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SPAC「真夏の夜の夢」(2017年静岡芸術劇場版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は連休でクリニックは休診です。
昨日から奈良にいて、
今起きたところです。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
真夏の夜の夢.jpg
SPACのヒット作である、
野田秀樹さんの台本による「真夏の夜の夢」の再演を、
本拠地の静岡芸術劇場で観て来ました。
今年の3月です。

宮城聡さんのSPACは、
食わず嫌いであまり観ていなかったのですが、
昨年奈良の平城宮跡で上演された、
「マハーバーラタ ナラ王の冒険」は、
非常に幻想的で美しい舞台であったので、
東京でも見逃していて代表作の1つと言われている「真夏の夜の夢」を、
是非観ようと静岡まで出掛けて来ました。

静岡芸術劇場は複合施設として駅前にそそり立っていて、
バブルの残滓を感じさせる堂々たる劇場です。

主宰の宮城さんが1人1人観客のお出迎えをしていて、
プレトークもあるなど和気あいあいとした雰囲気です。

上演された「真夏の夜の夢」は、
シェークスピアの原作を、
野田秀樹さんが設定自体を変えて書き直したもので、
原案シェークスピア、作野田秀樹というくらいがちょうど良い、
ほぼ野田さんのオリジナルになっていました。

元々野田さんの日生劇場のシェークスピアシリーズの1本として、
書き下ろされて野田さんの演出で初演され、
再演はされなかった台本を、
2011年に宮城さんがSPC版として演出上演しました。
それが好評で東京公演を含めて何度か再演され、
今回の上演になりました。

この作品はともかく台本が素晴らしくて、
野田さんの才気がみなぎるという感じの傑作です。

原作には登場しないメフィストフェレスが、
妖精パックに拮抗する存在としてダークに活躍し、
少女の空想の中の森が、
想像力の枯渇によって死に瀕するという物語に、
書き換えられています。

前半の稚気あふれる諧謔と、
後半のカタストロフ、
そして喪失感を伴う切ないラストが印象的です。

野田さんはこうした世界が抜群で、
是非また幼稚な幻想世界に戻って来て欲しいな、
と思います。
政治ネタの芝居など本当に下らないです。

絶賛された舞台で原作は抜群の切れ味なのですが、
今回実際に観た舞台は、
正直少し落胆がありました。

最初に幻想の森が少女の背後に立ち上がるところなどは、
さすがSPACという感じがしたのですが、
中途半端に遊眠社的な要素があり、
それがあまりこなれていませんし、
役者さんの技量も、
高速度の台詞を耳に心地よく伝える点などにおいて、
あまり作品の求める水準を満たしているようには思えません。

今のNODA MAPはプロデュース公演的なものなので、
役者さんの台詞術や動きにもムラがあるのですが、
最盛期のかつての遊眠社は、
ともかく怒涛の動きと早口のメリハリの利いた台詞術が身上で、
それと比較すると、今回のSPACの芝居は、
動きも台詞も中途半端で、
それでいて遊眠社のスタイルと、
全く違うものを確立しているとも言えないので、
どうもそこに漂うある種の「偽物感」に、
居心地の悪い気分にとらわれてしまいました。

パックの役者さんやメフィストフェレスの役者さんは、
初演から同じ方のようなのですが、
演技の質が劇団四季の子供向けミュージカルのような感じでした。
中学生に見せる無料公演などもあるようなので、
要するに主なターゲットが中学生くらいなのかも知れませんが、
もう少し違うものを期待していたので、
個人的にはかなり落胆をしてしまいました。

ただ、これは僕が勝手にもう少し違う芝居を、
期待していたのが悪かっただけなのかも知れません。

また、途中で檻に閉じ込められたパックを、
観客の1人がクイズを解いて救い出すという、
ちょっと背筋がムズムズするような客いじりがあるのですが、
そこで手を挙げた観客が、
劇場の常連さんの地元のおじさんで、
クイズの答えを全部知っているので、
この地元感にも相当脱力する思いがありました。

駄目だよおじさん、そこで手を挙げるのは…
と心の中で叫びました。

そんな訳で牧歌的な体験でしたが、
期待が大きかっただけに落胆もそれなりに大きく、
しょんぼりした気分で静岡を後にすることになったのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

クロムモリブデン「空と雲とバラバラの奥さま」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
今奈良からの更新です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
クロムモリブデン.jpg
1989年に大阪で結成された老舗劇団クロムモリブデンの新作、
「空と雲とバラバラの奥さま」を吉祥寺シアターで先日観て来ました。

この劇団は初見です。
多くの公演を重ねていますが、
何となく観る機会を逸してしまい、
今更観るのもなあ、という感じになって、
これまで観ないで済ませてしまいました。

今回は丁度芝居でも観ようかなあという時に、
たまたま上演していたのでタイミングが合ったのです。

通常は結構シュールな作風のようなのですが、
今回の作品は1990年代の大人計画を思わせるような、
さびれた村でドロドロの人間模様が展開するというストーリーでした。

