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急性の咽頭痛へのステロイド使用のガイドライン [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
今週木曜日(28日)の午後は休診となりますのでご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ステロイドを咽頭痛に.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
急性の咽喉の痛みに対して、
1回のみ比較的大量のステロイド剤を使用する、
という治療の新しい考え方の、
一定のガイドラインを提示した記事です。

急性の咽喉の痛みというのは、
非常に良く見られる症状で、
その多くは短期間で治療をしなくても改善するものですが、
中には急激に悪化して、
食事が全く摂れなくなって、
入院を要するような事態になることもあります。

扁桃腺の炎症の場合には、
原因が溶連菌という細菌であれば、
お子さんでは抗生物質を使用して、
除菌を図ることが推奨されています。
そのために、一般の臨床において、
溶連菌の迅速テストが普及しています。

ただ、大人の場合には、
それほど明確な方針が定まっている、
という訳ではありません。

未治療で様子を見るのと比較して、
炎症を抑える作用が強いステロイド剤や、
抗生物質を症状出現後すぐに使用した場合に、
より早期に症状が改善した、
という臨床データが幾つかあります。

ただ、抗生物質とステロイドを併用している研究が多く、
ステロイドの単独の作用については明確ではありません。

2017年の4月のJAMA誌に、
急性の咽頭痛の症状に対して、
すぐにステロイドを単回大量経口投与した場合と、
何もしなかった場合とを、
厳密な方法で比較検証した論文が掲載されて話題になりました。

同時期にブログ記事にもしています。

イギリスのプライマリケアの複数の医療機関において、
1週間以内に発症した、
咽喉の痛みと嚥下時の痛みのある18歳以上70歳以下の患者さんで、
すぐに抗生物質などによる治療は必要ないと、
主治医が判断した576名を登録し、
患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分け、
一方はステロイド剤を1回内服し、
もう一方は偽薬を使用して、
登録後24時間と48時間の時点での、
症状の消失の頻度を比較検証しています。

患者さんには抗生物質をあらかじめ渡しておいて、
病状が48時間後に改善しなければ使用が指示されます。
直近のステロイド剤の使用や抗生物質の使用者、
妊娠中の女性やその可能性のある人、
糖尿病の患者さんなどは除外されています。

ステロイドはデカドロンが10ミリグラム、
1回で使用されています。
これはプレドニゾロンで60ミリグラム、
コートリルで250ミリグラムくらいに相当する、
かなりの高用量です。

その結果…

登録後24時間で完全に症状が消失した頻度は、
ステロイド使用群で全体の22.6%に当たる65名だったのに対して、
偽薬群では全体の17.7%に当たる49名で、
統計的には2群に有意な差はありませんでした。
48時間後に症状が消失した頻度では、
ステロイド使用群で35.4%に当たる102名であったのに対して、
偽薬群では27.1%に当たる75名で、
この差は8.7%(95%CI;1.2から16.2)で有意と判断されました。

咽頭培養は施行されていて、
溶連菌は2割弱くらいで検出されていましたが、
その差はステロイドの効果の差とは関連していませんでした。

このように、
咽頭炎もしくは扁桃炎と判断した段階で、
重症でなければステロイドを単回大量で使用すると、
48時間以内に症状が消失する頻度は、
10%程度増加する可能性があります。

これが最善の治療であるとは、
勿論現時点では言えませんが、
症例を選んでのステロイドの使用は、
症状が強い場合には1つの選択肢ではあると考えられます。

この研究結果及び、幾つかの先行研究の結果などをまとめて、
今回のガイドラインが作られました。

その一部がこちらです。
ステロイドの咽頭痛への使用の図.png
5歳以上の年齢の強い咽頭痛の症状に対して、
1回のみ成人では10ミリグラム、
小児では体重1キロ当たり0.6ミリグラムの、
デキサメサゾンという高力価のステロイド剤を、
経口で1回のみ使用します。

抗生物質や消炎鎮痛剤の使用は、
必要に応じて併用されます。

免疫低下状態や伝染性単核球症というウイルス感染症、
手術や人工呼吸器の装着による咽頭痛は、
ステロイド治療の禁忌となっています。

このステロイド治療により、
咽頭痛の改善や症状の持続期間の短縮が期待出来ます。
一方で使用するのは1回のみですから、
強い副作用は通常はあまり想定はされません。

そのために今回のガイドライン作成となったのです。

ただ、これは敢くまで「弱い推奨」というレベルのものなので、
常に行った方が良い、というものではなく、
症例に応じて、1つの選択肢として検討するべきものなのだと思います。

現時点で不明であるのは、
単回とは言え大量のステロイドを使用することが、
本当に重篤な副作用に繋がることはないのか、
と言う点と、
しばしばみられる再発性の扁桃炎に対して、
ステロイドを使用することが適切かどうか、
というような点にあり、
今後の検証が必要だと記載されています。

欧米では臨床的なやや些細な、と思われるような事項や、
それぞれの医師の個性によって、
変わりがちな事項について、
その都度検証が行われ、
ガイドラインが作成されていて、
そうした点は是非、
日本でも見習うべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。



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味噌や納豆の高血圧予防効果(多目的コホート研究サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。

今日は1年に一度の人間ドックの日です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
味噌の血圧上昇予防作用.jpg
今年のthe Journal of Nutrition誌に掲載された、
大豆の発酵食品に高血圧の予防効果があるのでは、
という有名な日本の疫学データのサブ解析結果の論文です。

大豆に含まれているイソフラボンというポリフェノールには、
血管の平滑筋の増殖を抑えるなど、
動脈硬化を予防するような作用のあることが報告されていて、
心血管疾患の予防や、
高血圧の予防に有効であるという可能性が示唆されています。

ただ、動物実験では高血圧予防効果が報告されている一方で、
大豆蛋白の摂取と高血圧との関連を検証したデータを、
まとめて解析したメタ解析の論文では、
あるものでは血圧降下作用が認められたとされている一方で、
別のものでは有意な降下作用が認められていないなど、
その結果は一定していません。

