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降圧剤の高齢者肺炎予防効果(高齢者高血圧診療ガイドライン2017を考える) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとACEの肺炎予防効果.jpg
2011年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
広く使用されている降圧剤の、
肺炎予防効果を検証したメタ解析の論文です。

これはひょっとしたら以前にもご紹介したかも知れません。

ただ、今回は「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」に、
誤嚥性肺炎の既往のある高齢者の高血圧治療には、
肺炎予防効果を期待してACE阻害剤を第一選択として検討することが、
推奨グレードBとして考慮されていたので、
そこの引用文献も含めてこの知見を検証してみたいと思います。

ACE阻害剤は現在降圧剤の第一選択薬の1つですが、
その副作用として多く認められるのが空咳です。
これはブラジキニンやサブスタンスPの上昇によるとされていて、
これにより咳反射が誘発されるのです。
サブスタンスPは嚥下反射の誘発にも関与していて、
その加齢による減少や感受性の低下が、
誤嚥の増加の原因であると考えられています。
とすれば、ACE阻害剤を使用することにより、
高齢者ではサブスタンスPが増加し、
嚥下反射や咳反射を刺激して、
誤嚥性肺炎を予防するという可能性が示唆されます。

ガイドラインにおいて引用されているのがこちらです。
ACE阻害剤による肺炎予防効果.jpg
これは1999年のAmerican Journal of Hypertension誌に掲載された、
日本の研究者による論文で、
65歳以上で肺炎を来した55のケースと、
年齢や性別をマッチさせた220例のコントロールを比較して、
ACE阻害剤やカルシウム拮抗剤の使用と、
肺炎のリスクとの関連を検証したものです。

その結果、
関連する因子を補正した上で、
降圧剤未使用と比較して、
カルシウム拮抗薬の使用では肺炎リスクは1.84倍(95%CI;0.84から3.78)と、
有意ではないものの増加する傾向を示した一方で、
ACE阻害剤の使用により、
肺炎リスクは62%(95%CI;0.15から0.97)有意に低下していました。

ただ、概略でもお分かりのように、
例数も少なく別個の事例をマッチングさせただけですから、
それほど精度の高い臨床データとは言えません。

最初にご紹介した論文はガイドラインには引用されていないのですが、
それまでの同様の知見をまとめて解析したもので、
37の関連する文献をまとめて解析した結果として、
ACE阻害剤の使用は未使用との比較で、
肺炎リスクを34%(95%CI;0.55から0.80)、
ARBとの比較では31%(95%CI;0.56から0.85)、
それぞれ有意に低下させていました。
アジアでの臨床研究がこの分野では多いこともあり、
アジアの患者さんのみの検証では、
肺炎のリスク低下は57%(95%CI;0.34から0.54)とより大きく、
非アジア人種のみの検証では、
有意なリスク低下は認められませんでした。
また、脳卒中の既往のある患者さんに限って解析すると、
これもコントロールと比較して54%(95%CI;0.34から0.62)と、
全体より大きな肺炎リスクの低下を認めていました。

従って、ACE阻害剤が高齢者の肺炎リスクを低下することは、
ほぼ事実であると考えて良く、
そこに人種差があるかどうかはまだ明確ではありませんが、
データの主体はアジア人種のもので、
脳卒中の患者さんでは嚥下障害のあることが多いため、
よりその効果は期待出来る、
と言うことになります。

脳卒中後や高齢者で肺炎の既往のある場合の降圧には、
ACE阻害剤を優先することが、
肺炎リスクの低下という観点からは、
望ましいと考えてほぼ間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。

よろしくお願いします。

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骨折を減らす降圧剤は?(高齢者高血圧診療ガイドライン2017を考える) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
降圧剤の骨折リスク.jpg
2011年のJournal of Bone and Mineral Research誌の論文です。
これはアメリカの医療保険のデータを活用して、
どの単独の降圧剤の処方が、
新規の骨折のリスクを減少させていたのかを検証しているものです。

何故この少し古い論文を取り上げたかと言うと、
先日「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」がウェブで先行版として公開され、
そこで高齢者の降圧剤の選択において、
骨折リスクが高いような高齢者では、
サイアザイド系利尿薬を第一選択に考えることが1つの選択肢として示され、
そこで引用されていたのが、
この論文ともう1編の論文であったからです。

このガイドラインの感想を含めて、
今日はこの骨折リスクを軽減する降圧剤について、
これまでの知見をまとめたいと思います。

現在世界のガイドラインのどのガイドラインにおいても、
降圧剤の第一選択薬が、
サイアザイド系利尿剤、カルシウム拮抗薬、
ACE阻害剤、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、
であることはほぼ一致しています。

