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デフィシル菌感染症再発に対する制酸剤の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デフィシル菌と酸抑制剤.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
デフィシル菌による偽膜性腸炎の再発に対する、
制酸剤の影響についての論文です。

クロストリジウム・デフィシル菌というのは、
嫌気性有芽胞菌という分類に属する細菌で、
破傷風の原因である破傷風菌や、
食中毒の原因となるボツリヌス菌などと、
同じ仲間に属する病原体です。

この細菌は人間の腸の常在菌で、
日本人の大人の1割は持っている、
という報告もありますが、
通常は人間には悪さをしません。

それが問題になるのは、
主に抗生物質の使用時で、
抗生物質の使用により、
大腸の正常な菌叢が乱され、
腸内細菌が死滅すると、
このデフィシル菌が異常に増殖し、
偽膜性腸炎という名称の、
下痢を伴う腸炎を起こします。

ポイントは抗生物質を使用していて、
下痢の症状が出現したら、
すぐに薬を中止することで、
軽症であればそれで腸内菌叢が正常に復すれば、
デフィシル菌の増殖も抑えられて元に戻ります。

ただ、
実際には全身状態が悪く、
抗生物質の使用が必須の患者さんで、
こうしたことが起こると、
免疫力の低下なども相俟って、
経過は遷延して重症化することも稀ではなく、
デフィシル菌の除菌のために、
再度抗生物質を使用することも已む無し、
という事態になります。

こうした場合に使用される薬剤の筆頭は、
バンコマイシンと呼ばれる抗菌剤ですが、
一旦は改善しても、
再発が多いことが知られています。

このデフィシル菌腸炎の再発のリスクの1つとして、
プロトンポンプ阻害剤やH2阻害剤などの、
胃酸を抑える薬の影響が以前から指摘されています。

以前ご紹介したメタ解析の結果では、
2012年の時点の報告で、
プロトンポンプ阻害剤の使用により、
デフィシル菌による腸炎のリスクが、
1.7倍程度増加するという結果になっていました。

ただ、
それほど精度の高い研究がない上に、
初発と再発の腸炎も区別されていないなど、
まだその結果は確定的なものとは言えませんでした。

今回の研究も、
これまでのデータをまとめて解析したものですが、
一度デフィシル菌による腸炎を来した患者さんの、
再発のリスクに対象を絞っている点と、
年齢や基礎疾患などの影響する因子を、
補正して解析しているという点が特徴です。

16の観察研究をまとめて解析した結果として、
トータル7703名の、
デフィシル菌による腸炎に罹患した患者さんのうち、
19.8%に当たる1525名が腸炎を再発していました。

制酸剤を未使用の患者さん3665名のうち、
17.3%に当たる633名が再発したのに対して、
制酸剤を使用している患者さん4038名のうち、
22.1%に当たる892名が再発していました。
解析の結果制酸剤の使用により、
腸炎再発のリスクは1.52倍(95%CI; 1.20から1.94)
有意に増加していました。
これを年齢や基礎疾患などの因子を補正して解析すると、
制酸剤による腸炎再発のリスクは、
1.38倍(95%CI; 1.08から1.76)と、
関連は弱くなったものの矢張り有意に増加していました。

解析された殆どの研究は、
プロトンポンプ阻害剤のみが対象となっていて、
一部の研究はH2ブロッカーとプロトンポンプ阻害剤が、
区別なく対象となっていましたが、
明確に腸炎の再発リスクが増加していたのは、
プロトンポンプ阻害剤のみでした。

このように今回の再検証においても、
デフィシル菌による腸炎再発のリスクは、
制酸剤、特にプロトンポンプ阻害剤の使用により、
有意に増加していました。
ただ、今回も対象となっているのは観察研究のみで、
その精度はそれほど高いものではなく、
関連する因子を補正すると、
その関連性は微妙なものになっていました。

そんな訳でこの問題を現時点で、
そこまで深刻に考える必要はないのですが、
特に偽膜性腸炎の罹患後には、
胃酸抑制剤の使用は必要最小限にすることが、
不要なリスクを増加させないために重要であることは、
間違いのないことだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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セレコキシブはアスピリンとの併用でも消化管出血を起こしにくいのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
セレコキシブとNSAIDSの比較.jpg
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
痛み止めとアスピリンを一緒に使った場合の、
消化管出血のリスクについての論文です。

ロキソニンやボルタレンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤は、
痛み止めとして広く使用されている薬です。

健康に大きな問題のない人が、
短期間の使用を行うにおいては、
その鎮痛や消炎の効果は確実で強く、
有効性と安全性のバランスもとれた薬ですが、
長期に使用する際や、
心血管疾患や腎機能低下などを持つ患者さんでは、
その副作用や有害事象のリスクが高くなることが、
大きな問題となります。

