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心房細動の発症と個々のリスク因子による推測(フラミンガム心臓研究による解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
AFの生涯リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
心房細動の生涯発症リスクを計算した論文です。

心房細動は年齢と共に増加する不整脈で、
その存在は脳卒中や心不全のリスクを高め、
生命予後にも大きな影響を与えることが分かっています。

その生涯の発症リスクは、
40歳以上の男性においては17から26%、
女性では21から23%と推計されています。

ただ、実際にこの生涯リスクが、
年齢以外の血圧や喫煙などの心血管疾患リスクで、
どの程度の影響を受けて変動するものなのかについては、
あまり正確なデータがこれまでに存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカにおける最も有名な疫学データである、
フラミンガム心臓研究のデータを活用して、
現在知られている心房細動のリスクと、
心房細動の生涯発症リスクとの関連を検証しています。

一般住民の55歳と65歳と75歳の時点での、
その後の生涯(95歳まで)の心房細動発症リスクが対象となり、
関連するリスク因子としては、
喫煙、飲酒量、BMI、血圧、糖尿病、心不全もしくは心筋梗塞の既往、
が検討されています。

個々のリスク因子を、
リスクなし、ボーダーライン、明確なリスクの3段階に分けていて、
喫煙は喫煙歴なしがリスクなしで、
喫煙の既往があるのがボーダーライン、
喫煙者が明確なリスクです。
BMIは25未満がリスクなし、25から29がボーダーライン、
30以上が明確なリスクです。
糖尿病は空腹時血糖で100mg/dL未満がリスクなし、
100から125がボーダーラインで、126以上が明確なリスクです。
アルコールは男性で週4単位以下、女性で週7単位以下がリスクなし、
それを超えるのが明確なリスクです。
血圧は上が120mmHg未満で下が80mmHg未満がリスクなし、
上が120から139で下もしくは80から89がボーダーライン、
上が140以上もしくは下が90以上か投薬治療中の高血圧が明確なリスクです。
心不全や心筋梗塞の既往については、
既往なしがリスクなしで、
既往ありが明確なリスクです。

55歳の時点で心房細動のない5338名の住民を解析した結果、
その時点以降の心房細動の生涯発症リスクは、
37.0%(95%CI: 34.3から39.6)と算出されました。
このリスクは女性より男性が高くなっていました。
リスク因子が全てリスクなしの場合の、
生涯リスクは23.4%(95%CI:12.8から34.5)であるのに対して、
ボーダーラインリスクが1つ以上あって明確なリスクはない場合には、
33.4%(95%CI: 27.9から38.9)となり、
明確なリスクが1つ以上ある場合には、
38.4%(95%CI: 35.5から41.4)と更に増加していました。
65歳時点と75歳時点で同様の解析をすると、
生涯リスクはより低くはなりますが、
同様の傾向が認められました。

このように心血管疾患リスクが増加するに従って、
心房細動の生涯リスクが明確に増加することが、
信頼性の高い疫学データで確認された意義は大きく、
心房細動の発症予防のためには、
まずはこうしたリスクの軽減が重要であると考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シベリア少女鉄道「今、僕たちに出来ること。あと、出来ないこと。」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
できることと出来ないこと.jpg
小劇場界きっての前衛でオタク趣味、
シベリア少女鉄道の公演が先日まで、
赤坂のレッドシアターで上演されました。

この劇団のお芝居はネタバレ厳禁なので、
終演後の紹介とさせて頂いています。

今回の舞台は<シベリアクラシックアーカイブス>と題されて、
シベリア少女鉄道が2001年に第3回公演として上演した旧作を、
2018年版としてリニューアルした作品です。

これはかなりオリジナルをいじっていると思うのですが、
初演で主役の鳥居一人を演じた古参の藤原幹雄さんが、
その偽物や身代わりを演じているという凝った趣向もあります。

内容は土屋さん本人がコメントしているように、
やや地味な仕掛けの作品で、
どうしても後半がしょぼくなってしまう、
という欠点があるのですが、
とても愛すべき作品であると共に、
とても面白い作品でもありました。

個人的にはこれまでに観たシベリア少女鉄道の作品の中でも、
かなり好きな部類です。

上演時間は2時間5分で、
シベリア少女鉄道としてはかなり長い部類ですが、
退屈することはなく、
むしろ最後のドタバタを、
もう少し長く見ていたい、とすら思いました。

シベリア少女鉄道の作品の良いものには、
哲学的な深みがあるのですが、
今回の作品はシンプルですが深いテーマ性があり、
創作という行為の本質に繋がる問題を、
誰にでも分かる平明さで扱っている、
という点にその特徴があります。

それが題名にもなっている、
「今、僕たちに出来ること。あと、出来ないこと。」です。

演劇や映画のような、
集団で行う創作では、
当初のイメージがそのまま実現することはなく、
妥協が付きものである訳ですが、
その葛藤自体を複合的なドラマにして、
最後はそのドタバタを、
唯一無二の壮大なギャグにしてしまっています。

