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去痰剤カルボシステインのCOPDに対する効果(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルボシステインのCOPDに対する効果.jpg
2017年のInternational Journal of COPD誌に掲載された、
カルボシステインという古く安価な去痰剤が、
慢性の肺の病気の急性増悪の予防や病気の予後改善に、
有効であることを示唆するメタ解析の論文です。

風邪で痰が絡んだり、
咳が出たりすると、
必ず処方される薬があります。

総称して去痰剤と呼ばれるもので、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)や、
アンブロキソール(商品名ムコソルバンなど)などが、
その代表です。

安い薬ですし、
市販の風邪薬や咳止めにも入っています。

飲んだ方の印象も、
「別に咳が止まる訳でもないし、
まああってもなくても大差のない薬だね」
といったところではないでしょうか?

ところが、
この去痰剤が意外に優れモノであることが、
最近の研究によって明らかになっています。

痰とは何でしょうか?

特にご病気のない人でも、
1日100ml程度の分泌物が、
気道では産生されています。

成分的には9割が水分で、
それ以外にムチンという糖蛋白質が、
その主成分です。

痰というのはこのムチンという成分が、
過剰に産生された状態です。

このムチンは粘り気のある物質なので、
これが多ければ分泌物はドロドロで固まり易くなり、
それが痰と呼ばれる状態なのです。

気道の感染症やアレルギー反応が起こると、
主に炎症性のサイトカインの影響により、
ムチンの産生は増加します。

これが喘息や風邪や肺炎で、
痰が増えることの主な理由です。

気道に炎症が起こると、
それが細菌感染であれば、
好中球という種類の白血球が多く気道に集まり、
そこに含まれる酵素の性質により、
痰には色が付きます。
概ね好中球がそれほど多くないと、
痰は黄色くなり、
ある程度以上多くなると緑色になります。

痰の生成は基本的には身体の異物除去反応で、
有害なものではありませんが、
気道が障害されて、
スムースに痰を外に出すことがし難くなると、
気道に痰が詰まり易くなり、
最悪はそのために窒息が起こることがあります。

特に寝たきりのお年寄りが肺炎に罹ったりすると、
そのために痰が詰まって、
亡くなる要因ともなるのです。

また、適切な量のムチンの産生は、
身体にとって大きな問題にはならないのですが、
気道の炎症が慢性化すると、
好中球という白血球が分泌する酵素の働きによって、
ムチンを産生する細胞が増加することが、
動物実験などで確認されています。
つまり、お年寄りや喘息の患者さんで、
常に気管支炎などの炎症が、
慢性的に起こっていると、
ムチンの産生が病的に増えて、
それだけ痰が出し難くなる、
という悪循環が生じてしまうのです。

ここに、痰を減らす薬の必要性があります。

去痰剤と呼ばれる薬があります。

その名の通り痰を減らす作用のある薬ですが、
そこにも幾つかのメカニズムの違いがあり、
また特徴があります。

痰の主成分はムチンですが、
これは糖と蛋白質との複合体です。

この糖と蛋白の間のS-S結合と呼ばれる部分を切り離すのが、
システイン系と呼ばれる薬剤で、
主に使用されているのは、
アセチルシステイン(商品名ムコフィリンなど)と、
メチルシステイン(商品名ペクタイトなど)と、
エチルシステイン(商品名チスタニンなど)です。

次にムチンの糖の部分を分解するのが、
塩酸ブロムヘキシン(商品名ビソルボンなど)です。

更にはムチンの蛋白質を分解するのが、
蛋白分解酵素剤ですが、
その代表格のセラペプターゼ(商品名ダーゼンなど)は、
プラセボと有効性に差がなかったとして、
現在は発売がされていません。

一方でアンプロキソール(商品名ムコソルバンなど)は、
ムチン自体は分解せず、
痰が気道に付着し難くして、
その排泄を促す、
というちょっと変わった作用の薬です。

そして、最近その効果が再評価されている、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)は、
ムチン産生そのものの抑制効果があります。
つまり、ムチンを分解するのではなく、
その産生量を減らすのです。

従って、ムコダインとムコソルバンとビソルボンは、
それぞれ別個のメカニズムを持つ、
別個の薬です。

粘り気の強い痰が少量の場合には、
ムチンを分解するような薬剤と、
その付着を妨害するような薬剤が適しています。
すなわち、ビソルボンとムコソルバンの併用が良く、
ムコダインはあまり良い選択ではありません。

一方で痰の量がやや多く、
粘り気はさほどでない場合には、
ムコダインが良い適応です。
それで痰が詰まり易い場合には、
ムコソルバンを併用します。

近年アセチルシステインは、
主に海外で肺線維症の進行予防効果が報告され、
アンブロキソールは2004年に、
カルボシステインは2007年から2008年に、
それぞれ慢性閉塞性肺疾患の、
増悪を抑制する効果が報告されて話題になりました。

今日の主題であるカルボシステインについては、
慢性閉塞性肺疾患の患者さんに、
1年間の長期間使用したところ、
その患者さんの症状の増悪回数や、
風邪を引く回数が減少した、
という結果が報告されました。
これはPEACE研究と名付けられ、
その一部はLancet誌に掲載されて、
その年の優秀論文の1つに選ばれました。
それがこちらです。
カルボシステインの効果Lancet.jpg

この内容とちょっと裏話的な話をします。

ムコダインは1981年に杏林製薬が発売した薬です。

元々ムチンの産生を抑え、
痰の粘性と量とを抑える作用の薬ですが、
2006年に風邪ウイルスの代表格であるライノウイルスの、
気道上皮への付着を妨害し、
その感染を予防する効果がある、
という内容の日本の論文が発表されました。
ウイルス感染は慢性の呼吸器疾患の、
増悪因子として重要なものです。

喘息の患者さんや肺気腫の患者さんは、
風邪を引くとそれをきっかけに呼吸の状態も悪化します。
これはウイルス感染によるサイトカインの産生が、
痰の産生を増やすことが、
その大きな増悪要因の1つです。

この点から考えて、
ウイルス感染を阻止するムコダインには、
慢性の呼吸器疾患の増悪を抑え、
その予後を改善する効果があるのではないか、
という推測が生まれたのです。

この推測を検証するために、
杏林製薬がお金を出して、
日本と中国とで合同で行なわれたのが、
PEACE研究です。

日本の研究は151例の慢性閉塞性肺疾患の患者さんを、
75例と76例との2群に分け、
一方にはムコダインを使用し、
もう一方は使用しません。
それで1年間観察し、
その間の急性の症状悪化の差を見るのです。
症例の年齢は平均が60代で、
比較的ご高齢の方の多い分布です。

