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高齢者の潜在性甲状腺機能低下症の治療効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
潜在性甲状腺機能低下症の治療効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対しての、
ホルモン補充療法の効果を検証した論文です。

潜在性甲状腺機能低下症というのは、
甲状腺刺激ホルモンは正常範囲より上昇しているものの、
甲状腺ホルモンの数値自体は、
正常範囲となっている状態のことを示しています。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上がっているということは、
身体は甲状腺の働きが弱っていると判断して、
甲状腺により強い刺激を与えている、
ということになります。
それで機能としては維持されているということになるので、
軽症の甲状腺機能低下症、
という判断になる訳です。

こうした機能低下は橋本病などの病気でも起こりますが、
軽度のものは加齢によっても生じます。
ある海外データによると65歳以上の8から18%に、
潜在性甲状腺機能低下症が見られ、
その比率は男性より女性で多かった、
という結果が報告されています。

従って、その全てを病気として治療する、
ということは適切ではないと思います。
ただ、その一方で身体のだるさや体力の低下など、
不定愁訴的な症状が潜在性甲状腺機能低下症で生じる、
という報告もあり、
それがホルモン剤による治療で改善した、
という症例報告も複数存在しています。

これまでに多くの疫学データはありますが、
偽薬を使用するような精度の高い臨床試験で、
潜在性甲状腺機能低下症の治療効果が、
検証されたことはこれまであまりありませんでした。

そこで今回の研究では、
ヨーロッパにおいて、
年齢が65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さん、
トータル737名をクジ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方は甲状腺ホルモン(T4 )製剤を、
1日50μgもしくは25μg(虚血性心疾患の既往もしくは体重50キロ未満)
から開始してTSHの正常化を目指し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
1年間の治療を行なっています。

この場合の潜在性甲状腺機能低下症というのは、
甲状腺ホルモンは正常範囲で、
TSHが4.60から19.99mIU/Lであるものを示しています。

その結果、1年間の治療の前後で、
甲状腺機能低下に関連すると思われる自覚症状には、
偽薬と比較して有意な差は認められませんでした。
ただ、甲状腺ホルモンの使用による、
有害事象も特に認められませんでした。

今回の研究は、まあそうだろうな、
というような事項を、
改めて確認したようなものなので、
それほどの新味はありませんが、
甲状腺の分野ではどうしても小さい臨床研究が多く、
こうした厳密なデザインの治療効果の研究はあまりないので、
その意味では意義のあるものだと思います。

短絡的に誤解する方がいるといけないのですが、
これは全ての高齢者に、
数値だけを見て甲状腺ホルモンを使用することは意味がない、
と言う意味で、
患者さんによっては有効であるという点を、
否定するものではないということは、
最後に強調しておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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こむら返りへの酸化マグネシウムの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カマのこむら返りへの効果.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
酸化マグネシウムによりこむら返りが予防出来るかを、
検証した臨床試験の論文です。

夜足の筋肉が痙攣を起こして硬直し、
激しい痛みが生じる「こむら返り」は、
多くの方が経験のある、
非常に不快な症状の1つです。

その原因は様々で、
下肢の血行不良や冷えで起こることもありますし、
糖尿病などの代謝障害で起こることや、
筋肉内の疲労物質の蓄積の影響、
電解質の乱れ、脊柱管狭窄症などの脊椎疾患によるものなど、
多くの要因が絡み合っており、
また原因不明のケースも少なからず認められます。

上記文献の記載では、
ある高齢者の統計において56%がこむら返りを経験し、
そのうちの24%は週に1から4回の発作を起こしていたと報告されています。

このように非常に多いこむら返りですが、
現状確実に有効とされる治療は見つかっていません。

基礎疾患の治療により改善するものを除いては、
芍薬甘草湯という漢方薬が、
日本では良く使用されていますが、
これもそれほど信頼性のある根拠が、
示されているというものではありません。

マグネシウムの製剤は、
ラテンアメリカやヨーロッパにおいては、
昔からこむら返りの薬として使用されていました。

マグネシウムは細胞内に多く存在する陽イオンの1つで、
筋肉細胞の活動においても、
大きな役割を果たし。
その欠乏は筋肉の緊張を高めることが、
実験的には報告されています。

妊娠中の子癇と呼ばれる痙攣発作の予防には、
マグネシウムが有効であることが分かっていて、
妊娠中のこむら返りの予防にも有効であった、
という臨床試験が報告されています。

しかし、妊娠中以外のマグネシウム製剤の使用では、
そのこむら返りへの有効性は確認されていません。

今回の研究はイスラエルにおいて、
観察期間の2週間に4回以上のこむら返りが起こった、
成人94名でを対象として、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方は酸化マグネシウムを855ミリグラム、
1日1回で継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
4週間の治療を行ない、
そのこむら返りに対する効果を比較しています。

