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1日タバコ1本の心血管疾患リスクはどのくらいか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
夜に雪が降らないといいのですが…

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
タバコ1本の心血管疾患リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
1日1から5本という少ない量の喫煙が、
心臓病や脳卒中のリスクに与える影響についての論文です。

タバコが健康に害のある習慣であることは、
これはもう間違いのない事実ですが、
その害がどのくらいの本数のタバコから生じるものか、
という点についてはまだ議論の余地を残しています。

喫煙による肺癌のリスクについては、
明確に増加するのは1日20本の喫煙を、
10年以上続けた場合です。
CTによる肺癌検診は、
欧米では概ね1日20本の喫煙を30年以上続けた喫煙者を、
主な対象としていますが、
これもその本数の蓄積が、
明確に肺癌のリスクを上昇させるからです。

従って肺癌のリスクということだけで考えると、
禁煙が無理でもタバコの本数をうんと減らせば、
極端に言えば毎日1本だけにすれば、
肺癌のリスクは喫煙をしない人と、
そう変わらない状態と言っても良いと思います。

しかし、タバコの害は肺癌だけではありません。

COPDのような肺の病気もあり、
肺癌以外の癌のリスクの増加もあり、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患のリスクの増加もあります。

最近受動喫煙の害というものも、
強く言われるようになりましたが、
これは端的に言えば1日1本くらいの喫煙をすることと、
意味合いとしては大きく変わりません。

とすれば、
1日1本の喫煙でも、
病気のリスクに結び付くという可能性はある訳です。

それは実際にどの程度のものなのでしょうか?

今回の研究はこれまでの疫学データをまとめて解析した、
メタ解析の研究で、
トータルで55の論文に含まれている、
141の疫学データが対象となっています。

それをまとめて解析した結果として、
男性での虚血性心疾患のリスクは、
非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.48倍、
1日20本の喫煙者では2.04倍有意に増加していて、
これを関連する因子が補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.57倍、
1日20本の喫煙者で2.27倍とより高くなっていました。

同様に女性の虚血性心疾患のリスクは、
非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.57倍、
1日20本の喫煙者で2.84倍有意に増加していて、
これを関連する因子で補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で2.19倍、
1日20本の喫煙者で3.95倍と矢張りより高くなっていました。

脳卒中のリスクについてみると、
男性では非喫煙者と比較して、
1日1本の喫煙者で1.25倍、
1日20本の喫煙者で1.64倍有意に増加していて、
これを関連する因子で補正されたデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.30倍、
1日20本の喫煙者で1.56倍となっていました。

女性では同様に、
1日1本の喫煙者で1.31倍、
1日20本の喫煙者で2.16倍と脳卒中のリスクは有意に増加していて、
これを関連する因子を補正したデータに限ると、
1日1本の喫煙者で1.46倍、
1日20本の喫煙者で2.42倍と更に高くなっていました。

このように1日たった1本の喫煙でも、
心筋梗塞や脳卒中のリスクは、
非喫煙者と比較しても明確に高くなることが、
今回の解析では明らかになりました。

たった1本のタバコで、
それだけの影響があるのだとすると、
そのメカニズムはどのようなものなのでしょうか?
その点については上記文献にも説明はありませんし、
科学的に説明することは、
かなり難しいように思います。

本数は多いほどリスクは高まることは高まりますが、
用量依存ではなく蓄積効果ということでもないようです。
そうなると喫煙時の交感神経の緊張や血圧の上昇などが、
リスクとして想定されますが、
仮にそうであるとすると、
熱いお湯への入浴などの方が、
よりリスクが高いとも言えそうです。

このように、
データの解析自体は事実であるのでしょうが、
少量の喫煙や受動喫煙の害は、
最近の研究結果ではあまりに強調されていて、
それ自体あまり科学的ではないように思える部分もあります。

今回の結果などは喫煙以外に、
隠された交絡因子があると考えた方が、
説明し易いのではないでしょうか?

ただ、勿論喫煙が健康に害のあることは事実ですので、
本数を減らすより完全に禁煙することが、
求められること自体には僕も賛成です。

どうかその辺りは、
誤解のないようにお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗凝固剤の種類と脳出血の予後の違いについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンとNOACと脳出血.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
抗凝固剤の種類と脳出血の予後との関連についての論文です。

心房細動という年齢と共に増加する不整脈があり、
特に慢性に見られる場合には心臓内に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まることにより、
脳塞栓症という脳梗塞を発症します。