その結果、増悪回数、感冒の罹患回数が、
ムコダインの使用群で、
有意に少なかったというデータが得られました。

一方で中国の研究は、
基本的に同様のものですが、
症例数は全体で791例と、
日本の5倍以上です。
そして、増悪の減少及びQOLの改善の2点において、
ムコダイン使用群が有意に効果が認められた、
というものです。

これは杏林製薬がお金を出した共同研究の筈ですが、
実際には中国の研究と日本の研究とは、
同じ内容にも拘らず、
別々に発表され、
その評価は圧倒的に中国側の研究の方が上です。
勿論例数に違いがあり、
日本の151例というのは、
大規模臨床試験としては、
明らかにショボイので、
仕方のないことかも知れませんが、
何と言うのか、
お金だけは全部出して、
功績は全て持っていかれているので、
今の日本と中国との関係を、
これだけでも如実に示しているような気がします。

余談でした。

さて、今回の論文はこのPEACE研究を含めて、
それ以降2016年の9月までに発表された、
介入試験と呼ばれる精度の高い臨床試験のデータを、
まとめて解析し、その効果を検証しています。

その結果、トータルで1357名のCOPDの患者さんのデータを、
まとめて解析した結果として、
偽薬との比較でカルボシステインを使用することにより、
COPDの急性増悪は57%(95%CI;-0.57から-0.29)有意に低下していて、
生活の質も有意に改善していました。
呼吸機能や有害事象、入院のリスクには有意な差はありませんでした。

このように、
PEACE研究以降それほど大規模なデータはないので、
メタ解析と言ってもそれほど意味のあるものとはなっていないのですが、
2017年の現在においても、
カルボシステインをCOPDの患者さんに継続的に使用することには、
一定の有効性があることは否定されておらず、
安価で古い薬ですが優れた薬であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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アメリカにおける2015から16年のインフルエンザワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は溜まっている作業をする予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンの2016年の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
昨シーズンのインフルエンザワクチンの効果を、
アメリカで検証した論文です。

現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは、
スプリットワクチンと言って、
バラバラにしたウイルス抗原を、
そのまま注射するというもので、
それ以前の全粒子型のワクチンと比較すると、
その効果は落ちますが、
安全性が高く、重篤な有害事象の少ないのが特徴です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」の流行時には、
迅速に流行株の抗原をワクチンにしたので、
その有効性は非常に高く、
インフルエンザワクチンの有効性を再認識させました。

ただ、このタイプのワクチンは、
血液での抗体は誘導しても、
粘膜の抗体は誘導しないため、
感染自体を阻止することは出来ない、
という意見や、
成人と比較して小児への有効性が低い、
という意見、
少しでも流行しているウイルス抗原が、
ワクチン抗原と異なっていると、
その有効性が低くなる、
というような意見などがあって、
特に小児に対しては、
より有効性の高いワクチンが必要だ、
という考えが根強くありました。

その有力な候補として考えられたのが、
経鼻のインフルエンザ生ワクチンです。

経鼻インフルエンザ生ワクチンは、
低温馴化ウイルスと言って、
鼻の粘膜では増殖するけれど、
それを超えて肺炎などを起こすことはないように、
その働きを弱くしたインフルエンザウイルスそのもので、
その表面の抗原タンパク質は、
流行の予測される抗原を、
遺伝子工学の技術を用いて入れ替えて作られています。

このウイルスを、
スプレータイプの器具を用いて、
鼻の粘膜に噴霧します。

すると、
鼻の粘膜のみにインフルエンザのワクチン株による感染が起こり、
それが粘膜と血液の両方の免疫を誘導する、
という仕組みです。

これが経鼻インフルエンザ生ワクチンで、
商品名はフルミストと言われるものが、
2003年にアメリカで承認され、
2011年にはヨーロッパでも承認されました。

このワクチンは何よりも注射ではなく、
点鼻で接種が可能である、ということが利点で、
それに加えて注射の不活化ワクチンとは異なり、
粘膜の免疫を誘導することから、
特に小児においては、
有効性の高いことが期待されました。

実際、アメリカで発売後に施行された臨床データにおいては、
80%以上という高い有効性が報告されました。

このため、アメリカでは2014年、
2から8歳の小児では不活化ワクチンではなく、
経鼻生ワクチンの接種が推奨されることになりました。

日本においてもこの頃から、
一部の小児科のクリニックなどでは、
輸入したフルミストを、
自費で接種するような試みが行われました。

ここまでは良いこと尽くめの経鼻生ワクチンで、
向かうところ敵なしと感じられたのですが、
2013年から14年のシーズンに、
2009年に「新型インフルエンザ」と呼ばれたのと同じタイプのウイルスが流行し、
それに対して経鼻生ワクチンは、
全くの無効であったことが、
その後の解析で明らかになると、
ちょっと風向きが変わり始めます。

2015年のシーズンにおいて、
アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)は、
2から8歳の年齢層において経鼻生ワクチンを優先する、
という方針を切り替え、
生ワクチンでも不活化ワクチンでも、
どちらでも良いという指針に後退します。

2016年のPediatrics誌には、
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)による解析結果が論文化されていて、
2010年から14年の4シーズンのそれぞれにておいて、
経鼻生ワクチンと従来の不活化ワクチンの注射との有効性を、
比較検証したものとなっています。

その結果は驚くべきもので、
どのシーズンにおいても不活化ワクチンと比較して、
生ワクチンの方がよりインフルエンザを予防した、
という結果はなく、
特に2009年に流行したH1N1に関しては、
はっきり無効と言って良い結果となり、
明確に不活化ワクチンよりその効果は劣っていました。

こうした結果を受けて、
2015から16年のシーズンにおいては、
4価の経鼻生ワクチンに使用するA(H1N1)pdm09のワクチン株は、
より流行しているウイルスに近いものに変更されました。

これで含まれている抗原の性質においては、
4価の不活化ワクチンと経鼻生ワクチンは同等、
と考えて良いことになります。

それでは2015年から16年のシーズンにおける、
不活化ワクチンと経鼻生ワクチンの効果はどうだったのでしょうか?