非ステロイド系消炎鎮痛剤の、
最も頻度の高い有害事象の1つは、
潰瘍などによる消化管出血です。
非ステロイド系消炎鎮痛剤の基本的な作用である、
プロスタグランジンの抑制により、
消化管の粘膜の保護作用も抑制され、
それにより粘膜障害による出血が起こりやすくなるのです。

特に心筋梗塞後などの患者さんで、
それ自体出血リスクを増加させる、
低用量のアスピリンを使用している場合に、
非ステロイド系消炎鎮痛剤を併用すれば、
消化管出血のリスクはより高まることが予想されます。

アスピリンを長期使用しているような患者さんでは、
消化管出血のリスクが高いと想定される場合には、
プロトンポンプ阻害剤という胃薬が、
その予防に併用されることがしばしばあります。

また、非ステロイド系消炎鎮痛剤の中でも、
COX2選択阻害剤と呼ばれる薬剤
(日本での保険適応はセレコキシブのみ)は、
それ以外の薬剤と比較して、
消化管出血の頻度は少ないという報告が多くあります。

ただ、実際にアスピリンと併用して使用した際の、
セレコキシブと他の非ステロイド系消炎鎮痛剤の安全性の比較は、
これまでに殆ど行われていません。

そこで今回の研究では、
香港の単独施設において、
心血管疾患で低用量アスピリンを使用していて、
関節炎のために非ステロイド系消炎鎮痛剤を併用しており、
消化管出血を来した患者さん514名を登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
出血の原因である潰瘍などが治癒したことを確認して、
一方はセレコキシブを1日200ミリグラムで使用し、
もう一方は古いタイプの非ステロイド系消炎鎮痛剤である、
ナプロキセン(商品名ナイキサンなど)を1日1000ミリグラム使用して、
18か月の経過観察を行っています。

アスピリンは1日80ミリグラムで使用され、
プロトンポンプ阻害剤であるエソメプラゾール(商品名ネキシウム)が、
1日20ミリグラムで両群で使用されています。

その結果…

セレコキシブ群では14名が消化管出血を再発したのに対して、
ナプロキセン群では31名が再発していて、
18か月の累積リスクは、
セレコキシブ群で5.6%に対して、
ナプロキセン群で12.3%で、
セレコキシブはナプロキセンと比較して、
消化管出血リスクは56%有意に抑制していました。
(95%CI; 0.23 から0.82)

このデータはほぼ予測の範囲の結果と思いますが、
臨床的な感覚ではナプロキセンの1日1000ミリというのは、
セレコキシブの1日200ミリよりかなり強いという印象です。
実際セレコキシブの日本での上限量は1日400ミリグラムであるのに対して、
ナプロキセンは1日600ミリグラムで1000ミリは日本では認められていない量です。

従って、
単純にナプロキセンよりセレコキシブの方が、
アスピリンとの併用で安全、
というようにも言い切れませんし、
そもそもアスピリンとプロトンポンプ阻害剤と非ステロイド系消炎鎮痛剤という、
かなり問題のある併用療法が、
果たして心血管疾患の予防として成立しているものなのか、
という点は疑問にも思いますが、
実地に近い組み合わせの薬の併用の効果を、
厳密に検証した意義は大きく、
今後のデータの蓄積をまた期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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「善玉」コレステロールは高いほど良いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
HDLコレステロールと死亡リスク.jpg
今年のEur Heart J誌に掲載された、
HDLコレステロールの濃度と死亡リスクとの関連を検証した論文です。

HDLコレステロールは俗に「善玉コレステロール」
と呼ばれています。

それはこれまでの疫学データにおいて、
HDLコレステロールが低いことが、
独立した心血管疾患のリスクになることが分かっており、
HDLの持つ組織からコレステロールを引き抜くような作用も、
動脈硬化の進行阻止に働くと推測されているからです。

しかし、コレステロール(LDLコレステロール)を下げる、
という点についてはスタチンを始めとして、
有効性の確立された薬剤があり、
心血管疾患の予防効果もあることは確認されていますが、
同じようにHDLコレステロールを上げることにより、
心血管疾患が予防されるかどうかは、
まだ確認はされていません。

これは安全性の高い方法により、
確実にHDLコレステロールを増加させるような治療法が、
現時点では存在していない、
という点が最大の理由で、
2000年代にCETP阻害剤という、
直接的にHDLを増加させる作用を持つ薬が開発されましたが、
臨床試験で血圧の上昇、
死亡事例の増加などが認められたため、
その発売は中止されています。

