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プッチーニ「トスカ」(パレルモ・マッシモ劇場2017上演版) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
何もなければ1日のんびり過ごすつもりです。

休みの日は趣味の話題です。
今日は3本あります。

まずははこちら。
トスカ.jpg
パレルモ・マッシモ劇場の2つ目の演目は「トスカ」で、
タイトルロールには、
10年くらい前までは間違いなく世界で最も人気のあるソプラノの1人、
アンジェラ・ゲオルギュー姐さんが登場しました。

まだ50代前半の筈なのに、
と美人薄命という言葉が脳裏に浮かびますが、
その押し出しの良さというか、
圧倒的なプリマドンナ感のようなものは矢張り素晴らしくて、
歌自体は正直首を傾げる感じで、
こんな「トスカ」はないなあ、
とかなりガッカリもしたのですが、
アンコールで堂々と登場して、
「皆の者、わらわを見てさぞ満足であろう」
というような感じで何度も聴衆の歓声に応える姿は、
これぞプリマドンナでなくて何であろう、
という感じで、
それだけでまたお逢いしたいな、
という思いがしたのです。

「トスカ」も非常に人気のあるプリマドンナオペラですが、
「椿姫」と比べると歌う人は少なく、
僕が本格的にオペラを聴き始めた1990年代後半には、
マリア・グレギーナが一手に引き受けていた、
という感じでした。
彼女は確かに押し出しが堂々としていて、
最初に聴いたのが1997年のメトロポリタン・オペラの来日で、
パヴァロッティとの共演でしたが、
二重唱ではパヴァロッティの声は、
完全にかき消されていました。
新国立劇場ではレパートリーとしてほぼ毎年、
同じ演出での上演を続けていますが、
ノルマ・フォンティーニはなかなかでしたが、
後のトスカ歌いはあまり印象には残っていません。
後生で聴く機会は逃してしまったのですが、
ダニエラ・デッシーのトスカは、
そのビジュアルはともかくとして、
あの高音の細く長く持続する、
胸をかきむしられるような感じ、
ちょっとした掛け合いでも、
旋律が糸のように持続する感じなどが、
これぞプッチーニヒロインという思いがありました。
ああした歌い方の出来る現役バリバリのソプラノは、
今はあまりいないと思います。

今回はゲオルギュ―のトスカに、
もうベテランのマルチェロ・ジョルダーノのカラヴァドッシですから、
なかなかのキャストだったのですが、
ゲオルギュ―姐さんが、
ただの演劇みたいな持続のない歌唱で、
全編を通していたので、
とても元気がなくなってしまいました。

1幕と3幕の二重唱は、
通常ならうっとりと聴き入るところなのですが、
殆どのゲオルギュ―姐さんの歌は、
芝居の台詞にはなっていても、
歌にはなっていないので、
とても聴き入るという感じにはなりません。

これはもう本当にガッカリしてしまいました。
眼目の「歌に生き、恋に生き」のアリアにしても、
旋律がブツ切れで感動するという感じにはなりません。

僕は前方で聴いたのですが、
オーチャードホールはオケピットが簡易的なもので、
オケの音だけがバンバン前方に来るので、
歌声の多くがかき消されてしまった、
というバランスの悪さにも一因はあったように思いました。

ただ、ゲオルギュ―姐さんの歌ではなく芝居に関しては、
なかなか見応えがあって、
その堂々たる押し出しと説得力のあるプリマドンナ芝居は、
矢張り余人には代えがたいものも同時に感じたのです。

ゲオルギュ―姐さんのオペラは、
前からこうした感じのことが多く、
リサイタルではもう少し歌えているので、
どうしたものかなあ、とは思うのですが、
姐さんの舞台は、
歌を聴くのではなく、
その存在感を感じることが、
正しい鑑賞法ではないかとも感じました。

また来日されたら、
ついつい行ってしまうようには思います。

それでは次は演劇の話題です。

2型糖尿病に対するSGLT2阻害剤カナグリフロジンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カナグリフロジンの効果と安全性.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
SGLT2阻害剤のカナグリフロジンの臨床試験結果をまとめた論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
SGLT2阻害剤の3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下しています。
実際に使用されているのは、
SGLT2阻害剤の1つである、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)です。

SGLT2阻害薬のもう1つの特徴は、
血圧の低下作用のあることです。

この薬は一種の利尿剤のようなものですから、
血圧が降下することはある意味当然ですが、
2型糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧を合併していますから、
血糖と共に血圧を降下させる作用のあるSGLT2阻害剤は、
一石二鳥という面があります。

ただ、その一方でSGLT2阻害剤はグルカゴンを上昇させ、
LDLコレステロールを増加させる可能性があり、
骨折リスクを増加させる可能性や、
泌尿器系や婦人科系の感染症を増加させるなど、
その安全性に危惧がないという訳ではありません。

また、先日取り上げたように、
最近SGLT2阻害剤の有害事象として、
糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加も注目されています。