これを予防するために、
抗凝固剤と呼ばれる薬が使用されています。

この目的で古くから使用されているのがワルファリンです。

ワルファリンは非常に優れた薬ですが、
納豆が食べられないなど食事に制限が必要で、
定期的に血液検査を行って、
量の調節を行う必要があります。

こうしたワルファリンの欠点を克服する薬として、
2011年以降に日本でも使用が開始されているのが、
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
非ビタミンK阻害抗凝固剤や直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる一連の薬剤です。

直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。

上記論文では非ビタミンK阻害抗凝固剤という表現が使われているので、
以下はその言葉を使います。

この非ビタミンK阻害抗凝固剤の有効性は、
コントロールされたワルファリンとほぼ同等と考えられています。
ワルファリンと比較した場合の主な利点は、
消化管出血などの出血系の有害事象が少ないことと、
量の調節が基本的には不要である点です。

ただ、こうしたタイプの薬が広く使用されるようになると、
矢張り問題となるのは出血系の有害事象です。

日本においては特に問題となるのは脳内出血ですが、
欧米においては脳内出血の頻度は少ないため、
もっぱら消化管出血が注目されることが多く、
脳内出血のリスクについては、
あまり論文にも記載がないのが実際です。

ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の、
どちらが脳内出血の予後により悪影響を与えるのか、
そうした点についてはこれまであまり確かなことが分かっていなかったのです。

今回のデータはアメリカの複数施設によるものですが、
トータルで141311名という非常に多くの脳内出血の事例を対象として、
ワルファリンと非ビタミンK阻害抗凝固剤の使用と、
脳内出血の予後との関係を検証しています。

その結果、
抗凝固剤の使用歴のない場合と比較して、
脳内出血で入院した場合の死亡リスクは、
ワルファリンを使用してる場合には1.62倍(95%CI: 1.53から1.71)、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している場合には、
1.21倍(95%CI: 1.11から1.32)それぞれ有意に増加していました。
そして、非ビタミンK阻害抗凝固剤よりワルファリン使用時には、
脳内出血での入院時の死亡リスクは有意に高くなっていました。

つまり、
脳内出血のリスクが高いと想定される患者さんには、
ワルファリンより非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用した方が、
出血後の生命予後はより良い可能性が高い、
という結果となっています。

ただ、今回のデータではワルファリン使用者と比較すると、
非ビタミンK阻害抗凝固剤を使用している患者さんの数は少なく、
使用している薬もリバーロキサバンとアピキサバンが8割以上を占めるなど、
かなりデータには偏りがあるので、
このデータのみをもって、
どの薬が最も脳内出血の予後に関してはリスクが少ない、
とも言い切れないのですが、
こうした多数例のデータが初めて発表された意義は大きく、
今後の検証にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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寒いと何故風邪をひくのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
低温と風邪との関係.jpg
2007年のINT J TUBERC LUNG DIS誌のレビューですが、
何故気温が低いと風邪に罹りやすいのかについての、
これまでの知見をまとめたものです。

10年前のものなので、
これ以降の新知見があるのかも知れませんが、
検索した範囲ではあまりめぼしいものがありませんでした。
多分大したブレークスルーはないのでは、
という気がするのですが、
ちょっと自信はありません。

もし何かご存じの方がいれば、
是非ご教授頂きたいと思います。

さて、今は真冬で、
インフルエンザが猛威を振るっています。

一般的に言って、冬は風邪のシーズンです。
夏風邪というものもありますが、
インフルエンザも季節性と呼ばれる流行を示すようになると、
気温が低くなると流行することは、
科学的に証明するまでもなく、
皆さんが肌で感じている事実です。

しかし、
何故気温が低くなると風邪が流行るのでしょうか?

これが実はそれほどクリアに分かっていません。

まず気温が低い時には、
心血管疾患や呼吸器疾患の死亡率が高い、
というデータが存在しています。
イギリスで施行された大規模な疫学データによると、
冬の高齢者の死亡率は他の季節より30%余り上昇していました。
また別のヨーロッパの2都市の4年間のデータでも、
寒さは死亡リスクを増加させていました。

イギリスにおいて、
低温と上気道および下気道感染のリスクとの関連が、
報告されています。
概ね気温が5℃を下回ると感染のリスクは増加していました。
急性咽頭炎が気温が低い時に多いことも報告されています。
クループによる入院の統計でも、
低温時に多いことが報告されています。
急性扁桃炎などを起こすEBウイルスは、
低温の環境下でより増殖し、
低温下では細胞性免疫が低下していた、
というデータも存在しています。

低温下では気道感染症時の死亡率を、
増加させることも報告されています。
インフルエンザのパンデミック時に、
その死亡リスクの増加はより顕著であった、
という報告も存在しています。

