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消炎鎮痛剤の抗うつ作用について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消炎鎮痛剤の抗うつ作用.jpg
2014年のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
抗炎症作用を持つ薬剤でうつ状態が改善するという、
興味深い現象についての論文です。

うつ状態と炎症は決して無関係なものではありません。

感染症の時にはうつ状態が生じたり、
悪化したりすることは良く知られていますし、
インターフェロンのように、
炎症性サイトカインを増加させる、
つまり疑似的に炎症を起こすような薬剤が、
うつ状態を起こすことも知られています。

こうした知見からは、
炎症に伴うサイトカインなどの上昇が、
うつ状態と関連しているという可能性が示唆されます。

仮にそれが事実であるとすると、
炎症を抑えてサイトカインを低下させるような治療により、
うつ状態自体も改善する、
という可能性が示唆されます。

しかし、実際には消炎鎮痛剤や、
インフリキシマブのような炎症シグナルの抑制剤の、
抑うつ状態への効果を見た臨床試験は、
症例数が少ないなど不充分なものが多く、
その結果も一定の有効性があった、というものから、
無効であったというものまで様々です。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法で、
炎症を抑制する治療の、
うつ状態に対する効果を検証しています。

その結果…

14の臨床研究がリストアップされていて、
そのうちの10の研究は非ステロイド系消炎鎮痛剤が対象となり、
4つの研究ではインフリマキシブのような、
炎症性疾患の治療薬が対象となっています。
トータルな症例数は6262名です。

抗炎症治療により、
うつ状態の指標には一定の改善効果が確認され、
その効果は選択的COX2阻害剤である、
セレコキシブでより高い傾向がありました。

今回解析された臨床データはかなり条件には違いがあるものなので、
これをもって消炎鎮痛剤がうつ病に有効とは、
言い切れないのですが、
うつ状態と炎症との関連があり、
炎症を抑えることによりうつ状態も改善する可能性がある、
という知見は非常に興味深く、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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漢方薬の甘草とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甘草とそのリスク.jpg
今年のJournal of Human Hypertension誌に掲載された、
漢方薬などに含まれる、
甘草(licorice)という生薬の使用による、
低カリウム血症と高血圧(偽アルドステロン症)についての論文です。

甘草は植物の根の抽出物で、
日本の甘草と西洋のリコリス(licorice)は、
少し性質は違う植物由来のものですが、
その主成分は同じです。

甘草という生薬の薬効の主成分はグリチルリチンで、
抗アレルギー作用や肝細胞の安定化作用を持つことから、
主にその注射薬が慢性肝炎やアレルギー疾患の治療薬として、
保険適応されています。

また、甘草には疼痛を改善する作用や、
独特の甘さがあって、
そのため甘味料や痛み止め、
胃潰瘍や便秘の治療薬としても伝統的に使用されています。
甘草ドロップのような飴が海外ではポピュラーですし、
仁丹の独特の甘みは甘草によるものです。

日本では漢方薬の成分としての使用がポピュラーで、
この場合は通常複数の生薬が組み合わせて使用されています。
健康保険で使用されるエキス剤としての漢方薬では、
甘草湯が甘草単剤の薬剤で、
1日量8グラムと最も多いのですが、
使用されることはかなり稀です。(ほぼない)
使用頻度の多いものは、芍薬甘草湯で、
1日量で6グラムが含まれています。

甘草はこのように昔から、
甘味料や治療薬として広く使用されている成分です。

基本的には安全性の高い成分と考えられていますが、
唯一問題となっているのが、
その有害事象としての偽アルドステロン症です。

偽アルドステロン症というのは、
低カリウム血症と高血圧症という、
原発性アルドステロン症に非常に似通った症状が、
アルドステロン以外の原因で起こる状態のことです。
その現象が甘草を含む食品や薬品で起こることが、
1968年に初めて論文として報告されました。

軽症の事例が多い一方で、
重篤な事例の報告もあります。
こちらをご覧ください。
甘草による心停止の事例.jpg
2009年のCanadian Journal of Cardiology誌に掲載された、
症例報告ですが、
71歳の高血圧や心疾患の既往があり、
ACE阻害剤と利尿剤を使用していた女性が、
下剤として甘草を連用したところ、
1.6mEq/Lという高度の低カリウム血症を来し、
頻回の心室細動という重症な不整脈を起こして、
心停止を繰り返したという事例です。

それでは、
何故甘草により低カリウム血症や高血圧が起こるのでしょうか?

