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妊娠後期の母乳搾乳の安全性と効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠後期の母乳搾乳の効果.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
妊娠の後期に母乳を搾乳して保存するという、
ちょっと特殊な方法の効果と安全性とを検証した論文です。

糖尿病の女性が妊娠をした場合や、
妊娠中に母体の血糖値が上昇したような場合には、
胎児のインスリンが過剰に分泌されるため、
出生後に赤ちゃんが一時的な低血糖を起こす、
というリスクがあることが知られています。

こうした場合にも、
お母さんから離されて集中治療室に入った赤ちゃんが、
母乳による栄養を受けられるように、
妊娠の後期に母乳を搾乳して、
それを冷凍保存しておくことが、
欧米では1つの習慣として、
行なわれているようです。

授乳は妊娠糖尿病の糖尿病への進展を、
予防する効果のあることが知られています。
乳汁分泌ホルモンにインスリン抵抗性を改善する効果があることが、
その1つの要因と考えられています。
従って、早期に搾乳を行うことは、
胎児と母体にとってのメリットがあると、
そう考える意見があるのです。

その一方で、
妊娠中に搾乳することにより、
それをきっかけに陣痛が促進して出産が早まり、
胎児の低体重など、
予後に悪影響を与える可能性も否定は出来ません。

2014年のコクランレビューにおいては、
これまでのデータを収集しても、
この問題に解決を与えるような、
精度の高いデータは存在していない、
という結果になっていました。

そこで今回の検証ではオーストラリアの複数の病院において、
糖尿病があって妊娠をしたか、
妊娠糖尿病が診断された、
妊娠34から37週の女性635名を登録し、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方は妊娠36週以降で1日2回お乳を搾って搾乳を行い、
もう一方は搾乳はしないで、
出産後の胎児の経過を比較検証しています。

その結果、
両群で出生時が集中治療室(NICU)に入室するリスクには、
有意な差はなく、
出生時の体重やその健康状態にも、
有意な差は認められませんでした。
そして、搾乳を保存することにより、
出生後24時間以内の母乳栄養の割合は、
搾乳群で有意に高くなっていました。

つまり、
当初想定されたような、
搾乳により陣痛が早まることによる不利益は、
今回の研究では明らかには認められず、
妊娠後期の母乳搾乳の、
一定の安全性が確認をされています。

現状日本では推奨をされていない行為でもあり、
この結果が即日本で適応される、
というようには考えられませんが、
興味深い結果であり習慣であることは間違いがなく、
今後のデータの蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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ミノサイクリンによる多発性硬化症進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
多発性硬化症に対するミノサイクリンの効果.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
多発性硬化症という難病の進行抑制に、
古くからあるミノサイクリンという抗生物質を使用する試みを、
臨床的に検証した論文です。

多発性硬化症というのは、
神経の難病の1つで、
神経を覆う絶縁体の鞘のような部分である、
髄鞘が破壊される脱髄という現象が起こることから、
脱髄疾患と呼ばれています。

この病気の特徴として、
まず単一の神経の部位に、
CIS(Clinically isolated syndrome)と呼ばれる、
1つの症状が起こり、
それに続いてまた別の部位に症状が起こって、
そうした脱髄症状を繰り返しながら、
病状が進行するという経過を取ります。

自己免疫がこの脱髄には影響をしていると考えられているので、
通常脱髄によると思われる単一症状が出現した場合には、
まずステロイドのパルス療法を行って、
症状を抑え込み、
それから再発予防として、
インターフェロンβの注射薬や、
フィンゴリモドなどの免疫抑制剤が、
継続的に使用されるのが一般的です。

この治療には一定の効果が認められていますが、
再発予防薬はどれも非常に高価な薬剤で、
その患者さんへの負担や医療費増大という問題が、
世界的に議論となっています。

そこで、もっと安価な治療薬で、
同様の予防効果が得られないか、
という検討が行われ、
その候補の1つと考えられているのが、
抗生物質のミノサイクリン(商品名ミノマイシンなど)です。

ミノサイクリンは抗生物質としての抗菌作用以外に、
免疫の調整作用や炎症性サイトカインの抑制作用などが、
存在することが確認をされている薬剤です。

これまでに、
通常の再発予防薬であるインターフェロンβに、
上乗せでミノサイクリンを使用した臨床試験が行われていて、
その結果は上乗せ効果は認められない、
というものでした。

しかし、より早期の病変において、
単独で使用した場合の効果については、
まだ精度の高い臨床試験による検証はされていませんでした。

そこで今回の臨床研究では、
カナダの複数の専門施設において、
多発性硬化症に進展する可能性の高い、
初発の脱髄症状と診断された患者さん、
トータル142名をクジ引きで2つの群に分け、
初発症状から180日以内に、
一方はミノサイクリンを100ミリグラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
開始後6か月の時点と、
24か月の時点で、
多発性硬化症への進展の有無を比較検証しています。

その結果、
治療開始後6か月の時点では、
ミノサイクリンは多発性硬化症への進展を、
有意に抑制していましたが、
24か月の時点では、
その差は認められませんでした。

つまり、短期的にはミノサイクリンには、
多発性硬化症の進展予防効果が認められたのですが、
その効果はより長期的には減弱する性質のもののように、
今回の結果からは思われます。