ここで1つ原因として考えられるのは、
大豆食品と大豆発酵食品(味噌や納豆など)との違いです。

大豆に含まれるイソフラボンは、
腸内細菌の働きによって代謝されてから吸収されるので、
その吸収には個人差があってかなり不安定なのですが、
発酵食品に含まれているイソフラボンは、
アグリコン型と呼ばれる小分子となっていて、
腸内細菌によらずにそのまま吸収されるからです。

今回の研究は、
日本の有数の大規模疫学データである、
多目的コホート研究のデータを活用して、
この問題を日本人で検証しています。

多目的コホート研究に参加した一般住民のうち、
収縮期血圧が130mmHg未満で拡張期血圧が85mmHg未満という、
血圧上昇のない人だけを対象として、
食事調査から大豆製品の摂取量を、
発酵食品とそうでないものとに分けて算出し、
その摂取量と5年後の血圧上昇との関連を検証しています。

対象人数は登録時点で40から69歳の4165名です。

その結果…

トータルの大豆蛋白の摂取量と5年後の血圧上昇との間には、
有意な関係は認められませんでしたが、
味噌や納豆のような発酵大豆食品の摂取量についてみると、
摂取量が少ない場合と比較して、
摂取量が多いと血圧が130/85を超えるリスクが、
23%(95%CI; 0.66から0.91)有意に低下していました。
この量は納豆を毎日1パック摂っていれば、
達する程度の分量です。

今回のデータは元々このために調査されたものではありませんし、
食事調査から推測された大豆蛋白の摂取量も、
それほど正確なものとは言えませんから、
1つの参考として考えるレベルのものだと思いますが、
味噌や納豆をどのようにして摂取することが良いのか、
その塩分量との関連も含めて、
再検証が必要であるようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病の既存薬による併用治療の長期効果(2017年イタリアの研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病併用治療の比較.jpg
今年のthe Lancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
2型糖尿病の2種類の飲み薬による併用治療の効果についての論文です。

2型糖尿病の第1選択薬がメトホルミンであることは、
世界的に認められている大原則ですが、
実際には充分量のメトホルミンを使用しても、
血糖コントロールが不充分であることは、
臨床ではしばしば遭遇することです。

この場合欧米のガイドラインにおいては、
メトホルミンに上乗せする形で、
別の種類の血糖降下剤を、
併用することが推奨されています。

ただ、併用薬としてどの薬が最も優れているのか、
と言う点については、
未だ結論は得られていません。

最近インクレチン関連薬やSGLT2阻害剤という、
新しいメカニズムの薬の評判が高く、
そうした薬の併用は臨床医にとっては魅力的ですが、
新薬は高価ですし、
その長期効果もまだ分からない面は多いので、
長く使用され薬価も安い併用薬の可能性を、
検証することも非常に重要なことです。

以前よりメトホルミンの併用薬として使用されている薬は、
SU剤とピオグリタゾンです。

SU剤は飲み薬の血糖降下剤としては最も強力な薬で、
その血糖降下作用が一番強いことは間違いがありません。
その一方で低血糖を起こしやすいという欠点があり、
またインスリン濃度の上昇により体重増加を来しやすく、
長期的な心血管疾患の予防にも、
悪い影響を及ぼすのではないか、
という危惧があります。

ピオグリタゾンはインスリン抵抗性を改善する効果があり、
その血糖降下作用はSU剤より弱いのですが、
低血糖を起こしにくいという利点があります。
また、心不全に対しては悪化させるという危惧はあるものの、
トータルには心血管疾患の進行予防効果も期待されています。

2型糖尿病の治療目的は、
現在では心血管疾患の予防が最大のものとなっています。

それでは、
メトホルミンへの上乗せ治療として、
SU剤とピオグリタゾンの、
どちらが心血管疾患の予後に良い影響を与えるのでしょうか?

今回の研究はイタリアにおいて、
その点を直接比較で検証したものです。

患者さんはイタリアの57か所の糖尿病専門施設で、
2年間以上メトホルミン単剤の治療を受け、
1日2000mgから3000㎎(日本での使用量は原則2250mg まで)という、
充分量の治療を継続していても、
血糖コントロールの指標であるHbA1cの数値が、
7から9%の50から75歳の2型糖尿病の患者さんで、
トータルな人数は3028名です。
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はSU剤を使用して、
もう一方はピオグリタゾンをそれぞれ上乗せで使用して、
半年毎にHbA1cを測定、
それが8%を下回ることを目標に、
量の調整を行います。
ピオグリタゾンは1日15から45㎎(日本での使用量と同じ)で使用され、
SU剤はグリベンクラミドが5から15㎎(日本では10㎎が上限)、
グリメピリドが2から6㎎(ほぼ日本の使用量と同じ)、
グリクラジドが30から120㎎(ほぼ日本の使用量と同じ)、
で使用されます。

試験はもっと長期行われる筈でしたが、
中間解析においてそれ以上の継続をしても、
結果が変わる可能性はほぼないとの判断で、
平均観察期間が57.3か月の時点で途中終了となっています。
それでも5年弱の観察期間です。

試験の目的は、
総死亡と心血管疾患の新規発症とを併せたリスクで、
これは両群に差はありませんでした。
SU剤は結構高用量を使用していますが、
意外にも長期のHbA1cはピオグリタゾンの方が安定して低下しています。

そして、これは当然と言えば当然ですが、
低血糖のリスクについては、
ピオグリタゾンよりSU剤で高くなっていました。
ピオグリタゾンで指摘されることの多い心不全と膀胱癌については、
今回の試験の範囲では、
特に問題になることはありませんでした。

このように、
ピオグリタゾンもSU剤も、
生命予後を含めた心血管疾患の5年程度の予後については、
それほどの差はないと考えて良く、
後は低血糖のリスクや他の有害事象のリスクに勘案して、
その選択を行うことが妥当であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。