HDLコレステロールを上昇させることが、
LDLコレステロールの低下療法と独立して、
意味のある治療行為であるかどうかは、
まだ結論は出ていないのです。

確かに疫学データとしては関連があるのですが、
本当にHDL自体が「善玉」であるのか、
それとも原因は他にあって、
代理のマーカーに過ぎないものなのかは、
まだ議論のあるところです。
HDLのコレステロール引き抜き能には差があり、
それはHDLの濃度とは必ずしも相関しない、
という実験データも存在していて、
それが事実であるとすると、
HDLの数値以外に、
もっとコレステロール引き抜き能を示すマーカーがないと、
治療の指標には成り得ないのかも知れません。

また、HDLコレステロールは、
高ければ高いほど良い、
という意見がある一方で、
遺伝子の変異を調べたようなデータでは、
HDLコレステロールが非常に高くなるような変異では、
心血管疾患リスクが増加するのではないか、
ということを示唆する結果も発表されています。

HDLコレステロールの健康影響については、
まだ不明な点も多いのです。

今回の研究はデンマークにおいて、
2つの大規模な疫学研究のデータをまとめて解析する方法で、
トータル男性52268名、女性64240名を登録し、
長期間の経過観察を行って、
HDLコレステロール値と死亡リスクとの関連を検証しています。

その結果、
男女ともHDLコレステロールが低くても高くても、
どちらも死亡リスクが増加する、
というこれまでの見解とは異なるデータが得られました。

男性においては、
総死亡のリスクはHDLコレステロールが73mg/dLが最も低く、
それと比較して97から115mg/dLでは、
総死亡のリスクは1.36倍(95%CI; 1.09から1.70)に、
116mg/dL以上では2.06倍(95%CI; 1.44から2.95)に、
それぞれ有意に増加していました。

女性においては、
総死亡のリスクはHDLコレステロールが93mg/dLが最も低く、
それと比較して135mg/dL以上では、
1.68倍(95%CI; 1.09から2.58)と有意に増加していました。

このようにHDLコレステロールが非常に高いことは、
必ずしも心血管疾患のリスクの低下とは、
結び付かない可能性もあり、
おそらくは現行のHDLコレステロールという検査は、
単純に「善玉コレステロール」を測定しているという訳ではない、
というのが実際なのだと思うので、
今後のより確実な指標の出現を待ちたいと思いますし、
この数値の評価についても、
今後の検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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肥満治療薬リラグルチドの新規糖尿病予防効果(3年間の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日でなので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リラグルチドの糖尿病予防効果.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
肥満症の治療薬による、
新規糖尿病発症予防効果についての論文です。

肥満は世界的な健康上の問題ですが、
薬物治療という観点では、
満足のいくような、
第一選択薬と言えるような薬剤は、
未だに見付かっていません。

その候補として2015年に、
2年間の臨床試験の結果が報告され、
一定の効果が確認されたのが、
インクレチン関連薬と呼ばれるタイプの薬の一種で、
現在日本でも2型糖尿病の治療薬として使用されている、
リラグルチド(商品名ビクトーザ)という注射薬です。

この薬はGLP-1アナログと呼ばれ、
消化管ホルモンでインスリン分泌を、
食後のみに刺激する作用を持つ物質です。
インスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンを抑制する働きがあり、
また食事の胃からの排出時間を延ばし、
満腹が得やすくなるので、
当初より体重減少に結び付くことが期待されていました。

同じインクレチン関連薬には、
代謝酵素の阻害剤であるDPP4阻害剤がありますが、
効果が間接的でGLP-1のみを増加させる訳ではないので、
体重減少効果はあまり認められていません。

現状のビクトーザの日本での適応用量は、
最大で1日0.9㎎です。
海外での用量の上限はその倍の1.8㎎です。

しかし、その効果を見る臨床試験においては、
1日3.0㎎までの用量が使用され、
その範囲では用量依存的に体重の減少が、
確認されています。
これは主に食欲の減少によると考えられています。

現行の用量が低く抑えられているのは、
安全性の面での懸念もありますが、
主にはその血糖減少作用自体は、
0.9から1.8㎎くらいで頭打ちになっているからです。

しかし、この薬を肥満症に対して使用するとすれば、
より高用量で効果が期待出来る、
と言う可能性があるのです。

2015年のNew Englands…誌に掲載された論文によると、
2年間の糖尿病ではない高度の肥満症の患者さんへの使用により、
偽薬の使用群では体重減少は2.8±6.5㎏であったのに対して、
リラグルチド使用群では8.4±7.3㎏減少しており、
リラグルチドは有意に体重を減らしていることが確認されました。

今回の論文ではこの臨床試験をもう1年延長し、
3年間の経過を観察した結果が報告されています。
対象は糖尿病の基準には達していない、
BMIが30以上の肥満の患者と、
脂質異常症もしくは高血圧がある、
BMIが27.0以上の患者、
トータル2254例です。

3年間(160週間)経過した時点で、
偽薬の使用群では体重減少は1.9±6.3㎏であったのに対して、
リラグルチド使用群では6.1±7.3㎏減少しており、
リラグルチドは3年間の観察期間においても、
有意に体重を減らしていることが分かります。

