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「哭声/コクソン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
コクソン.jpg
國村隼さんが謎の日本人として出演したことでも話題の、
韓国のサスペンス・ホラー映画を観て来ました。

これは変に格調の高い映画であるかのような、
実際の内容からすれば大袈裟な感じの批評もあり、
それから逆に罵倒するような感じの批評もあります。

この映画は、
確かに國村さんがインタビューでも話しているように、
新約聖書のキリストの挿話がベースにあり、
キリストとも悪魔とも見える人物と、
キリスト教の聖職者の若者との対話の部分には、
確かにそうしたテーマ性も出てはいるのですが、
通俗的なゾンビ物ホラーのバリエーションですし、
その範囲ではとても面白くて、
韓国映画らしい力押しが素晴らしいので、
謎めいたラストを含めて、
あくまでそのジャンル物として楽しむべき映画だと思います。

ラストの謎については、
「氷の微笑」のパターンと同じで、
一度話をひっくり返しておいて、
最後にぼやかして煙に巻くということではないでしょうか?
それ以上の深読みは意味がない、
というのが個人的な意見です。

ただ、クライマックスの迫力と凄みは、
聖書の挿話を下敷きにして謎めいた対話をすることにより、
醸成されている部分が大きいので、
その意味では娯楽として成功しているのではないかと思います。

ミステリ―色のあるホラーとしては、
なかなかの力作で、
前半のユーモアを交えて描かれる、
寒村の風景描写も良いですし、
猟奇的な事件の連鎖と、
その背後に見え隠れする、
國村さん演じる謎の日本人の不気味さも良いのです。
イケメンの祈祷師が登場する辺りからアクセル全開となり、
怒涛の力押しの場面が連続します。
もう終わりかと思うとなかなかそうはならず、
ラストには聖書のエピソードを下敷きにした、
それまでの光が不意に闇に覆われるような、
幻惑的な場面が待っています。

かなり凄まじい話ですが、
残酷描写は穏当なものになっていて、
おそらくもう少し過激なバージョンもあることが、
推測されます。
日本版は年齢規制を避けたのではないでしょうか?
ただ、それでも子供の使い方など、
とても後味は悪く、
子供が見て良いような作品とは思えないので、
この作品に年齢規制がないのは、
ちょっとおかしいと思いました。
最近の映倫の規制の根拠は、
正直訳が分かりません。

國村隼さんは謎の日本人という役柄で、
日本語のみを話しています。
ふんどし一丁で野山を駆け回り、
滝に打たれ、落ちたり転がったり血まみれになったり、
つるはしを持った連中に追い回され、
生肉を引きちぎり、変身もしと、
唖然とするような怪演で、
それでいてしっかり演技の持ち味も出ていたと思います。
「アウトレイジ」も良かったですし、
最近の國村さんは抜群だと思います。
彼の演技を見るだけでも、
この作品は一見の価値はあると思います。

趣味の良い映画ではありませんが、
決して分かりにくい映画ではなく、
ホラー・ミステリーというジャンル物としては、
なかなか面白い快作だと思います。

こうしたジャンルの好きな方にはお勧めです。

今日はもう1本舞台の記事があります。
それでは次に続きます。

「ナイスガイズ!」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ナイスガイズ!.jpg
1977年のロスを舞台に、
ラッセル・クロウとライアン・ゴズリングが私立探偵を演じて、
コミカルな大活躍を見せた映画です。

これはとても胸がすくような映画で、
ちょっとふざけすぎかな、とは思うのですが、
今年観た外国映画の中では、
最も楽しめた作品かも知れません。

同じライアン・ゴズリングの主演作としては、
「ラ・ラ・ランド」の2倍くらい楽しめました。

わざわざ1970年代のスモッグに覆われたロスを舞台にしていて、
日本でも70年代や80年代を舞台にした刑事ものはありますが、
日本の作品がどう見ても現代に撮ったとしか見えないのに対して、
この作品はその映像の肌触りといい、
物語の組み立て方からキャラの設定、
そして演じている役者さんの雰囲気から演出まで、
見事なまでに1977年を再現していて、
その時代に作られた私立探偵アクションのようにしか、
見えない、と言う点がともかく見事です。

