So-net無料ブログ作成
検索選択
医療のトピック ブログトップ
前の10件 | -

食生活と生命予後との関連について(アメリカの大規模調査) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
食事内容と病気との関連.jpg
本年のJAMA誌に掲載された、
食生活と病気との関連についての論文です。

食事は健康の維持や病気の予防のために、
非常に重要であると考えられています。

ただ、加工肉が多いと健康に良くないとか、
塩分の多い食事は高血圧になる、
というようなデータは沢山あっても、
その人にとってトータルに見た時に、
健康に食事の個々のバランスが、
どの程度の影響を与えているかについての、
精度の高いデータはあまり存在していません。

今回の研究はアメリカにおいて、
NHANESと呼ばれる大規模な健康栄養調査の結果を解析することで、
食事の内容と心臓疾患、脳卒中、2型糖尿病などによる死亡リスクとの関連を、
検証しています。

トータルな対象者は16620名で、
観察期間中に506100名は心臓病のために、
128294名は脳卒中のために、
67914名は2型糖尿病のために死亡しています。

このうちの45.4%に当たる318656件の死亡は、
食事内容の偏りとの関連が認められました。
その影響が最も大きかったのはナトリウムの摂取量で、
心臓病、脳卒中、2型糖尿病などによる死亡の9.5%が、
1日2000㎎(食塩に換算して5グラム)を超える塩分を摂っていることにより、
生じた死亡と推定され、
また8.5%の死亡は、
ナッツを1日20.2グラム未満しか摂らなかったことから、
7.8%の死亡は、
EPAなどの魚由来のω3脂肪酸が1日250㎎未満であることから、
7.6%の死亡は、
野菜の摂取量が1日400グラム未満であることから、
7.5%の死亡は、
果物の摂取量が1日300グラム未満であることから、
そして7.4%の死亡は、
コーラなどの砂糖含有清涼飲料水の摂取習慣から生じていると、
推定されました。

これは逆に言えば、
塩分を控え、果物や野菜を多く摂り、
砂糖を含むジュースは飲まず、
青身魚の脂とナッツを多く摂れば、
生活習慣病による死亡をかなり減らすことが可能だ、
ということを示しています。

これは1つの推計に過ぎないものですが、
大規模で長期間の調査によって、
食事内容の偏りが、
意外に大きく心血管疾患や代謝疾患の死亡リスクに関連している、
という指摘は興味深く、
今後の食事指導や生活指導においても、
大きなインパクトを持つ調査であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


乳製品の摂取と高血圧の関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
乳製品と高血圧.jpg
本年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
乳製品の摂取と血圧との関係についての論文です。

乳製品にはカルシウムが多く含まれ、
そのため血圧には良い影響があると想定されます。
その一方で乳脂肪は動物性の脂肪ですから、
その摂り過ぎはメタボにも繋がり、
血圧にも悪影響を与える可能性があります。

これまでの疫学データにおいて、
乳製品の摂取量が多いほど、
高血圧が少なく血圧も低い、
という結果がある一方、
そうした関連は認められない、
というような結果も報告されています。

そこで今回の研究では、
乳糖分解酵素に関する遺伝子変異を、
これまでのデータを元に解析して、
その検証を行っています。
遺伝性変異のあるなしは無作為に決められているとして、
その比較を行う、
メンデル無作為化解析という手法です。

乳酸分解酵素が機能しないような変異がある場合、
乳製品を摂れば下痢になってしまうので、
乳製品は殆ど摂らないと想定されます。
この変異のあるなしは無作為に決められると想定されるので、
変異のある群とない群で比較するということは、
クジ引きで乳製品を摂る人と摂らない人とを分けて観察することと、
同じ意味があるという考え方になるのです。

今回の研究では、
これまでの遺伝子変異と病気についての、
22の臨床研究からのトータル171213名のデータを元に、
乳酸分解酵素に関わる遺伝子変異と、
高血圧及び収縮期血圧との関連を検証しています。

その結果、
乳製品の摂取に関連のある遺伝子変異と、
高血圧の発症及び収縮期血圧との間に、
有意な関係は認められませんでした。

つまり、乳製品の摂取と血圧との間には、
良くも悪くもそれほど明確な因果関係はなさそう、
という結果になっています。

乳製品と健康や病気との関連については、
色々な見解がありまだ一定はしていませんが、
高血圧に関しては、
ある程度の乳製品の摂取が、
少なくとも悪く働くということはなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


抗凝固療法の質と脳梗塞の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗凝固療法と脳卒中の予後.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
心房細動不整脈に伴う脳梗塞の発症と、
その重症度に与える抗凝固療法の効果についての論文です。

心房細動という不整脈があり、
心臓内の血液の滞りにより血の塊が出来て、
それが脳に飛んで脳梗塞(脳塞栓)を起こす原因となります。
心房細動になることにより、
4から5倍脳梗塞の危険性が増すと考えられています。

その予防のために、
通常血液を固まりにくくするような薬が使用されます。

心房細動患者さんの脳梗塞予防として、
最もその有効性が確認されているのは、
ワルファリンの使用です。

しっかりとコントロールされたワルファリンの使用により、
脳梗塞は6割以上予防されると報告されています。

アスピリンなどの抗血小板剤と呼ばれる薬が、
脳梗塞予防として使用されることもありますが、
その予防効果はせいぜい2割程度で、
ワルファリンとは大きな差があります。

