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急性蕁麻疹に対するステロイドの上乗せ効果について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
じんましんのステロイドの効果.jpg
2018年のAnnals of Emergency Medicine誌に掲載された、
急性の蕁麻疹症状に対する飲み薬のステロイド(糖質コルチコイド)の、
治療効果についての論文です。

急性のアレルギー症状として、
皮膚の一部もしくは広範囲が、
赤く腫れて膨らみ、
猛烈にかゆみを感じる急性蕁麻疹は、
通常命に関わるような病気ではありませんが、
大変不快でつらい症状です。
蕁麻疹は一定の時間が過ぎれば自然に改善しますが、
繰り返すこともしばしばありますし、
自然に治るからと言って、
何も薬も使わずに症状に耐えることは、
かなり苦痛であることは確かです。

上記の論文は救急医学領域のものですが、
救急を受診する皮膚に病気のある患者さんのうち、
7から35%は急性蕁麻疹であった、
という統計が紹介されています。

つまり、多くの一般の人にとって、
急性蕁麻疹は一刻を争うつらい症状なのです。

この急性蕁麻疹の治療には、
通常抗ヒスタミン剤という薬が使用されます。
これは風邪薬や花粉症の薬の鼻水止めの成分と同じで、
蕁麻疹の症状の原因である、
ヒスタミンという物質の働きをブロックする薬です。
ヒスタミンが血管のヒスタミン 受容体にヒスタミンがくっつくと、
細い血管が広がり、水が血管の外に染み出して、
むくみを作ります。
ヒスタミンを人間の皮膚に注射すると、
皮膚はたちまちむくんで赤く腫れ、
猛烈な痒みを感じます。
これが要するに、「蕁麻疹」と言われる現象なのです。

2013年の国際的な蕁麻疹のガイドラインによると、
抗ヒスタミン剤の使用以外に、
ステロイド剤(糖質コルチコイド)の服用が、
症状の持続期間と強さの改善に、
有効な可能性がある、という記載があります。

ただ、この記載の根拠となっているのは、
たった2つの臨床研究だけで、
抗ヒスタミン剤にステロイドを上乗せすることにより、
症状はより迅速に改善し、より完全に軽快した、
というように書かれていますが、
厳密な方法である介入試験は1つだけで、
例数も43例と少なく、
使用されている抗ヒスタミン剤は、
今では副作用が強いためあまり使用がされていない、
第一世代の薬が使われています。

従って、今の治療に近い形で、
より例数も増やした検証が、
是非必要であると考えられます。

そこで今回の臨床研究では、
フランスの2か所の救命救急部門を持つ総合病院において、
18歳以上で24時間以内に発症し、
救急外来を受診した急性蕁麻疹の患者さん、
トータル100名を、
患者さんにも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は日本でも良く使用されている、
新しいタイプの抗ヒスタミン剤レボセチリジン(商品名ザイザル)を、
1日5ミリグラムで5日間使用し、
もう一方はそれに加えて、
ステロイドのプレドニンを1日40ミリグラムを、
1日1回で4日間使用して、
その後の改善の差を比較しています。
偽薬を使用して、
どちらか分からないように条件を同じにした、
かなり厳密な方法の臨床研究です。

その結果、
治療開始後2日の時点で、
ザイザルのみの群の76%と、
ステロイドを上乗せした群の62%が、
かゆみ症状がなくなっていました。
これはどちらにも明らかな優劣は付いていません。

再燃が見られたのは、
ザイザルのみ群の24%に対して、
ステロイド上乗せ群で30%で、
これも明らかな優劣は付いていません。

両群で特に問題となるような有害事象は報告されませんでした。

このように今回の検証においては、
急性蕁麻疹の初期治療として、
抗ヒスタミン剤のみを使用しても、
ステロイドをそれに追加しても、
短期的な症状の改善には特に違いは認められませんでした。

これは勿論単純な蕁麻疹のみの症状の場合で、
呼吸困難な喘鳴を伴うような重症の事例においては、
ステロイドの使用が否定された訳ではない、
という点に注意が必要ですが、
単純な蕁麻疹のかゆみや湿疹のみの症状であれば、
それが少し強くても、
ステロイドを最初から使用することの意義は、
あまりないと考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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COPDにおける気管支拡張剤の使用と心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDにおける気管支拡張剤と心血管疾患リスク.jpg
2018年1月のJAMA Internal Medicine誌にウェブ掲載された、
COPDに使用される気管支拡張剤の、
心血管疾患リスクについての論文です。

COPDは慢性閉塞性肺疾患のことで、
主には喫煙の継続によってもたらされる、
肺の慢性の変化を総称した用語です。
その中には肺気腫や慢性気管支炎などが含まれ、
炎症などによる悪化を繰り返しながら、
徐々に呼吸機能が低下して行くのが特徴です。