懐古趣味と言えば懐古趣味なのですが、
後ろ向きの感じは全くなくて、
あの頃のアメリカの恰好良さを、
同時代的にそのまま表現しているのが良いのです。

現代を舞台にして同じような物語を紡いでも、
こんなに楽しくは絶対になりません。

台本もなかなかに凝っていて、
たとえばオープニングでポルノ女優が死ぬのですが、
その叔母さんが死んだ2日後に彼女を見た、
と言って探偵に調査を依頼するのです。
甦るようなシチュエーションでは全くないので、
あれっ?と思っていると、
それが後半で綺麗に伏線になっています。
上手いなあ、と思いました。

10万ドルを運んで欲しいと頼まれて、
ライアン・ゴズリングが愛車のハンドルを握るのですが、
ラッセル・クロウが、
「今は自動運転も出来るんだぜ、ちょっと手を放してごらん」
みたいなおかしなことを言うのです。
確かに手を放しても、
自動的にハンドルが動いています。
不思議だなと思って後ろを向くと、
何と人間と同じ大きさの蜂が後ろに座っています。
こんな馬鹿なと思うと、オチが付くのですが、
それが10万ドルの正体に繋がってゆきます。
全てが有機的に結合していて、
無駄というものがまるでありません。
遊びだらけに見えて、緻密という、
良く出来たシナリオのお手本のようです。

映像も凝っていて、
オープニングで車の事故が起こるところは、
事故に遭遇する家の子供が夜に起きて来て、
キッチンでミルクを飲もうとすると、
キッチンの窓から見える遠くの景色の中で、
今まさに崖から落ちる車が映り込むのです。
と思う間もなく、
その家の壁を突き破って車が突入して来ます。
ちょっとした場面なのに、
贅沢で手の込んだことをしていると感心します。

音楽は鉄板のかつてのヒット曲が目白押しで、
EW&Fの「セフテンバー」もありますし、
アメリカの「名前のない馬」もあります。
僕にはドンぴしゃりです。

キャストもラッセル・クロウとライアン・ゴズリングの共演が、
期待を超えるような素晴らしさで、
2人の掛け合いを見ているだけで、
ウキウキするような気分になります。
練り上げられたギャグの応酬が、
また楽しいのです。

そんな訳で、
基本的には70年代のパロディアクション映画なのですが、
とてもとても贅沢にかつ丁寧に作られていて、
アメリカ娯楽映画の底力を感じさせるような快作でした。

70年代や80年代のアメリカアクション映画の好きな人には、
絶対のお薦め品です。
とても楽しいですよ。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「愚行録」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日最後の映画記事になります。
それがこちら。
愚行録.jpg
貫井徳郎さんの同題のミステリーを映画化した作品が、
今封切り公開中です。

新宿の比較的大きなスクリーンで鑑賞しました。

貫井さんの原作は先に読んでいたのですが、
この方はミステリー作家としてはかなりムラがあって、
面白い作品がある一方で、
殺人事件の謎解きを期待して読んでいると、
結局謎は解かれないままに終わってしまう、
というような脱力系の作品も多く書いています。

「愚行録」はある一家皆殺しの殺人事件について、
関係者がジャーナリストに証言した記録をまとめた、
という体裁の作品になっていて、
事件の謎がメインのテーマという感じではないのですが、
一応ラストには犯人が提示され、
それなりに伏線が回収されるようにはなっています。

慶應大学と早稲田大学が実名で登場して、
慶應については、
内部生と外部生の格差があって妬みあってドロドロ、
というような描写になり、
桐野夏生さんの「グロテスク」のパクリのような感じでした。
どうもあまり上出来とは思えません。