シベリア少女鉄道としては、
以前から定番のプロットの1つではあるのですが、
以前の作品では元になるドラマの部分の出来がかなり稚拙で、
役者さんの芝居も低レベルの物であったので、
後半のネタの部分に入るまでがかなり苦痛であったことと、
ネタに入るとドラマの部分がかき消されてしまっていたのですが、
今回は役者さんのレベルも、
ドラマをしっかり伝えられるレベルに達していたことと、
最後までドラマとネタとが並行しながら、
同時に結末に至っていたので、
以前とは桁違いに質の高い上演になっていたと思います。

これからの公演も、
とてもとても楽しみです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心房細動治癒後の脳卒中リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心房細動改善後の脳卒中リスク.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
一旦治癒したと判断された心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中リスクを検証した論文です。

心房細動という不整脈は、
弁膜症などを原因としていないものは、
一種の心臓の老化に伴って生じることが多く、
この不整脈があると、
脳卒中の発症リスクは5倍に増加するとされています。

そのため脳卒中の予防のために、
抗凝固剤というタイプの薬が使用され、
適切に使用されればそのリスクを3分の2低下させることが、
精度の高い臨床データにより確認されています。

非弁膜症性心房細動は、
一時的に心房細動が起こってそれが数時間から数日で自然に元に戻る、
一過性心房細動と、
7日以上心房細動の状態が続き、
抗不整脈剤や電気的除細動により元に戻る持続性心房細動、
そして心房細動が長期間継続し、
薬や除細動治療でも再発して、
カテーテル治療などが必要となる慢性心房細動に分けられます。

心房細動は不整脈が一旦なくなり、
洞リズムに戻れば治癒と判断されます。
しかし、抗不整脈や電気的除細動のみならず、
カテーテルアブレーション治療においても、
再発は稀なことではありません。
これまでの報告では、長期的にみると、
カテーテルアブレーション後長期洞リズムが維持されるのは、
20%程度とされています。

ここで問題となるのは、
一旦洞リズムに戻って安定した状態が続いている時に、
脳卒中予防の抗凝固剤の使用をどう考えるのか、
ということです。

上記文献の記載によれば、
イギリスでは治癒後の心房細動の抗凝固療法について、
明確な指針は示されていないようです。
ただ、これは日本のガイドラインでも同じだと思いますが、
通常カテーテルアブレーションが成功した後、
2か月程度は抗凝固療法が継続されますが、
その時点で洞リズムであれば、
「もう治っているので薬は要りません」
と言われることが実際には多いようです。
実際にクリニックを受診される患者さんでも、
そうした経過の方は結構いらっしゃいます。

しかし、実際には洞リズムに戻った後でも、
再発率は非常に高いのが実際なので、
抗凝固療法は継続した方が良いという意見もあるのです。
一方で抗凝固療法には出血などの有害事象もありますから、
どのような患者さんにどのくらいの期間、
抗凝固療法を行うのが妥当であるのか、
その点についての明確な指標がないことが、
一番の問題ではないかと思います。

それでは、一旦治癒と判断された心房細動の患者さんにおいて、
その後どの程度脳卒中のリスクがあるのでしょうか?

今回の研究はイギリスにおいて、
プライマリケアのデータベースを活用して、
実臨床において洞リズムに戻り、
治癒とみなされた心房細動の患者さんの、
その後の脳卒中のリスクを検証しています。

これは電子コードに、
「治癒した心房細動」という項目があるので、
それを元にしたデータとなっています。
つまり、個々の患者さんの詳細が、
しっかり調べられている、
という訳ではありません。

対象は18歳以上で、
それまでに脳卒中や一過性脳虚血発作の既往がなく、
心房細動が治癒して洞リズムに戻った11159名と、
治療中の心房細動の患者さん15059名、
そして心房細動のないコントロール22266名です。

その結果、
治癒した心房細動の患者さんは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
脳卒中や一過性脳虚血発作の発症リスクは、
0.76倍(95%CI: 0.67から0.85)と低下していましたが、
心房細動のないコントロールと比較すると、
1.63倍(95%CI: 1.46から1.83)と有意に高値を示していました。

治癒した心房細動の患者さんの総死亡のリスクは、
心房細動で治療中の患者さんと比較すると、
0.60倍(95%CI: 0.56から0.65)と低下していましたが、
これも心房細動のないコントロールと比較すると、
1.13倍(95%CI: 1.06から1.21)と、
これも有意に高値を示していました。

治癒した心房細動の患者さんの中には、
その後再発した患者さんも含まれているので、
それを除外して同様の検証を行うと、
心房細動のないコントロールと比較して、
治癒して再発のない心房細動の患者さんでも、
脳卒中や一過性脳虚血発作のリスクは、
1.45倍(95%CI: 1.26から1.67)と有意に高くなっていました。

このように勿論未治療の心房細動の患者さんと比べれば、
遥かに少ない比率ではあるのですが、
治癒して再発がないとみなされている患者さんでも、
心房細動の既往のない方と比較すると、
明らかに脳卒中などのリスクは高くなっていて、
抗凝固剤を一律に終了するという考え方には、
問題があるように思われます。