その結果、治療期間において、
酸化マグネシウム群も偽薬群も、
平均で1週間に3回くらい、
こむら返りの回数が減少していましたが、
両群に有意な差は認められませんでした。
また、睡眠の状態やこむら返りの重症度などにも、
明らかな差は認められませんでした。

こうした検証としては例数は少ないので、
これで完全にマグネシウム製剤がこむら返りに無効、
というようには言い切れないのですが、
現状科学的な検証において、
明確にこむら返りに有効な治療というのは、
存在しないと理解しておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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バリウム検査と虫垂炎との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
バリウムと盲腸との関係.jpg
今年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
バリウムを利用した消化管の検査と、
その後に起こる急性虫垂炎(盲腸)との関連についての論文です。

バリウムは消化管の造影剤として広く使用され、
胃カメラが普及する前の胃の検査と言えば、
胃のバリウム検査で、
特に二重造影という空気とバリウムとのコントラストによって、
胃粘膜の微細な病変を浮かび上がらせる技術が、
日本で開発をされてからその診断能は飛躍的に向上しました。

肛門からバリウムを注入する大腸のバリウム検査も、
大腸ファイバーが普及する前には、
殆ど唯一の大腸の精密検査でした。

バリウムの検査は、
内視鏡検査にはない利点もあり、
胃や腸の全体としての構造や広がりを、
一目で見ることが出来るので、
今でもその有用性は失われてはいません。

しかし、何より医療被ばくの大きい検査である、
という欠点がありますし、
病気の疑いがある時には、
結局胃カメラや大腸ファイバーもしなければ、
確定診断には至りません。

二重造影の高度な技術とその読影は、
職人芸的な部分があって、
内視鏡検査の普及以降、
その技術レベルは低下していると思います。

それ以外にバリウムの検査により、
バリウムが固まって石のようになって腸に残ったり、
固まったバリウムにより胃腸の病気が起こるような事例が、
バリウムを使用した検査後に報告されています。

そのうちの1つが、
バリウム検査後の急性虫垂炎(盲腸)の発症です。

1954年に最初の症例報告があって以降、
上記文献の記載によれば、
50 例以上の報告が蓄積されています。
ただ、バリウム検査から虫垂炎発症までの期間は、
6時間から数年と幅広く、
関連性が希薄と思えるケースも混ざっています。
また、虫垂炎の原因として、
バリウムが虫垂の中で糞石のようになって溜まり、
通過障害を起こすことが想定されているのですが、
実際にはバリウムの虫垂への残留が確認されている事例を、
多数例観察しても、
虫垂炎は発症しなかった、
という報告もあり、
この問題はまだ白黒が付いていません。

そこで今回の研究では、
台湾の大規模な医療データを活用して、
2000年から2010年に掛けてバリウム検査を受けた、
トータル24885名を、
年齢性別などをマッチングさせて、
バリウム検査を受けていない98384名と比較して、
その後の虫垂炎の発症との関連性を検証しています。

その結果、
平均で6年程度の観察期間中に虫垂炎を発症した比率は、
バリウム検査群で年間1000人当たり1.19件に対して、
検査未施行群では0.8件で、
年齢や基礎疾患などの因子を補正した上で、
バリウム検査後に虫垂炎の発症率は、
未施行と比較して1.46倍(95%CI;1.23から1.73)有意に増加していました。

特にバリウム検査後2か月の期間に限定すると、
そのリスクは9.72倍(95%CI;4.65から20.3)と最も高くなっていました。
その後3から12か月後ではそのリスクは2.11倍(95%CI;1.40から3.18)と、
期間が長くなるにつれて低下し、
バリウム検査後1年を超えると、
有意な虫垂炎の発症リスクの増加は認められなくなりました。
腸が穿孔した重症の事例に限っても、
そのリスクはバリウム後2か月で6.91倍(95%CI;2.72から17.6)と、
最も高くなっていました。
またこのリスクは胃のバリウム検査より、
注腸のバリウム検査でより高くなっていました。

今回初めて多数例の検討により、
バリウム検査後の虫垂炎のリスクが、
特にその検査後2か月以内で増加している、
ということが明確に示されました。

その理由はまだ明確ではありませんが、
バリウム検査によるバリウムの局所の残存と共に、
胃腸に圧力が掛かることによる粘膜の障害なども、
上記文献の考察では言及されています。
ただ、腸に圧力が掛かることが問題であるとすれば、
大腸ファイバーでも同様のリスクはあると想定され、
その検証も必要であるように思います。