このうちサイアザイド系利尿剤は、
この4種の薬剤のうちでは最も古くから使用されていた薬で、
元が利尿剤ですから脱水になったり、
血液の尿酸値が上昇する、
カルシウムが上昇するなど副作用が多く、
そのためカルシウム拮抗薬などの血管拡張剤が使用されるようになると、
一時期はあまり使用されなくなりました。

その流れが大きく変わったのは、
2002年のことです。

ALLHAT 試験と呼ばれる、
4万人以上を対象とした大規模な臨床試験が、
アメリカを中心に行なわれ、
その結果として、
サイアザイド系の利尿剤は、
他のより高価で新しい降圧剤と同等の、
心筋梗塞予防効果が得られたのです。
部分的な解析では、
他剤より更に優れた効果が得られたケースもありました。

この知見によりサイアザイド系利尿薬は、
降圧剤の第一選択薬の1つに復権することになったのです。

それでは、高齢者の降圧治療において、
サイアザイド系利尿薬をどのように位置付ければ良いのでしょうか?

高齢者は脱水になりやすく、
また脱水による起立性の低血圧も起こりやすいので、
利尿剤はあまり高齢者には適していないように、
通常は思えます。
これまでの知見では血液のカルシウム濃度が、
上昇することもあることが知られていて、
その一部は副甲状腺ホルモンの増加によると、
そう推測した論文もありますから、
骨粗鬆症を悪化させて、
却って骨折のリスクを増やすようにも考えられます。

ところが…

意外なことに上記文献では、
正反対に近い結果が得られています。

アメリカの健康保険のデータを活用して、
65歳以上で新規に1種類の降圧剤治療を開始した、
トータル376061名を対象として、
中央値で70日間の観察期間中に、
新規の骨折リスクを薬剤毎に比較しています。
平均年齢は80歳くらいです。

その結果、
関連する因子などを補正した上で、
カルシウム拮抗薬との比較において、
ARBは骨折リスクを24%(95%CI;0.68から0.86)、
サイアザイド系利尿薬は15%(95%CI;0.76から0.97)、
それぞれ有意に低下させていました。

一方でループ利尿剤、β遮断剤、ACE阻害剤については、
カルシウム拮抗薬と骨折リスクに関して差はありませんでした。

この知見ではARBとサイアザイド利尿剤が同等という結果なので、
即サイアザイド系利尿剤が骨折リスクの高い高齢者に有効、
ということにはならないと思います。

ガイドラインではもう一遍の論文が引用されています。
それがこちらです。
降圧剤と骨折リスクの介入試験.jpg
これは2010年のAge and Aging誌の論文です。
高齢者を対象にした降圧治療の臨床試験として有名な、
HYVETという大規模臨床試験のサブ解析で、
元々は脳卒中の予防効果を検証したものですが、
新規の骨折リスクとの関連に絞って、
再解析を行っているものです。

対象者は年齢が80歳以上で、
収縮期血圧が未治療で160mmHg以上の患者さんで、
トータルの例数は3845名です。
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つの群に分けると、
一方はまずサイアザイド系の利尿剤であるインダパミドを、
1日1.5ミリの持続剤で使用し、
血圧は150/80mmHg未満を目標として降圧を図り、
不充分であればACE阻害剤のペリンドプリルを、
1日量2から4ミリで上乗せします。
そして、もう一方は偽薬を同様に使用して、
平均で2.1年間の経過観察を行うのです。

使用されているインダパミドは、
ナトリックスなどの商品名で日本でも使用されていますが、
SR錠という持続型の製剤は日本での販売はないようです。
ペリンドプリルはコバシルなどの商品名で、
使用がされています。

その結果降圧剤使用群は偽薬使用群と比較して、
観察期間中の新規の骨折のリスクを、
48%(95%CI;0.33から1.00)有意ではないものの、
抑制する傾向を示していました。

この結果もそれほどクリアなものではありませんし、
サイアザイド系利尿剤単独のものでもありません。

この2編の論文を根拠として、
どうしてサイアザイドが骨折リスクの高い高齢者の降圧治療に、
適しているという結論が得られるのか、
あまり納得がいきません。

実は2016年11月のBritish Medical Journal誌に、
そもそもサイアザイド系利尿剤再評価のきっかけとなった、
ALLHAT試験のサブ解析の結果が論文になっていて、
それは同年11月28日のブログ記事にしています。

この論文ではクロスタリドンというサイアザイドの利用により、
股関節と骨盤の新規骨折のリスクが、
21%有意に低下した、
という結果が報告されています。

本来はこの論文をガイドラインに引用すれば良かったのではないか、
というように思われますが、
クロスタリドンも長時間作用型のサイアザイドで、
製薬会社の都合によりジェネリックも含めて、
日本での発売は終了してしまっているので、
引用することがしづらかったのではないか、
というように推察されます。

このように現状サイアザイド系利尿剤とARB、ACE阻害剤については、
高齢者への使用時に、
それが適正な範囲の使用であれば、
骨折のリスクを上昇はさせず、
むしろ低下させるという可能性も示唆はされます。