このCOPDと良く似ているのが気管支喘息で、
こちらはアレルギー性の炎症が気道に起こり、
治療により呼吸機能自体は、
正常な状態に改善することが特徴です。

しかし、実際には気道の感染を繰り返して、
呼吸機能も低下することはありますし、
COPDが喘息と似通った病態を、
同時に呈することも稀ではありません。

ほんの10年くらい前には、
気管支拡張剤も吸入のステロイド剤も、
どちらも気管支喘息の薬で、
COPDへの使用は推奨されてはいませんでした。

しかし、近年になりCOPDにも、
まず抗コリン剤と呼ばれる吸入剤が有用だ、
という話になり、
それから長時間作用型のβ2刺激剤という薬が、
有用だという話になりました。

そして、まだ議論はありますが、
吸入のステロイド剤も、
COPDに使用されるようになりました。

つまり、喘息治療薬の多くが、
COPDにもその有用性を認められるようになったのです。

この抗コリン剤とβ2刺激剤はいずれも気管支拡張剤で、
吸入ステロイドは気道の炎症を抑える薬です。
持続性のβ2刺激剤の吸入薬をLABAと呼び、
持続性の抗コリン剤の吸入薬をLAMAと呼んでいます。

いずれの薬剤もその使用により、
COPDの患者さんの息切れなどの症状を改善し、
急性増悪と呼ばれる一時的な状態の悪化を、
抑制する作用があるとされています。

しかし、患者さんの生命予後を改善したり、
呼吸機能の悪化を抑制したりする効果があるのかについては、
最近肯定的なデータが少しずつ得られてはいるものの、
まだ明確な結論が出ているとは言えません。

問題はこうした喘息の治療薬はCOPDに対して使用した場合、
良い点ばかりではなく、悪い点も考えられることにあります。

吸入ステロイドは免疫を抑えて、
肺炎などの感染症を増加させるというリスクがありますし、
LABAやLAMAのような気管支拡張剤は、
以前使用されていた同種の短期作用型の薬と比較すれば、
遥かに軽度ではあるのですが、
心臓を刺激して脈拍を上昇させるような働きがあり、
このため心臓に負担を掛け、
心血管疾患のリスクを増加させる可能性が否定出来ません。

LABAやLAMAと心血管疾患との関連については、
先行研究は多くありますが、
その結果は全く問題はなかった、
というものから、
使用により1.1から4.5倍の心血管疾患のリスク増加があった、
というものまであって、
その結果は一定していません。

これまでの研究の多くは、
登録の時点で何らかの気管支拡張剤を使用していて、
直近では心血管疾患を発症していない患者さんを、
主な対象としていました。

ただ、こうした方法では、
新しく気管支拡張剤を開始した患者さんに、
比較的早期に起こった病気が除外されてしまいます。

そこで今回の臺灣の研究では、
臺灣の大規模な医療保険データを活用して、
年齢が40歳以上でCOPDという診断を受け、
まだLABAもLAMAも使用していない284220名の患者さんを抽出し、
平均観察期間2.0年において、
その後のLABAもしくはLAMAの使用と、
心血管疾患の発症との関連を検証しています。
処方を継続している期間と、
病気の発症との関連が検証されているという点が、
今回の研究の特徴です。

その結果、
観察期間中に37719名の患者さんが心血管疾患を発症していて、
LABAを開始して30日以内の発症リスクは、
未使用の1.50倍(95%CI; 1.35から1.67)、
LAMAを開始して30日以内の発症リスクは、
未使用の1.52倍(95%CI; 1.28から1.80)、
それぞれ有意に増加していました。

この場合の心血管疾患というのは、
心筋梗塞などの虚血性心疾患、心不全、
虚血性脳梗塞、不整脈のいずれかを発症して、
救急受診もしくは入院した事例をカウントしています。

ただ、このLABAやLAMAによる心血管疾患のリスクの増加は、
薬剤開始後30日以内に限って認められ、
それ以降の使用においては、
未使用と有意な差はありませんでした。
個々の薬剤の種別やその使用量、
薬の組み合わせや心血管疾患の既往などは、
このリスク増加との関連を認めませんでした。

今回のデータは実臨床のものであるので意義のあるもので、
これまでの研究結果とも矛盾はしていません。
LAMAもLABAも、
いずれもCOPDの患者さんに使用する際には、
使用開始後1か月間は、
心臓病や脳卒中などの発症リスクが1.5倍程度上昇するので、
その点を慎重に観察する必要があります。
これは元に病気を持っていたかどうかで差が出ていないので、
それまでに病気のなかった患者さんでも、
安心は出来ないのです。