この短期的な効果は、
それだけで見ると、
現在使用されているインターフェロンβの効果に、
ほぼ匹敵するものなので、
今後補助的な治療として、
まずミノサイクリンを再発予防に使用し、
有効性が低下するタイミングで、
インターフェロンなどの治療に、
スイッチするような方法も、
検討に値すると思います。

いずれにしても、
まだ現段階で治療の選択肢として、
ミノサイクリンを使用することは、
時期尚早と考えられますが、
免疫抑制剤のような強い副作用はなく、
薬も安価であるという点は大きな長所で、
今後の知見の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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お子さんのフルーツジュースについての考え方(アメリカ小児科学会の指針) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
フルーツ.jpg
今年のPediatrics誌に掲載された、
お子さんの果物ジュースの使用についての提言です。

果物ジュース、特に果汁100%以外の、
砂糖などの添加されたジュースは、
基本的には子供に適した飲み物であるとか考えられていません。

その一方で、
上記文献の記載によると、
2から18歳のアメリカの子供は、
その果物の摂取の半分をジュースから得ている、
という調査もあるようです。

生後6か月の時点から、
果物のすりおろしや加熱したものを、
少量ずつ摂ることは推奨されています。
ただ、これはジュースで代用出来るものではない、
というのが基本的な考え方です。

それでは、果物ジュースの何が問題なのでしょうか?

果物ジュースの多くは、
果物そのものをすりおろすよりも多くの糖分を含み、
その一方で食物繊維や蛋白質はあまり含まれていません。

そのために、
生の果物のすりおろしなどの代わりに、
果物ジュースを使用すると、
お子さんはその甘さに慣れて、
果物自体よりもジュースを好むようになり、
糖質の過剰摂取に繋がりやすいと共に、
虫歯などのリスクも増加する、
というように考えられています。

反面果物ジュースには、
ミネラルやビタミンなどを、
手軽に摂取しやすいという利点もあります。
薄めての使用が原則ですが、
感染性腸炎などの時の経口補液としての有用性も、
指摘をされています。

それでは現状は小児への果物ジュースの使用を、
どの程度に考えるのが妥当でしょうか?

以下は上記文献にあるアメリカの指針です。

まず1歳未満の乳児においては、
基本的に果物ジュースの使用は推奨はされません。
以前半分に薄めたリンゴジュースが、
脱水時に有用との論文がありましたが、
今回の指針においては、
その効能も否定されています。
乳児期におけるジュースの使用は、
糖質過多から栄養バランスを乱し、
栄養失調や下痢などの原因となります。
この欠点は、基本的には1歳以上の年齢でも同一です。
その点から、
1歳から3歳までは果物ジュースは1日1オンス(28.35グラム)まで、
4歳から6歳では1日6オンスまで、
7歳から18歳では1日8オンス(226.8グラム)まで、
というように制限することが妥当で、
その代わりに生の果物を摂取するべきだ、
という内容になっています。
ジュースを使用する場合には、
100%ジュースを活用することが望ましいとされています。

この見解が(特に分量など)そのまま日本で適応可能とは、
勿論言い切れないのですが、
お子さんに対する果物ジュースの使用は、
その後の食生活への影響を考えると、
大人が一考する必要はあるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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造影MRI後の脳組織へのガドリニウムの沈着について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
小児脳へのガドリニウムの沈着.jpg
先月のJAMA Pediatrics誌に掲載されたレターですが、
小児の患者さんにおける、
造影MRI検査のリスクについて検証した内容です。

MRI検査は磁気を利用して体内の構造を可視化する検査で、
CTと共にその有用性から、
臨床に幅広く使用されています。

CT検査は放射線を使用するので、
そのリスクが問題となりますし、
造影剤として使用するヨードには、
重度のアレルギーのリスクがあることが知られています。

それと比較すると、
MRI検査には被ばくのリスクはありませんし、
造影剤として主に使用されるガドリニウムでは、
ヨードのようなアレルギーを生じることは稀です。

ガドリニウムはレアアースの1つで、
磁性体としての性質からMRIの造影剤として使用されています。
このガドリニウムそのものには強い毒性があるので、
ガドリニウムをキレート化して使用し、
そのまま腎臓から排泄されるように改良したのです。

ほぼ100%そのまま腎臓から排泄されるので、
毒性の問題はクリアされたと考えられていましたが、
腎機能の低下があって排泄が大幅に遅延すると、
血液中に蓄積したガドリニウムが遊離し、
一種の重金属中毒を来す可能性が指摘され、
腎機能低下のあるケースでのリスクが指摘されています。
また、ガドリニウム造影剤の使用後に、
皮膚が強皮症という病気のように、
線維化して硬化する、
腎性全身性線維症という、
特殊な病気が複数報告されて問題となったこともあります。

ここまでは主に腎機能が低下した場合の、
ガドリニウム造影剤のリスクについての話です。

最近になって、
腎機能が正常であっても、
ガドリニウム造影剤を使用することにより、
脳組織にガドリニウム(それ自体もしくは造影剤の成分)が、
沈着するのではないか、
という知見が相次いで報告されるようになりました。

2013年にその先駆的な研究結果を報告されたのが、
日本の神田知紀先生です。

こちらをご覧ください。
脳へのガドリニウムの沈着.jpg
こちらの画像は、
神田先生らが書かれた、
2016年の「画像診断」(Vol.36 No5 2016 441-447)
からの引用です。
(正式な引用の許可は取っていませんので、
ご指摘があれば削除します)