それでは全ての患者さんで治癒していても、
心房細動が一時的にあれば抗凝固剤を継続するのか、
ということになると、
それもかなり問題があるように思います。
抗凝固剤は有害事象も無視できない薬であるからです。

いずれにしてもこの問題は、
より厳密な検証が必要であると思いますし、
患者さんや末端の医療者が混乱しないように、
しっかりとしたガイドラインの作成が、
強く望まれるところだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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握力と病気や生命予後との関連について(2018年UKバイオバンクの解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
握力と健康状態.jpg
2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
握力と病気のリスクや生命予後との関連についての論文です。

体力(physical fitness )という言葉があります。
これは医学的には心肺機能と筋力を一緒にした言葉です。

心肺機能というのは、
心臓の収縮する力や、
肺活量などを示していて、
筋力は文字通り筋肉の収縮力を示しています。

慢性の病気では、
体力はその進行に伴い低下して行きます。

これは癌でも心臓病でも糖尿病でも同じです。

老化というのも、
ある意味慢性の病気ですから、
この場合にも体力は低下して行きます。

体力の低下により、
日常生活が維持出来なくなった状態が「寝たきり」で、
その終末が、
体力が低下して生命活動を維持出来なくなった状態、
すなわち「死」です。

このように考えると、
定期的に体力を測定してその推移を記録することにより、
その人がいつ病気になり、
いつ寝たきりになり、
そしていつ死に至るのかを、
ある程度推測することが可能となる理屈になります。

そのリスクが予め分かっていれば、
その原因を治療したり、
起こる可能性の高い病気を予防したり、
病気の進行を遅らせたり、
という効率的な予防医学的な介入にも、
道が拓けるのではないでしょうか?

さて、体力には2つの要素があります。

心肺機能と筋力です。

このうち心肺機能については、
心臓については血液検査のBNPなどの数値や、
心臓超音波検査などの測定値で、
呼吸については、
肺活量などの呼吸機能検査で、
ある程度定量的に評価することが可能です。
そして、それぞれについて、
一定の予後の推測も可能なことが示されています。

一方で筋力については、
重要な指標であることは認識されていても、
医療の現場で定期的に測定することはあまりなく、
一般の健診項目などにも含まれていないので、
それを病気や生命予後のリスクとして定量化する試みは、
遅れていた、という経緯があります。

筋力で最も簡便に測定可能なのは、
握力です。

この握力が生命予後と関連するという報告は、
これまでにも幾つかあります。
その代表的なものの1つが2015年のLancet誌に掲載された、
PURE研究と命名された世界規模の臨床研究で、
同時期にブログ記事にもしています。

これによると、
総死亡のリスクは、
握力の5キロの低下毎に1.16倍(1.13から1.20)有意に増加し、
心血管疾患による死亡が1.17倍(1.11から1.24)、
それ以外の原因による死亡も1.17倍(1.12から1.21)と、
それぞれ有意に増加していました。
病気毎の発症リスクでは、
心筋梗塞の発症リスクが1.07倍(1.02から1.11)、
脳卒中の発症リスクも1.09倍(1.05から1.15)、
とこちらもそれぞれ有意に増加が認められました。

しかし、糖尿病や肺炎の発症リスク、
肺炎もしくは慢性閉塞性肺疾患による入院、
転倒による外傷や骨折のリスクについては、
握力との間に有意な関連は認められませんでした。

また高所得国においては、
癌の発症リスクは握力が5キロ低下する毎に、
0.916倍(0.880から0.953)に低下するという、
他のデータとは逆の相関を有意に示しました。

今回の研究は同様の検証を、
イギリスの有名なUKバイオバンクという、
50万人を超える大規模な疫学データで行ったものです。
対象は登録の時点で40から69歳の一般住民502293名で、
中間値で7.1年という経過観察を行っています。

その結果、総死亡のリスクは、
握力が5キロ低下する毎に女性で1.20倍(95%CI: 1.17から1.23)、
男性で1.16倍(95%CI: 1.15から1.17)
それぞれ有意に増加していました。
同様に心血管疾患による死亡のリスクは、
女性で1.19倍(95%CI: 1.13から1.25)、
男性で1.22倍(95%CI: 1.18から1.26)、
呼吸器疾患による死亡のリスクは、
女性で1.31倍(95%CI: 1.22から1.40)、
男性で1.24倍(95%CI: 1.20から1.28)
慢性閉塞性肺疾患による死亡のリスクは、
女性で1.24倍(95%CI: 1.05から1.47)、
男性で1.19倍(95%CI: 1.09から1.30)、
癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.13から1.21)、
男性で1.10倍(95%CI: 1.07から1.13)、
大腸癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.04から1.32)、
男性で1.18倍(95%CI: 1.09から1.27)、
肺癌による死亡のリスクは、
女性で1.17倍(95%CI: 1.07から1.27)、
男性で1.08倍(95%CI: 1.03から1.13)、
乳癌による死亡のリスクは、
女性のみで1.24倍(95%CI: 1.10から1.39)、
それぞれ有意に増加が認められました。
ただ、前立腺癌についてはそうした有意な関連は、
認められませんでした。