今回主に解析の対象となっているのは、
新規の糖尿病の発症リスクで、
160週の時点でリラグルチド群では、
その間まで継続されていた1472名中、
2%に当たる26名が糖尿病を発症して診断されたのに対して、
リラグルチドにより糖尿病の発症は、
有意に予防されている、と言う結果になっています。

これを登録時から糖尿病と診断されるまでの期間で解析すると、
リラグルチド群で糖尿病を発症した26名の発症時期は、
99±47週であったのに対して、
偽薬群で糖尿病を発症した46名の発症時期は、
87±47週となっていて、
明確にリラグルチドの使用により、
糖尿病の発症が抑制され、
かつ発症までの期間がより延長した、
という結果が得られました。

そんな訳で3年間という長期の使用により、
肥満の患者さんにおいて、
リラグルチドは体重をリバウンドなく低下させるともに、
新規の糖尿病の発症も明確に予防しています。

ただ、リラグルチドをこの量で使用すると、
吐き気が4割、嘔吐が2割に発症するなど、
消化器系の有害事象はかなり頻度が多くなり、
実際には多くの患者さんが途中で治療の継続を断念しています。

従って、日本でこの薬を肥満治療薬として使用するのは、
用量の問題も考えるとかなりハードルは高いと思われるのですが、
糖尿病の発症リスクが高い対象に対して、
これだけ明確に糖尿病の発症を減らすというデータは、
これまでにあまりなく、
今後のデータの蓄積を注視したいと思います。

それでは今日はこのくらで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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清涼飲料水と脳卒中や認知症のリスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
清涼飲料水と認知症リスク.jpg
今年のStroke誌に掲載された、
砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取と、
脳卒中および認知症のリスクとの関連を検証した論文です。

砂糖を多く含むようなジュースを飲むことは、
食後の血糖値を上昇させ、
それがインスリンの効きを悪くして、
動脈硬化を進行させるという疑いが指摘されています。
最近の多くの清涼飲料水で使用されている人工甘味料は、
カロリーはなく甘みを感じるので、
そうしたリスクはないと考えられていましたが、
甘味の受容体を介して膵臓を刺激したり、
腸内細菌叢を変化させて糖質の吸収を増加させる、
というような悪影響を指摘する報告もあります。

これまでに砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取と、
脳卒中のリスクとの関連が指摘されていますが、
そうした関連はないとする報告もまたあります。
清涼飲料水と脳卒中との関連については、
これまでにあまり詳細な分析が、
されたことはないようです。
更には砂糖を含む清涼飲料水と人工甘味料との違いについても、
その量を含めて直接比較されたことはあまりないようです。

今回の研究はフラミンガム心臓研究という、
有名な大規模疫学データを活用して、
45歳を超える2888名を脳卒中のコホートとして、
60歳を超える1484名を認知症のコホートとして、
アンケートによる砂糖や人工甘味料を含む清涼飲料水の摂取量と病気との、
関連を検証しています。

リスクは10年間の累積発症率として算出され、
年齢、性別、カロリー摂取量、食事内容、運動量、喫煙の有無、
そして認知症のコホートでは教育レベルが、
関連する因子として補正されリスクが比較されています。

その結果…

観察期間中に脳卒中の事例97例(うち虚血性梗塞が82例)、
認知症の事例が81例(うちアルツハイマー型認知症が63例)
発症していました。

ここで人工甘味料を含む清涼飲料水を、
飲む習慣のない人と比較して、
週に0から6回飲む人は、
虚血性梗塞のリスクが2.62倍(95%CI; 1.26から5.45)、
毎日飲む習慣のある人は、
虚血性梗塞のリスクが2.96倍(95%CI; 1.26から6.97)、
認知症のリスクが2.89倍(95%CI; 1.18から7.07)、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の項目には有意差のあるものはありませんでした。
つまり、砂糖含有の清涼飲料水の摂取量と、
認知症と脳卒中との間には有意な関連はなく、
人工甘味料を含む清涼飲料水を、
週に0から6回飲む人も、
認知症のリスクとの関連は認められませんでした。

ここで高血圧や糖尿病といった、
心血管疾患のリスクを更に補正すると、
虚血性梗塞のリスクと人工甘味料との関連は認められましたが、
それ以外の関連は認められなくなりました。

今回のデータは例数や観察期間においては、
これまでにない規模のものなのですが、
結果はそれほどクリアなものとは言えません。

結論的には人工甘味料を含む清涼飲料水のみで、
認知症や脳卒中のリスクが上昇した、
ということになりますが、
認知症のリスクについては用量依存性はなく、
毎日飲む習慣のある人のみにリスクの増加が認められています。
何故もっと悪そうな砂糖を含む清涼飲料水では、
同様の関係が認められないのでしょうか?
明確な説明を付けるのは難しそうで、
むしろ何か関連する因子の影響が、
そうした見かけ上の関係を、
見せているだけなのではないか、
というように思えてなりません。