僕が大学の医局にいた頃の理解では、
甘草にアルドステロン様の作用があると思っていました。
そのような説明が当時は一般的であったように思います。

しかし、実はそのメカニズムはもう少し複雑です。

こちらをご覧下さい。
甘草の低カリウム血症のメカニズム.png
これが1987年のLancet誌に掲載された論文で、
この問題のトピックとなったものです。

甘草による偽アルドステロン症は、
副腎不全でコルチゾールが低下しているような患者さんでは、
起こらないことが分かっています。
実は甘草に含まれるグリチルリチンは、
それ自体がアルドステロン様作用を持っているのではありません。
糖質コルチコイドであるコルチゾールは、
アルドステロンの受容体にも結合する性質を持っているのですが、
実際にあまりそうした作用に関係をしていないのは、
腎臓の尿細管においては、
コルチゾールを分解してコルチゾンにする酵素が発現していて、
コルチゾールのアルドステロン様作用をブロックしているのです。
ところがグリチルリチンはその酵素の活性を阻害する作用があるので、
尿細管のアルドステロンの受容体に、
コルチゾールが過剰に結合して、
それでアルドステロン様作用が増強するのです。

つまり、アルドステロン様作用の主体は、
身体にあるコルチゾールで、
その分解を抑えることが、
甘草由来の偽アルドステロン症のメカニズムであったのです。

ですから裏技的には、
副腎不全の患者さんでコートリルの補充のみで、
電解質バランスや血圧が改善しない時には、
甘草を少し使用すると、
調整が付くという可能性がある訳です。

一般の方にとってもどうでも良いことかも知れませんが、
ホルモンオタクにとっては、
とても画期的な大発見です。

さて、それでは一体どのくらいの甘草を摂取すると、
偽アルドステロン症になるのでしょうか?

西洋のリコリスには0.2%、
つまり1グラムに2ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。
日本の漢方薬については、
甘草の2.5グラムに100ミリグラムのグリチルリチンが含まれています。

重症の偽アルドステロン症は、
1日500ミリグラムを超えるグリチルリチンの服用継続で、
生じる事例が多いと考えられていますが、
最近では1日100ミリグラムやそれ以下の量でも、
そうした報告が散見されています。

上記のメタ解析の文献においても、
症状を来した甘草の使用量にはかなりのばらつきがあり、
血圧値以外では甘草の使用量と症状やデータとの間に、
明確な相関は見られていません。

強力ネオミノファーゲンなど、
他にグリチルリチンを含む薬やサプリメントなどを、
一緒に使用している場合や、
利尿剤や降圧剤などカリウムの低下作用を持つ薬を、
併用している場合などは、
より注意が必要であることは間違いがありませんが、
事例を見ているとそれだけでは説明が付かないようにも思います。

漢方薬で報告の頻度が多いのは小柴胡湯で、
甘草の含有量は1日量で2グラム、
グリチルリチンで80ミリグラムですから、
甘草を含む漢方薬としては少ない方です。

ただ、一時C型肝炎に対して、
インターフェロンとの併用が行われて、
間質性肺炎の副作用で併用が中止された経緯があり、
有害事象に留意して、
血液検査などが行われることが多い、
というバイアスもあるように思います。

従って、現状は甘草を少しでも含む漢方薬の、
継続的な使用(通常2週間以上)においては、
筋脱力や不整脈などの症状の聞き取りは継続的に行ない、
必要に応じて血液検査を行うことが、
やや過剰ではあっても、
必要な対応ではあるように思います。
甘草を多く含む処方である芍薬甘草湯や桔梗湯は、
頓用を原則として1日量を使用することは避け、
短期間の使用にとどめることが原則です。

矢張り心疾患があったり、
利尿剤を使用していたり、
甘草の使用量が1日3グラムを超えるようなケースでは、
より注意が必要ではないかと思われますが、
その根拠はそれほど明確なものではないことも、
また知っておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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リポ蛋白(a)濃度と心血管疾患リスク(メンデル無作為化解析による検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
Lp(a)と心血管疾患リスク.jpg
今年のthe Lancet Diabetes &Endocrinology誌に掲載された、
血液の脂質の数値とその意味についての遺伝子解析を利用した論文です。

リポ蛋白(a)というのは、
比較的簡単に測定可能な血液中の脂質の1つで、
動脈硬化性疾患に関連する指標として、
健康保険でも測定が可能です。

ただ、その数値の意味と、
高コレステロール血症の治療における意義については、
まだあまり一定の評価がありません。

そもそもリポ蛋白(a)というのは一体何でしょうか?

血液の中をコレステロールや中性脂肪などの脂質を移動させるため、
脂質はアポ蛋白という蛋白質と結合して、
リポ蛋白という形態を取っています。

要するに、荷台にコレステロールなどの荷物を載せた、
トラックのようなものがリポ蛋白です。

このリポ蛋白にも種類があって、
俗に悪玉コレステロールと言われているLDLコレステロールは、
LDLというリポ蛋白の荷台に載っているコレステロールの量のことです。

このLDLは主にアポB100というアポ蛋白が脂質と結合したものですが、
アポB100以外にアポリポ蛋白(a)という別の蛋白が、
一緒に結合したLDLの一種が存在していて、
これをリポ蛋白(a)と呼んでいるのです。