処方する医師の立場からすると、
現在日本においても、
複数の種類のSGLT2阻害剤が販売されていて、
薬剤の選択において、
その有効性や有害事象の頻度に、
差があるのかどうか、
という点が一番気になるところです。

今回の臨床データは、
そのうちのカナグリフロジン(商品名カナグル)を、
心血管疾患のリスクの高い2型糖尿病の患者さんに使用した、
2つの臨床試験の結果をまとめて解析したものです。

対象者は30歳以上で心血管疾患の既往があるか、
年齢が50歳以上で、
糖尿病罹患歴10年以上、高血圧、喫煙、HDLコレステロール低値など、
心血管疾患のリスクのうち、
2つ以上に該当する、
HbA1cが7.0以上10.5%以下の患者さんです。

その患者さんを、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで、
カナグリフロジンをそれまでの治療に上乗せして使用する場合と、
偽薬を使用する場合とに分け、
平均で188.2週という長期の経過観察を行っています。
2つの臨床試験で群分けには差があり、
一方は偽薬とカナグリフロジン群の2つですが、
もう一方の試験ではカナグリフロジンの用量が2つの分けられています。

メインとなる比較基準は、
心血管疾患の発症と生命予後です。

トータルな対象者は10142名で、
そのうち5795名はカナグリフロジン使用群で、
4347名は偽薬の使用群です。
平均年齢は63.3歳で、
男女比は男性が多く、
女性は35.8%になっています。

その結果…

カナグリフロジンの使用により、
偽薬と比較してHbA1cは0.58%低下し、
体重も1.6キロ、収縮期血圧も3.93mmHg低下しました。

そして、心血管疾患による死亡と、
急性心筋梗塞と脳卒中とを併せたリスクは、
14%(95%CI; 0.75から0.97)有意に低下しました。
実際の頻度は、
偽薬群が年間1000人当たり31.5件であったのに対して、
カナグリフロジン群は26.9件でした。

ただ、個別の心血管疾患による死亡リスク、
非致死性の心筋梗塞発症リスク、
非致死性の脳卒中発症リスクについては、
単独では有意な差は付いていません。

腎機能については、
微小アルブミン尿の進行を、
27%(95%CI; 0.67から0.79)、
糸球体濾過量の40%を超える低下と、
透析導入、そして腎不全による死亡を併せたリスクを、
40%(95%CI; 0.47から0.77)、
それぞれ有意に抑制していました。

有害事象については、
脱水や尿路、外陰部の感染症など、
想定可能なものが殆どでしたが、
1つだけ糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクが、
偽薬では年間1000人当たり3.4件に対して、
カナグリフロジン群で6.3件と、
有意な増加を示していました。

トータルに見て、
先行するエンパグリフロジンには見劣りがするのですが、
カナグリフロジンも基本的には同じように、
心血管疾患のリスクは下げ、
生命予後にも良い影響を与える可能性があることは、
ほぼ間違いがないと言えそうです。

ただ、その一方で感染症や脱水が多いことも事実で、
これは断定的には言えませんが、
血管の動脈硬化性変化が強いような人では、
脱水や感染をきっかけとして、
下肢の壊疽が進行したという可能性は否定が出来ません。

このように、
これまで2型糖尿病の治療薬で、
明確に心血管疾患の予後を改善する薬剤は、
あまり存在していなかったので、
SGLT2阻害剤はその意味で大きな意義のある薬なのですが、
その一方で多くの有害事象のある薬でもあり、
今後そのリスクの分析と、
どのような患者さんでメリットが大きいのか、
といった検証が是非必要であるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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高尿酸血症と健康との関連について(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
尿酸値のメタ解析.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
高尿酸血症の健康への影響を、
これまでのデータを集積して解析した論文です。

血液の尿酸値が高いことで、
身体にとってどのような問題があるでしょうか?

一番最初に思い付くのは所謂「痛風」の関節炎です。

尿酸が高い人がたとえばお酒を飲むと、
その翌日に足の指の付け根が真っ赤に腫れて、
歩けないような酷い痛みが襲います。

これが痛風の発作です。

この痛風発作は、
必ずしも尿酸が高いことのみを、
原因として起こる訳ではありませんが、
血液の尿酸値が6.0mg/dl 以下では起こり難いことは間違いがなく、
従って痛風の関節炎を起こして、
その時の尿酸値が7.0mg/dl を超えており、
その尿酸値がお酒を控える、体重を減らす、
などの生活習慣の改善によっても低下しない時には、
尿酸値を下げる薬を、
飲むことが推奨されます。

これは世界的にもほぼ共通の認識です。

問題は痛風発作がなく、
それでいて血液の尿酸値が高い時です。

この場合、アメリカやヨーロッパでは、
基本的には尿酸値を下げる薬は推奨されません。
その一方で日本においては、
血液中の尿酸値が9.0mg/dl を超えていれば他に何も病気がなくても、
8.0mg/dl を超えていて腎障害や糖尿病があればその時点で、
いずれも薬物治療の適応となります。

何故このような違いがあるのでしょうか?

