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アガリスクエンターテイメント「卒業式、実行」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
卒業式、実行.jpg
こだわりのコメディを上演し続けている、
アガリスクエンターテイメントの新作公演が、
今サンモールスタジオで上演されています。

この作品は2015年に同じ劇場で上演された、
「紅白旗合戦」という作品のリニューアル版です。

この初演は僕が最初に観たアガリスクの公演でしたが、
演技などには稚拙な点があったものの、
高校の卒業式で「君が代」を歌うかどうかで、
生徒の代表と教師が対立して議論をするという、
非常に難しい話題に挑戦し、
お互いに合意の出来る到達点に達する、
という段取りを、鮮やかにコメディにしていて、
とても感心しました。
特に一旦決裂した議論が、
最後になって奇策により合意に向かう辺りの段取りが巧みで、
これは新しい才能だとちょっと興奮すら感じたのです。

今回再演されるということでとても嬉しかったのですが、
前回から3年が経って、
劇団員の皆さんが高校生を演じるのは、
正直ちょっと厳しい感じがしたので、
前回の生徒役が先生役にスライドして、
生徒は若手を起用するのではないかしら、
完成度の高い台本でしたから、
基本ラインは変えずに行くのでは…
というように予想していたのですが、
実際にはその予想は全て外れました。

まず、熊谷有芳さんの生徒会長など、
劇団員の生徒役はその多くが初演と同じに生徒を演じ、
内容自体は大幅に書き換えられていて、
初演は卒業式直前のやり取りであったものが、
今回は直前から始まって、
卒業式開始後のドタバタにスポットが当てられていました。

三谷幸喜さんの「ショー・マスト・ゴー・オン」という、
東京サンシャインボーイズ時代の人気作があり、
これはトラブル続出の舞台を、
舞台袖から描いたものでしたが、
今回の作品はそのオマージュとなっていて、
舞台袖から卒業式のトラブルを回避する、
というものになっていました。

正直高校生役には違和感のあるメンバーも、
多かったことは確かですが、
今回はおそらくそれは承知の上で、
「学生役から卒業」というニュアンスもあったのではないか、
というように感じました。
熊谷さんの生徒会長も、
沈さんの美術部員に淺越さんの吹奏楽部員など、
名人芸を見る気分で楽しむことが出来ました。

ラスト前の伏線回収の部分など、
コメディとしての精度もなかなか冴えていて、
セットの工夫も面白く、
僕が今まで観たアガリスクの舞台の中では、
一番セットは充実していてプロ仕様になっていた、
と感じました。

ただ、正直なことを言えば、
無理矢理「ショー・マスト・ゴー・オン」に寄せた、
という感じがあって、
構成的にはやや破綻しているようにも感じました。
三谷さんの作品では、
舞台を続行しようという気持ちでは、
一致している中でのトラブルなので良いのですが、
今回の作品では、卒業式が始まっていてもなお、
君が代を歌うかどうかで揉めているので、
そこに更にトラブルというのが、
未整理な感じがして、
卒業式を無事乗り切ろう、
という気分で観客が一致しづらくなるからです。

初演を変えたいという思いは分かるような気もするのですが、
君が代を巡る生徒と教師の議論のドラマとしては、
前作のような形式の方が矢張り正攻法で、
今回のような作品にするのであれば、
素材も含めて完全な新作であって欲しかった、
というのが正直なところです。
今回の内容なら、卒業式を邪魔するものは、
君が代や国旗以外のトラブルで、
良かったのではないでしょうか。

キャストは皆好演で、
個人的にファンの熊谷さんの生徒会長は抜群でしたし、
今回は主演と言って良い、
榎並夕起さんの頑張りが光っていました。

そんな訳で初演版を愛する者としては、
ちょっと違和感を覚えるところはあったのですが、
アガリスク版「ショー・マスト・ゴー・オン」として、
いつもながら「熱量」の高い、
コメディ愛に満ちた力作であったことは確かで、
これからも活躍に期待をしたいと思います。

頑張って下さい!

何も出来ませんが陰ながら応援しています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐組×東京乾電池コラボ公演「嗤うカナブン」 [演劇]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カナブン.jpg
唐組と東京乾電池の初めてのコラボ公演が、
今下北沢のスズナリで上演されています。

唐組からは久保井研さん、稲荷卓央さん、辻孝彦さんが、
乾電池からは谷川昭一郎さん、戸辺俊介さん、伊東潤さんが参加して、
男6人だけの芝居です。
川村毅さんが新作を書き下ろし、
柄本明さんが演出に当たるという、
小劇場のエッセンスが濃厚に詰め込まれた、
非常に凄みのある企画です。

こうしたイベントは、
意外に企画倒れに終わることも多いのですが、
今回は川村さんの劇作がなかなか素晴らしく、
とても完成度の高い、
川村さんとしては意外なほど分かりやすい作品に仕上がっていて、
柄本さんの手作り感のある、
いい加減なようで極めて緻密で懐の深い、
ほっこりとした演出がまた冴えていて、
キャストも味のある小劇場芝居の達人が揃っているので、
本当に素晴らしい舞台に仕上がっていました。

上演時間が80分弱という短さで、
それでいて充分な見応えがありますし、
集中力を切らさずに観終えるという感じがまた良いのです。

今年これまでに観た芝居の中では、
間違いなくベストの1本で、
年末の今年のベスト5に入れることも、
ほぼ決定した感じの傑作でした。

これはもう小劇場好きの方には、
絶対のお薦め品ですが、
1点だけ心配なのは普段お芝居をあまり観ない人の感想で、
おそらく乗り切れない方もいるのだろうな、
というようには思います。