繰り返し行われた、
ガドリニウム造影剤によるMRI検査により、
小脳歯状核と大脳の淡蒼球という部分に、
T1強調画像での高信号化という異常所見が生じています。

元の論文は2013年のRadiology誌に掲載され、
世界的に注目されました。

その後国外でも追試が行われ、
そうした現象が存在することは間違いのないことだと確認されました。

次に行われたのは、
病気で亡くなった患者さんの解剖で、
ガドリニウム造影剤を使用した場合の脳組織の変化を、
直接観察することで、
これも複数の論文が発表され、
例数は数例から10数例程度と少ないのですが、
ガドリニウム造影剤を使用した患者さんにおいて、
MRI検査で指摘された部位に、
ガドリニウムの沈着があり、
使用していない患者さんではそうした所見のないことが、
実際に確認されたのです。

ここまでは全て大人での検討でした。

今回のレターは、
少数例ですが主に脳腫瘍で亡くなった小児の、
脳の解剖所見から同様の検討を行ったものです。

3例の4回以上検査でガドリニウム造影剤使用の小児(8歳、6歳、13歳)
の脳を解剖した結果、
全ての事例で大人と同様の部位に、
ガドリニウムの異常な沈着を認めました。

一方でコントロールとしてガドリニウムの検査をしていない3人の小児では、
同様の所見は認められませんでした。

前述神田先生の見解では、
ガドリニウム造影剤で、
キレートとの結合が弱く、
イオンとしてガドリニウムが遊離しやすいと、
そうした現象が起こりやすく、
構造的に安定な造影剤では、
殆どそうした現象は生じていない、
と言われています。

現状はこの正常腎機能の患者さんにおける、
ガドリニウムの脳への沈着が、
健康上の問題を生じたという報告はありません。

従って、日本においては、
その使用に特に制限などは行われていないことが実状です。
画像診断の専門医療機関においても、
使用されている造影剤が明記されているようなところでは、
主にガドリニウムが遊離しにくいとされる造影剤が、
使用されているようですが、
明記されていないような医療機関もあり、
また使い勝手もあるのでしょうが、
ガドリニウムの沈着が生じやすいタイプの造影剤も、
まだ使用はされているようです。
(これは違反ではありませんし、
現時点でもトータルに健康への悪影響が、
そうした造影剤で多いという確証はありません)

それではまとめです。

ガドリニウム造影剤を使用したMRI検査では、
特に積算で4回以上検査を行った場合に、
脳の特定部位へのガドリニウムの沈着が起こります。
これは成人でも小児でも起こり、
腎機能が正常でも生じる現象です。
ただ、その病的な意味はまだ明らかではなく、
何らかの病気の原因となった、
と言う報告は現時点ではありません。

一部の研究によると、
線状型と呼ばれる構造の造影剤(マグネビスト、オムニスキャンなど)では、
こうした現象は起こりやすく、
環状型と呼ばれる構造の造影剤(マグネスコープ、プロハンスなど)では、
こうした現象は起こりにくい、
とされていますが、
まだ確定的なものではありません。

従って、
腎機能が正常な患者さんでの必要な検査は、
その通りに行って問題はないのですが、
4回を超えるような検査においては、
脳などへのガドリニウムの蓄積の可能性を念頭に、
よりリスクが少ないと想定される造影剤を使用するなど、
慎重な対応を取ることが望ましいと考えられます。

日本においての一番の問題は、
患者さんが複数の医療機関で、
同じような検査を行うことが可能なので、
ガドリニウム造影剤の種類や使用量を、
一元的に管理することが不可能であることで、
全ての医療情報が一元化されなくても、
こうした検査の情報については、
個人ごとに一元的に管理出来るような体制が、
是非必要であるように考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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蜂窩織炎に対する抗生物質の選択について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
蜂窩織炎に対する抗生物質の選択.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的な皮膚の感染症に対する、
抗生物質の選択についての論文です。

蜂窩織炎(Cellulitis)というのは、
皮膚に付いた傷などをきっかけにして、
皮膚が赤く腫れあがって痛みを伴うような状態で、
主に細菌による皮膚の化膿性の炎症です。
細菌感染に伴う炎症が、
真皮から皮下の脂肪組織まで広がった状態と考えられています。

この病気は細菌感染症なので、
その治療には抗生物質が使用されます。

通常こうした細菌感染で最も原因菌としての頻度が高いのは、
β溶連菌というタイプの細菌と考えられています。
そのため、
現行のアメリカ感染症学会のガイドランにおいては、
β溶連菌のみに抗菌力を持つ抗生物質の使用を推奨しています。

その一方で、
抗生物質の耐性菌であるMRSAが、
最近のアメリカの皮膚感染症の原因としては最も多くなっている、
という報告もあります。

ただ、実際に蜂窩織炎の原因菌として、
どの程度MRSAが影響をしているか、
というような点については、
明確ではありません。
蜂窩織炎を起こしている皮膚などの細菌培養を行なっても、
培養されている菌が実際に炎症の原因であるかどうかは、
判断が非常に難しいからです。

そして、MRSAが増加している、
という先入観があるためか、
実臨床においては、蜂窩織炎に対して、
MRSAに有効な抗生物質を、
使用する医師が増加している、
という傾向があるようです。

それでは、
通常のガイドライン通りの治療と比較して、
MRSAを原因として想定した治療は、
蜂窩織炎の予後を改善するのでしょうか?