ただ、サイアザイド系利尿剤で重要なことは、
その有効性や安全性が確実なのは、
半減期が長いクロスタリドンやインダパミドのSR錠のみで、
それ以外の半減期の短い薬剤については、
同等の安全性や効果があるとは限らないと言う点にあり、
そうした薬剤の全てが、
現在日本では使用出来ないということこそが、
最大の問題ではないかと個人的には思います。

今日は高齢者高血圧診療ガイドラインにある記載と、
その根拠について考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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糖尿病治療薬エンパグリフロジンの尿中アルブミン排泄に対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エンパグリフロジンの腎臓に対する効果.jpg
今年のLancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
SGLT2阻害剤という2型糖尿病の新薬の、
尿中アルブミン排泄という、
糖尿病性腎症の指標に対する効果を検証した論文です。

2型糖尿病において、
糖尿病性腎症やその他の原因による腎機能の低下は、
海外データですが、
患者さんの35%に発症するという頻度の高い合併症で、
その有無は患者さんの生命予後にも大きく影響をします。

糖尿病には小血管の合併症と大血管の合併症があると言われます。

小血管の合併症というのは、
通常3大合併症と呼ばれる網膜症と神経症と腎症で、
大血管合併症は、
動脈硬化の進行による、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患です。

このうちで小血管の合併症については、
血糖コントロールを強化して、
HbA1cが7%を切るくらいにすると、
その発症が予防されることが確認されています。
その一方でより厳格なコントロールを行なっても、
大血管の合併症は十分には抑制されません。

糖尿病に合併する腎機能低下は、
腎症による部分もありますが、
動脈硬化が影響している部分もあります。

従って、
尿中アルブミンなどのマーカーを利用した試験では、
血糖コントロールにより一定の予防効果が確認されるのですが、
腎機能自体の低下を、
血糖コントロールのみで充分に予防出来るかというと、
その知見は限られていて、
明確な結論が得られていません。

エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)は、
SGLT2阻害剤と呼ばれるタイプの経口糖尿病治療薬です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させます。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されるのです。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているという訳です。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
このエンパグリフロジンの3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

2016年の同じNew England…誌に掲載された論文では、
2015年のNew England…誌の研究の二次解析として、
エンパグリフロジンの腎機能に与える影響を検証しています。

その結果…

平均の観察期間3.1年間において、
微小アルブミン量の出現、
血液のクレアチニン濃度が2倍になる、
透析導入、腎臓病による死亡を合わせたリスクは、
偽薬群では18.8%に発症したのに対して、
エンパグリフロジン群では12.7%の発症に留まっていて、
エンパクリフロジンにより上記の腎臓リスクは、
トータルで39%(0.53から0.70)有意に低下していました。

経過中に血液のクレアチニン濃度が倍になる頻度は、
エンパグリフリジン群の1.5%、
偽薬群の2.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクは44%有意に低下していました。

経過中に透析導入になる頻度は、
エンパグリフロジン群の0.3%、
偽薬群の0.6%で、
エンパグリフロジンの使用により、
そのリスクも55%有意に低下していました。

微小アルブミン尿の出現については、
両群で有意な差は認められませんでした。

SGLT2阻害剤は強制的に尿にブドウ糖を排泄するので、
尿路の感染や脱水を来たしやすく、
その意味では腎機能を悪化させる要因となるように、
普通は考えておかしくはありません。

ただ、このエンパグリフロジンの臨床試験のデータでは、
これまでの糖尿病治療薬より腎臓の保護作用がある、
という結果になっています。

ここで不明瞭であったのは、
糖尿病性腎症の初期の兆候と考えられる、
アルブミンの尿中排泄量を、
エンパグリフロジンが抑制しているかどうか、
と言う点でした。

そこで今回の更なる二次解析では、
グラム・クレアチニン換算による尿中アルブミン量を、
登録時のアルブミン量毎に解析して、
その効果を検証しています。

糖尿病腎症の進行に伴い、
尿へのアルブミンという小さな蛋白質の漏出が増えるのですが、
畜尿をしないで随時尿で計測する場合、
一緒にクレアチニンを測定して、
1グラムのクレアチニンと、
同時に排泄されているアルブミン量を測定します。
これがほぼ1日の排泄量に相当しているのです。

このmg/ gクレアチニン単位で計算されたアルブミン量が、
30mg未満の場合をアルブミン量非検出とし、
30㎎から300㎎を微小アルブミン尿、
そして300㎎を超える場合をマクロ・アルブミン尿と規定しています。

この臨床試験の登録者のうち、
対象薬剤による治療前にアルブミン尿のデータがあるのは、
6953名の患者さんで、
そのうちの59%はアルブミン尿非検出で、
29%は微小アルブミン尿があり、
11%の患者さんはマクロ・アルブミン尿を最初から有していました。