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卵円孔閉鎖術とその脳梗塞予防効果(2017年の臨床データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
卵円孔閉鎖の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
若年性脳梗塞の原因として多いとされる、
卵円孔開存の心臓カテーテル手術の有効性を検証した論文です。

今回の紙面にはこれを含めて3編の、
ほぼ同じ内容の臨床研究が、
別個の研究グループから報告されています。

3つの研究ともこのカテーテル治療の有効性を明確に示したもので、
今後のこの問題についてのトレンドが変わる、
きっかけとなる知見であると思います。

若年性脳梗塞の原因の1つとして、
卵円孔開存症による奇異性脳塞栓症が、
近年注目されています。

脳梗塞には脳血栓と脳塞栓とがあり、
脳塞栓というのは、
別の場所から飛んで来た血の塊などが、
脳の血管に詰まることにより起こります。

脳に詰まる血栓は、
通常は心臓から飛んで来ます。

心房細動という不整脈があると、
心臓の中の左房という場所に、
血の塊が出来易くなり、
それが動脈の血流に乗って、
脳に至るのです。

その一方で足などの静脈に静脈瘤と呼ばれるこぶが出来、
そこに炎症などが起こると、
そうした場所にも血の塊が出来易くなります。

この静脈に出来た血の塊が、
血流によって運ばれると、
心臓の右房から右室を介して、
肺の動脈に詰まることがあります。
これを肺血栓塞栓症と呼んでいます。

動脈と静脈の血液は混ざらないように出来ていますから、
通常は静脈の血栓が、
脳塞栓を起こすことはありません。

ただし…

脳塞栓の原因が、
足などの静脈にある血栓であるとしか、
考えられない事例が稀にあり、
それを奇異性脳塞栓と呼んでいます。

この奇異性脳塞栓症の原因は、
主に卵円孔開存症であると考えられています。

卵円孔というのは、
胎児期に心臓の左房と呼ばれる部分と、
右房と呼ばれる部分の間に開いている小さな穴で、
生まれてからすぐに塞がるのですが、
完全に塞がらずに一種の弁のようになり、
一定の交通が残ってしまう場合があります。

これが卵円孔開存症です。

卵円孔開存症は、
心房中隔欠損症の一種ですが、
交通する血流の量はごく僅かで、
それも咳込んだりいきんだりして、
腹圧が掛かるような時のみに、
血液の漏れが起こるだけなので、
通常は病気とは見做されません。

その頻度も解剖の所見などでは、
人口の25~30%に見付かるとされていますから、
実際には多くの人が知らずに持っているのです。

心房中隔欠損症の診断は、
通常は心臓の超音波検査で可能ですが、
卵円孔開存症の場合、
孔を通る血流が少なければ、
通常の超音波検査では診断は困難で、
胃カメラを太くしたような管を、
口から入れてそこから超音波検査を行なう、
経食道超音波検査を行わないと、
診断は出来ません。

従って、
実際には多くの卵円孔開存症は、
診断はされてはいないのです。

問題になるのは、
若年性脳梗塞を起こした患者さんで、
その原因がはっきりしない場合です。

海外の統計によると、
若年性脳卒中の3割は原因が分からず、
そうした患者さんの半数で、
卵円孔開存症が見付かる、
とされています。

人口の3割近くで、
卵円孔開存症が見付かる可能性のあることから考えると、
この頻度は非常に微妙です。

ただ、当然のごとく、
こうした知見があれば、
卵円孔を塞ぐ治療を行なうことにより、
若年性脳卒中の再発が予防出来るのでは、
という考え方が生まれます。

そうした臨床試験が複数行われ、
まずその結果が発表されたのが、
2012年3月のNew England…誌においてでした。

この試験はCLOSURE1と名付けられ、
アメリカとカナダにおいて、
18歳から60歳までの患者さん909名を対象に、
行なわれました。

一過性の脳虚血発作か脳卒中を来し、
その原因がはっきりしない患者さんで、
経食道超音波検査により、
卵円孔の開存が、
確認されている患者さんを、
2つの群にくじ引きで分け、
一方にはSTARFlexと呼ばれる器具を用いた、
卵円孔の閉鎖術を行ない、
もう一方では抗血小板剤や抗凝固剤による、
抗凝固療法のみを行なって、
その後の2年間の経過を観察しています。

しかし、
当初の期待とは裏腹に、
この研究においては、
卵円孔の閉鎖を行なっても、
その後の脳卒中の再発率には、
統計的に有意な差は付きませんでした。

ただし、
この研究に使われた器具はあまり良い出来のものではなく、
施行により心房細動という不整脈が、
未施行の10倍も多く発症する、
という問題がありました。

現在最も多くこの目的で使用されているのは、
アンプラッツアー閉塞栓と呼ばれる、
特殊な金属を用いたメッシュ状の閉塞栓で、
この用具を用いれば、
より良い結果が得られると期待がされました。

そして2013年の同じNew England…誌に、
今度は2編の論文が同時に掲載されました。

いずれもそのアンプラッツアー閉塞栓を用いて、
同様の検討を行なったものです。

こちらをご覧ください。
卵円孔閉鎖デバイス.jpg
これが新しいタイプの卵円孔を塞ぐ器具で、
2つのパラボラアンテナのような部分が開いて、
両側から穴を塞いで固定するように出来ています。
これ以降複数の器具が発売され使用されていますが、
基本的な構造は大きくは変わっていません。

2013年に発表された論文の1編では、
患者さんはヨーロッパ、カナダ、ブラジル、オーストラリアの、
29の施設の患者さん414例を2群に分けて、
一方では閉塞栓を用いた閉鎖術を行ない、
もう一方では抗血小板剤もしくは抗凝固剤による、
薬物のみの治療を行なって、
平均4年というより長期の経過観察を行なっています。