その点を検証する目的で今回の研究では、
アメリカの5つの救急医療機関において、
膿瘍の形成を伴うなどの合併症はなく、
12歳を超える年齢の蜂窩織炎の患者さん、
トータル500名を、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方は標準治療として、
第一世代のセフェム系抗生物質であるセファレキシンを、
1回500ミリグラムで1日4回使用し、
もう一方はそれに加えてMRSAに有効なST合剤を上乗せして、
7日間の治療を行ない、その有効性の違いを検証しています。
勿論偽薬を使用して、
どちらの治療かは判別は出来ないように工夫がされています。

その結果、
各々の群で最期まで治療が継続された事例のみで比較
(per-protocol analysis)すると、
臨床的な治癒は、
セファレキシン単独群の85.5%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では83.5%に認められていて、
両群には最初に設定した効果の差は認められませんでした。

一方で、
途中で脱落したような事例も含めて比較
(intention-to-treat amalysis)したところ、
臨床的な治癒はセファレキシン単独群の69.0%に認められたのに対して、
セファレキシンとST合剤併用群では76.2%に認められていて、
その差は7.3%と有意ではないものの、
併用群でやや予後の良い傾向を認めました。

両群の有害事象には差はありませんでした。

今回の結果は微妙なもので、
臨床試験としては当初設定した有効性の指標を満たしていないので、
蜂窩織炎に対する併用療法は、
従来の治療と比較して優れているとは言えないのですが、
より実地の臨床に近い比較を行うと、
有意ではないものの一定の有用性が認められました。

また今後の検証を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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医師の年齢と急性期病院の患者の死亡リスクとの関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
医師の年齢と死亡リスク.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
医師の年齢と患者さんの死亡率を比較した、
ユニークな発想の論文です。
週刊誌や新聞、SNSなどでも取り上げられ、
ちょっとした話題になっています。

ハーバード大学の研究チームによる発表で、
筆頭著者の津川友介先生は、
最近SNSなどでも盛んに発信をされています。

医者も人間ですから、
その技量や瞬時の冷静さや判断力において、
年齢の影響を受けることは間違いがありません。

臨床医の場合、
経験を積むことによって、
患者さんへの対応力が向上する、
所謂「年の功」もある一方で、
体力や記憶力、運動神経などは間違いなく低下し、
自分がトレーニングを受けた時の「常識」に左右されるので、
新しい治療のガイドラインなどに、
対応することが難しい、
というような側面も考えられます。

医師の場合、その仕事内容も多岐に渡っていて、
その全てが年齢に大きく影響をするとは言えません。
ただ、たとえば細かい作業を持続することが必要とされる、
難易度の高い手術や体力を要する手技、
救急での一刻を争う患者さんへの対応などは、
明らかに年齢と共にその能力は低下する、
というように考えられ、
それが診療の結果に影響するという可能性も否定は出来ません。

ただ、自動車の運転などでもそうですが、
スキルがあってそれを常に磨いていれば、
同じ年齢であっても、
運転の技量やその安全性には、
かなりの差があるようにも思います。

それでは、医師の場合はどうなのでしょうか?

当然の疑問でありながら、
あまりそうした研究はこれまで、
それほど行われては来ませんでした。

今回の研究では、
アメリカで65歳以上の年齢の医療制度である、
メディケアのデータを解析し、
救急病院に入院した内科の患者さんの30日間の予後が、
主治医の年齢によりどのように違うかを比較検証しています。

アメリカではホスピタリストという制度があり、
掛かりつけ医が幅広く一般診療を外来で行うように、
病院における入院患者の一次診療を、
幅広く受け持つというコンセプトのようです。
(この辺は詳しくはないので自信がありません。
もし誤りがありましたがご指摘をお願いします)
今回の検証はホスピタリストの技量を判定する、
という意味合いもあるようです。

今回のデータは18854人のホスピタリストの医師による、
736537名の患者さんの事例が対象となっています。

前述の車の運転の例のように、
その医師の経験やその時点の技量を測る物差しとして、
今回は1年に担当した入院患者数が使用されています。
具体的には年件90例未満が患者さんをあまり診ていない医師で、
年間90から200件がまあまあ診ている医師、
そして201年以上が多くの患者さんを診ている医師、
という区分になっています。

その結果…

患者さんの状態などの偏りを補正した結果として、
40歳未満のホスピタリストの医師の診療を受けた患者さんの、
30日間の死亡リスクが10.8%(95%CI;10.7から10.9)であったのに対して、
40から49歳の医師では死亡リスクが11.1%(95%CI;11.1から11.3)、
50から59歳の医師では11.3%(95%CI;11.1から11.5)、
60歳以上の医師では12.1%(95%CI;11.6から12.5)となっていました。

ただ、これを年間の患者さんを診ている数で解析すると、
年間201件以上の患者さんを診ている医師では、
40歳未満の医師の死亡リスクが10.7%で、
60歳以上の医師の死亡リスクも10.9%ですから、
医師の年齢による予後には全く違いがない一方で、
年間90件以下しか患者さんを診ていない医師では、
40歳未満でも死亡リスクは12.7%と高く、
60歳以上では17.0%という最も高い死亡リスクを示しました。