これをそのまま映画にしても、
面白くもおかしくもなさそうだ、
というように感じましたが、
映画の脚本は、
1組の人物をスライドするような感じでリライトしていて、
他の部分はあまり変えていないのに、
原作とはかなり印象の異なる作品に仕上がっていました。

「ラストに3度の衝撃」みたいな宣伝文句があり、
実際に、犯人が分かる、
意外な場面でワンカットで殺人が起こる、
隠されていた秘密が明らかになる、
という趣向になっています。
格別意外性があるということでもないですし、
原作通りのことが起こるだけ、とも言えるのですが、
あまり起伏がなく意外性やサスペンスには乏しい原作を、
かなり上手く盛り上げようとしていた、
というようには思います。

ただ、ここまで頭をひねって原作を作り変えるのであれば、
もっと他に映画向きの原作があったのではないかしら、
という思いは抜けませんでした。

雰囲気的にはハノケのミステリー映画みたいな感じで、
悪くはないムードでした。
オフィス北野の制作で、
北野武映画のスタッフが入っているので、
オープニングのバスで席を譲るというシークエンスなど、
数分のエピソードで起承転結を付け、
ちょっとしたオチを作るやり方や、
必要以上に移動のショットを長く取るところなどは、
北野映画の影響が感じられます。
一方で余白を活かした無機的な空間での、
精神科医と女性とのやり取りや、
意外で唐突な殺人の瞬間を、
ワンカットで見せるやり口などは、
黒沢清監督の影響が顕著です。

僕は北野映画も黒沢映画も大好きなので、
そうした意味ではとても相性は良かったのですが、
まだ統一感を持ってそれが独自の演出に、
昇華しているという感じではないので、
何処かぎこちないパッチワークのようになっていて、
それが不満に感じました。

ワンカットの殺人シーンは、
置物で相手を殴りつけるのですが、
寸止めしているのが明らかに分かる芝居で、
とてもガッカリしました。
黒沢監督でしたら、絶対にああした詰めの甘い描写は、
しないと思います。
あれはガツンと本当に殴ったように見えなければ意味がなく、
そう出来ないのであれば、
カットを割った方が良いのです。

このように不満は多いのですが、
サイコスリラーとして僕好みの題材ですし、
もう少し独自性のある絵作りが出来てくれば、
大化けするのではないか、
という期待も持たせるものではありました。

次作を楽しみに待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「たかが世界の終わり」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日4本目の映画の記事にあります。

それがこちら。
たかが世界の終わり.jpg
カナダの新鋭グザヴィエ・ドラン監督が、
フランスの劇作家の戯曲を原作に映画化し、
豪華キャストの台詞劇として構成した新作映画が、
今封切り公開されています。

昨年のカンヌ国際映画祭のグランプリを獲得しています。

カンヌのグランプリは昨年の「ディーパンの戦い」もきつかったのですが、
今回は更にきつい作品です。
娯楽性はほぼ皆無の台詞劇で、
舞台戯曲の映画化でありがちですが、
台詞の微妙なニュアンスが分からないと、
理解不能という感じの作品なので、
正直ひたすら苦痛な鑑賞になりました。

かと言って、内容が難解だ、ということではなく、
物語は比較的明確で意図も不明な感じではなく、
音効の入れ方などはキャッチャーな感じなのですが、
台詞のニュアンスが分からないと、
何もない物語はひたすら単調で、
急に登場人物が興奮したり怒ったりするところもあるのですが、
その理由が明かされることもないので、
観る側はひたすらモヤモヤしてしまうだけです。