客席は関係者が多いという感じで、
普通のお客さんは少ないという印象を受けましたが、
この芝居を関係者に独占させておくのは、
とても詰まらないと思います。

公演は2月14日までありますので、
迷われている方は是非劇場に足をお運び下さい。

これだけの小劇場演劇の傑作は、
そうざらにはありません。

以下ネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は必ず鑑賞後にお読み下さい。

これは昔のピーター・ローレやハンフリー・ボガードが活躍した、
かつてのハードボイルド映画のパロディなのですが、
場所はパリで下北沢でもあるという、
国籍不明の雰囲気となっています。
80分という上演時間も、
昔のその手の映画の尺と同じになっているのです。
これだけでも粋ですね。

かつてジャズ・カルテットをしていた4人の男が、
ひょんなきっかけで銀行強盗に転職し、
盗んだ金を山分けして別れ、
15年の歳月が流れます。

落ちぶれながらも生活を続けていた4人ですが、
「カナブン」を名乗る謎の人物から、
過去をあばくような脅迫のメールが届いたことから、
4人の疑心暗鬼が始まります。

カナブンは誰なのか。
得体の知れない八百屋の男でしょうか?
自分を殺して欲しいと便利屋に依頼した、
新人の悪党候補なのでしょうか?
それとも4人の中にカナブンが紛れているのでしょうか?
新人を引き入れた5人は、
もう一度強盗を画策しますが、
それは罠で、残酷で滑稽な、
ハードボイルド活劇の幕が開くのです。

物語は二転三転して、
ラストはややシュールな世界に着地するのですが、
以前の荒くれで勢い重視の世界とは異なり、
今回川村毅さんが紡ぐ物語は、
きちんとハードボイルドの定石を押さえていて、
完成度の高いプロの仕事となっています。
人生の先輩に失礼ですが、
「こういうのもちゃんと出来るんじゃん!」
という感じです。
竹内銃一郎さんの「Z」や、
その元ネタである鈴木清順映画に近い感覚で、
タランティーノの「レザボア・ドックス」辺りも入っています。

それを飄々としたいつものタッチで、
鮮やかに肉付けした柄本さんの演出が素晴らしく、
映画看板のようなヘタウマの書き割りが、
地図にもなっていて、
ちんまりしたライトで、
その時の場所が照らされる、
という趣向も楽しいですし、
オープニングには「マルタの鷹」を彷彿とさせるような、
モノクロ映画風のタイトルバックがあるのも洒落ています。
それに続いて4人のジャズマンが、
後ろ姿でエアバンドで演奏するというシルエットにも、
とても素敵でニンマリしてしまうのです。
ちんまりし過ぎて失敗することも多いのですが、
今回の柄本演出は完璧でした。

そしてその柄本さんの掌に載った感じで、
円熟した6人の小劇場役者が熱演を繰り広げます。
稲荷さんの久しぶりの舞台姿も素敵ですし、
久保井さんも本領発揮の感じがあり、
対する乾電池勢も極めて堅実でかつ味があります。

今回だけでは惜しい舞台で、
是非また再演を希望したいと思います。
柄本さんやベンガルが登場しても、
違和感がない台本なので、
そうした重鎮版も、
また観てみたいという気がします。

こういうものに出逢うと、
芝居を見続けていて良かったと、
つくづく思う気分になるのです。
でもそんな機会は滅多になく、
「詰まらなかった、時間の無駄だった」
と肩を落として帰ることが殆どと言って良いのです。

皆さんも是非…

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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柿喰う客「俺を縛れ!」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当します。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
俺を縛れ.jpg
スタイリッシュでアングラの雰囲気もある、
柿喰う客の本公演に足を運びました。

10年前の作品の再演ということですが、
初演は観ていません。

「柿喰う客」はこれまでに、
5本くらい観ているのですが、
個人的には何かいつもとらえどころがなく、
本質的な部分で理解が出来ていない、
というような気もします。

その中では今回の作品は、
話もシンプルで分かりやすかったですし、
意図もかなりはっきりしていて、
やや長すぎる感じはしましたが、
役者さんのインパクトもまずまずでしたし、
最後までテンションと勢いが持続した、
良い芝居だったと思いました。
これまで僕が観たこの劇団の作品の中では、
最も好印象で面白く鑑賞しました。

これは一応時代劇の設定になっていて、
徳川家重の治世に、
裏切り者のキャラを将軍から押しつけられた弱小の大名が、
忠義一途でありながら幕府に反乱を起こす、
という話ですが、
最初に服部半蔵を名乗る女忍者が登場して、
登場人物は全て忍者の装束、
という不思議な趣向になっています。

小劇場で時代劇をやるというのは、
なかなか成功することが少ない試みです。

セットや小道具、衣装などが揃わないと、
それらしく見えない一方で、
予算が少ない中で中途半端にそうした準備をすると、
却って貧相に見えてしまいます。

今回の芝居では役柄に関わらずキャストは全て忍者の装束ですが、
役者さんがなかなか頑張っているので、
中段くらいになるとそれほど混乱なく物語に入れます。
それでいて最終的には、
全員が同じ衣装を着ているということが、
作品のテーマとして機能しているのです。
なかなかクレヴァーな発想だと感心しました。

ただ、今回の作品では、
劇団新感線を意識し過ぎている印象があり、
100人斬りのパロディの辺りなどは、
ちょっと気恥ずかしいような感じもありました。
後半の殺陣はもう少し別の切り口や演出があっても、
良かったのではないでしょうか?