患者さんの再入院や医療コストには、
医師の年齢による明確な違いは見られませんでした。

要するに年齢は上であっても、
患者さんを多く診ている医師では、
あまり患者さんの予後には差はなく、
年齢はこうした医師ではそれほど影響を与えていないのですが、
患者さんをあまり診ていない医師では、
そもそも若くても死亡リスクは高く、
年齢による影響もより大きくなる、
と言う結果です。

上記論文の解説では、
以前は地域の掛かりつけ医が総合診療医として、
患者さんが入院した際には、
病院に出向いて診療を行う、
というような方針が一般的でしたが、
1990年代からホスピスタリストの養成が本格化し、
病院での総合診療を行う医師が主流になった、
というような経緯があるようです。
従って、40歳以下の年齢の医師は、
ホスピタリストとしキャリアを開始しているので、
その知識や経験が豊富なのですが、
60歳以上の医師は、
そうした教育は受けずにホスピタリストにスライドしているので、
その分野での知識が充分ではないのではないか、
というような考察も記載をされています。

この研究は日本でも波紋を呼んでいるようですが、
知識のない一般の方は、
結論だけを見て、
60歳を超えるような医者に掛かると殺される、
というように短絡的に思ってしまうというリスクがあり、
また医師の年齢と技量との関連を測るという意味では、
年間の患者数や30日以内の死亡リスクを指標に使うというのが、
ややラディカルな感じはするのです。
短期間の「死亡」を指標とするのが、
ちょっとインパクトが強すぎますし、
医師の技量を単純に受け持っている患者数で評価するのも、
それもちょっとなあ、と言う気がどうしてもしてしまいます。
他にもっと穏当で妥当な指標はなかったのでしょうか?

論文の考察の後半には次のような件もあります。

同じ病院において、
患者さんが60歳以上の医師に診療を受けるのと比較して、
40歳未満の主治医を持つことにより、
その死亡リスクは11%低下するということになり、
これはスタチンによる心血管疾患の死亡リスクの低下にほぼ一致する。
(つまり年寄りの医者に掛かってスタチンを飲むよりは、
飲まないで若い医者に掛かれば同じこと)
また、年齢が原因で死亡リスクが増加していると仮定すると、
60歳以上の医師にかかって死亡した患者さん77人のうち、
1人は40歳未満の医師にかかれば命が救われた患者だと推計される。

幾ら専門医向けの医学誌の解説とは言え、
こうした冷徹さは如何なものかなあ、
という感じは、どうしても持ってしまうところです。
末端の臨床医の端くれとしては、
絶望的な気分にもなってしまいます。

ただ、こうした研究が必要であること自体は間違いがなく、
今後どのような能力や技術が、
最も年齢の影響を受けるのか、
その場合年齢と医師の配置をどう考えるべきかなど、
患者さんの予後改善を真の目標と考えた時に、
最適の環境作りに向けた取り組みとなれば、
それは患者さんにとっても医師にとっても、
非常にメリットは大きいことなのだと思います。

今後の更なる検証を、
是非期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


リバーロキサバンの生命予後への影響について(2017年台湾のデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リバーロキサバンの死亡リスク.jpg
今年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
ワルファリンに代わる抗凝固剤の2種類を、
生命予後などの点から比較した台湾の疫学研究の論文です。

最近評判があまり良くないリバーロキサバンに、
またあまり良くない結果が認められています。

ワルファリンに変わりうる抗凝固剤が、
最近次々と発売され、
その評価もほぼ定まった感じがあります。

ただ、それではこうした新しいタイプの抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

直接トロンビン阻害剤であるダビガトラン(プラザキサ)が先陣を切り、
その後リバーロキサバン(イグザレルト)、
アピキサバン(エリキュース)、
エドキサバン(リクシアナ)と、
凝固因子のⅩa因子阻害剤と呼ばれる薬が、
次々と発売され実際に臨床で使用されています。

この新しいタイプの抗凝固剤の、
患者さんの側からのメリットは、
ワルファリンのように定期的に血液の検査を行ない、
その効果を確認する必要がなく、
また納豆などの食事制限がないという点にあります。

その効果は各薬剤の承認時の臨床試験では、
良くコントロールされたワルファリンと同等の、
血栓症や塞栓症の予防効果を持ち、
有害事象である重篤な出血の発症については、
ワルファリンより概ね軽微である、
と報告されています。

ただ、それではこうした新しいタイプの抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

最初に発売されたダビガトランにおいて、
重篤な出血の事例が問題となり、
そのためアメリカでは2から3倍ダビガトランより、
リバーロキサバンの処方が多いようです。

その一方で2016年2月のBritish Medical Journal誌の解説記事では、
ROCKET-AFと題された、
リバーロキサバン(イグザレルト)の臨床試験において、
ワルファリンのコントロールが、
正確に行われていなかったのではないか、
という問題点が指摘されています。

個々の薬剤の臨床試験のデータのメタ解析の論文では、
薬剤間に少なくとも明瞭な効果や安全性の差はない、
という結果になっています。

しかし、それが実地臨床においても成り立つかどうかは、
実際の臨床に近いデータが必要です。

ブログでも以前ご紹介した、
2016年のJAMA Internal Medicine誌の論文では。
アメリカの健康保険のデータを活用して、
65歳異常の非弁膜症性心房細動患者で、
ダビガドランもしくはリバーロキサバンを新規で開始した、
トータル118891名(ダビガトランの処方52240例、リバーロキサバンの処方66651例)
のデータを解析して、
両者の血栓症予防効果と有害事象の差を検証していました。