そんな訳で簡単に清涼飲料水で認知症や脳卒中が増えるとは、
現時点では言えないように思いますが、
人工甘味料のみでリスクが増加するという知見は興味深く、
今後の再検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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石原がお送りしました。

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ステロイド単回投与の急性咽頭炎への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デキサメサゾンの急性咽頭炎への効果.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
急性咽頭炎の患者さんに対する初期治療として、
1回のみ比較的大量のステロイドを飲み薬として使用することの効果を、
検証した論文です。

急性の咽喉の痛みというのは、
非常に良く見られる症状で、
その多くは短期間で治療をしなくても改善するものですが、
中には急激に悪化して、
食事が全く摂れなくなって、
入院を要するような事態になることもあります。

扁桃腺の炎症の場合には、
原因が溶連菌という細菌であれば、
お子さんでは抗生物質を使用して、
除菌を図ることが推奨されています。
そのために、一般の臨床において、
溶連菌の迅速テストが普及しています。

ただ、大人の場合には、
それほど明確な方針が定まっている、
という訳ではありません。

未治療で様子を見るのと比較して、
炎症を抑える作用が強いステロイド剤や、
抗生物質を症状出現後すぐに使用した場合に、
より早期に症状が改善した、
という臨床データが幾つかあります。

ただ、抗生物質とステロイドを併用している研究が多く、
ステロイドの単独の作用については明確ではありません。

今回の研究は急性の咽頭痛の症状に対して、
すぐにステロイドを単回大量経口投与した場合と、
何もしなかった場合とを、
厳密な方法で比較検証しているものです。

イギリスのプライマリケアの複数の医療機関において、
1週間以内に発症した、
咽喉の痛みと嚥下時の痛みのある18歳以上70歳以下の患者さんで、
すぐに抗生物質などによる治療は必要ないと、
主治医が判断した576名を登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分け、
一方はステロイド剤を1回内服し、
もう一方は偽薬を使用して、
登録後24時間と48時間の時点での、
症状の消失の頻度を比較検証しています。

患者さんには抗生物質をあらかじめ渡しておいて、
病状が48時間後に改善しなければ使用が指示されます。
直近のステロイド剤の使用や抗生物質の使用者、
妊娠中の女性やその可能性のある人、
糖尿病の患者さんなどは除外されています。

ステロイドはデカドロンが10ミリグラム、
1回で使用されています。
これはプレドニゾロンで60ミリグラム、
コートリルで250ミリグラムくらいに相当する、
かなりの高用量です。

その結果…

登録後24時間で完全に症状が消失した頻度は、
ステロイド使用群で全体の22.6%に当たる65名だったのに対して、
偽薬群では全体の17.7%に当たる49名で、
統計的には2群に有意な差はありませんでした。
48時間後に症状が消失した頻度では、
ステロイド使用群で35.4%に当たる102名であったのに対して、
偽薬群では27.1%に当たる75名で、
この差は8.7%(95%CI;1.2から16.2)で有意と判断されました。

咽頭培養は施行されていて、
溶連菌は2割弱くらいで検出されていましたが、
その差はステロイドの効果の差とは関連していませんでした。

このように、
咽頭炎もしくは扁桃炎と判断した段階で、
重症でなければステロイドを単回大量で使用すると、
48時間以内に症状が消失する頻度は、
10%程度増加する可能性があります。

これが最善の治療であるとは、
勿論現時点では言えませんが、
症例を選んでのステロイドの使用は、
症状が強い場合には1つの選択肢ではあると思います。
今はまだ経験的に個々の医師が行っているのが実状ですが、
今後の検証を待ちたいと思います。

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糖尿病のタイプと生命予後について(スウェーデンの20年間の検証) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病の20年の生命予後.jpg
今年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
この20年間の治療や予防の進歩に伴う、
糖尿病の患者さんの生命予後を検証した、
スウェーデンの大規模な疫学データについての論文です。

糖尿病には、
自己免疫機序によって起こり、
お子さんの時期からインスリンの注射が必要となる、
1型糖尿病と、
通常肥満や運動不足、過食などを誘因として、
中年期以降に起こり、
インスリン抵抗性とインスリン不足の両方が関与する、
2型糖尿病の2つがあります。

この20年あまりの間、
食生活などの生活の変化によって、
2型糖尿病の患者さんは増え続けていますが、
その一方で医療も進歩し、
多くの糖尿病治療薬が発売され使用されるようになり、
また糖尿病の患者さんの予後において、
最も問題となる心筋梗塞や脳卒中などの、
心血管疾患の発症予防と予後の改善においても、
それぞれ格段の進歩が見られました。

その治療や予防の介入の効果は、
実際にはどの程度のものだったのでしょうか?