そもそもは婚姻という制度を、
考え直すという設定が、
元にあったようで、そうした要素も残ってはいるのですが、
どちらかと言えば因習に囚われた村で、
1人のよそ者の来訪者の悪意が、
村の秩序を粉々に破壊してしまう、という話です。

これをかなり抽象的でポップなセットで、
オリジナルな音効と共に、
やや様式的な部分のある演技で綴ってゆきます。

オープニングから中段までは、
語り口は分かりやすいですし、
役者さんの演技もまあまあなので、
ふんふんと思いながら観ていたのですが、
後半はあまり展開らしい展開がなく、
最後はビートの効いた音楽が大音量で鳴り響く中、
キャストが全員で行進しながら台詞を言う、という、
意味不明のちょっと誤魔化した感のある演出で、
何も解決しないままに終わってしまいました。

これには相当にガッカリしました。

総じて全てが中途半端な感じがありました。
セットも抽象なのか具象なのかはっきりしませんし、
衣装もリアルであるのか様式的であるのかはっきりしません。
役者さんの演技も決してリアルではないのですが、
統一された様式があるということでもなく、
個性を少し殺して芝居をしている感じですが、
それが効果的であるとも思えません。

まあこの劇団の作品としては、
今回はやや特殊な感じのものであったと推測されるので、
準備不足の面もあったのではないかと思いました。

個人的には特に後半はかなりきつい観劇で、
次を観るかどうかは、
難しい決断になるかなあ、という感想でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。

水族館劇場「この丗のような夢・全」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日ですが祝日なのでクリニックは休診です。
ただ、ほぼ1日クリニックでレセプト作業などの予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
この世のような夢.jpg
大掛かりな野外舞台で有名な水族館劇場が、
先日まで新宿の花園神社で公演を行いました。

水族館劇場は九州出身の、
遅れて来たアングラという感じの劇団で、
今では本当に珍しい大規模な仮設舞台と、
危険極まりない手作りの大仕掛けの数々が魅力です。

ちょっとこちらをご覧ください。
水族館劇場①.jpg
今回の舞台を後ろから見たところです。
見た目は正直味も素っ気もないのですが、
ともかく巨大なセットです。
客席は階段状になっていて、
非常に高さがあるのが特徴です。
テント芝居というのは通常ここまで高さのあるものではなく、
仮設劇場という感じに近いのですが、
手作りでこれだけの大きさというのは途方もないですし、
屋根はあるものの背後は空がそのまま見えていて、
その開放感も魅力です。

この高さがあるので、
上空から降り注ぐ大量の水がド迫力ですし、
吊り物がダイナミックなのも凄いと思います。

次をご覧ください。
水族館劇場②.jpg
舞台裏にセッティングされた、
工事用のクレーンとそこに付けられた飛行機のセットです。
この装置を利用して、
役者を乗せた飛行機が、
荒っぽく宙を舞います。

大劇場であれば、
「ミス・サイゴン」ならヘリコプターが、
舞台上に轟音と共に降りて来ますから、
別に目新しい訳ではないのですが、
人力の飛行機は、
ややたどたどしいスタッフのクレーン操作により、
ギシギシと不気味に不安定に動き、
今にも舞台の柱に激突してしまいそうですし、
舞台の池にはなぜか本物の鯉が泳ぎ、
そこから大量の水が噴水として噴出すると、
ビニール製の巨大な龍が舞い上がります。
全ては大雑把で猥雑で荒々しく、
この荒くれ具合がアングラの魅力です。

僕は駒込大観音で2回、
三軒茶屋の神社で2回、
これまで水族館劇場は観ていて、
今回が5回目です。

舞台装置は本当に魅力的なのですが、
作品自体は完成度の高いものではなく、
舞台転換はけたたましい音を立てて、
時間が掛かりますし、
台本は公演中にも完成していないことがしばしばあり、
役者さんがまだ台詞を覚えていなかったりすることも、
ままありました。

ただ、今回は昨年上演した作品を一部改訂しての上演、
ということもあったのだと思いますが、
作品のまとまりは悪くなく、
役者さんも比較的台詞をスムースに出せる人が多かったので、
これまで僕が観た作品の中では、
一番演劇としての質は高かったと思います。

舞台装置も、
水が噴出するプールのセットと、
左右に分割される2つの回り舞台は、
これまでの4回の公演と基本的には同じものでしたが、
後半に登場するパノラマ島のセットが、
自然物を取り込んだ比較的バランスの良いもので、
最後の屋台崩しを含めて、
これまででは最も楽しむことで出来ました。

水族館劇場にはやはり何回か練り上げての上演を、
今後は期待したいと思います。

いずれにしても、
色々と不満はあるのですが、
今では貴重な荒くれアングラ大芝居であることは間違いがなく、
今後も是非荒くれの芝居を続けて欲しいと思います。
場所は花園神社はあまりに定番でゴミゴミしているので、
もうちょっと町はずれのような場所がいいな、
とは思いますが、
今回が集客は多かったように思いますので、
矢張り利便性と知名度からすれば、
この方が正解なのかも知れません。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