その結果…

観察期間中の死亡や血栓症や脳卒中の再発は、
閉鎖術群で3.4%、薬剤治療群で5.2%に認められました。

この比率だけを見ると、
閉鎖術群の効果が認められたように思えますが、
実際には統計的な有意差は認められていません。

もう1つの試験はRESPECTと呼ばれる臨床試験で、
同じ雑誌のもう1篇の論文になっています。

こちらはアメリカの69の施設において、
980名の患者さんが対象になっています。
この研究ではその観察期間中に、
閉鎖術群では9名、薬物療法群では16例が、
脳卒中の再発を来し、
相対リスクは51%の低下となりましたが、
統計的に有意な差は矢張り認められませんでした。

要するに、
これまでの3つの臨床試験の結果として、
卵円孔の閉鎖術の効果は、
その後の脳卒中の予防効果としては、
いずれも再発を抑制した、
という傾向は認められるものの、
統計的に有意な差は見られていません。

ただ、
古いタイプの器具と比較して、
アンプラッツアー閉塞栓を用いた手技では、
術後の心房細動の発症率が、
高く見積もっても未施行の2~3倍程度に留まっていて、
その点は明確に優位性が示されています。

いずれの試験においても、
抗凝固療法は複数の方法で行なわれていて、
比較としては問題がありますし、
脱落の事例が非常に多く、
その点が有意差の出ない、
1つの大きな理由になっています。

それから4年が経ち、
今回またNew England…の紙面の巻頭を飾った上記の論文では、
卵円孔開存のある全ての患者さんを治療対象とするのではなく、
卵円孔を通る血流量が多いか、
心房中隔瘤という、
より塞栓症のリスクが高いと想定される所見のある患者さんに限って、
治療を行なうという患者さんの絞り込みを行なっています。

対象となっているのは他に原因の明確ではない脳梗塞を起こした、
年齢は16から60歳までで、
検査により上記の所見のある卵円孔開存症が診断された663名で、
クジ引きで3つの群に分け、
第1群は抗血小板療法に加えてカテーテルによる卵円孔閉鎖術を施行し、
第2群は抗血小板療法のみを、
第3群は抗血小板療法より予防効果が高い抗凝固療法を、
それぞれ継続して脳梗塞の予防効果を比較しています。

平均の観察期間は5.3年です。

その結果、
観察期間中の脳梗塞の発症は、
カテーテル治療群ではなかったのに対して、
抗血小板療法群では14例発症していて、
抗血小板療法の単独と比較して、
カテーテル治療は脳梗塞の発症を、
97%有意に低下させていました。
ちょっと出来すぎの感じもありますが、
これまでにない画期的な結果です。

ただ、カテーテル治療後の心房細動の発症率については、
カテーテル治療群では4.6%に認められたのに対して、
抗血小板剤治療のみの群では0.9%しか認められていませんから、
合併症としての心房細動は、
矢張りカテーテル治療により増加することは間違いがありません。

これ以外に抗凝固療法と抗血小板療法との比較が行われていますが、
こちらは抗凝固療法の方が脳梗塞の発症は少ない傾向はあるものの、
有意な差は認められませんでした。

同じ紙面に載っている他の2編の論文においても、
解析法や対象とする患者さんの絞り込みの方法には、
それぞれ違いはあるのですが、
両者とも卵円孔閉鎖術によって、
抗血小板療法単独との比較べ、
その予防効果は有意に高いものとなっていました。
そのうちの1つは2013年の時点では差が見られなかったデータの、
より長期の解析結果となっています。

このようにカテーテル治療の手技や使用する器具の進歩、
また確実に卵円孔開存が関連していることが疑われる患者さんの絞り込みと、
以前の臨床研究とは別個の要素が加わることにより、
今回発表された3つの臨床研究においては、
いずれも一定の有効性がカテーテル治療により認められています。

今後どのような患者さんに対して、
最もこの治療の有効性が高く、
合併症などのリスクが少ないのか、
その検証を元に的確なガイドラインが、
作成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。



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原発性アルドステロン症の術後評価の国際基準(2017年作成) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
原発性アルドステロン症の予後判定.jpg
今年のthe Lancet Diabetes Endocrinology誌に掲載された、
片側副腎切除を施行された原発性アルドステロン症の患者さんの、
予後判定を国際的に行った結果をまとめた論文です。

原発性アルドステロン症は、
アルドステロンという水と塩分を保持する役割をするホルモンが、
過剰に分泌されることによって、
高血圧や低カリウム血症を生じる病気で、
治療抵抗性の高血圧の患者さんの2割はこの病気である、
という報告があるほど、
高血圧の原因としては多い病気です。

この原発性アルドステロン症は、
片側の副腎に腺腫というしこりがあって、
そこからアルドステロンが分泌される場合と、
両側の副腎に複数の過形成というしこりがあって、
そこからホルモンが分泌される場合とがあります。

両側性の場合には通常薬による治療が選択され、
片側のみにしこりがある場合には、
その切除の手術が検討されることが一般的です。

それでは、片側の副腎切除術を施行した場合の、
治療の成功率はどのくらいでしょうか?