12週間の短期の使用期間後において、
エンパグリフロジン使用群は偽薬群と比較して、
アルブミン非検出群のアルブミン尿の進行を7%、
微小アルブミン尿群の進行を25%、
マクロ・アルブミン尿群の進行を32%、
それぞれ有意に抑制していました。

3群の全てにおいて、
164週の時点の長期の治療期間においても、
偽薬群と比較したエンパグリフロジン群の有効性は維持されていました。

このように3か月程度の短期間においても、
3年間程度のより長い期間においても、
エンパグリフロジン糖尿病性腎症の初期の変化である。
尿中のアルブミン排泄の抑制と減少に、
明確な効果を示していて、
2016年の腎不全のリスク低下の結果とも併せると、
エンパグリフロジンは、
糖尿病性腎症の進行を、
トータルに抑制していると言って良い結果です。

ただ、これはいずれも単独の大規模臨床試験の結果を、
サブ解析したデータでしかないので、
別個の臨床試験においても同様の結果が再現されるのかを含めて、
今後の検証が矢張り必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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1型糖尿病のインスリン分泌とサイトカインとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
1型糖尿病の残存インスリン分泌.jpg
2017年のDiabetes Care誌に掲載された、
1型糖尿病のインスリン分泌についての論文です。

糖尿病には1型と2型とがあり、
1型は自己免疫の炎症により、
小児期よりインスリン分泌が進行性に低下し、
初期からインスリン自己注射が必要となります。

これまでの一般的な考え方では、
自己免疫の炎症による膵臓のインスリン分泌細胞の破壊は進行性で、
インスリン分泌が回復することはない、
というように考えられていました。
ただ、2010年以降くらいの報告では、
10年以上という長期間を経過した1型糖尿病においても、
内因性のインスリン分泌の指標となる、
血液のCペプチドは測定が可能で、
これはインスリン分泌細胞が残存していることを示しています。

しかし、
実際にどのような患者さんにおいて、
1型糖尿病にも関わらずインスリン分泌が保たれ、
どのような患者さんにおいてほぼ完全に枯渇してしまうのか、
その違いについては殆ど分かっていません。

最近自己免疫の炎症を抑制するサイトカインとして、
インターロイキン‐35の関与が報告され話題になっています。

そこで今回の研究では、
18歳以上で10年以上前に1型糖尿病と診断されている、
113名の患者さんをスウェーデンの単独専門施設で登録し、
内因性インスリン分泌の指標である血液のCペプチドの数値と、
インターロイキン‐35を含む各種サイトカインの血液濃度を測定しています。
全例ではありませんが、
細胞性免疫能の解析も行っています。

1型糖尿病の患者さんでは、
インスリンの自己注射を行なっているため、
血液のインスリンを測定しても、
身体から出ているインスリンの量は分からないので、
インスリンが身体で合成される際に、
同時に出来るCペプチドの方を測定しているのです。

その結果…

全体の6割の患者さんでは、
血液のCペプチドは感度以下でしたが、
41%に当たる46名の患者さんでは、
空腹時の血液のCペプチドが測定可能で、
それも28.6±15.0(pmol/L)と一定の分泌が確保されていました。
そしてこのCペプチド検出群と非検出群とで比較すると、
インターロイキン‐35の濃度は、
検出群が20.3±2.5(pg/mL)であるのに対して、
非検出群では9.7±1.8で、
明確に検出群でインターロイキン‐35は高値を示し、
少数例の解析でも、
実際に検出群でインターロイキン‐35産生細胞の増加が確認されました。

つまり、
自己免疫を抑制するようなサイトカインの産生が、
自己免疫性膵炎の進行阻止に働いていることを示唆する所見です。

今回のデータからはまだ、
本当にインターロイキン‐35が、
インスリン分泌細胞保護の主因であるとは特定出来ませんが、
1型糖尿病の診断から10年以上が経過しても、
4割の患者さんでは内因性インスリン分泌が残っていて、
ほぼなくなっている6割とはっきりと二分され、
それと特定のサイトカインが強い関連を持っている、
という知見は非常に興味深く、
今後の治療的な介入などの知見にも、
是非期待をしたいと思います。

1型糖尿病の治療が、
近い将来ダイナミックに変わることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

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石原がお送りしました。

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抗うつ剤の炎症性皮膚疾患改善作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗うつ剤の皮膚病に対する効果.jpg
2017年のActa Dermato-venereologica誌に掲載された、
抗うつ剤治療と皮膚疾患との関連についてのレビューです。
昨日の記事とも関連する話題です。

蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、乾癬などの慢性の皮膚疾患は、
ウイルス疾患など全身の炎症により悪化し、
またストレスによっても悪化するという特徴があります。
つまり、ストレスと炎症とこうした皮膚疾患は関連しています。

抗うつ剤はうつ病の治療薬である共に、
炎症を抑えるような作用のあることが、
これまでの動物実験を含む知見から確認されています。

それでは、
抗うつ剤の治療により蕁麻疹や乾癬、
アトピー性皮膚炎などの炎症性の皮膚疾患は改善するのでしょうか?