今回の論文はそのアメリカにおける検証です。

2015年から16年のインフルエンザの流行期に、
アメリカの異なる複数の地域の医療機関をインフルエンザ様症状で受診した、
生後6か月以上の6879名の患者さんを登録し、
診断陰性例コントロール試験という手法で、
ワクチンの有効性を推計しています。

これはインフルエンザ様症状を呈した患者さんのうち、
遺伝子検査でインフルエンザ感染が確認された患者さんと、
検査が陰性であった患者さんのうち、
ワクチン接種者と非接種者の比率を比較して、
そこからワクチンの有効性を推定するという方法です。

本来ワクチン接種者と非接種者を同数くらいずつ登録して、
シーズン中にインフルエンザに感染したかしなかったかで、
その比較から有効率を計算するのが通常の方法ですが、
これだとその集団の感染率が低ければ、
比較するのは難しくなりますし、
そのシーズンが終わらないと解析が出来ないという欠点がありました。

症状のある患者さんだけを対象として、
インフルエンザ検査が陰性であった患者さんをコントロールにする、
という診断陰性例コントロール試験は、
ややトリッキーな感じもしますが、
シーズンの途中でも迅速に結果を出せるという利点があります。

最近の実地臨床でのワクチンの効果判定は、
世界的にも概ねこの方法で行われています。

今回の研究においては、
インフルエンザ様症状を呈した6879例の患者さんのうち、
19%に当たる1309例が遺伝子検査でインフルエンザと診断され、
ウイルス型はA(H1N1)pdm09が、
インフルエンザ群の58%に当たる765名で、
B山形型が19%に当たる250名、
Bビクトリア型が15%に当たる200名、
A香港型はグッと少なく6%に当たる72名でした。

全ての型のインフルエンザに対する従来の不活化ワクチンの有効率は、
48%(95%CI;41から55)で有意に認められましたが、
経鼻生ワクチンの効果は認められませんでした。

生後2歳から17歳の年齢層において、
未接種と比較して経鼻生ワクチンの有効性は、
統計的には認められませんでした。
有効率は5%(95%CI;-47から39)でした。
個別の有効率はA(H1N1)pdm09が-19%(95%CI;-113から33)、
B型が18%(95%CI; -52から56)という低率でした。

一方でこの年齢における不活化ワクチンの有効率は、
トータルで60%(95%I;47から70)と有意に高く、
個別の有効率についても、
A(H1N1)pdm09が63%(95%CI;45から75)、
B型が54%(95%CI;31から69)といずれも未接種と比較して、
有意に高くなっていました。

この年齢においては、
経鼻生ワクチンを接種すると、
不活化ワクチンを接種した場合と比較して、
2.7倍有意にインフルエンザ感染のリスクが高くなる、
という驚くような結果になっています。
(95%CI;1.6 から4.6)

今回のアメリカでの検討においては、
全てのインフルエンザ型で全ての年齢層において、
経鼻インフルエンザワクチンは従来の不活化ワクチンより、
その有効性において劣っていて、
はっきり言えばほぼ無効と言って良い結果になっていました。

ただ、たとえばイギリスにおける同様の検討においては、
A(H1N1)pdm09に対する有効率は、
2歳から17歳で48%という結果になっていました。
ただ、比較された3価不活化ワクチンの有効率は100%です。

このように経鼻生ワクチンの有効率が、
最近の検討では不活化ワクチンより低いことは、
世界中の検証でもほぼ一致している知見です。
ただ、地域によっても、
その報告された有効率にはかなりの幅があり、
現行使用されている有効率の算定法を用いる場合には、
その集団の設定によっても、
有効率にはかなりの違いが出てしまうこともまた、
確かなことではあるようです。

いずれにしても、
少なくとも現行の製法による、
インフルエンザの経鼻生ワクチンの評価は、
現状かなり低いものとなったことは間違いがありませんが、
それが抗原の種別によるものでないとすれば、
一体何が問題であるのか、
また発売当時の臨床データにおいては、
不活化ワクチンより格段に生ワクチンが優れていたのは何故なのか、
何か解析に問題があったのではないのか、
もう一度再検証が必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧の変動と認知症リスク(2017年久山町研究解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧の変動と認知症のリスク.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
血圧の変動と認知症との関連についての論文です。
九州の久山町研究という、
ある町の健康調査を継続した日本有数の疫学データを元にした、
解析結果を論文化したものです。

認知症と血圧との関連については、
これまでにも多くの研究データがあります。

認知症には脳血管の動脈硬化により起こる、
脳血管性認知症と、
脳の神経細胞への異常蛋白の蓄積などによって起こる、
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの、
変性性認知症があります。

このうち脳血管性認知症は動脈硬化による病気ですから、
発症前の血圧(収縮期血圧)が高いほど、
認知症のリスクも増加します。

一方でアルツハイマー型認知症などの変性性認知症については、
必ずしも血圧の数値との関連が明確ではありません。

最近血圧の数値の高さよりも、
その変動が大きいことが、
認知症のリスクになるのではないか、
という考え方が広まり、
幾つかのデータもその可能性を裏付けています。

ただ血圧の変動をどのようにして評価するか、
と言う点については、
研究によってもかなりまちまちで、
海外の臨床研究では、
診察室で日を変えて何度か測定した血圧の、
変動を見ていることが多いのですが、
それがその人の毎日の血圧の変動を、
的確に反映しているという根拠はあまりありません。

そこで今回の研究では、
自宅で決められた期間、
オムロンの自動血圧計で毎朝3回の血圧測定を行い、
その3から28日連続の測定値の変動幅と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。

対象者は久山町の、
登録の時点で60歳以上で認知症のない1674名で、
5年間の経過観察を行い、
その間の認知症の発症と、
血圧の変動及び血圧の数値との関連を検証しています。

その結果…

観察期間中に194名の認知症が診断され、
そのうち47名は脳血管性認知症で、
134名がアルツハイマー型認知症でした。
年齢や性別など関連する因子を補正した結果として、
収縮期血圧の変動係数が5.07%以下と、
最も低い群と比較して、
7.61%以上と最も高い群では、
トータルの認知症のリスクが2.27倍(95%CI;1.45から3.55)、
脳血管性認知症のリスクが2.79倍(95%CI;1.04から7.51)、
アルツハイマー型認知症のリスクが2.22倍(95%CI;1.31から3.75)、
それぞれ有意に増加していました。

同様の傾向は拡張期血圧でも認められましたが、
収縮期血圧の数値自体は、
脳血管性認知症のリスクとは相関しましたが、
トータルな認知症のリスクと、
アルツハイマー型認知症のリスクとは相関しませんでした。

収縮期血圧値と血圧の変動幅の2つの数値は、
それぞれ独立した指標として、
個々の認知症のリスクに影響していました。

このように、
血圧が高いほど上がる認知症のリスクは、
脳血管性認知症のみでしたが、
血圧の変動が大きいことは、
アルツハイマー型認知症を含む、
全ての認知症のリスクと関連していました。