これはどのような基準で治療が成功したと判断するのかによって、
異なって来る事項です。

手術前には高かったアルドステロンが正常化し、
低かったカリウムが正常化するという検査値で考えると、
成功した手術であればほぼ100%検査値は改善します。
これを生化学的寛解(biochemical remission)と呼んでいます。
これまでの報告では、
専門施設の手術後の生化学的寛解率は、
96から100%と報告されています。

しかし、原発性アルドステロン症の主症状である高血圧が、
手術後に治る患者さんはそこまで多くはありません。

手術の治療後に高血圧の症状が改善することを、
臨床的寛解(clinical remission)と呼んでいますが、
この臨床的な寛解率は報告された施設や地域によって、
非常にばらつきがあり、
報告では16から72%とされています。
要するにてんでバラバラです。

何故こうした違いが生じるのかと言うと、
それは1つには臨床的寛解についての明確な国際基準のようなものがなく、
報告する個々の施設や研究者の独自の基準によって、
臨床的寛解が決められている、と言う点が大きいと考えられます。

このように基準がバラバラであれば、
施設や地域の違いを比較検証することは出来ません。

そこで今回世界中の研究者が協力をして、
一定の手術後の寛解の基準を定め、
それに基づく寛解率をそれぞれの施設の患者さんで適応して、
その世界的な比較を初めて試みました。

今回参加しているのは世界12か所の専門施設です。
具体的には、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、
ポーランド、スロベニア、ニュージーランド、日本が協力し、
日本では横浜労災病院、東北大学医学部附属病院、
国立病院機構京都医療センターが協力しています。
まず片側副腎切除後の改善の評価を、
次の6段階で行うことを取り決めています。

①臨床的完全寛解(Complete clinical success);これは術後に降圧剤なしで外来血圧が140/90mmHg未満が維持されることです。
②臨床的部分寛解(Partial clinical success);これは降圧剤の減量が可能になるか、術前と同じ治療で血圧は術前より低下している状態です。
③臨床的改善なし(Absent clinical success);これは術前と同じ治療で血圧が同等であるか、むしろ悪化する場合です。
④生化学的完全寛解(Complete biochemical success);これはカリウム値とアルドステロン濃度、アルドステロン・レニン比が正常となることです。
⑤生化学的部分寛解(Partial biochemical success);これは一定の数値の改善があるものの、術後も異常値が続いている状態です。
⑥生化学的改善なし(Absent biochemical success);これは術後もカリウム値やアルドステロン分泌の異常が術前と変わりなく継続するものです。
以上の6段階の判定は術後3か月後に最初に行い、
術後半年から1年後に最終判定を行うとされていて、
最終判定後も1年毎に判定は継続するとされています。
(以上の文面の訳語は個人訳で正式ではありません)

この判定基準で個々の専門機関の患者さんを判定したところ、
全体で705名の患者中、
臨床的完全寛解率は37%、
施設間での差は17から62%と幅の広いものになっていました。
ちなみに最も臨床的完全寛解率が高かったのはオーストラリアで、
日本の3施設の臨床的完全緩解率は、
東北大学附属病院が63例中28.6%、
横浜労災病院が76例中46.0%、
京都医療センターが40例中42.5%となっていました。

臨床的部分寛解率は47%、
そして生化学完全寛解率は94%でした。

臨床的完全寛解率は、
男性より女性が高く、
術前の高血圧の程度が軽く、
年齢も若いほど高い傾向が認められました。

世界中の一流の専門機関において、
このような統一基準での比較がされたことは非常に有意義なことで、
今後はこの基準をより広く活用することにより、
本当の意味での原発性アルドステロン症の予後が、
明確になることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
数字に誤りと不充分な点がありましたので、
その部分の修正を行ないました。
(2019年9月20日午前8時22分修正)
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ニューヨークにおける認知症発症率の低下について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症は減少している.jpg
今年のJAMA Neurology誌に掲載された、
アメリカにおいて認知症の発症率(incidence)は減っている、
というデータを詳細に解析した論文です。

認知症は人口の高齢化に従って、
その有病率(人口の中で認知症の人の割合)は増加していますが、
実際に新規に認知症と診断される数は、
1980年代以降アメリカにおいては減少している、
という複数の疫学データが存在しています。

今回の研究は、
アメリカのニューヨーク州ブロンクス郡で行われた、
アインシュタイン加齢研究という疫学調査のデータを活用して、
出生年齢毎に診断される認知症の頻度が、
どのように異なっているのかを検証したものです。

対象者は70歳以上の1348名で、
平均で4.4年の経過観察が行われています。
観察期間中に150例の認知症が診断されています。
この認知症の発症率を出生年毎に見てみると、
1920年以前に生まれた人では、
年間100人当たり5.09人が認知症を発症したのに対して、
1920年から24年に生まれた人では、
年間100人当たり3.11人、
1925年から29年の出生者では1.73人、
1929年以降の出生者では0.23人と、
認知症とその後診断されるリスクは、
出生年度が下るほど明らかに低下していました。
診断を受けた年齢毎に検討してみても、
矢張りその年齢層毎の発症率も出生年が下るほど低下していて、
この傾向は間違いのない事実であるようです。

この間糖尿病の発症率は上昇している一方で、
脳卒中や心筋梗塞の発症率は低下していて、
心血管疾患はアルツハイマー病のリスクでもありますから、
心血管疾患のリスクの低下が、
認知症の発症率の低下に結び付いたという可能性はありますが、
一方で糖尿病のリスクは増加していて、
その解釈は難しいところです。

従って、その原因は不明ではあるのですが、
認知症の発症率がニューヨークでこの20年に低下していることは、
間違いのない事実で、
それは1920年以降の出生年齢と強い関連が認められます。
つまり、1920年以前と比較して、
それ以降に生まれた人は、
認知症になるリスクが年ごとに低下しているのです。

そうは言っても、
高齢化は先進国では世界的に進行するので、
認知症の患者さんが増えることは間違いがなく、
ただ今後の対策においては、
認知症発症率の低下傾向についても、
同時に織り込むということが必要になるのだと思います。

日本でもおそらく、
同様の傾向は存在しているのだと推察されますが、
それを裏付ける精度の高いデータが、
発表されることを待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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チオトロピウムの早期COPD進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
チオトロピウムのCOPD進行予防効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
チオトロピウムというCOPDに対する治療薬の、
比較的軽症の患者さんに使用した場合の、
比較的長期の有効性を検証した論文です。