最近ワルファリンと同等の効果を持つとされる、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤と呼ばれる薬が、
2011年以降に日本でも使用が開始されています。
直接トロンビン阻害剤やⅩa因子阻害剤の、
以前は新規抗凝固剤と呼ばれていた一連の薬剤です。

直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)、
Ⅹa因子阻害剤のリバーロキサバン(商品名イグザレルト)、
アピキサバン(商品名エリキュース)、
エドキサバン(商品名リクシアナ)などがその代表です。

従って、脳梗塞のリスクがある程度高いと推定される場合には、
ワルファリンもしくは非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を、
使用することが国際的に推奨されています。

ただ、実際の臨床においては、
ガイドラインで推奨されている患者さんのうち、
本当にしっかりと治療をされているのはどのくらいなのでしょうか?
ワルファリンはPT-INRという数値が、
2.0から3.0を目標としてコントロールすることが求められていますが、
それも実際にはどのくらいの患者さんで達成されているのでしょうか?

どちらも意外に低い数字であるような気もします。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
心房細動があることが判明していて、
急性の虚血性脳梗塞を起こした患者さん、
トータル94474名の治療の実際と、
脳梗塞の予後との関連を検証しています。

実臨床における非常に大規模なデータです。

その結果…

解析されている患者さんの平均年齢は79.9歳で、
57.0%が女性です。
全体の7.6%に当たる7176名は、
PT-INRが2以上のコントロールされたワルファリン治療を受けていました。
また、8.8%に当たる8290名は、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤を使用していました。
一方で全体の83.6%に当たる79008名は、
ガイドラインで推奨されるような予防治療を受けてはいませんでした。
13.5%に当たる12751名は、
PT-INR2未満の不充分なワルファリン治療を受け、
39.9%に当たる37674名は、
アスピリンなどの抗血小板剤のみの治療を受け、
30.3%に当たる28583名は、
何の治療も予防のために行っていませんでした。

脳梗塞のリスクの指標であるCHA2DS2-VAScスコアが、
2以上という高リスクの91155名のみでの解析でも、
83.5%の患者さんは有効とされる抗凝固療法を受けていませんでした。

一方でNIHSSという指標で16点以上の中等度から重症の脳梗塞は、
未治療では27.1%で、抗血小板剤のみの治療では24.8%、
不充分なコントロールのワルファリンでは25.8%に見られたのに対して、
コントロールが適切なワルファリン治療では15.8%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療では17.5%で、
脳梗塞を起こした場合の重症化は、
治療が適切ではない患者さんで、
より頻度が高くなっていました。

また、入院中の死亡率も、
未治療では9.3%で、抗血小板剤単独では8.1%、
不充分なコントロールのワルファリンでは8.8%であったのに対して、
コントロールが良好なワルファリンでは6.4%、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤では6.3%と、
死亡率も治療が適切である場合に有意に低くなっていました。

関連する因子を補正した結果として、
未治療の場合と比較して、
中等度から重度の脳梗塞になるリスクは、
コントロールされたワルファリン治療で44%(95%CI;0.51から0.60)、
非ビタミンK阻害経口抗凝固剤治療で35%(95%CI;0.61から0.71)、
抗血小板剤治療で12%(95%CI;0.84から0.92)、
それぞれ有意に抑制されていました。

つまり、
推奨される抗凝固療法を施行することにより、
万一脳梗塞を発症した場合でも、
その予後はより軽いものに留まっていた、
という結果になっています。

そして、心房細動においては抗凝固療法が推奨されていながら、
多くの高齢者において、
実際には不充分な治療しか行われていないか、
未治療のケースが、
脳梗塞を実際に起こした患者さんにおいては、
非常に多かった、ということも明らかになりました。

実臨床においては、
患者さんの年齢や状態、
出血系の合併症のリスクなどを重く見て、
抗凝固療法が控えられるケースが、
少なからずあるのですが、
今回の実際の臨床データを見る限り、
極力推奨される治療を行なった方が、
脳梗塞を発症したケースにおいても、
その予後には良い影響を与えることが多いと考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


マクロTSHと睡眠との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マクロTSH.jpg
今月のScientific Reports誌にウェブ掲載された、
マクロTSHについての論文です。

甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、
脳下垂体から分泌されて、
甲状腺を刺激し、
甲状腺ホルモンの分泌を調節しているホルモンです。

この数値が高値であると、
通常は甲状腺ホルモンの分泌が不足していることを示しています。

要するに甲状腺機能低下症です。

しかし、稀にこのTSHが高値であっても、
T3やT4という甲状腺ホルモンの数値は、
正常であるという事例が報告されています。

TSH産生下垂体腫瘍などと共に、
その稀な原因の1つと考えられているのが、
IgGという免疫グロブリンと結合したマクロTSHです。

TSHは血液中では、
通常は蛋白質とは結合しない、
遊離ホルモンという状態で存在しているのですが、
そのうちの一部が血液中で免疫グロブリンと結合して、
マクロTSH(大きさの大きなTSH)という状態になることがあります。

免疫グロブリンというのは抗体ですから、
これは要するに抗TSH抗体が、
TSHと結合してしまう、
ということを意味しています。

抗体と結合したTSHは、
甲状腺のTSH受容体とは結合出来ませんから、
結果としてTSHとしての働きを示すことが出来ません。

そのために、
TSHは上昇しているのに、
甲状腺機能は正常ということが起こるのです。

症例報告ではTSHが96.0から274という高値に上昇し、
その多くがマクロTSHであったという事例が報告されています。

それでは、
通常に分泌されるTSHと、
抗体と結合してしまうTSHとの間には、
何等かの違いがあるのでしょうか?