ガイドラインを隅々まで読んでも、
どうもその点にはすっきりした説明がありません。

腎機能や高血圧の状態と、
血液の尿酸値に関連性がある、
というデータが複数存在し、
それが1つの論拠となっています。

つまり、尿酸が高いことにより、
腎機能が悪くなったり、
血圧が上昇したりしているのではないか、
というのです。

しかし、それを証明するのには、
尿酸を薬で下げることにより、
それだけで高血圧が発症し難くなったり、
腎機能が悪化し難くなったりすることを、
示さなければなりませんが、
クリアに人間でそうした治療効果を証明したデータは、
「若干の傾向…」程度のものがあるだけで、
実際には存在しないのです。

このことが、
海外では尿酸を下げる薬の使用が、
痛風の患者さん以外では推奨されていない理由です。

ただ、最近になり海外においても、
高血圧や心血管疾患、糖尿病、心不全、慢性腎臓病などの慢性病において、
尿酸が高いことが病気の発症に結び付いているのではないか、
ということを示唆する報告が、
多く寄せられるようになりました。

しかし、尿酸値の高いこと自体が、
血圧を上昇させたり、腎臓の血流に結び付いたりするような、
原因となっているのかどうか、
と言う点については色々な見解があって、
一定の結論に至っていません。

今回の研究はこれまでの臨床試験の結果や、
最近流行りの遺伝子変異を利用した解析などの結果を、
多数収集してまとめて解析する方法で、
現時点でのこの問題の総括を目指したものです。

その結果…

高尿酸血症が原因であることはほぼ確実で、
尿酸降下剤によりその治療効果のあることも明確であるのは、
現時点では痛風関節炎と尿酸結石のみで、
心不全、高血圧、耐糖能異常と糖尿病、慢性腎障害、虚血性心疾患は、
確かに尿酸値が高いほどそのリスクが増加する、
という意味での関連はあるのですが、
それが独立した原因であることを示す根拠は弱く、
尿酸降下剤による治療効果も明らかではない、
という結論が得られました。

今後の知見の積み重ねによって、
状況はまた変わって来る可能性はあるのですが、
日本の臨床でしばしば見られるように、
尿酸値が異常値なので何となく気分が悪いから薬を出す、
というのはあまり科学的な判断ではなく、
痛風関節炎と尿管結石以外は、
治療の有効性の根拠は乏しいという理解に立って、
個々の判断を行う必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

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脳へのアミロイドの蓄積と将来の認知症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アミロイドの集積と認知症.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
認知症機能が正常で脳へのアミロイド沈着が認められた人の、
認知症への進展の有無を検証した論文です。

アルツハイマー型認知症においては、
認知機能が多角的に低下し、
日常生活に少なからずの影響が出て初めて、
そうと診断されます。
その前段階として軽度認知障害(MCI)があり、
これは認知機能のうちの一部が軽度に低下しているものの、
日常生活には支障のない軽度の状態があるとされています。

アルツハイマー型認知症においては、
脳細胞にβアミロイドという異常タンパクが蓄積していて、
それが病気の原因であるかどうかは、
まだ議論のあるところですが、
その診断において有用な指標であることは間違いありません。

アミロイドPETと言って、
放射能を使用してアミロイドの異常な沈着を、
検出する検査や、
髄液のβアミロイドの測定で、
このアミロイドの沈着は診断することが可能です。

通常軽度認知障害(MCI)の段階で、
既にアミロイドの沈着は生じています。

それではそれより前の時点、
認知機能は全く正常な段階ではどうでしょうか?

認知機能が全く正常であっても、
65歳から70歳の年齢のおよそ3分の1の人では、
既にβアミロイドの脳への沈着は始まっている、
ということを示すデータがあります。

それでは、
認知機能が正常でβアミロイドの沈着が始まっている人は、
将来的にどの程度が進行し、
認知機能の低下を来すのでしょうか?

この点については、
これまでにあまり明確なことが分かっていませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカとカナダにおいて、
認知機能が正常な445名の平均年齢74歳の高齢者を登録し、
その時点でアミロイドPETと髄液検査で、
βアミロイドの異常な沈着のある202名と、
沈着のない243名を比較して、
中央値で3.1年の経過観察を行い、
認知機能の低下とアミロイドの沈着との関連を検証しています。

その結果…

MMSEなど複数の認知機能の指標において、
登録時点でアミロイドの沈着のない事例と比較して、
沈着のある事例では、
認知機能の有意な低下が認められました。
ただその差はMMSEでは平均で0.56点と軽微で、
本当にそうした事例の多くが、
認知症へと進行するものかどうかは、
まだ確実とは言えないと考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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妊娠中のリチウム使用の心奇形リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リチウムの使用と心奇形リスク.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
リチウムという気分安定薬の、
妊娠中の有害事象のリスクについての論文です。

リチウム製剤は、
古くから双極性障碍(昔は躁鬱病)の治療薬として、
その作用のメカニズムが明確ではないながらも、
経験的にその有効性が確認され、
広く使用されている薬剤です。