また、アンコールがいつも特殊な演出で、
今回もシェイクスピアみたいなことを、
ややアングラチックにしてやっているのですが、
あまり必然性は感じませんでした。

ちょっと変わったセンスのお芝居で、
自意識の臭みが鼻につくようなところもあるのですが、
今回はその意図と様式とが上手くかみ合っていて、
なかなか見応えがあったと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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T-WORKS#1「源八橋西詰」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後ともいつも通りの診療になります。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
源八橋西詰.jpg
関西で活躍している実力派女優の丹下真寿美さんをフィーチャーした、
T-WORKSという企画の第1回公演として、
後藤ひろひとさんの旧作をアレンジして、
久保田浩さん、坂田聡さんという手練れの小劇場役者が、
顔を揃えた、小劇場的には豪華な4人芝居が、
明日まで中野のテアトルBONBONで上演されています。

これは如何にも後藤大王らしい、
ひねった構成の3本のオムニバス芝居で、
3つの物語の絡み合い方が弱く、
作品的には今ひとつの感じがあるのですが、
役者さん4人の芝居は非常に充実感があり、
如何にも小劇場という贅沢な気分に身を浸すことが出来ました。

一番楽しみにしていたのは、
元ジョビジョバの坂田聡さんで、
坂田さんは昨年のジョビジョバのライブでも、
硬軟織り交ぜた演技の安定感に、
一番感心させられたので、
今回も期待をしたのですが、
正直かなりやつれた感じで元気がなく、
ちょっとイカれた小劇場の座長役など、
痛々しい感じがしてあまり楽しめませんでした。
今回だけのことだったのかどうか、
正直良く分かりません。

後藤さんの芝居は一時期割とマメに観ていたのですが、
そのオタク趣味が僕の好みと微妙に食い違っているのと、
本人の芝居が独特過ぎて、
登場するとどんな芝居も同じ雰囲気になってしまう点、
また演劇より映像的な物語なので、
意外に演劇的な魅力に乏しい、
と言う点などがあり、
最近は実際の観劇からは遠ざかっていました。

ただ、今回は非常にミニマムな世界で、
遊気舎時代の作品の再演なので、
小劇場的な興趣の中で、
バランス良く観ることが出来ました。

3本の中では精神病院での絵本作家の話が、
後藤大王得意のテーマでなかなか良く出来ていました。
芝居の質としても、
このパートの丹下真寿美さんと久保田浩さんが最良でした。
一方で小劇場の話は、
話も内輪受けめいて詰まらず、
坂田聡さんも無理に元気を出している感じがイタくて駄目でした。

そんな訳で大満足とはいかなかったのですが、
小劇場の楽しさを味わうことは、
充分に出来る舞台ではあったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「テロ」(2018年森新太郎演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
tero.jpg
ドイツの刑事弁護士で作家のシーラッハの戯曲を、
森新太郎さんが演出し、
橋爪功さんや今井朋彦さんなど、
実力派の役者さんが顔を揃えた舞台が、
今紀伊國屋サザンシアターで上演されています。

これはちょっと特殊な舞台で、
テロリストに乗っ取られた航空機を、
乗客もろとも撃墜した空軍パイロットの行為の是非を、
最終的に陪審員に見立てられた観客全員が、
投票してその票数で有罪か無罪かを判決する、
という趣向になっています。

ラストは有罪と無罪の両方の判決文が用意されていて、
そのどちらかが読み上げられて終わります。

投票をどうやるのかなあ、
と思っていたのですが、
10分くらいの休憩があって、
舞台下とロビーに有罪と無罪の2つの箱を持ったスタッフが並び、
どちらかの箱に入場時に渡された赤いカードを、
入れるようなやり方になっていました。

投票の対象となる裁判の内容は、
要するに「トロッコ問題」で、
テロリストに乗っ取られた航空機が、
そのまま放っておけば7万人がいるサッカースタジアムに突っ込む、
というギリギリの場面で、
空軍機の少佐は本人の判断で、
航空機を撃墜し、
164人の乗客をテロリストもろとも全員殺すことで、
7万人の観客を助けるという判断をしたのですが、
その、人数の大小で人間の生命の価値を天秤に掛けた行為を、
罪とするべきかどうか、
という問題です。

欧米の方はこの問題が好きですよね。

ただ、これは要するに答えのない問題ですし、
どちらを選んだかでその背後にある個人の考え方を、
引きだそうという辺りに嫌らしさも感じます。

今回は非常に意欲的な上演であったと思うのですが、
戯曲としては問題の設定の仕方とその詰め方に、
あまり賛同が出来なかったことと、
演出は僕の大好きな森新太郎さんだったのですが、
今回はちょっと納得のいかない点が多くありました。

以下少し内容に踏み込みますので、
観劇予定の方は観劇後にお読み下さい。

舞台は黒一色の素舞台で、
背後には歪曲したスクリーンが全面に配置されていますが、
題名や「評決」などの文字が投影されるだけで、
特に映像などが流されることはありません。

最初に登場するのは裁判官役の今井朋彦さんで、
狂言回しを兼ねていて、
観客に投票を促したりする役回りも、
同時に担う感じとなっています。

そこに被告の空軍少佐役の松下洸平さん、
弁護人役の橋爪功さんと検察官役の神野三鈴さんが入って来て、
裁判が始まることになります。
キャストはそれ以外に証人として、
堀部圭亮さんと前田亜季さんが登場します。

シンプルで地味な舞台ですが、
前半空軍少佐の上司の軍人役の堀部さんが登場して、
軍事用語や法律用語が飛び交いながら、
事件の緊迫したやり取りが再現される辺りは、
なかなか迫力があって引き込まれました
「シン・ゴジラ」に近いような味わいです。

ただ、それ以降は特別新しい情報が提示されるということもないので、
やや単調に物語は展開します。

単純に164人の乗客と7万人の観客の命のどちらを選ぶか、
という話になれば、
現実には7万人を選んでもやむなしという気持ちになるのですが、
そこにちょっと補足的な情報があって、
テロが分かってから50分以上の時間があったのに、
サッカースタジアムの観客に逃げるように指示をしなかったのは何故なのか、
という話と、
乗客がテロリストに立ち向かって、
それに成功しつつ合ったのではないか、
という話です。