身体を一時的に低温に曝すことで、
上気道感染症に罹りやすくなった、
という報告も存在しています。
ただ、これは別の研究では再現はされていません。

外傷後などに脳を損傷から守るために、
低体温療法が行われることがありますが、
その低温環境により、
肺炎などの感染症のリスクが増加することが報告されています。
一方で感染症は低体温療法では増加しなかった、
という報告も複数存在しています。

上記のようなデータからは、
低温下では免疫力が低下して、
それで感染が増加するという可能性が想定されます。

しかし、実験的な研究においては、
低温による免疫の低下や、
易感染性は証明されていません。

身体が健康な状態であれば、
寒冷の刺激により鳥肌が立ち、
身体は震えて熱を産生します。
手足など末梢の血管は収縮して、
身体の中心の温度を一定に保とうとするのです。
鼻の粘膜が低温に曝されることにより、
血流は低下してその防御力が低下し、
感染を起こしやすくなるという仮説もあります。
低温では虚血性心疾患や脳卒中は、
その温度差による影響や、
血流の低下によって悪化しやすいことは実証されているので、
それが免疫の低下にも結び付く、
という仮説もあります。

このように、
冬のような低温において、
上気道や下気道の感染に罹りやすくなり、
またその重症化や死亡率が増加することは、
ほぼ事実と考えて良いのですが、
その正確なメカニズムはまだ分かっているとは言えず、
免疫が低下するかどうかについても、
まだ結論が出ているとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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インフルエンザのA型とB型に症状の違いはあるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザのA型とB型の違い2015.jpg
これは2015年のPLOS ONE誌の論文ですが、
フランスでの複数年の疫学調査を元に、
インフルエンザのA型とB型の症状の違いについて検討したものです。

今日はこの論文と、
それからこれ以前の2つの報告から、
インフルエンザのA型とB型の症状の違いについて考えます。

今クリニックのある品川周辺でも、
インフルエンザが大流行しています。

2週間くらい前までA型とB型が拮抗していて、
数日前からはB型の流行が主体となっているように、
クリニックでの迅速診断の検出状況からは想定されます。

さて、以前はインフルエンザのタイプなどというものは、
あまり問題視されていませんでしたが、
近年の迅速診断
(鼻の奥に綿棒を突っ込む評判の悪いあれです)では、
A型とB型の抗原を別々に検出して表示するようになっているので、
A型とB型という2種類のインフルエンザの違いについて、
一般の方も診療の際に結構気にされるようになりました。

そこで外来で聞かれることが多いのが、
A型とB型と症状に違いがあるのか、
ということです。

比較的よく言われることが多いのが、
「B型はA型と比べて熱が高く上がらない」
という説や、
「下痢などのお腹の症状はB型に多い」
という説です。

ネットで医療記事を書いているその道の専門家とされる方が、
B型では熱が上がりにくいとか、下痢が多いと、
まとこしやかに書かれているのを見るが、
その情報の根拠は乏しく、
まともな論文では全て、
A型とB型の症状には違いがないと報告されている、
という趣旨のことを最近書かれていました。

それは本当でしょうか?

僕の記憶では迅速診断が一般の臨床で普及し始めた頃に、
臨床の専門誌のようなものの対談で、
ある感染症やウイルス学の専門家の座談会があって、
ある先生が迅速診断を多数例で行った経験として、
B型は不顕性感染が多くて、
胃腸症状も多いことに初めて気付いた、
という趣旨の発言をしていました。

論文にはおそらくまとまっていないと思いますが、
そうした意見が当時あったことは事実だと思います。

実際毎日インフルエンザの患者さんを、
何人も診察をしていると、
一定の傾向のようなものに、
個人的に気付くことは確かです。

症例報告として今では信用している人が多い、
咽頭の後壁の部分のリンパ濾胞の増殖の所見もそうですし、
少なくともその時に流行しているウイルスについては、
一定のパターンが見られると感じます。

たとえば先週以来大流行しているB型については、
熱は夜だけ上昇して昼には下がる傾向にあり、
初期には咳が強く、痰や鼻水は乏しい、
という特徴を感じます。

ただ、こうした個人の臨床医の所見や経験的な知見は、
今ではうっかり口にしたりSNSに書いたりすると、
誤解を招くことも多いので、
敢くまで経験則として、
心の中にしまっておいた方が安心です。

それでは、インフルエンザのB型では熱が出にくく、
胃腸症状が多い、という論文はないのでしょうか?