バリウム検査を健康診断や人間ドックで行うというケースは、
今後より減ってゆくと思われますが、
バリウム検査後特に2か月以内には、
急性虫垂炎が起こりやすくなるという知見は、
一応頭に置いて検査は受けることが必要であるようです。
ただ、その頻度はそれほど大きなものではなく、
大腸ファイバーにおいても、
理屈の上ではリスクはないとは言えない、
ということも押さえて置く必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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小児期の鉛濃度が脳の発達に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉛と認知機能.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
小児期の鉛の過剰摂取が、
その後の脳の成長発達に与える影響についての論文です。

鉛は自然に存在する重金属の一種で、
土や水にも微量には含まれています。
その鉱石は重くて腐食しにくく、
また加工も容易であることから、
古くから様々な用途に使用されて来ました。
古代ローマ帝国の水道管として使用されたことは有名ですし、
日本では弾丸や貨幣、屋根瓦などして使用され、
明治以降は水道管としても使用が始まります。

その使用は現在では控えられる傾向にありますが、
輸入の塗料や金属製のアクセサリー、おもちゃなどには、
今でも鉛が使用されています。

最近その使用が控えられている理由は、
勿論鉛の中毒にあります。

鉛は脳と肝臓に蓄積し、
神経症状や肝機能障害を起こします。
また、血液のヘモグロビンの合成を阻害するため、
貧血の原因になります。

大量の鉛は急性中毒として、
ショックや嘔吐、腹痛などを起こしますが、
より少ない量の鉛であっても、
慢性に身体に蓄積されると、
特に小児期においては脳の機能低下や発達障害の要因になる、
というように考えられています。

ただ、実際に小児期の鉛の摂取が、
どの程度大人になってからの脳の働きと関連があるのか、
というような具体的なデータは、
実際にはあまり存在していませんでした。

今回の研究はニュージーランドにおいて、
1972年から73年に出生した1037名を登録し、
38歳まで経過観察するという、
大規模な成長と発達の疫学データを活用して、
11歳の時点の血液の鉛濃度と、
38歳の時点のIQや認知機能との関連を検証しています。

11歳時点で血中鉛濃度が測定されていたのは、
全体の56%に当たる565名で、
その平均は10.99μg/dL(SD 4.63)でした。

そして、11歳時の鉛濃度が高いほど、
38歳時のIQは低いという相関を示しました。
ちょっと嫌らしい話ですが、
鉛濃度が高いほど、
38歳時の社会経済的ステータスが低い、
という相関も同時に認められました。

このように、中毒を起こすようなレベルでなくても、
小児期の鉛の摂取量が多いと、
それがその後の脳の発達に悪影響を及ぼす可能性が、
示唆されたのです。

日本での測定データはあまり多くはありませんが、
概ね小児期の鉛濃度は2μg/dL以下とされています。
ただ、ニュージーランドでの一般の住民のデータと、
かなりの差があり、
本当に測定値がその程度と考えて良いのか、
やや疑問に感じる部分もあります。

日本においては、
まだ水道管の多くで残存している、
鉛管からの水道水への鉛の混入や、
金属製のアクセサリーやおもちゃなどを介する、
お子さんへの鉛の摂取が主な問題となりますので、
特に小児期の鉛の摂取を控えることは、
より慎重に考えた方が良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

アメリカにおける甲状腺癌の頻度(1974年から2013年の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は
午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アメリカの甲状腺癌の頻度.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
アメリカにおける甲状腺癌の頻度の傾向についての論文です。

皆さんも良くご存じのように、
甲状腺癌が診断される頻度は、
最近世界的に増加しています。

アメリカの統計においては、
1975年から2013年の間に、
甲状腺癌の診断される頻度は211%増加しています。

ただ、この間に甲状腺の超音波診断が非常に進歩し、
それまでは発見されなかったような小さな甲状腺癌が、
多く発見されるようになったので、
そのことが甲状腺癌の増加の、
主な要因になっているという考え方があり、
実際に甲状腺癌の超音波検診を積極的に行なった韓国では、
20年弱でその診断数が15倍以上増加していて、
その多くが過剰診断であることは、
ほぼ確実と考えられています。

ただその一方で、
甲状腺癌の発症頻度自体も最近増えていて、
特に悪性度の高い甲状腺癌が増加しているのではないか、
という意見もあります。

そのどちらが正しいのでしょうか?