女性の大腸癌と前立腺癌、肺癌(男女とも)を除くと、
明確な握力低下の存在(男性で26キロ未満、女性で16キロ未満)は、
そのリスクをより高めていました。
また、全体に年齢が若いほど、
握力低下と死亡リスクとの関連は強くなっていました。

死亡リスクの増加に関連する指標としての一般的なリスクスコア
(年齢、性別、喫煙歴、BMIなどから計算)に、
この握力の数値を加えることにより、
そのリスクの信頼性が高まることも確認されました。

このように今回の大規模な検証においては、
握力の低下は幅広く多くの病気による死亡リスクと、
明確な関連を持っていました。

呼吸器疾患や癌による死亡においても、
有意な関連が示されていることが、
以前のPURE研究との違いです。

握力というのは関節の痛みや変形、
頸椎などの整形外科的な疾患によっても、
かなり左右される指標なので、
対象者の分布によって、
別の結果が出ることもあると思われますが、
そうした病気を除外して考えれば、
筋力の簡便な指標として有用であることはおそらく間違いがなく、
今後より握力の数値を、
健診などでも重視してゆく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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甲状腺微小乳頭癌のアクティブ・サーベイランス(2018年隈病院) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アクティブサーベイランスの歴史隈病院.jpg
2018年のThyroid誌に掲載された、
神戸の甲状腺専門病院である隈病院で、
1993年以降継続されている、
微小甲状腺乳頭癌に対するアクティブ・サーベイランスの歴史を、
まとめた論文です。

ここで対象となっている甲状腺微小乳頭癌(Papillary thyroid microcarcinoma)
というのは、甲状腺乳頭癌のうち、
診断された時点での大きさが、
最大径で1センチ以下の腫瘍のことです。

1センチ以下の甲状腺のしこりは、
通常触診では感知することは困難で、
別個の検査をした時に、
たまたま見つかるというのが通常でした。

それが超音波検査の進歩により、
診断される頻度が最近増加したのです。

これまでの別個の病気などで亡くなった方を解剖した結果では、
その5から36%に甲状腺微小乳頭癌が見つかっています。
15の研究データをまとめて解析した論文では、
併せて989体の解剖所見として、
その11.5%で甲状腺微小乳頭癌が発見されています。
こうした潜在癌の多くは非常に小さなもので、
報告によれば33から79%は1ミリ未満の大きさです。
その27から50%は多発性です。

大雑把に言って、
臨床的に診断される甲状腺乳頭癌の、
100から1000倍は多くの潜在癌が、
実際には存在していることになります。

癌の発見が増えるのは、
主に無症状の人に対して、
首の超音波検査やCT検査が行われることによります。
韓国では一時期甲状腺の超音波検査が、
公費による癌検診の安価なオプションとして、
一般住民に対して施行されたので、
甲状腺癌の診断数はそれ以前の15倍にまで増加しました。
その多くは微小癌の範疇に属するものです。

甲状腺微小乳頭癌の生命予後は非常に良好で、
リンパ節転移や遠隔転移を伴う事例を含めて解析しても、
死亡率は0.3%に満たないというレベルです。

微小癌であっても、
これまでの治療方針は原則は手術による切除でした。
しかし、甲状腺外に進展したり遠隔転移を起こすようなリスクの低い癌では、
手術をしないで慎重な経過観察のみを行うという方針も、
1つの選択肢として存在しても良い筈です。

同じく生命予後がトータルには非常に良い癌で、
検診による発見率の増加が問題となっていた前立腺癌においては、
進行のリスクが低いと判断される時に限って、
アクティブ・サーベイランスと言って、
定期的な経過観察を行いつつ、
進行の兆候がなければ治療はせずに様子をみる、
という方針が推奨されるようになってきています。

それでは、甲状腺微小乳頭癌においても、
アクティブ・サーベイランスが試みられても良いのではないでしょうか?

実はこれまでに行われた、
甲状腺癌についてのアクティブ・サーベイランスの研究は、
ほぼすべてが日本で行われたものです。

中でもその先陣を切ってこの試みを行なっているのが、
神戸にある甲状腺専門病院の隈病院です。

隈病院は小さなしこりであっても、
細胞診で癌と診断されれば、
切除することが当たり前であった1993年に、
既にアクティブ・サーベイランスの試みを開始しています。

上記文献によれば、
1993年から2016年の24年間に、
4023名の低リスク甲状腺微小乳頭癌の患者さんが、
アクティブ・サーベイランスの対象候補となっています。

ただ、実際には1993年の時点では、
隈病院に勤務する外科医の中でも、
その是非についての見解は割れていたようです。

こちらをご覧下さい。
アクティブサーベイランスの効果隈病院.png
上記文献の中にあるグラフで、
各年ごとに診断された低リスク微小甲状腺乳頭癌の患者さんのうち、
どのくらいの比率でアクティブ・サーベイランスと手術が選択されたのかを、
示したものです。
黒い部分がアクティブ・サーベイランスで、
グレイの部分が手術です。