これまでの同様の臨床データにおいて、
条件はそれぞれ違うものの、
ほぼ同様の結果が出ていることからして、
血圧の変動がその後の認知症のリスクと、
一定の関連のあることは間違いがなさそうです。

ただ、現状は血圧の変動自体が認知症の原因なのか、
それとも何か別個の原因により血圧が変動しているのかは、
明らかではありませんし、
血圧変動の測定法も一致はしていません。
また、現時点で的確に血圧変動を正常化するような方法も、
確立されてはいません。

今後のそうした点の検証が是非必要だと思いますし、
新しい知見が積み重なってゆけば、
認知症の予防についての、
新しいブレイクスルーに繋がることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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IgA腎症に対するステロイド治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

明日8月11日から14日(月)までは、
夏季の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
IgA腎症に対するメチルプレドニゾロンの効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
IgA腎症という患者さんの多い腎臓の病気に対する、
ステロイド治療の効果を検証した論文です。

IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。

この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。

数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療や免疫抑制剤の使用が検討されます。

しかし、こうした免疫抑制療法の上乗せ効果は、
あまり精度の高いデータの裏付けがある、
というものではありません。

治療成績は必ずしも満足の行くレベルのものではありませんし、
レニン・アンジオテンシン系の抑制が、
充分であったかどうかの検証があまりなされていないので、
真の意味での免疫抑制療法の上乗せ効果が、
どのくらいのものであるのかが不明なのです。

日本ではそれ以外に、
扁桃腺の切除とステロイドのパルス療法を組み合わせた治療が、
非常に高い奏効率を持つものとして施行されていますが、
世界的にはあまり言及をされていません。

さて、免疫を抑制することが、
IgA腎症の腎機能を保つ上で重要であることはほぼ間違いがありませんが、
全身的にステロイドを使用した臨床試験は、
あまり予後に明確な結果を示していません。

その理由は1つには糖尿病や易感染性などの、
ステロイドの有害事象にあると考えられます。

今回の臨床研究は、
ACE阻害剤もしくはARBによる治療を継続しても、
タンパク尿の充分な改善が認められていないIgA腎症の患者さんに、
上乗せの治療として比較的高用量のステロイドを使用し、
その効果と安全性を検証しているものです。

IgA腎症で、
ACE阻害剤もしくはARBによる血圧コントロールを、
3か月以上継続しても、
尿タンパクが1日1グラムを超えてていて、
腎機能を示す推計の糸球体濾過量が、
20から120mL/min/1.73㎡の患者さんを、
本人にも主治医にも分からないようにクジ引きで2つに振り分け、
一方はステロイドのメチルプレドニゾロンを、
体重1キロ当たり0.6から0.8ミリグラム(上限48ミリ)で使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
2か月の治療を行ない、
その後4から6か月を掛けて減量離脱します。
そして偽薬と比較してステロイド治療の効果と安全性を検証しているのです。

試験は262名の患者が振り分けられ、
中間値で2.1年の観察期間が経過した時点で試験は途中終了となりました。

重篤な有害事象が、
明らかにステロイド治療群で多かったためです。

この重篤な有害事象は、
ステロイド治療群の14.7%に当たる20名に認められたのに対して、
偽薬群では3.2%に当たる4名に認められていて、
そのリスクの差は11.5%となり、
有意にステロイド治療群で増加していました。
有害事象の多くは肺炎などの感染症で、
死亡例も2例が報告されています。

末期腎不全になるリスクと、腎不全による死亡、
推計糸球体濾過量が40%低下するリスクを併せたリスクは、
ステロイド治療により63%(95%CI;0.17から0.85)有意に低下していました。

つまり、
ステロイド治療は腎機能の低下と、
それに伴うリスクの抑制のためには、
一定の有効性が期待出来るのですが、
その一方で重篤な感染症などのリスクが明確に増大していて、
今回の臨床試験は、
その有害事象の増加のため中止となっています。

これまでの同種の臨床試験においても、
ほぼ同様の結果が得られています。

従って、ステロイド治療が、
IgA腎症の腎臓に対する予後に良い影響を与える一方で、
重篤な感染症の発症も、
少なからず増加させることもまた事実です。

このジレンマを解決する1つの方法は、
2017年5月30日のブログでご紹介したことのある、
小腸粘膜に選択性のステロイド剤の使用で、
今後IgA腎症に対するステロイド治療は、
通常の全身に作用する内服や注射以外の、
別個の方法を考えるべきなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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オンジの認知症予防効果とその問題点 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
オンジの認知症改善作用.jpg
2009年のNeuroscience Letters誌に掲載された、
イトメヒメハギという植物の根からの抽出物の、
高齢者認知機能改善効果についての論文です。

何故この8年前の論文をご紹介するかと言うと、
最近ロート製薬から「キオグッド」という商品名で、
ほぼ同成分のオンジ(遠志)という生薬が発売されていて、
効能は「中年期以降の物忘れの改善」とされ、
「脳の記憶機能を活性化させて、中年期以降の物忘れを改善する」
とあたかも認知症の予防に有効性が確認されているが如くの、
気を惹く文面が並んでいたからです。

漢方薬や生薬の製剤としては、
抑肝散と釣藤散が認知症の周辺症状に有効な可能性があるとして、
ガイドラインにも掲載をされています。

ただ、これも認知症の中核症状に効果がある、
という性質のものではなく、
抗精神病薬などを使わざるを得ないような症状に対して、
それが比較的軽症であれば有効な場合がある、
というくらいの意味合いです。

アルツハイマー型認知症の初期症状が、
物忘れであることは間違いのない事実で、
その時点での物忘れに、
明らかに有効だという治療薬は、
現時点では確認をされていません。

仮に宣伝の意味合いが、
初期の認知症の症状を改善する、
ということであれば、
これは画期的な発見もしくは発明であって、
現代医学も形無しだ、
ということになります。

本当にそんなことがあるのでしょうか?