乗客とテロリストの対決という、
アメリカのアクション映画のような話は、
ただの推測で根拠はないのですが、
スタジアムの観客に退避が指示されなかったことは問題で、
ただ、その経緯は実際には全く明らかにされないので、
最後まで裁判の論点にはなりません。
ただ、観客へのイメージとしては、
スタジアムと旅客機の、
両方の命を救う手立てもあったのではないか、
という先入観を植え付けることには成功しているように思います。

そもそもテロリストが、
予めスタジアムがターゲットであることを、
1時間近く前に明かしてしまう、
ということが既に間抜けであり得ない、
という気がしますし、
もし観客が墜落前に全員退避してしまったとしたら、
ターゲットを変えてしまったのではないか、
というようにも思います。

こうした点が全く作中では議論をされていないのに、
人間の命を数で天秤に掛ける、
という論点だけが強調されて、
最後の評決に至るという展開が、
作品としてどうにも納得出来ません。

僕が観劇した当日の採決は、
20票くらいの差で有罪が上回ったのですが、
観客が逃げられたのではないか、
という情報が意味ありげに投入されていることと、
「憲法の精神を守るべき」というような検事の弁論が、
影響した可能性が大きいように思います。
それが原作の意図でもあるのか、
日本版の演出の影響であるのかはよく分かりません。

森新太郎さんは翻訳劇の演出家としては、
僕が今最も信頼している演出家ですが、
今回はあまりに地味でモノトーンの演出で、
ちょっとガッカリしました。
勿論、セリフ劇としてシンプルさを選択していることは分かるのですが、
後半は単調でありすぎたように思います。
せっかく背後にスクリーンを配しているのですから、
事件の経過などを映像化するなど、
もっとビジュアルに変化があった方が、
良かったように思いました。

また、評決の方法としても、
周りの人にどちらに入れているのかが、
分かってしまうような方法をしているので、
再考を要するように思いました。

このように大変面白く意欲的な上演であったのですが、
娯楽作として質の高い上演であったとは言えず、
翻訳劇の難しさを再認識するような思いがありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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別冊「根本宗子」第6号「バー公演じゃないです。」(第5号の再演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が外来を担当し、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
バー公演じゃないです.jpg
自分の名前を冠した劇団、月刊「根本宗子」などで、
非常なハイペースで精力的な公演を続けている根本宗子さんの、
今年初めての公演に足を運びました。
今回は2年前の同題で「第5号」と題された公演の再演で、
初演は本公演とは別個の位置づけの、
番外公演的な別冊「根本宗子」として、
中野の地下の小劇場で行われました。

今回は4人のキャストはそのままで、
演出やセットもほぼそのままという、
正統的な再演の舞台で、
劇場だけが前回より舞台の横幅がかなり広い、
下北沢の駅前劇場に変わっています。

これは根本宗子さんと、
長井短さん、青山美郷さん、石澤希代子さんという、
4人の女優さんによる1時間10分くらいの小品ですが、
一種の語りによる演劇を、
4人の個性的な女優さんによるテンションの高い芝居で、
一気に駆け抜けるという趣向で、
初演でもその面白さとセンスの良さに、
感心した覚えがあります。

舞台はポップな装飾が施され、
オープニングやエンディングでは、
皆で時間差で同じ動作を繰り返したりするような、
様式的な演出も一部に取り入れられています。

基本的には根本宗子さんの1人語りで、
子供時代のトラウマに悩む少女が、
3人の同級生との交流を繰り広げるうち、
ラストでひょんなところからそのトラウマから解放されます。
4人の女優さんが特徴的な4人のキャラを演じ、
丁々発止の渡り台詞で、
長大かつテンションマックスな掛け合いを演じる部分が見所です。

バレエのくるみ割り人形が、
モチーフとして使用されています。

こういう「私を見て!私だけを見て!」というような、
自意識の塊のような芝居が、
根本宗子さんの魅力で、
過去の人間関係のトラウマからの解放、
というのは根本さんの戯曲の一貫したテーマです。
最近はもっと幅広い傾向のお芝居もあるのですが、
矢張り根本さんの芝居の特徴というのは、
今回のようなところにあるのだと思います。

再演の今回も、
小気味の良いタッチで、
これぞ根本宗子、というところを見せてくれました。

初演の時には、
最近の根本さんのお芝居には欠かせない感じのある
(でも次回作はどうやら出ないようです)
長井短(ながいみじか)さんが、
極めて暴力的でハイテンションの怪演で、
小劇場を代表する女優さんの1人になったことを、
認識させる演技だったと思います。

彼女は身体をたえずくねらせ、
身体の軸をぶらし続けながら、
静止させることなく台詞を発していて、
その規格外のところが、
小劇場的でとても良かったのです。

それが今回の再演では、
基本的には全く同じことを演じているのですが、
ややお上品な、上手く演じようという色気が、
そこここに感じられるような芝居になっていて、
「ええっ! もっと破れかぶれのテンションで良いのに…」
とちょっと残念に思えるような部分もありました。

ただ、役者さんはいつまでも同じテンションで、
大暴れが出来るような生き物ではないので、
次第にフォルムの整ったお芝居になることは、
むしろ長井さんの芸の成長として、
評価するべき性質の物なのかも知れません。

しかし、今回の再演に限って言えば、
初演と比べてそのテンションの違いは、
少し物足りなさを感じさせたことは事実です。

いずれにしても、
今回は小休止的な再演でしたが、
これからも根本さんのエネルギッシュな演劇活動からは、
目が離せません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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2017年の演劇を振り返る [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

大晦日、皆さん如何お過ごしでしょうか?