1993年の時点では、
実際にアクティブ・サーベイランスが選択されたのは、
患者さんの1割に満たなかったのですが、
その後急増して2014年以降は8割を超えています。

最近では2011年のみサーベイランスが選択される比率が低くなっていますが、
これは震災の年であることが影響をしていると思います。

当初は外科医が手術かサーベイランスかの決定をしていることが、
殆どであったのですが、
サーベイランスが選択されることが多くなって来ると、
内分泌内科医がその決定に当たるケースが、
最近では多くなっているようです。

アクティブ・サーベイランスの有効性と安全性については、
上記文献には詳しい記載がありません。

現状最もまとまっているのが、
以前にもご紹介したことのあるこちらの文献です。
隈病院の.jpg
2010年のWorld Journal of Surgery誌に掲載されたものですが、
1センチ以下の甲状腺乳頭癌が診断され、
細胞診での悪性度が低く、
臨床的に検出可能なリンパ節転移や、
周辺への浸潤が疑われる所見のないケースに限って、
患者さんの希望ですぐに手術と経過観察の2つの方針に振り分け、
平均で74か月の経過の比較を行った報告です。

アクティブ・サーベイランスを選択した患者さんは340例で、
腫瘍径が3ミリ以上拡大した事例は10年間で15.9%、
リンパ節転移が新たにみつかった事例は10年間で3.4%でした。
そして、腫瘍が増大したりリンパ節転移が見つかった時点で、
待機的な手術を行っても、
最初から手術を行った場合と比較して、
明確な予後の差は認められませんでした。

その後2015年にはすぐに手術をした場合と、
アクティブ・サーベイランスとの比較において、
手術の方が患者さんにとっての有害事象が多かった、
という結果が論文化されています。

ただ、このデータは単独施設のものである上に、
手術かアクティブ・サーベイランスかの振り分けを、
クジ引きではなく患者さんの希望になどにより、
主治医が決定するというプロセスを取っていて、
そこには当然かなりのバイアスが想定されます。
前立腺癌においての同様のデータは、
厳密にランダムな方法で施行されていますから、
比較するとかなり見劣りのする研究方法です。

ただ、現状はこれを超えるような研究は、
国内外を問わず存在していないのです。

低リスクの微小甲状腺乳頭癌の診断後の対応として、
積極的な治療以外にアクティブ・サーベイランスという選択肢を設けることは、
国内外のガイドラインにおいても、認められている事項ですが、
その有効性と安全性については、
より精度の高い多施設の臨床試験において、
確認をされる必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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水分を多く摂ると腎機能は低下しにくいのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
水分摂取と腎機能.jpg
2018年のJAMA誌に掲載された、
水分摂取を増やすことが、
慢性腎臓病の患者さんの予後改善に結び付くかどうかを、
検証した論文です。

水を沢山飲むと健康に良い、
というのは意外に良く耳にする健康情報ですが、
その根拠が明確にされることはあまりなく、
具体的な水分の摂取量についても、
曖昧であることが殆どです。

アメリカでは1日にグラス8杯の水を飲むと良い、
というように言われることが多く、
これは1945年に専門機関が、
1日の水分量は2.5リットルを推奨したことから来ています。
ただ、この推奨は水分量全体でということで、
その大部分は食事から摂取していることが前提となっています。
つまり、食事以外に2.5リットルを追加で飲め、
という意味ではありません。

こうした水分摂取の推奨の殆どは、
根拠となる臨床データなどはないものですが、
唯一腎機能の低下予防という観点では、
一定の根拠が存在しています。

腎不全のモデル動物においては、
より多くの水分を摂取することが、
腎機能低下の要因となる、
AVP(抗利尿ホルモン)を抑制し、
腎機能の低下を予防することが報告されています。
人間においても水分摂取量が多いほど、
腎機能が保たれ、尿路結石のリスクが減少することが、
報告されています。

ただ、実際に腎機能が低下した慢性腎臓病の患者さんで、
より水分を多く摂ることが予後の改善に繋がるかどうかは、
これまでに明確な結論が出ていませんでした。

そこで今回の研究ではカナダの複数の腎臓病クリニックにおいて、
ステージ3の慢性腎臓病の患者
(推算糸球体濾過量が30から60mL/min/1.73㎡)
で1日の尿量が3リットル未満の631名をくじ引きで2つの群に分け、
一方は通常の飲水量を維持し、
もう一方はより多くの水分摂取を促して、
1年間の経過観察を行っています。

水分の具体的な摂取量はこちらをご覧下さい。
水分摂取量.jpg
これはこの量の水分を、
食事以外に摂るという意味ですが、
たとえば体重が70キロ以上の男性では、
1日に1.5リットルの負荷を目指し、
3回の食事で500ミリリットルずつ水を飲む、
ということになります。

これは1つの目安ですので変動はあるのですが、
実際には平均で登録時には各群とも、
1日尿量は1.9リットル程度で変わらないのですが、
それが水分摂取群では、
1年後には平均で0.6リットル増加しています。