最後に念のための補足ですが、
これはCOPDの患者さんにLABAやLAMAを使用することが、
良くないという意味ではありません。
患者さんの症状の改善や、
COPDの急性の悪化の予防などについては、
その有効性は確立しているので、
必要性が高ければその使用には問題はないのです。
ただ、心臓に若干の負担を掛ける薬であることは、
おそらくは事実であるので、
その点の説明は事前に必要であると思いますし、
患者さんも使用開始後1か月間は、
動悸や胸の圧迫感、息切れなどの症状に、
注意をする必要があります。
こうした症状はCOPD自体でも勿論出るものなので、
どちらの原因と自己判断することなく、
主治医の先生にその都度ご相談をして頂くことが良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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人は何故白髪になるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
白髪の遺伝子.jpg
2017年のGenes & Development誌に掲載された、
白髪に関連する遺伝子の働きについての論文です。

これは昨年結構話題になり、
医療ニュースなどでも取り上げられた知見です。

髪の毛の悩みというのは命に関わることはない反面、
男女を問わずその個人にとっては、
結構深刻なものではあることは、
大して効くとも思えない育毛剤が莫大な売り上げを上げていたり、
白髪染めが多くの人にとって手放せない物になっていることからも分かります。

脱毛の仕組みも白髪になる仕組みも、
研究は進んでいますがまだ不明の点を多く残しています。
そして、ちょっと意外な気もしますが、
より分かっていないのが白髪の原因です。

髪の毛に色が付いているのは何故でしょうか?

これは髪の毛の根元にメラニン色素を産生する、
色素細胞があって、
そこで作られたメラニンが、
毛の元になる毛母細胞に伝達されてゆくからです。

毛母の色素細胞がメラニンを産生するには、
造血機能の初期段階で働く造血細胞成長因子である、
幹細胞因子(SCF)というタンパク質が働くことが分かっています。
しかし、それがそのようにして働くのかについては、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究はネズミを利用した動物実験において、
その体毛が白くなる条件や仕組みを検証しています。

上記論文の研究者がSCFと共に注目したのは、
毛包の上皮細胞で発現している転写因子の1つである、
KROX20というタンパク質です。

このKROX20という転写因子の遺伝子が欠損したネズミは、
毛母細胞が増殖せず、毛幹の成長自体が起こりません。

一方でKROX20は発現している状態で、
SCFの遺伝子が欠損したネズミでは、
毛は成長しますが色素のない、
人間であれば白髪の状態となります。

それを図示したものがこちらになります。
白髪のメカニズムの画像.jpg
毛包の上皮細胞のうち、
KROX20という転写因子を発現している細胞が、
SCFを分泌して色素細胞を刺激し、
メラニンを賛成しつつ毛母細胞を分化し増殖して、
毛が成長するのです。

ポイントは毛の成長と毛に色素が導入されることとは、
かなり密接にリンクしているということです。

ただ、毛に色素が入るかどうかは、
SCFによって決定されているので、
毛髪の周期に合わせてその遺伝子の調節が可能となれば、
白髪を元に戻すことも、
可能ではないかと考えられるのです。

今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵と健康との関係について(NIPPON DATA90の解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
卵の摂取量と健康日本.jpg
2017年のEuropean Journal of Clinical Nutrition誌にウェブ掲載された、
日本人における卵の摂取量と生命予後についての論文です。

NIPPON DATA 80という、
日本人を対象とした大規模疫学データが発表されていますが、
その追跡調査をしたNIPPON DATA 90の再解析を活用した研究です。

卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

卵の摂取量と健康との関連については、
NIPPON DATA 80の解析結果が、
2004年に発表されています。

それによると、
女性においては、
週に1から2個の摂取と比較して、
毎日1個卵を食べる習慣のある人は、
血液のコレステロールが高く、
総死亡のリスクも有意に増加していました。
一方で男性にはそうした関連はありませんでした。

今回の研究は、
アメリカでの報告も受け、
以前得られた女性における卵とコレステロールとの関連を、
追跡調査を含めたデータを活用して、
再検証してみたものです。

対象は登録時に30歳以上の4686名の女性で、
15年の経過観察を行い、
アンケートによる卵の摂取量と、
血液のコレステロール、
そして心血管疾患や死亡リスクとの関連を検証しています。

その結果、
卵の摂取量と血液のコレステロール値、
また心血管疾患のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

ただ、
1日1個摂取した場合と比較して、
毎日2個以上卵を食べる習慣のある人は、
総死亡のリスクが2.05倍(95%CI: 1.20から3.52)、
癌による死亡のリスクが3.20倍(95%CI: 1.51から6.76)、
それぞれ有意に増加していました。

癌による死亡のリスクについては、
1日1個摂取した場合と比較して、
週に1から2個食べる習慣のある人は、
32%(95%CI: 0.47から0.97)有意に低下していました。

つまり、アメリカのデータと同じように、
卵の摂取量とコレステロール値や心血管疾患リスクとの間には、
今回の追跡調査ては関連は認められなかったのですが、
総死亡と癌による死亡のリスクについては、
卵を多く食べると生命予後が悪いという、
一定の関連が認められたのです。

論文の著者らの見解としては、
登録の時点と比較して、
コレステロールが高いことと病気との関係が、
広く知られるようになり、
そのため全体に皆がコレステロールを含む食品を控えるようになったので、
差がなくなったのではないか、
と考察しています。