今日は今年の演劇を振り返ります。

今年は以下の公演に足を運びました。

1.NODA MAP 「足跡姫」
2.「テアトロコント」2017年1月(ミズタニーなど)
3.庭劇団ペニノ「ダークマスター」(リニューアル再演)
4.シアターコクーン・オンレパートリー2017「陥没」
5.オクイシュージ「安心」
6.革命アイドル暴走ちゃん「Crazy Girls Save The World」
7.M&O playsプロデュース「皆、シンデレラがやりたい。」
8.地下空港「サファリング・ザ・ナイト」
9.ベッド&メイキングス「あたらしいエクスプロージョン」
10.三谷幸喜「不信」
11.SPAC「真夏の夜の夢」(野田秀樹脚本)
12.アガリスク・エンターティメント「時をかける稽古場2.0」
13.ほりぶん「得て」(再演)
14.タクフェス「わらいのまち」
15.劇団☆新感線「髑髏城の七人 Seasen花」
16.水族館劇場「この世のような夢」
17.サディスティックサーカス(2017年春)
18.TEAM JACKPOT「怒れる人たち」
19.クロムモリブデン「空と雲とバラバラの奥さま」
20.ジョビジョバライブ「Keep On Monkeys」
21.釣瓶噺2017
22.新ロイヤル大衆舎「王将」(第3部)
23.劇団チョコレートケーキ「60'Sエレジー」
24.シス・カンパニー「黒塚家の娘」(北村想新作)
25.根本宗子「新世界ロマンスオーケストラ」
26.M&playsプロデュース「少女ミウ」(岩松了新作)
27.吉田大八「クヒオ大佐の妻」
28.シベリア少女鉄道「たとえば君がそれを愛と呼べば、」
29.イキウメ「天の敵」
30.福原充則「俺節」
31.風煉ダンス「まつろわぬ民」
32.唐組「ビンローの封印」
33.劇団道学先生「梶山太郎氏の憂鬱と微笑」
34.チェルフィッチュ「部屋に流れる時間の旅」
35.カムカムミニキーナ「狼狽」
36.青年団「さよならだけが人生か」
37.ワンツーワークス「アジアン・エイリアン」
38.ゴキブリコンビナート「法悦肉按摩」
39.鴻上尚史「ベター・ハーフ」(再演)
40.マーム&ジプシー「^^^ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっとー」
41.シンクロ少女「シンクロ・ゴッサム・シティ」
42.シス・カンパニー「子供の事情」(三谷幸喜新作)
43.鵺的「奇想の前提」
44.ナカゴー「ていで」
45.赤堀雅秋「鳥の名前」
46.日本総合悲劇協会「業音」
47.福田雄一台本「ヤング・フランケンシュタイン」
48.M&Oplayプロデュース「鎌塚氏、腹におさめる」(倉持裕新作)
49.ままごと「わたしの星」
50.シアターコクーン・オンレパートリー2017「プレイヤー」
51.サムゴーギャットモンテイプ「NAGISA巨乳ハンター」
52.フエルサブルータ
53.ナカゴー特別劇場「地元のノリ」
54.FUKAIPRODUCE羽衣「瞬間光年」
55.かはづ書屋「巨獣(ベヒモス)の定理」
56.アガリスクエンターティメント「そして怒濤の伏線回収」
57.カンニング竹山単独ライブ「放送禁止2017」
58.こまばアゴラ劇場「を待ちながら」(山下澄人と飴屋法水のコラボ)
59.森山直太朗「あの城」
60.柴幸男「わたしが悲しくないのはあなたが遠いから」(2ヴァージョン)
61.日本のラジオ「カーテン」
62.前川知大「関数ドミノ」(寺十吾演出初演版)
63.ヘドウィグ&アングリーインチ スペシャルショー(キャメロン・ミッチェル出演)
64.ほりぶん「牛久沼」
65.月刊「根本宗子」第14号「スーパーストライク」
66.劇団☆新感線「髑髏城の七人Season風」
67.イキウメ「散歩する侵略者」
68.タクフェス「ひみつ」
69.唐組「動物園が消える日」
70.庭劇団ペニノ「地獄谷温泉無明ノ宿」(再演KAAT)
71.ナイロン100℃「ちょっと、まってください」
72.ピンター「管理人」(森新太郎演出)
73.チェルフィッチュ「三月の5日間」
74.シベリア少女鉄道「残雪の轍 / キャンディポップベリージャム」
75.ブス会「男女逆転版痴人の愛」
76.M&Oplaysプロデュース「流山ブルーバード」(赤堀雅秋新作)
77.劇団チョコレートケーキ「熱狂」
78.穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース「荒れ野」(桑原裕子新作)
79.URASUJI2017「ちんもく」
以上の79本です。

それ以外に歌舞伎を今年は数本観ています。
1.演舞場新春大歌舞伎(昼の部)
2.演舞場新春大歌舞伎(夜の部)
3.歌舞伎座三月大歌舞伎(夜の部 海老蔵の助六)
4. ABIKAI2017
5. 歌舞伎座七月大歌舞伎(夜の部)
6. 歌舞伎座八月納涼歌舞伎(第2部)

昨年とほぼ同じくらいの本数です。
年の後半は色々と臨時の仕事が入って、
もう少し観たい演劇があったのですが、
だいぶ観ることを断念しました。

特に昨年ベスト1の城山羊の会の新作を、
観ることが出来なかったのと、
劇団チョコレートケーキの「あの記憶の記録」を、
観ることが出来なかったことは残念でした。

今年の私的なベスト5はこちらです。

①シス・カンパニー「子供の事情」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-07-29
2017年の三谷幸喜さんの新作の中では、
この作品が抜群の完成度だったと思います。
キャストも天海祐希さん、大泉洋さんを初めとして、
これでもかという豪華版で、
内容もいい大人に小学生を演じさせて、
自分の少年時代を再現しようというのですから、
如何にも三谷さんらしい自己愛の押しつけですし、
もの凄くあざといなあ、とは思うのですが、
そのこちらの思いを乗り越えるような贅沢さと、
圧倒的な面白さには素直に兜を脱ぐという思いがしました。
正直とても好きという訳ではないのですが、
今年一番観て面白かった芝居というと、
これになるのかなと思います。