チオトロピウム(商品名スピリーバ)は、
副交感神経の気道での働きを弱めることにより、
気道の平滑筋の収縮を抑え、
そのことによって気道を拡張する作用を持つ、
所謂気管支拡張剤です。
平滑筋のムスカリン受容体という、
アセチルコリンの結合部位に替りにくっつき、
それによってアセチルコリンの作用を弱めます。
この結合が長期間続くため、
1回の吸入により、
ほぼ1日を通して気管支の拡張作用が持続するのです。

こうした薬剤を総称して、
抗コリン剤と呼んでいます。

気管支喘息の時に用いる気管支拡張剤としては、
β2刺激剤と呼ばれる交感神経の刺激剤が有名ですが、
それよりもリバウンドが少なく、
安定して安全に使用出来る薬剤として、
その評価は近年高いものになっています。

この吸入タイプの抗コリン剤は、
喘息よりも肺気腫や慢性気管支炎などの、
高齢者の肺の病気である、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬として、
その有効性が注目されています。

そしてこのチオトロピウムは、
もう症状としての呼吸困難が生じているような、
比較的重症な患者さんに対しては、
その予後の改善や急性増悪の予防に対して、
一定の有効性が確認されています。

ただ、より軽症の患者さんに対しての有効性については、
これまであまり検証されていませんでした。

そこで今回の研究では中国において、
GOLDというCOPDの国際的分類の、
Ⅰ度もしくはⅡ度という、
比較的軽症のCOPDの患者さん、
トータル841名をクジ引きで2つに分け、
一方はチオトロピウムをハンディヘラで18μg、
1日1回吸入し、
もう一方は偽の吸入薬を同じように施行して、
2年間の経過観察を行っています。

その結果、
2年間の治療継続時で、
チオトロピウム吸入群は偽吸入群と比較して、
1秒量という呼吸機能の指標が有意に高く、
その低下率も有意に抑制されていました。

具体的には気管支拡張剤の使用前には、
年間の1秒量の低下率には有意差はありませんでしたが、
気管支拡張剤の使用後には、
偽吸入では年間51±6ミリリットルの低下であったのに対して、
チオトロピウム吸入では年間29±5ミリリットルの低下で、
その差は22(95%CI;6から37)ミリリットルと有意な違いになっていました。

つまり、比較的軽症のCOPDにおいても、
チオトロピウムを継続して使用することにより、
COPDの進行が予防される可能性が示唆される結果です。

これはハンディヘラ型の吸入用具によるものであることには、
注意が必要ですが、
今後チオトロピウムの使用開始のタイミングについては、
再検証がされるような流れになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

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マグネシウムとカリウム含有塩の脳卒中予後改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マグネシウムとカリウムの脳卒中後の補充効果.jpg
今年のAmerican Journal of Clinical Nutrition誌に掲載された、
脳卒中で退院後の患者さんに、
マグネシウムとカリウムの補充を行なった効果を検証した論文です。

脳卒中はその後の患者さんの人生に、
深刻な影響を残す病気ですが、
発症直後の症状が、
その後の3か月から6か月程度の期間の中で、
どれだけ改善するかが、
その予後判定の1つの指標となります。

ただ、急性期を過ぎて患者さんが退院した後の期間において、
その予後を改善し神経機能を改善するための、
決め手となるような治療が存在しているという訳ではありません。

その中で比較的報告が多いのが、
脳卒中受傷後の期間にマグネシウムを補充する、
という方法です。

マグネシウムは自然に存在するミネラルで、
身体のエネルギー産生や糖代謝、
遺伝子の合成などに不可欠の微量元素です。
また、これも身体に必須の電解質であるカルシウムやカリウムは、
細胞膜を移動する際にマグネシウムが必要で、
神経の伝達においてもカリウムとマグネシウムは必須のイオンです。
また、血圧上昇は脳卒中再発のリスクになりますが、
カリウムやカルシウムの摂取は、
ナトリウムの排泄を促して、
血圧の上昇を抑えます。

このようにマグネシウムの不足がないことは、
神経の再生にも必要不可欠なことと想定されますが、
急性期にマグネシウム塩を注射するような臨床試験では、
あまり明確な改善効果は確認をされていません。

今回の研究はマグネシウムやカリウムの不足が、
比較的多い地域である臺灣において、
脳卒中で入院された患者さんを退院後に、
本人にも主治医にも分からないように3つの群に分け、
第1群は通常の食塩を、
第2群はカリウムを多く含む食塩を、
第3群はカリウムとマグネシウムを多く含む食塩を、
それぞれ1か月に使用を想定される分量を渡して、
食塩の代わりに使用をしてもらい、
6か月の経過観察を行っています。

患者さんは退院時に、
modefied Rankin Scaleという脳卒中の指標において、
4以下という持続的な介護は必要としないレベルが対象で、
寝たきりのような重症度の方は含まれていません。
また、一か月以内の入院で、
年齢は45歳以上というのが要件になっています。

基本的な判断は、
退院の時点と治療開始後半年の時点での、
脳卒中の後遺症と生活自立度の指標が、
どの程度であったかで行われます。

具体的には3つの指標があり、
まずmodified Rankin Scaleで1以下、
NIHSS(NIH脳卒中スケール)が0、
Barthel Index(バーセル・インデックス)が100、
の全てを満たす患者さんの比率が、
どう変動したかを見ています。

このうち、modified Rankin Scaleの1以下というのは、
症状や症候はあっても明らかな障害はない状態で、
NIHSSの0というのは、
意識は清明で麻痺や言葉の障害もない状態、
バーセル・インデックスが100というのは、
日常生活が通常に出来るという意味合いです。

この3つの指標を満たす患者さんの比率は、
普通の食塩群では登録時が19.2%で半年後が25.3%、
カリウム強化塩群では登録時が17.5%で半年後が30.9%、
カリウムとマグネシウムの強化塩群では、
登録時が25.3%で半年後が40.0%でした。