それはないこともありません。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザのB型の特徴2003.jpg
これは最初の2015年の論文にも引用されている、
2003年のRespiratology誌の論文ですが、
久留米医科大学での単独施設で診断された、
トータル196例のインフルエンザ患者を、
A型のH1N1とH3N2,そしてB型の3種類に分けて、
それぞれの症状を比較したところ、
消化器症状はB型が有意に多く、
筋肉痛はH1N1が有意に少なく、
咽頭痛はB型が少ない、という結果になっていました。

発熱もH3N2(A香港型)が多く、
H1N1とB型はそれと比較すると少ないという結果になっています。

つまり、例数は少なく単年度の単独施設の結果ですが、
この時の結果は確かに、
B型は消化器症状が多く咽頭痛や熱は少ない、
と言っても間違いではない結果となっています。

それでは次に最初にご紹介した論文です。

これはフランスの疫学調査で、
2003年から2013年の10年間の、
トータル14423名のインフルエンザ事例を集計したものです。

この人数で複数年の経過を集積すると、
A型とB型の感染を、
何かの症状で明確に区別する、
ということは困難になります。

その一方で発症する年齢層には差が見られていて、
0から4歳と比較すると、
5から14歳での発症リスクは2.15倍(95%CI; 1.87から2.47)となり、
15から64歳での発症リスクは逆に0.83倍(95%CI; 0.73から0.96)と、
感染は少なくなっているという違いがあります。

細かくみると、
B型の2つ系統(ビクトリア系統と山形系統)にも、
症状や発症リスクには差が見られる傾向もあり、
年齢層によっては、
消化器症状はB型に多いという傾向も皆無ではありません。

今度はこちらをご覧下さい。
2013インフルエンザのB型の特徴.jpg
これはAmerican Journal of Public Health誌の2013年のレビューですが、
これまでのB型の特徴についての報告をまとめたものです。

こちらもA型とB型には症状の差がない、
というものがある一方、
たとえば台湾の報告で、
下痢はB型に多い、
という報告も紹介をされています。

要するにどの報告も、
A型とB型の症状には差がない、
というようには言っていないのです。
最初に紹介した2015年の論文は、
確かに題名はそうしたニュアンスですが、
本文では違いを完全に否定している訳ではありません。

症状から経過や予後に繋がる情報が得られたり、
インフルエンザのタイプが推測出来れば、
それは臨床上メリットのあることですから、
基本的にはそうした違いを探しているのですが、
B型トータルで見ると、
そうした違いは今のところはっきりしたものが見つかっていない、
ということなのです。

タイプ間の差より、
明確なのはむしろ年齢による症状の差である、
という可能性もある訳です。

発熱に関しては、
そもそも多くの研究では、
発熱を指標としてインフルエンザを疑っているので、
熱のあまり出ないインフルエンザは、
その多くが除外されているため、
データとして検出されにくい、
という傾向はあるように思います。

また、B型では平熱である期間が長い、
という「臨床的な印象」についても、
そうした発熱様式の差のデータというのは、
実際には殆ど存在していないので、
あるともないとも、
現時点では断定は難しいのではないかと思います。

従って、
現状では流行しているウイルスによって、
その症状には特徴のある可能性は高いけれど、
それを「B型の特徴」のように言うのはやや乱暴で、
そうしたものがあることを否定も出来ないけれど、
実証的なデータは乏しいのであるともないとも言えない、
という辺りが適切な表現ではないかと思います。

ネットの記事はいつものことですが、
「馬鹿は権威のある俺の意見に従え」という感じで、
文献を引用していても、
その趣旨をねじ曲げていることが多いのは、
いつもモヤモヤしたものを感じてしまうのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コレステロール降下剤と脳内出血の関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンと脳出血.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
コレステロール降下剤(スタチン)の使用と、
脳内出血リスクについての解説記事です。

このやや分かりにくい問題を、
この機会にまとめておきたいと思います。

スタチンというのはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
コレステロールの降下作用のみならず、
抗炎症作用など動脈硬化の進行を予防し、
心血管疾患の発症を予防するような複数の作用を持ち、
抗動脈硬化薬としてその有効性は確立されています。

脳卒中、特に虚血性梗塞においては、
動脈硬化の進行を予防するような治療が、
脳梗塞の発症予防にも繋がることから、
積極的にスタチンを使用することが推奨されています。

ところが、
2006年から2008年に発表された、
SPARCLという臨床試験においては、
脳卒中を起こした患者さんにコレステロールを下げる治療をすると、
脳卒中全体は約16%低下しましたが、
その中身を見てみると、
脳内出血の発生は、
実はコレステロールを下げた方が、
却って増えている、という結果が得られたのです。

この試験の結果を受けて日本のガイドラインでは、
高血圧性脳内出血を起こした方では、
コレステロール低下療法は、
慎重に行なうべき、とされています。

その後の検討なども含めて考えると、
微小出血を併発するラクナ梗塞などを含めて、
出血性梗塞や脳内出血を起こした患者さんでは、
その後にスタチンを使用すると、
脳内出血の再発のリスクが高まる、
ということ自体はほぼ事実と考えて良いようです。