物語は家族から断絶して家を出た主人公が、
劇作家として大成し、
12年ぶりに家族の元を訪ねる、
というところから始まります。

彼はもう死期が迫っている、
ということがモノローグで明かされますが、
その詳細は不明で、
最後まで不明のままです。

彼は実家で自分がもう死ぬ、
という話をする筈だったのですが、
結局は話をすることは出来ず、
何も分からず、何も進展はしないままに、
物語は終わってしまいます。

主人公はどうやらホモセクシャルでHIVに感染し、
それで死期が迫っている、
ということのようです。
ただ、予備知識がないとそんなことは、
本編を観るだけでは全く分かりませんし、
家族がキスを嫌がったりと、
におわすような描写は確かにあるのですが、
それで分かれというのも随分と不親切な話ですし、
分かったところで特に面白いという訳でもありません。

日本映画でもこういうタイプの話はありますし、
ニュアンスが分かると、
もう少し面白く観ることが出来るのだと思います。
多分台詞のディテールにも妙味があるのだと思いますが、
それを察しろというのも無理があります。

ほのかに見える田舎の景色の空気感とか、
面白そうな描写もあるのですが、
タルコフスキーみたいに、
草原を風が渡るだけで物語などなくても気分が良い、
というような感じにはならず、
ああ、ちょっとムードがあるね、
くらいで終わってしまいます。

そんな訳でフランス語のニュアンスが分からないと、
ほぼ理解不能の映画で、
そうした素養のある方以外には、
お薦めは出来ない作品です。

褒めている評論家の方もいらっしゃるのですが、
おそらくは社交辞令か嘘を吐かれているように、
個人的には思います。

無駄に時間を使ってしまいました。

それでは次に続きます。

「スノーデン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

本日3本目の映画記事になります。
それがこちら。
スノーデン.jpg
社会派のオリバー・ストーン監督が、
アメリカを揺るがしたスノーデン事件を、
得意の虚実ないまぜの手法で映画化した作品を、
もう上映終了スレスレの映画館で観て来ました。

これは、まあまあ面白い、という評が多かったので、
観ることにしたのですが、
あまり面白くはありませんでした。

オリバー・ストーン監督というと、
膨大な情報を駆使した映画作りというイメージがあり、
少し事件についてお勉強出来れば、
という興味で鑑賞したのですが、
今回の作品では主人公の人物像も、
何かぼんやりしていて魅力がありませんし、
どうやって盗聴していたのかという具体的な部分や、
アメリカの諜報機関の内部の雰囲気や様子、
情報が暴露されてからの国家間の駆け引きなど、
面白いと思えるような情報が、
殆ど描かれていません。

物語は香港のホテルで、
スノーデンとマスメディアの記者が会い、
報道に向けての流れが始まるところから、
そのインタビューの回想という形で、
彼の情報機関との関わりが描かれます。
段取り重視の非常に薄っぺらな描写で、
ネットニュースでも分かる程度の情報が、
そのまま流されるだけという印象です。

よくある「世界仰天ニュース」の、
再現VTRくらいのレベルの物語なのです。
これはもう、ガッカリしてしまいました。

基本的にはスノーデンを英雄視しているというスタンスです。
最後は映像でアメリカの聴衆の前にスノーデンが現れ、
拍手喝采して終わるという感じになるのですが、
そんな単純なものだろうか、
と疑問に思ってしまいます。
スノーデンの人間性に全く踏み込んでいないので、
全てが薄っぺらで説得力がないのです。

個人的にはとても時間の損でした。

それでは4本目の映画の記事に続きます。

「ラ・ラ・ランド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事も映画の話題です。
それがこちら。
ララランド.jpg
前評判の高かったミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を、
初日の新宿の映画館で観て来ました。

これがビックリで最初の5分間、
声やボーカルの音が流れず、
一旦静止画像になってお詫びが流れ、
それから15分押しくらいで再開されました。
ただ、上映された作品の音声も少しバランスが悪く、
問題のある感じでした。
デジタルになってからの映画館で、
こんなことは初めての経験でした。