今回の検証はアメリカにおいて、
SEERという地域癌登録データを活用して、
その診断時点での腫瘍の大きさや組織型進行度と、
時代毎の頻度との関連を詳細に検証しています。

その結果…

1974年から2013年の登録において、
77276名の甲状腺癌の患者さんが診断されています。
75%は女性です。
そのうちの64625件は乳頭癌です。
同じ時期に甲状腺癌での死亡者は2371名です。

この間に毎年平均で3.6%増加しており、
1974年から1977年には、
年間10万人当たり4.56件であったものが、
2010年から2013年には、
年間10万人当たり14.42件に増加していました。

甲状腺乳頭癌の罹患率を、
癌の進行度毎に比較すると、
甲状腺内の留まる状態で診断された癌が、
年間4.6%の増加であるのに対して、
周辺組織への浸潤はあるものの遠隔転移のない癌は、
年間4.3%の増加、
遠隔転移のある癌が年間2.4%の増加となっていました。
つまり、進行癌も増加しているという結果で、
これは診断法の進歩によって、
早期癌が発見されるようになったので、
見かけ上癌の罹患率が増えた、
という見解に疑義を呈するものです。

また、癌と診断された事例における死亡率は、
毎年1.1%の増加を示していて、
遠隔転移の事例に限ると、
年間2.9%の増加を示していました。

つまり、
診断法の進歩により修飾されていることは事実ですが、
それでも進行癌自体もこの40年に渡り増加していて、
その死亡率自体も増加している、
言い換えれば、
悪性度の高い甲状腺癌の罹患率が増え、
治療の進歩にも関わらず、
その死亡率も増加している、
ということが確認されました。

それでは何故、
甲状腺癌は悪性度を増して増加しているのでしょうか?

上記文献の著者らの見解としては、
何等かの環境因子が影響しているのではないか、
と推論しています。

肥満によるインスリン抵抗性は甲状腺癌のリスクになり、
一方で喫煙は甲状腺癌のリスクを低下させます。
診断のために多用されている、
医療放射線被ばくの影響も皆無とは言えません。

ただ、これ以上は推測の域を得ず、
今後のさらなる検証が必要な事項であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

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喫煙と甲状腺との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコと甲状腺.jpg
これは2013年のClinical Endocrinology誌のレビューですが、
甲状腺の病気と喫煙との関連をまとめたものです。

タバコは勿論多くの有害物質を含み、
肺気腫などのCOPDと呼ばれる慢性の肺疾患や、
食道癌、肺癌、喉頭癌を始めとする多くの癌が、
タバコを原因として発生することは、
精度の高い疫学データで実証された事実です。

ただ、喫煙の人体に与える影響は、
その含まれる成分の多彩さからよるものか、
かなり複雑であることもまた事実です。

上記のレビューは甲状腺と喫煙との関連について、
主にこれまでの疫学データをまとめたものですが、
非常に興味深い知見を含んでいます。

甲状腺の自己免疫疾患と言えば、
甲状腺機能亢進症になるバセドウ病と、
機能低下症になる橋本病がその代表です。

この2つの病気はそれぞれ別個の自己抗体が原因となっていますが、
両者が合併することも稀ではないので、
全く別の病気とも言えません。

これまでの複数の疫学データにおいて、
喫煙は橋本病のリスクを低下させる一方、
バセドウ病のリスクは増加させるという結果が報告されています。

これは同じ炎症性腸疾患でありながら、
クローン病は喫煙者で増加し、
潰瘍性大腸炎は喫煙者では減少するのと似ています。

甲状腺の腫瘍については、
良性の結節が複数出来る腺腫様甲状腺腫は、
喫煙者で多い一方、
甲状腺癌は喫煙者では少ないことが報告されています。

これは2003年に発表されたメタ解析において、
現在の喫煙者は非喫煙者と比較して、
甲状腺癌のリスクが40%(95%CI;0.6から0.9)有意に低下し、
以前の喫煙者では10%低い傾向はあるものの有意ではありませんでした。
この検証では吸っているタバコの本数が多いほど、
甲状腺癌のリスクもより低下していて、
この用量依存性があるという事実は、
喫煙と甲状腺癌との直接的な関連を示唆するものです。
2010年と2012年に発表された独立した疫学データでも、
同様の傾向が見られています。

甲状腺癌のリスクとして、
環境要因での関与が確実とされているのは、
放射線の被ばくですが、
放射線作業従事者の疫学データによると、
女性では喫煙により甲状腺癌のリスクは、
46%有意に低下していました。

また甲状腺乳頭癌のみの検証では、
閉経後の女性において、
喫煙者は非喫煙者と比較して、
乳頭癌のリスクは66%有意に低下していました。
(95%CI;0.15から0.78)

このように甲状腺癌が喫煙者で少ないという知見は、
そのメカニズムは現時点では不明ですが、
ほぼ事実と考えられ、
今後そのメカニズムを含めて、
検証が必要であると考えられます。

念のための補足ですが、
勿論喫煙は健康には多くの害があり、
甲状腺癌のリスクが低下するからと言って、
喫煙が推奨されるということはなく、
万が一にもそのために喫煙をするようなことは、
しないようにお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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ワルファリンとダビガトランの骨折リスク比較 [医療のトピック]

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北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今週土曜日(4月1日)の午後は、
休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンとダビガトランの骨折リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
抗凝固剤の骨折リスクについての論文です。