そもそも登録時のアンケートで、
15年間の食生活を評価することに、
かなりの無理があるのです。

癌の死亡リスクと卵の摂取量との関係については、
卵に多く含まれるコリンや、
胆嚢の収縮による大腸の胆汁濃度の上昇が、
消化器癌の増加に結び付いた可能性を指摘しています。
これは、そうした報告が過去にあるので、
一応の根拠はあるのですが、
大腸癌や直腸癌に限った話で、
今回のデータからそうした癌のみが増えている、
という結果は得られていませんし、
そもそも毎日2個以上卵を食べる習慣のある人は、
トータルでも40名しかいないので、
その40名の結果が主なリスク増加要因というのは、
如何にも弱いという気がします。

従って、現状卵を毎日1個くらいまで食べる生活については、
明確なリスクは現時点では証明はされていない、
それをより制限したからと言って、
明確なメリットがあるとは言い切れない、
というくらいが現時点で言えることと考えて、
そう間違いはないのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アスピリンによる肺気腫の進展予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺気腫とアスピリン.jpg
昨年のChest誌に掲載された、
アスピリンによる肺気腫の進行予防効果をみた論文です。

肺気腫というのは、
末梢の気道に繋がる肺胞の壁が破壊され、
肺の機能が失われてしまう病気で、
一旦気腫性の変化の起こった肺胞は、
原則として再生することはありません。

現状では主に喫煙の影響として発症する、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態の1つとして理解されています。

初期の肺気腫はレントゲンは肺機能の検査でも判断は難しく、
通常高解像度のCT検査における、
「肺気腫様変化」でその有無が判断されます。

この肺気腫の原因は、
必ずしも全て分かっている訳ではありませんが、
肺胞に分布する毛細血管の血流障害と、
その部位の炎症性の変化が関連していると想定されています。

こうした臓器を栄養する血管の損傷と炎症は、
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患とも共通する部分があり、
血小板の機能の亢進が、
その進行に結び付くと考えられています。

そこで1つの可能性として考えられることは、
血小板の機能を抑制して、
脳梗塞や心筋梗塞の再発予防に使用されている、
低用量のアスピリンが、
肺気腫の進行抑制にも有効なのではないか、ということです。

今回の研究はMESA研究という、
動脈硬化性疾患についてのアメリカの大規模な疫学研究のデータを、
一部別個に解析したもので、
登録の時点で45から84歳の心血管疾患のない4257名の、
胸部CTを撮影して軽度の肺気腫様変化を計測し、
その中央値で9.3年の観察期間中に、
複数回の検査を行って肺気腫の進行を評価しています。

その結果、
アスピリンを週3日以上継続的に使用している人は、
未使用の人と比較して、
CTにおける肺気腫様変化の進行が、
有意に抑制されていました。
肺機能に異常のある患者さんではその効果はより明確で、
喫煙者でも非喫煙者でも、
その効果には変わりはありませんでした。

このデータは肺気腫で治療中の患者さんを対象としたものではないので、
本当にアスピリンの使用が肺気腫の進行を抑制する、
というようにはまだ言えませんが、
多くの病気の進行や再発予防効果が確認されているアスピリンに、
また新たな知見が加わった、
というようには言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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原発性アルドステロン症を飲み薬で治療することのリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日も色々あって遅い更新となりました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
セララで心血管疾患が増える?.jpg
今年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
原発性アルドステロン症の治療についての、
ちょっとショッキングな報告です。

原発性アルドステロン症は、
副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌され、
通常アルドステロンを調節しているレニン活性が、
抑制されたままの状態となって、
血圧が上昇して血液のカリウム濃度が低下する病気です。

上記文献の記載によれば、
高血圧の患者さんの4から19%は実はこの病気で、
血圧が正常の人でも、
レニン活性が1μg/L/hr未満に抑制されているケースでは、
この病気である可能性が高い、
という報告もあります。

このように実際には非常に多い病気である原発性アルドステロン症ですが、
その治療方針は必ずしも確立されている訳ではありません。

病気の原因は、
副腎の腺腫か過形成というしこりですから、
その部分を手術で切除することが、
最も確実性のある治療です。

ただ、術後に血圧が正常化する比率は、
現状はそれほど高いものではなく、
施設間での差も大きいという欠点があります。
腺腫か過形成であるかの診断も、
静脈サンプリングなどの侵襲的な検査が必要となります。

従って、現状の国内外のガイドラインにおいても、
全例に確定診断や手術が求められているという訳ではなく、
血圧やカリウムの数値が、
飲み薬などの治療で安定するようであれば、
経過をみることも選択肢として認められています。

仮に高血圧の患者さんの15%以上がこの病気であるとすれば、
全ての患者さんに確定診断のための検査をして、
確定した全ての患者さんに手術をするというのは、
医療経済的な側面から考えても、
実現は不可能ではないかと思います。