サディスティックサーカス2017SPRING [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

もう夜ですが今日2本目の記事は、
演劇的なものの話題です。

それがこちら。
サディスティックサーカス2017春.jpg
テレビなどでは上演不能な、
変態的な芸や危険な芸、アングラ的なパフォーマンスを、
オールナイトで猥雑かつ淫靡に上演するイベント、
サディスティックサーカスにまた足を運びました。

最近は秋に豊洲のディファ有明という大きな会場で、
行なわれているイベントなのですが、
今回は以前行われていた新宿歌舞伎町の、
小さなプロレスのイベントなどが行われている、
FACEという比較的小さな会場に場所を移して
少しこじんまりと行われました。

中央にリングを置いてのプロレス興行風の舞台で、
正面が南側なので、
他の3面の観客席は見えない部分が多く、
その点はかなり不満です。
次は正面の席が取れなければ、
行くのをやめようかな、と思いました。

内容はトータルには昨年より良かったと思います。

アメリカから来たスクイドリング・ブラザーズという、
サイドショーのグループは、
皮膚に沢山針を刺して見せるのは、
ペインソリューションというノルウェーのグループのパクリで、
その意味ではやや二番煎じ的なグループなのですが、
二度目に見た今回は、
自分達がメインと心得たステージで、
120%くらいの踏ん張りだったと思います。
ともかく矢鱈と皮膚に針は刺しますし、
剣呑みでは、40センチくらいの剣を、
グイグイ口から押し込みます。

それ以外にAYUMIさんというフラフープのアーティストが、
浮遊感のある演技で素晴らしく、
それでいて最後はほぼ全裸になり、
搾乳しながら踊るという奇怪な様相を呈します。

新宿2丁目のおベガスという猥雑なショーも、
昭和の香りを濃厚に漂わせながらの魅力的なもので、
完成度は抜群です。
Abe“M”ARIAさんという、
ほぼかつての天井桟敷と同じような、
痙攣風のダンスをする方も、
見るのは2回目ですが、
動きにはキレがあって、
楽しく鑑賞しました。
ただ、途中で3点倒立をしたりして、
その時だけ動きのスタイルが変わるので、
そうした点はちょっと不満です。

僕の一番の期待は、
大好きなゴキブリコンビナートでしたが、
とても楽しかったものの、
BBG48とツタンカーメンの対決という趣向で、
時間も他の演目と比べると短く、
やや物足りない印象はありました。
マイクパフォーマンスなのですが、
前半で大暴れをしてマイクを投げ出したりしてしまうので、
マイクが傷んでしまって、
後半は大分グズグズになってしまったのです。
衣装やマイクがめちゃくちゃになる乱闘は、
ラストのみにした方が良かったのではないでしょうか?
同日の上野のイベントが、
仕事中で行けなかったのが残念に思いました。

トータルに今回は、
舞台はスムースに進んで密度が保たれていたのが良かったと思います。

いつもはもっと段取りがグズグズで、
何をやっているのか分からないような舞台が多かったのですが、
今回はそうしたものは少なく、
多くの演目がすっきりと仕上がっていました。

今年は是非ゴキブリコンビナートの本公演を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「髑髏城の七人」(Season花) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも、
石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
髑髏城の7人.jpg
客席全体が360度回転するという、
新機構の劇場のこけら落としとして、
劇団☆新感線の代表作の1つ「髑髏城の七人」が、
装いも新たに上演されています。

これから1年以上を掛けて、
4つの異なるバージョンが上演されるとのことですが、
その最初の公演「Season 花」を観て来ました。

場所は例の豊洲市場の隣で、
広大な更地にポツンとプレハブ的な劇場が建っています。
劇団四季の劇場とほぼ同じような外観で、
まあコストをそれなりに下げるには、
仕方のないことなのでしょうが、
殺風景でこれから芝居を見るぞ、
というワクワク感はあまりありません。

1フロアに1300席余りの客席があり、
その客席全体が、回転する巨大な盆の上に乗っていて、
その周囲360度に舞台装置が作られています。
通常の大劇場では、客席は固定されていて、
舞台転換では左右もしくは前後に、
舞台装置の方が動くのですが、
この客席回転式の劇場では、
客席の方が回転して移動することにより、
舞台の転換が行われるという仕組みです。

広角の270度くらいに緞帳の役目も果たすスクリーンがあって、
そこに風景などの映像が映し出され、
それを見ながら客席が回転します。

360度の舞台装置とは言っても、
4方向に出入り口の通路があるので、
比較的奥行のある装置の組める部分と、
ほぼ通路のようなスペースで、
奥行のないセットしか組めない部分があります。
従って、奥行のないセットの部分は、
物足りなさが残るのですが、
120度以上の広角に広がった舞台については、
ちょっとこれまでの舞台装置にはないスケール感があり、
これにはかなり圧倒されました。