この事実が判明して以降、
スタチンを使用している患者さんが出血性梗塞や脳内出血を起こすと、
それが判明した時点でスタチンを中止する、
という治療が幅広く行われました。

しかし、病気の急性期にスタチンを中止すると、
患者さんの予後には悪影響が及ぶ、
という知見もまた複数報告されました。

急性期のスタチンの中止は、
一種のリバウンドのような現象を起こし、
その後の心血管疾患発症のリスクを高めてしまったのです。

スタチンには抗血小板作用があり、
それが使用継続時の出血リスクの増加にも、
関連がある可能性が高いのですが、
急な中断は血小板機能を活性化させ、
新たな血栓症の発症に結び付くことがあるようです。

このようにスタチンは単なるコレステロール降下剤ではなく、
抗血小板剤や抗凝固剤と、
同じ系統の薬と考える必要がありそうです。

トータルには、
血栓症のリスクが高い患者さんにおいては、
そのリスクを軽減し、
健康全般の予後を改善する効果が期待出来るのですが、
その一方で出血系の合併症のリスクは高めます。

現状心血管疾患のリスクが高い患者さんでは、
予防のためにスタチンは必須の薬ですが、
開始の時点で出血系梗塞や脳内出血の既往がある場合には、
その使用は出血再発のリスクを高めるので、
その使用は慎重に考えます。
ただ、スタチン使用中の患者さんが出血を起こした時には、
急性期(脳卒中ならリハビリ開始までの期間)は、
その使用は継続し、
病状が安定してから中止の判断はするべきなのです。
こうした急性期のスタチンの中止は、
血栓症のリバウンドのリスクを高めるからです。

今日は脳出血とスタチンとの関連について、
最新のレビューを元に考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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一過性脳虚血発作(TIA)の予後と循環代謝疾患との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
TIAと循環代謝疾患の予後.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
一過性の脳卒中の発作を起こした患者さんの生命予後を、
糖尿病や心疾患との合併に重点を置いて検証した論文です。

一過性脳虚血発作(TIA)というのは、
麻痺や失語などの脳卒中様の症状が、
一時的に出現してその後に元に戻る、
という経過を指した言葉で、
脳の血管が血栓によって一時的に詰まり、
それから血栓が溶けたり流れ去ることで短時間で症状が元に戻る、
というような場合と、
脳を栄養する血管の一部に狭い場所があって、
血圧の低下など血流が低下した時に、
一時的に虚血となって症状が出る、
というような2つの場合があると想定されています。

TIAは脳卒中の前兆、
というように考えられることが多く、
症状はすぐに改善しても、
脳卒中に準じて治療や予防を開始することが推奨されています。

それは、
TIAを起こした人の10から15%が脳梗塞になり、
その半数は48時間以内に発症している、
というデータがあるからです。

そして、より長期的に見た場合、
TIAを起こした人の生命予後は、
起こさない人よりも悪いという疫学データも存在しています。

ただ、このTIA後の生命予後の悪化が、
脳梗塞の前兆としてのものなのか、
それとも別個の病気などの関与が大きいのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

近年循環代謝疾患とか、
心代謝疾患という考え方があり、
英語ではCardiometabolic diseases などと言っていますが、
これは血管疾患の脳梗塞や虚血性心疾患と、
糖尿病などの代謝疾患とが互いに関連していて、
その2つ以上があるとより生命予後に悪影響がある、
というような考え方です。

今回の研究はその考え方を元に、
アメリカのメイヨー・クリニックにおいて、
新規のTIAで入院した患者さん、
トータル251名を登録し、
5年間の観察期間中に、
循環代謝疾患である、
糖尿病、虚血性心疾患、心不全、心房細動のいずれかを併発するリスクと、
その併発が患者さんの生命予後に与える影響を検証したものです。

その結果、
5年間にこの251名のうち、
53%に当たる134名が1つ以上の循環代謝疾患を、
22%に当たる55名が2つ以上の循環代謝疾患を併発していて、
491件の再入院(27%が循環代謝疾患によるもの)があり、
75名が死亡(36%が循環代謝疾患によるもの)していました。

1つ以上の循環代謝疾患を経過中に併発すると、
TIAの患者さんの経過観察中の死亡リスクは、
1.89倍(95%CI; 1.17から3.03)有意に増加していました。
また、入院が1回あると、
その度に死亡リスクが1.5倍(95%CI; 1.37から1.64)
有意に増加していました。