そこで原発性アルドステロン症が疑われる患者さんにおいて、
現在広く使用されているのが、
アルドステロンの受容体の拮抗薬という飲み薬です。

通常使用されているのは、
スピロノラクトン(商品名アルダクトンAなど)と、
より選択性の高いエプレレノン(商品名セララ)です。

こうしたタイプの薬はアルドステロンの作用をブロックするので、
原発性アルドステロン症の病態が、
過剰なアルドステロンの作用により生じるのであるとすれば、
理に適った治療であると言えます。

ただ、実際にはアルドステロン自体は減少はさせず、
レニン活性を上昇させるという訳でもないので、
手術でアルドステロンの過剰な分泌を抑えるような治療と、
結果として生じる状態は同じであるとは言えません。

しかし、実際にはアルドステロン拮抗薬による治療が、
本当に患者さんの長期予後に良い影響を与えるという根拠は、
推測以上のものがこれまでには存在していませんでした。

今回の研究はアメリカにおいて、
2つの専門病院を中心として、
アルドステロン拮抗薬による治療を行っている、
原発性アルドステロン症の患者さん602名の記録を、
年齢をマッチした本態性高血圧症の患者さん41853名と比較して、
心血管疾患の発症リスクと生命予後を比較検証しています。

その結果、
心血管疾患の発症リスクは、
本態性高血圧の患者さんと比較して、
アルドステロン拮抗薬による治療を行っている、
原発性アルドステロン症の患者さんでは、
1.91倍(95%CI: 1.63から2.25)有意に増加していました。

また、総死亡のリスクも1.34倍(95%CI; 1.06 から1.71)、
糖尿病のリスクが1.26倍(95%CI: 1.01から1.57)、
心房細動のリスクが1.93倍(95%CI: 1.54から2.42)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、この心血管疾患と総死亡のリスクの増加は、
原発性アルドステロン症でも、
そのレニン活性が1μg/L/hr以上であると、
有意にではなくなっていました。

つまり、
原発性アルドステロン症をアルドステロン拮抗薬で治療していても、
レニン活性が1未満と抑制された状態が持続していると、
心血管疾患のリスクも高く、
生命予後にも悪影響を与える状態は続いている、
という結論になっています。

ただ、これは患者さんを最初から登録して経過をみたような研究ではなく、
後から患者さんをマッチングしたものなので、
血圧には違いはないことになっていますが、
他の条件が同じであることの保証はないように思います。
またアルドステロン拮抗薬は、
その83%でスピロノラクトンが使用されていて、
68%の患者さんではACE阻害剤やARBも併用されていますから、
そうした薬剤の影響も少なからず結果には影響していると思われます。

そんな訳で今回の結果をもってすぐに、
原発性アルドステロン症のアルドステロン拮抗薬による治療は問題がある、
とも言い切れないのですが、
レニン活性を含めて、
どのような指標を参考とすることが、
原発性アルドステロン症の患者さんの予後の改善に結び付くのか、
そうした観点からの再検証が必要であるように思います、

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。



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鉄剤の効果的な飲み方は? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鉄の吸収とサプリメント.jpg
2017年のLancet Haematology誌に掲載された、
鉄欠乏性貧血の患者さんの、
最も効果的な鉄剤の飲み方は何かを検証した論文です。

若い女性に多いのが鉄欠乏性貧血で、
女性は生理の出血により定期的に鉄分が不足しやすくなる一方、
ダイエットを気にして食事制限をすることも多いので、
二重の意味で貧血が増えるのです。

そこで貯蔵鉄が不足して貧血を生じやすいような女性では、
鉄剤の薬やサプリメントを、
補充することが推奨されます。

ただ、飲み薬の鉄剤というのは、
それほど効率の良いサプリメントではありません。

使用頻度の高い硫酸鉄の場合、
食事と一緒に飲んだ場合の吸収率は2から13%で、
食間での使用でも5から28%というデータがあります。

つまり、その吸収率は決して高いものではなく、
吸収される鉄よりも、
そのまま便から排泄される鉄の方が、
ずっと多いというのが実際です。

ここで問題となるのは、
吸収されない鉄分が多いことが、
便秘や吐き気などの不快な症状の原因となるので、
鉄剤の服用の持続が困難となることと、
鉄剤の血液濃度の一時的な上昇により、
血液中の鉄の吸収を調整するホルモンである、
ヘプシジンの濃度が高まり、
それが結果として鉄の吸収を更に抑制してしまう、
という悪循環があることです。

このためより効率的な鉄剤の服用法として、
間隔を空けて高用量を使用することが良いのでは、
という意見がある一方で、
少量を頻回に使用した方が良いのでは、
というような意見もあって、
その見解は必ずしも一致していません。