躁病にも鬱病にも効果がある、
という特徴があり、
最近では自殺のリスクを低下させる、
というデータが報告されて注目を集めました。
これは過去に記事にしています。

ただ、リチウムは副作用や有害事象の多い薬でもあります。
その治療域が狭く、
定期的に血液濃度を測定しながら、
その使用を行なわないといけない、
という煩わしさがあります。
リチウムはまた甲状腺機能や副甲状腺機能、
腎機能にも影響を与えると指摘されています。

また、リチウム製剤の有害事象として、
それ以外に知られているのが、
妊娠中の女性が服用した場合の、
お子さんの先天性の心奇形のリスク増加です。

これは1970年代の前半から、
リチウム製剤の妊娠初期の使用により、
特にエプスタイン奇形と呼ばれる心臓の先天性の異常が、
増加するという報告が相次ぎ、
1979年までに225例のリチウム製剤を妊娠中に使用した事例が蓄積されました。
その中で8%に当たる18例に先天性心疾患が認められ、
そこには3%に当たる6例のエプスタイン奇形が含まれていました。

このため緊急時以外のリチウム製剤の使用は、
妊娠中は禁忌という扱いにアメリカではなっていて、
日本の添付文書では、
特に補足なく妊娠中は禁忌となっています。

しかし、実際には双極性障害の患者さんにおいて、
たとえ妊娠中であってもリチウム製剤を使用した方が、
病状は安定して妊娠の転帰にも、
トータルに考えてメリットの方が大きい、
という見解も根強くあり、
実際にアメリカでは少なからずのそうした患者さんに、
妊娠中も使用が継続をされているようです。

そもそも元になった心奇形のデータは、
症例報告を集積したようなものなので、
実際の頻度とは異なっている可能性もあるのです。

そこで今回の研究では、
アメリカの健康保険の医療データより、
1325563名という膨大な妊娠女性の予後を分析し、
その妊娠初期におけるリチウム製剤の使用と、
心奇形との関連、および、
リチウム製剤の代替薬であるラモトリジン(商品名ラミクタール)
との比較も行っています。

その結果…

先天性の心奇形は、
リチウム製剤使用群の2.41%(663例中の16例)に発症したのに対して、
リチウム未使用群では1.15%(1322955例中の15251例)に発症していて、
ラモトリジン使用群では1.39%(1945例中の27例)に発症していました。
リチウム製剤未使用と比較した場合の、
使用による心奇形のリスクは、
1.65倍(95%CI;1.02から2.68)と有意に増加していました。

リチウムの使用により、
心奇形のリスクが増加すること自体は間違いがありませんが、
以前の8%という報告ほど多い訳ではありません。

リチウム製剤の使用量毎に見ると、
1日600mg以下ではリスクは1.11倍(95%CI;0.46から2.64)、
1日601㎎から900㎎ではリスクは1.60倍(95%CI; 0.67から3.80)、
901㎎以上では3.22倍(95%CI;1.47から7.02)となっていて、
リチウム製剤の量が増加するほど、
お子さんの心奇形のリスクも高まることが確認され、
明確に有意なリスク増加を示しているのは、
901㎎以上の高用量の場合でした。

エプスタイン奇形のリスクのみに限ると、
リチウム製剤使用群の0.60%に発症していたのに対して、
未使用群では0.18%に発症していて、
関連する因子を補正した結果として、
リチウム製剤によるエプスタイン奇形の発症リスクは、
未使用と比較して2.66倍(95%CI;1.00から7.06)、
有意に増加していました。

つまり、
リチウム製剤の妊娠初期の使用により、
確かに胎児の心奇形は増加しますが、
それはこれまで言われていたほどの頻度ではなく、
そのリスクはリチウムの使用量に大きく依存をしています。

従って、
妊娠初期のリチウム製剤の使用を、
可能であれば避けることは適切な判断ですが、
双極性障害の病状が不安定でリチウム製剤が有効なケースでは、
そのリスクと利点とを天秤に掛けた、
より慎重な判断が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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カルシウムをサプリメントとして摂取するリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルシウムサプリメントとそのリスクレビュー.jpg
今年のJ Clin Hypertens.誌のレビューですが、
カルシウムをサプリメントとして摂取することと、
心血管疾患のリスクとの関連を解説したものです。

この話題はこれまでにも何度も取り上げました。

カルシウムやビタミンDをサプリメントとして摂ることは、
世界中で広く行われていて、
その理由は骨粗鬆症や骨折の予防と、
高血圧症の予防が2つの柱です。

日本の場合には必要なミネラル成分のうち、
カルシウムだけが必要量の1日600ミリグラムを下回っているとして、
国レベルで積極的な摂取の推奨が行われています。

ただ、最近になり特にサプリメントとしてカルシウムを摂ることが、
心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを高め、
生命予後にも悪影響を与えるのではないか、
という疑念が多く寄せられるようになりました。