今回のレビューでは、
これまでの28の臨床試験や症例報告のデータをまとめて、
その有効性を検証しています。

その結果、
三環系抗うつ剤で日本未発売のドキセピンにより、
慢性蕁麻疹、特に寒冷蕁麻疹に対する有効性が、
複数の臨床試験によりほぼ確認されています。
SSRIなどより新しいタイプの抗うつ剤の臨床試験も、
幾つか行われていますが、
三環系抗うつ剤に勝るような効果は確認されていません。

SSRIは皮膚掻痒症に対する有効性が確認されていて、
乾癬の治療に対する有効性も報告されています。
これも日本未発売の抗うつ剤であるブプロピオン(DNRI)は、
乾癬やアトピー性皮膚炎への改善効果が報告されています。

このように、
炎症性の皮膚疾患に対して、
おそらく炎症を抑える作用により、
抗うつ剤の有効性がほぼ確認をされています。

ただ、抗うつ剤は多くの副作用のある薬でもあり、
単純に皮膚疾患の治療目的での使用については、
慎重に考えるべきであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

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消炎鎮痛剤の抗うつ作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消炎鎮痛剤の抗うつ作用.jpg
2014年のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
抗炎症作用を持つ薬剤でうつ状態が改善するという、
興味深い現象についての論文です。

うつ状態と炎症は決して無関係なものではありません。

感染症の時にはうつ状態が生じたり、
悪化したりすることは良く知られていますし、
インターフェロンのように、
炎症性サイトカインを増加させる、
つまり疑似的に炎症を起こすような薬剤が、
うつ状態を起こすことも知られています。

こうした知見からは、
炎症に伴うサイトカインなどの上昇が、
うつ状態と関連しているという可能性が示唆されます。

仮にそれが事実であるとすると、
炎症を抑えてサイトカインを低下させるような治療により、
うつ状態自体も改善する、
という可能性が示唆されます。

しかし、実際には消炎鎮痛剤や、
インフリキシマブのような炎症シグナルの抑制剤の、
抑うつ状態への効果を見た臨床試験は、
症例数が少ないなど不充分なものが多く、
その結果も一定の有効性があった、というものから、
無効であったというものまで様々です。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
炎症を抑制する治療の、
うつ状態に対する効果を検証しています。

その結果…

14の臨床研究がリストアップされていて、
そのうちの10の研究は非ステロイド系消炎鎮痛剤が対象となり、
4つの研究ではインフリマキシブのような、
炎症性疾患の治療薬が対象となっています。
トータルな症例数は6262名です。

抗炎症治療により、
うつ状態の指標には一定の改善効果が確認され、
その効果は選択的COX2阻害剤である、
セレコキシブでより高い傾向がありました。

今回解析された臨床データはかなり条件には違いがあるものなので、
これをもって消炎鎮痛剤がうつ病に有効とは、
言い切れないのですが、
うつ状態と炎症との関連があり、
炎症を抑えることによりうつ状態も改善する可能性がある、
という知見は非常に興味深く、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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漢方薬の甘草とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甘草とそのリスク.jpg
今年のJournal of Human Hypertension誌に掲載された、
漢方薬などに含まれる、
甘草(licorice)という生薬の使用による、
低カリウム血症と高血圧(偽アルドステロン症)についての論文です。

甘草は植物の根の抽出物で、
日本の甘草と西洋のリコリス(licorice)は、
少し性質は違う植物由来のものですが、
その主成分は同じです。

甘草という生薬の薬効の主成分はグリチルリチンで、
抗アレルギー作用や肝細胞の安定化作用を持つことから、
主にその注射薬が慢性肝炎やアレルギー疾患の治療薬として、
保険適応されています。

また、甘草には疼痛を改善する作用や、
独特の甘さがあって、
そのため甘味料や痛み止め、
胃潰瘍や便秘の治療薬としても伝統的に使用されています。
甘草ドロップのような飴が海外ではポピュラーですし、
仁丹の独特の甘みは甘草によるものです。

日本では漢方薬の成分としての使用がポピュラーで、
この場合は通常複数の生薬が組み合わせて使用されています。
健康保険で使用されるエキス剤としての漢方薬では、
甘草湯が甘草単剤の薬剤で、
1日量8グラムと最も多いのですが、
使用されることはかなり稀です。(ほぼない)
使用頻度の多いものは、芍薬甘草湯で、
1日量で6グラムが含まれています。