つまり、TIAを1回起こした患者さんの生命予後には、
糖尿病や虚血性心疾患などの循環代謝疾患を、
併発するかどうかが大きく影響していて、
その予後を改善するためには、
脳梗塞の予防のみならず、
心疾患や糖尿病の予防も同じように重要なのではないか、
という結果です。

西洋医学というのは、
どうしても病気中心主義となり、
1つの病気の予防や治療という観点で考えがちですが、
この循環代謝疾患もそうですし、
メタボという概念もまたそうですが、
複数の病気や病態が互いに関連するという考え方が、
今後はより重要になるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脳内出血と血糖値との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血糖値と脳出血リスク.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
空腹時の血糖値と脳内出血のリスクとの関連についての論文です。

脳卒中は大きく、
脳の血管が詰まって血液が流れなくなる梗塞と、
脳の血管が破れて周辺に血液が流れだす出血とに分かれます。

脳出血のうち、
脳の中にある血管が破れて出血するのが、
脳内出血です。

脳卒中の治療は大きな進歩を遂げていますが、
その大部分は脳梗塞の治療におけるもので、
脳内出血に関しては、
あまり画期的な治療の進歩もありませんし、
その原因やリスクとなる要因についても、
あまり明確なことが分かっていません。

高血圧が脳内出血のリスクになることは、
間違いのない事実ですが、
血圧が安定していても脳内出血はゼロにはなりません。

つまり、当然高血圧以外にも、
脳内出血のリスク要因はある筈ですが、
それがあまり明らかにはなっていないのです。

糖尿病は動脈硬化を進行させ、
脳梗塞のリスク要因であることは間違いがありませんが、
血糖値と脳内出血との関連については、
脳梗塞のような明瞭な関係が得られていません。

そこで今回の中国の研究では、
96110名の一般住民の空腹時血糖値を測定して、
その後の脳出血のリスクとの関連を検証しています。

その結果、
脳内出血のリスクは、
空腹時血糖が4.0mmol/L(72mg/dL)から、
6.1mmol/L(110mg/dL)の間で最も低く、
それを上回る高血糖状態でも、
それを下回る低血糖状態でも、
いずれも上昇するということが確認されました。

つまり、血糖値が正常範囲から逸脱することは、
いずれも脳内出血のリスクに繋がるといって良いようです。

この研究では2年ごとに血糖測定が施行されていますが、
脳内出血との関連が深かったのは、
出血直近の血糖値ではなく、
登録時の血糖値もしくは観察期間の全体の血糖値で、
このことは急性の影響ではなく、
慢性の血糖値の影響が、
脳内出血との関連においては大きいことを、
示唆する所見であると考えられました。

脳内出血の予防はまだ確立されていませんが、
血圧の安定化と共に、
血糖値を正常範囲に維持することが、
現状ではその予防に重要であるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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くしゃみを無理にこらえることのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
雪が残っていて滑りやすいのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
あくびこらえによる喉頭破裂.jpg
2018年のBMJ Case Rep誌に掲載された症例報告で、
鼻と口を押えて、無理矢理くしゃみをこらえることで、
咽喉(咽頭)に穴が開いたという、
ビックリするような事例です。

くしゃみや咳は体の中にある異物を、
外に押し出すような一種の反射ですが、
大きな音を立てて、
周りにも不快な印象を与える行為でもあるため、
状況によっては、
出かかったくしゃみや咳を、
口や鼻を閉じて無理矢理に出ないようにこらえる、
という行為もしばしば行われることがあります。

僕自身もくしゃみや咳が連発するのは嫌なので、
時々そうしたこらえ方をしています。

ただ、無理矢理にこらえると、
身体の中の圧力が、
一時的にはかなり高まっているのを自覚します。

こうした無理をして、
何か身体に弊害は生じないのかどうか、
ちょっと不安に感じることも確かです。

今回報告されたケースは、
それ自体は極めて稀なものですが、
34歳の男性が鼻と口を塞いでくしゃみを我慢したところ、
その後で首や背中が膨らんだような違和感があり、
声の変化と物を飲み込む時の痛みがあったため、
救急外来を受診した、というものです。

こちらをご覧ください。
あくびこらえによる喉頭破裂1.png
患者さんの救急受診時のレントゲン画像ですが、
黒い矢印の部分は後咽頭と呼ばれる咽喉の後ろ側に、
本来はない気腫が出来ている所見で、
白い矢印は咽喉の前方の皮下組織に、
矢張り気腫が出来ている所見です。

これはつまり、
くしゃみを無理にこらえたことにより、
咽喉の一部が裂けて破れ、
そこから空気が漏れ出した、
ということを示しています。

次にこちらをご覧ください。
あくびこらえによる喉頭破裂2.png
同時に撮影されたCTの画像ですが、
レントゲンよりクリアに、
気腫となった部位が同定されています。