このアポリポ蛋白(a)というのは、
プラスミノーゲンという血栓などを溶解する仕組みに、
関連する物質と非常に良く似た構造を持っています。

通常血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
20mg/dL以下に保たれていますが、
その血液濃度が高い体質があり、
そうした人では狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が、
多く発症するということが確認されています。

非常に興味深い点は、
この血液中のリポ蛋白(a)濃度は、
食事などの影響はあまり受けず、
基本的にその高低は、
アポリポ蛋白(a)をコードしている遺伝子のタイプで決まっている、
ということです。

高リポ蛋白(a)血症は、
ほぼ全て遺伝で決まっているのです。

最近このリポ蛋白(a)濃度とは別個にそのサイズ(粒子径)も、
遺伝子レベルで決定されていて、
より小さな粒子径のリポ蛋白(a)が、
より心血管疾患のリスクが高い、
という知見も発表されています。

ただ、このリポ蛋白の濃度と粒子径とが、
どの程度別個に心血管疾患のリスクに関連しているのか、
というような点については、
今までに名良なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径に関連する遺伝子変異を解析して、
その心血管疾患との関連を多数例で検証しています。
遺伝子の変異自体は無作為に生じるという性質を利用した、
メンデル無作為化解析という手法による解析です。

その結果、
リポ蛋白(a)の濃度と粒子径の小ささのいずれもが、
総コレステロール値やLDLコレステロール値とは独立した指標として、
それぞれ独立に心血管疾患のリスクと関連していました。

現状リポ蛋白(a)のみの濃度を低下させたり、
その粒子径を大きくするような治療は確認されておらず、
その意味では現状この知見を臨床に活用する名案はないのですが、
今後リポ蛋白(a)をターゲットとした治療が、
クロースアップされることは間違いなく、
今後の研究の進捗を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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睡眠時無呼吸のCPAP治療の心血管疾患に対する効果(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です

今日はこちら。
CPAPの長期効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
睡眠時無呼吸症候群の心血管疾患に対する治療効果についての論文です。

睡眠時無呼吸症候群というのは、
睡眠中に10秒以上の呼吸の停止(無呼吸)や、
低呼吸と呼ばれる、
酸素が充分肺に入らないような呼吸の低下が、
1時間に5回以上認められる状態のことです。

肥満などの要因により気道が狭くなることが、
その主な要因と考えられていますが、
顎の形や口呼吸などが原因となることもあり、
必ずしも肥満による病気、と言う訳ではありません。

睡眠時無呼吸症候群があると、
眠りの質が悪化するので、
眠っていても熟睡感がなく、
昼に強い眠気が生じます。

そのため、居眠りの原因となり、
仕事に差し支えたり、
運転中の居眠りが事故に繋がったりすることが、
社会問題になっているのは、
皆さんもご存じの通りです。

そして、患者さんの睡眠の状態の改善のため、
主に行なわれている治療が、
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)と呼ばれるものです。

これは特殊なマスクを鼻に付け、
そこから少し圧力を掛けて空気を鼻に送り込むことにより、
夜間の呼吸状態の悪化を改善するというものです。

このCPAPによって、
多くの睡眠時無呼吸の患者さんでは、
夜間の呼吸状態が改善し、
昼間の眠気や居眠りが予防されます。

そこまでは問題がありません。

睡眠時無呼吸症候群は、
他の多くの病気と関連があると考えられていて、
それを示唆する疫学データも多く発表されています。
その中には心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化の病気や、
糖尿病、脂肪肝炎などが含まれています。
血圧特に拡張期血圧の上昇もしばしば見られる所見です。

テレビに登場するような「名医」の先生は、
脳卒中や心筋梗塞などが無呼吸によって起こり、
無呼吸をCPAPで治療することにより、
そうした病気の予防になるような話をしています。
無呼吸によって突然死が起こり、
それが治療により予防されるような言い方もされることがあります。

しかし、実際にはそれは明確に証明された事実ではありません。

事例を観察してCPAPにより病状が改善した、
というような文献は多数存在しています。

しかし、症例を登録して治療と未治療とをくじ引きで決め、
本当に治療により病気が予防された、
というような報告は殆どなく、
治療により患者さんの生命予後が改善した、
というような報告もないのです。

証明されているのは、
せいぜい血圧が若干低下する、
ということくらいです。

2016年の9月に掲載されたNew England…誌の論文では、
無呼吸に心血管疾患を合併した患者さんでの通常治療への上乗せで、
再発予防目的でのCPAP治療の効果が、
未治療との比較で検証されていますが、
結論としては矢張りその上乗せの予防効果は確認されませんでした。
ただ、CPAPを実際に患者さんが使用した時間は3時間程度と短く、
CPAPがもっとしっかり施行されていれば、
より効果が出たという可能性は残ります。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析した、
所謂メタ解析の論文ですが、
10の臨床試験における7266名の睡眠時無呼吸の患者さんを、
まとめて解析した結果として、
矢張り未治療と比較した場合に、
心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクや、
心血管疾患による死亡や総死亡のリスクには、
CPAPによる改善効果は確認されませんでした。

閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんに対する、
適切なCPAP治療は、
無呼吸による昼間の眠気などの症状に対する有効性は確認されていますが、
血圧の若干の低下以外、
心血管疾患の予防効果や生命予後の改善効果については、
現時点では確認されたものはないと、
そう考えるのが現状は妥当なようです。

それでは今日はこのくらいで。

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パッチ型インフルエンザワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
パッチ型インフルエンザワクチンの効果.jpg
2017年6月のLancet誌にウェブ掲載された、
皮膚にパッチとして貼るタイプのインフルエンザワクチンの、
効果と安全性についての論文です。

痛くないインフルエンザワクチンの開発というのは、
一般の接種者のニーズも非常に高い分野ですが、
一時もてはやされた点鼻の生ワクチンは、
接種者がかなり限られる上に、
その効果にも疑問符が投げかけられるなど、
なかなか一筋縄ではいかないのが、
ワクチンの接種法であるようです。

今回ご紹介するのは肌に張り付けるパッチ型のワクチンで、
こう書くと湿布のようなものを想像されるかも知れませんが、
実際には微小は針が沢山埋め込まれたパッチで、
肌に極小さな傷を付けて接種するという手法で、
日本で行われているBCGワクチンの考え方に近いものです。

こちらをご覧下さい。
パッチ型のインフルエンザワクチン.jpg
これが今回の臨床試験で使用されている、
パッチ型のインフルエンザワクチンです。

絆創膏のようなものの中央に、
極小の針が沢山付いていて、
そこにワクチン抗原がしみ込んでいます。
これを自分の効き手でない方の手首に押し付け、
20分そのままにした上で、
パッチを外します。
殆ど痛みはありません。
接種した当日からその摂取部位は赤く腫れ、
その腫れは徐々に落ち着いて、
4週間後には完全に見えなくなります。

今回の臨床試験では、
18歳から49歳の100名を、
クジ引きで4つの群に分け、
第1群は医療従事者がパッチ型ワクチンを接種し、
第2群は通常の筋肉注射(海外ではこれ)でワクチンを接種、
第3群は偽のパッチを医療従事者が接種、
第4群は接種者自身がパッチ型ワクチンを接種して、
その副反応や有害事象と、
4週間後の抗体価の上昇を比較検証しています。

その結果…

パッチ型ワクチンの抗体価の上昇効果は、
注射によるワクチンと同等で、
偽ワクチンとは明確な差があり、
接種者自身による接種でも、
パッチ型ワクチンの効果は変わりませんでした。

接種の副反応や有害事象は、
パッチ型ワクチンでは接種部位の発赤やかゆみが主で、
概ね軽症のものでした。
また有害事象は接種者自身の接種でも、
特に差はありませんでした。

このようにパッチ型のワクチンは概ね注射と遜色のない効果があり、
理屈から言っても沢山の微小な針で、
BCGのように刺激をする訳ですから、
その有効性はむしろ勝っている可能性もあるのではないかと思います。
ただ、皮膚が弱い方には反応が長く残るので、
あまり向いていない可能性があるのと、
20分は固定するという手法は、
小さなお子さんにはむしろ不向きであるようにも思います。

今後実際のインフルエンザ感染の予防効果を含めて、
臨床試験の推移を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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食塩過剰摂取とそのリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
塩分中毒とその頻度.jpg
2017年のNutrients誌に掲載された、
急性の食塩中毒のこれまでの報告をまとめたレビューです。

2017年の7月11日に、
岩手県の預かり保育の施設で、
職員が乳児に食塩を混ぜた液体を飲ませ、
食塩中毒で死亡させたという事例が報道されました。

食塩の中毒で亡くなるということがあるのだろうかと、
驚かれた方も多かったのではないかと思います。

ただ、醤油を1升びんでまるごと飲んで、
自殺をしたというような話は、
お聞きになった方も多いのではないかと思います。

僕は小学生くらいの時に、
もうお酒を1升一気に飲むのと、
醤油を一升一気に飲むのとどっちがより危険か、
というようなブラックなクイズが流行していたのを覚えています。
勿論答えは醤油なのです。
そして、醤油を1升飲んでも死なない方法として、
すぐにお風呂に入ることが豆知識として披露されることもありました。
お風呂に入って大量に発汗することにより、
塩分が外に出るというのがその理屈でした。
ただ、実際のその効果は定かではありません。

このように、醤油を大量に飲んで自殺を図るというのは、
昔から結構知られていた方法のようで、
報道されることも多く、
一般の方の興味を惹いていたようです。

醤油を大量の飲むことで死亡することがあるのは、
大量の食塩が身体に入ることにより、
血液のナトリウム濃度が急上昇して細胞内脱水の状態となり、
脳細胞が萎縮して引っ張られた血管が破綻、
脳内出血やクモ膜下出血などを来すことがその主な原因と考えられています。