この水分負荷を行なうことにより、
AVP(抗利尿ホルモン)の状態を反映するコペプチン濃度は、
未施行と比較して有意に低下し、
腎機能の指標の1つであるクレアチニンクリアランスにも、
有意な低下の抑制が認められました。
ただ、今回主な判定目標とした糸球体濾過量については、
両群で有意な差はありませんでした。

今回の結果はそういう訳で、
水分負荷を行なっても腎機能の低下には有意な差はなかった、
ということになるのですが、
数値によっては一定の差は認められ、
どうやら、そう悪くはない、
ということは言えそうです。
今後より試験のデザインを工夫して、
症例数も増やして観察期間も長く取った、
より精度の高い検証が行われる必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者低血糖時グルカゴン反応に対するDPP4阻害剤の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP4阻害剤と低血糖高齢者.jpg
2018年のDiabetes Obes Metab誌に掲載された、
65歳以上の高齢者糖尿病における、
低血糖時のホルモンの反応が、
糖尿病の薬によりどのように影響されるのかを検証した論文です。

これは今少しトピックとなっているテーマの1つです。

今糖尿病の治療薬として、
大きな柱となっているのがインクレチン関連薬です。

「インクレチン」とは一体何でしょうか?

インクレチンとは、
小腸から分泌される一種の消化管ホルモンで、
主に膵臓の細胞を刺激して、
インスリンを出させる作用を持っています。

インスリンを出させる、
最も強い刺激は、
勿論ブドウ糖です。

食事を取ると、その中の糖分が、
吸収されて血液に入り、
膵臓の細胞の中に入ると、その刺激が、
膵臓の細胞からインスリンというホルモンを出させるのです。
このインスリンが筋肉の細胞などに、
ブドウ糖を使わせる作用があるので、
ブドウ糖は速やかに細胞の中に入って利用され、
上がった血糖は正常に戻るのです。
このインスリンが足りなくなったり、
その効きが悪くなって、
余分な糖分が血液に増える病気が、
皆さんお馴染みの糖尿病です。

さて、ブドウ糖がインスリンを刺激するのは当然ですが、
食事をすると同時に小腸からは、
インクレチンという物質が分泌され、
それが膵臓の細胞にくっつくと、
その刺激も矢張り、インスリンを出させる作用があるのです。

つまり、インクレチンとは、ブドウ糖以外に、
食事に伴って分泌され、
膵臓のインスリンを出させる物質のことです。

インクレチンにはGIP(glucose-dependant insulinotropic polypeptide )と、
GLP-1(glucagon-like peptide-1 )の2種類があります。

このうちGLP-1 は、
小腸の下の方や大腸の一部から分泌され、
GIP は十二指腸から分泌されます。

どちらのホルモンも、食事の刺激があると、
分泌されて膵臓を刺激し、
インスリンを出させる作用は同じです。
また、膵臓の細胞を増加させる作用も、
共に持っていると言われています。
インクレチンは、膵臓の、一種の再生因子なのです。

ただ、GLP1が血糖値の高い時に、
膵臓α細胞からのグルカゴンの分泌を抑制する作用がある一方で、
GIPは低血糖時のグルカゴン分泌を促進すると報告されています。

GIPのこの作用は、
血糖の上昇に結び付く可能性がある一方で、
糖尿病薬に付きものの副作用である、
低血糖を予防するような効果があるとも思われます。

インクレチン関連薬にはDPP4阻害剤とGLP-1アナログの2種類があります。

DPP4阻害剤は飲み薬で、
DPP4というインクレチンなどを代謝する酵素を阻害して、
結果としてインクレチンの作用を増強する、
というタイプの薬です。
一方でGLP-1アナログは注射薬で、
インスリンのようにGLP-1そのものを注射します。

ここでお分かりのように、
同じインクレチン関連薬でも、
DPP4阻害剤はGIPとGLP-1を共に増加させ、
GLP-1アナログはGLP-1のみを増加させる、
という違いがあります。

この違いや薬の効果や安全性に、
何か影響を与えるものなのでしょうか?

糖尿病の患者さんの長期予後を改善する上で、
食後のグルカゴンの上昇を極力抑えることと、
医原性の低血糖を起こさないことが、
2型糖尿病の患者さんの管理においては重要なことです。

ここでインクレチン関連薬は、
高血糖時にのみインスリン分泌を促進する性質があるため、
低血糖を起こしにくいことが期待されています。
特にDPP4阻害剤はGLP-1だけではなくGIPも増加させるため、
低血糖時にグルカゴンの上昇反応を、
刺激するという可能性も想定されます。

グルカゴンはインスリンに拮抗するホルモンで、
その上昇は糖尿病の合併症などの進行に、
大きな影響を与えると考えられ、
最近ではインスリンより糖尿病の病態に本質的な役割を持っている、
というような意見もあります。
その一方で低血糖時に速やかにグルカゴンが上昇することが、
重症な低血糖の予防に、
これも非常に重要な役割を果たしています。