甘草はこのように昔から、
甘味料や治療薬として広く使用されている成分です。

基本的には安全性の高い成分と考えられていますが、
唯一問題となっているのが、
その有害事象としての偽アルドステロン症です。

偽アルドステロン症というのは、
低カリウム血症と高血圧症という、
原発性アルドステロン症に非常に似通った症状が、
アルドステロン以外の原因で起こる状態のことです。
その現象が甘草を含む食品や薬品で起こることが、
1968年に初めて論文として報告されました。

軽症の事例が多い一方で、
重篤な事例の報告もあります。
こちらをご覧ください。
甘草による心停止の事例.jpg
2009年のCanadian Journal of Cardiology誌に掲載された、
症例報告ですが、
71歳の高血圧や心疾患の既往があり、
ACE阻害剤と利尿剤を使用していた女性が、
下剤として甘草を連用したところ、
1.6mEq/Lという高度の低カリウム血症を来し、
頻回の心室細動という重症な不整脈を起こして、
心停止を繰り返したという事例です。

それでは、
何故甘草により低カリウム血症や高血圧が起こるのでしょうか?

僕が大学の医局にいた頃の理解では、
甘草にアルドステロン様の作用があると思っていました。
そのような説明が当時は一般的であったように思います。

しかし、実はそのメカニズムはもう少し複雑です。

こちらをご覧下さい。
甘草の低カリウム血症のメカニズム.png
これが1987年のLancet誌に掲載された論文で、
この問題のトピックとなったものです。

甘草による偽アルドステロン症は、
副腎不全でコルチゾールが低下しているような患者さんでは、
起こらないことが分かっています。
実は甘草に含まれるグリチルリチンは、
それ自体がアルドステロン様作用を持っているのではありません。
糖質コルチコイドであるコルチゾールは、
アルドステロンの受容体にも結合する性質を持っているのですが、
実際にあまりそうした作用に関係をしていないのは、
腎臓の尿細管においては、
コルチゾールを分解してコルチゾンにする酵素が発現していて、
コルチゾールのアルドステロン様作用をブロックしているのです。
ところがグリチルリチンはその酵素の活性を阻害する作用があるので、
尿細管のアルドステロンの受容体に、
コルチゾールが過剰に結合して、
それでアルドステロン様作用が増強するのです。

つまり、アルドステロン様作用の主体は、
身体にあるコルチゾールで、
その分解を抑えることが、
甘草由来の偽アルドステロン症のメカニズムであったのです。

ですから裏技的には、
副腎不全の患者さんでコートリルの補充のみで、
電解質バランスや血圧が改善しない時には、
甘草を少し使用すると、
調整が付くという可能性がある訳です。

一般の方にとってもどうでも良いことかも知れませんが、
ホルモンオタクにとっては、
とても画期的な大発見です。

さて、それでは一体どのくらいの甘草を摂取すると、
偽アルドステロン症になるのでしょうか?

西洋のリコリスには0.2%、
つまり1グラムに2ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。
日本の漢方薬については、
甘草の2.5グラムに100ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。

重症の偽アルドステロン症は、
1日500ミリグラムを超えるグリチルリチンの服用継続で、
生じる事例が多いと考えられていますが、
最近では1日100ミリグラムやそれ以下の量でも、
そうした報告が散見されています。

上記のメタ解析の文献においても、
症状を来した甘草の使用量にはかなりのばらつきがあり、
血圧値以外では甘草の使用量と症状やデータとの間に、
明確な相関は見られていません。

強力ネオミノファーゲンなど、
他にグリチルリチンを含む薬やサプリメントなどを、
一緒に使用している場合や、
利尿剤や降圧剤などカリウムの低下作用を持つ薬を、
併用している場合などは、
より注意が必要であることは間違いがありませんが、
事例を見ているとそれだけでは説明が付かないようにも思います。

漢方薬で報告の頻度が多いのは小柴胡湯で、
甘草の含有量は1日量で2グラム、
グリチルリチンで80ミリグラムですから、
甘草を含む漢方薬としては少ない方です。

ただ、一時C型肝炎に対して、
インターフェロンとの併用が行われて、
間質性肺炎の副作用で併用が中止された経緯があり、
有害事象に留意して、
血液検査などが行われることが多い、
というバイアスもあるように思います。

従って、現状は甘草を少しでも含む漢方薬の、
継続的な使用(通常2週間以上)においては、
筋脱力や不整脈などの症状の聞き取りは継続的に行ない、
必要に応じて血液検査を行うことが、
やや過剰ではあっても、
必要な対応ではあるように思います。
甘草を多く含む処方である芍薬甘草湯や桔梗湯は、
頓用を原則として1日量を使用することは避け、
短期間の使用にとどめることが原則です。