色々なことがありますね。

これは詰まらない映画ではないのですが、
期待が大きかっただけに、
「それほどじゃないな」というような感想を、
どうしても持ってしまいました。

主役の2人は抜群に良いので、
2人の演技を見ているだけで、
まあ元は取っているな、という感じにはなるのです。

新しい感覚のミュージカル映画、
というようなものをイメージしていたのですが、
あまりそうした感じではなくて、
特に前半30分くらいは、
演技を少しして急に歌いだし踊りだすという、
昔懐かしいミュージカルをそのままやっています。
それが主役2人はミュージカルのプロではないので、
歌も踊りも素人の感じです。
他のダンサーも一糸乱れぬダンス、という感じでもなく、
歌も鼻歌みたいな感じで、
露骨にアフレコである上に、
歌い上げるようなところもありません。

これは素人芸として見せたいのか、
下手糞なプロとして見せたいのか、
良く分からない感じです。

中段以降はあまりミュージカルシーンはなく、
普通のハリウッドメロドラマのパターンになります。
プラネタリウムでデートをすると、
星空にフライングになって影絵になったりするのも、
真面目にそのままやっているのですが、
あまりに古めかしくてその意図を疑ってしまいます。

ラストは「シェルブールの雨傘」みたいになるのですが、
あり得た未来をイメージして、
涙を浮かべてそれで終わりというのも、
どうもあまりに予定調和でクラクラしてしまいます。

台詞などはお洒落でセンスが良いのだとは思いますし、
ダンスに入る段取りなどもパロディめいて面白い部分があります。
ただ、トータルにはミュージカルというには、
あまりにミュージカル場面がお粗末で、
それでいて新しいものを目指したという感じもないので、
「本当にこれでいいの?」
という疑問が最後まで抜けませんでした。

音効は悪いままだったので、
2回くらい観ないとな、とも思うのですが、
正直1回でいいかな、
という感じの作品でした。

ちょっと残念です。

それでは3本目の映画に続きます。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はまずこちら。
リップヴァンウィンクルの花嫁.jpg
昨年の春に公開された岩井俊二さんの新作映画が、
先日1回のみ品川のシネコンで上映されました。

これは評価が高かったのですが、
昨年見逃がしていたので、
これはチャンスと思って映画館に足を運びました。

岩井俊二監督の作品は、
「Love Letter」と「スワロウテイル」しか観ていないので、
あまり良い観客ではありません。
両方ともヒットした作品ですが、
正直あまりピンとはきませんでした。

ただ、今回の作品はとても面白くて、
特に前半の1時間半くらいは目がスクリーンに釘付けになり、
作品世界に完全にのめり込みました。

主人公の黒木華さんが次々と理不尽な不幸に襲われるのですが、
先の読めない展開が斬新で、
ディテールも演出も面白く、
岩井俊二さんは天才ではないかしら、
と思いを新たにしました。

実際にはここまでが前置きで、
そこから本筋の「リップヴァンウィンクルの花嫁」の話に入るのですが、
本筋も確かに面白いものの、
バランス的にやや長過ぎる感じがするのと、
そこまで黒木華さんの「移動」で見せる物語が、
本筋に入ると謎のお屋敷という場所に固定されるので、
物語が少し弾まなくなるのです。
ただ、Coccoさんの最後のモノローグは、
凄まじくも素敵でした。

「コンビニへ行くと、自分が選んだ品物を、自分のためだけに、袋に詰めてくれていて、それを見るだけで世界の優しさに身体が壊れそうになる。それがつらいのでお金で物を買うのだ。世界が幸せで満ちているので耐えられなくなる」
というようなことを例の調子で言うのですが、
とてもとても素敵で衝撃的で、
こちらまで幸せな世界に耐えられなくて死にそうな気分になるのです。