クライマックスの戦闘シーンで、
上手から下手に川が流れていて、
丘が大きく後方に広がり、
遠方のホリゾントにも空の映像が映し出されています。
本当に映画のワンシーンの中に入り込んだような臨場感で、
これについては一度体感する価値は、
間違いなくあると思います。

ただ、意外に奥行のない場面はしょぼい感じもあり、
全てが豪華、という訳ではありません。
客席の回転には意外に時間が掛かるので、
それほどスピーディに場面転換が行われている、
というようにも思えません。
前半が1時間15分、後半が1時間50分という上演時間は、
これまでのこの作品の上演歴の中でも、
最も長いものだと思いますが、
長くしている原因の1つは、
その転換の時間にあるように思います。

さて、作品の「髑髏城の七人」は、
1990年に初演が行われ、
その後1997年、2004年、2011年と上演を重ねています。
僕は1997年のサンシャイン劇場、
2004年の東京厚生年金ホールのアカドクロ版、
2011年の青山劇場のワカドクロ版の3回には足を運びました。

戦国時代、織田信長の影武者が、
信長の死後に関東で日本支配を目論む、という話で、
設定はなかなか面白くワクワクする部分があります。
古田新太さんが善悪の影武者を1人2役で演じる、
というのがそもそもの眼目だったのですが、
最後の対決が1人2役では盛り上がりに欠ける、
と言う欠点がありました。

それで2011年版からは、
2人を別々の役者さんがするようになり。
古田新太さんは出演せず、
小栗旬さんと森山未來さんが、
それぞれ演じるという趣向になりました。

今回の舞台ではその趣向を踏襲していて、
善の影武者は2011年と同じ小栗旬さんが演じ、
悪の影武者は成河さんが演じています。
古田新太さんは美味しい脇役の鴈鉄斎での出演で、
殺陣の場面では昔懐かしいローラースケートも披露します。

ただ、成河さんは確かに高音の突き抜けるような声が良く、
演技も上り調子の役者さんですが、
背が低くて押し出しは今一つですし、
これじゃ右近健一さんと変わらないな、
という印象を持ちました。

百姓上がりの野武士で大暴れをする抜かずの兵庫は、
今回青木崇高さんが演じたのですが、
この役はどうしても橋本じゅんさんが目に浮かぶので、
やや物足りない感じは残りました。

作品としては面白いのですが、
あまり遊びがなく、
矢張りラストの大立ち回りが、
元の1人2役の設定が抜け切れない感じがあって、
盛り上がりに欠けるのは今回も同じでした。

新感線には他にも多くの優れたレパートリーがありますから、
この作品が本当に今回のこけら落としにベストであったか、
という点はやや疑問にも感じます。

ただ、一介の小劇場からのし上がり、
今や最盛期の劇団四季と同じようなことを、
堂々とやっているのですから、
つくづくいのうえひでのりさんは凄いな、
とは思います。

そんな訳で、
どうしてもキャストを4つに割っているので、
1回のステージで全てベストキャストという訳にはいかず、
その意味では欲求不満も残るのですが、
これまでにない舞台機構を持つ劇場を、
堂々と使った大芝居で、
一見の価値は間違いなくあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ほりぶん「得て(再演)」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日最後の記事は演劇の話題です。

それがこちら。
得て.jpg
ナカゴーの怪人鎌田順也さんと、
はえぎわの川上友里さんと墨井鯨子さんがタッグを組んで、
鎌田さんの作・演出に、
川上さんと墨井さんにゲストを加え、
毎回ワンピースの女性しか登場しないというユニット、
「ほりぶん」の第3回公演が、
阿佐ヶ谷の駅近くの地下の小劇場で上演中です。

ナカゴー関連の作品は最近人気があり、
今回も満席の盛況でした。

これは第2回公演の再演で、
前回はクリニックの開院直後でバタバタしていて観ていません。
第1回公演は足を運んだのですが、
作品的にはナカゴーで上演しているものとは、
少し違う傾向を狙っていて、
やや練り込み不足で不発に終わっていました。

今回の作品は再演ということもあるのだと思いますが、
オープニングの何気ない遣り取りから、
非常に精度高く練り込まれていて、
4人の役者さんも手練れが揃っており、
アンサンブルの良いので非常に楽しめました。

一種のホラーですが、
怖くて馬鹿馬鹿しくて、間抜けで、
それでいて過剰な熱気が舞台に横溢する70分で、
鎌田ワールドを堪能出来る快作でした。

物語としては掴みと中段の異様な盛り上がりは文句ないのですが、
ラストがいつも停滞気味になるのが鎌田さんの劇作の1つの欠点で、
それは今回も変わりはありませんでしたが、
とてつもない才能ですし、
いつかとてつもない演劇史上に残る大傑作が、
生まれるような予感が漂っています。

いつもは公共の視聴覚室みたいなところでの公演が多く、
雰囲気が全く演劇感がないのが残念でしたが、
今回は如何にもアングラ小劇場というタイプの小屋で、
こういう方が絶対いいよね、
というように思いました。
また、いつもはかなり無雑作な感じのある演出なのですが、
今回はメインとなる映像もしっかり作り込まれていますし、
統一感のある衣装と、
音効や照明もそれなりに「普通」に使用していて、
かなりクオリティの高い舞台になっていました。