ただ、これまでの研究においては、
低血糖時のグルカゴン上昇の反応に、
DPP4阻害剤とGLP-1アナログで特に差はない、
という結果が多いのです。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
血糖降下剤の副作用の低血糖のリスクが高い、
65歳以上の高齢の2型糖尿病患者で、
メトホルミンによる治療を行って、
コントロールの指標であるHbA1cが6.0から8.3%の28名を対象として、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はDPP4阻害剤のシタグリプチン(商品名ジャヌビア、グラクティブなど)
を1日100ミリグラムで1回で上乗せ使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
4週間の治療を行い、治療終了後に、
朝食負荷によるインスリンやグルカゴンの反応と、
人工膵臓を活用して人工的に低血糖を誘導し、
低血糖時のグルカゴンの反応を比較検証しています。
更に4週間の未使用期間をおいて、
両群を入れ替えて同じ検証を再度施行しています。

その結果、
食後のグルカゴン濃度の上昇と、
血糖値が3.5mmol/L(63mg/dL)の時点でのグルカゴン濃度は、
偽薬と比較してDPP4阻害剤使用時には抑制されていましたが、
血糖値が3.1mmol/L(56 mg/dL)の低血糖の時点では、
グルカゴン濃度には両群で差はありませんでした。

今回の検証ではDPP4阻害剤を上乗せした方が、
低血糖時のグルカゴン上昇が促進される、
という結果は得られませんでしたが、
高血糖時のグルカゴン分泌を抑制して、
患者さんの長期予後の改善に結び付く可能性があり、
低血糖時のセイフティガードとしてのグルカゴンの上昇にも、
悪影響を及ぼしていないという点から考えて、
高齢者に適した糖尿病治療薬であるというこれまでの見解を、
サポートする知見であると言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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電気自動車と心臓埋め込み機器の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
電気自動車と心臓.png
2018年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載されたレターですが、
電気自動車と医療機器の安全性についての短報です。

携帯電話が普及した時には、
病院内での使用は他の医療機器に影響を与える、
という懸念があり、
その使用は禁止をされていました。
ただ、その後携帯電話の端末の進歩もあり、
医療機器との電磁気的な干渉は殆どない、
という研究結果が明らかになったことで、
その懸念はほぼ払拭されました。

唯一人工ペースメーカーや除細動器などの、
心臓に埋め込んで使用する医療機器については、
心臓に非常に近接した位置に電磁気の発生源があると、
その影響を完全には否定できない、
という考え方から、
電車などでは優先席付近での使用のみが制限されています。

ただ、これも新しい機器を使用する範囲においては、
ほぼ問題にはならないと考えられています。

最近電気自動車が実用化され、
ガソリン使用の自動車の環境問題などもあって、
今後急速にその使用が拡大する可能性があります。

電気自動車はその性質上、
充電や放電の際には強力な電磁波の発生源となります。

それでは、この電気自動車による電磁場は、
心臓埋め込み機器に誤作動などを起こす危険はないのでしょうか?

今回の小規模な研究では、
人工ペースメーカーや除細動器などの、
心臓埋め込み機器を連続使用している、
心臓病の患者さん150名を対象として、
BMW、日産、テスラ、フォルクスワーゲンという、
代表的な電気自動車メーカー4社の製品で、
その充電や運転時の電磁波の強さと、
心臓埋め込み機器に対する影響を検証しています。

その結果、
4社全ての製品において、
現状使用されている心臓埋め込み機器に、
誤作動などの影響は認められませんでした。
ちなみに電磁場の強度は、
充電時に最も強く、
30.1から116.6μテスラと算出されています。

こうした電磁波を発生させるような身近な機器は、
今後更に増えることが想定され、
想定外の医療機器への影響が、
起こる可能性はないとは言えません。
今後もこうした検証が丹念に行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腹鳴とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日は腹鳴についての話です。

お腹がグーグーと鳴って気になる、
ゴロゴロという音が鳴り響いて、
周りの人が変な目で見る、
というような訴えは、
外来でしばしば耳にするものです。

ひどい下痢になる訳でもなく、
痛みが出ることもないのですから、
それほど気にしなくても…
と思うところなのですが、
当の本人にとっては、
それがかなりつらいもののようです。

特に女性の場合には、
人前に出ることが出来ない、とか、
一緒に友達と食事をすることが出来ない、
とうような深刻な事態にもなりかねません。

それでは、そもそも何故お腹は鳴るのでしょうか?