その後の皆で裸になって泣いたりするのは、
ちょっと余計に感じました。

岩井俊二さんの独特の世界ですが、
今回の作品はこなれていて分かりやすく、
入り込みやすい作品でした。
プロの役者さんが主体のキャストですが、
それでいて全編がドキュメンタリーや素人の記録映像の様に撮られています。
独特の空気感の映像と、
わざわざ隠しカメラみたいな位置からのアングルが、
無造作に見えて極めて技巧的で完成度が高く、
そうかと思うと実際に隠しカメラの映像だった、
という落ちまで用意されています。
黒木華さんが全てを捨てて彷徨うところでは、
一転して非常に美しい都会の廃墟が、
スクリーン一杯に広がるのです。
実に素晴らしいバランス感覚でした。
2人の花嫁を上から撮った長いワンカットも、
勿論最高です。

役者は黒木華さんが振幅の大きな受けの演技で素晴らしく、
Coccoさんも存在全体を画面に残し、
また綾野剛さんの得体の知れない心地良い存在感も抜群でした。

テーマには重く暗い部分もあるのですが、
どんな苦境でも平然と生きることしか選択肢にない、
黒木さんの生き様が一筋の光として利いていて、
これは岩井監督の「こんな世界でも貪欲に生き続けろ」
という強いメッセージだと感じました。

ちょっと長過ぎることを除けば、
文句のつけようのない傑作で、
最近詰まらない映画を何本も観てしまったので、
本当に清々しく心に残りましたし、
この作品を大きな映画館の大スクリーンで観られて、
本当に幸せでした。

それでは2本目の映画記事に続きます。

「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

今日は休みなので趣味の話題です。

今日はこちら。
ミス/ペレグリンと奇妙なこどもたち.jpg
ティム・バートンの新作ファンタジー映画を、
新宿の映画館で観て来ました。

ティム・バートンはそこそこ好きなのですが、
「シザーハンズ」以外は、
面白いのに何かが物足りないというか、
何処か決定的な部分で少ししくじっているような感じが、
観終わるといつも残ってしまいます。

今回の作品はオープニングの原色のフロリダの風景から、
如何にもティム・バートンという絵作りでいいな、と思いますし、
時空を超えて永遠に同じ1日を繰り返す「奇妙なこどもたち」に出会うまでも、
ややまどろっこしい感じもありますが、
なかなか上手く出来ています。

少し不満に感じるのはその後の展開で、
対決する敵がかなり間抜けで、
隙だらけの感じなので物語が盛り上がりませんし、
肝心のこどもたちの親代わりのミス・ペレグリンが、
実際には殆ど活躍しないのも物足りません。
主人公の少年も、
簡単に親を捨てて奇妙なこどもたちと行動を共にしてしまうので、
あまり情感や切ない気分が、
醸成されることもないのです。

このように物語としての練り上げは不足しているのですが、
その代わりに奇妙なこどもたちや、
まがまがしい怪物や悪党などのビジュアルは、
ディテールまで作り込まれていて素晴らしく、
大量の骸骨騎士なども参戦する活劇や、
沈んでいた幽霊船が浮上するスペクタクルなどまであって、
2時間余りを退屈させることなく見せきる技量は、
いつもながら素晴らしく魅力的です。

そんな訳でバートンファンには楽しめる作品ではあるのですが、
物語が重層的に盛り上がるという感じではないので、
風変りなビジュアルを楽しめない方には、
退屈に感じるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

「湯を沸かすほどの熱い愛」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
湯を沸かすほどの熱い愛.jpg
昨年から公開中の日本映画「湯を沸かすほどの熱い愛」
を新宿の映画館で観て来ました。

あちらで少しこちらで少し、
という感じで公開されているので、
すっと行きにくい感じです。

宮沢りえさんの難病ものということですし、
死に瀕した女性を主人公とした家族再生の物語と聞くと、
如何にも手垢に塗れた古めかしい感じがします。
題名も泥臭くて何かセンスを感じませんし、
予告編を見ても、
とても面白そうな感じがしません。

そんな訳であまり封切り時には、
積極的に観ようと思わなかったのですが、
その後の評判が非常に良いので、
これは意外に良いのかも知れない、
と思って少し無理をして観て来ました。