鎌田さんの作品は、
初演は時間不足の感じがするものも多いので、
再演が良いな、という思いもしました。

以下ネタバレを含む感想です。

上田遥さん演じる遠山先輩と、
墨井鯨子さん演じる権代、
そして川上友里さん演じる大庭さんは、
仲良しの30代で、
ケンタッキーのスタッフとして働いていたのですが、
3人で旅行に行ったタイで、
ふざけていて墨井さんに押された川上さんは、
転んだ拍子に毒蛇に噛まれて死んでしまいます。

それから1年後に、
別のケンタッキーの店で働く、
青山祥子さん演じる出立さんという女性が、
上田さんと墨井さんの元を訪ねて来ます。

彼女は川上さんが付き合っていた店長を寝取って、
それを川上さんに目撃されるという、
修羅場を演じた人なのですが、
その後川上さんと和解して友達になり、
死ぬ前に川上さんから預かった、
ビデオテープを持って来た、
と言うのです。

墨井さんが自分が押したために、
川上さんが死んだのだと自責の念に駆られています。
出立さんは川上さんが本当は自分を許していないのではないか、
という疑念に駆られています。
そんな中でビデオが再生されるのですが、
ご想像の通り、
それは川上さんの怨念が籠った呪いのビデオで、
4人の女の罵り合いと、
阿鼻叫喚の地獄絵図がそこから始まることになるのです。

ラストは鯨井さんと出立さんは呪い殺されて、
あちらの世界の住人となり、
上田さんだけが取り残されて終わります。

前半にケンタッキーという実名を出して、
ファストフード業界の人間関係を、
面白おかしく綴るのは、
鎌田さんのいつものパターンです。

後半呪いのビデオが登場してからは、
「リング」のパロディになる訳ですが、
川上さんが登場するビデオ映像が、
非常に上手く作り込まれているので、
生身の3人との大暴れが新鮮味があって楽しいですし、
最後には満を持して川上さん本人も舞台に召喚されます。

今回はストーリーそのもののはじけっぷりよりも、
4人の手練れの役者さんの演技合戦と、
ビデオ画像を含めた緻密な演出に妙味があります。
クライマックスのいつもの大暴れも楽しく、
ナカゴーワールドを堪能出来ましたし、
次もまたとても楽しみになりました。

こういうものがあるので、
小劇場巡りはなかなか止められません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

アガリスクエンターテイメント「時をかける稽古場2.0」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
時をかける稽古場.jpg
討論型のシチュエーションコメディに異彩を放つ、
アガリスクエンターテイメントの公演に足を運びました。

今回は2014年に好評であった作品の再演で、
僕は初演は映像でしか見ていません。
人物設定などが少し異なっていましたが、
基本的な内容は初演と同じだったと思います。

小劇場の劇団が、
公演の2週間前になっても台本が全く出来ていない、
という状況で、
公演前日と入れ替わることが出来るという、
一種のタイムマシンが出現して、
如何に次の公演を実現するかというその一点で、
劇団員が大騒ぎを繰り広げるという2時間10分のドラマです。

アガリスクエンターテイメントという劇団が、
今のメンバーで上演する芝居としては、
一番無理のない設定であり内容だったと思います。
海外を舞台にしたシチュエーションコメディなども、
上演はされているのですが、
このキャストでは厳しいなあ、
と正直思うことが多く、
その点今回の作品はほぼ等身大の自分自身を演じているので、
違和感なく観ることが出来ますし、
作品世界にも入り込みやすいのです。

話し合いやエチュードを重ねながら、
丁寧に作品世界を構成したいったことが分かる内容で、
個々の役者さんの台詞は皆自分のものになっていて、
実際に稽古場に居合わせているように、
その遣り取りをリアルに感じることが出来ます。

正直なところ、
後半に少し失速する感じがあり、
トータルな完成度は後半で盛り上がりを見せる、
「紅白旗合戦」辺りと比べると落ちると思うのですが、
スタッフワークを含めたトータルな舞台の質としては、
僕が観た作品の中では、
これまでで最も高いものだったと思います。

一見の価値はある舞台としてお勧めです。

以下ネタバレを含む感想です。

発想の元ネタは、
ドラえもんの続きが描けなくなった人気漫画家のエピソードで、
タイムマシンで未来に行き、
次回の連載の載った雑誌を買って来て、
それを元にして続きを描くのですが、
それを実際に描いたのは誰なのかが分からなくなるという、
タイムパラドックスを扱った話です。
それ以外に藤子不二雄の短編の、
色々な年代の自分が会議をする話も、
参考にされているという気がします。

それを、戯曲が書けなくて本番2週間前になった、
小劇場の話に置き換えて、
台本がギリギリで出来上がった、
本番1日前と人物だけが入れ替わる、という話にして、
ちょっとひねった「ショー・マスト・ゴー・オン」の、
シチュエーションコメディに仕立てています。