何故このような効能の薬が急に発売されたのかと言うと、
それは2015年に「単味生薬製剤の製造に関するガイダンス」
という資料が厚生労働省で作成されたからです。

これは主に医療用ではなく、
一般の薬局や漢方薬局で販売されている単剤の生薬について、
その標準的な製法や効能などを、
全国統一で定めたものです。

その資料の中で、
単味生薬製剤のオンジ(遠志)の効能は、
「中年期以降の物忘れの改善」と記載されているのです。
効能はこれ以外には書かれていません。
つまり、今後オンジの生薬製剤を販売する際には、
必ずその効能は、
「中年期以降の物忘れの改善」としなければいけない訳です。

他の生薬製剤の効能は、
概ね、頭痛や吐き気や二日酔いや食欲不振などですから、
こうしたものの根拠は別の科学的な裏付けによるものではなく、
参考文献も漢方の古い解説書などになっています。
一般の方もこうした効能に、
それほどの科学的な根拠が、
存在しているとは思いませんから、
特に問題はないものだと思います。

ただ、このオンジの効能の記載については、
単独の効能であるばかりか、
誰もが関心のある認知症の初期症状が改善すると、
思えてしまうような記載である点が、
正直かなり問題があるように思います。

この記載の根拠として書かれているのが、
5編の文献で、
そのうちの2編はいずれもNeuroscience Lettersに、
2009年に発表された論文で、
そのうちの一編が上記のものです。
残りの3編は漢方の教科書的なもので、
西洋医学的な検証とは無縁の文献です。

その2編は一連のもので、
同じ韓国の研究グループによる研究です。
内容も研究の視点が若干違うだけで、
ほぼ同等のものです。

オンジの元であるイトメヒメハギの抽出物については、
神経栄養因子を増加させる、というような動物実験のデータは、
複数存在していますが、
人間において実際に認知機能を検証した研究は、
まとまったものはこの2編以外にはないようです。

上記文献ではイトメヒメハギの根の抽出物を、
認知症のない60歳以上のボランティアに使用し、
8週間の治療期間の前後で、
偽薬と比較して認知機能の変化を見ています。
二重盲検という厳密な方法による臨床試験ですが、
症例数は実薬群が28名で偽薬群が25名ですから、
充分な例数とは言えません。
認知機能は評価法によってはかなりの差がついているのですが、
たとえば一般的な認知症の診断検査であるMMSEでは、
殆ど差は付いていません。
また、差がついているものについては、
逆に8週間という短期間で、
改善度が大き過ぎるという印象を持ちます。
もう1篇の論文の記述もこれと同工異曲のものです。

本来は是非追試が必要な知見で、
もっと例数を集めより長期間の検証が必要だと思われますが、
今回調べた範囲では、
そうした追試は少なくとも英文の文献としては、
発表されていないようです。

このように、
オンジの成分が認知機能の改善に結び付くという可能性は、
ないとは言えないのですが、
人間での臨床試験は韓国で行われた、
少数例の短期間のものしかなく、
その成分が完全に日本で使用されているオンジと、
同じであるという確認もされていません。
長期の安全性と有効性のいずれも不明です。

要するに、
認知症のガイドラインで言及されるような水準の知見ではありません。

その段階でこの不充分な知見のみを元に、
オンジの効能を認知症に有効と誤解されかねない、
「中年期以降の物忘れの改善」としたガイダンスの判断は、
個人的にはかなり問題があるように思います。
国がこの効能にお墨付きを与えた、
と言って過言ではないからです。

こうした記載があれば、
それを錦の御旗として、
「キオグッド」のような商品が、
非常に誤解を招くような宣伝のされ方をすることは、
商売としては理の当然ですから、
その想像力が働かなかったという時点で、
厚労省のガイダンスの記載には、
もう少し配慮が必要だったのではないでしょうか?

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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プレガバリン(リリカ)処方増加を考える [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リリカの使用過剰を考える.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された解説記事ですが、
慢性の痛みの治療薬として日本でも使用数が増加している、
プレガバリン(商品名リリカ)の、
アメリカでの処方著増について論じているものです。

ガバペンチン(商品名ガバペン)とプレガバリン(リリカ)は、
ガバペンチノイドとも総称される同種の薬で、
そもそもは抗痙攣剤の一種ですが、
その神経障害性疼痛への効果が注目され、
オピオイドのような麻薬系の薬剤と比較すると、
その副作用や依存性も少ないことから、
その使用が拡大している経緯があります。

これは世界的な現象です。

アメリカのFDAは、
帯状疱疹後神経痛に対してガバペンチンとプレガバリンを、
線維筋痛症に対してプレガバリンを、
糖尿病や脊髄損傷に伴う神経障害性疼痛に対してプレガバリンを、
それぞれ認可しています。

日本ではプレガバリンの保険適応は、
神経障害性疼痛と線維筋痛症です。

神経障害性疼痛というのは、
痛みを伝える神経が何等かの原因で障害されることにより、
神経が過敏になって痛みを生じるもので、
帯状疱疹というウイルスによる皮疹の出る病気の後で、
炎症をおこした場所がピリピリ痛む、
帯状疱疹後神経痛がその代表ですが、
太腿の裏側の痛みとしてポピュラーな、
坐骨神経痛もその仲間になりますから、
そう考えるとかなり多くの慢性の痛みが、
そこには含まれているということが分かります。

通常癌による痛み以外の慢性の痛みに対しては、
アセトアミノフェン(商品名カロナールなど)や、
NSAIDSと呼ばれる痛み止め(商品名ロキソニン、ボルタレンなど)
が使用されますが、
アセトアミノフェンはその効果が充分ではないことが多く、
NSAIDSは強力な薬ほど胃潰瘍や腎障害などの、
有害事象が起こりやすいという欠点があります。
そして、そうした薬が必要な患者さんでは、
副作用や有害事象も起こりやすいのです。

麻薬系の鎮痛剤であるオピオイドは、
トラマールやトラムセットなどの商品名で、
これも最近癌以外の慢性疼痛に対して広く使用されていますが、
癌性疼痛に使用される麻薬系鎮痛剤と比較すれば軽度ではあっても、
その常用性や依存性が問題となることが、
最近は多くなりました。

そのため、
慢性疼痛に対してオピオイドを使用していた患者さんが、
リリカに変更するようなケースも、
最近は増えているようです。

こちらをご覧ください。
リリカの処方数の増加.jpg
アメリカの最近のガバペンチノイドの処方数の推移を見たものです。
左側がガバペンチンで右がプレガバリン(リリカ)のものです。
特にリリカについては、
2012年から2016年の4年間に、
処方数が倍増していることが分かります。

上記解説記事の記載によると、アメリカにおいて、
先発医薬品でプライマリケアの臨床医に処方されている薬のうち、
インスリンのランタス、糖尿病治療薬のジャヌビア、
喘息治療薬のアドエアに引き続いて、
リリカは第4位の収益を上げた薬剤にランクされています。