その結果…

平均で4ヶ月の観察期間において、
血栓塞栓症の発症リスクには両群で有意な差はなく、
脳内出血のリスクはリバーロキサバンの使用において、
ダビガトランの使用と比較して、
1.65倍(1.20から2.26)有意に増加し、
重篤な脳内出血以外の出血系合併症も、
1.48倍(1.32から1.67)有意に増加していました。
消化管出血に限っても、
矢張りリバーキサバン使用群において、
1.40倍(1.23から1.59)有意に増加していました。

死亡リスクには両群で有意な差はありませんでしたが、
年齢が75歳以上に限定した場合と、
血栓塞栓症のリスクが高いと想定される、
CHADS2スコアが2を超える患者さんに限定すると、
リバーロキサバン使用群での死亡リスクの増加が認められました。

このように、この研究においては、
明確にリバーロキサバンの出血系合併症のリスクは、
ダビガトランを上回っていました。

この原因について上記文献では、
リバーロキサバンが1日1回の薬剤であり、
その有効性を24時間維持するために、
結果的には抗凝固作用が、
必要以上に強くなっている時間帯があるのではないか、
という仮説を提示しています。

今回ご紹介するデータは台湾のもので、
アメリカの2016年の論文と同じように、
健康保険のデータを活用する形で、
非弁膜症性心房細動に対して、
新規のダビガトランの使用事例と、
新規のリバーロキサバンの使用事例の、
効果と予後を比較検証しています。

2012年から2014年に掛けて、
ダビガトランの新規処方事例は10625例、
リバーロキサバンの新規処方事例は4609例です。
これを直接全体で比較した場合と、
4600例のダビガトラン処方事例に、
マッチングさせた同じ4600例のリバーロキサバン事例を、
比較した場合の両方を比較しています。

その結果、
総死亡のリスクについては、
マッチングさせた同数での比較では、
1.44倍(95%CI;1.17から1.78)、
直接全体での比較では、
1.47倍(95%CI;1.23から1.75)、
ダビガトランよりリバーロキサバンの方が有意に高くなっていました。

また輸血を要する消化管出血のリスクについても、
マッチングさせた同数比較で1.41倍(95%CI;1.02から1.95)と、
有意にリバーロキサバン群で増加していましたが、
直接全体での比較では1.20倍(95%CI;0.92から1.56)と、
高い傾向は見られるものの有意ではありませんでした。

抗凝固剤の主な効果である、
虚血性梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈疾患のリスク、
また脳出血のリスクについては、
両群で差はありませんでした。

要するに今回のデータにおいても、
ダビガトランと比較してリバーロキサバンの使用は、
有害事象のリスクを増し、
生命予後にも悪影響を与えるという可能性が示唆されました。

2016年のデータはアメリカのもので、
リバーロキサバンの用量も全て1日20mgであったのですが、
今回は通常量が15mgと日本と同一で、
21%が20mgを使用し、4%は10mgを使用、
ダビガトランも86%は1日220㎎という低用量が用いられています。
つまり、人種も用量も日本に近い条件です。

今回のデータでリバーロキサバンのリスクは、
かなり明確になったと言っても良く、
今後のこの薬の適応については、
より慎重に判断した方が良さそうです。

ただ、今血栓塞栓症予防目的でリバーロキサバンを使用されている方は、
自己判断で中止をされないようにして下さい。
ここに提示されたデータは、
ダビガトランと比較するとややそうした傾向がある、
というレベルのものであり、
まだ結論が出ているということではありません。
最新の医療データをなるべく広範にご紹介をしたい、
と言う趣旨で記事にしたもので、
特定の薬剤や治療に対する不安を煽ることが目的ではありません。

他の薬への変更は1つの選択肢ですが、
変更時には血栓塞栓症のリスクが高まる可能性もあります。
どうか、主治医の先生にご相談の上、
慎重な判断をよろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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  • 発売日: 2016/10/28
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小腸選択性ステロイドのIgA腎症への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
IgA腎症に対する小腸選択性ステロイドの効果.jpg
今年のLancet誌にウェブ掲載された、
IgA腎症という非常に頻度の高い腎臓病に対する、
新しい治療薬の臨床試験の結果をまとめた論文です。
第2b相臨床試験のデータです。

IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。

この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。

数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。

しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。

治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。

日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。

さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。

その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。

最近、IgA腎症と小腸のパイエル板という構造との関連が、
指摘されるようになりました。
パイエル板というのは、
小腸の空腸から回腸に存在するリンパ組織で、
腸管免疫の主体として機能しています。
ここで産生されるB細胞というリンパ球は、
IgAを主に産生していることが分かっています。

IgA腎症においては、
糖鎖異常IgA(ガラクトース欠損IgA1; GdIgA1)という、
異常なIgAが産生されて、
それが血中のIgGと結合し、
免疫複合体となって腎臓に沈着し病気を進行させると考えられています。