これはシンプルには、
胃腸にガスが溜まり、
それが胃腸の動きによって、
急激に移動することによる現象です。

正常でお腹が鳴るのは、空腹の時です。

お腹がグーと鳴ることが、
お腹が空いた合図のように言われるのは、
決して迷信などではないのです。

この空腹時にお腹が鳴る原因は、
食後10から12時間後に、
胃から十二指腸に掛けての平滑筋に、
伝播性の強い収縮運動が起こるためです。

この生理現象を、
migrating motor complex(MMC)と呼んでいます。

このMMCという生理現象は、
ラットや犬などの動物でも確認されていて、
胃や小腸の食べ物の残りかすや細菌などを、
洗い流す一種のお掃除のような作用があると言われています。

このMMCは生理現象ですが、
この時の音が通常より大きいとすれば、
胃腸に多くのガスが貯留しているか、
胃腸の収縮の仕方が、
通常より過大であるという可能性が想定されます。

食物残渣が食後10時間経っても、
まだ残っていたり、
消化が不充分でガスが発生していたりすると、
大きく腫れている胃腸が、
急激に大きくMMCで収縮することになるので、
それだけ大きな音がする、
ということになります。

つまり、
胃腸の働きが低下していたり、
消化や吸収が悪い状態であれば、
それがMMCの音を大きくする要因になりうる、
ということになります。

具体的には慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
セリアック病などの吸収不良症候群は、
いずれも腹鳴の原因となるのです。

以上は空腹時の腹鳴の話です。

実際にはお腹の鳴る音が大きくて悩んでいる方は、
食事からの時間に関わらず、
お腹が鳴るという症状に苦しんでいることが多いようです。

こうした腹鳴は何故起こるのでしょうか?

これは基本的には空腹時のMMCと、
同じ現象が起こると考えて良いのですが、
それが何故か空腹時以外にも起こるのです。

その原因は明らかではありませんが、
不摂生な生活を繰り返していたり、
生活リズムが不規則であると、
正常なMMCのリズムが崩れ、
こうした現象が起こりやすくなるのでは、
と推測されています。

また、過敏性腸症候群においては、
おそらくは自律神経系の異常により、
矢張りMMCが空腹時以外にも起こっている、
という知見が報告されています。

従って、腹鳴が明らかに強く、
それが空腹時以外にも起こる場合には、
まず吸収不良の病気や、
胃、十二指腸の器質的な病気がないかを検査で確認し、
不規則な生活や暴飲暴食があれば、
そうした生活習慣を改めることが必要です。

今日は腹鳴のメカニズムとその対応についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵の摂取と心血管疾患リスク(2018年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
卵の摂取量のメタ解析.jpg
2018年のEuropean Journal of Nutrition誌に掲載された、
卵の摂取量と心血管疾患リスク、
総死亡リスクとの関連についての論文です。

卵と健康との関連については、
色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、
動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、
食事のコレステロールを制限しようという動きが、
世界的に高まり、
そこで提唱された基準が、
食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、
というものです。

これを達成するためには、
卵をなるべく食べないことが、
必要不可欠ですから、
卵の制限が、
健康のためには必要であると考えられたのです。

ところが

2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、
食事のコレステロールを制限しても、
血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、
その目標値は削除されました。

これは、
「コレステロールの食事制限は不要」として、
一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、
実際には数値目標が外れただけで、
コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、
コレステロールに制限は要らない、
という誤ったメッセージに受け取られたことは、
残念でした。

卵の摂取量と健康との関連については、
日本の疫学データでは、
NIPPON DATA 80の解析結果が、
2004年に発表されています。

それによると、
女性においては、
週に1から2個の摂取と比較して、
毎日1個卵を食べる習慣のある人は、
血液のコレステロールが高く、
総死亡のリスクも有意に増加していました。
一方で男性にはそうした関連はありませんでした。

ただ、2017年に発表された女性の追跡調査を含めた解析結果では、
卵の摂取量と血液のコレステロール値、
また心血管疾患のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

しかしここでもなお、
1日1個摂取した場合と比較して、
毎日2個以上卵を食べる習慣のある人は、
総死亡のリスクが2.05倍(95%CI: 1.20から3.52)、
癌による死亡のリスクが3.20倍(95%CI: 1.51から6.76)、
それぞれ有意に増加していました。

癌による死亡のリスクについては、
1日1個摂取した場合と比較して、
週に1から2個食べる習慣のある人は、
32%(95%CI: 0.47から0.97)有意に低下していました。

つまり、アメリカのデータと同じように、
卵の摂取量とコレステロール値や心血管疾患リスクとの間には、
今回の追跡調査ては関連は認められなかったのですが、
総死亡と癌による死亡のリスクについては、
卵を多く食べると生命予後が悪いという、
一定の関連が認められたのです。

この問題はそう単純ではないようです。

今回の研究は今度は中国において、
登録の時点で心血管疾患のない、
トータル28024名を、
平均で9.8年という長期の経過観察を行なっているもので、
1週間に1個未満という卵の摂取と比較して、
1週間に7個以上の摂取は、
心血管疾患のリスクや総死亡のリスクに、
有意な影響を与えていませんでした。

更にこのデータを含めて、
過去の主立ったデータをまとめて解析したメタ解析においても、
1週間に7個以上の卵の摂取は、
心血管疾患のリスクや総死亡のリスクを上昇させることはなく、
脳卒中のリスクについては、
若干のリスクの低下を認めました。
(HR 0.91, 95%CI 0.85-0.98)

今回のデータも、
無尽蔵に卵を食べて良いというものではなく、
毎日1個を超える卵の安全性は示されていない、
という点には注意が必要ですが、
少なくとも毎日1個卵を食べるという習慣については、
健康上の害は確認をされていない、
というように考えて間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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