正常の血液のナトリウム濃度が140mEq/Lくらいで、
これが185mEq/L以上まで上昇すると、
そうした致命的な細胞内脱水の危険性があると考えられています。
これを単純に大人の循環血液量で計算すると、
10グラムくらいの食塩でも、
一気に摂取するとその危険があるという計算になります。

ただ、実際には汗や尿からナトリウムは排泄されますし、
細胞内外への体液やナトリウムの移動がありますから、
その程度の量ではそうしたことは起こらないのが通常だと思います。

そして、これまでの事例の検討から、
25グラムを超える食塩を一気に摂取すると、
高ナトリウム血症により死亡する危険性はあり得る、
という知見が集まっています。
それ以下の量でも死亡事例はあり、
おそらくは元々脱水状態であったとか、
発汗が困難な状態であったり、腎機能が低下しているなど、
その他の要因が合わさった結果ではないかと思われます。

醤油を1升飲むと200グラムの食塩を、
一気に摂取したことと同じになり、
これが如何に危険であるかは、
お分かりになるかと思います。
これまでの検証から、
概ね大人の致死量は100グラムくらいと想定して、
大きな誤りはないように思います。

以上は勿論成人の場合です。

たとえば体重10キロの小児の場合、
計算上は10グラム未満の食塩の摂取でも、
致死的になる可能性はあるのですが、
10グラムを超えないレベルの食塩で、
小児が死亡したことが確定したような事例は、
それほど多くは報告されていません。
上記レビューの記載によれば、
英語の文献でこれまでに報告された食塩中毒の死亡事例は15名で、
その多くは摂取された食塩の量は不明です。
乳幼児の場合、自分で好んで摂取することはありませんから、
報告された事例の多くは、
今回の岩手のケースのように、
他人から意図的に摂取させられたものなのです。

従って、不明の点がまだ多いのですが、
10グラムを超える塩分を一気に摂取すると、
お子さんでは致死的になる可能性が高いと、
そう考えるのが妥当であるようです。

1993年の小児科の専門誌に、
「Non‐accidental salt poisoning」という論文があり、
上記のレビューにも引用されているのですが、
そこでは小児の急性中毒の事例の中から、
12例の食塩中毒の疑われる事例が抽出されていて、
考察で食塩中毒は成人より赤ちゃんが圧倒的に多い、
というように取れる記載があるのですが、
あまり根拠のある記載とは思えず、
今回上記のレビューと関連の報告などを幾つか読んだ範囲では、
少なくとも食塩中毒を死亡事例に限ってみると、
圧倒的に成人の事例が多く、
その多くは自殺目的の使用のようです。
それ以外で意外に多いのは、
砂糖の塊と間違って、
塩の塊をそのまま摂取したようなケースです。
乳幼児では矢張り虐待のケースが多いのですが、
報告頻度から言えば少なく、
その摂取量も不明のものが多いようです。

食塩中毒の治療は、
大量輸液や透析によって、
高ナトリウム血症を補正するより方法はないのですが、
発見の時点で脳出血などが生じていると、
救命は困難な場合が多いようです。
また、一般的には急激な補正は、
却って脳幹の壊死などを招く原因となるので、
ゆっくり補正することが適切と考えられているのですが、
この急性の食塩中毒の救命においては、
ゆっくりとした補正で救命されたことはあまりなく、
救命例は急速補正の事例に限られているという知見も報告されています。

1回に10グラムや20グラムという食塩は、
摂取すること自体はそれほど難しいことではなく、
それで致死的であるとすると、
食塩自体を劇物や毒物に指定する必要があるようにも思いますが、
実際には通常の食事でちょっとやそっと塩分を摂っても、
それで死亡したというような事例は殆ど報告はなく、
人間の身体の調節力は、
単純計算では測れないもののようです。

ただ、最近熱中症予防に食塩摂取の重要性が、
強調され過ぎることが多く、
塩の塊をそのまま摂取したりすると、
元々が脱水になっている炎天下では、
食塩中毒の危険が高まると思いますし、
激辛ブームで食塩を大量に含むような激辛料理を、
何処かの芸能人のように一気食いすると、
食塩中毒になる危険も否定は出来ません。
激辛料理を食べた時のあの大量の発汗は、
身体が塩分を必死で体外に排泄しようとしているからで、
そこにはリスクがあると、
想定した方が良いように思います。

このように、食塩というのは、
人間に必要不可欠な反面、
非常に危険を孕んだものでもあり、
極端な食塩の多量摂取は、
命に関わることがあるということは、
心に留める必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

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健康診断の心電図は必要か? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心電図検査の適応.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
健康診断での心電図検査の必要性についての論文です。

この雑誌はアメリカ医師会の学術誌なので、
こうした一般診療や家庭医の診療内容についての論文が、
よく掲載されます。

心電図検査は持病がなく、
健康上のリスクも低い人にも必要でしょうか?