以前何度かご紹介したことがあるのは、
2013年のBritish Medical Journal誌に掲載されたスウェーデンの疫学データで、
6万人以上の中高年の女性の統計として、
1日のカルシウムの摂取量が1400㎎以上のグループは、
少ないグループと比較して、
心筋梗塞などの心臓病のリスクが2倍以上増加していました。

同様の報告は他にもあります。

こちらをご覧ください。
カルシウムサプリメントと心血管疾患.jpg
これは同じ2013年のJAMA Intern Med.誌に掲載されたものですが、
アメリカで39万人弱の、
50歳から71歳の男女を平均で12年間観察した結果として、
男性で1日1000mgを超えるカルシウムを摂取している男性では、
サプリメントを摂取していない男性と比較して、
心血管疾患のリスクが1.20倍(95%CI;1.05から1.36)、
心臓病による死亡のリスクが1.19倍(95%CI;1.03から1.37)、
とそれぞれ有意に増加していました。
心血管疾患による死亡には有意な増加はなく、
女性での同様の検討では有意なリスクの増加は認めませんでした。
更に食事からのカルシウムの摂取量が多くても、
このような心血管疾患リスクの増加は認められませんでした。

この報告ではBritish Medical Journalのものとは異なり、
女性ではなく男性でリスクが増加している、
という結果になっています。

より直近の2016年にも次のような論文が発表されています。
カルシウムサプリメントと心血管リスク(2016).jpg
これは2016年のAm J Clin Nutr誌に掲載された論文ですが、
アメリカの癌予防の疫学データを元にした解析です。
13万人余りの男女を平均で17.5年という長期に渡り観察した結果、
1日1000mg以上のカルシウムをサプリメントで摂取している男性は、
サプリメントを使用していない男性と比較して、
総死亡のリスクが1.17倍(95%CI; 1.03から1.33)有意に増加していました。
しかし、女性では総死亡のリスクはサプリメント群で有意に低下していました。
食事由来のカルシウムの摂取量と、
総死亡のリスクとの間には関連は認められませんでした。

つまり、どうもサプリメントでカルシウムを、
1000mgを超えて摂取することは、
心臓病のリスクの増加に、
結び付く可能性が高そうです。
その影響はどうやら男性に強そうなのですが、
スウェーデンの検証では女性にも認められています。

しかし、明確な差とまでは言えない上に、
そのメカニズムも明確ではありません。

最近注目すべき研究としては、
冠動脈へのカルシウムの沈着と、
サプリメントとの関連を見た次のような論文があります。
カルシウムサプリメントと冠動脈石灰化.jpg
これは2016年のJ Am Heart Assoc.誌に掲載されたものですが、
5448名を10年間観察した、
動脈硬化に関しての疫学データの解析で、
動脈硬化の指標として、
心臓CTによる冠動脈の石灰化を利用しています。

カルシウムの摂取量をトータルで見ると、
多いほど10年後の冠動脈の石灰化病変の出現は低いのですが、
カルシウム量を補正した上でサプリメントの使用の有無で解析すると、
サプリメントの使用により新規の石灰化病変出現のリスクは、
1.22倍(95%CI;1.07から1.39)有意に増加していました。
このリスクの増加は、
元のカルシウムの摂取量が不足していると、
より大きなものになっていました。

つまり、どうやらサプリメントのカルシウムと、
食品からのカルシウムの摂取とは別個に考えるべきで、
食事からのカルシウムは多いほど健康に良いですが、
サプリメントのカルシウムは、
逆に心血管疾患のリスクを増加させる可能性があるのでは、
ということを示唆する結果です。

何故このような現象が起こるのか、
そのメカニズムは現時点では不明なので、
この結果を鵜呑みにするのは時期尚早と思いますが、
カルシウムのサプリメントの使用については、
今後より慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


SGLT2阻害剤による糖尿病性ケトアシドーシス発症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SGLT2阻害剤によるケトアシドーシス.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌のレターですが、
糖尿病の新薬の有害事象についての報告です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目を集めている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害する薬で、
要するにブドウ糖の尿からの排泄を増加させる薬です。

この薬を使用すると、
通常より大量の尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排泄されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり、
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く別個のメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療ではないように、
直観的には思います。

しかし、最近この薬の使用により、
心血管疾患の発症リスクや総死亡のリスクが有意に低下した、
というデータが発表されて注目を集めました。

こうした効果が認められている糖尿病の治療薬は、
実際には殆ど存在していなかったからです。
2015年のNew England…誌に掲載されたその論文によると、
SGLT2阻害剤の3年間の使用により、
総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下しています。
実際に使用されているのは、
SGLT2阻害剤の1つである、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)です。

SGLT2阻害薬のもう1つの特徴は、
血圧の低下作用のあることです。

この薬は一種の利尿剤のようなものですから、
血圧が降下することはある意味当然ですが、
2型糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧を合併していますから、
血糖と共に血圧を降下させる作用のあるSGLT2阻害剤は、
一石二鳥という面があります。