今回の研究は国民総背番号制を取っているスウェーデンにおいて、
1998年から2014年の糖尿病患者さんの予後についての全データを解析し、
それを一般人口から無作為に抽出したコントロールと比較して、
この20年の治療のトレンドを検証しているものです。

臨床医としても患者さんとしても、
これは是非知りたい情報だと思いますが、
なかなか正確な統計などを取ることは、
日本では困難だと思います。

トータルで36869名の1型糖尿病の患者さんと、
457473名の2型糖尿病の患者さんが解析の対象となっています。

1998年から2014年の間において、
1型糖尿病の患者さんの総死亡のリスクは、
患者さん年間1万人当たり、
31.4件減少しました。
これは死亡率で29%の低下に相当しています。
(95%CI;0.66から0.78)
コントロールではその間の死亡数の減少は13.9件で、
死亡率の低下は23%となり、
死亡率の低下率という観点からは、
1型糖尿病とコントロールとの間に有意な差はありませんでした。

これがどういうことかと言うと、
コントロールと同じ比率の減少であれば、
それは治療の効果ではなく、
社会の状況などの変化によるものとも考えられますが、
それを超えて減少している場合には、
治療が一定の効果を死亡率の低下に与えている可能性が高い、
ということになる訳です。

同様に心血管疾患による死亡は、
年間患者さん1万人当たり26.0件低下し、
虚血性心疾患による死亡は21.7件、
心血管疾患による入院は45.7件、
この20年間で減少していました。

2型糖尿病について同様の検討を行うと、
総死亡はこの20年で69.6件減少していて、
死亡リスクは21%低下したということになります。
コントロールとの比較においては、
コントロールの総死亡低下率の方が、
13%有意に高い、という結果になっていました。

心血管疾患による入院のリスクについては、
1型糖尿病の患者さんでは20年間で36%、
2型糖尿病の患者さんでは44%の低下を示していて、
これに関してはコントロールより有意に低下していました。

この結果をどうとらえるかは非常に微妙なところです。

トータルに数で見ると、
この20年で亡くなる人の数は格段に減っているのですが、
比率で見ると病気でない方でも、
同じように減っているのです。
ただ、心血管疾患での入院で見ると、
比率で見ても減少していて、
糖尿病の治療の効果は、
その部分では明らかと言って良いと思います。

この20年で糖尿病の患者さんの予後が、
格段に改善していることは間違いがなく、
その原因は治療の進歩と共に、
トータルな住民の健康意識と、
衛生状態の改善や病気の予防などへの取り組みが、
大きな役割を果たしているようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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  • 作者: 石原藤樹
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原発性アルドステロン症と脊椎の骨折リスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルドステロン症と骨折リスク.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
原発性アルドステロン症という副腎の病気と、
骨折のリスクとの関連についての論文です。

島根大学内分泌代謝血液内科の、
杉本利嗣先生のグループの研究です。

原発性アルドステロン症は、
副腎からのアルドステロンというホルモンが、
過剰に分泌されるために、
血圧が上昇し、血液のカリウム値が低下する、
という病気です。

以前は通常の高血圧として診断がされないケースが多かったのですが、
最近ではレニン活性やアルドステロン値を測定することが一般化したので、
多く診断されるようになりました。

さて、高血圧や心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患では、
骨粗鬆症やそれに伴う骨折が多い、
という疫学データが複数存在しています。
その原因の1つとして、
アルドステロンを含むレニン・アンジオテンシン系の、
過剰な反応の影響を指摘する意見があります。

レニンの刺激によって活性化される、
アンジオテンシンⅡという昇圧物質は、
骨を吸収する破骨細胞を活性化して、
骨量の減少につながる可能性があります。
また、アルドステロンは遠位尿細管という部分での、
カルシウムの再吸収を抑制する作用があることが分かっていて、
これは結果的にカルシウムの排泄を増加させるので、
血液のカルシウムの低下が副甲状腺ホルモンを刺激して、
骨の吸収の増加に繋がり、
骨量が減少する、という可能性も想定されます。

そこで今回の研究では、
56名の原発性アルドステロン症の患者さんと、
年齢や性別をマッチングさせた56名の病気のないコントロールとを比較して、
椎骨(背骨)の骨折との関連を検証しています。
これは経過を追った研究ではなく、
登録時に既往もしくはレントゲンの検査で、
骨折の確認された頻度を比較しているもののようです。

原発性アルドステロン症の患者さんは、
そのうちの16名が片側の腺腫が見つかって手術を受けていて、
12名の患者さんは両側の過形成との診断になっています。
静脈サンプリングまで施行されたのは34名で、
それ以外の方は負荷テストまででの診断となっています。
つまり、治療と未治療の患者さんが混在しています。