矢張り心疾患があったり、
利尿剤を使用していたり、
甘草の使用量が1日3グラムを超えるようなケースでは、
より注意が必要ではないかと思われますが、
その根拠はそれほど明確なものではないことも、
また知っておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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リポ蛋白(a)濃度と心血管疾患リスク(メンデル無作為化解析による検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
Lp(a)と心血管疾患リスク.jpg
今年のthe Lancet Diabetes &Endocrinology誌に掲載された、
血液の脂質の数値とその意味についての遺伝子解析を利用した論文です。

リポ蛋白(a)というのは、
比較的簡単に測定可能な血液中の脂質の1つで、
動脈硬化性疾患に関連する指標として、
健康保険でも測定が可能です。

ただ、その数値の意味と、
高コレステロール血症の治療における意義については、
まだあまり一定の評価がありません。

そもそもリポ蛋白(a)というのは一体何でしょうか?

血液の中をコレステロールや中性脂肪などの脂質を移動させるため、
脂質はアポ蛋白という蛋白質と結合して、
リポ蛋白という形態を取っています。

要するに、荷台にコレステロールなどの荷物を載せた、
トラックのようなものがリポ蛋白です。

このリポ蛋白にも種類があって、
俗に悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールは、
LDLというリポ蛋白の荷台に載っているコレステロールの量のことです。

このLDLは主にアポB100というアポ蛋白が脂質と結合したものですが、
アポB100以外にアポリポ蛋白(a)という別の蛋白が、
一緒に結合したLDLの一種が存在していて、
これをリポ蛋白(a)と呼んでいるのです。

このアポリポ蛋白(a)というのは、
プラスミノーゲンという血栓などを溶解する仕組みに、
関連する物質と非常に良く似た構造を持っています。

通常血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
20mg/dL以下に保たれていますが、
その血液濃度が高い体質があり、
そうした人では狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が、
多く発症するということが確認されています。

非常に興味深い点は、
この血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
食事などの影響はあまり受けず、
基本的にその高低は、
アポリポ蛋白(a)をコードしている遺伝子のタイプで決まっている、
ということです。

高リポ蛋白(a)血症は、
ほぼ全て遺伝で決まっているのです。

最近このリポ蛋白(a)濃度とは別個にそのサイズ(粒子径)も、
遺伝子レベルで決定されていて、
より小さな粒子径のリポ蛋白(a)が、
より心血管疾患のリスクが高い、
という知見も発表されています。

ただ、このリポ蛋白の濃度と粒子径とが、
どの程度別個に心血管疾患のリスクに関連しているのか、
というような点については、
今までに名良なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径に関連する遺伝子変異を解析して、
その心血管疾患との関連を多数例で検証しています。
遺伝子の変異自体は無作為に生じるという性質を利用した、
メンデル無作為化解析という手法による解析です。

その結果、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径の小ささのいずれもが、
総コレステロール値やLDLコレステロール値とは独立した指標として、
それぞれ独立に心血管疾患のリスクと関連していました。

現状リポ蛋白(a)のみの濃度を低下させたり、
その粒子径を大きくするような治療は確認されておらず、
その意味では現状この知見を臨床に活用する名案はないのですが、
今後リポ蛋白(a)をターゲットとした治療が、
クロースアップされることは間違いなく、
今後の研究の進捗を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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睡眠時無呼吸のCPAP治療の心血管疾患に対する効果(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です

今日はこちら。
CPAPの長期効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
睡眠時無呼吸症候群の心血管疾患に対する治療効果についての論文です。

睡眠時無呼吸症候群というのは、
睡眠中に10秒以上の呼吸の停止(無呼吸)や、
低呼吸と呼ばれる、
酸素が充分肺に入らないような呼吸の低下が、
1時間に5回以上認められる状態のことです。

肥満などの要因により気道が狭くなることが、
その主な要因と考えられていますが、
顎の形や口呼吸などが原因となることもあり、
必ずしも肥満による病気、と言う訳ではありません。

睡眠時無呼吸症候群があると、
眠りの質が悪化するので、
眠っていても熟睡感がなく、
昼に強い眠気が生じます。

そのため、居眠りの原因となり、
仕事に差し支えたり、
運転中の居眠りが事故に繋がったりすることが、
社会問題になっているのは、
皆さんもご存じの通りです。

そして、患者さんの睡眠の状態の改善のため、
主に行なわれている治療が、
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)と呼ばれるものです。

これは特殊なマスクを鼻に付け、
そこから少し圧力を掛けて空気を鼻に送り込むことにより、
夜間の呼吸状態の悪化を改善するというものです。

このCPAPによって、
多くの睡眠時無呼吸の患者さんでは、
夜間の呼吸状態が改善し、
昼間の眠気や居眠りが予防されます。

そこまでは問題がありません。

睡眠時無呼吸症候群は、
他の多くの病気と関連があると考えられていて、
それを示唆する疫学データも多く発表されています。
その中には心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化の病気や、
糖尿病、脂肪肝炎などが含まれています。
血圧特に拡張期血圧の上昇もしばしば見られる所見です。