勿論ニーズがあり正当な処方なのであれば、
この増加も問題があるとは言えません。

ただ、幾つかの問題を指摘する声もあります。

日本でリリカの適応とされている神経障害性疼痛には、
非常に多くの病気や病態が含まれているのですが、
実際に精度の高い臨床試験において、
リリカの効果が確認されているのは、
帯状疱疹後神経痛と糖尿病性神経障害による疼痛だけです。

これは2017年3月27日のブログ記事での紹介していますが、
同月のNew England…誌に掲載された論文によると、
坐骨神経痛に対して偽薬と比較してリリカの効果を検証した臨床試験では、
その効果は確認されませんでした。

従って、本来は全ての神経障害性疼痛への有効性が、
高いレベルで確認されているとは言えないリリカなのですが、
日本では拡大適応に近い形でその処方は容認され、
アメリカでも実際にはより広い適応で使用がされているようです。

効果がはっきりしないままの漫然とした適応拡大が行われている、
という点がまず第一の問題点です。

上記解説記事にある第二の問題点は、
ガバペンチノイドがそれほど副作用や有害事象の少ない薬剤とは、
言い切れないという点です。
鎮静作用やめまいは少なからず認められていて、
前述の坐骨神経痛への臨床試験では、
40%の患者さんがめまいを訴えています。
また、認知機能の低下を、
服用中に認めているケースもあります。
この副作用は確かに単剤で使用した場合には、
軽度のものと考えられなくはありませんが、
こうした薬は実際には複数の他の処方薬と、
併用されることが多く、
鎮静作用のあるような他の薬との併用により、
大きな問題が生じる可能性も否定は出来ません。

第三の問題点はガバペンチノイドの濫用や依存が、
認められる事例があることで、
こうしたケースはベンゾジアゼピンやオピオイドの、
使用者に多いとされていますが、
その頻度は影響については、
まだ未知数であるのが現状です。

最後にこうした薬剤が安易に慢性の痛みに使用されることにより、
本来はもっと原因を追究するべき痛みの診断が疎かになったり、
たとえば長期臥床による痛みであれば、
全身状態の改善やリハビリなどを優先するべきなのに、
痛みの訴えに安易にガバペンチノイドが使用されて、
それでよしとされるような医療レベルの低下が、
起こっている可能性も指摘をされています。

勿論オピオイドやガバペンチノイドが、
癌以外の慢性疼痛に対して使用出来るようになったことにより、
疼痛の治療が大きく進歩したことは間違いのない事実なのですが、
その一方で多くの弊害が生じつつあることもまた事実で、
その適応については、
もう一度慎重な線引きを行う必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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早期限局性前立腺癌治療方針と長期予後(20年の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
限局性前立腺癌の治療による予後.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
早期限局性前立腺癌の長期予後を、
手術と経過観察とで比較した論文です。

遠隔転移のない前立腺癌の、
最も適切な治療は何でしょうか?

前立腺癌は高齢男性に多い、
基本的には予後の良い癌です。
勿論その一部は全身に転移するなどして、
そのために命を落としたり、
骨転移による痛みなどの苦しめられる、
というケースもあるのですが、
比率的には多くの癌は、
特に症状を出すことなく、
その方の生命予後にも影響しない、
というように考えられています。

それでは、
前立腺の被膜内に留まった形で癌が発見された場合、
どのような治療方針が最適と言えるでしょうか?

神様的な視点で考えれば、
その後転移するような性質の悪い癌のみに、
手術や放射線などの治療を行ない、
転移しないような癌は放置するのが、
最善であることは間違いがありません。

しかし、実際には生検の結果である程度の悪性度は評価出来ても、
その癌が転移するかどうかは分かりません。

従って、このことを重視すれば、
全ての患者さんに治療を行なうということになり、
それは本来放置していても生命予後には問題のなかった、
多くの患者さんを「過剰に」治療するという結果に繋がります。
治療は無害ではなく、
合併症などで体調を却って崩すこともありますし、
医療コストも膨大になってしまいます。

そこで1つの考えとしては、
積極的な治療以外に、
当面は無治療で経過観察を行い、
定期的な最小限の検査は施行をして、
悪化が強く疑われれば、
治療をその時点で考慮する、
という方法が次善の策として考えられました。

これを無治療経過観察(積極的監視療法)と呼んでいます。

この無治療経過観察では、
通常は腫瘍マーカーであるPSAを、
定期的に測定し、
それが一定レベル以上上昇すれば、
治療を考慮します。
ただ、このPSAも確実に病勢を反映しているとは言えず、
そうした経過観察によって、
どの程度ただの無治療と比較して、
患者さんの予後が改善するのかも明確ではありません。

この問題を検証する目的で、アメリカで行われ、
2012年のNew England…誌に発表されたのがPIVOT研究です。

これは限局性の早期の前立腺癌の手術に、
その患者さんの生命予後を、
改善する効果があるかどうかを検証する目的で、
アメリカにおいて、限局性前立腺癌の患者さん731例を、
手術を行なう群と行わないでそのまま経過を見る群とに、
くじ引きで割り付け、
その後の経過を平均10年間観察しているものです。

癌が見付かったのに、
「手術をするかどうかはくじ引きで決めますね、これは実験ですから」
と言って承諾を得るのですから、
日本では確実に施行が不可能な種類の研究です。

ただ、当初の対象者は2000人以上を予定していたようですが、
アメリカでもさすがにそれは困難で、
最初のエントリーは5000人を超えていますが、
承諾を得て研究が施行されたのは、
そのうちの731名に留まっています。

そのトータルな結論としては、
観察期間中に手術を行なった患者さん364人中、
47%に当たる171人が死亡し、
手術を行なわず観察のみの患者さん367人中、
49.9%に当たる183名が死亡しています。
絶対リスクで治療による死亡率の減少は、
2.6%に留まっています。

つまり、
手術をしてもしなくても、
その後の経過に明確な差はついていません。

しかし、
実際に前立腺癌のために亡くなった患者さんは、
手術を行なった群では21名で、
観察のみの群では31名です。
経過の中で前立腺癌で生じ易く、
痛みなどの症状の原因になり易い、
骨への転移についてみると、
手術群で17名に対して、
観察群では39名でした。
この研究では定期的な骨のシンチの検査を、
行なっているのです。

つまり、トータルには差はなくても、
骨の転移の比率や前立腺癌のみの死亡数を見ると、
一定の治療効果はありそうです。

そこでこのPIVOT試験を一旦終了後に、
更に4年間の観察を行い、
今度は総死亡のリスクと前立腺癌による死亡のリスクに絞って、
手術と無治療経過観察との比較を行ったのが、
今回の研究です。