その結果、
原発性アルドステロン症の患者さんのうち、
45%に当たる25名で脊椎の骨折が見つかり、
コントロールでは23%に当たる13名でした。
アルドステロン症群で有意に骨折の頻度が高いという結果です。
またより重症の骨折の比率も、
アルドステロン症群で多いという結果になっていました。
他に両群で差のあった項目は、
血圧値がアルドステロン症群で有意に高かった点と、
尿中へのカルシウム排泄が、
アルドステロン症群で高かったという点のみでした。
コントロール群でのアルドステロンなどの測定は行われていません。

患者さんの年齢は50代の後半で、
それで45パーセントに背骨の骨折というのは、
平均からしてかなりの高頻度と言うことが出来ます。
骨量の測定は行われていますが、
こちらは両群で有意な差は見られていません。

何故こんなにも骨折の患者さんが多いのでしょうか?

原発性アルドステロン症の存在のみを理由にするには、
この頻度の多さはちょっと説明が困難であるような気もします。

この研究は本来は未治療のアルドステロン症のみで比較するか、
治療後と未治療とを比較する、
という手法が望ましいと考えられますが、
実際には例数を集めることが困難なので、
こうした区分になったのではないかと思われます。
コントロール群の血圧は正常なので、
血圧値に差が付いているという点も問題だと思います。
骨折の差が血圧の差であるという可能性も否定は出来ないからです。

血圧の治療薬には立ちくらみを起こすようなものもあり、
アルドステロン症の内科的治療薬として使用されるアルドステロン拮抗薬は、
利尿作用がありますから、
脱水によるふらつきなどの発症が、
骨折のリスクになった可能性も否定は出来ません。

従って、今回の不充分なデータからは、
骨折の原因とアルドステロン症との関連については、
確かなことは言えないのですが、
高血圧と骨折とに関連があり、
それが尿中のカルシウム排泄と関連がありそうだ、
という指摘は興味深く、
アルドステロン症に限らず高血圧の患者さんを治療する場合には、
骨折や骨粗鬆症のリスクの評価が、
重要であることは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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中年期のメタボが認知症の原因となるメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症リスクと中年期の動脈硬化リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
中年期の糖尿病などの動脈硬化リスクが、
その後のアルツハイマー型認知症の発症に結び付く、
そのメカニズムを検証した論文です。

アルツハイマー型認知症は加齢に伴い、
脳にβアミロイドなどの異常タンパクが沈着する病気です。

そのため、直接的には心筋梗塞や脳卒中のような、
動脈硬化によって起こる病気とは別物なのですが、
その一方で動脈硬化を進めるような要因が、
その後のアルツハイマー型認知症のリスクになることも、
また確かなことだと考えられています。

この場合、認知症になった時点での身体の状態ではなく、
病気が発症する10年や20年前の状態の方が、
より病気との関連が大きいと報告されています。

これは考えてみれば当然のことですが、
それを証明するには非常に時間の掛かる臨床研究が必要なので、
最近まで分からなかったような事実も多いのです。

それでは、何故動脈硬化のリスクがあると、
アルツハイマー型認知症が起こりやすいのでしょうか?

1つの可能性としては動脈硬化に伴う脳の虚血性の変化が、
認知症の発症に関係しているという推測が可能です。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症というのは、
基本的には別の病気ですが、
実際には両者が合併しているケースも多いと、
考えられているからです。

その一方で、
何等かのメカニズムにより、
動脈硬化のリスクがβアミロイドなどの異常タンパクの蓄積と、
結び付いている、という可能性も否定は出来ません。

そこで今回の研究では、
アメリカの3つの地域において、
平均年齢52歳(45から64歳)の登録の時点で認知症のない346名を登録し、
動脈硬化のリスク因子を調査した上で、
平均年齢76歳(67から88歳)の時点でアミロイドPETという、
非侵襲的に脳のβアミロイドタンパクの沈着を計測出来る検査を行って、
アミロイドの沈着と動脈硬化のリスク因子との関連を検証しています。
平均の観察期間は23.5年という、
非常に手の掛かった臨床研究で、
勿論これだけのために行われた研究ではなく、
複数の目標が別個に設定されているものだと思います。

アミロイドPETは特殊な放射線を注射して、
脳の画像を撮り、
通常アミロイドの沈着は殆ど見られない小脳と比較して、
大脳皮質を平均化した時のアミロイドの沈着が、
1.2倍以上になる場合をこの試験では陽性と判断しています。

動脈硬化のリスク因子としては、
BMIが30以上の肥満、喫煙、高血圧、糖尿病、
総コレステロール200mg/dL以上が解析項目となり、
年齢、性別、人種、教育レベル、
アルツハイマー型認知症の遺伝素因である、
APOE遺伝子の変異の有無で、
補正がわれています。