ただ、その一方でSGLT2阻害剤はグルカゴンを上昇させ、
LDLコレステロールを増加させる可能性があり、
骨折リスクを増加させる可能性や、
泌尿器系や婦人科系の感染症を増加させるなど、
その安全性に危惧がないという訳ではありません。

また、最近SGLT2阻害剤の有害事象として、
注目されているのが糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加です。

糖尿病性ケトアシドーシスというのは、
コントロールの悪い糖尿病や、
インスリンが高度に不足した状態において、
インスリン不足でブドウ糖が細胞で利用出来ないために、
脂肪酸から肝臓で大量のケトン体が動員され、
ケトン体の血液中の増加によって、
血液が高度に酸性となって、
意識障害などが起こって、
放置すれば死に至る、という現象です。

このケトアシドーシスが、
そのメカニズムは不明ですがSGLT2阻害剤で多い、
という報告があり、
2015年にアメリカのFDAは警告を出しています。

ただ、実際にどの程度SGLT2阻害剤によるケトアシドーシスは多いのか、
といった具体的な点はまだ明らかではありません。

そこで今回の検討では、
アメリカで2013年から2014年において、
18歳以上の糖尿病の患者さんで、
新規にSGLT2阻害剤を開始された事例を、
同じく新規にDPP4阻害剤が開始された事例と比較して、
その使用後180日以内の糖尿病性ケトアシドーシスの発症頻度を、
検証しています。

それぞれの薬剤の使用者を、
38045人ずつ他の条件をマッチングさせた上で比較すると、
DPP4阻害剤の新規使用者と比較して、
SGLT2阻害剤の新規使用者は、
180日以内の糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、
2.2倍(95%CI;1.4から3.6)有意に増加していました。

その頻度は患者さん1000人当たり年間で、
DPP4阻害剤使用者が2.2件であったのに対して、
SGLT2阻害剤使用者では4.9件となっていました。
これをインスリン未使用の患者さんのみで解析すると、
DPP4阻害剤使用者が1.0件に対して、
SGLT2阻害剤使用者が2.5件で、
頻度自体は少ないものの、
そのリスクは2.5倍(95%CI;1.1から5.5)とより高くなっていました。

ただ、ケトアシドーシスの事例の多くは軽症で、
入院が必要となる事例は極少数でした、

今回の検証では矢張り糖尿病性ケトアシドーシスのリスクは、
DPP4阻害剤よりSGLT2阻害剤で高いという結果になっていて、
その頻度は決して高くはないものの、
服用の際には注意が必要であることは間違いがないと思います。

おそらく糖尿病治療は相次ぐ新薬の発売により、
以前であればインスリンを導入されているようなケースでも、
内服で様子をみるようなことが多くなっていると思います。
インスリン使用者においても、
こうした薬を使用することにより、
インスリンの減量を図るような試みが、
多くなっているように思います。

ただ、特にSGLT2阻害剤は、
メカニズム上インスリン分泌を促進するような作用はないので、
インスリンの欠乏が高度な事例や、
体質的にケトアシドーシスを起こしやすい事例
(以前ご紹介したように、
遺伝的な素因が関与しているという報告があります)
では、ケトアシドーシスのリスクが、
一定レベル上昇することを念頭において、
慎重な対応が必要となるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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インクレチン関連薬の使用と生命予後について(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インクレチン関連薬と死亡リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
今広く使用されている糖尿病の治療薬の、
寿命に与える影響を解析した論文です。

インクレチン関連薬は、
従来のSU剤などとは別個のメカニズムで、
インスリン分泌を刺激する薬で、
一種の消化管ホルモンを薬にしたものです。

インスリン分泌を促進すると共に、
インスリン抵抗性を改善する作用を併せ持ち、
SU剤で問題となる低血糖を、
起こしにくい点がその特徴です。

インクレチンそのものであるGLP-1アナログの注射薬と、
インクレチンの分解酵素の阻害剤であるDPP-4阻害剤の、
2種類のタイプの薬剤が使用されています。

マイルドな作用のDPP-4阻害剤は飲み薬で、
シタグリプチン(商品名ジャヌビア、グラクティブ)、
ビルダグリプチン(商品名エクア)、
アログリプチン(商品名ネシーナ)、
リナグリプチン(商品名トラゼンタ)、
テネリグリプチン(商品名テネリア)、
アナグリプチン(商品名スイニー)、
サキサグリプチン(商品名オングリザ)などがあり、
より強力なGLP-1アナログには、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)、
エキセナチド(商品名バイエッタ)、
デュラグルチド(商品名トリルシティ)、
などがあります。

これまでの血糖降下剤の主な副作用は、
低血糖と体重増加ですが、
インクレチン関連薬は他のインスリン分泌促進剤と比較して、
低血糖を起こしにくく、
体重も増加しにくい
(GLP-1アナログは減少させる)、
という利点を持っています。

ただ、SAVOR-TIMI53と呼ばれる、
DPP-4阻害剤の大規模臨床試験では、
サキサグリプチンの使用群で、
心不全による入院のリスクが有意に高く、
総死亡のリスクも有意ではないものの高い傾向を示しました。