19.5年の観察期間(中央値12.7年)において、
手術群の61.3%に当たる223名が死亡し、
無治療観察群では66.8%に当たる245名が死亡していました。
この死亡率には両群で有意な差はありません。

観察期間中に前立腺癌もしくは治療による死亡は、
手術群の7.4%に当たる27名と、
無治療観察群の11.4%に当たる42名で認められ、
この死亡率にも有意な差はありませんでした。

そして、手術群の方が、
尿失禁などの手術に関わる有害事象の頻度は10年間は高く、
術後2年間は生活の制限もより大きくなる、
という結果になっています。

ダミコの分類という、
日本でも良く使用されている癌のリスク分類で比較すると、
低リスク群と高リスク群では、
手術群と無治療観察群とで、
総死亡リスクには差がありませんでしたが、
中リスク群(PSAが10.1から20もしくはグリーソンスコア7もしくは病期がT2b)では、
手術群の方が総死亡リスクが低い傾向が認められました。

要するに限局性の前立腺癌で、
発見された時点で転移が見つからず、
年齢も75歳以下という集団では、
手術をしてもPSAや症状のみで経過を観察しても、
20年間を通して、
明らかな生命予後の違いはありませんでした。

ただし、中リスク群については、
一定の手術のメリットがある可能性があり、
今後の検証が必要であると考えられます。
つまり、限局性の前立腺癌の全てに手術を行うのは、
矢張り長期予後から見て誤りで、
その予後を推測するなどして、
かなりの絞り込みをする必要がある、
という結論です。
今後その点についての、
明確な基準が作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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アレンドロネートによるステロイド使用高齢者の股関節骨折予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ステロイド骨粗鬆症に対するアレンドロネートの効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
評価の定まった骨粗鬆症治療薬による、
ステロイド使用高齢者の股関節骨折予防効果を、
検証した論文です。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
慢性の炎症性疾患やアレルギー性疾患に幅広く使用されている薬剤です。
非常に有用性の高い薬ですが、
その一方で易感染性や耐糖能異常、消化管出血など、
多くの副作用のある薬でもあります。
そして、高齢者に使用する際に大きな問題となる副作用の1つが、
骨粗鬆症と骨折の増加です。

ステロイドは比較的短期間の使用においても、
骨量を減少させ、
その影響は大腿骨などの長管骨よりも、
背骨などの海綿骨で著明です。
その影響は投与されたステロイドの累積量が多いほど、
より大きくなることが分かっています。
あるデータによると、
ステロイドの使用により、
股関節の骨折は60%、
背骨の骨折は160%増加すると報告されています。

80代ではステロイドの使用により股関節の骨折は2.1倍増加し、
それは骨塩量の減少とは独立に起こる現象であることも報告されています。

高齢者においては、
1日5ミリのプレドニゾロンを、
少なくとも3か月以上使用することにより、
骨折リスクの明確な増加が認められる、
と考えられています。

アレンドロネート(商品名フォサマック、ボナロンなど)は、
ビスフォスフォネートと呼ばれる、
強力に骨吸収を抑制する薬剤で、
抗RANKLE抗体などの新しい薬剤が使用されるようになった現在でも、
最も有効性や安全性が確立された骨粗鬆症治療薬であることは、
間違いがありません。

アレンドロネートはステロイド使用者の背骨の骨折に対しては、
その予防効果が確認されていますが、
股関節の骨折についてはその頻度が低いこともあって、
明確な予防効果はこれまでに確認されていません。

そこで今回の研究では、
65歳以上で1日5ミリグラム以上のプレドニゾロンを、
少なくとも3か月以上使用し、
それからアレンドロネートを処方された1802名を、
矢張りステロイドを同じ様に使用していて、
アレンドロネートのような骨粗鬆症治療薬を未使用の、
条件をマッチングさせた1802名と比較して、
股関節骨折のリスクを検証しています。

対象者の平均年齢は79.9歳で、
70%は女性です。
中央値で1.32年の経過観察期間において、
アレンドロネート群で27件、
アレンドロネート非使用群で73件の股関節骨折が発症していて、
アレンドロネートによる治療は、
股関節の骨折のリスクを65%(95%CI;0.22から0.54)、
有意に抑制していました。

このように今回の検証において、
プレドニゾロン換算で1日5ミリグラム以上のステロイドを、
3か月以上使用したようなケースでは、
アレンドロネートの使用が、
背骨の骨折のみならず、
股関節の骨折のリスクも明確に予防することがほぼ確認されました。

従って現状はステロイド誘発性骨粗鬆症による骨折予防の治療として、
アレンドロネートが有用な選択肢の1つであることは、
間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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二次検査までの時間と大腸癌の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
便潜血陽性から大腸ファイバーまでの期間と予後.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
一般的に行われている大腸癌検診で、
精密検査の指摘を受けてから実際に検査を受けるまでの時間と、
発見される病変の進行度についての論文です。

これは臨床に直結する研究で、
他愛がないように思われがちですが、
大変意義のあるものだと思います。

大腸癌の検診としては、
その簡便性やコストの安さから、
市町村の検診でも、
もっぱら便潜血検査が行われています。
これは便を通常2回以上別の日に採取して、
人間の血液由来のヘモグロビンが検出されるかを見るもので、
検出された場合には、
微量な出血が大腸の粘膜から生じていると判断して、
大腸の内視鏡検査(もしくは直腸鏡や3次元CTなど代替検査)に、
進むことが通常です。

便を採るだけの古い検査で、
こんなもので何が分かるのかと、
馬鹿にされる方もあるかも知れませんが、
30年に渡る長期間において、
大腸癌のよる死亡のリスクを、
最大で3割程度減少させる効果が確認されています。

これだけ明確に癌による死亡のリスクを低下させるような癌検診は、
他には殆どなく、
あってもどの検査をどのような対象者に行うべきかについては、
多くの議論がありますから、
便潜血検査による大腸癌検診のように、
その有効性が科学的に確認され実証されている検診は、
他にはないと言って良いと思います。

しかし、
この検査の大きな問題は、
便潜血検査単独では診断的な意味はなく、
陽性であった対象者が、
大腸内視鏡などの二次検査をして初めて、
大腸癌かどうかが診断される、
と言う点にあります。

そのために陽性であってもその結果を軽視して、
二次検査を受けずにスルーしてしまったり、
受けても何か月も経ってから、
というようなことも稀ではありません。

僕がとても印象に残っているケースでは、
集団検診である年に便潜血が陽性になったのですが、
その年度は二次検査は受けずに放置していて、
その翌年の検診で再度陽性となったので、
初めて大腸内視鏡検査を受けたところ、
もう進行癌の状態で手術はしたものの、
その半年後に亡くなった、という実例がありました。