アメリカの臨床ガイドラインにおいては、
糖尿病や高血圧症などの病気がなく、
胸部痛や動悸などの症状がなく、
心臓の病気の既往もないような人では、
心電図検査を健康管理のみのために行うことは推奨をされていません。

日本においては、
雇用前の健診では心電図検査が必須ですが、
それ以外の住民健診などでは、
通常は選択項目となっていることが多いと思います。

この場合の選択ということの意味は、
心臓疾患の可能性があったり、
そのリスクがあったりする場合に、
心電図の適応を検討する、
という意味合いだと思うのですが、
心電図検査は比較的何処でも気軽に出来て、
受ける人にも負担の少ない検査ではあるので、
それほどの適応がなくても、
施行されることが多いのが実際だと思います。

アメリカでもそうした状況自体は変わらないようで、
必要性の高くはない心電図検査が、
健康診査の後などでは、
行なわれることが多いと指摘されています。

それでは、実際には健診の後にどの程度の比率で心電図検査は行われ、
検査を受けることでその人の健康には、
何等かのメリットがあるのでしょうか?

今回の研究では、
カナダのプライマリケアの大規模な医療データベースを活用して、
定期健康診査の後30日以内に心電図検査の行われた頻度と、
医療機関毎の差、
そして心電図検査とその後の医療活用や、
心臓疾患のリスクなどを検証しています。

対象となっているのは年齢が18歳以上で、
1回以上の1年に1回の健康診査(annual health examination)を受け、
心疾患の既往がなく、胸痛などの症状もなく、
高血圧は糖尿病などの心疾患のリスクもない、
3629859名です。

その結果…

健康診査を家庭医で受診した受診者のうち、
21%はその後30日以内に心電図検査を施行されていました。
これをかかりつけ医療機関(primary care practices)毎に見ると、
679の医療機関において、
1.8%から76.1%という大きな差があり、
そこに所属する8036名のかかりつけ医(primary care physicians)毎に見ても、
1.1%から94.9%という大きな差がありました。
つまり、医者によってほとんどの受診者に、
心電図検査を勧める場合もあれば、
ほとんど勧めない場合もある、
という結果です。

心電図検査を施行された受診者は、
そうでない受診者と比較して、
その後の循環器専門医の受診や、
心臓関連の他の検査の施行が増えていましたが、
その一方でその後の死亡リスクや、
心臓病関連の入院のリスク、
また心臓のカテーテル治療施行のリスクについては、
有意な差はありませんでした。

これをもって症状のない心電図検査は全て無用、
というのは言い過ぎだと思いますが、
医者のスタンスによって心電図検査の実施基準が大きく異なり、
その多くが実際にはあまりその人の予後に結び付いていない、
という指摘は重く受け止める必要があり、
今後どのような患者さんに心電図検査がメリットがあるのか、
そうした検証を元にしたより具体的な指針が、
作成されることが望ましいように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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2型糖尿病血糖悪化時のインスリン以外の選択肢について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インスリンとGLP1アナログ+ピオグリタゾンの比較.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
2型糖尿病の血糖コントロール悪化時の、
興味深い治療についての論文です。

これは本当は本文を読みたかったのですが、
お金を払ってダウンロードを申し込んだものの、
何か不具合があるようで、
どうしてもダウンロードが出来ませんでした。
お金をただ取られただけで終わりました。
無念です。

2型糖尿病の治療薬の基本はメトホルミンの使用です。
ただ、充分量のメトホルミンを使用しても、
血糖コントロールが不良の場合には、
SU剤などその他の血糖降下剤が併用されます。

それでも血糖が降下しない場合はインスリンの注射に移行することが、
通常のこれまでの考え方でした。

しかし、インスリンの高度の欠乏があって、
それで血糖が上昇しているのであれば、
インスリンの注射を使用するのが理に適っていますが、
多くの2型糖尿病ではインスリン不足よりインスリン抵抗性が要因なので、
それでインスリンを使用することには疑問もあります。

インスリンを使用すれば、
どんな高血糖もいつかは下がります。
しかし、インスリン抵抗性があるのに血糖を正常化しようとすれば、
血液のインスリン濃度は高くなり、
高インスリン血症になります。
そして、高インスリン血症は動脈硬化を強く進めることが分かっています。
血糖を下げる目的の多くは、
動脈硬化に関連する病気の予防にあるのですから、
血糖は下げても高インスリン血症にするのでは、
本末転倒なのではないか、
とも思えます。

更にインスリン治療は重度の低血糖のリスクと隣り合わせで、
低血糖は糖尿病の患者さんの生命予後に、
悪い影響を与えることが明らかです。

血糖は治療前より下がっても、
高インスリン血症になって低血糖にもなるのであれば、
トータルに見て病気を良くしているとは言えません。

それでは、一体どうすれば良いのでしょうか?