その結果、
登録時の動脈硬化の危険因子が全くない場合と比較して、
リスク因子が1つあると、
アミロイドの病的な沈着が20年後に生じるリスクは、
1.88倍(95%CI;0.95から3.72)、
2つ以上あると2.88倍(95%CI;1.46から5.69)と、
2つ以上のリスクがあると有意に病的なアミロイドの沈着が認められる、
というデータが得られました。
これを高齢の時点でのリスクで解析しても、
アミロイドの沈着との有意な相関は認められませんでした。

つまり、それほど明解な結果とまでは言えませんが、
中年期に動脈硬化のリスクが高いほど、
その20年後にアルツハイマー型認知症になるリスクが高まり、
それがβアミロイドの沈着自身と関連している可能性が高い、
という結果です。

仮にこれが事実であるとすれば、
中年以前の時期からそうした生活習慣を改善することにより、
脳血管性認知症のみならず、
アルツハイマー型認知症のリスクの予防にもなる、
という可能性が高いということになり、
今後そうした介入試験による検証が待たれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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腸内細菌の多様性と食物繊維が肥満を予防する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腸内細菌の多様性と体重.jpg
今年のInternational Journal of Obesity誌に掲載された、
腸内細菌の種類や多様性と、
体重の増加のし易さとの関連についての論文です。

肥満が心血管疾患や糖尿病の大きな原因であることは、
間違いのない疫学的な事実です。

これまでの双子の研究などの結果によると、
肥満の原因の40から75%は遺伝により決まっています。
これは裏を返せば、
全く同じ遺伝子を持っていても、
環境要因により肥満になることもあり、
またならないこともある、
ということを示しています。

肥満の原因はカロリーの摂り過ぎと運動不足である、
というように良く言われます。
それは事実ではありますが、
その一方で、
全く同じ食事量と運動量であっても、
矢張り太りやすい人とそうでない人とは存在しています。

それは代謝量など遺伝的に決まっている因子もありますが、
それだけで説明が付くものではありません。

それでは、
生まれつき決まっているものではないのに、
同じカロリーを摂って太りやすい人と、
太りにくい人との間には、
どのような違いがあるのでしょうか?

最近この点で注目をされているのが、
腸内細菌叢の違いです。

腸内細菌が身体の代謝に大きな影響を与えていることは、
最近の研究のトレンドの1つで、
その違いにより食物の身体での利用のされ方が異なり、
同じカロリーを同じように摂っていても、
体重の増加の仕方が違うということは、
ほぼ間違いのない事実です。

しかし、それではどの腸内細菌が体重増加に繋がり、
どの腸内細菌が体重増加を抑制しているのか、
というような点については、
研究によってもその結果には大きな違いがあり、
ある論文では悪の権化のようにされている細菌が、
他の論文では正義の味方のような評価を受けている、
というような食い違いも稀ではありません。

動物実験ではなく、
人間を対象とした臨床データも、
現時点では不足しています。

今回の研究はイギリスの双子研究のデータを活用したもので、
時間を追った体重増加の経過と、
腸内細菌の遺伝子レベルでの分析結果との関連を検証しています。
双子の研究であるので、
遺伝の影響を簡単に除外出来ることが利点です。

トータルな対象者数は1632名で、
便のサンプルを採取して、
遺伝子の種別による解析を行い、
どのような腸内細菌が含まれているのかをマッピングして、
個々の操作的分類単位毎の体重増加との関連と、
その多様性との関連を分析しています。

その結果、
まず長期間の体重増加における遺伝の関与は41%程度で、
腸内細菌の多様性、つまり多くの種別の細菌がバランス良く存在していることが、
体重増加の抑制に有意に結びついていました。
個別の腸内細菌については、
草食動物の胃などに多く存在している、
ルミノコッカスという菌群と、
ラクノスピラと呼ばれる菌群が増加していると、
体重増加の抑制に結び付き、
最近肥満予防効果があるとする報告の多い、
日和見菌のバクテロイデスについては、
単独では体重増加のリスクとして働くものの、
菌叢の多様性が保たれていれば、
体重増加には結び付かない、という結果になっていました。
また、食物繊維の摂取量が多いことは、
これも体重増加の抑制と相関を持っていました。

要するに今回の検討では、
個々の腸内細菌よりも、
その多様性のバランスが、
健康の維持に重要で、
それが乱れることが病的な体重の増加に結び付く可能性が高い、
という結果になっています。

今回の研究は平均で9年くらいという長期の体重増加を見ていて、
例数も多く、双子の研究で遺伝の因子を除外出来るなど、
これまでの研究にはない多くの利点があり、
今後の腸内細菌叢と健康との関連の議論において、
一石を投じるような知見であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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