そのために検診の説明会などでは、
早期発見のために、
必ず陽性の結果が出たらすぐに二次検査を受けるように、
という説明をしています。

しかし、実際にはその根拠が、
それほど明確にある、という訳ではありません。

便潜血検査が陽性と報告されてから、
1か月以内に大腸内視鏡検査をしても、
半年以上経ってから検査をしても、
それで患者さんの予後が変わるかどうかは、
これまでに確かに分かっていることではないのです。

そこで今回の研究では、
カリフォルニアにおいて2010年から2014年に、
50から70歳で便潜血検査による大腸癌検診を受け、
結果が陽性で大腸内視鏡検査を施行した、
70124名を対象として、
便潜血の陽性が報告されてから、
大腸内視鏡検査が施行されるまでの期間と、
大腸癌や進行癌のリスクとの関連を検証しています。

その結果…

二次検査により2191例の大腸癌が診断され、
そのうちの601例はリンパ節転移のあるステージ3と、
遠隔転移のあるステージ4を併せた大腸進行癌でした。
便潜血陽性が判明してから、
30日以内に大腸内視鏡検査を施行した場合と比較して、
9か月までに施行された場合の大腸癌発見のリスクと、
大腸進行癌が発見されるリスクは、
有意な差はありませんでした。
その一方で10から12か月後に施行された場合には、
30日以内に施行された場合と比較して、
大腸癌が発見されるリスクが1.48倍(95%CI;1.05から2.08)、
進行大腸癌が発見されるリスクは1.97倍(95%CI;1.14から3.42)、
それぞれ有意に増加していました。
更に12か月後以降に施行された場合には、
大腸癌が発見されるリスクが2.25倍(95%CI;1.89から2.68)、
進行大腸癌が発見されるリスクは3.22倍(95%CI;2.44から4.25)、
とこれもそれぞれ有意に増加していて、
便潜血陽性が判明してから10か月を超えると、
時間が経つほど大腸癌も多く見付かり、
進行癌もそれだけ増加していることが確認されました。

この進行癌の増加が、
便潜血陽性の結果を放置したことによると、
今回の結果のみから確定することは出来ませんが、
一定の蓋然性のあることも確かで、
倫理的にわざわざ二次検査までの時間を延ばして、
その影響を見るような臨床試験は実際には不可能なので、
今後この問題が、
これ以上明確な結論に至ることは、
ないようにも思います。

全ての癌が早期発見により予後の改善に結び付くとは言い切れず、
むしろ違いはないという結果の方が多いのですが、
大腸癌に関しては、
二次検査は速やかに行うことが、
予後の改善にも結び付く可能性が高いと、
そう考えて早期に検査を受けた方が良いようです。

皆さんも便潜血検査が陽性になった場合には、
極力3か月以内には、
大腸内視鏡検査を受けるようにして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


降圧剤の高齢者肺炎予防効果(高齢者高血圧診療ガイドライン2017を考える) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとACEの肺炎予防効果.jpg
2011年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
広く使用されている降圧剤の、
肺炎予防効果を検証したメタ解析の論文です。

これはひょっとしたら以前にもご紹介したかも知れません。

ただ、今回は「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」に、
誤嚥性肺炎の既往のある高齢者の高血圧治療には、
肺炎予防効果を期待してACE阻害剤を第一選択として検討することが、
推奨グレードBとして考慮されていたので、
そこの引用文献も含めてこの知見を検証してみたいと思います。

ACE阻害剤は現在降圧剤の第一選択薬の1つですが、
その副作用として多く認められるのが空咳です。
これはブラジキニンやサブスタンスPの上昇によるとされていて、
これにより咳反射が誘発されるのです。
サブスタンスPは嚥下反射の誘発にも関与していて、
その加齢による減少や感受性の低下が、
誤嚥の増加の原因であると考えられています。
とすれば、ACE阻害剤を使用することにより、
高齢者ではサブスタンスPが増加し、
嚥下反射や咳反射を刺激して、
誤嚥性肺炎を予防するという可能性が示唆されます。

ガイドラインにおいて引用されているのがこちらです。
ACE阻害剤による肺炎予防効果.jpg
これは1999年のAmerican Journal of Hypertension誌に掲載された、
日本の研究者による論文で、
65歳以上で肺炎を来した55のケースと、
年齢や性別をマッチさせた220例のコントロールを比較して、
ACE阻害剤やカルシウム拮抗剤の使用と、
肺炎のリスクとの関連を検証したものです。

その結果、
関連する因子を補正した上で、
降圧剤未使用と比較して、
カルシウム拮抗薬の使用では肺炎リスクは1.84倍(95%CI;0.84から3.78)と、
有意ではないものの増加する傾向を示した一方で、
ACE阻害剤の使用により、
肺炎リスクは62%(95%CI;0.15から0.97)有意に低下していました。

ただ、概略でもお分かりのように、
例数も少なく別個の事例をマッチングさせただけですから、
それほど精度の高い臨床データとは言えません。

最初にご紹介した論文はガイドラインには引用されていないのですが、
それまでの同様の知見をまとめて解析したもので、
37の関連する文献をまとめて解析した結果として、
ACE阻害剤の使用は未使用との比較で、
肺炎リスクを34%(95%CI;0.55から0.80)、
ARBとの比較では31%(95%CI;0.56から0.85)、
それぞれ有意に低下させていました。
アジアでの臨床研究がこの分野では多いこともあり、
アジアの患者さんのみの検証では、
肺炎のリスク低下は57%(95%CI;0.34から0.54)とより大きく、
非アジア人種のみの検証では、
有意なリスク低下は認められませんでした。
また、脳卒中の既往のある患者さんに限って解析すると、
これもコントロールと比較して54%(95%CI;0.34から0.62)と、
全体より大きな肺炎リスクの低下を認めていました。

従って、ACE阻害剤が高齢者の肺炎リスクを低下することは、
ほぼ事実であると考えて良く、
そこに人種差があるかどうかはまだ明確ではありませんが、
データの主体はアジア人種のもので、
脳卒中の患者さんでは嚥下障害のあることが多いため、
よりその効果は期待出来る、
と言うことになります。

脳卒中後や高齢者で肺炎の既往のある場合の降圧には、
ACE阻害剤を優先することが、
肺炎リスクの低下という観点からは、
望ましいと考えてほぼ間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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