前半は軽快に物語は進み、
公演直前に代役が立っているのは何故、
というようなミステリアスな部分を作って、
そこから未来の人間に現在の人間が、
次々と乗っ取られるような、
「ボディ・スナッチャー」テーマに移行する辺りが冴えていて、
これは素晴らしいじゃないか、
と感心しながら舞台を見つめました。
ここまでは最高です。

ただ、それ以降でより未来の人間が現れたりする辺りから、
少し物語が失速する感じになり、
インフルエンザで公演中止という展開には、
オヤオヤという感じで元気がなくなり、
最後もあまりキチンと物語に決着が付く、
というようにはならないので、
何かモヤモヤした終演となりました。

中段までは抜群の破壊力だっただけに、
個人的にはとても残念です。

結果的に「好きな時間を念じるとそこに行ける」
というようなご都合主義の話になっていて、
最初の公演直前と2週間前のみが入れ替わる、
という設定から、
大きく逸脱してしまったのが、
作品の求心力を弱めてしまったような気がします。

「それならもう、何でもありじゃん」
と思ってしまって、
舞台上の理屈っぽい遣り取りに、
あまり興味が持てなくなってしまうのです。

ここは矢張りワーム・ホールが1か所だけ開いている、
ということにして、
その枠組みの中で物語を展開させた方が、
より求心力のある作品に仕上がったのではないでしょうか?

作品の前半と後半とで、
この作品はテーマが変わるのですが、
そこが観客の生理と上手く一致していないという気がするのです。
台本がないから舞台が開かない、
という話が、
劇団員がインフルエンザで休んだので公演が中止になった、
という話になってしまって、
台本はどうとでもなるかのように、
後半には感じられてしまうので、
台本が出来ないというハラハラドキドキが、
消滅してしまうのが良くないと思うのです。

どちらかにテーマを絞った方が、
良かったのではないでしょうか?

この作品の良さは全編に横溢する熱気のようなもので、
ほぼ等身大の自分を演じている役者さんが皆生き生きと躍動し、
冷静に考えれば詰まらないことに、
必死で向かう姿は感動すら覚えます。
役者さんは皆好演で、
僕のひいきは凛々しい熊谷有芳さんですが、
台詞がないと悲しむ姿も楽しく、
大倉孝二さんそっくりの突っ込みボケをする津和野諒さんは、
今回に関しては抜群の脇でした。

セットもこれまでの舞台と比べると、
カッチリプロ仕様で出来ていましたし、
演出も綺麗で洒落ていました。

それだけに内容の求心力の不足には、
少し残念な思いもあったのです。

いずれにしても、
主宰の冨坂友さんが、
シチュエーション・コメディの、
稀有の書き手であることは間違いなく、
今後も期待をしつつ公演を待ちたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

三谷幸喜「不信~彼女が嘘をつく理由」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日2本目の記事は演劇の話題です。
それがこちら。
不信.jpg
三谷幸喜さんの新作が、
今池袋の東京芸術劇場シアターイーストで、
ほぼ2か月のロングラン上演中です。

これは段田安則さん、優香さん、戸田恵子さん、栗原英雄さんの、
完全な4人芝居で、
2組の夫婦のサスペンス仕立てのやりとりを、
シンプルな中央舞台で鑑賞する、と言う趣向です。

前半が1時間、後半も1時間あって、
その間に15分の休憩が入ります。

これは推理劇を作ろうとしたのだと思うのです。
トマなどのフランス産の推理台詞劇のパターンです。
三谷さんはドラマでは言わずと知れた古畑任三郎という、
推理ドラマの傑作を作っていますが、
演劇においてはミステリー色のある作品は多くても、
本格的な推理劇はあまりなく、
これまでに成功した舞台もないように思います。

今回の舞台はなかなかソツなくまとめていたと思うのですが、
推理劇としてはかなり凡庸な仕上がりで、
コロンボでさんざん使い古しのトリック(オリジナルはガーヴ)、
などが出て来て脱力する感じになりますし、
内容の意外性的なものが、
ほぼ全て先読みが出来るレベルのものなので、
観ていて少し意識レベルが低下してしまいました。

4人のキャストはいずれ劣らぬ手練れなので、
その意味では安定して観ることが出来ました。
今回は特に優香さんが良かったと思います。
役柄も一番丁寧に振幅大きく描けていましたし、
その期待に応える芝居を見せてくれたと思います。
段田安則さんと戸田恵子さんは、
相変わらず上手いのですが、
役柄に作者の熱意があまり感じられない気がするのが、
少し残念でした。

以下ネタバレを含む感想です。

段田安則さんは高校教師で、
その妻の優香さんもOLをしています。
この2人が隣人の夫婦を訪れるところから物語は始まります。
隣人は公務員と名乗る栗原英雄さんと、
専業主婦の戸田恵子さんの夫婦です。