元々の比率にもかなり違いがあるので、
その判断は微妙ですが、
統計上はカリウム強化塩群では、
普通の食塩群と有意な差はなく、
カリウムとマグネシウム強化塩群では、
3か月後と半年後の結果をミックスした場合に、
普通の食塩群より2.25倍(95%CI; 1.09から4.67)、
有意に増加していました。

このように、結果としてはちょっと微妙で、
解析によっては差が出たり出なかったりもしているのですが、
全体の傾向としては、
確かにカリウムとマグネシウムの摂取量を、
ナトリウムと相対的に増加させると、
脳卒中の予後が改善する傾向を示していることは、
間違いはなさそうです。

ただ、これは摂取した正確な量は不明で、
渡された食塩以外に、
自宅で摂取しているという可能性もありますから、
今後薬としてのマグネシウムを、
長期服用したような試験も、
再度行う必要があるように思います。

マグネシウムは高齢者では蓄積による中毒もありますから、
単純に多く摂った方が良いとも言えないのですが、
脳卒中後の患者さんで腎機能が正常であれば、
一定量の補充を考えても良いようには思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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よろしくお願いします。

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食事のバランスと健康との関連について(2017年大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖質と脂質のバランスと健康.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
世界的な大規模な疫学データを元に、
食事の栄養素のバランスと、
生命予後を含む健康との関連を検証した論文です。

人間が摂取するカロリーは、
大きく分けて炭水化物、脂肪、蛋白質の、
いずれかから得られています。

世界の地理的にも、また時代によっても、
その摂取量のバランスは様々です。
ある地域や時代においては、
極端に高蛋白で、脂質や炭水化物が少ない食習慣もありますし、
極端に炭水化物が多く、
脂質や炭水化物の少ないという食習慣もあります。

この20年余を考えてみても、
一時は脂肪をともかく減らすことが、
健康への早道のようなことが言われていましたが、
その後炭水化物の制限ということが、
今度は強く主張されるようになり、
悪者は脂肪から炭水化物に、
変わってしまったような感もあります。

WHOのガイドラインにおいては、
脂肪を摂取カロリーの30%未満とする、
低脂質の食事が心血管疾患の予防のためには推奨されていて、
特に飽和脂肪酸を摂取カロリーの10%未満にすることが求められています。
ただ、この根拠となるデータは世界の地域毎の、
食生活習慣と病気のリスクとの関連を見たものしかなく、
かつ調査地域もヨーロッパと北アメリカに大きく偏っています。

また、飽和脂肪酸の摂取による心血管疾患リスクの算出は、
飽和脂肪酸により血液のLDLコレステロールが増加する、
という点のみに着目したもので、
飽和脂肪酸が増加するとLDLコレステロールが直線的に増加する、
という仮定を元にしています。
しかし、この推測はHDLコレステロールや血圧など、
他の心血管疾患のリスク因子を無視したもので、
それほど精度の高い推測とは言えません。

また、最近のメタ解析の論文では、
ヨーロッパと北アメリカで施行された、
臨床研究や疫学データをまとめて解析した結果として、
総死亡のリスクや心血管疾患のリスクと、
飽和脂肪酸の摂取量との間には、
統計的に意味のある相関は見られなかった、
という結論になっています。

つまり、ヨーロッパや北アメリカに地域を限定しても、
飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患や死亡リスクとの間には、
明確は関連があるとは言えず、
それ以外の地域におけるデータは殆どないのが実状です。

そこで今回の研究においては、
世界18の国や地域の、
35歳から70歳のトータル135335名の食事調査を行い、
中間値で7.4年の経過観察期間において、
心血管疾患の発症リスクと、
総死亡のリスクと、
特定の栄養素の摂取量との関連を検証しています。

対象となっている地域は、
カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦、
アルゼンチン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、
イラン、マレーシア、パレスチナ自治区、ポーランド、
南アフリカ、トルコ、バングラデシュ、
インド、パキスタン、ジンバブエです。

経過観察の期間中に、
5796名が死亡し、4784名が心血管疾患を発症しています。
炭水化物のカロリーに占める割合が最も多い群(平均で77.2%)は、
最も少ない群(総カロリーの平均で46.4%)と比較して、
総死亡のリスクが1.28倍(95%CI;1.12から1.46)有意に増加していました。
炭水化物の摂取量が多いほど、
死亡リスクも高いという傾向も認められることから、
この関連には一定の信頼性があると言えそうです。
一方で心血管疾患のリスクや心血管疾患による死亡のリスクについては、
炭水化物の摂取カロリーとの間に関連はありませんでした。
関連が明確にあったのは、
心血管疾患とは関連のない死亡についてのみです。
要するにメインは癌や感染症による死亡と想定されます。

一方で脂質については、
脂質のカロリーをトータルで見た場合、
脂質の総カロリーに占める割合が最も高い群(平均で35.3%)は、
最も低い群(平均で総カロリーの10.6%)と比較して、
総死亡のリスクは23%(95%CI; 0.67から0.87)有意に低下していました。
このリスクの低下も脂質の量とほぼ相関していて、
心血管疾患のリスクや心血管疾患による死亡のリスクとは、
関連を示していませんでした。
つまり、脂質に関しても、
関連があったのは心血管疾患以外での死亡についてののみです。

ここで脂質の中身を見てみると、
飽和脂肪酸単独でも単価不飽和脂肪酸単独でも、
多価不飽和脂肪酸単独でも、
ほぼ同様に摂取量が多いほど、
心血管疾患以外の死亡リスクは低下していました。
ただ、その中においては、
多価不飽和脂肪酸が最もそのリスクを低下させていました。

最後に蛋白質について見ると、
総カロリーに占める蛋白の比率が、
平均で16.9%(95%CI; 16.4から17.4)の群が、
最も総死亡のリスクは低下していました。
この場合も心血管疾患以外の死亡リスクのみが、
蛋白質の比率と関連していました。