心房細動という不整脈があると、
心臓の中の血流が滞って血栓が出来、
それが脳の血管に詰まって脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。

その予防のために今でも広く使用されているのが、
血液が固まる(凝固する)のを抑える抗凝固剤のワルファリンです。

ワルファリンは50年以上前に、
殺鼠剤として開発された薬ですが、
その作用はビタミンKというビタミンと深い関わりがあります。

ビタミンKは骨の健康な発育に必須のビタミンですが、
それ以外に血液が固まる際に必要な、
凝固因子の一部の活性化に関わっています。
ビタミンKが活性化に必要とされる凝固因子を、
ビタミンK依存性凝固因子と呼んでいますが、
このビタミンK依存性凝固因子の働きを妨害するのが、
ワルファリンの作用なのです。

ただ、
ビタミンKに係わる凝固因子の働きを妨害する、
ということは分かっていても、
その詳細なメカニズムは長く不明でした。

それが分かったのは2004年にNature誌に掲載された論文においてで、
ワルファリンのターゲットが、
ビタミンKの再生回路に係わる、
VKORC1(vitaminK epoxide reductase complex 1 )という蛋白質であることが、
初めて明らかになったのです。

さて、
ワルファリンによりビタミンKの再利用が阻害されるということは、
当然ビタミンKが主に働く骨においても、
その影響が大きい可能性があります。

つまり、ワルファリンを継続的に使用することにより、
骨が脆くなって骨折をし易くなる可能性があるのです。

実際に2006年に発表された疫学データでは、
1年以上ワルファリンを使用していると、
未使用と比較して骨粗鬆症による骨折のリスクが、
1.25倍有意に増加していました。

一般論で言って、
心房細動の患者さんの脳梗塞の予防効果と比較すれば、
このレベルの骨折リスクの増加は比較的軽微な有害事象である、
と言うことは出来ます。

しかし、ワルファリン使用者の多くは高齢者で、
高齢者が寝たきりになる大きな要因は骨折ですから、
その患者さんの人生をトータルに考えると、
これは決して些細なことではない、
というようにも考えられます。

ここで問題は、
ワルファリン以外の最近使用されている抗凝固剤では、
そうしたリスクは少ないのか、
ということです。

新しいタイプの抗凝固剤は、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤と呼ばれているくらいで、
そのメカニズムとビタミンKには関連はありませんから、
理屈から言えば、
ワルファリンより骨折リスクは低くなりそうです。

しかし、
実際には直接の比較でそれを明確に証明したような研究は、
これまでにあまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
非弁膜症性心房細動の患者さんに対して、
直接トロンビン阻害剤であるダビガトラン(プラザキサ)と、
ワルファリンを使用した事例を、
香港の公立病院の医療データから抽出し、
骨折リスクに関しての両薬剤の比較を行っています。

両群に振り分けには、
傾向スコア(プロペンシティスコア)と呼ばれる手法を応用しています。
これは処方された患者さんの背景などを、
傾向スコアとして解析し、
同じスコアを持つ患者さんを両群に均等に振り分ける、
という方法によって行われるもので、
従来の方法よりも精度の高い比較が可能だと、
考えられています。

これは最近流行りの手法で、
データ自体は後から抽出したものなのですが、
傾向スコアを用いて振る分けをすることにより、
最初から患者さんを登録して観察したようなデータに、
近い精度のものに近づくという考え方です。

新規に非弁膜症性心房細動と診断された51496名の患者さんのうち、
傾向スコアによって、
ダビガトランが処方された3268名と、
ワルファリンが処方された4884名が比較されています。

観察期間中にダビガトラン群の32例(1.0%)と、
ワルファリン群の72例(1.5%)に骨粗鬆症性の骨折が発症していて、
ワルファリン群と比較して、
ダビガトランの使用は骨折のリスクを、
62%(95%CI:0.22から0.66)有意に低下させていました。
実際の骨折頻度の差は、
年間100人当たり0.68件でした。(95%CI;-0.38から-0.86)

このリスクは過去の骨折や転倒のあった患者さんのみで解析すると、
骨折頻度の差は年間100人当たり3.15件と拡大し、
相対リスクでは88%の低下を示しましたが、
その一方で骨折は転倒の既往のない患者さんのみの解析では、
有意な差は得られませんでした。

つまり、
ワルファリンはダビガトランと比較して、
骨折のリスクが明確に高いのですが、
そのリスクは骨折や転倒の既往のある患者さんでは、
明確に高いものになる一方、
そうした既往のない患者さんでは、
軽微なものに留まる、という結果です。

従って、
全ての患者さんで骨折予防のために、
ワルファリン以外の抗凝固剤を使用する必要があるかどうかは、
まだ議論の余地のあるところですが、
少なくとも骨折や転倒の既往のある患者さんでは、
積極的にワルファリン以外の抗凝固剤を、
選択するという判断が現時点では妥当なようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