この問題には結論はまだありませんが、
今回の研究で検討されているのは、
GLP-1アナログという、
インスリンとSU剤以外では最も強力な血糖降下作用を持つ注射薬と、
ピオグリタゾンというインスリン抵抗性改善剤を、
インスリン治療の代わりにこうした事例に使用する、
という選択肢です。

実際には充分量のメトホルミンとSU剤を使用しても、
HbA1cが10%を超えるという、
極めて血糖コントロールが不良の2型糖尿病の患者さん101名を、
くじ引きで2つの群に分け、
一方はインスリン治療を導入し、
もう一方はGLP-1アナログのエキセナチド(1週間に1回のタイプ)と、
インスリン抵抗性改善剤のピオグリタゾン(商品名アクトスなど)を併用して、
その効果を6か月間比較検証しています。
偽薬や偽の注射は使用していないので、
患者さんがどちらの治療になったかは、
患者さんにも主治医にも分かっています。

その結果…

開始前のHbA1cはGLP-1アナログ併用群が11.5±0.2%で、
インスリン群が11.2±0.2%でした。
治療開始6か月の時点では、
HbA1cがGLP-1アナログ併用群では6.7±0.1%に低下し、
インスリン群は7.4±0.1%に低下していました。

かなり画期的な血糖低下が、
GLP-1アナログとピオグリタゾンの併用でも見られています。

そして、インスリン群ではGLP-1アナログ併用群と比較して、
体重増加が有意に大きく、
低血糖の頻度は2.5倍も高くなっていました。

要するに2型糖尿病で通常治療でコントロール不良の場合、
これまではインスリン導入以外に方法はないと考えられていましたが、
GLP-1アナログとピオグリタゾンの併用でも遜色ない効果があり、
副作用や有害事象が少ないという点では、
むしろ勝っているという結果になったのです。

これが事実であればかなり画期的な結果と言えると思います。

ただし…

試験のデザインはそれほど厳密なものではなく、
その効果も従来のデータと比較すると、
ちょっと出来過ぎのようにも思われます。

僕も少数例ですが、
GLP-1アナログとピオグリタゾンの併用を経験していて、
印象としては今回示されたような効果は、
ないというのが実感です。

ただ、興味深いデータであることは間違いなく、
特に高齢者で血糖コントロールが不良の場合には、
インスリンやSU剤は推奨されない流れですから、
この組み合わせしかない、というようにも思われます。

今後のより詳細かつ厳密なデザインによる追試を、
是非期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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甲状腺の自己免疫と乳頭癌の予後との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺癌の自己免疫と予後.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab.誌に掲載された、
甲状腺の自己免疫と癌の予後との関連についての論文です。

甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の大多数を占める癌種で、
その予後は周辺のリンパ節に転移することは多いのですが、
生命予後は非常に良く、
10年生存率は90%を超えています。

しかし、その一方で頻度的には非常に少ないのですが、
遠隔転移を起こすなどして予後不良の癌も混ざっています。

常に問題となるのは、
どのような性質の乳頭癌が、
遠隔転移をするなどして予後不良なのか、
ということです。

もし何等かのマーカーや所見などで、
悪性度の高い乳頭癌をそうでない癌と見分けることが出来れば、
悪性度の高い癌のみに積極的な治療をして、
それ以外の癌については最小限度の治療や経過観察でも、
大きな問題はない、ということになるからです。

しかし、現時点でそうしたマーカーや所見は、
見つかっていません。

甲状腺乳頭癌の30%近くでは、
慢性甲状腺(橋本病)という自己免疫の甲状腺炎を、
合併していることが知られています。
そして、橋本病を合併している甲状腺乳頭癌は、
そうでない場合より予後が良好である、
というような知見も報告されています。
橋本病は甲状腺のサイログロブリンやペルオキシダーゼに対する自己抗体が、
その主因であると考えられていますが、
甲状腺乳頭癌では、
橋本病を合併していなくても、
腫瘍組織に対する自己抗体によるリンパ球の浸潤が、
しばしば認められることも報告されています。
この自己免疫による甲状腺の炎症は、
それ自体が身体の癌に対する防御反応である、
という推測が可能です。

同様の事例はメラノーマ(悪性黒色腫)にあります。
メラノーマは白斑という皮膚の一部が白く抜ける、
皮膚の自己免疫疾患をしばしば合併していて、
合併している患者さんは、
合併していない患者さんと比較して、
その予後が良いことが分かっています。
つまり、この場合の自己免疫の炎症は、
癌細胞を攻撃していて身体を守るような働きをしていると、
想定されているのです。

それでは、甲状腺乳頭癌の場合はどうなのでしょうか?