②ままごと「わたしの星」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-08-26
ままごとは「わが星」という大傑作がありますが、
その姉妹編とも言うべき「わたしの星」が今回再演されました。
ただ、新たな高校生キャストを公募し、
それに合わせて台本も大幅にリライトして演出も変えているので、
今回は新作の扱いとしてここに入れました。
人間の多くが地球を離れた未来を舞台にしたSFですが、
キャラも新鮮でノスタルジックで甘酸っぱい感動があり、
とても愛すべき素敵な芝居でした。

③月刊「根本宗子」第14号「スーパーストライク」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-10-22-1
2017年も精力的に活動された根本さんですが、
本人を含む4人だけのキャストのこの新作は、
屈折した恋愛模様の描出の仕方に根本さんらしさが溢れ、
緻密に組み上げられたセットや美術も楽しい快作でした。

④ナカゴー特別劇場「地元のノリ」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-09-03
本当に精力的に活動を続けている、
唯一無二の変な劇団ナカゴーですが、
その中ではこのENBUゼミの発表会用に作った作品を、
膨らませたこの作品が、
登場人物のほぼ全てが河童か動物という奇想が抜群で、
ナカゴーの真髄を感じさせる傑作でした。

⑤こまばアゴラ劇場「を待ちながら」(山下澄人と飴屋法水のコラボ)
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-10-01
アゴラ劇場の楽屋を観客誘導用の通路として使用し、
俳優としても登場した演出の飴屋さんは、
被ったフェンシングマスクの中で大量の爆竹を爆発させる、
という荒技で度肝を抜きました。
それ以外にもランドセルを背負った血まみれの小学生が、
お腹からはみ出した腸を振り回して一輪車で登場するなど、
今はもう絶滅危惧種と言って良いアングラ趣向が炸裂の怪作で、
これからも飴屋さんからは目が離せません。
ただ、作品としても密度は、
演劇としてそれほど高いものではありませんでした。

これ以外には、
ベスト5には入れませんでしたが、
今乗りに乗っている感じのある赤堀雅秋さんの、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」という2本の新作が、
いずれも完成度の高い荒くれの芝居で感心しました。
これからも絶対観続けたいと思います。
また戯曲の完成度という点では、
年末に観た桑原裕子さんの「荒れ野」が絶妙でした。
あの作品はまた演出を変えて、
是非再演して欲しいと思います。

最後にこれだけは言いたい、
再演での絶品2本です。

①庭劇団ペニノ「地獄谷温泉無明ノ宿」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-11-11
これは間違いなくペニノの代表作で、
タニノクロウさんが自分の祖母の思い出を、
田舎の温泉宿として徹底したリアリズムで、
舞台上に完璧なセットとして完成したその執念に、
とても感銘を受けました。
これまでの難解な作品の数々と比べると、
驚くほど分かりやすいストーリーの本作ですが、
ちゃんとペニノらしい得体の知れない感じも残っています。
繊細な照明や音効の完成度も素晴らしいと思います。
寺山修司の流れを汲む、
セットや演出に役者は奉仕するタイプの芝居ですが、
こうしたものが1つくらいあってもいいですよね。

②日本総合悲劇協会「業音」
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2017-08-19
松尾スズキの問題作の1つ「業音」が、
初演以来久しぶりに再演されました。
これは非常に完成度の高い舞台で、
奇想に満ちた筋立てとキャストの大暴れを含めて、
これぞ松尾スズキという世界を見せてくれました。
せっかくなら新作が観たかったですし、
平岩紙さんが脱がないのは画竜点睛を欠く感じがありますが、
これぞ大人計画、これぞ松尾スズキ、
という1本であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース「荒れ野」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
荒れ野.jpg
とよはし芸術劇場のプロデュース公演として、
平田満さんと井上加奈子さんの夫婦に、
いぶし銀の役者が集まり、
独特の彫りの深い人間ドラマに定評のある、
桑原裕子さんの作・演出の新作「荒れ野」の東京公演に足を運びました。

これはなかなか見事な作品でちょっと驚きました。

以前観た桑原さんの「痕跡」という作品も、
ミステリー的な失踪劇を深い人間ドラマとして、
見事に着地させていて感心しましたが、
今回も火事のためにある家族が、
昔因縁のあった女性のところに一夜だけ泊まらせてもらう、
というだけの話の中に、
家族のような枠組みの不確かさと、
人生の悲哀のようなものを感じさせて、
その鋭利な刃物のような切り口に、
とても感銘を受けました。

これは今回の上演だけで終わらせては、
もったいない作品だと思いますし、
キャストや演出を変えて、
末永く上演されて欲しい、
一種の古典としての風格がある戯曲だと思います。

テネシー・ウィリアムスに匹敵するような家庭劇で、
こういう地に足の付いた、
完成度が高くかつ観客の肺腑を抉るような攻撃性のある作品は、
これまでの日本の劇作の歴史の中では、
あまり類例がないと思います。

大袈裟に聞こえますか?
いえいえ、決してそうではありません。

舞台は井上加奈子さん演じる独身の中年女性のアパートの一室で、
彼女は長く父親の介護をしていて、結婚をすることが出来ず、
父親が亡くなった後に、
階上の部屋に住む小林勝也さん演じる元教師の老人と、
画家を目指すその教え子の青年(中尾諭介さん)の二人を、
同居人として呼び込み、奇妙な共同生活をしています。
老人と青年とは孫ほどの年の差がありながら、
同性愛的な関係にあるのです。