この点についての1つの仮説は、
通常の下垂体前葉とは少し違う周辺の脳神経細胞から、
少しだけ構造の違うTSHが分泌されていて、
それは脳内のみで作用を持っているので、
血液中では抗体に結合して不活化されるのだ、
というものです。

2014年の名古屋大学の研究者らによる報告では、
下垂体の隆起葉という組織から、
その構造の違うTSHが分泌され、
ネズミにおいては春になると、
その部位からホルモンが分泌され、
生物に季節を知らせ、
そのTSHは血液中では抗体と結合してマクロTSHになる、
という結果になっています。

非常に興味深い報告ですが、
人間でもこうした現象があるかどうかは、
現時点では分かりません。

今回の研究は兵庫医科大学において、
脂質異常症や糖尿病など、
心血管疾患のリスクのある患者さん314名を登録し、
睡眠と動脈硬化や心血管疾患との関連を見る疫学研究の一環として、
血液のマクロTSHと睡眠の状態との関連を検証しています。

その結果TSHが正常であっても、
中間値で77.6%のTSHはマクロTSHの状態であることが確認されました。

TSHが高いほど、
マクロTSHの比率が高い傾向はあるのですが、
通常でも3分の2を超えるTSHは、
実際には抗体に結合した状態で存在しているということになり、
これはかなり驚くような結果です。

この研究ではアクチノグラフィーという簡易検査で、
計測された睡眠の状態において、
睡眠の持続などの指標が、
マクロTSHの高い人では低下していた、
という結果が示されていて、
マクロTSHの多い人は、
睡眠の状態も悪いのでは、
という仮説が提唱されています。

ただ、これはやや疑問に感じる結論です。

TSHの高い人は睡眠時無呼吸が多い、
というようなデータはあり、
それが実際にはトータルなTSHより、
マクロTSHの影響なのではないか、
ということが言いたいのだと思いますが、
そもそもTSHと睡眠時無呼吸との関連は、
甲状腺機能低下症において、
肥満や喉頭の浮腫みが生じやすく、
それが無呼吸の要因になっているのではないか、
という考えによっているのです。
今回登録された患者さんはそれほど肥満の人はなく、
甲状腺機能低下が著明な人もいないので、
前提はかなり異なっていると思います。

検査自体も簡易検査(脳波などは取っていない)によるものなので、
分類も中間値で2群に分けて比較したという大雑把なものですし、
これで睡眠とマクロTSHとの関連を、
云々出来るようなものではないと思うのです。

ただ、実際には多くのTSHが血液中では抗体と結合して、
その活性を持っていないという指摘は興味深く、
今後の検証を期待したいと思いますし、
甲状腺の臨床に関わっている立場からは、
トータルのTSHの濃度が、
必ずしも甲状腺機能を正確に反映していない可能性がある、
という指摘は、
重要なものであるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


キスペプチンとその不思議 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
キスペプチンと性衝動.jpg
今年のThe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
キスペプチンという脳ホルモンと、
大脳辺縁系の働きについての論文です。

最近脳視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌に、
大きく関連するもう1つの物質として、
キスペプチン(KISSI)が新しい話題となっています。

キスペプチンは54個のアミノ酸からなるペプチドホルモンで、
視床下部や大脳辺縁系などの神経細胞から、
産生される神経ペプチドです。

発見は1996年で、
ペンシルバニア大学のグループがその遺伝子を発見し、
当初は癌抑制能を持つ遺伝子と考えられました。
キス・チョコレートで有名な工場がそばにあったことなどから、
Kiss1遺伝子と命名されたのです。
2001年には別個に日本の研究者が、
癌抑制作用を持つペプチドを発見し、
メタスタチンと命名しましたが、
それがKiss1遺伝子がコードするペプチドであることが、
その後判明します。

それからキスペプチンの遺伝子がないと、
思春期が来ないことなどが報告され、
キスペプチンは生殖と関連のある脳ホルモンであることが、
徐々に明らかになって来たのです。

女性ホルモンの分泌には幾つかの謎がありました。

普通ホルモンはネガティブ・フィードバックと言って、
刺激ホルモンにより刺激されたホルモンが増加すれば、
それにより刺激ホルモンは逆に抑制される仕組みで調節されています。
しかし、女性ホルモンに関しては、
そのネガティブ・フィードバック以外に、
高度にホルモンが増加すると、
それが更に刺激ホルモンを刺激するという、
ポジティブ・フィードバックの仕組みも兼ね備えています。
何故このような仕組みが成立しているのかは謎でした。
また、女性ホルモンの最も高次での調節をしている、
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は、
パルスのように間欠的に放出されているのですが、
その調節の仕組みも謎でした。

実はこの2つの謎の答えに、
キスペプチンが大きく関わっていることが明らかになったのです。

こちらをご覧下さい。
キスペプチンの作用の図.jpg
2003年の海外文献を翻訳した解析記事からの引用ですが、
キスペプチンの分泌様式を図示したものです。

キスペプチンは、
前腹側室周囲核から内側視床前野の部分と、
視床下部弓状核の部分の2か所の神経細胞から分泌され、
それぞれ異なる役割を果たしながら、
交互に関連を持っています。