激しい嘔吐などに伴って、
食道に穴が開くというケースがあることが報告されていますが、
食道には特に問題はないようです。

気腫の範囲から、
後咽頭の梨状窩と呼ばれる部分に、
穴が開いた可能性が高いと考えられました。

患者さんは抗生物質の使用と、
経口摂取は中止して経鼻のチューブからの栄養補給を行い、
保存的な治療で経過を見ました。
1週間後には気腫は吸収され、
2か月後のフォローでも再発や合併症を認めませんでした。

これは極めて稀な事例として報告されていますから、
くしゃみや咳をこらえること自体が、
害があるとは言えないのですが、
鼻と口を塞いでくしゃみをこらえることは、
咽頭の圧力を不必要に高め、
元々筋肉の裏打ちがなく弱い部位である梨状窩に、
穴が開くような危険を高めることは事実なので、
なるべく行わないことが安全とは言えるようです。

くしゃみや咳は、
無理にこらえずに出してしまう方が間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プロトンポンプ阻害剤と抗血小板剤併用の脳卒中リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
PPIと抗血小板剤との併用のリスク.jpg
2018年のStroke誌に掲載された、
抗血小板剤という血液をサラサラにする薬と、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬を併用することによる、
脳卒中などの発症リスクへの影響を検証した論文です。

プロトンポンプ阻害剤は、
強力な胃酸分泌の抑制剤で、
従来その目的に使用されていた、
H2ブロッカ-というタイプの薬よりも、
胃酸を抑える力はより強力でかつ安定している、
という特徴があります。

このタイプの薬は、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療のために短期使用されると共に、
一部の機能性胃腸症や、
難治性の逆流性食道炎、
抗血小板剤や抗凝固剤を使用している患者さんの、
消化管出血の予防などに対しては、
長期の継続的な処方も広く行われています。

商品名ではオメプラゾンやタケプロン、
パリエットやタケキャブなどがそれに当たります。

このプロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーと比較しても、
副作用や有害事象の少ない薬と考えられて来ました。

ただ、その使用開始の当初から、
強力に胃酸を抑えるという性質上、
胃の低酸状態から消化管の感染症を増加させたり、
ミネラルなどの吸収を阻害したりする健康上の影響を、
危惧するような意見もありました。

そして、概ね2010年以降のデータの蓄積により、
幾つかの有害事象がプロトンポンプ阻害剤の使用により生じることが、
明らかになって来ました。

現時点でその関連が明確であるものとしては、
プロトンポンプ阻害剤の長期使用により、
急性と慢性を含めた腎機能障害と、
低マグネシウム血症、
クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎、
そして骨粗鬆症のリスクの増加が確認されています。

その一方でそのリスクは否定は出来ないものの、
確実とも言い切れない有害事象もあります。

プロトンポンプ阻害剤は抗血小板剤と併用されることが多く、
心筋梗塞などの後に頻用されている、
クロピドグレル(商品名プラビックス)との併用が、
同じ肝臓の薬物代謝酵素を利用して代謝されるため、
活性体であるクロピドグレルの代謝産物の血液濃度を低下させ、
心血管疾患のリスクを増加させるのでは、
という危惧が指摘されました。

ただ、2015年に発表されたメタ解析によると、
31の観察研究をまとめて解析した結果としては、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
心血管疾患のリスクは1.3倍増加していましたが、
4種類の介入研究という、
より精度の高い研究のみを解析すると、
そして心血管疾患リスクの増加は認められませんでした。
従って、現時点でクロピドグレルとプロトンポンプ阻害剤の併用が、
心血管疾患のリスクであるかどうかは、
明確ではありません。

クロピドグレル以外に、
チクロピジン(商品名パナルジンなど)と、
プラスグレル(商品名エフィエント)も、
チエノピリジン骨格という同様の構造を持ち、
プロトンポンプ阻害剤との併用において、
同様のリスクが想定されています。

今回の研究はこれまでの臨床研究などのデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
これまであまり検証されていなかった、
脳卒中のリスクへの、
チエノピリジン骨格を有する抗血小板剤と、
プロトンポンプ阻害剤との併用の影響を検証したものです。

これまでの22の臨床研究に含まれた、
トータルで131714名の患者さんのデータを、
まとめて解析した結果では、
抗血小板剤を単独で使用した場合と比較して、
プロトンポンプ阻害剤を併用すると、
関連する因子を補正した結果として、
脳卒中のリスクが1.30倍(95%CI: 1.04から1.61)、
脳卒中と心筋梗塞と心血管疾患による死亡を合わせたリスクが
1.23倍(95%CI: 1.03から1.47)、
それぞれ有意に増加していました。
総死亡や、出血系の有害事象、心筋梗塞単独のリスクについては、
有意な差は認められませんでした。