そこに平田満さんと増子倭文江さん演じる夫婦と、
多田香織さん演じる娘の3人家族が、
傍のショッピングモールの火事で、
自宅が延焼する危険があるために、
一夜の宿を求めて駆け込んで来ます。

平田満さんと井上加奈子さんは昔からの友人で、
男女の関係があったのではないかと、
妻の増子さんは勘ぐっていたのです。

平田さんは7年前に急性冠症候群となり、
心臓バイパス手術をしたのですが、
手術を薦める妻に耳を貸そうとしなかった平田さんが、
最後に手術を決断したきっかけは、
井上さんからの「父が死んだ」というメールでした。
つまり、妻のためではなく、井上さんのために、
平田さんは生きようという決断をしたのではないかと、
妻の増子さんは疑っているのです。
自分は夫のために人生を捧げて来たという自負があるのですが、
夫の心がもし自分の方を向いていないのだとすれば、
自分達が夫婦として家庭を築いて来たことも、
結局無意味なことになってしまいます。

普段ならそんなことは考えもしないのですが、
火事で家が燃えてしまったかも知れず、
その不安の中で、
もし家という形が失われてしまったら、
家族であることすら崩壊してしまうのではないかと、
妻は恐れを感じているのです。

一方で井上さんも、
父親のために人生の大部分を犠牲にしながら、
その父親が死んだ母親のことしか覚えておらず、
自分の存在は無視していたことに深く傷ついていて、
それが死んだ後も父親の気配となって、
そのアパートに染みついています。

翌朝になって火は鎮火し、
平田さんの妻は自分の家がどうなっているのかを見るために、
1人先に家を出るのですが、
井上さんと上の階の奇妙なカップル、
そして平田さんの4人は、
家族であることを捨てて、
別の絆を求めるように、
一緒に同じコタツを囲むのです。

この場合の家族というのは、もっと大きく国家のような共同体も、
同時に指しているように思えるのですが、
火事のような惨事によって、それを構成している枠組みが揺らぐと、
その本質的な不確かさが表面化して、
全ての関係は流動的なものになってしまうのです。
それがおそらく題名になる「荒れ野」ですが、
そこに作者は幾ばくかの希望も、
付加しているようにも思えます。

1時間45分程度の一夜を描いた数場の一幕劇ですが、
構成は非常に巧みに練られていて、
人物の造形も極めて的確に彫り込まれています。
テーマ曲としていしだあゆみの「あなたならどうする」が使われ、
替え歌も含めてそれが何度も登場人物の口をつくのも効果的で、
これは典型的なアメリカ古典戯曲の手法です。
燃えたのかどうか分からない家を、
シュレーディンガーの猫に見立てるなどの蘊蓄も、
登場人物の1人が理系の教師という設定を、
巧みに取り込んでいます。

役者陣も非常に頑張っています。
特に増子倭文江さんと小林勝也さんが良く、
この2人のベテランの演技が、
この作品をワンランク上のものに引き上げていたと思います。

小林勝也さんは昔から変な棒読みの役者さんで、
個人的にはあまり好きではなかったのですが、
今回初めて良かったと思いました。
その得体の知れない薄気味悪さと飄逸さの絶妙なブレンドは、
小林さんにしてなし得た1つの境地であると思います。
増子さんは極めて老練な芝居でした。

この座組で企画であれば、
平田満さんと井上加奈子さんが、
この役を演じることは当然なのですが、
正直2人にフィットしていたとは言いがたい面もあり、
また別のキャストであれば、
違う味わいがあったのではないかとも感じました。
(失礼をお許し下さい)

作者自身による演出は、
その戯曲の完成度と比較すると、
ちょっと疑問に思うところがあります。
部屋にはベランダがあって、
そこのガラス戸を閉じるかどうかで、
空間が変わるという設定になっているのですが、
サッシは実際にはセットにはないので、
ちょっと違和感があります。
これは付けるべきではなかったでしょうか?
また、テーマ曲は1回音効として流した方が、
分かりやすかったように思います。
オープニングの照明のみによる火事の表現も、
蛇足のように感じました。

このように少し不満もあるのですが、
極めて素晴らしい作品であることは確かで、
是非再演を期待したいと思います。
大変感銘を受けました。

最後にこれは蛇足ですが、
僕が観劇した日に最前列に座っていたおじさんが、
ともかく絶えず大きな声を上げて「わはははは」と、
狂言のように笑うので、
集中が切れてつらい思いをしました。
内容を理解はしていて笑っているのですが、
別に笑えるような場面でなくても、
ある種のキャラクター同士の会話のすれ違いなどに、
全て反応して声を上げてしまうので、
時に役者の台詞まで聞き取れなくなるのです。

時々そうした人がいて、
何故ああした行為をするのだろうか、
と不思議にも思っていたのですが、
今回隣で観察してみて、
「独り言」に近いようなものであるのかな、
と感じました。
もう少し医学的な分析は出来そうですが、
失礼に当たるようなので控えます。
意図的な行為ではどうやらなさそうなので、
何に笑おうと個人の勝手で、
非難するべき性質のものではないのですが、
前の列の人の座高が異様に高かったり、
帽子を取ってくれなかったりするのと一緒で、
こうした時にはライブのつらさを思い知るような思いがします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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URASUJI 2017「ちんもく」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日二本目の更新も演劇の話題です。
それがこちら。
ちんもく.jpg
元BARBEE BOYSの杏子さんと、
マツコ・デラックスの元ネタのような深沢敦さんがタッグを組み、
松村武さんの作・演出で、
歌あり踊りあり殺陣ありの、
仕事人シリーズのパロディ芝居が、
URASUJIと題されて2005年から不定期に上演され、
上演の度に人気を集めています。