女性ホルモンであるエストロゲンによって、
視床下部弓状核からのキスペプチン分泌は抑制されます。
これはネガティブ・フィードバックです。
一方で前腹側室周囲核から内側視床前野においては、
エストロゲンにより更にキスペプチン分泌が促進するという、
ポジティブ・フィードバックが成立しています。

キスペプチン分泌細胞は、
神経伝達物質であるダイノルフィン(オピオイドの一種)と、
ニューロキニンBという2種類のペプチドも、
分泌していることが分かっていて、
キスペプチン細胞がニューロキニンBの作用により活性化し、
少し遅れて出るダイノルフィンにより抑制される、
というサイクルを繰り返します。
それより分泌されるキスペプチンも脈動的になり、
それがGnRH分泌細胞を刺激することで、
GnRHのパルス状の分泌が行われているのです。

つまり、GnRH分泌細胞がその特有のパルス様分泌の主体ではなく、
それは実はキスペプチン細胞の性質であったのです。

今回ご紹介する論文は、
このキスペプチンが性欲や性衝動にも関連している、
大脳辺縁系にも発現していて、
それが性衝動のコントロールをしているのではないか、
という仮説の元に、
29名のボランティアの異性に性欲を感じる男性に、
キスペプチンを75分間持続的に注射し、
性欲を促すような写真や、
男女の幸せな結びつきを示す画像、
更には非常にネガティブな感情を刺激する画像などを見せて、
その時の大脳辺縁系の神経活動を、
偽薬の注射と比較して、
機能性MRIで解析しています。

その結果、
他の画像では得られなかった大脳辺縁系の神経活動の亢進が、
キスペプチンを注射した際の、
性的な画像や男女の結び付きの画像で惹起され、
偽薬ではそうした反応は見られませんでした。
またネガティブなイメージ画像を見せた際には、
キスペプチンの注射で前頭葉が興奮し、
ネガティブな感情が打ち消されていることが示唆されました。

要するにキスペプチン産生細胞は、
一種の脳内麻薬を産生し、
性欲による興奮や性衝動に関わっています。
ただ、その性欲は性交渉と切り離した、
男女の結び付き自体も求める方向に働いていて、
性的なパートナーを求め、
その相手を一緒に生活することで、
感情的な安定と充足を得るという一連の流れが、
脳の中にすでに用意されていることを、
示唆してもいるのです。

まあ、こうした少人数の脳の機能に関わる研究は、
結果がその後否定されることも多いので、
今の時点では話半分で受け取った方が良いように思いますが、
生殖と性欲と人生の充足、
また今日は触れませんでしたが、
肥満などの代謝とも結びついた機能を持つキスペプチンは、
今後生殖や内分泌のトレンドとして、
多くの知見を生み出すことは間違いがないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


降圧剤(レニン・アンジオテンシン抑制薬)によるクレアチニン上昇について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ARBとクレアチニン.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
血圧の薬による腎機能低下のリスクについての論文です。

ACE阻害剤とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、
カルシウム拮抗薬と共に、
最も広く使用されている血圧降下剤です。

カルシウム拮抗薬と比較すると、
腎臓保護作用などの臓器保護作用があることが、
ACE阻害剤やARBの利点であると考えられています。
こうした薬の主な作用は、
アンジオテンシンⅡという物質の働きを抑制することで、
アンジオテンシンⅡは腎臓から出る輸出細動脈を収縮させて、
腎臓の糸球体の圧力を上げ、
それが高血圧による腎機能低下の、
主な原因だと考えられているからです。

ACE阻害剤やARBを使用することにより、
輸出細動脈が拡張するので糸球体の内圧が低下し、
高血圧による腎機能の低下を予防することが期待出来るのです。

ところが…

ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能が比較的急激に低下することがあることが知られています。

これは薬剤の臨床試験の時には、
ごく僅かな頻度でしかなかった有害事象でしたが、
実際の臨床で薬を使うようになると、
その報告は急増して大きな問題となったのです。

何故、腎保護作用のある薬で、
腎臓が悪くなるようなことが起こるのでしょうか?

一応次のように考えられています。

高齢者などで見た目より実際には腎機能が低下していて、
腎臓の糸球体の血流量が低下しているようなケースでは、
輸出細動脈が広がることにより、
更に腎血流が低下して、
血流低下による腎障害を来しやすくなるのです。
こうした薬の腎保護作用は、
高血圧で糸球体の圧力が高いことが前提になっているのですが、
実臨床では意外にそうでないケースがある、
ということかも知れません。

更には利尿剤を併用していて脱水があったり、
それ自体腎血流低下作用のある消炎鎮痛剤
(ロキソニンなどの痛み止めなど)を使用していると、
相乗効果でそのリスクが高まると想定されます。

そこで現行のイギリスのガイドラインにおいては、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
腎機能の指標であるクレアチニンの数値が、
30%以上増加した場合には、
薬の中止を検討するべき、
という方針が示されています。

こうした方針があると、
クレアチニンが30%上がらなければ、
少し上がっても問題はないようにも読めますが、
その根拠はそれほど明確なものではありません。

そこで今回の研究では、
イギリスの大規模な医療データを活用して、
ACE阻害剤もしくはARBの使用後、
2か月以内に測定されたクレアチニン値の変化と、
その後の腎障害の進行などとの関連を検証しています。