鑑賞後の感想としては、
とても魅力的な日本映画で、
かなり感心しましたし、
何度か涙腺も緩みました。

監督は古い日本映画を非常に研究されている方だと思います。
幾つかこれはあれだな、
と思うようなところがあるのですが、
それが嫌味な感じにはなっていません。

宮沢りえさんが末期癌で2から3か月の命と宣告され、
残された命を使ってある決意をする、
というところまでは「生きる」以来、
何を今更の感のあるテーマです。

ただ、主人公の考えることが、
自分中心の身勝手な行動であったり、
住民のために子供の遊べる公園を作る、
というようなものではなく、
自分が人生において責任を持つべきことを、
生きている間に自分の責任で解決する、
という地に足の付いた終活なので、
それがまず物語として新鮮です。

しかもそれだけで終わりかと思うと、
途中からロードムービー風の趣向になり、
奥行のある人間関係が次第に明らかになると、
胸が熱くなるような感動の瞬間が待っています。

更にラストでは今度はアングラチックな趣向があり、
一気に不可思議な領域まで、
観客の心を運んでくれます。

正直ラストの趣向はそれまでとは違和感があり、
受け付けない方もいると思うのですが、
僕自身はそれを含めてこの作品が大好きです。

不満を言えば医療に関わる部分が絵空事に過ぎる点と、
死の間際でも宮沢りえさんがメイクをしているように見えることで、
診断した病院の医者の台詞も不自然ですし、
治療を拒否していながら、
倒れて救急で病院に担ぎ込まれるのは、
医療従事者の視点からは、
随分ひどいなあ、と思います。
更には至れり尽くせりのホスピスにすぐに入所が出来、
それも豪華な個室のようなのですが、
それは設定上成立は到底しないように思います。

余計なお世話ですが、
僕に医療監修を任せてくれれば良いのに、
とちょっと思ってしまいました。

オリジナルの脚本はそれ以外は非常に良く出来ていて、
別にミステリーではないのですが、
前半のちょっとした違和感が、
しっかりと伏線として後半に活きて来る部分や、
意外性のある展開に妙味があります。

演出は特に物に語らせるのが上手く、
何度も登場する風呂屋の煙突が、
最初はまず煙が出ない状態を見せ、
途中でモクモクと上がる煙を見せ、
最後は色の付いた煙が上がるのを見せるのが効果的で、
死の宣告を受けた主人公が、
暗い風呂屋の浴室で蹲っていると、
娘からの電話の着信で、
ほのかな光が闇の中に灯るところなど、
その小さな光が主人公を救う絆を感じさせて、
凡手ではありません。

シネマスコープの画面が上手く生かされていて、
役者のアップや美しい日本の風景、
向かい合う2人を横に長く配したカットなど、
映画館で映画を観る醍醐味を感じさせます。
ラストでは満を持したように、
60年代のカルト映画のようなタイトルバックが、
ドーンと出るのもその狙いが鮮やかでした。

役者は病中も綺麗に撮り過ぎていることを除けば、
主人公の宮沢りえさんが素晴らしく、
ダメ男を憎めない飄々とした感じで演じた、
オダギリジョーさんも非常に良い感じです。

更にいじめられる内向的で屈折した宮沢さんの娘を、
これまでにもこうした少女ばかりを、
何度も演じている杉咲花さんが演じているのですが、
これまでの集大成と言って良い非常に説得力ある、
魅力的な芝居で演じていて、
彼女のこれまでの代表作と言って良い、
充実した芝居になっていました。

この作品は風呂屋の家族を描いたミニマルな世界ですが、
それでいて世界を内包するような大きなテーマを持っています。

人間の社会がいつまで経っても残酷で不幸であるのは何故でしょうか?