とすれば、
小腸のパイエル板における、
免疫の働きのみを低下させるような薬があれば、
IgA腎症の進行を予防することが可能になると想定されます。

そこで開発されたのが、
標的指向性のステロイド製剤、
カプセルとして内服すると、
パイエル板が多く存在する空腸遠位部に、
高濃度で達するように設計された、
吸入ステロイドの成分と同じ、
ブデソニドというステロイド製剤です。

全身作用は少ないため、
全身的なステロイド剤の使用よりも、
少量で効率よく効果を表し、
全身的な副作用は少ないことが期待されたのです。

今回の第2b相の臨床試験では、
ヨーロッパの複数の専門施設において、
18歳以上の年齢で腎生検によりIgA腎症と診断され、
レニン・アンジオテンシン系の抑制療法を継続していても、
グラム・クレアチニン換算で0.5グラム以上のタンパク尿が持続している患者さん、
トータル150名の患者さんを登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで3つの群に分け、
第1群は小腸選択性ブデソニドを1日8ミリグラム、
第2群は1日16ミリグラム、
そして第3群は偽薬を使用して、
レニン・アンジオテンシン系抑制療法への上乗せとしての、
小腸選択性ステロイドの効果を検証しています。

腎機能はeGFRという指標が45mL/min/1.73㎡以上が条件で、
治療は9か月継続され、
その後3か月の観察期間を置いています。

その結果…

9か月の時点でステロイド治療を行なった2群を合わせたトータルでは、
登録時より尿蛋白を24.4%有意に低下させたのに対して、
偽薬群では2.7%増加していました。
ステロイド治療群の内訳では、
8ミリグラム群で21.5%、16ミリグラム群で27.3%の低下となっていました。

腎機能については、
9か月の時点でステロイド治療群では維持されていましたが、
偽薬群では10%の低下を示していました。

重篤な有害事象としては、
実薬16ミリグラム群で静脈血栓症と、
予期せぬ腎機能低下が1例ずつ認められました。

つまり小腸選択性のブデソニドの使用により、
9か月という治療期間においては、
尿蛋白を低下させ腎機能を維持する効果が認められました。
従って、より長期の使用において、
腎機能の低下を抑制する可能性が想定されます。

IgA腎症の治療は有効性の明確なものがあまりなく、
まだその長期効果など未解明の部分は残りますが、
非常に有望な治療となり得ることは間違いがなく、
今後の知見の積み重ねを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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スタチンのノセボ効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンのノセダ効果.jpg
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
スタチンという薬による有害事象の、
臨床試験の方法による頻度の違いについての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
非常に広く使用されているコレステロール降下剤です。

その効果は特に心筋梗塞の再発予防において、
多くの精度の高い臨床試験により実証されています。

このように有効性の確立された薬であるスタチンですが、
多くの有害事象があることも知られていて、
患者さんの処方の継続率は、
必ずしも高くないことが報告されています。

中でも頻度的に最も高いのが、
筋肉痛や筋脱力などの筋肉に関する有害事象です。
確かにスタチンの使用により、
稀に横紋筋融解症という、
筋肉細胞が広範に障害されるような副作用の、
発生することがあるのは事実です。
しかし、実際には重症の横紋筋融解症が、
スタチンの使用により発生することは極めて稀で、
使用後に筋肉痛や筋脱力があっても、
筋融解の時に上昇する酵素であるCPKは、
上昇していないか、
上昇はしていても軽度に留まることが、
多いことが報告されています。

こうした場合には、
スタチンは必要性が高ければ継続をしても、
問題はないとされていますが、
実際には患者さんも症状があるのに薬を続けることは心配ですし、
処方した医師も患者さんの安全を第一に考えますから、
一旦は中止とされることが多いと思います。

しかし、こうした患者さんの感じる服用後の不快な症状は、
何処までが薬の薬理的な作用によっているのでしょうか?

こうした疑問が生じるのは、
一旦スタチンを有害事象で中止した患者さんでも、
その後に再開すると、
同じ有害事象が発生する頻度は、
それほど高いものではないからです。

このように、
「この薬を飲むと筋肉痛が起こる」
という事前の知識があると、
一種の心理的な作用によって、
筋肉痛が起こることがある、
ということが知られています。

これを偽薬によっても、
それを薬と信じることによって、
薬と同じような作用が生じるプラセボ効果の逆と考えて、
ノセボ効果(ノーシーボ効果)と呼んでいます。

今回の研究はASCOT試験という大規模な臨床試験のデータを解析することで、
このスタチンによるノセボ効果が、
どの程度あるのかを検証したものです。

ASCOT試験は高血圧の患者さんにおいて、
降圧剤の種類と、
そこにスタチンの上乗せの意義を、
総コレステロール値が250mg/dL以下の患者さんで検証したものですが、
スタチンの有効性は早期に確認されたため、
その後はスタチンの使用を患者さんに明らかにした上で、
処方の継続が降圧剤選択の試験のために続行されました。

つまり、
試験の前半の期間は、
スタチンか偽薬かを患者さんが知らない状態で処方が継続され、
後半の期間はそれがスタチンであることを、
知らされた状態で処方が継続されたのです。

その結果、
偽薬かどうか分からない期間においては、
偽薬群とスタチン群とで、
筋肉関連の有害事象は違いがなかったのにも関わらず、
処方内容が開示された以降の期間においては、
スタチン群において1.41倍(95%CI;1.10から1.79)、
筋肉関連の有害事象は多く認められました。
つまり、この差がノセボ効果の可能性が高い、
という想定が可能なのです。