対象となっているのは、
ACE阻害剤もしくはARBを開始した患者、
トータル122363名で、
このうち1.7%に当たる2078名では、
血液のクレアチニン値が開始後に30%以上増加していました。
30%以上クレアチニンが上昇するのは、
女性、高齢者、心血管疾患罹患者、
非ステロイド系消炎鎮痛剤やループ利尿剤、
カリウム保持性の利尿剤(スピロノラクトンなど)の使用者に、
多く認められました。

そして、クレアチニン値が30%以上増加した患者は、
そうでない患者と比較して、
末期腎不全になるリスクが3.43倍(95%CI;2.40から4.91)、
心筋梗塞になるリスクが1.46倍(95%CI;1.16から1.84)、
心不全になるリスクが1.37倍(95%CI;1.14から1.65)、
総死亡のリスクが1.84倍(95%CI;1.65から2.05)、
それぞれ有意に増加していました。

ただ、クレアチニンの増加率を、
もう少し細かく検証すると、
末期腎不全になるリスクは、
クレアチニンの増加が10%未満と比較した場合に、
10から19%の増加でも1.73倍(95%CI;1.41から2.13)、
20から29%の増加でも2.58倍(95%CI;1.87から3.56)、
と増加していて、
総死亡のリスクも同様に、
10から19%の増加でも1.15倍(95%CI;1.09から1.22)、
20から29%の増加でも1.35倍(95%CI;1.23から1.49)、
と有意に増加が認められました。

つまり、
クレアチニン濃度が使用前の30%増加で線引きをすることには、
一定の意味はあるのですが、
実際にはそれより軽度の増加でも、
腎不全や総死亡のリスクには差が付いていて、
軽度の増加であれば問題ない、
というようにも言い切れません。

いずれにしても、
ACE阻害剤やARBを使用する際には、
使用開始後2か月以内に、
一度は必ずクレアチニンを測定し、
10%を超える上昇傾向が認められた場合には、
薬剤の中止を含めた検証が、
必要だと考えられます。
特に高齢の女性であったり、
消炎鎮痛剤を継続的に使用していたり、
利尿剤と併用している患者さんでは、
よりリスクが高いと考えて、
慎重に使用する必要があります。

一時期には、
ACE阻害剤やARBの使用開始後に、
一時的に上昇するクレアチニンは問題ではない、
というような見解が、
専門の先生から示されていたことが、
あったようにも記憶しているのですが、
今回の検証などを見る限り、
そうした考え方は危険であるように思われます。

ACE阻害剤やARB(特にACE阻害剤)が、
血圧のコントロールや心疾患の管理において、
非常に有用性の高い薬剤であることは間違いがありませんが、
以前想定していたよりその腎機能に与える影響は大きく、
腎機能が低下した場合の予後に与える影響も大きいので、
その点には慎重な判断が必要なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


糖尿病による認知症リスクの増加とその他のリスクとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
糖尿病と認知症リスク.jpg
今年のAlzheimer's Research & Therapy誌に掲載された、
認知症と生活習慣病との関連についての論文です。

認知症の原因は、
まだ完全に解明をされている訳ではありませんが、
動脈硬化が明確な原因となる脳血管性認知症以外の認知症においても、
糖尿病や高血圧、脂質異常症が認知症の発症のリスクになる、
と言う点については多くの疫学データにより確認されています。

ただ、
2型糖尿病のベースには多くの場合インスリン抵抗性があり、
インスリン抵抗性と脂質異常症、高血圧症は相互に関連があります。
単純に考えても糖尿病の患者さんの多くでは、
高血圧と脂質異常症の合併がありますから、
この3つの病態は完全に独立したものとは言えません。

ややこしいことに、
高コレステロール値症の治療薬であるスタチンは、
新規糖尿病のリスクを軽度ながら増加させます。

これまでに個別の病態と認知症リスクとの関連については、
多くの疫学データがありますが、
糖尿病の患者さんが脂質異常症を合併している場合と、
そうでない場合とでどのくらい認知症のリスクが変わるのか、
というような相互の関連については、
あまり大規模な検討がありませんでした。

そこで今回の研究は台湾において、
健康保険の医療データを解析することにより、
2000年から2002年に新規に糖尿病と診断された10316名と、
41246名の非糖尿病の集団を比較して、
糖尿病と高血圧、脂質異常症の、
認知症の発症に関わるリスクを検証しています。
経過観察は2009年まで行われていて、
年齢は20歳から99歳が登録時に対象となっています。

その結果…

糖尿病群においては333件の認知症が診断されていて、
非糖尿病群と比較して年齢や他の心血管疾患などの因子を補正して上で、
認知症のリスクは1.47倍(95%CI; 1.30から1.67)、
有意に増加していました。

そして、糖尿病の患者さんが、
その後に高血圧や脂質異常症を合併しても、
認知症のリスクは有意には増加しませんでした。

脂質異常症を糖尿病に合併すると、
その後の認知症リスクは有意ではないものの、
むしろ低くなり、
スタチンを継続使用している患者さんでは、
認知症リスクは有意に低下していました。
一方でスタチンを未使用の患者さんのみで解析すると、
脂質異常症を合併した方が、
認知症リスクは有意に低下していました。

一方で糖尿病のない群では、
高血圧があることにより認知症のリスクは、
ない場合と比較して1.22倍(95%CI:1.05から1.40)となり、
脂質異常症があることにより、
1.22倍(95%CI;1.05から1.40)とそれぞれ有意に増加していました。
両者を合併した場合の認知症リスクは、
1.33倍(95%CI;1.09から1.63)とこれも有意に増加していました。