アルコール摂取量と心血管疾患との関連について(イギリスの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

今週土曜日(4月1日)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルコールの摂取量と疾患.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アルコールの摂取量と病気との関連についての論文です。

お酒の量と病気との関係については、
色々な意見があります。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
昨年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

今回の研究はイギリスのもので、
プライマリケアの診療データをまとめて解析することにより、
個々の心血管疾患の発症リスクと、
アルコールの摂取量との関連を検証しています。

登録の時点では心血管疾患にかかっていない、
30歳以上の1937360名の診療データが解析の対象となっています。

その結果…

登録された190万人余のうち、
観察期間中に114859名が心血管疾患の診断を受けていました。
お酒をイギリスで規定された適正飲酒量の範囲で飲む人と比較して、
全くお酒を飲まない人は、
不安定狭心症のリスクが1.33倍(95%CI; 1.21から1.45)、
心筋梗塞のリスクが1.32倍(95%CI; 1.24から1.41)、
予期せぬ心臓死のリスクが1.56倍(95%CI; 1.38から1.76)、
心不全のリスクが1.24倍(95%CI; 1.11から1.38)、
虚血性脳梗塞のリスクが1.12倍(95%CI;1.01から1.24)、
末梢の動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)のリスクが1.22倍(95%CI;1.13から1.32)、
腹部大動脈瘤のリスクが1.32倍(95%CI; 1.17から1.49)、
それぞれ有意に増加していました。

この場合の適正飲酒というのは、
男性で1日アルコール量30グラム以内(1週間で210グラム以内)、
女性で1日アルコール量20グラム以内(1週間で140グラム以内)、
という基準が採用されています。
2016年に男女とも適正飲酒量は1日20グラム以内(1週間で140グラム以内)、
と改訂が行われたのですが、
このデータはそれ以前のものなので、
古い基準が適応されています。

一方で適正量の飲酒を基準とした場合に、
それを超える飲酒量では、
予期せぬ心臓死のリスクが1.21倍(95%CI; 1.08から1.35)、
心不全のリスクが1.22倍(95%CI; 1.08から1.37)、
心停止のリスクが1.50倍(95%CI; 1.26から1.77)、
一過性脳虚血発作のリスクが1.11倍(95%CI; 1.02から1.37)、
虚血性脳梗塞のリスクが1.33倍(95%CI; 1.09から1.63)、
脳内出血のリスクが1.37倍(95%CI; 1.16から1.62)、
末梢動脈疾患のリスクが1.35倍(95%CI; 1.23から1.48)、
それぞれ有意に増加していました。
しかし、心筋梗塞と安定狭心症の発症リスクについては、
有意ではないものの、
飲酒量が多い群の方がリスクが低い傾向が認められました。

総死亡のリスクについては、
矢張り適正範囲の飲酒量を基準とした時に、
全くお酒を飲まない人は1.24倍(95%CI; 1.20から1.28)、
適正量を超える飲酒をしている人は1.34倍(95%CI; 1.31から1.38)と、
いずれも有意に上昇していました。
つまり、お酒を少し飲む人が一番長生きで、
沢山飲む人も全く飲まない人も、
どちらも死亡リスクは高くなるという結果です。

今回のデータは概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
というものになっています。

ただ、注意が必要なのは、
適度に美味しくお酒を飲めている人は、
トータルには体調の良い人が多く、
一切お酒を飲まない人は、
お酒を飲めない人もいますし、
体調があまり良くなくてお酒が飲めない、
というような人もいるので、
そうしたバイアスが影響している可能性がある、
ということです。

今回のデータでは、
適正飲酒量を超える集団はひとまとめで評価しているので、
より適正範囲の飲酒の人の状態が、
良く評価されやすかった、
という面もあるように思います。

いずれにしても、
お酒を適度に飲むことは、
トータルに見て健康上の大きなリスクになることはなく、
その習慣の継続に問題はないと思いますし、
アルコールを全く飲まれない方は、
健康のために無理に飲むようなことは、
お考えにはならないのが良いと思います。

アルコールの害が問題になるのは、
概ね1日のアルコール量が20グラム(~25グラム)を超えてからで、
それより少ない量のアルコールは、
全く飲まないこととほぼ同一に考えて問題はない、
という理解が妥当ではないかと思います。

ただ、勿論アルコール依存症や、
肝機能低下や糖尿病の状態によっては、
完全な禁酒の継続が医療上必要なケースもあるので、
これはあくまでその時点で健康上の大きな問題がない方に限る、
ということは強調しておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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ニジェールにおける安価なロタウイルスワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

今週の土曜日(4月1日)の午後は休診となりますので、
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
安いロタウイルスワクチン.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
インド製の安価なロタウイルスワクチンの、
アフリカでの臨床試験の結果についての論文です。

