録」の密林で、
「キングコング対ゴジラ」か「怪獣無法地帯」か、
というような怪獣タッグマッチが繰り広げられるのですから、
どちらの世界も大好物の僕としては、
これはもうどっぷりとその世界に浸るしかありません。

全体に東宝特撮怪獣映画へのリスペクトがあり、
最初にキングコングを探しに行く人間を集める、
と言う辺りや、
キングコングが大蛸と対決するのは、
もろ「キングコング対ゴジラ」ですし、
島に着いてからの段取りは、
「ゴジラ・エビラ・モスラ南海の大決闘」に良く似ています。
ラストにはゴジラやキングギドラ、モスラ、ラドンまで、
壁画の図像として登場します。
美男美女が良い側の怪獣のお気に入りとなり、
何故か心が通じて、
見つめ合ったり助け合ったりするのも、
一時期の東宝怪獣映画のパターンとほぼ同じです。

キャストもなかなか豪華で、
それも単なるお飾り的な出演ではなく、
怪獣を前にして熱演を繰り広げています。

SFXも凝りに凝っていて、
クライマックスの怪獣同士のバトルは、
「パシフィック・リム」と同じですが、
あちらは夜の場面が多かったのに対して、
今回はラストは昼間の光の中での対決となり、
より画面は鮮明で迫力を増しています。

見せ場は本当に山盛り沢山なのですが、
特に最初にキングコングが米軍ヘリの編隊を襲う場面の、
巨大なものがいきなり襲ってくるという、
体感的な描写は新鮮に感じました。

大画面の3Dで見ることを想定した作りになっているので、
是非アイマックスかそれに準じた規格の大画面で、
3Dでの鑑賞をお勧めします。

他愛のない作品ですが、
血沸き肉躍る最新版の怪獣映画として、
好きな方には絶対のお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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