つまり、
糖尿病が生活習慣病としては、
最も大きな認知症のリスクになり、
そこに高血圧や脂質異常症が合併しても、
認知症のリスクという面では、
それほど大きな影響を与えるものではない、
という結果になっています。
サブ解析なので何処まで意味を持つものかは分かりませんが、
糖尿病の患者さんでコレステロールの高いことは、
むしろ認知症のリスクを低下させていて、
その一方でスタチンを使用することにより、
認知症は予防されていました。

ただし、
今回のデータは健康保険の記録を解析しただけのものなので、
患者さんへの治療もまちまちで、
その影響もスタチン以外にも想定され、
観察期間も認知症の発症を見るという意味では、
10年未満というのは短いと思います。

また、何より認知症はひとまとめにされていて、
その多くはアルツハイマー型であると推測される、
というような記述はあるものの、
脳血管性認知症とそうでない認知症においては、
発症リスクには大きな差がある筈で、
その点の検証がないという点も大きな問題だと思います。

その意味で、
ネットで紹介をされる方がいたので読んでみたのですが、
あまりそのまま鵜呑みに出来るようなデータではない、
という印象を持ちました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


美容院脳卒中症候群について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
美容院脳卒中症候群.jpg
これは1993年のJAMA誌のレターですが、
美容院での洗髪後に、
脳卒中を来した主に高齢の女性の症例を、
5例まとめて紹介したものです。

美容院で髪を洗う時に、
首の後ろにシンクを置いて、
首を大きく後ろのそらせるような姿勢をとりますね。

この時に首が過伸展して、
首の骨の中を走行している、
椎骨動脈という頸動脈が屈曲します。

その場所に何もなければそれまでのことなのですが、
動脈硬化が進行していて、
血管が固くなっていたり、
血管に傷がついていたりすると、
その場所の血流が一時的に遮断されたり、
その周辺にあった血栓が、
脳へと飛んで詰まるという可能性が否定出来ません。

椎骨動脈はまた、
脳動脈解離が起こりやすい部位としても知られています。
生まれつき血管に弱い場所があったり、
首に強い衝撃を受けたりすると、
その部分の血管が裂けて、
血管が詰まったり、
その部位の血栓が脳に飛んで梗塞を起こす、
ということも報告されています。

端的に言えば、
首を強く後ろにそらせるだけで、
一時的に脳への血流の一部が遮断され、
意識消失やめまいが起こる可能性は、
誰にでもあるのです。
この症状は年齢に関わらず起こりうるのですが、
首の血管の動脈硬化が進行していれば、
より屈曲による影響が大きくなります。
ただ、症状が基本的には一過性です。

それを図示したものがこちらになります。
2006年のCerebrovasc. Dis誌の1例報告から取ったものです。
美容院脳卒中症候群の図.jpg
これは割と分かりやすい図ですよね。
矢印の部分が圧迫されるのです。

一方で椎骨動脈に生まれつき弱い部分があったり、
動脈硬化で脆くなった血管に傷が付いたりすると、
椎骨動脈解離が進展刺激に伴って起こる可能性があり、
その場合は一時的ではなく持続的な血管の閉塞が生じたり、
その部位の血栓が飛んで、
脳卒中を起こすリスクが高くなります。

こうした現象の最初の報告は1992年のNeurology誌に発表されていて、
美容院脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)という名称も、
そこで初めて登場しています。
これは2例の報告で、
いずれも高齢の女性が美容院の洗髪後に、
脳梗塞の症状を来した、というものです。

上記のJAMA誌のレターはそれに続くもので、
今度は5例の報告がまとめられています。
そのうちの4例は75歳以上の女性ですが、
もう1例は54歳という若い女性です。

高齢者の1例は元々椎骨動脈の血流に問題があり、
過伸展により一時的な閉塞を来したもので、
12時間くらいの経過で後遺症なく元に戻っています。
しかし、それ以外の事例は実際に脳梗塞を発症していて、
症状も完全には改善しないまま後遺症として残っています。

54歳の事例も脳梗塞の症例で、
おそらくは体質的な椎骨動脈の解離が、
元にあったものと推測されます。

この問題では昨年の暮にイギリスで、
45歳の男性が洗髪の2日後に脳梗塞で倒れ、
それが洗髪時の頸部過伸展によるものだとして、
多額の賠償金が支払われた、
という事例が報道されています。

2013年にはアメリカで、
48歳の女性が洗髪時に左手足の違和感を覚え、
その1週間後に脳梗塞を起こして、
これも美容院の過失が問われています。

ただ、この2つの裁判になった事例は、
いずれも中年で高齢者ではなく、
洗髪後2日と7日と大分時間が経ってからの発症なので、
本当に洗髪時の頸部過伸展が、
脳梗塞の直接的な原因であったのかについては、
やや疑問を感じます。

典型的な美容院脳卒中症候群というのは、
首を過伸展した瞬間に、
吐き気やめまいなどの症状を強く生じ、
それからあまり時を置くことなく、
手足のしびれなどの症状が続くものだからです。

高齢者が首の過伸展によって、
一過性の脳虚血の状態になりやすいこと自体は事実です。

ただ、洗髪後の明確な脳梗塞の発症が、
どれだけ関連するものかは、
まだ科学的に実証された事実ではないと思います。

その頻度は不明ですし、
科学的な知見も、
実際には症例報告のようなものしかありません。

最近でまとまった報告としては、
2016年のInternational Journal of Strokeという医学誌に、
「Beauty parlor stroke syndrome revisited: An 11-year single-center consecutive series」
という文献が掲載されています。