今回の研究はその点を検証したもので、
例数は少ないのですが、
放射能でラベルした鉄を使用して、
直接的に鉄の吸収率を測定して比較している点が特徴です。

スイスのチューリッヒにおいて、
18から40歳の鉄欠乏のある女性
(貯蔵鉄の指標であるフェリチンが25μg/L以下であることで評価)を登録し、
1つ目の試験では40名をくじ引きで2つに分け、
一方は毎朝60ミリグラムの硫酸鉄を朝8時に毎日内服し、
もう一方は1日おきに内服して、
毎日では14日間、
1日おきでは28日間の使用を継続します。
2つ目の試験では、
一方は1日120ミリグラムの硫酸鉄を3日間毎日1回で服用し、
もう一方は60ミリグラムを2回に分けて服用して、
2週間空けて両者を入れ替えてもう一度同じことを試みます。

その結果、
1日おきの服用では、
鉄の吸収率は21.8%(95%CI; 13.7から34.6)であったのに対して、
毎日の服用では、
16.3%(95%CI; 9.3から28.8)となっていて、
1日おきに服用した方が毎日服用するより、
吸収率は有意に高くなっていました。
そして、トータルな全日での合算でも、
身体に吸収された鉄分の量は、
毎日飲むより1日おきに飲む方が、
より多くなっていました。

1日に1回と2回の服用の比較では、
その鉄分の吸収率には有意な差はなく、
1回より2回の分けた方が、
血液中のヘプシジン濃度は有意に高くなっていました。

要するに、
鉄剤の吸収率を高く保つためには、
ヘプシジン濃度をなるべく上げないことが重要で、
そのためには服用の間隔を空けることにより、
血液中の鉄の濃度が高い時間をなるべく少なくすることが、
有用性が高いという結論になっています。

同量の鉄を補充するのであれば、
少し時間は掛かっても、
毎日ではなく1日おきに服用するのが、
効果的と考えて良いようです。

ただ、この試験は重症の鉄欠乏貧血の患者さんを、
対象としたものではないので、
そうした患者さんでは元々ヘプシジン濃度は抑制されており、
また別個の結果が出る可能性もある、
と言う点には注意が必要です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血液のカフェイン濃度とパーキンソン病 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは今日まで休診です。
長いお休みを申し訳ありません。
ただ、体調は最悪で休めたという感じは、
まるでなく終わってしまったのが実際です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カフェインとパーキンソン病.jpg
今年のNeurology誌に掲載された、
血液のカフェイン濃度とパーキンソン病との関連についての論文です。

順天堂大学などの研究チームによるもので、
一般紙などにも記事になっていました。

パーキンソン病は代表的な神経難病の1つですが、
以前よりコーヒーを沢山飲む人にはこの病気が少ない、
という疫学データが、
男性とホルモン補充療法をしていない女性では、
得られています。

この男女差については、
女性ホルモンのエストロゲンとカフェインが、
同じ肝臓の酵素を共用していることに、
その一因があると考えられています。

動物実験のレベルでは、
カフェインはパーキンソン病による、
神経細胞の変成を予防するような働きがあると報告されています。
カフェインの代謝産物についても、
神経毒性を弱めるような作用があると報告されています。
ただ、これは敢くまで動物実験レベルの知見です。

臨床的にはカフェインの使用は、
アデノシン2A受容体の阻害作用により、
パーキンソン病の運動症状を改善するという複数の報告があります。

ただ、それがカフェインそのものの作用であるのか、
それとも、その代謝産物を介した作用であるのか、
といった点については、
まだ明らかにはなっていません。

今回の研究では、
パーキンソン病の患者さん108名と、
年齢をマッチさせたコントロール31名に、
血液中のカフェインとその11種類の代謝産物を測定し、
その比較を行っています。
また、カフェインの代謝酵素の活性や、
パーキンソン病の症状とカフェイン濃度との関連についても、
同時に検証を行っています。

症例は全て順天堂医院の患者さんで、
既に治療を受けています。
カフェインは小腸から吸収されると、
その95パーセントが、
肝臓の代謝酵素CYP1A2による代謝を受けます。
その代謝産物の1つが、
気管支拡張薬として使用されるテオフィリンです。
今回の研究では、
代謝酵素の活性に関わる、
SNPと呼ばれる遺伝子変異を解析することで、
その関連を調べているのです。

その結果、
カフェインとテオフィリンを含む9種類の代謝産物の血液濃度は、
パーキンソン病群において、
コントロールと比較して有意に低下していました。

血液のカフェイン濃度は、
当然コーヒーやお茶などの摂取量の、
影響を受ける訳ですが、
今回の研究では、摂取量の簡単な調査を行い、
有意差がないので関連はない、
という結論になっています。
この点についてはこれで良いのかやや疑問です。

カフェイン濃度に代謝産物の濃度を併せて指標とすると、
非常に高い感度と特異度で、
パーキンソン病の診断が可能であることが確認されました。
(ROC曲線のAUC0.98 )
これはカフェイン単独では(AUC0.78)とそれほどではない、
というところが1つのポイントです。