その後のインクレチン関連の臨床試験やメタ解析では、
インクレチン関連薬による死亡リスクの増加や、
心血管疾患のリスク増加はほぼ否定をされていて、
心血管疾患のリスクを低下させた、
という報告もあるのですが、
まだこの問題は完全には終息していません。

今回の検証は2016年の最新のデータまでを取り込んで、
これまでのインクレチン関連薬を使用した、
189の精度の高い臨床試験に参加した、
トータル155145名のデータをまとめて解析しています。

その結果、
インクレチン関連薬の使用により、
総死亡のリスクの有意な増加は認められませんでした。
GLP-1アナログに関しては、
死亡リスクの低下が示唆されましたが、
明確なものまでは言えませんでした。

つまり、
インクレチン関連薬の全てにおいて、
生命予後に悪影響が生じるという根拠はなく、
GLP-1アナログ単独では、
そのリスクの低下に結び付く可能性もある、
という結果になっています。

この問題はほぼこの方向でまとまりそうですが、
DPP-4阻害剤とGLP-1アナログを、
同列の薬として考えるべきか、
それとも別個の薬剤として考えるべきかについては、
今後に課題を残しているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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一般臨床における2型糖尿病に対する血糖自己測定の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
血糖自己測定の効果.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
安定した2型糖尿病の診療における、
患者さんの血糖自己測定の意義についての論文です。

結論は、
意外に思われるか方が多いかも知れませんが、
あまり意義はない、というものです。

患者さんが自宅で指や耳朶などに針を刺し、
その場で数字が出る簡易型の血糖測定器は、
一般に広く使用されています。

健康保険での適応は、
インスリンの自己注射をしている患者さんに限られていますが、
毎日の血糖が心配だからと、
自費で測定器を購入される患者さんも少なくありませんし、
医者には行かないけれど、
血糖自体は心配なので、
自宅で測定だけはしている、
というような人もいます。

血糖の自己管理に熱心な糖尿病の患者さんからは、
何故インスリンを使用していないと、
血糖の自己測定が保険で認められないのか、
それはおかしいのではないか、
というような意見を聞くことがよくあります。

ただ、それは決して理由がないことではありません。

インスリンを使用中の患者さん、
特にインスリンが身体からは殆ど出ていない、
1型糖尿病の患者さんでは、
血糖は変動し低血糖のリスクも高いので、
血糖を自己測定してインスリン量を調節することにより、
より安定したコントロールが期待出来ますし、
重症な低血糖を予防することが可能になります。

一方で飲み薬を主体で治療をされている、
2型糖尿病の患者さんでは、
重症の低血糖を繰り返すような方は少なく、
1型糖尿病に比較するとその必要性は低くなります。

それでも、自己測定を行った方が、
血糖値はより安定して良好となり、
患者さんの予後に良い影響を与えるのであれば、
その意義はあると考えられます。

ところが、
実際には血糖の自己測定の効果を検証したこれまでの臨床試験において、
安定した2型糖尿病の患者さんで、
明確な予後の改善やメリットは、
認められていないのです。

そのために、現状は健康保険では、
そうした行為は保険適応を除外されているのです。

それでも、
測らないより測った方が良いのではないか、
という患者さんの声は、
日本のみならず海外でも小さくはありません。

そこで今回の研究においては、
アメリカ、ノースカロライナの、
15か所のプライマリケアのクリニックにおいて、
30歳以上の2型糖尿病で、
HbA1cが6.5%から9.5%の、
インスリンは使用していない患者さん、
トータル450名を登録し、
くじ引きで3つの群に分けると、
第1群は血糖自己測定を行わず、
外来受診時の検査のみで治療を行ない、
第2群は毎日1回の自己測定を行って、
その結果は外来受診時にチェックして治療を行ない、
第3群は自己測定を行うともに、
それによるアドバイスを自動メッセージで受け取りながら、
治療を継続します。
自己測定をするかしないかは、
勿論患者さんには予め知らされています。

こうした治療を52週(ほぼ1年)に渡って継続し、
自己測定を施行した方が、
血糖コントロールが良好となったかどうかを検証するのです。

その結果…

開始後3か月、6か月、9か月の時点では、
血糖コントロールの指標であるHbA1cは、
自己測定群の方が低値となりましたが、
その差は開始後1年(52週)の時点では消失していました。
自動メッセージを伴う自己測定も、
伴わない自己測定も、
その効果には変わりはなく、
重篤な低血糖などの有害事象も、
3群で違いは見られませんでした。
糖尿病の合併症などの予後にも、
違いは生じていません。
使用薬剤はメトホルミンが80%で、
SU剤が36%で処方されていました。

このように、
数か月という短期間においては、
確かに自己測定を行うと血糖コントロールは改善するのですが、
その差は持続的なものではなく、
半年をピークに減弱し、
1年間の検討では全く差は見られなくなります。