これはダウンロードが有料で40ドルという高額なので、
内容もそれほど大したことはなさそうですし、
アブストラクトしか読んでいません。

これは単一施設で11年間の、
美容室訪問後に脳梗塞を来した事例を集計したものです。
母数が分かりませんが、
11年での例数は10例と報告されています。
まあ、それほど多いとは思えません。
興味深いことは頸部の過伸展による解離は2例しか確認されておらず、
心臓からの血栓が飛んだ事例も含まれています。
2例はドライヤーで髪を乾かした際の、
血圧の変動が要因ではないかと推測しています。

つまり、美容院受診後の脳梗塞の全てを、
洗髪時の頸部過伸展に結び付けるのは、
やや単純すぎるのではないかと思われます。

一般的に言って、
お風呂や水泳の後に心血管疾患の多いのと同じ理屈で、
全身、特に頸部から頭部の血流状態が、
変化しやすい美容院の施術という状態が、
こうしたことのきっかけになりやすいのであって、
美容院受診後に脳梗塞を起こしたからと言って、
それを全て美容院のせいにして賠償金というのも、
何処か歪んだ判断にようにも思えてなりません。

この問題については、
もう少し科学的な検証が、
しっかりと行われるべきではないかと思います。

ただ、くれぐれも洗髪時に首をそらせる際には、
急激ではなく様子を見ながら慎重に行うべきですし、
特に高齢の女性や心臓などの持病のある方では、
基本的に強い進展は望ましくはないと、
そう考えた方が良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


4種降圧剤少量カクテル療法の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
4 種降圧剤の治療効果.jpg
今年のLancet誌に掲載された、
少量の降圧剤を複数組み合わせて使用する、
新しい治療法の効果についての論文です。

興味深い試みですが、
例数は21例と非常に少ないので、
パイロット研究とでも言うべきものです。
手法自体は厳密な方法が取られています。

高血圧の治療のガイドラインは、
カルシウム拮抗薬やACE阻害剤、利尿剤などの単剤で治療を開始し、
通常用量まで増やしても血圧がコントロールされない場合に、
別個の作用を持つ薬を組み合わせて使うことが推奨されています。

しかし、実際には単剤で高血圧症の患者さんが、
良好なコントロールに至ることは、
それほど高い確率ではありません。

また単剤でその用量を増やすと、
2倍にしても効果は2倍にはならない一方、
副作用や有害事象の頻度は高まることがしばしばあります。

これまでの降圧剤の臨床試験をまとめて解析したデータによると、
降圧剤を通常用量で使用した場合の80%の効果が、
その半分の量でも得られています。
そして、複数のメカニズムを持つ降圧剤を併用すると、
その相乗効果が得られやすいことも分かっています。

それでは、
複数の降圧剤を最初から少量ずつで併用すれば、
個々の薬剤の量は少なくても相乗効果で降圧作用は高まり、
かつ薬剤の有害事象や副作用は少なくて済むのではないでしょうか?

これは勿論逆の考え方もあるのです。

少量では効果のあるものもないままで終わる可能性があり、
複数の薬を少量ずつ使うことで、
予期せぬ副作用や有害事象が増えるという可能性もあるからです。

今回の研究はオーストラリアにおいて、
未治療で外来血圧が収縮期140mmHg以上、
拡張期血圧が90mmHg以上もしくはその両方である、
高血圧の患者さんトータル21名を、
本人にも治療者にも分からないようにクジ引きで2つの群に分け、
一方は偽薬を使用し、
もう一方は4種類の降圧剤を、
通常量の4分の1量でブレンドしたカプセルを処方します。
クロスオーバー法と言って、
まず4週間の治療を行ない、
それから2週間のウォッシュアウト期間をおいて、
今度は両群を入れ替えてもう4週間の治療を行ないます。

カクテルされた4種類の降圧剤は、
ARBのイルベサルタン37.5mg、
カルシウム拮抗薬のアムロジピン1.25mg、
利尿剤のハイドロクロロチアジド6.25mg、
そしてβ遮断剤のアテノロール12.5㎎です。

これはオーストラリアの常用量の4分の1量ですが、
日本の常用量ではほぼ半量くらいです。

その結果、4種類の降圧剤の少量カクテル療法により、
4週間の治療で収縮期血圧が平均で22mmHg、
拡張期血圧は13mmHg有意に低下していました。

極めて少数例の検証なので、
これだけで4種併用療法が単剤の治療より優れているとは、
とても言い切ることは出来ませんが、
概ね単剤の治療効果より高く、
副作用や有害事象も少ない結果であることは確かで、
これまでとは発想の違う高血圧治療の選択肢として、
注目には値する知見であるようには思います。

日本では昨年11月より、
テルミサルタン80mg、アムロジピン5㎎、ヒドロクロロチアジド12.5㎎という、
日本の常用量での3剤の合剤が、
ミカトリオ配合錠という名称で販売開始されています。
この組み合わせで2から3剤の処方を受けている方であれば、
一定の利便性はあるのですが、
その一方で常用量の合剤というのは、
調節が難しく血圧低下のリスクも大きいのですから、
最近の降圧治療の考え方からすれば、
如何なものかな、とは思うところです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