2人は交流するようになるのですが、
優香さんが隣町の高級スーパーで、
戸田恵子さんが万引きをする現場を見てしまいます。
その秘密を夫の栗原さんに段田さんが話すと、
口止め料として200万円が渡され、
それを段田さんが妻には言わずに、
着服して愛人への手切れ金に使ったところから、
話は入り組んだ格好になり、
ついには殺人事件に発展します。

この段取りを4人の俳優の会話だけで、
軽快かつスピーディに進めてゆきます。
舞台上には6つの直方体の椅子があって、
それが自由自在に移動して、
幾つもの構図を表現する装置が洒落ています。

ただ、あまりにスムースに話が進むので、
淡々として盛り上がりには欠けます。
推理劇としては最初に書いたように、
筋立ては凡庸ですぐに先が読めてしまう感じなので、
次がどうなるのだろうと、
ワクワクする感じがないのです。

得意の言葉や人物のすれ違いによるギャグも、
今回はくすぐり程度に終わっていました。
役者は皆本当に上手いのですが、
役柄の振幅がそれほど大きくはなく、
この人の見せ場はここ、
と言う感じがあまりないので、
優香さん以外は、
それほど印象に残ることなく終わってしまいました。

特に戸田恵子さんは、
最近あまりエネルギー全開、
というような芝居に恵まれていないのが残念です。

「エノケソ一代記」でも感じましたが、
最近の三谷さんは長台詞が面白くなく、
淡々として内容がないので、
舞台が沈んでしまう感じになります。
今回も殺人の後の独白などがあるのですが、
大変詰まらなくてガッカリしました。

そんな訳でちょっとモヤモヤする感じの芝居でしたが、
きちんと帳尻は合わせて、
最低限見せるべきものは見せている、
と言う点はさすがにプロの仕事で、
ちょっとお芝居でも、
という向きにはそこそこお勧めの舞台にはなっていました。

三谷さんには、
また、「絶対これが描きたい」
というようなテーマが訪れることを、
期待しつつ、
これからも劇場には足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

ベッド&メイキングス「あたらしいエクスプロージョン」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
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浅草の九劇のこけら落としとして上演された、
富岡晃一郎さんと福原充則さんの劇団、
ベッド&メイキングスの新作公演を観て来ました。

これは敗戦直後の映画界を舞台にしたコメディですが、
ある程度史実は入れながらも、
自由自在に物語を膨らませていて、
6人のキャストが何役も兼ねるという趣向が楽しく、
如何にも小劇場という快作に仕上がっていました。

これだけの手練れのメンバーを、
小空間で目の前で観ることが出来るというのも、
非常に贅沢な感じがしました。

これは色々なバックボーンの役者さんが集まっているのですが、
それぞれに一番得意な芝居をさせていて、
町田マリーさんは毛皮族時代に近い感じで、
甲高い声を出したり白目を剥いたり髭面の男を演じたりと、
結構な大暴れをしていますし、
山本亨さんはつかこうへいに師事していた頃を彷彿させる、
道間声で立て板に水の台詞術を見せています。
八嶋智人さんもカムカムミニキーナでの舞台と、
同じような野田秀樹的芝居を闊達に演じています。
大鶴佐助さんは唐先生のDNAを感じさせる独特のテンションですが、
少し前と比べると相当達者になりました。
富岡晃一郎さんと共に、マイペースの力押しです。
川島海荷さんもまた別の堂々たるマイペース芝居でした。

このような6人をそのままで束ねるのは、
なかなか一筋縄ではいかないと思うのですが、
それが非常に巧みにかつ心地よく嚙み合っていて、
この辺りは演出の福原さんの腕だと思います。
凡手ではありません。

内容はつか芝居がやりたかったのかな、
というように思うのです。
忠臣蔵を何度もやって崩してゆくのもつかさんの感じですし、
ラストに互いの情熱がぶつかり合って、
そうなるとストーリーの枠組みなど関係なくなる感じも、
つか芝居の感じです。
勿論ストーリー的には全然違うのですが、
山本亨さんが登場しているのも、
これはもうつか芝居をやりたかったからだな、
と個人的には思いました。

福原さんの台詞は、
そのくどさの質が、
僕は個人的には苦手で、
あまりフィットはいつもしないのですが、
今回はつか印の小劇場贅沢キャラ芝居として、
内容はともかく楽しめました。

次回も楽しい芝居を見せて下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

歌舞伎座三月大歌舞伎(2017年夜の部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が診療を担当する予定です。

4月1日(土)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
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三月の歌舞伎座に足を運びました。
眼目は海老蔵の「助六」です。

歌舞伎には非常に多くのレパートリーがありますが、
その中でも「助六」はかなり特殊な性質のものです。

小山内薫は明治時代に、
「自分はこの芝居を見ると、
祖先の社会を眼前に見る様な心持がして、
身内の江戸っ子ブラッドが躍るようである」
と書いています。
谷崎潤一郎も確か、
似たような趣旨のことを何処かに書いていました。