この作品で語られていることは、
それは人間が自分の人生の責任を果たさないままで、
過去を忘却したり死んでしまったりすることにある、
という強いメッセージです。

作品に描かれた主人公の最後の生の足掻きから、
自分の人生を見返して観客の1人1人が、
自分が生きている間に果たすべき責任について、
考えるきっかけになれば素晴らしいことだと思いますし、
大仰に社会や政治を叫ぶような作品よりも、
遥かに観客の心の届くものが大きいように思います。

昨年中に観ていれば、
確実に昨年のベストの1つに選んでいた快作で、
如何にも日本映画らしい日本映画として、
迷われている方がいれば是非にとお勧めしたいと思います。

面白く、骨があり、感動的で素敵で、
そして少し変な映画です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


「エリザのために」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

日曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
エリザのために.jpg
珍しいルーマニア映画で、
カンヌでパルムドールを受賞したこともある、
クリスティアン・ムンジウ監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
この作品も2016年のカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞しています。

地味な単館上映の作品ですが、
ミヒャエル・ハネケのミステリーに似ている、
というような批評があったので、
それは意外に面白いのじゃないかしら、
と思って足を運びました。

映画館は高齢の方が多く、
この人たちがこの映画を観て、
一体何を考えるのだろうか、
と少し考え込んでしまいました。

悪い映画ではないのですが、
ヨーロッパ映画にありがちな、
余白が多いタイプの作品で、
謎は殆ど明らかにはなりませんし、
画面の凝集度も高くはなく、
ラストは大甘のハッピーエンドになるのも、
何かもやもやしてしまいました。

ごめんなさい。
あまりお勧めの感じではありません。

主人公は外科医で、
妻とはあまりうまくいっておらず、
1人娘を溺愛しているのですが、
大学受験の娘がケンブリッジに入学が決まりかけていて、
最終試験の前日に暴漢に強姦をされかかる、
という事件が起こります。

毎日学校まで主人公は車で娘を送ってゆくのですが、
たまたまその日は本人が少し前で下してと言うので、
校門までは送らなかったのです。
主人公は娘の高校の女教師と不倫をしていて、
事件の一報を不倫現場で聞いたりもするので、
主人公はその事件に責任を強く感じます。

エリザは平常心で試験を受けられるような状態ではなく、
父親は知人の警察署長からそそのかされて、
政治家を介してエリザの試験の点数を、
不正に水増ししようと画策します。
しかし、当のエリザは父親には拒絶的で、
謎の行動を繰り返し、
強姦犯人の捜査にも何故か非協力的です。
政治家は点数かさ上げの見返りに、
自分の肝臓移植の順番の繰り上げを要求するので、
主人公は二重の不正に手を染める羽目になるのです。

果たして主人公の綱渡り的な不正は、
どのような顛末を迎えるのでしょうか?
単純に見える強姦事件の裏に、
何が隠れているのでしょうか?

人物関係は複雑に絡み合い、
登場人物のそれぞれが秘密を抱えていて、
それぞれに行動を起こして物語が展開するので、
日本のテレビドラマに近いようなストーリーラインです。

もちろん、もう少し雰囲気重視で、
距離感のある展開ではあるのですが、
それほど内容に深みがあるという訳ではなく、
あまり掘り下げもないままに物語は終わってしまいます。

やたらと2人の人物が会話をする場面が多く、
そうした場面は殆どが長回しのワンカットで撮影されています。
なので、しばらく2人とも後ろを向いて話していて、
それから少し移動して横向きになる、
というような流れが多いのです。
悪くはないのですが、
それほど構図にこだわった完成度の高い長回しという訳でもなく、
同じような場面が多いので、
作品が単調になったきらいがありました。

ハネケに似ているというのは、
結局ミステリーめいたドラマが、
解決されないままに終わってしまう、という点だけで、
ハネケのような残酷さや凄みは、
この作品からは感じられませんでした。

アメリカ映画と日本映画だけでも詰まらないので、
ヨーロッパや中近東の映画にも手を伸ばそうと思うのですが、
数は沢山あるものの、
公開はすぐに終わってしまいますし、
以前よりあまりフィルターを通さずに公開されている印象なので、
好みの作品を探すのは、
なかなか難しいなと思いました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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