ここで仮に総カロリーの5%を置き換える効果を算出すると、
炭水化物のカロリーを、
そのまま同カロリーの多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、
総死亡のリスクは11%(95%CI; 0.82から0.97)有意に低下する、
というように計算されました。
一方でこのカロリー分を、
飽和脂肪酸や単価不飽和脂肪酸、蛋白質にそれぞれ置き換えても、
死亡リスクの低下は認められませんでした。

今回のデータは大変興味深いもので、
これまでの常識とは異なる部分を多く含んでいます。

まず、脂質、糖質、蛋白質のバランスにより、
生命予後において影響が出るのは、
主に心血管疾患以外の病気による死亡リスクであって、
これまで最重点に考えられていた、
脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患は、
トータルにはあまり食事の影響を受けてはいない、
という知見です。
ただ、これは勿論通常の食事の範囲であって、
極端な食事パターンを取れば、
弊害が生まれる可能性は充分にあります。

更には炭水化物は総カロリーの50%を超えると、
総死亡のリスクを引き上げていて、
50%は超えないレベルに維持することが望ましく、
そのカロリー分は蛋白質ではなく脂質、
特に多価不飽和脂肪酸
(ナッツやオリーブオイル、青味の魚など)
に振り替えることがそのリスクの軽減に繋がる、
という知見です。
ただ、このリスクも心血管疾患とは無関係です。

この論文の日本での解説記事には、
「炭水化物が多いと寿命が縮む」
というようなニュアンスが多いのですが、
炭水化物は一番少ない群でも、
95%信頼区間で40%は切っていませんから、
敢くまでカロリー比で50%を超える、
糖質主体の食事が良くない、
という趣旨であることを理解する必要があります。

このデータでは食事調査は1回のみですから、
その結果の評価には限界があるのですが、
基本的な方向性はおそらく正しいものだと個人的には思うので、
今後の検証と、
それがガイドラインなどに、
的確に反映されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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喀痰ムチン濃度とCOPDとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ムチンと気管支炎.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の新たな重症度の指標として、
痰の中のムチンという粘性物質の濃度を測定している論文です。

やや特殊な測定法で濃度を評価しているので、
そのまま臨床にすぐ応用可能、
ということではないのですが、
COPDの経過に関するこれまであまり重視されて来なかった側面に、
初めて光を当てたものとして、
9月7日の紙面の巻頭を飾っています。

COPDというのは皆さんご存知のように、
主に喫煙を原因とする肺の進行性の病気で、
古典的な考えとしては、
慢性気管支炎と肺気腫という、
2つの側面があるとされていました。
肺気腫というのは気道の閉塞と、
それに伴う肺の拡張に伴う症状で、
明確な肺気腫という病態になる前に、
呼吸機能の検査においては、
1秒量という数値が低下するので、
それが初期のCOPDを発見するために、
有用な指標であるとされています。

古典的なCOPDには、
もう1つ慢性気管支炎という側面があります。

慢性気管支炎というのは、
「慢性の咳、痰が少なくとも年に3か月以上あり、
それが少なくとも連続2年以上認められ、
その症状が他の肺疾患や心疾患を原因としない」
と定義されています。

これを読むと何となく、
咳や痰が長く続いていれば慢性気管支炎なのか、
と思われがちですが、
実際には明確に感染に起因していたり、
アレルギーの関与があるようなものは除外した上でのことなので、
これはタバコを長く吸っている人での咳や痰の症状を、
基本的には意味していて、
慢性気管支炎というのは、
要するにほぼタバコ気管支炎と同等なのです。

それでは、
タバコを吸っている人で咳や痰が多いのは何故なのでしょうか?

1つの仮説は痰の主たる成分の1つである、
気道のムチンという粘液成分が多いという現象です。

ムチンというのは動物の分泌する粘液成分で、
オクラなどのネバネバの成分も、
ムチンの仲間です。
その成分は糖蛋白質で水溶性の食物繊維です。

ある意味高齢者の痰というのは、
病原体などを含まないものに関しては、
むしろ健康に良い成分である訳です。

このムチンは気道や粘膜を潤滑にし、
その表面を覆って保護するような役割を持っています。

従って、適度にある分には、
健康的なムチンなのですが、
それが過剰に産生されたり、
何等かの原因によってその局所の濃度が高くなると、
気道であればそれは痰となって、
咳の原因になったり、
咽喉を詰まらせる原因になったりもするのです。

それでは何故ムチン濃度は上昇するのでしょうか?

メカニズムは必ずしも明確ではありませんが、
COPDにおいてはムチンの産生が亢進し、
また水や電解質の輸送のバランスが崩れるので、
ムチン濃度とその量の増加が生じると考えられています。

それではこの気道におけるムチン濃度と、
COPDの予後との関連はどうなのでしょうか?
その点については、
これまであまり精度の高いデータが存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
別個のCOPDの臨床研究の参加者917例の、
喀痰の総ムチン濃度の測定を行い、
そのうちの148例においては、
特に呼吸器疾患と関連の高い、
呼吸器分泌型ムチン(MUC5AC、MUC5B)の測定を行って、
他のCOPDの指標との関連を検証しています。

その結果、
喀痰の総ムチン濃度は、
喫煙歴のないコントロールよりCOPDの患者さんで有意に高く、
年に2回以上急性増悪のある重症のCOPDでは、
そうでないCOPDより有意に高くなっていました。
また、呼吸器分泌型ムチン濃度は、
喫煙歴のないコントロールと比較して、
重症のCOPDの喫煙者では10倍、
重症のCOPDの既往喫煙者では3倍と、
有意に増加していました。

このように、
喀痰のムチン濃度が高いほど、
COPDの重症度は高く、
それは喫煙歴とも相関していました。

今回のデータのみでCOPDにおける喀痰ムチン濃度の意義を、
確定的に言うことは困難ですが、
これまでのCOPDの評価は、
気道の閉塞性変化や気腫性変化に偏っていた、
という側面はあり、
今後慢性気管支炎と患者さんの予後との関連は、
もっと検証される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

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