ロタウイルスはノロウイルスと並んで、
乳児のウイルス性胃腸炎の代表的な原因ウイルスで、
嘔吐と下痢がその主な症状です。

日本のような医療がそれなりに発達している国では、
軽症の事例は対処療法で様子をみて、
重症のケースは入院して点滴治療などを行なえば、
命に関わるような事態は稀ですが、
アフリカなどの衛生状態の悪い地域では、
重症化して死亡するケースも稀ではありません。

世界的に見ると、
5歳未満の下痢による死亡事例のおよそ37%は、
毎年ロタウイルスが原因である、
という試算があります。

このロタウイルスによる子供の死亡を減らすためには、
衛生状況の改善と公衆衛生的な知識の普及と共に、
有効なワクチンの接種が必要と考えられます。

現状2種類のワクチンが、
日本を含む世界中で使用されています。
それがグラクソ社のロタリックスと、
メルク社のロタテックです。

この2種類のワクチンはその有効性と安全性とがほぼ確立されていて、
その使用により60から70%程度は、
ロタウイルスによる重症の腸炎を予防することが確認されています。

しかし…

ロタリックスもロタテックも、
ワクチンとしては非常に高価な商品です。
日本では1本の接種で1万円を超えるコストが掛かります。
発展途上国での接種は製薬会社も価格を下げており、
また国際的な補助の仕組みもありますが、
それでも他のワクチンと比較して、
高価であることには変わりはありません。
更にもう1つの問題は、
ワクチンの温度管理で、
ロタリックスもロタテックも、
添付文書上2から8℃の低温で遮光で管理せよ、
というように書かれています。
しかし、現実には低温での輸送や管理にはコストが掛かり、
アフリカなどでの集団接種に、
その温度管理を要求することは、
現実的ではないのです。

そこで、最近インドの製薬会社により、
この問題の解決に結び付く商品が開発されました。
物自体はヒトやウシ由来の複数の型のロタウイルスの抗原を、
再集合させて1つの粒子としたワクチンで、
そこに含まれている5つの型を含めて、
ロタテックとほぼ同一のワクチンです。
特許のこととか問題はないのだろうか、
と、ちょっと気になりますが、
現状は問題はないようです。

その特徴はまずロタテックより安いということで、
もう1つは温度管理があまり必要ではなく、
37℃の条件で2年間、
40℃の条件でも半年は安定している、
と記載がされています。
つまり、低温にすることなく、
そのまま輸送してそのまま接種してもOKということです。

そんな都合の良い話があるのだろうか、
とそこもちょっと疑問に感じるところですが、
今のところはこの点も問題とはされていないようです。

今回の臨床試験はこのインド製ロタウイルスワクチンを、
アフリカのニジェールで摂取した臨床試験の結果です。

3508名の新生児を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はインド製のロタウイルスワクチンを経口接種し、
もう一方は効能のない偽ワクチンを接種して、
接種終了28日後以降のロタウイルスによる重症の胃腸炎の発症を、
比較検証しています。
新生児が2歳になるまで観察は継続される予定ですが、
現状は118例のロタウイルスによる重症胃腸炎が報告された時点で、
解析は行われています。
ワクチンは生後6週、10週、14週の3回接種されていて、
これは現行のロタテックと同じスケジュールです。

その結果…

118例のロタウイルスによる重症胃腸炎が報告され、
そのうちの31例がワクチン接種群で、
残りの87例が偽ワクチン群でした。
これによりロタウイルスワクチンの、
ロタウイルスによる重症胃腸炎予防効果は、
66.7%と算出されました。
(Per-protocol 解析。95%CI;49.9から77.9)
ロタウイルス胃腸炎の事例全てで見ると、
その有効率は34.5%で、
全ての感染性胃腸炎での解析では、
ワクチン接種群で666例に対して偽ワクチン群で646例と、
トータルには予防効果は認められませんでした。
ワクチンの有害事象として指摘されている腸重積については、
今回の研究では報告事例はありませんでした。

今回のロタウイルス由来の重症胃腸炎を66.7%低下させた、
というワクチンの有効性は、
ロタリックスやロタテックの臨床試験とほぼ一致する結果で、
この2種のワクチンの代わりに、
インド製の今回のワクチンを用いても、
大きな問題はなさそうであることを、
示唆する結果です。

このくらいの例数では当然のことではあるのですが、
ロタウイルスによる重症胃腸炎は減っても、
トータルに全ての原因による重症胃腸炎は減っていないので、
少しモヤモヤする結果ではあります。