今回のデータも、
矢張りそれほどクリアなものとは言えませんが、
プロトンポンプ阻害剤を、
チエノピリジン骨格を持つ抗血小板剤と、
その影響を考慮することなく併用することは、
あまり賢明なことではなく、
プロトンポンプ阻害剤の使用は必要最小限の期間とすることが、
現状は最善の選択であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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急性蕁麻疹に対するステロイドの上乗せ効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
じんましんのステロイドの効果.jpg
2018年のAnnals of Emergency Medicine誌に掲載された、
急性の蕁麻疹症状に対する飲み薬のステロイド(糖質コルチコイド)の、
治療効果についての論文です。

急性のアレルギー症状として、
皮膚の一部もしくは広範囲が、
赤く腫れて膨らみ、
猛烈にかゆみを感じる急性蕁麻疹は、
通常命に関わるような病気ではありませんが、
大変不快でつらい症状です。
蕁麻疹は一定の時間が過ぎれば自然に改善しますが、
繰り返すこともしばしばありますし、
自然に治るからと言って、
何も薬も使わずに症状に耐えることは、
かなり苦痛であることは確かです。

上記の論文は救急医学領域のものですが、
救急を受診する皮膚に病気のある患者さんのうち、
7から35%は急性蕁麻疹であった、
という統計が紹介されています。

つまり、多くの一般の人にとって、
急性蕁麻疹は一刻を争うつらい症状なのです。

この急性蕁麻疹の治療には、
通常抗ヒスタミン剤という薬が使用されます。
これは風邪薬や花粉症の薬の鼻水止めの成分と同じで、
蕁麻疹の症状の原因である、
ヒスタミンという物質の働きをブロックする薬です。
ヒスタミンが血管のヒスタミン 受容体にヒスタミンがくっつくと、
細い血管が広がり、水が血管の外に染み出して、
むくみを作ります。
ヒスタミンを人間の皮膚に注射すると、
皮膚はたちまちむくんで赤く腫れ、
猛烈な痒みを感じます。
これが要するに、「蕁麻疹」と言われる現象なのです。

2013年の国際的な蕁麻疹のガイドラインによると、
抗ヒスタミン剤の使用以外に、
ステロイド剤(糖質コルチコイド)の服用が、
症状の持続期間と強さの改善に、
有効な可能性がある、という記載があります。

ただ、この記載の根拠となっているのは、
たった2つの臨床研究だけで、
抗ヒスタミン剤にステロイドを上乗せすることにより、
症状はより迅速に改善し、より完全に軽快した、
というように書かれていますが、
厳密な方法である介入試験は1つだけで、
例数も43例と少なく、
使用されている抗ヒスタミン剤は、
今では副作用が強いためあまり使用がされていない、
第一世代の薬が使われています。

従って、今の治療に近い形で、
より例数も増やした検証が、
是非必要であると考えられます。

そこで今回の臨床研究では、
フランスの2か所の救命救急部門を持つ総合病院において、
18歳以上で24時間以内に発症し、
救急外来を受診した急性蕁麻疹の患者さん、
トータル100名を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は日本でも良く使用されている、
新しいタイプの抗ヒスタミン剤レボセチリジン(商品名ザイザル)を、
1日5ミリグラムで5日間使用し、
もう一方はそれに加えて、
ステロイドのプレドニンを1日40ミリグラムを、
1日1回で4日間使用して、
その後の改善の差を比較しています。
偽薬を使用して、
どちらか分からないように条件を同じにした、
かなり厳密な方法の臨床研究です。

その結果、
治療開始後2日の時点で、
ザイザルのみの群の76%と、
ステロイドを上乗せした群の62%が、
かゆみ症状がなくなっていました。
これはどちらにも明らかな優劣は付いていません。

再燃が見られたのは、
ザイザルのみ群の24%に対して、
ステロイド上乗せ群で30%で、
これも明らかな優劣は付いていません。

両群で特に問題となるような有害事象は報告されませんでした。

このように今回の検証においては、
急性蕁麻疹の初期治療として、
抗ヒスタミン剤のみを使用しても、
ステロイドをそれに追加しても、
短期的な症状の改善には特に違いは認められませんでした。

これは勿論単純な蕁麻疹のみの症状の場合で、
呼吸困難な喘鳴を伴うような重症の事例においては、
ステロイドの使用が否定された訳ではない、
という点に注意が必要ですが、
単純な蕁麻疹のかゆみや湿疹のみの症状であれば、
それが少し強くても、
ステロイドを最初から使用することの意義は、
あまりないと考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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