SSRIによる先天性心疾患のリスクと遺伝子型との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
SSRIと胎児奇形.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
妊娠中とその前後のSSRIの使用により、
上昇する心血管疾患のリスクが、
母体と胎児の代謝系の遺伝子変異により、
どの程度変化するのかを検証した論文です。

SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)は、
現在最も広く使用されている抗うつ剤です。

その安全性を検証する上で常に問題となることの1つは、
その妊娠中の使用における安全性です。

これまでに一部のSSRIについて、
妊娠初期における心奇形の増加と、
妊娠後期の使用により、
新生児遅延性肺高血圧症と、
新生児禁断症候群という病態が、
出産直後に生じる可能性がある、
ということが指摘されていました。

以前ご紹介したことがある、
2015年のBritish Medical Journal誌の論文では、
アメリカの10カ所の医療センターのデータを活用して、
17652名の先天性の疾患を持って生まれたお子さんを、
9857名の障碍のないお子さんと比較して、
先天性の障碍と妊娠初期(3か月以内)のSSRIの使用との、
関連性を検証しています。

SSRIについては、
シタロプラム(日本未発売)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)、
フルオキセチン(日本未発売)、パロキセチン(商品名パキシル)、
そしてセルトラリン(商品名ジェイゾロフト)が対象となっています。

そのベイジアン解析の結果として、
個別のSSRIと個別の胎児奇形との間で関連が認められたのは、
パロキセチンと5種類の先天性疾患との関連、
及びフルオキセチンと2種類の先天性疾患との関連のみでした。

具体的には、
パロキセチンについては、
無脳症のリスクが2.5倍、心房中核欠損のリスクが1.8倍、
右室流出路狭窄のリスクが2.4倍、
腸壁破裂リスクが2.5倍、臍帯ヘルニアのリスクが3.5倍、
それぞれ有意に増加している、
という結果でした。

フルオキセチンについては、
右室流出路狭窄のリスクが2.0倍、
頭蓋骨癒合のリスクが1.9倍と、
それぞれ有意に増加していました。

それ以外の抗うつ剤と個々の胎児奇形との間には、
明確な相関は認められませんでした。

ただ、これは必ずしも他の抗うつ剤が安全ということではなく、
使用頻度などによる影響が大きいと、
考えておいた方が良いと思います。

さて、次に問題となるのは、
お母さんやお子さんの体質的な要素が、
このSSRIによる心疾患の発症に関連しているのではないか、
ということです。

先天性心疾患と関連のある代謝異常としては、
葉酸関連の異常がよく知られています。

葉酸はビタミンBの一種で、
その名の通り、
野菜などの葉っぱに多く含まれている栄養素です。

この葉酸は補酵素と呼ばれ、
遺伝子の構成成分である、
核酸をつくる酵素の働きを助ける役目があります。

つまり、単純化して言えば、
葉酸が不足すると、
細胞分裂がスムースに行なわれなくなるのです。

特に女性の妊娠中は、
胎児の細胞分裂のために、
多くの葉酸が必要となるので、
妊娠中には通常より多くの葉酸が必要となります。

妊娠の初期に葉酸が不足すると、
神経管の閉鎖という現象が妨げられ、
先天奇形の増加することが知られています。
このために、アメリカでは1998年、
FDAの指示により、
全ての強化穀物に、
葉酸の添加が義務付けられました。

日本ではこうした措置が取られてはいないので、
葉酸の欠乏が生じ易いのではないか、
というのが1つの問題点として、
指摘されるところです。

葉酸は必須アミノ酸であるメチオニンと、
ビタミンB12の代謝にそれぞれ関連があります。

メチオニンは代謝の過程で、
不安定な中間産物である、
ホモシステインを発生させます。
このホモシステインは身体を酸化させ、
血管の細胞や神経の細胞に対する毒性を持つなど、
試験管の実験のレベルでは、
かなりの悪玉であり、
人間の病気や老化の大きな原因である、
動脈硬化や認知症の原因である神経細胞死にも、
深い関わりを持つとされています。

通常の身体の状態では、
ホモシステインはビタミンB12と葉酸との働きによって、
無害な物質に変化します。

ところが、葉酸やビタミンB12が足りないと、
ホモシステインの蓄積が起こるのです。

今回の研究においては、
葉酸の代謝に関連のある遺伝子多型と、
ホモシステインの代謝に関連のある遺伝子多型、
そしてトランススルフレーション経路といって、
ホモシステインをシステインに変換する過程に関連のある遺伝子多型を、
1180名の先天性の心疾患を持つ新生児と、
1644名の心疾患のない新生児、
そしてその母親で検査して、
SSRIの使用とお子さんの心疾患の発症とが、
遺伝子のタイプによりどのような影響を受けるのかを検証しています。

その結果、
葉酸やホモシステイン、
トランススルフレーション経路に関わる遺伝子多型により、
SSRI使用時の先天性心疾患の発症リスクが、
2から7倍程度増加することが確認されました。
このリスクの増加は母親ばかりでなく、
新生児の遺伝子多型によっても認められました。

つまり、SSRI使用時に生じる胎児の先天性心疾患のリスク増加は、
SSRIが葉酸などの代謝経路の異常を、
後押しするような形で生じている可能性が高い、
という結果です。

こうした知見を活用することにより、
SSRIのリスクが高い患者さんを振り分けたり、
そのリスクに応じて薬の適応を選択したり、
一定の予防策を講じられる可能性が生まれたことは、
意義のあることではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


前の10件 | - 医療のトピック ブログトップ
メッセージを送る