いずれにしても、
今後は医療コストを考えた製品選びという、
こうした目的の研究が増えることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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プレガバリン(リリカ)の坐骨神経痛に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
今週の土曜日4月1日の午後は休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リリカの坐骨神経痛への効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
抗痙攣剤の一種で痛みに対して現在多用されている、
プレガバリン(リリカ)を、
非常に一般的な症状である坐骨神経痛に、
使用した場合の効果を検証した、
臨床試験の論文です。

プレガバリン(リリカ)という痛みの治療薬は、
ここ数年非常に広く使用されるようになりました。

これは痛みを伝える神経の働きを、
抑えるような作用の薬で、
元が抗痙攣剤ですから、
ふらつきやめまいなどの副作用はあるのですが、
他の同種の薬剤と比較すると比較的軽微で、
そのため急速にその使用は拡大しました。

日本での保険適応は神経障害性疼痛と、
慢性疼痛の一種である線維筋痛症です。

神経障害性疼痛というのは、
痛みを伝える神経が何等かの原因で障害されることにより、
神経が過敏になって痛みを生じるもので、
たとえば帯状疱疹というウイルスの皮膚の病気の後で、
炎症を起こした場所がピリピリと痛む、
帯状疱疹後神経痛はその代表です。

帯状疱疹という病気は、
発見が遅れることも多く、
痛みが残ることが患者さんにとっては大きな苦痛です。

少し前まではそうした時に使って効果のあるような、
良い薬が全くなかったので、
その点については患者さんの福音であったように思います。

ただ、神経障害性疼痛には、
非常に多くの病気や病態が含まれているのですが、
実際に精度の高い臨床試験において、
プレガバリンの効果が実証されているのは、
この帯状疱疹後神経痛と糖尿病の神経合併症による疼痛だけです。

もっと幅広く慢性疼痛に対しての介入試験は1つだけあるのですが、
試験のデザインには問題が指摘されていて、
その有効性は確認されていません。

もっとも馴染みのある神経障害性疼痛の1つは、
いわゆる坐骨神経痛です。

坐骨神経痛というのは、
太腿の後ろ側から足に掛けて生じる痛みで、
脊柱管狭窄症や腰椎ヘルニアなどの腰の病気が原因となることが多く、
手術の適応がないものについては、
痛み止めが対処療法として使用されます。
特に電気の走るような痛みが持続するようなケースでは、
プレガバリンがしばしば使用されます。

これは勿論保険適応のある治療ですが、
前述のように、その有効性の根拠は、
実際にはあまり明確なものはないのです。

そこで今回の研究ではオーストラリアにおいて、
複数施設で中等度以上の坐骨神経痛の患者さんを登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はプレガバリンを1日150㎎から開始して、
600㎎まで効果を見ながら増量し、
もう一方は見分けの付かない偽薬を同様に使用して、
8週間の治療を行ない、
その治療の前後及び、
試験開始後52週時点での症状の比較を行っています。
登録された事例は209例です。

その結果…

治療8週間後と52週時点での比較において、
プレガバリン使用群と偽薬使用群との間に、
有意な差は認められませんでした。
データを見ると、症状は治療期間において、
改善しているのですが、
それは偽薬でもほぼ同一で差は認められませんでした。

一方で当然のことですが、
偽薬と比較してプレガバリン群では、
めまいなどの副作用は明らかに多く認められました。

この試験のデザインと症例数は、
これまでプレガバリンによる治療効果が認められた、
帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経障害の臨床試験と、
ほぼ同レベルのものです。

従って、今回の結果から見る限り、
プレガバリンは同じ神経障害性疼痛であっても、
帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経障害では効果があっても、
坐骨神経痛に対しては効果はない、
ということになります。

ただし…

今回のデータは急性の坐骨神経痛と慢性の坐骨神経痛が混在していて、
実際には8割の患者さんは3か月以内の発症、
つまり急性の坐骨神経痛の可能性があります。
急性の坐骨神経痛の4分の3は3か月以内に未治療で改善すると言われているので、
そうしたケースではプレガバリンを使用してもしなくても、
結果は同じであった可能性があります。
偽薬でもかなりの改善が認められているという事実は、
そうした可能性を示唆するものです。
また、坐骨神経痛自体、純粋に神経障害性疼痛によるものではなく、
実際には侵害受容性疼痛という、
別個のメカニズムによる疼痛との混合であると考えられています。

従って、全ての坐骨神経痛にプレガバリンが無効、
というようには言い切れず、
3か月を超える慢性の経過で、
症状的にも神経障害性疼痛の関与が大きいことが想定される事例を選べば、
今回とは違った結果が得られる可能性も残っているのです。

いずれにしても、
全ての慢性の痛みにプレガバリンが有効な訳ではなく、
神経障害性疼痛が想定される病変の全てに有効な訳ではない、
ということは明らかなので、
今後はどのような事例に対してプレガバリンが適応となるのか、
そのもっと厳密な線引きが、
必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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