テレビに登場するような「名医」の先生は、
脳卒中や心筋梗塞などが無呼吸によって起こり、
無呼吸をCPAPで治療することにより、
そうした病気の予防になるような話をしています。
無呼吸によって突然死が起こり、
それが治療により予防されるような言い方もされることがあります。

しかし、実際にはそれは明確に証明された事実ではありません。

事例を観察してCPAPにより病状が改善した、
というような文献は多数存在しています。

しかし、症例を登録して治療と未治療とをくじ引きで決め、
本当に治療により病気が予防された、
というような報告は殆どなく、
治療により患者さんの生命予後が改善した、
というような報告もないのです。

証明されているのは、
せいぜい血圧が若干低下する、
ということくらいです。

2016年の9月に掲載されたNew England…誌の論文では、
無呼吸に心血管疾患を合併した患者さんでの通常治療への上乗せで、
再発予防目的でのCPAP治療の効果が、
未治療との比較で検証されていますが、
結論としては矢張りその上乗せの予防効果は確認されませんでした。
ただ、CPAPを実際に患者さんが使用した時間は3時間程度と短く、
CPAPがもっとしっかり施行されていれば、
より効果が出たという可能性は残ります。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析した、
所謂メタ解析の論文ですが、
10の臨床試験における7266名の睡眠時無呼吸の患者さんを、
まとめて解析した結果として、
矢張り未治療と比較した場合に、
心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクや、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクには、
CPAPによる改善効果は確認されませんでした。

閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんに対する、
適切なCPAP治療は、
無呼吸による昼間の眠気などの症状に対する有効性は確認されていますが、
血圧の若干の低下以外、
心血管疾患の予防効果や生命予後の改善効果については、
現時点では確認されたものはないと、
そう考えるのが現状は妥当なようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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パッチ型インフルエンザワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
パッチ型インフルエンザワクチンの効果.jpg
2017年6月のLancet誌にウェブ掲載された、
皮膚にパッチとして貼るタイプのインフルエンザワクチンの、
効果と安全性についての論文です。

痛くないインフルエンザワクチンの開発というのは、
一般の接種者のニーズも非常に高い分野ですが、
一時もてはやされた点鼻の生ワクチンは、
接種者がかなり限られる上に、
その効果にも疑問符が投げかけられるなど、
なかなか一筋縄ではいかないのが、
ワクチンの接種法であるようです。

今回ご紹介するのは肌に張り付けるパッチ型のワクチンで、
こう書くと湿布のようなものを想像されるかも知れませんが、
実際には微小は針が沢山埋め込まれたパッチで、
肌に極小さな傷を付けて接種するという手法で、
日本で行われているBCGワクチンの考え方に近いものです。

こちらをご覧下さい。
パッチ型のインフルエンザワクチン.jpg
これが今回の臨床試験で使用されている、
パッチ型のインフルエンザワクチンです。

絆創膏のようなものの中央に、
極小の針が沢山付いていて、
そこにワクチン抗原がしみ込んでいます。
これを自分の効き手でない方の手首に押し付け、
20分そのままにした上で、
パッチを外します。
殆ど痛みはありません。
接種した当日からその摂取部位は赤く腫れ、
その腫れは徐々に落ち着いて、
4週間後には完全に見えなくなります。

今回の臨床試験では、
18歳から49歳の100名を、
クジ引きで4つの群に分け、
第1群は医療従事者がパッチ型ワクチンを接種し、
第2群は通常の筋肉注射(海外ではこれ)でワクチンを接種、
第3群は偽のパッチを医療従事者が接種、
第4群は接種者自身がパッチ型ワクチンを接種して、
その副反応や有害事象と、
4週間後の抗体価の上昇を比較検証しています。

その結果…

パッチ型ワクチンの抗体価の上昇効果は、
注射によるワクチンと同等で、
偽ワクチンとは明確な差があり、
接種者自身による接種でも、
パッチ型ワクチンの効果は変わりませんでした。

接種の副反応や有害事象は、
パッチ型ワクチンでは接種部位の発赤やかゆみが主で、
概ね軽症のものでした。
また有害事象は接種者自身の接種でも、
特に差はありませんでした。

このようにパッチ型のワクチンは概ね注射と遜色のない効果があり、
理屈から言っても沢山の微小な針で、
BCGのように刺激をする訳ですから、
その有効性はむしろ勝っている可能性もあるのではないかと思います。
ただ、皮膚が弱い方には反応が長く残るので、
あまり向いていない可能性があるのと、
20分は固定するという手法は、
小さなお子さんにはむしろ不向きであるようにも思います。

今後実際のインフルエンザ感染の予防効果を含めて、
臨床試験の推移を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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