今回の研究では、
150名の甲状腺乳頭癌の患者さんと、
40名の橋本病の患者さん、そして21名の病気のないコントロール群とで、
自己免疫の状態を反映している遺伝子のHLA(組織適合抗原)の分析と、
特定の抗原に対するリンパ球の活性化などを比較検証しています。

その結果…

橋本病に見られる、
甲状腺のサイログロブリンやペルオキシダーゼに対する、
特異的なリンパ球の発現は、
コントロールより甲状腺乳頭癌の組織で高く、
そのレベルは橋本病の患者さんと同等でした。

HLAの分析を行うと、
HLA‐DQB1*03が陽性の乳頭癌の患者さんは、
陰性の患者さんより遠隔転移のリスクが低く、
HLA-DRB1*03とHLA-DQB1*02が陽性の患者さんは、
陰性の患者さんより遠隔転移のリスクが高くなっていました。

HLA-DQB1*03が陽性の乳頭癌の患者さんでは、
腫瘍細胞に特異的なリンパ球が発現していて、
そのリンパ球は局所のリンパ節転移の組織にも認められました。

要するにHLA-DQB1*03が陽性の乳頭癌の患者さんでは、
自己免疫の炎症が癌細胞を対象として起こっていて、
それが癌の遠隔転移を抑制して、
癌の良好な予後に結び付いているのではないか、
という推定が可能となったのです。

まだこの知見がどの程度一般化出来るものかは分かりませんが、
自己免疫の炎症が癌の抑制作用を持っているという結果は興味深く、
今後のより広範囲の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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甲状腺機能亢進症の生命予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺機能亢進症の死亡リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab.誌に掲載された、
甲状腺機能亢進症の生命予後についての論文です。

甲状腺機能が亢進していても低下していても、
いずれも健康に少なからずの影響を与えることは間違いがありません。

ただ、その影響の大きさについては、
研究データによってもかなりの差があり一定はしていません。

甲状腺機能亢進症については、
甲状腺ホルモンは正常で甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけが低下している、
所謂潜在性甲状腺機能亢進症においても、
心血管疾患のリスクや死亡リスクを増加させる、
という報告が認められます。

しかし、一方で潜在性機能亢進症ではそうして影響はない、
という報告もあります。
また、甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病)を治療した場合と、
治療をしない場合とで、
その予後に差があるのかどうかについても、
あまりはっきりしたデータはありません。

今回の研究はデンマークの医療データを活用したもので、
一度以上TSHの測定を行っている235547名の医療情報を、
中央値で7.3年間観察し、
甲状腺機能と死亡リスクとの関連を、
治療の有無を分けて検証しているものです。

TSHの正常値は0.3から4.0mIU/Lに設定されていて、
TSHが0.3未満で甲状腺ホルモンは正常である場合が、
潜在性甲状腺機能亢進症、
甲状腺ホルモンも上昇している場合が、
顕在性甲状腺機能亢進症です。

235547名のうち2793名がTSH0.3未満で、
甲状腺機能亢進症の可能性があり、
そのうちの59.3%に当たる1656名は、
機能亢進症の治療を受けています。
分類可能な事例としては、
1909名が顕在性甲状腺機能亢進症で、
498名が潜在性甲状腺機能亢進症でした。
残りの事例はTSHのみしか測定されていないので、
分類は不能となっています。

さて、合併する病気や年齢性別などを補正した結果として、
未治療の甲状腺機能亢進症の患者さんは、
甲状腺機能が正常なコントロールと比較して、
観察期間中の死亡リスクが1.24倍(95%CI;1.12から1.37)
有意に増加していました。
(これは本文では1.24倍となっていますが、
アブストラクトでは1.23倍と誤植になっています。
このレベルの雑誌だとそんな感じですね)

しかし、治療されている甲状腺機能亢進症の患者さんについては、
その死亡リスクはコントロールと差がありませんでした。
この甲状腺機能亢進症の死亡リスクの増加は、
TSHの値が低い期間と相関を示していて、
TSHが正常下限より抑制された状態が半年間ある毎に、
未治療の甲状腺機能亢進症では1.11倍(95%CI;1.09から1.13)、
治療中の機能亢進症でも1.13倍(95%CI;1.11から1.15)、
死亡リスクがそれぞれ有意に増加していました。

要するに治療と未治療には関わらず、
甲状腺機能が亢進していると、
それが死亡リスクの増加に繋がる、
と言う結果です。
従って、方法はどうあれ、
TSHが0.3未満となる期間を、
なるべく短くすることが生命予後の改善のためには必要だ、
ということになります。

ただ、そうは言ってもこのリスクの増加は、
トータルに考えると非常に軽微なもので、
おそらくは心疾患があったり、
骨量が減少していたり、
患者さんの背景が大きく影響しているのでは、
と個人的には思います。

要するに、全ての人で甲状腺機能の軽度が異常が、
生命予後に関わるような影響を与えるとは考えにくく、
今後はどのような状態の患者さんが、
その影響を大きく受けるのか、
その検証が最も必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

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