従って、
安定した2型糖尿病の患者さんにおいて、
インスリン以外の薬剤による治療を継続する場合には、
毎日の血糖自己測定が、
長期的な糖尿病のコントロールや予後に影響するという、
明確な根拠はなく、
そうした行為が必要であるとは言えない、
という結論になります。

勿論これは全体を均してみた場合の話で、
治療の導入時や、
血糖が変動を繰り返したり、
低血糖を繰り返すようなケースでは、
一定の有効性が期待はされるところです。
そうした部分までを、
今回の結果は否定するものではありません。

従って、
どのような患者さんには血糖自己測定が有用なのか、
長期予後という観点から考えた時の、
指針が必要であるように思います。

国内外を問わず、
現状はそうした指針がないことが問題なのです。

血糖も血圧もそうですが、
治療に熱心な患者さんほど、
自宅での頻回の測定を希望されることが多いのですが、
そうした患者さんにおいては、
実際にはあまり頻回の検査の必要性はなく、
治療に無関心な患者さんの方が、
実はそうした自己測定の必要性が高い、
という辺りに、
一般の臨床における一筋縄ではいかないところがありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

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アルコールの摂取量と認知機能との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルコール摂取量と脳の健康.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
アルコールの脳への作用についての論文です。

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、
というのは未だ解決はされていない問題です。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
2016年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

今年発表されたイギリスの大規模疫学データでは、
概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
というものになっていました。

ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、
一部の癌はより少ないアルコール量でも、
そのリスクが増加した、
というデータもあります。

これまでのデータを整理すると、
アルコールの摂取量が少なくとも、
ノーリスクとは言えないのですが、
その量が1日換算で20から23グラム未満程度であれば、
大きな健康上の問題は生じない、
と考えて良いように思います。

ただ、アルコールの脳への影響、
と言う点についてはそれほどクリアになっていません。

少量のアルコールは認知症のリスクを低下させた、
という報告がある一方で、
脳画像による同様の検証では、
こうしたアルコールの良い影響は確認されていません。

そこで今回の研究では、
イギリスにおいて、
登録時の平均年齢が43歳の男女550名を、
アルコール摂取量を聞き取りした上で、
30年間の経過観察を行い、
その前後で脳のMRIを撮って、
その所見の比較も行っています。

その結果…

アルツハイマー型認知症の所見として見られる海馬の萎縮(右側)は、
アルコールの摂取量が多いほどその頻度が高く、
1週間のアルコールの摂取量が8グラム未満と比較して、
112から168グラム未満では3.4倍(95%CI; 1.4から8.1)、
168から240グラム未満では3.6倍(95%CI; 1.4から9.6)、
240グラム以上では5.8倍(95%CI; 1.8から18.6)と、
それぞれ有意に増加していました。

認知機能の検査については、
記憶の再生や、
野菜の名前をなるべく沢山言う、
というような意味流暢性の検査では、
アルコール摂取量との関連は認められませんでしたが、
「A」で始まる言葉をなるべく沢山言う、
というような文字流暢性の検査では、
アルコール摂取量が多いほど、
結果が低下しているという相関が認められました。

この研究ではまだ、
認知症の事例が沢山発症する、
という年齢には至っていないので、
実際に認知症の発症リスクが、
アルコールの摂取量で高まるかどうかは確認されていません。

ただ、その初期の兆候と思われる所見の幾つかが、
アルコール摂取量が多いほど増加し、
全体の傾向としては、
少量飲酒していた方が認知機能の低下が少ない、
というような結果にはなっていません。
少量の飲酒でもそうした傾向はあり、
それが1週間のアルコール量112グラム以上で、
明確化する、
という結果になっています。

この週に112グラムというのは、
1日に換算すると16グラムですから、
日本で適正飲酒量とされる1日23グラム以下より、
かなり少ないということが分かります。

元々2016年のイギリスのガイドラインにおける適正飲酒量は、
1週間に112グラム以下で、
意外なことに日本より厳しいのです。
これがアメリカの男性の適正飲酒量は、
1週間に196グラムとなっています。

イギリス人は毎日パブでビールを飲んでいるようなイメージがありますが、
意外に飲酒に関しては厳格であるようです。
(これは以前は週に168グラムと、
日本でほぼ同一となっていたものが、
少量飲酒のリスクを重視して改訂されたのです)

1週間の飲酒量を基準にするのは、
分かりにくいように思いますが、
イギリスの基準は1週間にワイングラスなら5杯分、
ビール中ジョッキが4杯分、
というように図示されていて、
1日1合くらいと言うより、
この方が分かりやすいというようにも感じます。

少量の飲酒に大きな健康上の害はない、
という常識に現状は大きな変化は起こっていないのですが、
より少量の飲酒でも、
一部の癌や認知機能の低下には、
若干の関連がある可能性があります。

従って、
飲酒の楽しみを否定するつもりはありませんが、
健康のためには、
1週間単位でなるべくたしなむ程度にしておくのが、
まずは上策ではないかという気がします。

それでは今日はこのくらいで。

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