僕はあまりご縁がなかったのですが、
前回の2015年は行きたいな、
と思っているうちに終わってしまったので、
今回は初めて実際に足を運びました。

今回は「ちんもく」という題名で、
今年スコセッシ監督が映画にしたことで話題になった、
遠藤周作の「沈黙」が元ネタになっています。
まあ、原作と言うより映画版が元ネタです。

杏子さんや池田有希子さん演じる仕事人が、
長崎で迫害されているキリシタンを助けるために、
長崎奉行と対決し、
実は奉行の側は、
深沢敦さん演じる化け猫などに乗っ取られている、
というお話です。

懐メロ歌謡が上手い具合に差し挟まれて、
歌合戦みたいになるのがなかなか良い感じです。
トータルには劇団新感線の昔のネタ物に近いお芝居で、
今はもうスズナリのような小さな小屋で、
新感線がこうしたお芝居をするようなことはありませんから、
楽しく贅沢な気分に浸ることが出来ました。

ただ、今回は元ネタがかなり暗い話で、
真面目な松村さんは、
かなり元ネタの設定を活かして、
「神の沈黙」みたいな神父の長台詞まで、
そのまま入れているので、
ちょっと重すぎる気もしました。

キャラも藤田記子さんの大暴れなどは、
勿論楽しいのですが、
キャラの中だけで完結してしまうような感じがあって、
物語の構造をかき乱すには至らないので、
その点もやや物足りなく感じました。
キリシタンの踏み絵を利用して、
踏み絵のタップダンスになるという面白い趣向があるのですが、
もっと面白くなりそうで、
なんとなく消化不良に終わっていました。

そんな訳で大満足という感じではなかったのですが、
スズナリにしては前方の客席はゆったりしていて落ち着けましたし、
とても贅沢で楽しい気分を味わうことが出来ました。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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劇団チョコレートケーキ「熱狂」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

今日は祝日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
熱狂.jpg
劇団チョコレートケーキが、
ナチス・ドイツの歴史を描いた連作のうちの2作品を、
連続上演の形で再演しました。
そのうちの「熱狂」に足を運びました。

もう1本の「あの記憶の記録」と、
合わせ鏡のようになっている連作なので、
出来れば両方観劇したかったのですが、
丁度レセプト作業が厳しくて、
結局「あの記憶の記録」の方は断念しました。

この「熱狂」はナチス・ドイツが、
まだ弱小の政治団体としてスタートを切ってから、
ミュンヘン一揆などの何度かの挫折を経て、
ついにヒットラーが国会で首相に就任するまでの出来事を、
ナチス親衛隊に入隊する浅井伸治さん演じる、
ナチス党員の若者を狂言回しとして描いています。

この人物のみが架空の人物で、
それ以外はヒットラー本人を含めて、
実在のナチの大物達を、
全員男性の8人の役者が演じます。

ナチスの戦争前の時期を描いた日本の戯曲と言えば、
三島由紀夫の「わが友ヒットラー」が有名で、
これはヒットラー、レーム、クリップ、シュトラッサーによる4人芝居です。
この「熱狂」でも触れられる、
ヒットラーの親友で一番の同士でもあった突撃隊長レームを、
ヒットラーが粛正しなければならなかった心理を、
三島流に描いたもので、
その作品の中ではヒットラーとレームは、
同性愛のカップルのように描写されています。

それから最近では三谷幸喜の「国民の映画」が、
もう少し時代の下った開戦後の時期に、
ナチの宣伝相ゲッペルスとその夫人を主人公として、
宣伝映画の制作に、
時の芸術家達が巻き込まれ利用される様をコメディで描き、
三谷さんならではの鋭い視点と、
抜群の構成力が素晴らしい優品となっていました。
ここではナチの高官として、
ゲッペルス以外にヒムラーとゲーリング元帥が登場します。

今回の「熱狂」は、
「わが友ヒットラー」の影響は受けていると思うのですが、
レームを粛正した「長いナイフの夜事件」は敢えて描かず、
狂言回しの主人公に「その後の出来事」として、
語らせるにとどめています。

その代わりにレーム以外のゲッペルスやシュトラッサー、
ゲーリングなどによるヒットラーを核にしたナチス内部の権力闘争を描き、
その中でヒットラーが独裁者としての地位を、
確立するまでを濃厚な会話劇として描いています。

これは矢張り良いですよね。

「悪」の魅力ということである訳ですが、
善玉より権力闘争は悪玉揃いの方が盛り上がりますし、
ゲッペルスにヒムラー、ゲーリングにヘス、レームと、
本当に魅力のある怪物が揃っているので、
これはもう面白くない訳がありません。

キャストも滑舌が悪い役者さんが多いのがやや残念ですが、
それぞれに気合いを入れた役作りをしているので、
その造形にはなかなか趣があります。
ラストずらっと舞台前方に揃うと、
これはもう歌舞伎の「白浪五人男」を思わせるようで、
思わず掛け声を掛けたくなるような素敵さがあります。
ゲーリングとゲッペルスが僕は特にお気に入りです。
髭のないヒットラーを演じた西尾友樹さんは、
あまりにポピュラーなキャラなので、
正直かなり損な役回りですが、
内面で演じきった感じがあって、
なかなかの芝居だったと思います。

こういう物語は悪の礼賛のように取られかねないので、
かなりリスクのある素材ですが、
ラストには狂言回しの主人公による、
その後の悲劇の説明を入れて、
更にもう1本の悲劇を扱った作品と同時上演することで、
その危険を回避した計算も巧みだと思います。

ただ、この作品の魅力は、
矢張り描かれた「悪の魅力」にこそあることは、
間違いはないのだと思います。

今日は後でもう1本演劇の記事をアップする予定です。

それでは一旦失礼致します。
石原がお送りしました。
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