薬を使用する以上、
プラセボ効果とノセボ効果は必ず生じることは間違いがありません。

ノセボ効果を少なくするためには、
薬の内容を患者さんが知らないことが必要で、
更には処方する医師や調剤する薬剤師も、
その内容を知らない方がより確実である訳ですが、
それは実際の臨床としては不可能で、
むしろ必要以上に何度も副作用や有害事象については、
説明がなされることが適切と考えられているので、
現行のシステムでは、
報告される作用も副作用も、
その頻度は実際のものではなく、
プラセボ効果とノセボ効果で修飾されている、
という言い方が可能です。

要するに科学としての医学というのは、
人間が独立した高い理性を持った存在であることを、
暗黙の前提としているので、
全てを患者さんに開示した上で、
治療を行なうことが正しいとされているのです。

しかし、実際には皆さんもご存じのように、
人間というのはそんな偉そうなものではなく、
心理的な影響で毒も薬と信じれば薬になり、
薬も毒と信じれば毒になるような呪術的な存在なので、
医療というものの仕組みとは、
根本的に合わない部分があるのです。

科学としての医療は確かに長足の進歩を遂げていますが、
その奥底にはプリミティブな呪術性のようなものがあり、
多くの医療者はまだそれを利用して、
患者さんを治療している側面が少なからずあるので、
今後の医療の方向性を、
どのように考えるのかは、
そうたやすいことではないように思います。

端的に言えば、
データを入れてロボットに診察と診断をさせ、
適切な薬を処方させて、
患者さんは皆その診断も知ることはなしに、
それを高度の科学による正しい治療であると信じて、
中身は知らずに皆で飲めば、
治る病気は治りますし治らない病気は治らないので、
それが一番科学的な医療であり、
極めて公平に治療効果は表れるのです。

しかし、本当に皆さんはそうした医療を望まれますか?

そこが一番の問題点であるように思います。

それは要するに、
あなたはどんな存在でありたいのか、という問いと、
基本的には同じ性質のものだからです。

すいません。
後半は思索的な感じになりました。
今少しそうした気分なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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隔日超低カロリーダイエットの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
隔日絶食ダイエットの効果.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
1日おきに絶食に近い低カロリーと、
高カロリーを繰り返すというダイエットの効果を、
通常の連日のカロリー制限と、
比較検証した論文です。

体重減量目的のダイエットには、
それこそ星の数ほどの方法がありますが、
最近海外で注目されている方法の1つが、
1日おきに絶食に近い低カロリーと、
カロリー制限を緩めた食事を繰り返すという方法です。

これはならすと、
通常の維持量より少し少ないカロリーになるのですが、
1日おきにはそれより多い量を食べられるので、
継続がしやすいという利点が指摘されています。

しかし、本当に他のダイエット法と比較して、
この隔日超低カロリーダイエットが、
肥満症の患者さんに対して行った場合に、
有効で安全なものであるかについては、
科学的な検証があまり行われていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
年齢が18から64歳で、
体格の指標であるBMIが25.0から39.9という、
過体重から肥満の人を対象として、
くじ引きで3つの群に分けると、
第1群は1日おきに超低カロリーと高カロリーを繰り返し、
第2群は低カロリーを連日続け、
第3群はカロリー制限をしないコントロールとして、
1年間の経過観察を行っています。

二重標識水法という、
放射能で標識した水を飲んでもらい、
尿中の放射線を測定する方法で、
個々人のエネルギー消費量を算出し、
体重を維持するのに必要なカロリーを算定します。

それを元にして、
隔日超低カロリー群では、
維持カロリーの25%という超低カロリーと、
125%というやや高カロリーの食事を繰り返します。
通常の低カロリー群では、
維持カロリーの75%というカロリー制限が継続されます。
6か月そのダイエットを継続した上で、
後半の6か月は体重の維持を目的として、
食事処方が変更されるのです。

対象者はトータルで100名で、
30数名ずつの3群に振り分けられます。
平均年齢は44歳で86%が女性です。

その結果、
コントロールと比較すると、
通常の低カロリー群と隔日超低カロリー群は、
ほぼ同等の減量効果を示しました。
減量期間終了の6か月の時点で、
コントロールと比較して、
通常の低カロリー群は5.3%(95%CI;-7.6から-3.0)、
隔日超低カロリー群は6.0%(95%CI;-8.5から-3.6)、
の体重減少を示し、
その後維持期間にはリバウンドが見られましたが、
両群には差はありませんでした。

ダイエット期間中のドロップアウト率は、
コントロール群が26%、
通常の低カロリー群が29%であったのに対して、
隔日超低カロリー群は38%で最も高くなっていました。
これは絶食に近い低カロリーが、
1日おきであっても継続は困難な場合が多かった、
ということを示していると思います。
代謝マーカーや栄養状態などの数値においても、
両群では差はありませんでした。

このように、
連日の軽度カロリー制限と、
1日おきの超低カロリーダイエットは、
いずれも同等の体重減少効果を示し、
きちんと管理された状態においては、
半年程度の継続で、
大きな健康上の問題は生じないようです。

従って、どちらが特に優越ということはなく、
継続しやすい方法を、
選んで施行することで、
当面は大きな問題はないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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