パーキンソン病の重症度や運動障害の有無、
代謝酵素の活性に関わる遺伝子変異の有無と、
カフェインやその代謝物濃度との間には、
有意な関連は認められませんでした。

つまり、例数はそれほど多くはなく、
単独施設で治療中の患者さんのみでの検討、
と言う点はデータとしては少し弱いのですが、
数値としてはかなり明確に差が出ていて、
パーキンソン病の患者さんにおいては、
血液のカフェインとその代謝物の濃度が、
低いという現象のあることはほぼ間違いがなさそうです。

ただ、その原因がたとえば特定の代謝酵素の活性と、
関連が明確にあって、
その遺伝子座とパーキンソン病の関連遺伝子との間にも、
関連がありそう、というようなことがあれば、
臨床にも直結するより重要な知見と言えるのですが、
今回の検証では代謝酵素の活性との関連も明らかではなく、
パーキンソン病の重症度などとも無関係で、
カフェインの摂取量との関連もないのですから、
この現象の原因も臨床的な意義も、
全く不明であるということになります。

論文の考察においては、
カフェインの小腸からの吸収に、
パーキンソン病により差があるのではないか、
という考え方が示されていますが、
仮にそうであるとすれば、
カフェインの摂取量を一定にしたり、
極端に一定期間すくなくしたり多くしたりして、
その変化を見るなど、
より吸収や代謝の差に踏み込んだ検証が、
不可欠であるように思います。

また、遺伝子の変異での差を見るには、
今回の例数は如何にも少ないので、
今後大規模な遺伝子解析のデータを活用するなどして、
そのメカニズムに踏み込んだ解析も必要であるように思います。

そんな訳でまだこの知見が、
今度どのように利用可能であるのかは未知数なのですが、
現象自体は非常に興味深く、
今後より掘り下げた検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アメリカ糖尿病学会の薬物治療ガイドライン(2018年版) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は終日レセプト作業をしていましたが、
体調は最悪で不安の大きな年の初めになりました。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ADAの糖尿病治療ガイドライン.jpg
刊行自体は昨年ですが、
今年のDiabetes Care誌にアメリカ糖尿病学会(ADA)の、
新しい糖尿病のガイドラインが発表されました。

今日はその中から、
末端の臨床医としては一番直接的な関係の深い、
2型糖尿病の薬物治療のガイドラインを見てみます。

こちらをご覧下さい。
ADAガイドラインの図.jpg
これが2型糖尿病の薬物治療の基本的な考え方を図示したものです。

分かりにくいと思いますので説明します。

まずHbA1cが9%未満の場合には、
禁忌でない限りビグアナイトのメトホルミンが、
第一選択の治療薬となります。

この場合のメトホルミンの禁忌は、
推算糸球体濾過量が30mL/min/1.73 ㎡未満の腎機能低下がある場合と、
嘔吐や脱水などの消化器症状が強いような場合です。

最近の報告ではメトホルミンの長期使用により、
ビタミンB12の欠乏が生じやすいとされていて、
このため定期的にビタミンB12 の血液濃度を測定することが、
その使用においては推奨されています。

メトホルミンを上限量まで使用しても、
HbA1cが目標値(通常7%以下)に3ヶ月達しない場合には、
メトホルミンへの上乗せでもう1種類の薬剤の併用が考慮されます。
これが第2段階の2剤併用療法です。

また、HbA1cが治療開始前に9%以上10%未満の場合には、
最初から2剤併用療法が考慮されます。

今年のガイドラインの大きな変更点は、
メトホルミンに上乗せする併用薬の選択において、
心血管疾患の既往の有無を重要視していることです。

併用薬の選択肢としては、
SU剤、DPP4阻害剤、GLP-1アナログ、
SGLT2阻害剤、持続型インスリン、チアゾリジン系薬剤、
の6種類がリストアップされていて、
心血管疾患の既往がない場合には、
そのうちのどれを選択しても、
基本的には誤りではなく、
個々の患者さんにとってメリットの大きな薬剤を、
その中から選ぶということになります。

ただ、心血管疾患の既往がある場合には、
その再発が患者さんの予後に、
最も大きな影響を与えることになるので、
使用する薬剤にも、
心血管疾患の予後を改善することが、
これまでの精度の高いデータで、
確認されている薬を使用することが望ましい、
という方針が打ち出されているのです。

これまで心血管疾患の予後を改善したことが、
明確に証明されている薬剤は多くはなく、
SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(商品名ジャディエンス)と、
カナグリフロジン(商品名カナグル)、
そしてGLP-1アナログのリラグルチド(商品名ビクトーザ)の3種類だけです。
ただ、カナグリフロジンに対しては、
糖尿病性壊疽による下肢の切断のリスクが、
薬剤使用群で2倍近く増加していた、
という気になるデータがあります。