明治時代と言えば、
江戸時代はつい先刻のことですから、
そうした感慨を当時の人が持っていたというのは、
今では少し不思議な思いもしますが、
幕末と江戸の最盛期とはまた別個のもので、
明治時代に既に、
江戸の最盛期の息吹を感じさせる歌舞伎劇は、
この「助六」の他にはなかったことが分かります。

助六という狂言は、
二代目の團十郎が助六を演じた、
正徳3年(1713年)の「花館愛護桜」に始まり、
3年後には「式例和曾我」という別の台本で、
同じ助六を團十郎が再演しています。

元禄時代に京都で助六という商人と、
揚巻という女郎との心中事件があり、
それがそもそもの始まりになっていますが、
「花館愛護桜」では、
男伊達という喧嘩が強く男振りの良い男として、
主人公の助六が描かれ、
揚巻との逢引きを、
意久という敵役が邪魔する、
という現在の助六にも通じる基本的なプロットが、
確立されています。

それが、
次の「式例和曾我」になると、
助六は実は曾我五郎という、
他の狂言の復讐を遂げる兄弟キャラに姿を変え、
その設定も現代に受け継がれています。

このように、
助六というキャラは同じでも、
上演の度毎に、
そのストーリー自体は変更したり、
その時代や設定を変えたりするのが、
歌舞伎の狂言の特徴の1つです。

現在上演されている「助六由縁江戸桜」は、
現行の歌舞伎の演目の中では、
非常に特殊な作品です。

歌舞伎は元禄時代に始まったとされますが、
元禄歌舞伎がそのままの形で、
今上演されているという訳ではなく、
今上演されている歌舞伎の演目の殆どは、
主に幕末期か明治になってから、
整理されたり修正されたりしたものです。

「忠臣蔵」など本格的な歌舞伎の代表のように言われる、
義太夫狂言と呼ばれるものは、
元々原作は文楽で、
原作の台詞自体は江戸期のものですが、
歌舞伎としての台本や現行の演出自体は、
これも主に明治以降に整理されたものです。

その中ではこの助六は、
元の台本は元禄期から間もない頃に整理されていて、
そこに書かれた台詞の多くは、
江戸中期の安永期に書かれたものです。
しかも文楽ではなく、
純然たる歌舞伎台本です。

その意味でこの助六は、
現代上演が継続されている演目の中では、
最も濃厚に、
江戸歌舞伎の匂いを残しているものなのです。

この作品は歌舞伎十八番の1つとして、
團十郎の成田屋の家の藝とされています。

歌舞伎十八番と銘打たれている狂言の中でも、
「勧進帳」などは現行の作品は明治になって成立したものですし、
時間も手頃で上演頻度も高く、
團十郎以外の役者も、
主役の弁慶を演じています。
むしろ成田屋以外の上演の方が多いのです。

しかし、
唯一この「助六」は、
他の役者も助六を演じはしますが、
團十郎が演じる「助六」こそが、
本物とされていて、
團十郎以外による上演はあまりありません。

更には襲名披露や杮落としなどの、
特別なハレの興業でのみ上演され、
通常の上演自体があまりありません。

その理由の1つは、
助六の狂言は現行の台本でも、
休憩なしで上演時間は2時間を優に超え
(今回の上演は2時間で少し短縮版です)、
登場人物も非常に多く、
端役に至るまで幹部級の俳優が務めることが、
定例化しているので、
通常の興業で上演することが、
非常に困難である、
ということにあります。

従って、
「助六」が上演される、
と言うこと自体が、
歌舞伎にとっては特別のイベントなのであり、
その舞台の緊張感が、
劇場自体を特殊な祝祭空間に変える、
というところに、
「助六」の得難い魅力があります。

今回の上演は、
海老蔵も本公演で7回目くらいになりますから、
これまで以上に血肉の通った助六を期待しました。

ただ、実際には僕が観た初日から3日目くらいの舞台は、
あまり胸躍るものではありませんでした。

まずキャストが弱いと感じました。
大舞台での本役と言えるのは、
意休の左團次と白酒売の菊五郎くらい。

立女形は今本当に乏しいので仕方がないのですが、
雀右衛門(僕は芝雀の方がしっくり来ます)の揚巻は弱いですし、
華やかさがありません。
くわんべら門兵衛に歌六も如何にも弱くて、
どうして幸四郎が出てくれなかったのだろう、
という感じです。
通人に亀三郎というのも、
盛り上がりませんでしたし、
遊びもあまりなくガッカリしました。

何より助六の海老蔵に迫力がなく、
台詞も弾みませんし、
形も決まりません。
多分色々とお疲れだと思うので、
仕方がないとは思うのですが、
今回は正直とてもガッカリの低レベルの助六でした。

その一方で同時に上演された「引窓」は、
久しぶりに重厚な義太夫狂言を観たな、
と言う思いで、
僕はあまり高麗屋は好きではないのですが、
今回の幸四郎は悪くないと感じました。

そうは言っても矢張り「助六」は特別なので、
また上演があれば、
1回は観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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