メトホルミンとチアゾリジン系のピオグリタゾン(商品名アクトスなど)は、
心血管疾患の予後を改善する可能性はある、
という位置づけになっています。
上記3剤に匹敵するような介入試験のデータはないためです。
ただし、ピオグリタゾンは心不全悪化のリスクがあるのは、
ほぼ確実なので心機能が低下しているようなケースには、
向いていません。

ここに挙げた以外の薬については、
心血管疾患の予後については、
基本的には良くも悪くもしないと、
現状はそう考えておくことが妥当です。
インスリンやSU剤は、
低血糖のリスクが高いことが大きな欠点です。

2剤の併用でも3ヶ月の治療で目標HbA1cに達しない場合は、
更に上記から3剤の併用を考慮し、
それでも目標に達しない場合と、
治療前のHbA1cが10%以上もしくは随時血糖が300mg/dL以上の場合には、
最初からメトホルミンと持続型のインスリン注射との併用が考慮されます。

心血管疾患の予後改善が確認されている薬剤は、
現状は高価な新薬のみなので、
医療経済的な見地からは問題もあるのですが、
血糖値だけを良くしても、
必ずしも患者さんの生命予後や健康寿命の延長には結び付かない、
というのが最近の知見の流れなので、
現状の臨床データから最善と思える方向性を考えると、
概ねこうした方針に落ち着くのではないかと思います。

現行の日本の糖尿病診療ガイドラインは、
もっと総花的なものですが、
これまでの経緯を考えると、
数年くらいでアメリカにすり寄るというのがパターンなので、
欧米のガイドラインを指針として、
診療の方針に役立てることが、
現状では一番妥当であるように考えています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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慢性腎臓病における降圧治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診となります。
ただ、あれやこれやで1日バタバタしそうな感じです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
慢性腎臓病の降圧療法の効果.jpg
今年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
慢性腎臓病に対する降圧治療の効果を検証したメタ解析の論文です。

慢性腎臓病は心血管疾患のリスクになり、
透析が必要な腎不全へと進行するリスクが高く、
生命予後にも大きな影響を与える病気です。

高血圧も心血管疾患の大きなリスクであり、
そのため慢性腎臓病の進行予防のためにも、
血圧を適正なレベルに保つことが、
重要であると考えられています。

ただ、それでは目標とする血圧をどのレベルにするべきか、
という点については、
未だ結論に至っていません。

KDIGOという国際的な慢性腎臓病のガイドラインでは、
尿中アルブミンが30mg/g cr未満の場合には、
降圧目標は140/90mmHg未満を、
尿中アルブミンが30mg/g cr以上の場合には、
130/80mmHg未満を、
血圧の目標値と定めています。
それとは別個にヨーロッパの降圧ガイドラインでは、
慢性腎臓病の降圧目標値は140/90未満 と定められていて、
特に尿タンパクによる区分けはありません。

2015年に発表されたSPRINT試験では、
慢性腎臓病を含む集団において、
収縮期血圧が140mmHg未満を目指す通常のコントロールと、
120mmHg未満を目指すより厳密なコントロールを比較して、
より厳密なコントロールを行った方が、
心血管疾患のリスクも総死亡のリスクも低下した、
という結果が報告され非常な注目を集めました。

その一方でより厳密な降圧において、
急性の腎障害のリスクは増加しており、
慢性腎臓病の患者さんのみの解析では、
全体と同等の傾向はあるものの有意にはならなかったので、
本当に慢性腎臓病においてもより厳密な降圧が、
患者さんの予後に良い影響を及ぼすかどうかは、
結論が出ていません。

今回の研究はこれまでの介入試験と呼ばれる厳密な方法の臨床試験の結果を、
まとめて解析したメタ解析の研究ですが、
慢性腎臓病の患者さんにおいて、
通常より厳密な降圧治療と通常の治療との比較に、
ターゲットをおいたものとなっています。

対象となる患者さんは慢性腎臓病のステージ3から5で、
これは推計の糸球体濾過量が60mL/min/1.73㎡未満であることが条件です。
30の介入試験で登録された、
15924名の患者さんをまとめて解析した結果として、
ベースラインの収縮期血圧148(±16)mmHgを、
140mmHgを目標として降圧治療をした場合と、
より厳しく132mmHgを目標として降圧治療をした場合とで比較したところ、
厳密な目標を設定した方が、
総死亡のリスクが14.0%(95%CI; 0.76から0.97)有意に低下していました。

このように慢性腎臓病の患者さんのみでの解析でも、
現行のガイドラインより低い目標を設定して降圧した方が、
より患者さんの生命予後には良い影響が認められました。
ただ、これは治療薬剤などによっても変わる可能性があり、
今後メタ解析以外の単独データにおいても、
より精密な検証が必要となるのではないかと思います。

現状は高血圧を合併した慢性腎臓病の患者さんにおいては、
降圧時の腎機能の急速な低下に注意しつつも、
収縮期血圧は130mmHgくらいを目標に設定して、
降圧をはかることが望ましいようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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